タイトル:【北伐】四面楚歌マスター:橘真斗

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/11/05 07:18

●オープニング本文


「攻撃は最大の防御なり。時を逸し、座して死を待つは用兵の愚である」
 UPC東アジア軍中将、椿・治三郎(gz0196)の決断により、極東ロシア開発を脅かすバグア軍新兵器「雷公石」の発射基地を擁する中国東北部のバグア一大拠点・瀋陽攻略作戦は発令された。

 だが瀋陽はそれ自体が重武装要塞都市へと改造された難攻不落の牙城である。これを陥落させるには過去のあらゆる大規模作戦をも上回る困難が伴うであろう。しかも中国内陸部から侵攻するには、北京包囲軍を始め障害となるバグア支配都市が多いため時間がかかりすぎる。
 そのためUPC軍が選んだのは遼東半島経由の北上ルートによる攻略だが、同時に陽動作戦として黒竜江省、吉林省を経由したロシア側からの侵攻も実施される。そのための足がかりとして重要なのが中国東北部の要衝・ハルビンの攻略だ。
 これはまた、中国方面から極東ロシアへの再侵攻を図るバグア軍と正面から激突し、その意図を挫くという重要な戦略目的も兼ねている。

 ハルビン攻撃の主力を担うのは極東ロシア軍だが、そのための侵攻ルートは2つ。
 ウラジオストックから綏芬河市(中露国境の町)で中露国境を越えてハルビンに向かうルートからバグア軍の側面を衝き、アムール川(黒竜江)をさかのぼってハバスロフクで中露国境を越えてハルビンに向かうルートで正面からバグア軍を阻む。
 しかしバグア側もかつて大敗した極東ロシア戦での屈辱を晴らすべく、並々ならぬ決意で挑んでくるであろう。陸空を舞台に激戦が予想される。
 傭兵諸君は遊撃戦力として極東ロシア軍を適宜支援して欲しい。
 
●Redio−Hope
「次の大規模作戦は中国か‥‥」
 報じられたラストホープタイムスの記事を読みながらライディ・王(gz0023)は最近少し濃くなったコーヒーを飲む。
 噂では松花江から北上する作戦もあるという話だ。
「白城のおばあちゃん達‥‥大丈夫かな?」
 ハルビンを目指して進むのなら、確実に通りがかるはずである。
 親戚が住んでいるのでライディはかなり不安になった。
「船とかで一緒にいけないかな。顔を少しでも見られれば気分も落ち着くんだけど」
 よぎる不安に押しつぶされそうになったとき、ラストホープタイムズの隅にあった小さな記事を見つける。
『ボランティア募集。UPC軍と共に戦地に向かって補助をしてくれる人を募集しています』
 これだとライディは思い、すぐに連絡先へ電話をかけるのだった。

●信じているからこそ
『緊急警報、緊急警報。総員第一種戦闘配備へ。民間人の方は避難を開始してください』
 現地のUPC軍の輸送艦にけたたましいサイレンと共に艦内放送が響く。
「敵襲? 何でこんなときに‥‥」
 ボランティアとして便乗していたライディは艦内放送に従い脱出用のボートに乗り込みながら様子を眺めた。
 河川上にはサーペントのようなキメラが3体ほど船を狙ってきている。
 他にも水中にも何かの影が蠢いているが正体まではわからない。
「大丈夫、きっと能力者たちが助けてくれるから‥‥」
 同じように様子を見ていた一般人から不安の声がもれるもライディは彼らを精一杯励ますのだった。

●参加者一覧

常夜ケイ(ga4803
20歳・♀・BM
クラーク・エアハルト(ga4961
31歳・♂・JG
シーヴ・王(ga5638
19歳・♀・AA
井出 一真(ga6977
22歳・♂・AA
守原有希(ga8582
20歳・♂・AA
伊達・正風(ga8681
23歳・♂・PN
アンジェラ・D.S.(gb3967
39歳・♀・JG
イーリス・立花(gb6709
23歳・♀・GD

●リプレイ本文

●協力してくれる人のために
「民間人は脱出ボートへ。救命胴衣の着用も忘れねぇでくれです‥‥ライディ、皆を頼むです」
「わかった‥‥シーヴも気をつけてね?」
 脱出ボートの中で民間人を落ち着かせるように声をかけていたライディは避難を手伝っているシーヴ・フェルセン(ga5638)を案じる。
 自分は何も出来ない立場で、彼女は能力者として戦わなければならないのだ。
「うちらが守りますから、皆さんば心配することなかですよ」
 救命胴衣を着用している守原有希(ga8582)も不安になる民間人へ声をかけて宥める。
『サーペントキメラが真っ直ぐこっちに向かっているわよ。至急甲板まで来て、距離のあるうちに仕留めるわよ』
 二人が避難を手伝っていると双眼鏡を使って甲板から敵の動きを見ていたアンジェラ・ディック(gb3967)からの無線が届いた。
『ワームも動いているみたいです。最終防衛ラインにあたしが着きます』
 水中キットをつけているため動きの悪い常夜・ケイ(ga4803)のウーフーが前方の離れたところへ移動する。
 戦いの準備が整い緊張が走りだした。

●河川攻防戦
「今日もいいこでいてよ」
 コックピットの中でイーリス・立花(gb6709)はビーストソウルのキャノピーを撫でる。
 愛機を信じているため、危険な状況であろうと恐怖を感じてはいなかった。
『何事も無く目的地に着いていれば、二人にとってはちょっとした旅行だったろうに‥‥二人の邪魔をさせるわけにはいかないな』
『‥‥ともかく船を守らないと、接近するサーペントを弱めにいきます』
 クラーク・エアハルト(ga4961)と井出 一真(ga6977)が先陣を切って船に近づくサーペントキメラへ一撃を当てにいく。
 ビーストソウルから対潜ミサイルR3−Oが撃ち出され、それに並走するかのようにアルバトロスが潜行形態でサーペントキメラに近づきながら水中用ガウスガンをばら撒いた。
 蛇のように長い体を持つ3体のサーペントキメラが散らばり、ミサイルを避けるも進路上にいた1体にガウスガンが直撃する。
『ギュァァァ!』
 この世のものとは思えない悲鳴を上げたサーペントキメラにアルバトロスは近づき<強化変型機構>で姿を変え、ツインジャイロによる一撃を食らわせた。
 ギュルンと螺旋に回転する腕がサーペントキメラの鱗を裂いて肉が抉られる。
『こちらも配置についたぜ、沈めさせるかよ!』
 水中で輸送艦へ近づいてくるマンタワームへ伊達・正風(ga8681)は熱源感知型ホーミングミサイルを用意した。
「タイミングあわせ行きますよ」
『OK、ターゲットロック! 発射!』
 イーリスが近くに来た正風と動きをあわせるように多連装魚雷「エキドナ」を発射した。
 視界をミサイルや魚雷が吐き出す気泡によって塞がれる。
 ゴボゴボと音の立つ中で、マンターワームの爆発する音が響いた。
「まずは一機ね、この調子でなるべく遠くで敵を叩きましょう」
 撃墜を確認したイーリスはビーストソウルのキャノピーを撫でて戦場の確認に向かう。
 水中用ガウスガンを構え、河底から近づく影に向かって撃ち始めた。

●目の前の敵を討て
『サーペントキメラが以前接近中ですよ』
 水上から身を乗り出したケイのウーフーがスナイパーライフルD−02を撃って正面の弱ったサーペントキメラへ攻撃を当てる。
 水中に慣れていない機体での戦闘のため、相手の進行を防ぐには厳しい状況だった。
「コールサイン『Dame Angel』、KV側と協力して輸送艦の安全確保を担うわよ」
 左右に散らばりながら輸送艦を左右から挟みこむように動いてくるサーペントキメラに対してアンジェラが甲板にすえつけたアンチシペイターライフルを撃つ前に照明銃での撹乱を試みる。
 波を立て、水上から出ているだけでもKVを越えるサイズのサーペントキメラが突然来た光に驚くと共に鉛弾を受けて暴れた。
「的の小せぇ目より、とにかく当てて行くです」
 いつもの大剣コンユンクシオではなく、魔創の弓を構えたシーヴがアンジェラが戦っているサーペントキメラに向かって援護射撃をする。
 音も無く放たれた三本の矢がサーペントキメラに突き刺さるとキメラは激しく体を揺らした。
「さすがベテランね」
「もうちょっとで沈むと思うんで、こっちは任せるです」
 アンジェラが鮮やかなシーヴの手並みを褒めるが、シーヴはすぐさまもう一方のキメラの相手に向かう。
 同族である2体が攻撃を受けているのに怒りを感じたのか残りの一体は一気に輸送艦へ水中に潜りながら近づき体当たりを仕掛けた。
 激しい波と衝撃が輸送艦を揺さぶり、乗務員達が足元を取られる。
「向こうも本気で着ているとですな‥‥ばってん、全てをぶつけて相手をするだけと!」
 蛍火と蝉時雨を抜き、水中からぬぅっと出てきたサーペントキメラの頭に守原は斬りかかった。
 援護をするように搭乗していたUPC軍人達もおのおのアサルトライフルや設置された機銃を使ってキメラに対抗しだす。
 両手の爪を発光させた守原は鎌首をもたげて攻めるキメラの攻撃を力点などを見極めた上で弾いた。
 腕に来る重さをものともせずに追い討ちと蝉時雨を横に滑らせて初手の傷口を深く狙う。
 痛みを受けて仰け反ったサーペントキメラにウーフーからの鋭い弾丸がぶつかり一度、水中へと沈んだ。
『あたし良くやりましたよ。船の向きを変えてください。距離を詰められたままでは被害がでてしまいます』
 ウーフーの持つ索敵能力の全てを駆使して敵の接近を探っていたケイが進路の変更を進言してくる。
「こっちは完全に沈黙したわ」
 <強弾撃>を使い全力で持って守原とは反対側に回っていたキメラを潰したアンジェラが様子を確認しにきた。
「こちらも‥‥おわっ!?」
 ゴガンという鈍い音共に輸送艦が揺れる。
 船底に隠れて攻撃を仕掛けているのだ。
「船底にキメラがいるとす。ケイさんお頼み願います」
『あたしが何とかしてみます。皆さんは民間人の避難をお願いします』
 水上に身を乗り出していたケイのウーフーが水中に潜り、文字通りの水面下の攻防が始まる。
「浮き上がって来たときのためにシーヴは待機しておくですから、二人は避難誘導のほうを頼むです」
 シーヴは守原とアンジェラに頼むとショットガン20に得物を持ち替えて走りだすのだった。
 
●獣の魂
「愛する嫁さんを残して、死ねるかよっ!!」
 正風が己の闘志をたぎらせて、高分子レーザークローでマンタワームを斬り裂く。
 ビーストソウルの特殊能力<サーベイジ>を使いマンタワームからの体当たりなどをものともせずに防ぎながらカウンターで攻撃を当てていった。
『ナイスな戦いですね。まさに獣の魂[ビーストソウル]です』
 僚機でもあるイーリスも高分子レーザークローで弱ったワームの処理に協力する。
 散発的やってくるマンタワームに構っているため、輸送艦のサーペントキメラがどうなっているかいささか不安にもなった。
「輸送艦の方が心配ですが、敵機がいるかぎり戦線を下げるわけにはいかないな」
『音が聞こえる‥‥井出さんのほうに大物が近づいてきていますよ』
 海の近くで漁をしていたというイーリスが静かな海に流れる音紋を捕らえて味方へ声をあげる。
『了解、こちらが急行します』
 井出とクラークがマンタワームと戦いながら、イーリスの指示した方面への警戒を強めた。

「発見しました、メガロワームが2機‥‥いや、2体なのか?」
 潜行形態で進む井出の前に大きなサメの姿をしたキメラ―メガロワーム―が大きな口をあけて突撃を仕掛けてくる。
『先ほど同じように援護をします。まずは一機ずつしとめましょう』
 クラークのビーストソウルが水中用ガウスガンをばら撒き、メガロワームの輸送艦への接近を阻んだ。
「了解、アルバトロスの水中マニューバを見せてやりますよ」
 突撃してくるメガロワームに同じように接近したアルバトロスが大きな口で噛みつかれる瞬間に変形をしツインジャイロの水流を使って侵攻を防ぐ。
「SESフルドライブ。スクリュードライバァァァ!」
 口を開けさせたままに固定するともに姿勢制御をしたアルバトロスが巨大なマイナスドライバーを構え、突撃すると共にメガロワームを内側から突き破った。
 突きぬけ、背後で爆発するメガロワームを確認するとアルバトロスは再び潜行形態に戻る。
『鮮やかな手並みでしたね。こちらも少しは活躍しませんといけませんか』
 井出のアルバトロスの鮮やかとも言える動きに関心したクラークだったが、負けてられないとビーストソウルを動かした。
 水中用ガウスガンを使いやすい人型形態で腰だめに構え、迫り来るメガロワームに向けて蜂の巣にしようと撃ちつづける。
 ポイントを的確に捉えた射撃がメガロワームに叩き込まれて動きを抑えた。
『マンタワームはあらかた片付けたので援護に来ました』
『魚を獲るのは鱗が見えるところまで近づいて銛で突くんですよ』
 マンタワームを片付けてきた正風とイーリスがクラーク達の方へガウスガンを撃ちながら援軍にくる。
『最後の大物狩りといきましょう』
 クラークは助けに来た味方に心励まされながらメガロワームとの最後の戦いを続けた。
 
●終結‥‥そして
 ワームとの戦いを終え、輸送艦の損傷も沈没するほどではなかったが修理のために一度、白城市の港で修理と補給をすることになった。
「落ち着いて手当てできる環境になって助かるわ」
 救急セットを使い、船体が揺れたときに負傷した一般人の手当てをしながらアンジェラは停泊にほっとする。
「ライディさんも一度降りるんですか?」
「はい、ここが母方の実家ですし‥‥今回の戦闘が続く可能性もあるのいで、従軍ボランティアはここで降りて移動艇で帰る形みたいです」
 荷物を整えたライディは尋ねてきたクラークへ答えた。
 UPC軍が優勢であっても戦闘地域である限り、人手が足りないことに変わりはない。
「ここがライディの故郷でありやがるですか‥‥」
 艦の上から眺める光景にシーヴが少しばかり感動の篭った声を上げた。
『北京にはレジスタンスを鼓舞するCDを投下しましたけど、今回はここでもケイちゃん歌わせてもらいますよ』
 目の前に広がっている町並みと、そこに息づく人々を感じたケイはウーフーで港へ上がると、そのまま歌を歌いはじめる。
 
 ♪時空(とき)を巡れ宴(うた)え、銀河を杯にして
 ♪遥か未来で胡蝶遊べば、眠れる獅子目覚める
 ♪敵の攻める智略如何様
 ♪辛酸の苦杯重ねても獅子は不死身
 ♪ウィーアサバイバー
 ♪サバイヴァー
 ♪イッツソーサヴァイバリティ(リバティ)
 ♪因果律に抗う希望の光、二人の瞳つらぬく
 ♪まだ負けないよ、絶望の壁を、人間(ひと)の認識(おもい)が穿つ〜
 ♪必殺の歯牙、咆哮枯れるまで
 ♪獅子は覚醒続ける〜
 
 中国の象徴である獅子を取り入れた歌を歌うと港に集まってきた子供達がウーフーの傍まで集まってきた。
『せっかくですからお披露目をしていきましょうか』
『その話のった』
 ケイのウーフーに続き、井出のアルバトロスや正風のビーストソウルが陸地へ姿を見せていく。
 KVは戦争の兵器ではあるが、子供達にとってはヒーローと変わらなかった。
 瞳は輝き、希望に溢れている。
「まだ、希望が失われていないのであればきっとこの町も復帰しますね」
 戦闘も落ち着き、長崎弁の抜けた守原が集まる子供達を艦の上から眺めながら呟いた。
「そうなるといいですね、それじゃあ仕事してきます。また、後日会いましょう‥‥シーヴも守原さんもご無事で」
 ライディは乗員の能力者達に頭を下げると船を降りていく。
「その前に美味しいお店紹介してくださいよ」
「えっと、こちらが母方の実家がやっているお店です。帰りに寄れたらよってくださいね」
 白城市にある料理店の住所をライディはクラークに渡すとそのほかのボランティアと共に艦を降りるのだった。