タイトル:【BT】女王蜂の終焉マスター:橘真斗

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/10/21 14:32

●オープニング本文


 長く生きることに意味はあるのだろうか?
 
 醜く、苦しい時間を長い時間過ごさなければならないというのは苦痛でしかない
 
 ならば、短く美しく散るのが最高に幸せだと私はおもう
 
●イスパニョーラ島 ドミニカ共和国内某所
「そろそろ限界が来ているみたいですわ」
 ひび割れた陶器のような腕を眺めながら”クインビー”は微笑を浮かべる。
「解せない‥‥貴様は力を無駄に使って寿命を縮めている。ロサンゼルスでのパーツ回収も失敗しているのに反省もないのか」
 ”クインビー”の異常な精神に”グリフォンライダー”は理解不能と頭を振った。
「アスレード様は私の望をかなえるために改造を施してくださいました。命を扱いも任されている‥‥貴女もそうなのでしょう?」
「‥‥そうだ」
 ”グリフォンライダー”も己のバグア側に至った経緯を考え言葉を仕舞う。
「役目は十分果たしましたわ。最後を華々しく散るために私は最後の戦いに向かいます。ローズマリーと出会ったあの場所で‥‥」
 ”クインビー”はスカートを摘んで礼をすると決着の地へと向かうのだった。
 
●UPC北中央軍諜報部
「どーりで、正体がつかめなかったわけだーねー。強化と共に整形してとはー」
 間延びをする口調で中世的な姿をしているジュン・ファシュインメイカー大尉は資料を机に投げる。
 机の上を滑って広がった資料の一つにある履歴書に眼鏡をかけてそばかすのある大人しそうな少女がいた。
 彼女の名前はミランダ・クラン、リネーア・ベリィルンド(gz0006)の妹が通うミッションスクールに在籍していた少女である。
 地味で目立たない彼女はローズマリーによるジェダイト事件の被害者で、そのことが原因で自主退学していた。
「被害者が今度は加害者かとはねー。どういう神経しているのか俺にはーわーからん」
 そんな彼女が今は”クインビー”として北米に害を与えている存在になっていることが要訳判明したのである。
「報告です! クインビーが現れました、場所は彼女が自主退学している例のミッションスクールです!」
「おーい、まじかよー。UPC本部へ連絡頼むよー。恐らく例のオペレーターさんもついてくるだろねー」
 部屋に入ってきた部下からの報告にジュンはため息が漏れ出すのを堪えて要請をするのだった。

●参加者一覧

奉丈・遮那(ga0352
29歳・♂・SN
遠石 一千風(ga3970
23歳・♀・PN
ファルル・キーリア(ga4815
20歳・♀・JG
シーヴ・王(ga5638
19歳・♀・AA
キムム君(gb0512
23歳・♂・FC
紅月・焔(gb1386
27歳・♂・ER
天宮(gb4665
22歳・♂・HD
ヤナギ・エリューナク(gb5107
24歳・♂・PN

●リプレイ本文

●思い出の場所、思い出の敵
「もうすぐ学園ですけど‥‥余り危険なことはしないでくださいね」
「そうも行かないわ、あそこにはアダーラがいるの。大切な大切な妹がいるの」
 カシャンと小銃「シエルクライン」をリロードしたリネーア・ベリィルンド(gz0006)は奉丈・遮那(ga0352)に答える。
(「やはり言っても聞きませんよね。できる限りフォローをするしかないですか」)
 会話が成立していないことに遮那はため息をつくも、自らの小銃「S−01」に銃弾を込めた。
 ラストホープから高速移動艇で近くの町まで折り、それから郊外の学園に向かってトラックで向かっているところである。
「‥‥思い出した、サン・ドミンゴに蟻型キメラを排除に行ったときの指揮官!」
 重たい空気の中、キムム君(gb0512)が沈黙を打ち破った。
 ”クインビー”という名前、そして調査報告書の数々を目を通しキムム君は今回の敵が戦友を傷つけたということを思い出したのである。
「あの時の親玉か‥‥なるほど、今回も同じのがいるならあの時の仮を返してやらないとな」
 同じ依頼で戦った紅月・焔(gb1386)はキムム君の言葉を聞くと掌に拳をぶつけた。
「ローズマリーを取り逃がしたのが未だに尾を引いてるなんて‥‥決着つけないといけないわ」
 ファルル・キーリア(ga4815)は自分の関わった事件のツケが未だ来ていることに歯がゆさを感じる。
「着いたわよ、私は私で好きにやらせてもらうわ」
「いえ、教会に逃げている生徒の姿が見えます。あそこに居るかもしれませんから一緒に行きましょう」
 リネーアが覚醒し胸の質量を増加させると遮那と一緒にトラックから飛び出していく。
「くっ‥‥世の中って不公平ね」
 いろんな意味で飛び出したリネーアを見たファルルは歯がゆさを感じながら屋上ヘと向かった。
「リネーア! 人も少ないし‥‥暴走するのは構わないが‥‥不利益と思えたら‥‥俺は容赦無く」
 釘を誘うというのか、焔がリネーアを呼び止めて釘を刺そうとする。
「‥‥触りますぜ」
 最後まで言わなければよかったのにと誰もが思う一言だった。
 
●キメラ退治〜中庭〜
「何が目的か知らないけれど、させないわ‥‥助けに着たわ! 近くの友達と一緒に動かないように!」
 遠石 一千風(ga3970)はアリキメラがウジャウジャと集まりだす中庭に躍り出ると女学生の周りに居るキメラから小銃「S−01」を打ち込んでいく。
「大丈夫か、お前ェら! これ使って消毒済んだ奴から教会へ‥‥っ!」
 遠石とは反対側から中庭に入ってきたヤナギ・エリューナク(gb5107)は女学生に向けて救急セットを投げ渡すとイアリスで蟻キメラを斬り刻み、飛び掛ってくるものを小銃「S−01」で撃った。
 ヤナギの流れるような動きにパニックに陥っていた女学生達は目を奪われる。
「怪我人は治療するまで動かないで! もう少し片付くまでは落ち着いて治療をしていて!」
 治療を施すまで居てもらうとなれば物陰に隠れて戦うということは出来ず、保護を優先して遠石戦うしかなかった。
 ヤナギと共に女学生を中庭から教会へ向かう道の方へ集め、襲ってくる蟻キメラを銃を使って迎撃する。
 中庭には数人の女学生がいるものの、リネーアの妹アダーラの姿はなかった。
『シュギャァ!』
 蟻キメラから強酸が放たれ女学生にかかり女学生が苦痛に顔をゆがめて倒れる。
「綺麗な顔に傷をつけさせやがって! いい加減潰れろよ! こっちは女王様のお迎えをしなきゃいけないんだからよ」
 悪態をつきながら自分に蟻キメラの注意を寄せるように片っ端から小銃「S−01」を撃ち込んだ。
 ジワジワとだが、蟻キメラの動きは弱くなり1体、また1体と潰れていく。
「あ、あの‥‥こちらの治療も終わりました‥‥けど‥‥」
「これでラスト!」
 最後の一匹にヤナギがイアリスを突き立てると女学生達はオロオロとした様子で二人を見た。
「怪我をしていない人も一応消毒だけでもしておいて、どこまで効果的かはわからないけれど‥‥」
 何のために必要かはあえて言わず遠石は一人一人に救急セットで消毒をしながら周囲の状況を確認する。
『こちら屋上、現在戦闘中ですがアダーラさんの姿は見えません』
 ひと段落していると天宮(gb4665)からの無線が届いた。
「こっちも確認していねー。リネーアくらいの美人ならすぐわかるんだがねぇ‥‥」
 無線機を取り出したヤナギが答えながら、自然な動作で胸ポケットから煙草を取り出し咥えて火をつける。
『わかりました。こちらの生徒は殆ど逃げていましたので手当ては楽でしたので、報告を‥‥では‥‥』
『こちらシーヴです。教会の中へ念のために入ったとこ。アダーラを発見したんでリネーアには伝えたです』
 天宮からの通信が終わるとシーヴ・フェルセン(ga5638)が続けて教会の状況を報告してきた。
「アダーラは教会らしいぜ? 屋上の方へ回っておくか?」
「まずは彼女達を送ってからね‥‥だけど、先にその煙草消しておいた方がいいわ」
「つい、癖でな‥‥さてと、行きますか」
 遠石に注意されてヤナギは煙草をもみ消すと銃弾をリロードし直して教会へと女学生達を連れて行く。
(「アダーラは見つかったけれど、クインビーについてはまだ発見の報告がないわ‥‥早く見つけないと」)
 ヤナギの後ろについていきながら遠石はロサンゼルスでの手痛い攻撃を受けた女王蜂のことを思い返していた。

●キメラ退治〜教会〜
「ああ、アダーラ! 無事だったのね」
「リネーアお姉様‥‥わたくし怖くて、でも助けに来てくださると信じていました」
 教会の中では蟻キメラを駆逐し終えた、リネーアとアダーラを抱きしめ、無事であることを確認しあう。
「見慣れねぇシスターを見かけたら注意し、教えてくれです」
 シーヴは閉じこもっている生徒に救急セットを貸し出しながら一人一人に聞こえるように注意を呼びかけた。
「シスターさまといわれましても‥‥」
「こちらには多くいらっしゃいますし、今は逃げることが精一杯でしたから‥‥顔とかなんて良くわかりませんわ」
 生徒や教師も逃げてきていたが、彼女らのいうように逃げるに精一杯で道中のことなんか気づかない。
 つまり、ここに誘導してきたのが敵だとしても‥‥だ。
「あら、種明かしをするのはもう少し後からが面白くなりそうでしたのに‥‥残念ですわ」
 一人のシスターが黒いベールを脱ぎ捨てるとブロンドの髪が揺れ、ヒビの見える白い顔が見える。
「クインビー‥‥いえ、ミランダ・クランさんと言うべきかしら?」
 リネーアがアダーラをぎゅっと抱きしめたままシエルクラインを抜いて狙った。
「ミランダさん? わたくしのクラスメイトでしたミランダさんなの?」
 アダーラや女学生、教師もその名前にざわめきを見せる。
 ローズマリーの事件もあって学園内にバグアがいたというのが驚きと共に怯えとなった。
「お久しぶりですね‥‥けれど、ミランダはもう死んだのですよ。あの、ローズマリーさんの事件で‥‥」
「何が目的かわかりませんが、あなたもこの学園の生徒であったのなら教会で戦うことは止しましょう」
 遮那がリネーアとミランダの射線上に立ち、互いを諌める。
「さぁ、どうでしょう? もう少し私の子供[キメラ]が頑張ってくれたらもっと彼女達に死の恐怖を感じていただきたかったのですが」
「そんなことのために学園をキメラで襲って何がしたいというの!」
「石化されたときに気づきましたの。バグアの力を借りれば美しいままに生きることも、美しく死ぬこともできると」
 激昂するリネーアに涼しい顔をしたクインビーは答えた。
「戦うのなら他にするです。全てを見渡せる舞台で、待ってやがるモンがいるですよ」
「では、そちらに参りましょう。変わりに私の子の相手をしてもらいますわね。では、ごきげんよう」
 出入り口まで歩くとクインビーは一礼をして飛び出す。
 彼女の言葉どおり、出て行った後には蟻キメラが強酸の涎をたらして待ち構えていた。
「クインビー発見、今屋上に誘導したんで後は頼むです」
 シーヴは見送ったあとに無線機で仲間に連絡するとコンユンクシオでキメラに斬りかかる。
「リネーアさんはアダーラさん達の治療をお願いします。先ほどスキル全力で戦っていたでしょう?」
 遮那はリネーアに少しだけ男らしいところを見せ、二丁を構えてシーヴの後に続くのだった。

●キメラ退治〜体育館〜
「また会ったな‥‥見せてやろう、夢見幻想の完成形!」
 自作の剣術『夢見幻想』の完成披露が試作を試した相手ということもありキムム君の腕に力が入る。
『前回のようにやられはしないぜ! おらおらっ!』
 両手に持った小銃「シエルクライン」とSMG「スコール」を交互に使い分けながら焔が体育館の外壁を溶かして侵入してくる蟻キメラを撃った。
 近づき溶解液にやられたことを考えて距離を置いて戦い続ける。
「幻影の刃、受けろ! 見えた、霊夢斬!」
 関節を狙うと見せかけ目を潰すというようなフェイントをかけた攻撃でキムム君は蟻キメラを引きつけた。
 体育館内にも教会へ向かうより先に逃げてきた生徒もおり、避難人数としてはかなりの数である負傷者もいるようだ。
 外壁が役に立たないのならば自らが囮となって女学生を誘導するのが筋だ。
「どこを見ている? 甘い、夢幻踏」
『そのまま沈めっ!』
 体育館という広いフィールドを上手く使い、ダンスのステップを踏むようにキムム君が攻撃を交すと焔が追い討ちとばかりに銃弾を叩き込む。
 無論相手の動きがわかっていることと、相手が単純な思考であるからこそ成功している部分が大きかった。
 果たして強敵に通じるかはこれからの修練次第である。
 体育館の床なども溶かされ、ボロボロにしながらも焔とキムム君はキメラの排除を完了した。
『美人の相手じゃないとのれないな‥‥っと、無線だ』
 戦い終わった時、焔にシーヴからの連絡が入りクインビーが屋上に向かったとの話を聞く。
「向かうよりもまず手当てからですね。寄生されている人もいるかもしれません」
 覚醒を解いたキムム君は焔に顔を向けると焔も頷いた。
「あっちの美人もいいけど、こっちの美人もな」
 ガスマスクをはずした焔は女学生達に近づく手当てを始める。
 下心があったかどうかは‥‥別問題だ。

●決着〜屋上〜
「キメラが逃げ出しているわ‥‥何があったの?」
 ヴィアと小銃「S−01」で戦っていたファルルは急に逃げはじめた蟻キメラに疑問を感じる。
「わかりませんが、チャンスです。女学生の治療を済ませましょう」
 天宮は好機とみて2人ほど残っていた女学生に手当てをはじめた。
「そうね、護衛をして彼女達を教会の方へ‥‥」
 ファルルが動こうとしたとき、シーヴからの声が届き、終わると共に壁を駆け上がってでも着たのかクインビーがフェンスを飛び越えて屋上へ着地する。
「ギャラリーが少ないですが風の気持ちいい舞台ではありますわね」
「クインビー‥‥私がローズマリーを最初に捕らえておけば狂うことも無かったのかしら? まぁ、アスレードなんかに従っている奴に同情するつもりもないけれど」
 小銃「S−01」を構えながらファルルは手当ての終えた生徒を逃がす。
「狂ったなどと人聞きの悪い‥‥私は目覚めただけですわ。人生を楽しむ道が見え、手に入れた。あとは終わりを迎えるだけ」
『その心意気嫌いではありません‥‥ですが、許せるものでもありませんよ』
 漆黒のAU−KVを身につけ、ライフルを構えた天宮が言い終えると共に撃ち出すも銃弾はクインビーの構えた盾扇によって全て塞がれる。
「許されようと思ってはいませんわ。楽しめればそれでいい‥‥アスレード様と一緒なだけ、認めてくださったのはあの方だけでしたから」
 ひび割れた顔でにこりと笑うとクインビーの手から光弾が迸った。
 受け止めた天宮の体が地面へと叩きつけられ、AU−KVの各部が異常を知らせる。
『一撃でこんなダメージが‥‥くっ』
「もろいですわね」
「後ろが隙だらけよっ!」
 <瞬天速>を使って壁を駆け上がってきた遠石がクインビーの背後から鎌切で裂こうとした。
「その程度‥‥うぅっ!?」
 振り向き反応しようとしたクインビーだったが、その手にヒビが入り動きが止まった。カマキリのように曲線を描く爪がクインビーの喉を裂く。
 喉を潰され、声の出せなくなったクインビーは動きを戻し遠石を掴むとコンクリートの地面に叩きつけた。
 更に近い距離で掌から光弾を叩き込む。
 喉を潰された怒りがその行動に見えていた。
「こっちを忘れないでよ!」
 ファルルが遠石を助けようと投擲用ナイフを投げつけるとミランダは飛びのいて避ける。
「後ろがガラ空きだぜその2!」
 避けたところへ屋上へ到着したヤナギが<迅雷>で降り立つミランダの背後に回って<円閃>の一撃、さらには<二連撃>を叩き込んだ。
 防ごうと構えた盾扇が弾かれ、二連撃で貫かれるもフォースフィールドがトドメを阻む。
「くそっ、全力でもまだなのかよ!」
 自分に悪態をつくもヤナギにもクインビーの見た目よりも強い腕力に腕を握り潰され遠石の上に叩きつけられ、追い討ちを当てられた。
 連携をとって入るも確実に近づくものをクインビーは潰している。
 だが、そのクインビーの動きがここに来て悪くなった。
『モノタリナイデスガ‥‥ジカンノヨウデスワ。サヨウナラ』
 ピシリとヒビが増え、顔が砕けると共にそこから蟻キメラが生まれて飛び出してくる。
「自分に卵を産み付けていたというの? いいわ、トドメをさせなかった分は貴方達で払ってもらうわ」
 ファルルは意外な結末と共に、自らの体を媒介に子供を生み出したクインビーに恐ろしさを感じた‥‥。
 
●結末
「あんたの事は嫌いだったが、その名前は永遠に刻んでおいとくよ、この『魔導書』に」
 キムム君は学園の近くにある共同墓地の前に立つとGrimoirelにクインビーの名前を刻む。
 学園の生徒であったこともあり、クインビー退治の報酬でこの墓標を立てたのだ。
「必死に生きる様を醜いと思ったコトが、間違いでありやがるです‥‥早く気づけばこんなことにならなかったです」
 ミランダ・クランと名前の彫られた墓標にシーヴは静かに言葉をかける。
 何が彼女をここまで変えてしまったのか‥‥彼女を止めることはできなかったのか‥‥。
 考えはめぐれど答えはでてこない。
「彼女は友達が欲しかったのかもしれません。理解してくれる人がバグアだったのは僕たちにも原因があるかもしれません」
 全ては仮定でしかないが、このような悲劇を起こさないように能力者達は墓標を見ながら心に決めたのだった。