●リプレイ本文
●ナンクロって何ですか?
「アホなキャンギャルを淘汰しようという意志が見られるのは、多少は評価できるわ」
鯨井昼寝(
ga0488)は問題をざっと見回して解きやすいナンクロ問題を手にとって解いていく。
審査をしてもらうというよりは大統領やアイドル事務所の社長を審査してやろうという心積もりなのだ。
歴戦の傭兵は怖いもの知らずである。
「これは‥‥得意も何もねぇですね‥‥」
シーヴ・フェルセン(
ga5638)は予想とは違う問題に早くも苦戦していた。
ナンバークロスワードは1から9までの数字をタテ、ヨコ、ナナメと一つずつ埋まった状態にするというものである。
言葉を思いつかなくてもいいが、数値の組み合わせに頭を使うパズルだ。
「ここが1で‥‥ああっ、こっちと被る! うがーっ!」
最終選考に何故残ったのかロサンゼルスの市民が疑問に思う声が会場に響く。
アフロカツラに派手目なメイク、特攻服に釘バットという絶滅危惧種『れでぃーす』と呼ばれる姿の大垣 春奈(
ga8566)だった。
「こんなところでレアなコスプレが見れるなんて貴重ですな」
春奈の派手な姿をものともせず冷静に審査をしているLAガール選考委員会長。
只者ではなかった。
春奈自身、絶滅危惧種ぬいぐるみの応募と間違って投降したが故の参加だったのだが、もう一人手違いにより参加している人物がいる。
「兄さんが履歴書出さなかったらこんなことにならなかったのに‥‥」
冴木美雲(
gb5758)の小さな呟きはカリカリという数字を書く音にかき消されていった。
頭を捻るがルールがわからず、とりあえず同じ数字で埋めて消していこうという画期的な消去法でナンバークロスワードに挑む。
タイムアタックだということは既に美雲の頭から消えていた。
「フェイトさんも朔さんも頑張ってくださいね」
審査委員の一人である米田が応援するのは問題に苦戦している事務所アイドルの二人である。
「もう思考のフル回転と閃きに掛けるしかっ!」
「がんばりますの」
フェイト・グラスベル(
gb5417)と終夜・朔(
ga9003)が頑張って問題を解いていた。
彼女らのファンが応援に駆けつけているのか横断幕を広げてエールを送っている。
「ふわ、やはりアイドルさんは凄いですね‥‥。ふみゅ‥‥頭使うのは苦手なのですよー」
友人がアイドル活動に励んでいて興味もあったために参加しているシェリー・クロフィード(
gb3701)は負けじと励むが目をまわしていた。
「皆さん気合が違います‥‥私も負けてられません」
タンクトップにパーカー、さらに迷彩ズボンというどこにでもいるような格好で参加しているのは朧 幸乃(
ga3078)である。
普段からの彼女を知るものはこういうコンテストに進んで出るような人物でないことは周知のことだ。
ちらりと大統領の顔を見た後、再び幸乃は数字を書き込んでいく。
「大丈夫、落ちついてやればできるはず」
神翠 ルコク(
gb9335)は目を閉じて深呼吸をすると、とにかく問題に取り掛かった。
袖なしの着物にミニのデニム、そしてウェスタンブーツといった和洋折衷といえる姿のルコクが一枚を完成させたとき、終了の合図である笛が鳴る。
『第一競技であるナンバークロスワードは終了です。続いて登ってもらうのはあの摩天楼です!』
司会の男が競技の終了の宣言と共に指差した先には300mはあろうかという一つのビル‥‥ライブラリータワーがあった。
「あ、あれをのぼるんですか‥‥これを考えた人馬鹿でしょう」
思わぬ高さに美雲が口をぽかーんとあけながら呟く。
「体力勝負なら、まだやれそうですよー」
「ああ、根性で登ってやるぜ」
美雲とは違い、シェリーや春奈はやる気満々だった。
「ちぃとばかし自信ありやがるんでがんばるです。今回負けた分挽回しねぇとです」
シーヴも立ち上がるとタワーの方へと走っていく。
「キャンペーンガールの選考で何であんな所を登らなきゃならないの‥‥」
そびえ立つビルをもう一度見上げて美雲はタワーの足元まで駆けていくのだった。
●コスプレ万歳
第一競技のナンクロと第二競技の摩天楼登りを終えて、ついに最終競技となる。
トップはナンクロを素早くクリアし、摩天楼をスポーツクライミングのように魅せる登頂をした昼寝だ。
その後を幸乃とシーヴが追いかけている形である。
シェリーや朔も第二陣として近い場所のためこのPRでの逆転もありえる状態だった。
『今回は逆順より発表していただきたいと思います。エントリーナンバー9番の神翠ルコクさんからPRを宜しくお願いします』
競技がはじまると司会者の男が合図を出し、審査が始まる。
ずっと眺めていた審査員であるジョナサン大統領、米田社長、LAガール選手権実行委員長らの視線が真剣なものになった。
『僕は頭が良い訳でも、優れた身体能力を持っているわけでもありません―――でも、努力することは知っています。
生きる為、生き延びる為‥‥能力者になった事が、僕に与えられたものだというのなら―――踊ります、この命、尽きるその日まで』
マイクに良く通る声で挨拶をしたルコクは両手に扇を持ち、鈴のついた服を翻して舞った。
ルコクの口からは中国語のような流麗たる祝詞が生み出され、体は神楽舞とフラメンコを織り交ぜた独特な踊りを”魅せる”。
『人種のサラダボウルとも言われるアメリカ、ロサンゼルスの人に向けたいいパフォーマンスだ』
踊りが終わるとジョナサン大統領がルコクに拍手と共にコメントを残した。
『続きまして、エントリーナンバー8番。冴木美雲さん、どうぞ』
『あわぁぁっ。え、えっと、冴木美雲、18歳です。特技は、居合剣術です』
壇上へ登ろうとした美雲が一度小さな悲鳴と共に姿を消し、再び登ると少し顔を赤くしながら着物を整え挨拶をはじめる。
『大丈夫ですか? 今回は家族の方の応募がきっかけとのことですが‥‥』
『家族が勝手に書類を提出した為です。でも、ここまで来たからには、頑張って優勝を目指そうと思います‥‥それでは演技を見てください』
司会者に笑顔で答えると美雲は刀を腰だめに構えて目を伏せた。
スタッフが巻き藁を何本も転がしてくる。
全てが止まったとき、美雲は目を開いて刀を抜くと共に巻き藁を一刀のもとに斬り伏せた。
二本、三本と斬り方を変え、遠くにまで響くような掛け声が終わると共に巻き藁が壇上に転がる。
最後の一本は根元をわざときり、バランスを崩したところを何度も太刀を浴びせて倒れないように保つ据え斬りを見せた。
『以上で、終わります』
自己ベストを越えることは無かったが、刀を納めた美雲に演舞中に静かだった会場から拍手が送られる。
最後、退場時にコケたが、誰も見ない振りをした。
『続いてはエントリーナンバー7番、フェイト・グラスベルさんの登場です』
『はい、フェイトです。IMPとしても活動させてもらっていますが少しでも誰かを元気にさせてあげたい、と思ったからなのです』
壇上に上がったフェイトは金髪を揺らしながら手を振る。
『えっとライヴ等でも何度かやりましたが、私の最大のポイントは通常&覚醒状態ですね。一粒で二度美味しい的な!』
LAガールへのオーディションというよりはアイドルとしての自分の売り込みに近いノリでフェイトはPRを続けた。
『覚醒は一瞬なので例えばライヴ中に変身、という事も出来たりします。一時的にでも成長なので性格とかも変わりますしねー』
十八番でもある覚醒による身体変化を見せると初めて見る観客から驚きの声があがる。
『さてさて、最後に私の歌を聴いていってもらっていいでしょうか?』
一礼をして、フェイトは曲名の決まっていない歌を歌いだした。
♪〜〜
光が閉ざされ 闇が墜ちる
不安が広ろまり 心が凍りつく
周りをみれば 笑顔を忘れて 泣き顔ばかり
でもだから そんな時こそ 笑顔を見せる
諦めたりしたら そこで全部終わり
どんな時も 希望の火は消えない
だから私は ずっと歌を紡ぐ
響け希望 風に乗って何処までも
目の前に広がる 果てなきMy Way
勇気を持って 最初の1歩
後は心の思うまま 迷わず進め
無限の未来は キミの手の中に
〜〜♪
途中でマントを脱いで覚醒するなどのアクションを見せたフェイトの手番が終わる。
『続きましては、エントリーナンバー6番、同じIMPの終夜・朔さんです』
『朔ですの。皆に元気になってもらえる踊りと歌を贈りますの』
フェイトと入れ替わった朔がキャットスーツでにゃんにゃんと猫のような動きを見せて歌いだした‥‥。
「いやぁ、皆さんいいコスプレですね。ぜひとも後で写真を撮りたいものです」
歌の最中に審査員の一人はややナナメにPRタイムを見ている。
前半の参加者はこれで終了、後半が始まろうとしていた。
●思いをぶつけて‥‥
『エントリーナンバー5番、シェリー・クロフィードさんです』
『シェリーです。今日のボクは元気一杯!チアガールでいくのですよー♪』
先日行われた北米大規模作戦―War of Independence―では仕方ないとはいえ、シェリーはロサンゼルスの町を壊している。
だから、こういう活動でLAの人たちに元気になってもらおうとチアガール姿で壇上に上がった。
事前にビデオで学んだチアダンスを一人、ポップ・ミュージックに合わせて踊る。
見よう見真似のつたないものではあるが、シェリーの元気のよさと強い気持ちがあふれ出ていた。
締めのジャンプでは瞳の色を金色に変え薄い透明な羽を生やした姿でジャンプし、空中で回転しながら着地するという技で決める。
『最後まで見てくれてありがとうですよー』
ぼんぼんを持ちながらシェリーは手を振りPRを終えた。
『エントリーナンバー4番、大垣春奈! 夜露死苦!』
司会者が紹介をする前にずんずんと壇上に上がった春奈はツナギにアフロカツラのヤンキースタイルで決める。
会場になんともいえない空気が漂うが喧嘩上等といった勢いのまま春奈はPRを始めた。
『生命って進化の果てに動物っていろんな形になってんだろ? みんな可愛いじゃん。絶滅危惧種なんかは特にその進化の中でもテッペンとってるやつらでさ』
本人そのものも絶滅危惧種といわれそうな格好だが、動物についての深い知識にオーという驚きの声が上がりだす。
『でもよ、バグアは、なんか違うだろ。あいつら変だよ。あいつら全部、空の果てにぶっ飛ばしてやる! 』
釘バットを大きくスイングしたあとヤンキー座りといわれるしゃがみ体勢に入ってガンつけて春奈のPRは終了した。
『勢いのある自己PRありがとうございました。続きましてエントリーナンバー3番でシーヴ・フェルセンさんです』
圧倒されていた司会者が我を取り戻してシーヴのPRをさせた。
『スウェーデン出身のシーヴ・フェルセンでありやがるです。出身国はココじゃねぇですが、協力して一緒に復興していきてぇ気持ちは確りと
で、郷に入っては何とかで着てみたですが、変じゃねぇですか?』
壇上に上がったシーヴは今までの競技での格好とは違い、サルーンガールと呼ばれる一種のウェイトレスのような服装でスカートの裾を摘んでくるりと回る。
『似合っていますよ。それではPRのほうをお願いします』
司会者の指示を受けてシーヴはキーボードでアメリカの国家をアップテンポのアレンジバージョンで弾き始めた。
誰もが知っている曲に会場の方からも不思議と歌を口ずさみ波紋のように広がっていく。
最後には大合唱のようになったシーヴのPRは終わり、シーヴは「ありがとうです」と挨拶を終えて下がった。
『残すところあと2人です。エントリーナンバー2番、朧幸乃さんです』
『えっと、こんなところに来る人ではないかもしれませんが、ここに来たのは皆さんに‥‥そして大統領に伝えたいことがあってきました』
スラムに住まうストリートキッズのような格好の幸乃は壇上から人々を眺めたあと、ジョナサンの方を向いて話し始める。
『軍や国・州の上層部ではLAの要塞化計画が進行中。それはLAの復興と安全のため
でも、次々と戦災難民がなだれ込んで人口が膨らむLA‥‥そこに生まれる就業や食料、居住問題、治安は荒れると思います‥‥
けれども、それを暴力で統治するようなことはしないで‥‥
暴力での圧制によってたまる不満は、底へ底へとぶつけられて、弱い人間が苦しみ‥‥
そしていつか、爆発する‥‥苦しいときにこそ、皆で協力して、支えあって‥‥普段は仲が良い隣人たちが、人種や地区、先住者か流民かで争う姿は、もう‥‥』
話の途中で感極まったのか幸乃の目から涙がこぼれ、それを袖で乱暴に拭くと幸乃は今一度ジョナサンを見つめた。
『すみません、けれど私が伝えたかったことわかって欲しかったことはこれです。お願いですからこれ以上私のような人を増やさないでください。失礼します』
マイクを置いた幸乃は頭を下げると足早にその場を後にする。
『最後にエントリーナンバー1の鯨井昼寝さんです』
『ようやくね、前振りはいらないわ。街を復興しにきたんじゃなく、新しいLAを作りにきたんだ!』
昼寝はバトルギターで舞台を叩き、ロックンロールの自作曲『レッドスカイ・ジャンクヤード』を歌いだした。
『バグアも軍もムカつくんならぶん殴っていうことを聞かせろ』という過激な歌詞をぶつけ、中止になるかと思いきやジョナサンは最後まで聞く。
『度胸あるじゃないの』
『国民の声を聞かずして政治はやれない。そんな男の声を誰が聞くというのだ』
口笛を吹く昼寝にジョナサンは不敵に笑いながら答えたのだった。
●結果発表
『第一回LAガール選手権の結果を発表する‥‥優勝者は朧幸乃だ』
棄権をして、帰ろうとした幸乃の耳に驚きの結果が聞こえてくる。
『彼女はロサンゼルスの市民のことを考え、そのことを伝えるためにここまできた。その勇気と行動力を私は買いたい』
「ほら、いくですよー」
「おめでとうですの」
能力者達に引っ張られ、幸乃は壇上のジョナサン大統領の隣まで押し上げられた。
『君の危惧が杞憂となるよう私も尽力を尽くそう。だが、市民に伝えるには一人では出来ない。そのためにもLAガールとして君からも市民へ想いを伝えて欲しい』
『‥‥わかりました』
戸惑いながらも幸乃はジョナサンからティアラをつけてもらい、握手を交す。
「皆さん、記念撮影をしましょう。大統領も一緒に」
ルコクからの提案に乗り、握手する大統領と幸乃を囲むように希望者が集って一枚の写真が撮られた。
新しいロサンゼルスの出発の瞬間である。
戦火の絶えない世界の中で、未来を見つけた都市の第一歩が踏み出されたのだった。