●リプレイ本文
●事情それぞれ
「ココ学園にはキメラが出るというのに、KVの闘技場を作ってしまっていいのかね〜?
キメラが入り込めるということはバグアも入り込める、機密が漏れ放題ではないか〜」
掃除の手伝いをする能力者がいる中、ドクター・ウェスト(
ga0241)は文句を言うためだけにカンパネラ学園にきていた。
「へるぷみーでやーんすぅぅぅ」
困った顔の研究員と共にドクターが声のするほうを向いた。
屋内を移動する一人乗り用カートに男女合わせて3人が乗りこみ、ドクターの方に向かってきた。
その後ろにはメタリックなボディをした人影がガドリング砲を放っている。
「はいはーい、こっちも今忙し‥‥うお!? 何やこいつ‥‥って言うか何で某中将!? しかも何でこんな所に‥‥!?」
声を聞きつけて姿を見せた流 星刃(
gb7704)がガドリング砲を放つ人影の顔を見て驚いた。
「貴方達もすぐに避難をしばらく人を近づけないように周辺注意もあわせてお願いします」
駆けつけた優(
ga8480)は逃げてきたマローナを呼び止めると、避難指示をだす。
その場にいた研究員にも協力を求め、戦いやすい状況を作り始めた。
「あれは我々が作ったものではなくて‥‥他所から確保してきたも‥‥と、とにかく排除を頼みます」
研究員が慌てながらポロっとこぼすと、急いで避難を始める。
『あいるびーばーっく』
ドガガガガガガとガドリングが放たれ、片付けたはずのエリアが銃弾を受けて散らかり始めた。
積み上げた廃材は転がり、崩された積み木のように散らばる。
「おお、あれはう゛ぉりむじゃ! わらわは退治したから知っているのじゃ、前より小さいからみにう゛ぉりむでみにう゛ぉりじゃな」
漢字の弱い子と最近言われるようになった正木・らいむ(
gb6252)だが、横文字に関してはまだ弱いままのようだ。
以前戦ったときは10m以上あった存在が小さくなったことで新たに名前をつけて得意げにしている。
「皆、片付けよりも戦うことがすきなようだね〜。我輩は支援にするだけだがね」
ドクターは声を聞きつけ集まってきた能力者に肩をすくめてため息をつくのだった。
●コンビネーションアタック
「何か異質な‥‥妙に重いプレッシャーを感じますが、御本人に比べれば!」
ヨネモトタケシ(
gb0843)は本人周りに聞かれたら恐らく命の保障ができないような言葉を出しながらミニヴォリムのガドリング砲をその身で受け止める。
マッスルスーツをはじめ、カールセルやアーマージャケットで武装したタケシは銃弾をもろともしなかった。
両手に装備されたガントレットの一つ、メタルガントレットで急所をそらし攻撃を集中させて反撃のチャンスと周辺被害の低下に務める。
「皆、タイミングを合わすぞ!」
タケシや転がっている残骸を盾にしながら獅子河馬(
gb5095)が有効射程圏内まで移動するとSMG「スコール」をミニヴォリムに向けて撃ち出す。
10秒間に15発の弾丸が射出され、ミニヴォリムのメタルボディを砕いた。
「おーけー、なんだか良くわからないけど掃除ばっかで退屈していたから丁度いいよっ!」
<迅雷>で間合いを詰めた和泉 沙羅(
gb8652)はぺロリと唇を舐めて、退屈な仕事からの解放を喜ぶ。
獅子河馬によって胴体にダメージを受けている敵の頭部を弧を描く<円閃>による蹴りこみで和泉は吹き飛ばした。
宙を待った頭部は地面に落ち、青い瞳を光らせながら機械音を口から漏らし続ける。
頭部を失ったミニヴォリムの胴体は残っているガドリング砲をあちこちに向かってばら撒き始めた。
「相手がタフなら武器をもげばいい‥‥そこだね」
高村・綺羅(
ga2052)も和泉のように<疾風脚>で脚力を高めると、<瞬天速>でもって近づき機械剣αでガドリング砲を二つに斬る。
飛び出した勢いを消せなかったことと、次に向かってくる敵のこともあり綺羅は地面に転がり、別の障害物へとその身を隠した。
「我流‥‥剛速刃!」
首を失い、得物を失ったミニヴォリムの胴体はタケシの機械刀を使った<両断剣>で倒される。
しかし、一体にほぼ4人の戦力が全力投球というのは中々に厳しかった。
練力とて無限にあるわけではなく、長期戦が不利なのは明らかである。
「やれやれ、これは骨が折れそうですな」
「いいじゃないか、退屈しないですみそうだよ」
スーツの煤けだしたタケシが苦笑をもらすも、綺羅は初依頼だというのに元気だった。
「知らぬが仏ってやつですかねぇ」
今、思い切って殴っているキメラのモデル‥‥名もいうことさえ恐れられている某中将のことをタケシは考える。
「知っていても関係ない。目の前のが敵であるなら破壊するだけ」
タケシの考えを察したかのような綺羅の呟きは実に的を射たものだった。
●戦いは続き
「我輩がサポートする、他のものは瓦礫を盾にしつつ集中攻撃をするのだ〜」
味方に<練成強化>をかけたドクターは仲間に指示をだす。
一度の行動で駆けられる人数は限りもあり、攻撃に集中する時間はないのだ。
「金属ボディで物理には異様に強い形ではあるようだね〜」
強く輝く眼球でミニヴォリムを睨み、特性やスペックを独自に解釈していく。
数は数体だが、一体に裂かなければならない戦力は大きく、苦戦をしいられていた。
きっと、顔が原因でないと思いたい。
それはそれで問題かもしれないが、今はおいて置く方が吉だ。
「いやはや、女性にもてるのも考え物ですな」
タケシ自身が銃弾をもろともしない体であっても、全ての敵の攻撃をカバーできるほどの体ではない。
カバーしたり、武器を潰そうと立ち回ればガードの弱い部分に敵の攻撃が集中しないとも限らないのだ。
「ヨネモトさん、一人で抱え込まないでください。援護に参ります」
<ソニックブーム>でガドリング砲を斬り裂いた優が前に踊り出て被害を減らそうと攻撃の注意を自分に向かせる。
「が、がとりんぐとは卑怯じゃのっ。接近戦で勝負せい!」
銃弾の雨を障害物に隠れて凌いでいたらいむは抗議の声をあげた。
『ヴォリィィィィム』
もちろん、相手はキメラであり言葉の通じることはなくガドリング砲の放火が返事として返される。
らいむが盾にしていた鉄板が衝撃でひしゃげ、隠れる部分が少なくなっていった。
「ええいっ、成敗してくれるわっ!」
距離を測っていたらいむは障害物から飛び出すと共に<迅雷>で近づくと<円閃>、<刹那>をあわせて全力で挑む。
ドレスを翻し羽飾りのついた細身の剣で戦う姿は戦士というよりは漫画や特撮の主人公のようにも見えた。
しかしながら、繰り出される一撃は鋭くミニヴォリムの顔を横一文字に斬る。
顔を抉られてもミニヴォリムは止まらず手刀を使ってらいむを狙った。
「おっと! 好きに動き回んなや!」
らいむを狙う腕を弾くように流がクルメタルP−38を撃ち続ける。
「おお、感謝するのじゃ」
「女性に尽くすのが紳士の務めってもんや、追撃いくでっ!」
クルメタルP−38に弾は残っているも、左手にもっていたフォルトゥナ・マヨールーを流れるように構え<強弾撃>を三発叩き込んだ。
らいむによって傷つけられたミニヴォリムが流の追撃で顔面を吹き飛ばし胴に穴を開けてようやく沈黙する。
「手刀もあるなら、両手をもげばいい‥‥」
口数が減り、戦闘マシーンのように正確に動く綺羅はエネルギーガンと機械剣αをたくみに使い分け、ヴォリムの攻撃力をそぐ。
物理攻撃に比べ知覚攻撃の方が有効であることが見えた。
「武器を失ったものから攻撃を続けるぜ!」
「残った敵に我輩が<練成弱体>を付与するからがんばるのだよ〜」
獅子河馬が綺羅に感化されてか大きく声を出して味方を鼓舞する。
ドクターもスキルを使い支援を続けた。
「いい加減に転んでなよ!」
足の関節をエクリュの爪で潰し、和泉がミニヴォリムの動きを制限しはじめると勢いが圧倒的に能力者側に傾く。
ボコボコと数で勝った能力者たちがミニヴォリムを殲滅する。
戦闘が終わったと優が研究員達を呼ぶとすぐに撤収作業を再開しようと集まってきた。
「ようやく片付いたね〜。さて、エミタの回収を‥‥」
「エミタ? エミタなんてキメラから出てくるわけないじゃないですか」
ドクターがミニヴォリムの残骸とも死体とも言いがたいものに近づきながら探していると研究員の一人からツッコミが入る。
エミタはキメラから回収されるものではなく未来科学研究所が独自のルートで入手、移植をしているという話を話し出した。
「ふむ、なるほどね〜。メカ部分の調査をサンプルの回収だけでも済ませておくかね〜」
研究員からの話を聞いたドクターは一つを手にしてコッソリと持ち出す。
メカ部分は物理攻撃には耐性をもっているようだが、知覚攻撃にはそれほど耐性はないことが見てわかった。
「片付けのほうも再開しないといけませんね」
優が戦闘により散らかったエリアをぐるりと見回して呟く。
「面倒だけど、そっちが本来の仕事だもんな」
「まぁまぁ、これも何かの縁やし能力者が手を貸して一気にやればすぐに終わるって」
頭を抱えだす和泉だったが、流は背中を軽く叩いて元気付けるのだった。
●事後処理もきっちりと
「の、のぅ‥‥この売れそうなガラクタをもって帰ってもいいかえ?」
埃やら薬莢やら、生首(?)やら散らばるエリアを掃除し終えたらいむがモジモジとしながらタシロに尋ねる。
「元々廃棄予定のものばかりだから売れるってのはないだろうなぁ。鉄くずくらいの値段にしかならねぇだろうがそれでもよければもってけよ。あ、俺らが使うものからはパチンなよ?」
ゴンザレスは戦闘によって壊れてしまったパワードスーツのようなものや、ルームランナーに見える機械などを荷運び用カートにつなぎながら答えた。
「開発者の考えることはよくわからんのぅ‥‥もっていっていいのであればもっていくのじゃ。ひと段落したのなら茶にするのじゃ」
ゴンザレスやマローナ、JJなどが搬出準備をしているなか、らいむも自分の取り分を確保した後、茶会を企画する。
片付けの終わった能力者達の一部も一休みとばかりに参加し、輪になってお茶と菓子を摘みだした。
「カンパネラにキメラが出ることは多々聞いていますが、此れは何処から現れたのでしょうか? オリム中将に似せているのも気になりますが」
「俺が知るかよ。その辺の研究員も詳細は話せねぇようだから後ろ暗い理由があるかもしれねぇけどな」
湿気た煙草をくわえてゴンザレスは優の疑問に答える。
「え、あのキメラの顔って有名な人なの?」
何も知らない和泉はこのとき、自らが相手したものの恐ろしさを知り、絶対に口外すまいと誓った。
「バグアは何を考えているのだろう‥‥」
和泉の言葉に誰も返事はしない。
「バグアの考えていることなんてわからない‥‥力とか恐怖の象徴をキメラにする傾向があるらしいけど」
「ある意味『強さ』の象徴に成り得ると思いますが‥‥こちらも闘技場の象徴に使って見たりするのはどうでしょうか? ちょいと危険ですかねぇ?」
綺羅の言葉にタケシがピンときたのかとんでもない意見をぶつけてきた。
「それはできないでやんすよ、あっしらの命が‥‥」
マローナはタケシの意見に顔を真っ青にして首を着るサインを見せる。
オリム中将を誤解しているような気もするが、誰も否定はしなかった。
「貴方達はMSIの人じゃないから関係ないかもしれないけど、戦闘は威力ではなく素早さと正確さと手数が欲しい。KVも一緒だね」
「まぁ、何を指しているかわからなくもねぇが兵器を採用するのは頭の固いお偉いさんなんでなぁ。知り合いのMSIのメカニックには伝えておくぜ」
使わなくなった研究室のガラクタや廃材を眺めてゴンザレスは少し寂しいそうに答える。
世の中にでていけるのは一握りの成功作であり多数の駄作の上に成り立っていた。
開発者としてもニーズにこたえたいが、それを採用するかどうかの判断を決めるのはUPC軍なのである。
ジレンマを抱えているのはユーザーだけではないのだと綺羅はこのとき感じた。
「難しい話でよくわからないのじゃが、一つだけいえるのはみにう゛ぉりもう゛ぉりむも打ち止めになって欲しいのじゃ」
らいむの一言にその場にいた全員が大きく頷く。
こんな敵は何度も戦いたくない
みんなの心が一つになった瞬間だった。