●リプレイ本文
●ロサンゼルス市街 10:00
通勤ラッシュも過ぎて活気づき始めたロサンゼルスのとあるオフィス街。
いつもどおりの平和を見せるこの場所にバグアが潜入しているとの話があり、裏では能力者たちが動いていた。
「女王蜂、ね。なんかむかつき」
カーラ・ルデリア(
ga7022)はホテルの一室を拠点として確保し、潜入している能力者達からの連絡を纏めている。
敵のコードネームは”クインビー”であり、己も女王蜂と呼ばれていることから因縁を感じているのだ。
『Hrozvitnir(悪評高き狼)だ。公園等を調査したが以上はなし‥‥このまま調査を続ける』
携帯の一つをとれば、単独で動いている御影・朔夜(
ga0240)からの連絡が届く。
「単独行動? まっ、過信だろうと、無謀だろうとこっちに影響なきゃ止めないよんっと‥‥
ただ、48cmの銃をもって街中歩いているならものすごく警戒されそうなんよね」
カーラは一抹の不安をえるも、そこまで考えていないわけではないだろうと御影を信じることにした。
今は情報を多く集めることが優先なのだ。
「大きく動かなければこちらもあちらも条件は一緒。準備をできるのは向こうだけではないわよ」
ボヤキ気味の独り事を聞きつけた同室待機のアンジェラ・ディック(
gb3967)は得物の調整をしながらカーラを宥める。
「そうなんやけどね‥‥3m×2mの装置だから車にでも偽装できそうなのがやっかいやわ」
「腹の探り合いの要素もあるわね。確実性を目指すかこちらを翻弄させて遊ぶタイプか‥‥」
カーラが地図とにらめっこしだすとアンジェラも同じように地図の方に視線を戻す。
『こちらミンティア。空きテナントをいくらか見つけたので報告します。一つは‥‥』
そうしていると、この部屋で着替えて出て行ったミンティア・タブレット(
ga6672)の方から目星の連絡が届いた。
「こことここね‥‥範囲がどの程度かわからないけどが少しでも減らしたいところね」
遠石 一千風(
ga3970)はポイントを地図に×で印をつけていき、判断材料を増やしながら、目標を狭めようとする。
『こちらはケイよ。廃倉庫の近くでアリ型キメラの存在を確認したわ。近くに装置があるかもしれないから注意してね』
続けてケイ・リヒャルト(
ga0598)からの朗報が届き、大きな一歩を踏み出した。
「あんまり連続して連絡がくると逆探知もこわいやね‥‥携帯でも」
潜む相手の目的がわからないなかチェスでも打つようにカーラは地図を見る。
敵の目的は打ち上げだとしても、果たして”クインビー”いわれるバグアの真意が同じかどうかカーラは悩んでいた。
●ダウンタウン 13:00
「ブロンドのシスターでバグア、ね‥‥」
UPC北中央軍の諜報部で得られたという写真と資料に天狼 スザク(
ga9707)は目を通す。
愛車のインディースを運転しながらオフィス街の外周部を走り地形を確認した。
テナント募集しているところもあれば、公園もある。
怪しいと思えば全てが怪しく見えるそんな場所だ。
「この辺でいいわ。ランチしている子達に混ざっていくから」
体にフィットした女性用スーツに三つ編みにしてOLを装った羅・蓮華(
ga4706)がモデル並みのプロポーションを見せながら車から降りる。
「拙僧‥‥スーツを着るのははじめてだ!」
スザクの動かす車の中で緊張していたゼンラー(
gb8572)が着慣れないスーツを着込み、会社帰りのサラリーマンに紛れて情報収集に回った。
積荷を降ろしているトラックなど警戒するべき対象が多く、それらの時間も知らせながら情報収集を続ける。
「車に大刀置かせてもらうな。俺は屋上と公園を重点的にあたってくる。都会でバードウォッチングでもしてみる」
双眼鏡を首から下げたベーオウルフ(
ga3640)もスザクの車から降りてロサンゼルス市庁舎へと足を向けた。
27階の展望台から眺めようという考えである。
「ビルの上と下を同時に取り掛かるならこの方が早い」
ロサンゼルス自体には高層ビルはすきないが、オフィス街の集まっているダウンタウンでは高層ビルが多く立ち並んでいた。
「屋上に人影はなし‥‥か‥‥」
「何か見えまして?」
展望台で双眼鏡を覗いていたベーオウルフに鈴の音のような声が聞こえてくる。
「明るい空と人と平和そうな町並みが見える‥‥な」
声だけではなく、冷たい『何か』を感じたベーオウルフは視線を前に向けたまま、後ろの存在に向かって答えた。
ガラスに映った存在はシスターのような格好をしており、光るロザリオをぶら下げている。
「そうですわね‥‥本当に楽しそう、この光景を壊してしまう瞬間[とき]はもっと楽しそうと思いませんこと?」
上品な口調でありながら、物騒なことを平然と後ろの存在は述べた。
「”クインビー”か‥‥」
「あら、どなたからかお聞きになられてましたか? それは楽しいステージとなりそうですわね」
自分の知るものがいることにクインビーは嬉しそうに笑い、一歩離れる。
「キャスティングの不備は受け付けない‥‥ただの観客になるつもりもないがな」
ベーオウルフはクインビーを軽く牽制するような言葉を放つとゆっくりと展望室を後にした。
●ダウンタウン 20:00
各自が持っている時計の時間がきっかり20:00をさしたとき、能力者達は一斉に動き出す。
「時間がないやね。迅速第一で行かないとにゃ」
武装をしたカーラ達は飛び出すと共に夜のダウンタウンの喧騒が目に入った。
地図を見ながらチェックした怪しいものをチェックしていく。
「空きテナントはこっちよ」
眼帯を付け直したミンティアが皆を案内し、要点の一つのテナントへと足を運んだ。
「さぁて、何が出てくるかっ!」
電気の通っていないテナントへスザクが率先して駆け込むとホームレスが数人寝床の確保のためかたむろしている。
「少し危険なことをしますので、注意してくださいよ。避難して貰えればいいですが」
「いや、出すわけにはいかない‥‥」
アンジェラがホームレス達の様子がおかしいことに気づき銃を向けた。
寝転んでいたホームレスが体をビクンと痙攣させたかと思うと、その背中を食い破りキメラが生まれてくる。
アサルトライフルが火を噴き、キメラを蜂の巣にした。
「練成強化、回復はしますが‥‥ここに結構いるみたいですよ」
「囮にかかったか、本星か‥‥上に行くまでわからないか」
ミンティアが周囲の物音を感じながら呟くと、スザクは壁を食い破って飛び出してきたシロアリキメラを蛍火で斬り裂く。
「騒動を聞きつけた住民が近づかないうちに処理をしてしまいたいものね」
ファングを使い、ラッシュを叩き込んでシロアリキメラを倒した。
「苦しい‥‥た、たすけ‥‥」
「大丈夫や、うちが‥‥」
話すことのできるホームレスの男が上から苦しみながら転げ落ちてくると、その中からもシロアリキメラが男の肉を喰いながら出てくる。
「くっ‥‥趣味が悪いにもほどがある!」
差し伸べても助けられない存在を見せ付けられたカーラが怒りをあらわにしてサパラで叩き斬った。
キメラはサパラによって斬り裂かれ絶命するが、ホームレスの男も既に息はない。
「シロアリキメラが発射装置を守っているのならここがその可能性もあるわ、犠牲を無駄にしないように戦って!」
アンジェラが転がる死体に軽く黙祷を捧げながら上へと仲間を上げていくのだった。
●ダウンタウンの倉庫 20:00
「本当は拙僧の出番なんてないのが一番なんだろうが‥‥治療は任せてくれぃ」
着慣れないスーツから覚醒時に敗れてもいい服に着替えたゼンラーは雄雄しくいいながら最後尾に続く。
「こっちの倉庫が本命と思いたいところだ‥‥」
屠竜刀を持ったベーオウルフが夜空を見上げながら昼間に出会ったクインビーのことを思い返した。
この夜のしたどこかで笑いながらこちらを見ているかと思うといい気分がしない。
「下水道やトラックも怪しいと思うけど、まずは目撃証言のあるここからというのは悪くない‥‥けれど、ケイ大丈夫?」
「ええ、ごめんなさい。練力の調整をミスっていたわ」
ベーオウルフを追いかけるように遠石がケイを気にしながら続いた。
隠密潜行で調査を続けていたケイだが、発動時間は1分しか持たないため長時間の調査で使い続けたことにより練力の消耗が激しく出てしまったのである。
適度な休養を考えた計画を立てなかったのが作戦開始時に響いたのだ。
「御影さんもどうしているかわかりませんね‥‥とにかくこのメンバーでやれるだけやりましょう」
シロアリキメラがちょろちょろと動いている倉庫に4人は潜入していく。
扉は開いていて、逆に不気味だった。
「だからといって退くわけにもね‥‥」
倉庫に入るとすぐにシロアリキメラの手厚い歓迎を受けた。
その奥には事前に貰っていた資料にある発射装置とそこに埋まるステアーのパーツが見える。
「パーツがそこに! ここが本命ね」
ケイが深く息をついて覚醒を行った。
覚醒時間は短いがここで遠慮をしている場合ではない。
スキルもつかえない状況だが、動かないよりはマシだ。
「思い通りになどさせるものか」
<限界突破>と<瞬天速>をあわせて遠石が一気に装置に近づく。
「あら、割と思い通りに動いてくださっていますわよ」
装置の前に同じように壁をステップで蹴りつつクインビーが遠石と装置の間に割り込んだ。
「最悪に悪趣味ね」
「褒め言葉として頂いておきますわ」
睨み付ける遠石に微笑を返してクインビーは引っかくように攻撃を仕掛ける。
鋭い爪が遠石を狙うがかわされ、金属の柱へ深い爪あとを残した。
「おや、まだですわよ‥‥ルラァ、ラララァァァ」
装置を狙おうとする遠石の耳に歌が聞こえたかと思うと吐血して膝が折れる。
「むむ、遠石どの!」
味方のダメージの受けようにゼンラーが大きく叫んだ。
「貴方の体にも美しい私の子供を埋め込んであげますわ。きっと綺麗な花を咲かせてくれるはず」
「残念だが‥‥そうは‥‥いかん」
クインビーが遠石に手を伸ばしたとき、射撃音が響いて発射装置が吹き飛ぶ。
煙の中から御影がゆらりと体を揺らし、息を切らせて壁にもたれていた。
ケイだけでなく御影もまた調査で練力を使いすぎていたのである。
狂気を帯びていた瞳を向けていた御影だが、<狙撃眼>をつかった最後の一撃だったのかいつもの雰囲気に戻った。
「あら、また貴方‥‥美味しいところをいつも奪っていきますわね」
「名乗っていなかったな‥‥御影、朔夜だ」
真デヴァステイターをクインビーに御影は向けるが、覚醒の切れた能力者ではフォースフィールドを貫通できないのは明らかである。
「雑魚は潰したがまだやる気か、クインビー」
御影とクインビーがにらみ合っている中、倉庫にいたシロアリキメラを駆除したベーオウルフがクインビーに警告した。
間合いを読みつつ音波を受けないように武器を盾のように構えてもいる。
「これ以上の争いは無益だと思わんか! 目的無き今そなたにも危険を冒す意味はあるまい!」
「確かに、パーツの発射が目的といえば目的でしたけれど‥‥楽しいイベントが街中で起きているようですから失礼しますわ。それでは、ごきげんよう」
ゼンラーが遠石を庇うようにして交渉を試みるとクインビーはあっさりと承諾し、倉庫の屋根を突き破って夜の闇へと消えていった。
『こちらスザクだ。街中でキメラ発生、パニックが起きてやがる‥‥手を貸してくれ』
「楽しいイベントか‥‥やってくれるな、あの女」
ベーオウルフは破壊を楽しむクインビーの姿を思い浮かべて苦虫を潰したような顔になる。
「とにかく急ごう、死人を出すわけにはゆかん」
遠石を<練成治療>しながら焦る心を落ち着かせるのだった。
●ダウンタウン 20:30
「キメラに襲われた人は治療を受けて。病院にも念のためにいって! 殺菌も必要やで!」
カーラは大きく声を張り上げ、被害を受けた市民の対応に走っている。
テナントはハズレだったが、注意をひきつけ、孵化に駆ける時間稼ぎにはなっていたようだ。
警察が走り、騒動の収束に動いている。
「治療すれば治るようですから、やれる限りやっていくしかないですね」
キメラに直接襲われたという人物を中心にミンティアが<練成治療>をしていった。
「ちっ‥‥真面目にナマモノが危険とくるか。事前に知らせて騒ぎにもできないというのは相手はそこを承知で動いていたのでしょうかね」
「警戒されててでも救う道を進まなかったワタシ達の問題ともいえなくはないですが‥‥納得いきませんね」
アンジェラも警戒していた残りのポイントにあるナマゴミなどを焼却処分にしながら愚痴をこぼす。
依頼の目標を達することはできたが、騒動を起こしてしまった。
そして、無関係なホームレスが数人シロアリキメラの餌食となっている。
クインビーの目的はこうして能力者たちをあざ笑うことだったのだろうかと、誰もが思った。
「蜜蜂の毒針‥‥必ず食らわせてやるかんね」
敗北感を味わうカーラは収束していく騒ぎの中拳を握り誓いを立てる。
この後、騒ぎのことを聞きつけたアメリカ大統領、ジョナサン・エメリッヒはロサンゼルスの防衛拠点計画を進言したのだった。