タイトル:ヨミカラノシシャマスター:橘真斗

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/01/13 04:34

●オープニング本文


 年の瀬が迫り、準備追われる日々がラストホープで行なわれていた。
 だが、そんなことはバグアの襲撃になんら影響はない。
 日本の中国地方などは、名古屋における大規模作戦の影響で戦線が動いていた。
 クリスマスも、大晦日もない。
 あるのは戦いと恐怖。
 
 そして、バグアの新たな恐怖が舞い降りた。

「っぁはぁ‥‥はぁ‥‥!」
 俺は逃げていた。
 なぜいや、俺たちといった方が正しい。
 街の男たちを狙い、体が腐敗した女が追いかけてくる。
「くそっ、何なんだよっ!」
 誰に対してかわからない怒りをぶつけて、岩陰に身を何とか隠す。
 腐食した女の姿は、この近辺では有名な伝承。
 黄泉比良坂(よもつひらさか)に住まいし醜女(しこめ)だ。
「キメラが伝説のものなのが多いってのは聞いたことあるが、あんなのありかよ‥‥」
 岩陰から、顔を出し様子をみる。
 歴史の教科書にのっている大和時代の女性の格好をした醜女(しこめ)達は口から黒い息をはき、男たちを行動不能にさせて捕らえていく。
「一体なにを‥‥」
 俺が身を乗り出すと、一体の醜女と眼があった。
 死んでいるようなやつの目は黒く、そこからウジがわいているのが見える。
「やべっ!」
 急いで洞窟から抜け出し、俺はかけた。
「誰か、助けてくれっ!」
 空に向かってとにかく叫ぶ。
 できることはそれだけだった。
 
 UPC本部に依頼がでたのはそんな時だった。
 内容は『街の男子が山奥へ連れて行かれているので、彼らを救い出して欲しい』というものだった‥‥。

●参加者一覧

リディス(ga0022
28歳・♀・PN
花=シルエイト(ga0053
17歳・♀・PN
エミール・ゲイジ(ga0181
20歳・♂・SN
伊佐美 希明(ga0214
21歳・♀・JG
江崎里香(ga0315
16歳・♀・SN
佐嶋 真樹(ga0351
22歳・♀・AA
漸 王零(ga2930
20歳・♂・AA
不破 梓(ga3236
28歳・♀・PN

●リプレイ本文

●備えること戦いの常なり
 不破 梓(ga3236)は出発前に本部の医療担当へ話をつけていた。
 山の奥地へ捕らえられているとなれば、肉体的精神的衛生に良くは無い。
「山の中だからな、衛生的な環境は期待できんだろう。現地の病院に連絡するでもいい、そちらで頼めないか?」
「了解しました。現地のUPC軍の医療班にも連絡をつけておきます」
 梓の頼みを医療担当員は了承をした。
「すまない。しかし、この話を通したことがいい方向に転ぶかもしれない。そんな気がするよ」
 梓は意味深な笑みを浮かべて、仲間の下へと戻っていった。

●男(おのこ)を救う武士(もののふ)来たり
「ぜぇ‥‥はぁ‥‥はぁ」
 少年は息も絶え絶えになりながら、走っていた。
 醜女との追いかけっこはなおも続いている。
「ちくしょう、何て‥‥しつこいんだ‥‥よ」
 少年は足の痺れに耐え切れず、こけてしまう。
 背後からは醜女がやってきて、ゆっくりと顔を寄せくる。
 くさい匂いが鼻から入り、内臓をすべて吐き出したくなる気分を味わった。
『アア、イザナギ‥‥ミツケタ』
 醜女の声はくぐもって聞き取りづらいが、少年にはそう聞こえた。
「こちらも‥‥見つけた」
 別の方向から、声が聞こえ少年はそちらを振り向く。
 飛ぶようにきたのは佐嶋 真樹(ga0351)だ。
『オンナ、タブラカ‥‥ス!』
 真樹から女性独特の匂いを察知したのか、醜女の黒い瞳がさらに黒くなった。
 口から黒い息を吐く。
「ちっ!」
「う‥‥な、なんだ‥‥よ」
 真樹は口を塞ぐも、その息は全身をしびれされる。
 だが、気力を振るって体を動かした。
 後ろの少年は気を失っているため、逃げるしかなかい。
「この場は引く‥‥。次を覚えていろ」
 体当たりを当てて醜女を倒すと、真樹は少年を担いで逃げ出した。
 
●家族とは血がなすものか思ひ(おもい)がなすものか
「相手は、黄泉醜女か。それはまた、おもしろい敵だな。狩りがいがありそうだ」
 漸 王零(ga2930)は依頼の地へ足を踏み出すと、笑みをこらえて呟いた。
「油断は禁物ですよ。報告を聞く限り、奇妙な攻撃をしているようですからね」
 リディス(ga0022)は少し苦笑し、王零に布製のマスクを渡した。
 都合でガスマスクは支給されなかったのだから仕方が無い。
「引っかかるような囮をやってこよう、芝居は苦手だがな」
 王零は残ったメンバーに振り向きながら一言伝え、走りだした。
 その後を2人の能力者が追う。
「いってらっしゃーい‥‥あれ、そういえば佐鳴さんは?」
 月森 花(ga0053)は王零を見届けると、その場にいない佐鳴 真樹のことを探し出す。
「そういえば、いませんね‥‥」
 リディスも周囲を探すが、彼女の姿は無い。
 そんなときだ、一組の老夫婦が能力者の前に現れた。
「おや、暇になるとおもったら客人か?」
 準備を終えて、一休みでもしようかと思ったエミール・ゲイジ(ga0181)が夫婦の存在に気づき出てくる。
「能力者の方ですよね? 個別に依頼をするのも失礼かと思うのですが、息子を探していただけませんか?」
 妻のほうが腰を低くしながらたずねてくる。
「ボクは能力者の花です。えっと、息子さんが‥‥どうかされたんですか?」
 花は言葉を選びつつ、母親に向かって言葉を返した。
「ええ、連れ去られたって話は聞いていないのですが、森に行ったまま帰ってこなくて」
 妻がおろおろとした様子で訴えてくる。
 夫のほうは妻を抱いて落ち着かせた。
「朝からいないのです。年は12、3歳くらいで‥‥」
「えっと、失礼ですけど、お孫さんではなく?」
 リディスはその息子について、不安になり聞き返した。
「さる人から預かった子でして、本当の子供や孫は私達の元にはいないので大切な息子なのです」
 妻はそう答えた。
 血はつながっていなくても結ばれている絆。
 そうして家族を作り上げている人がここに『も』いた。
 花とエミールは老夫婦の言葉をじっと聞き入る。
 そのとき、追跡に出て行った能力者から連絡がきた。
 どこかに連れて行かれたことを指している。
「第一段階は成功ね。私達も行きましょう」
 リディスの一言にエミールと花も頷いた。
「息子さんは必ず助けるね。名前、教えてもらっていいですか?」
 花は老夫婦に向かってたずねる。
「息子の名前は沖那といいます。『山戸・沖那(ヤマト・オキナ)』が息子の名前です」
 
●追う女(おなこ)たどり着きしは黄泉(よもつ)の穴
「それにしても、敵の目的はなんなのかしらね?」
 江崎里香(ga0315)は距離をあけながら、また王零を連れて行く醜女を見失わないようについていった。
 そのあとを伊佐美 希明(ga0214)も追う。
「どうなんだろうな? 子供をつくるって訳でもないだろうし」
 追跡をしながら、疑問を隠せない。
 キメラは無差別に人を殺す。
 伊佐美の家族もそういう目にあってきた‥‥。
「どちらにしても、無事助け出さないとね」
 ゆっくりと近づいていくと、後ろから全力疾走をしてくる足音が聞こえてきた。
 二人は身を隠し、息を潜めて足音のするほうをみる。
 そちらでは、真樹がヨモツシコメから逃げていた。
 背中に少年を背負っているため、いつに無く真樹の顔は疲労の色が強い。
「どうする?」
 茂みに隠れて江崎は伊佐美に尋ねた。
「私がのどに向かって一発撃つ。その間に真樹を私が回収で里香は先に追跡してて」
「了解、誘導のほう頼むわよ」
 江崎はタイミングを見図りつつ、伊佐美に返した。
 伊佐美は弓を引き、タイミングをとる。
 目標が近づき、鏃に重なりだす。
「‥‥射法八節、正射必中ッ!」
 シュュンッと飛んだ弓は醜女の喉を貫いた。
『ヒギャァァァァ!!』
 ヨモツシコメがこの世のものとは思えない声を上げて、後ろに倒れた。
 そのタイミングで里香は王零を追いかけだす。
「真樹! こっちにこいっ! はやくっ!」
「伊佐美‥‥すまない」
 茂みから立ち上がり、手を振る伊佐美のほうへ真樹は飛びこんだ。
「背負っている荷物はなんなんだ?」
 すぐに、身を隠しゆっくりとその場を離れる。
 そのとき、伊佐美は真樹が背負っている少年に目がいった。
 気を失っているようで動かない。
「探している間に遭遇した‥‥」
 真樹は少年を顎でさして言う。
「このままおいていくわけにもいかないなぁ、仕方ない‥‥荷物になるけどつれていくか。あいつもすぐ追ってくるからな、少しくらいかわるよ」
 伊佐美は真樹から少年を受け取り、移動を開始した。
 そして、洞窟へとたどり着く。
「居場所を発見したわ、場所は‥‥」
 江崎が待機しているメンバーへ連絡を行った。
 伊佐美と真樹は醜女の入っていった穴を警戒している。
 その穴は、まるであの世への入り口と見間違えるほどの、暗く深い穴だった。

 
●童子(どうじ)と醜女(しこめ)が争う光景は下にも地獄絵図なり
 王零は意識を保ちながら、醜女に気づかれないようじっとしていた。
 薄暗い洞窟内で視力が回復するのを待つ。
(「一体、何をしようというのだ?」)
 ゆっくりと右の瞼をあげ、周囲を見渡す。
 木で作られた牢獄に多くの男達が囚われていた。
 くらくて表情まではわからないが、あまり動かないところを見れば衰弱して動けないか、気を失っているかである。
 最悪の場合、ここで死んでいる可能性もある。
(「牢獄に入れられる前に動くか‥‥」)
 王零から醜女が離れていく。
 ある程度距離をとったのをみると、王零は音も無く立ち上がった。
 黒い髪が見るみる白銀に変わり、左目を開く。
「狂いの仮面よ‥‥今ここに」
 どこから出したのか、仮面をだしてその面を掛けた。
 仮面の表情は鬼そのものだった。
 王零の闘争を楽しむ心が、その表情を生み出したのかもしれない。
「ふふふ。さぁ、我を恐れ死んでゆけぇぇぇぇ!」
 面を掛けた王零から放たれた声は、落ち着いたものではなく。
 純粋に戦いを求める声だ。
 醜女がその声に反応しくるりと振り向く。
「おそぉぉいっ!」
 王零は近づき、抜刀した蛍火を振り向いた醜女の顔に斬りつけた。
 ぐしゃりという音がし、蛍火はめり込む。
 じゅるじゅると黒い液体がたれ、蛍火の光を食っていく。
「ちっ!」
 そして抜く間もなく黒い息が王零に浴びせられた。
 しかし、王零は転がるように離れて交わす。
 蛍火を手放してしまうが、食らうよりは幾分ましであった。
「味なことをぉ!」
 王零が吼え、醜女に襲いかかる。
「目標補足、暗視スコープの精度良好。誤差0.0001%アンダー」
 そのとき、入り口から江崎が銃弾をばら撒いた。
 暗視スコープをつけ、無機質な声をだす江崎の姿は、戦闘機械といっても過言ではない。
 王零の蛍火がくくりつけられた醜女の頭が江崎の銃弾の雨によって消し飛んだ。
 カランと転がる蛍火を王零は拾い上げる。
 戦闘の騒ぎに捕らえられた人々、そして奥にいたのか醜女が二体でてきた。
『オナコガクルカ‥‥ジャマカシヤ、ジャマカシヤ』
 醜女の言葉はどこか古い日本語のようにも聞こえる。
 だが、それが意思をもって言っているのかは定かではない。
 江崎と共に伊佐美、真樹。そして、待機していた能力者達が集う。
「地獄の獄卒と黄泉比良坂の住人が殴りあう‥‥なかなか面白いシチュエーションだ」
 その中でも梓は心底笑いが止まらなかった。
「ウォォォォ!」
 梓は叫んで覚醒した。
 両腕が赤くなり、黒い甲殻に覆われる。
 そして皮膚が隆起し、角のようになっていく。
 その姿は鬼女というにふさわしい。
「引き寄せはするが、倒してもかまわんのだろう?」
 梓は救出に向かう真樹や江崎に対していう。
「可能ならばそのほうが妥当と判断します」
 江崎の言葉はコンピューターのように冷たい。
「ということだ、楽しませてもらおう。黄泉比良坂の住人よ!」
 梓はディガイアを振りかざして醜女に殴りかかった。

●守るべきはいとおしい家族(ひと)
 梓やリディス、花が醜女をひきつけている間に、エミールや江崎、真樹は木の牢獄を壊して、男たちを移動させた。
 男たちはフラフラになっていたが、歩けるようであり救出作業は時間がかかるが順調に進んでいく‥‥かのように見えた。
 男たちを先導していくエミールの目の前に伊佐美の弓が喉に刺さったままの醜女が姿を現した。
 後ろには捕らわれていた男たちがいるので、下がるわけにもいかない。
「くそ、状況がヤバイぜ」
 舌をうつエミールの前に、意外な人物の姿がでてきた。
「エミール兄さん! ここは私が抑えるから!」
 醜女のひっかき攻撃を伊佐美がアーミーナイフで抑える。
 伊佐美は受け止めるのが得意でないため、じりじりと押されていくのがエミールには眼に見えてわかった。
「ったく、かっこわるいところ見せちまったな」
 頭をかいて、エミールは覚醒をする。
 姿は一見して変わらないが、心に強い風が吹いた。
「だが、兄貴としては妹が危険なところを黙って見るわけにもいかねぇよっ!」
 二丁のフォルトゥナ・マヨールーを抜き放ち、装弾数眼一杯の弾丸を醜女に叩き込んだ。
 叩き込まれた醜女は無残にも砕け散る。
 ぶちゃっとはぜた肉片が伊佐美に振りそそぐ。
「くさいっ! エミール兄さんちょっと、酷い!」
 腐った生ゴミのような匂いが体中にまとわりつき、伊佐美は複雑な顔をした。
「悪い悪い、残りもさっさと片付けようや」
 エミールは伊佐美の頭を撫でると、二丁のフォルトゥナ・マヨールーの弾丸を入れ替えた。

● 地へと帰らん、黄泉の使徒よ
 一体の醜女が消えたことにより、戦力バランスは能力者側へ有利に傾いた。
「しかし、醜い姿だな。まるでバグアの内面を表しているかのようだ‥‥」
 覚醒し、黒髪となって戦うリディスは丁寧な口調を切り捨てていた。
 甘さや情けを捨てているからこその口調かもしれない。
 リディスを援護するように花も二丁拳銃でリディスの相手している醜女を攻撃していった。
「醜いね‥‥ボクの前から消えてよ‥‥」
 緋天が腕をちぎり飛ばし、闇天が眼を撃ち抜く。
 そして、リディスのファングによる急所突きが喉を砕いた。
「酷い匂いだ‥‥自慢の息も喉を潰せば出せまい、上等な煙草が穢れる‥・・消えてくれ」
 そのまま二撃、三撃と叩き込み、また一体の醜女を黄泉へと還す。
 戦闘は瞬く間に終わりを告げた。

●運命の分かれ道、男が選ぶのは‥‥
 現地のUPC軍医療班によって、簡単なものから精密検査までを助けられた男たちは受けていた。
 その中には真樹の助けた少年もいた。
 ただし、少年は一人病棟を隔離され、さらに細かい検査を受けている。
 エミールたちの話を合わせれば、彼が『山戸・沖那』であることも確かだった。
 UPC軍の一人と共に能力者たちは、一人離れたところに移された沖那の元をたずねる。
「えーっと、あれだ‥‥あ、ありがとう」
 沖那は真樹をみつけると、照れながらも礼を述べた。
「礼はいい‥‥しかし、偶然とはいえお前には酷な話をしなければならない」
 真樹はそういって、沖那を見る。
 人と極力関わらない彼女にしては珍しい態度に、彼女を知る能力者たちは驚きを隠せなかった。
「お前は、エミタ適性がある。その事実をどう受け止めて、進むかはお前自身が決めるがいい」
 それだけいい終えると真樹は病室を後にした。
「彼女がいうことももっともだ。私たちの戦いがどんな状況かは聞いているだろう?」
 真樹の行動にふぅとため息をついた梓は沖那に向かって話を切り出した。
「ああ‥‥。皆、鬼のようだったと‥‥とくに、あんたのことを『童子』と呼んでいた」
「鬼を指す童子か、酒天に茨木‥‥。さすれば私は不破童子といったところだな」
 沖那の言葉に梓は苦笑を隠せなかった。
「だが、能力者になればその鬼の仲間入りをするかもしれないぜ?」
 伊佐美は彼の両親のことを考えた上で言葉をつむいだ。
「‥‥それでも、俺は能力者になりたい」
「我は止めないが、後悔しても責任は持たないぞ‥‥」
 決意をする沖那に対して、王零の言葉は重く、深く、響いた。