●リプレイ本文
●病み上がりが大事
「まりにゃん病み上がりだってねー。お見舞いにキャンディーセットを、どぞ」
ラウル・カミーユ(
ga7242)が寝室に向かい半身を起こした平良・磨理那(gz0056)にキャンディーを渡す。
「うむ、かたじけないのじゃ」
キャンディーセットからみかん味の棒キャンディーをだすと磨理那は口に咥える。
「お加減はいかがですか?」
「磨理那さんにアップルパイを持ってきましたよ」
ラウルに続き、ジュリエット・リーゲン(
ga8384)や佐伽羅 黎紀(
ga8601)が寝室に入ってきた。
「おお、客人かな? 初めて顔を見せることになるが私が磨理那の父である平良夜殿守成正清康(たいらのやとのかみなりまさのきよやす)だ」
「たいらやとの‥‥日本人の名前ってムズカシイネ。ボクはラウル・カミーユです」
「初めまして、私ジュリエット・リーゲンと申します」
磨理那とは似ても似つかない屈強な男にラウルとジュリエットは頭を下げて挨拶を済ませる。
「姫さん‥‥兎饅頭できた‥‥あ、こほん。‥‥拳闘士の玖堂暁恒、以後お見知り置きを」
自前の寝かしていた生地を使って桃饅頭を作っていた玖堂 暁恒(
ga6985)もやってきて清康の持つオーラに丁寧な挨拶をした。
「君のことは丹後の天羽ノ君より聞いている。沖那とも仲がいいようだな。こちらも顔を覚えておこう」
清康は暁恒の顔をじっと眺めた後に頬を緩めながら答える。
優しいだけに何か含んでいるような気がしなくもない。
「磨理那さん、玉子酒をつくってきたぞー」
暁恒と清康が緊張感の漂う挨拶を交していると鬼非鬼 つー(
gb0847)が兎の着ぐるみを来たままもぞもぞと磨理那の寝室に顔をだした。
「曲者っ!」
清康がつーの姿に激昂して掴みかかろうと動く。
だが、その清康を掴んでバックドロップを仕掛けた人間がいた。
鮮やかにバックドロップをしかけた磨理那の母は気を失っている清康の襟首を掴むと頭をぺこりと下げて寝室から下がっていく。
「母上、相変わらず神出鬼没じゃの‥‥昔はクノイチだったと聞いておるのじゃが、父上とどういういきさつで知り合ったのじゃろうか‥‥」
「ぱ、パワフルなお母様なのですね」
目の前で起こった出来事に釘付けになった能力者達は動揺する。
「皆のもの、長旅で疲れたじゃろうて屋敷の檜風呂でゆっくりして祭りに参加して欲しいのじゃ」
しかし、磨理那は平然と対応をし大物の風格を見せ初めていた。
●いい湯だな♪
「あ〜檜のいい香りです〜♪」
エレナ・クルック(
ga4247)は湯船に浸かると手足をぐっと伸ばす。
最近依頼で嫌なことがあったため、気持ちを落ち着けるためにエレナは湯治に来ていた。
「本当にいい湯ね‥‥なんか視線が気になるけど」
体を伸ばしていた百地・悠季(
ga8270)が視線の集まりを感じる。
「まだまだ追いつかねぇなと‥‥別に体型で好きになってもらったわけじゃねぇんですが、気になるじゃねぇですか」
シーヴ・フェルセン(
ga5638)が悠季に向けていた視線を戻し、自分の胸を少し触りだした。
「成長はしていないけど‥‥悠季さんが未成年というのがグサッとくる」
22歳の相澤 真夜(
gb8203)としては一部の成長は気になるらしい。
「胸なんて大きくても疲れるわよ。浴衣を着るときも苦しくて大変だったわ」
悠季の次くらい立派なものをもっているサーシャ・ヴァレンシア(
ga6139)は持っているなりの悩みをぶちまけた。
「あんまり成長してないの‥‥ともかく、今日は忙しかったからゆっくりお風呂にはいるの」
乙(
ga8272)も胸を触るが、まだまだ発展途上、成長はこれからである。
山戸・沖那(gz0217)に急に呼び出されて来たので汗だくだった。
檜の香りが体の疲れと共に心の疲れも癒してくれる。
「今日はウサギさんのお祭りみたいですけど、バニー服を着るのが本当と聞いてますけど変わったお祭りですよね」
胸の話がひと段落したときエレナがこの依頼の本題(?)を持ってきた。
「ウサギな祭りですから、それでいいですよ! むしろ、可愛いは正義です!」
沈んでいた真夜がエレナのバニーガール姿を想像してか、拳を強く握って復活する。
「ちげぇと思うですよ‥‥多分‥‥違って欲しいです」
静かに突っ込みを入れるも、絶対に違うとは言い切れないシーヴであった。
●宴の楽しみ方いろいろ
「うさぎと祭り! 月に酒! そして全裸! 最高の祭りじゃないっ! 最高の祭りだねぃ! ぱぱさんや!」
「いやっはっはっはっ、全裸は余計だぞ客人っ!」
湯上りに一杯やっているゼンラー(
gb8572)は清康に投げられながらも豪快に笑っていた。
座敷には色とりどりの料理が並べられ、風呂から上がった面々が好き好きに食べている。
「今日は、誘ってくれてありがとうございます。誕生日プレゼントもありがとうございます。浴衣に合ったサンダル欲しかったんですよ」
「い‥‥いえ、こちらこそ急に誘ったのに一緒にきてもらえたので嬉しいですよ」
冴木美雲(
gb5758)の眩い笑顔に諌山詠(
gb7651)は照れながら答えた。
本当はちゃんとした誕生日プレゼントもあるのだが、喜ぶ美雲を見ると違うともいいづらい。
「風斗さん、風斗さん。まずはご飯を食べようよ」
「わかったから引っ張らないでくれ‥‥」
静かなところで月見をしようとしていた紅月 風斗(
gb9076)の腕を引っ張り月明里 光輝(
gb8936)が座敷に上がりこんだ。
「騒がしいけれど‥‥いいものです」
さまざまなスタイルで宴席を楽しんでいる人々を見てユウ・ナイトレイン(
gb8963)は微笑む。
「オレンジジュースでも飲むか?」
ゆったりしているユウに沖那が声をかけてきた。
手には瓶を持っていて酌をする態勢である。
「もらいますよ」
「ここの人らはこういう騒ぐのが好きだから静かにしたいなら場所を変えた方がいいぜ?」
沖那はジュースを注ぐとユウの隣に座った。
「人見知りしますけど、雰囲気は嫌いではないです。料理も美味しいですしね」
「本当に美味いよな。以前はここで暮らしていたからこの味に慣れすぎて今じゃ他の料理が味気なくてしかたない」
背丈が低く年上なユウと背丈は高いが年下な沖那は取り留めの無い話を続けだす。
「ん、月が出てきたようだな。餅つきの準備を始めるぞ! 手伝うものは私についてくるがいい」
ゼンラーと共に語り合っていた清康は夜空に光る月を見ると庭に下りて能力者達を先導しはじめるのだった。
●台所は女の戦場
「失礼。お邪魔して宜しいでしょうか?」
シュブニグラスは一言挨拶をした後に料理を作り続けている女の戦場へと足を運ぶ。
「これはこれはシュブニグラス殿ではあるまいか。尼丹生祭以来ではないかな?」
入ってきたシュブニグラスに白川仁宇は手を止め、古風なしゃべりで出迎えた。
「お久しぶりね、白川さん」
すすすと流れる動きでシュブニグラスは仁宇へ近づき、磨理那に出来ない分たっぷりと抱きしめる。
「うむふむ‥‥味付けはこういう風にするんですか」
磨理那母の傍ではエレナが煮魚の作り方をじっくりと眺めてはメモを取っていた。
普段料理をしないので、ここぞとばかりに勉強したいらしい。
「餅つきに移ったようですし、少しは消費ペースが落ちますかね? 月見団子のほうを用意していきましょうか」
料理作りの手伝いをしていた黎紀は空いた皿を提げつつ主である磨理那母に尋ねた。
磨理那母は顎に指を当てながら天井を見上げて考えた後に両手で丸を作る。
「餅もいいけれど、月見団子を欲しがる人はいそうね。ああ、餅つきしているならお醤油とかきな粉とか大根おろしも必要かしらね?」
シュブニグラスはこれからの予定も考えつつ手伝えることを模索した。
「うむ、餡子も必要だな。タッパに分けて持っていかねばなるまい」
シュブニグラスに解放された仁宇もばたばたと料理の手を止めて餅につけるものの用意を始める。
「月見酒があるから‥‥先にツマミもいくつか作って‥‥おくか?」
磨理那に好評だった兎饅頭を材料があるだけ用意して蒸していた暁恒がシュブニグラスに目を向けた。
「今出ているのは皆でいけるものだから、もっと日本酒に合いそうなのは欲しいところね‥‥それでどうかしら?」
シュブニグラスが磨理那母に意見を求めるとOKサインを磨理那母は返す。
「ところで白川さん。磨理那さんのお母様は何で一言も話さないのかしら?」
「仁宇も母殿の声を聞いたことはない。その件を直接本人に聞こうとしたこともあるが、ものすごい笑顔で返されて聞くことができなかった」
さすがに気になったシュブニグラスが仁宇を引き寄せながら聞くと仁宇は小さな声で答えた。
「何を作ればいいかちょっとわかりませんが教えてもらえれば何でも作りますよっ! 気合だけは負けません!」
「いい心がけですね。私も教えますから一緒にがんばりましょう♪」
出来ないながらも気合をいれるエレナに黎紀は手を握って応援をする。
「‥‥男がいるとなんか邪魔なようだな‥‥ちょっと山戸と遊んでくるな」
結束を固めだした女性陣に気圧された暁恒は台所を後にしたのだった。
●甘い? ひと時
「月を見上げて飲む一杯って気持ちいいのよね。沖那〜もう一杯」
「飲みすぎないようにするんじゃなかったのかよ‥‥」
縁側に座り餅つきの様子を見ながらサーシャは頬を赤らめながら沖那にもたれかかる。
色気というものはなく、明らかに酔っていた。
「脱ぎだしていないから、まだいけるわよ」
「行くなっ!」
容赦無い沖那のツッコミが飛ぶ。
「しょうがないわ、団子食べて我慢してあげる。沖那も団子食べる? 食べさせてあげるから口開けなさいよ」
「何でだ‥‥むごむご」
恥ずかしいのか断ろうとした沖那の口に月見団子が投げ込まれていく。
「おっきー、カンパネラで彼女見つけていたんだネ。隅に置けないなぁ、このこの」
口に団子を詰め込まれて苦しむ沖那に近づいたラウルはひじで小突いて追い討ちをかけた。
「べ、別にボクは沖那とは何もないわよっ! 小隊の上司よ、上司!」
「小隊かぁ、大規模作戦もあるからお互い忙しくなるよねー」
「んぐっ! 俺を殺す気か! 普通に助けろよ!」
「はっはっはっ、気にしちゃいけないぞー。じゃあ、元気になったところで、餅つきにいこうよ。餅つきスリリングなものだって聞いているから駆け引きガンバロー」
「いや、違うし‥‥それ餅つき違うし!」
サーシャが照れている間にラウルは沖那を連れ出し、清康達がやっている餅つきに参加してくる。
「沖那も捨て置けぬの‥‥仲の良い連れ合いがいるではないか」
人の少なくなった座敷では風呂上りで半纏を纏った磨理那が遅めの食事を取っていた。
「あれは仲がいいとはいわねぇ気がするです‥‥魚の食べ方はそうやるですか」
磨理那に小さく突っ込みを入れたシーヴだったが、勉強をしたい箸の動きにぐぐっと力を込めて見始める。
「小骨の取り方は余り気にしなくてもよいのじゃ。後でおしぼりで手を綺麗に拭けばまなー違反ではないのじゃ」
魚の身を箸で細かく刻むようにして解した磨理那は背骨と小骨を箸と手で取り外してから下背にある肉をつまみ出した。
「箸を必ず使わなくてもいいんですか。勉強になるです」
磨理那の説明を聞き、シーヴはメモ取る。
「しーぶも妾のを見ずに食べるとよいのじゃ。茶碗蒸しであれば匙で食べやすいぞよ?」
「茶碗蒸し‥‥プティングみたいな奴だったですね」
シーヴが運ばれてきた茶碗蒸しに手をつけて食べ始めた。
卵の程よい柔らかさの中に鶏肉などの具が入っていて美味しい。
「後で仁宇からレシピもらいたいですね」
気に入った味に出会った喜びと共にそれをここには居ない恋人に伝えたいとシーヴは思うのだった。
●つきあかりにてらされて
「満月じゃないけど、やっぱり月って綺麗だと思うんだ」
三日月を見上げて光輝は隣で酒を飲んでいる風斗に笑いかける。
「月が綺麗だといいながらも、俺の金団を摘むのはどうなんだ?」
暁恒に貰った兎饅頭と共に持ってきた金団だったが、風斗の持ってきた金団は半分ほど光輝のおなかに収まっていた。
二人がいるのは磨理那の屋敷の裏手にある星の見える丘。
月と共に星が綺麗であり、プラネタリウムのような光景が目の前に広がっていた。
「だって、私の分はもう食べちゃったんだもん」
「仕方ないな‥‥変わりに一つ頼みを聞いてくれるか?」
満面の笑みで返す光輝に風斗は苦笑を少し浮かべながら交渉を試みる。
「いいよ? 何をすればいいのかな?」
「ここで‥‥踊ってくれないか?」
「皆で踊った方が良いと思うけど、踊りは教えてもらったからリハーサルがてらに踊ってあげるよ」
あっさりと了承されて、少し肩透かしを食らった風斗だったが光輝がウサ耳を揺らしながら腰を振って踊る姿に酒が進んだ。
月明かりに照らされて光る黒髪が小柄な光輝を大人っぽくみせる。
「可愛かったよ、ありがとう」
「へへん、この下に隠し玉があるけど‥‥それは一緒に踊るときようだよ」
踊り終わった光輝を風斗が労うと光輝は得意そうに答えた。
「楽しみにしておく」
踊っている最中に浴衣の裾からちらちらと覗いていたバニースーツを見ていた風斗だったが、あえて言わない。
二人はしばらく月を眺めてお茶と酒を楽しむ‥‥この場所がいくつもの恋人を結んだ場所であるとは知らずにただただ過ごしたのだった。
●ウサギで餅つき
「様子を見にきたらなんでウサ耳を‥‥まあ良いか割り切ろう」
悠季は磨理那母より渡されたウサ耳を頭につけて餅つきをしている庭を浴衣姿で歩く。
「ウサギと言えばこの私! バニーガールとして働いた経験が伊達では無い事をお見せ致しますわ!!」
ウサ耳をつけるだけの祭りだったはずだが、ジュリエットは紺色のバニースーツに白のカフスタイ、オーバーニーソックスを履いていた。
戦闘力の足りないと自負する胸を張ると縦ロールの前髪が元気に揺れる。
「折角ですから一緒にお餅つきましょうよ〜ぺったんこ〜ぺったんこ〜」
「その掛け声に参加してしまいますと、何か余計に負けた気がしますわ」
バニースーツにウサ耳姿で軽快に餅をつくエレナに誘われるが、ジュリエットは掛け声が気になりどうにも動けなかった。
「ウサ耳姿皆似合うの‥‥パパさんも」
『いや、あのパパサンのはどうかと思うよ‥‥』
エレナと餅つきをしている乙は背中に赤ん坊を背負うように癸を背負っている。
癸がいうように清康も先ほどまで上半身を裸にし、ゼンラーと共に餅をついていた。
屈強な男二人がウサ耳を頭につけて餅をつく姿は‥‥なんともいえない姿である。
「私はつけませんよ、愛でる方です!」
餅つきをしている中、真夜がウサ耳をつけられるかどうかの攻防戦の末に勇気ある撤退をしてきた。
「似合うからつければいいのに‥‥」
「そうですよ、いっそうのことバニースーツも着ちゃいましょ〜♪ そ〜れ、ぺったんぺったん」
「そうよ、可愛い子はウサ耳を付ければいいのよ」
折角逃げてきた真夜をウサ耳包囲網が作られだす。
「皆さん、盛り上がっていますね‥‥浴衣とバニースーツが入り混じる現場ってすごいです」
「楽しいからいいでしょう」
つきたての餅を味わい、美雲と詠は喧騒を楽しんでいた。
(「この人なら彼氏もありえるかな? けど、私からいうのも恥ずかしいし」)
「俺の顔に何かついています?」
「な、なんでもないですよ。ちょっと見とれていたとか‥‥やっ、何いってるんでしょうか私は‥‥」
心を見透かされたわけでもないのに美雲は思わず頬を押さえて照れる。
熱くなった頬を夜風が冷ますようにふき始め、美雲をクールダウンさせた。
「くしゅんっ、少し冷えてきましたかね?」
「中に上がっていましょうか、風邪をひいては大変ですし、ね」
くしゃみをする美雲へ詠はダウンジャケットを上から着せて座敷の方へと寄り添っていくのだった。
●男二人、酒を傾け‥‥
「この乱世、仮にも京都市民の命を預かる男がそれでいいのか? 娘の風邪でこの有様ならば有事の際はどうするんだ?」
「そのときは磨理那が一人で考え、動くだろう。病と有事を同じにしてはならない」
清康の部屋ともいえる離れで、つーと清康は静かに酒を傾けながら話をしている。
「命を預かるのはこれから磨理那がやっていかねばならないことだ。私もいつなにがおきて市政に影響がでるかわからないのだ。そのために磨理那には知識とそして人脈を作るように教育をしている」
盃に注がれた酒を飲みながら清康は落ち着いた雰囲気でつーを眺めた。
「世間体を保持しながらも磨理那さんを守るための許婚ではないのか?」
「能力者のお前たちに比べれば力では守れないだろうが‥‥京都で常に傍にいてやれるものが必要だ。精神的な守りだな」
つーが酒を飲み干すと空いた盃に清康は次の酒を注ぐ。
「本来、私達両親がもっと傍にいてやるべきなのだがな‥‥両親というものは甘やかしたくもなるものだ。加減が難しい」
苦笑をもらす清康の顔は武道家とも破天荒な父親とも違う顔をしていた。
「なるほどな‥‥こちらが考えている以上の男のようだ」
「不安がないわけではない‥‥お前のような虫がつき始めることだ」
「その不安はさすがに取り払うわけにはいかないな‥‥割と本気だからな」
清康の威嚇するような視線を平然と受け流し、つーは清康の盃に酒を注ぐ。
二人の男が気にする女に向けて乾杯。
●気疲れしない関係
「日本人よか‥‥様になってんな‥‥大したモンだ‥‥」
「急に何をいいだすの? 可笑しなことをいうわね」
和服ブランド【雅】の『浴衣「絣」』を着こなしたシュブニグラスを暁恒は褒める。
黒髪を優美に揺らす彼女に和の美をあらわす浴衣は様になっていた。
「いや‥‥あれだ‥‥こうして、ゆっくり話すことなんてないから‥‥な」
とある雑誌編集者の関係で知り合った二人であり、その人物の周りでは常に笑いが絶えなく楽しい時間が流れる。
故にここに来て静かに飲んでいるというのは何かこそばゆい恥ずかしさのようなものを暁恒は感じていた。
「そうね、気疲れしないからこういう楽しみ方もありね」
周囲で飲んだり食べたりしているものもいるが、それでも盛大なものではなく小さな纏まりで静かに過ごしている。
シュブニグラスとしても一線引いて過ごせる暁恒のことを貴重な存在だと思っていた。
(「綺麗‥‥だな。かぐや姫ってな、こんな感じだったんかもな‥‥」)
静かに日本酒を飲むシュブニグラスに暁恒はガラにも無いことを考え、すぐに頭を振る。
「たまにはお酌しましょうか?」
暁恒の行動をクスリと笑ったシュブニグラスが日本酒の瓶を傾けて酒を注いだ。
「この一杯で俺は限界だ‥‥」
「わかっているわよ、だからお酌したかったのよ」
「返杯だった‥‥か? させてもらうぜ」
同じ瓶を傾けてシュブニグラスの空いた枡へ暁恒は酒を注ぐ。
自分のことをわかってくれる相手に感謝しながらも二人は月を見ながら過ごした。
「そろそろ締めの時間じゃ、皆のもの踊るのじゃ! 踊りは伝授したとおりじゃぞ」
暁恒とシュブニグラスが楽しんでいると、座敷の奥から半纏を着て厚着している磨理那がラジカセを片手に出てくる。
着膨れしている分たどたどしい足取りになっているため、可愛らしい。
「平良さん、今の格好本当に素敵よ。吾平さんカメラを!」
磨理那の姿に先ほどまでのクールさはどこかへすっ飛ばしたシュブニグラスが召使の吾平からカメラを借りて磨理那の姿を撮影しはじめた。
(「こっちの方がらしい‥‥な」)
暁恒は少し寂しく思いながらも可愛いものに夢中になるシュブニグラスもまたいいと感じていた。
●ウッーウッーウサウサ
ラジカセから、一世を風靡したダンスミュージック(?)が流れ、『イェーイェイェイイェー』という外国人の声を合図にウサ耳をつけた男女が踊りだす。
「さぁ、真夜ちゃんもウサ耳をつけて踊るのだ、踊る阿呆に見る阿呆、同じアホならおどらにゃそんそんというからねぃ!」
腰をぷりぷりと振り、浴衣をはだけさせてゼンラーは踊りながら真夜にウサ耳を渡そうと迫る。
頭にはウサ耳もついており、屋敷の敷地内でなければ捕まりそうな姿だ。
「おっきーもつけなきゃダメだぞ♪ ほら、ウッサーウサウサー」
「こうなりゃ、自棄だ! サーシャもやれ!」
「しょ、しょうがないわね‥‥」
ラウルが沖那を引き込み、沖那はサーシャを引き込みと一歩離れてみていた人までも巻き込んで、腰を振りながら頭の上で耳を動かす踊りの輪が広がる。
「磨理那さんはあんまり無茶しないの‥‥ばるさみこーす」
「楽しむ事に関しちゃ遠慮ねぇですね、ウッウーウサウサー」
シーヴと乙は磨理那の両隣にたって、見守りながら踊っていた。
身長150cm台と小柄な二人の間に更に小さい磨理那がそろって踊る姿は微笑ましい。
「うっさ〜うさうさ〜♪」
はじめは恥ずかしがっていたエレナだったが、今ではバニースーツで可愛らしく踊っていた。
「負けませんわよ、ウサッウサー」
同じバニースーツを着ているジュリエットも負けじと踊る。
「私もまぜてよ〜」
浴衣を脱いでバニースーツ姿となった光輝も混ざって踊りだした。
月明かりに照らされながら、輪になって踊る男女達は皆楽しそうな顔をしている。
これから先には大きな戦いが待っているが、それらを乗り越えまたこうして楽しく過ごそうと誰もが思っていた。