●リプレイ本文
●よくもここまで来たもんだ
「本番の前にゲリラライブで予告かぁ‥‥自分で言うとアレだけど、大物っぽくなってきたんじゃなーい?」
作成中のビラを前にペンをクルクル回しながら葵 コハル(
ga3897)は呟く。
もうすぐコハルがIMPの設立に共に空を飛んでから2年がたつ‥‥宣伝のために空を飛ぶのは何か運命的なものを感じた。
「ふんふんふ〜ん♪ こういう準備も楽しいの」
終夜・朔(
ga9003)は新曲のフレーズを口にしながらペンを走らせコハルとは違った雰囲気のビラを作る。
「すみません‥‥これって何のお祭りですか? ‥‥と言うよりお祭りですか?」
「もちろん、お祭りですよ。ヲタクの祭典こと『コミック・レザレクション』の前夜祭のようなものです」
事情を良くわかっていない真上銀斗(
gb8516)が部屋に入ってきたライディ・王(gz0023)は笑顔で答えた。
「どうもありがとうございます」
「いえいえ、問題ありませんよ。興味を持って下さったら所属も考えてもらえば嬉しいですね。男性アイドルは少ないので」
「おいおい、俺のことも忘れてもらっちゃこまるぜ。本番前の肩慣らしなのにこんなに奮発していいのか?」
嵐 一人(
gb1968)がギターのチェックを終えてビラ作りの手伝いに顔を見せる。
「コミック・レザレクションは事務所にとって一大イベントですからね。社長も気合入ってますよ」
「よっし、でっきたー!」
米田が嵐と話をしているとコハルが大きな声を出してビラを掲げた。
仕上がったビラは場所と日時、参加無料、出入り自由と概要だけを書いたシークレット間溢れる仕上がりである。
「じゃ、まねじゃ。これ配りにいってくるねー」
「頑張って来てくださいね」
ライディは一同を見送り、手を振るのだった。
●下見にいこう
「えっと、小悪魔ラジオ以来ですから‥‥2ヶ月、いえ3ヶ月近くぶりのお仕事ですね」
加賀 弓(
ga8749)は久しぶりのアイドル活動に少し感慨にふける。
元々年齢のことで取り残された感が少しはあったが、仕事を請けない間に新体制などの動きがあってその気持ちが強くなった。
「さて、何がいるんでしょうか‥‥。会場がこれほど広いとは‥‥」
埋立地の更地と話は聞いていたが弓が見ているのはだだっぴろい大地である。
「マイクとかもそうですけど、ここを全部使うとしますとスピーカーが何台も必要そうですよね」。
「本番はデカイイベントにもなるでよ、いろいろ機材のリクエストがありゃあ行って欲しいでよ」
「あー、おっさん‥‥じゃない社長ありがとなあたしみたいなの入れてくれてな」
「原石を光らせるのが俺の仕事だでよ、まぁ、綺麗に輝いてくれりゃあそれで十分だで。頑張ってくりゃあよ」
少し照れ気味に言葉を漏らすエイラ・リトヴァク(
gb9458)の肩を社長、米田時雄は軽く叩いて励ます。
「任せろっての、このライブ成功させてみせるからよ」
米田時雄の励ましにエイラは自信たっぷりに答えた。
「これだけの広さならKVの離着陸も演出で入れれそうだぜ。ロシアのライブより派手になるんじゃねぇか?」
テト・シュタイナー(
gb5138)は冷たい風の吹く広い更地で、ロシアの大規模作戦時に行われたライブのことを思い返している。
そのときもKVを使い、現地の兵士を勇気付けたのである。
「にゃほーい、このまま下見だけでなく街の方にも繰り出しませんかー? IMP残留のためここで一気に挽回したのです」
事務所に用意してもらった軍服のジャケットだけ着て、ズボンの変わりに短パンというミリタリーワンピ姿で常夜ケイ(
ga4803)が3人の下へ駆け寄った。
「街の方に行くにもほどほどにお願いすりゃあよ。こっちでのALPやIMPの人気はかなり高もんだで騒動になりゃーよ」
着替えてきたケイをなだめるように季節外れのアロハ姿で米田は釘を刺す。
「それに事前に過剰宣伝しますとゲリラライブにもなりませんしね。折角シークレットでも直接配ったら意味もありませんし‥‥なので、配るにしても本番であるコミレザの宣伝にしましょう」
「社長さんの話も最もですね。今回の事前イベントではなく、本番の宣伝を今からやるのは良いと思います」
「空からばら撒くビラのサプライズも上がるからな、俺様もそれでいいぜ」
米田からの提案に弓とテトは頷いて答える。
「ケイちゃんは自作のブロマイドを配って宣伝しますですよー」
とりあえず、街で宣伝できるととあってケイは俄然やる気になる。
自腹で作った愛機と一緒に写っているブロマイドを手に気合をいれていた。
「あたしはもうちょっと社長と裏の打ち合わせをしたいな」
「おみゃあさんらには事務所で個人宣伝用に作ったブロマイドもあるでよ、出発時間まですくにゃあが頑張るでよ」
米田は所属するときに作ったブロマイドを各自に渡す。
「ありがとな、社長」
「では、私達もがんばりましょうか」
弓が年長者らしく皆を先導して街へと繰り出していった。
●Take Off!
「まずは、IMPほうから撮ってそれからALP行くんでよろしく‥‥あたしの方は後で編集するぜ」
裏方としてエイラはKVそのものに撮影用のカメラを搭載して挑む。
『あーこういうこというのもなんだけど、新体制のALPになるのはエイラとテトの二人だけなんだよねー』
『そうだった‥‥あー、恥ずかしい。じゃあ、先輩方行ってくれ』
コハルの突っ込みにエイラは照れ先に出発を促がした。
各自の機体のカラーリングはあえて統一しない方向で、何気ない演出でビラをまく流れである。
『レディトゥーフライト、レディトゥフライト エントリーゲートオープン!』
UPC軍の基地オペレーターよろしく発進シークエンスをケイが行っていると、ガガガと重いドアが開き青い空が見えた。
滑走路が延びて青い空へ伸びる道を作る。
『じゃあ、先に行くぜ!』
<高速二輪モード>を機動させた嵐のヘルヘブン750がそこをウィリーしながら駆け上がり、大空へジャンプした。
落下しようとしたところでヘルヘブンは翼を広げスレスレから一気に上空へと舞い上がる。
『NOIRいきますの』
続いてワイバーンが<マイクロブースト>とブーストをかけた超加速で空へと飛び上がり、螺旋飛行を始めた。
『オールライト‥‥プッシュアップ!』
ケイも発進シークエンスを自分で続けながらウーフーを高い空へと持っていく。
望遠にしながら次々と飛び立つ様子をエイラがカメラへと収めていると、自分の番が回ってきた。
「っと、ラストだ。エイラ・リトヴァク‥‥出るぜ!」
灰色を基調したパイロットスーツに身を包むエイラが強いGを全身に受けながらもヘルヘブン250を無事離陸させる。
『全員そろったな、これでも、空戦部隊に所属している身だからな。指示は任せてくれよ? まずはエシュロン編隊で軽く回るぜ』
テトが声をかけて先導し、斜一線隊形を保ちながら空を大きく旋回した。
一同は地下から伸びる滑走路を背中にコスモプラザ駅周辺に向かって加速する。
大阪の空へ鋼鉄の鳥が翼を広げた瞬間だった。
●ビラを舞い落として
「いい空だ‥‥飛んでいるだけで燃えてくるぜ」
嵐は強い日差しと雲の少ない空を飛びながら一人呟いた。
編隊飛行をしていた仲間たちが互いに距離をあけ、個別のステージを青空に用意する。
『上手く立ち回れればいいですが‥‥それっと』
重厚な弓の雷電が<超伝導アクチュエーター>を使ったアクロバットを披露した。
『弓さんも中々やるねー。じゃああたしも宙返りにチャレンジ!』
コハルのディアブロが宙返りをすると共に作っておいたビラをまく。
それはあたかも鳥の羽ばたきによって羽が舞い落ちるような光景だ。
この当たりから空で何かやっていることに地上の人々は気づきだし、空を見上げる。
『ギャラリーがいるようならケイちゃんやりますよー』
ケイは翼や機首を振りお辞儀のように見えるようなことをやりながらハートループを描いてアピールをした。
螺旋回転しつつブーストを解き機体の姿を見せて宙返りターンし所定の位置へと戻る朔のワイバーンが締めにハートループを行う。
『本当なら細かい文字を書きたかったですの‥‥』
スモークで文字を書くというのは難しいものであり、簡単なアルファベットを書くだけならまだしも長文を書くには多くの機体の連携が必要となるのだ。
『あとで、あたしが合成で入れておくから安心しなよ』
しょぼんとした声を出す朔へエイラが励ましの言葉を送る。
「下の方へちょっといってくるか‥‥」
次の手番である嵐もハートループを描くがすぐに降下し、低空飛行をしながらビラを配った。
ゴマ粒のようだった人の姿が豆粒くらいの大きさになり手を振り替えしているのが見える。
ちゃんと許可を取った上でなければ出来ないことであるのはいうまでも無かった。
『負けてられねーな。フェニックスにしか出来ねーやり方ってのを見せてやるよ!』
最後に大きく披露を始めたのはテトである。
参加したゲーム企画『VMポータブル』のモデルキャラと同じコンセプトでKVなどをデザインしたフェニックスで空高く駆け上がった。
垂直降下に機体を切り替えると共に<ブースト空戦スタビライザー>を動かす。
雷のごとく地面へ一気に加速したフェニックスが<気流制御力場発生装置>の機動と共に人型へと姿を変えて直接手を使ってビラを配った。
ビルの窓や上にいた人々が体を近づけ携帯電話のカメラ機能で撮影をしてくる。
10秒も経たないうちにフェニックスは戦闘機形態へ変形し、再び空へと戻った。
『折角参加しているのですから、少しは活躍しませんと‥‥』
銀斗がナイフエッジ飛行と呼ばれる機体を90度傾けて平たくなった飛び方でビラをばら撒き上空を回る。
『いい画(え)撮れたな、それじゃあ更地の方へ行ってみようか』
エイラがビラを配る各自の映像をカメラに収めた事を伝えると再び編隊飛行に戻りながらアイドル達はふ頭の更地へと飛び立った。
●Live ON!
チラシに書いた午後三時頃になると広くて寒い更地だった場所は既に熱気溢れるライブ会場へとなっている。
突発的なゲリラライブではあるが数百人規模の人が集まっているのだからビラ配りは成功といえた。
目印のように立つ『impalps』のロゴの描かれたフラッグを地面に突き立てたヘルヘブン250の前に即席のステージが出来ており
『みなさんこんにちはー! あたし達は能力者ユニットの『impalps』っていいます。冬のコミレザでライブをするので、その告知にちょこっとここでも歌わせて貰います。短い間ですけれど楽しんで貰える様に頑張りますから、是非聴いてって下さい!』
打ち合わせ段階では決まっていなかったMCをコハルが率先して行っていた。
『皆、来てくれてありがとうなの♪ 先輩達とIMPとしての初共演‥‥Noir、頑張りますの♪』
朔が会場を見回せば若者を中心に多くの人が集まっている。
それぞれが自分たちで作ったうちわや横断幕を持っていたりして、その中に自分の名前を見つけた瞬間、朔はネコミミを動かしながらウィンクを贈った。
『まずはあたし達、IMPとしてのデビュー曲! Catch The Hopeから聞いてください!』
マイクを押さえながらギターを持つ嵐とベースを持っている銀斗へ合図を送る。
銀斗は今回はじめて演奏するのだが、嵐のギターにあわせ的確なコードを押さえて曲をつむいだ。
『希望を掴め』というタイトルどおり、アイドルや芸能界に夢や希望を持った能力者達が、多くの観客を前に一つになって歌う。
お馴染みの曲からのスタートということもあり、会場とも一体感が取れていた。
『次からは個別パートへ行きます。短い時間精一杯歌いますから聞いてください』
頭を下げながらコハルが下がると、雷電の掌の上に弓が立ち、卒業した相方の曲、『Grant a dream』を歌う。
風に吹かれてドレスが揺れるも弓の視線は前とそしてその先を見続けていた。
「本当にお祭りですね‥‥こんな人気のグループだったなんて初めて知りました」
会場の盛り上がりを見た銀斗はベースを弾きながら、この場にいることがすごい事だと感じる。
「まだまだ、こんなものじゃないぜ。次の俺の曲を見てろよ」
ギターを弾いていた嵐が弓の曲が終わると共に下がるとAU−KV姿で愛機のヘルヘブン750の上に立った。
『久しぶりのライブ登場だ! 今日から俺もIMPの仲間入りするんで宜しく!』
ギターを一度鳴らし、そして<竜の翼>を使ってKVを駆け下りステージまで来るとメロディを奏で始める。
銀斗も一瞬あっけに取られるもあわせてベースでリズムを刻んだ。
『HEAT』と呼ばれる熱いロックで、会場の熱はさらに高まる。
途中でAU−KVを脱ぎ捨てるなどのアクションを織り交ぜながら嵐は汗を流しながら歌いきった。
すると、客席の後ろからステージへH−01煙幕銃が打ち込まれ煙に包まれる。
『次は俺様の番だ。新生ALP代表として歌うぜ!』
何事かと会場が同様する中、客席の後ろに立つKVのハッチが開きテトが姿を見せ『STORM RIDERS』と『Summer Cloister』の二曲を歌った。
俺様系キャラであるテトだが歌っているときは別人のような綺麗な歌声で会場を魅了する。
『よいよ、これがラストとなりました。出入り自由と書いてあったけど、誰も出て行かず、最後まで聞いてくれて嬉しいです。それじゃあ、今度はALPのテーマ曲『ALPha 夢への翼』を聞いてください』
コハルがMCとして最後の挨拶と共にラストナンバーの宣言をした。
各自がそれぞれの場所から一曲を歌う。
夢への翼を広げ、これから先へと飛び立つように精一杯歌うのだった。
後日、これらの映像はエイラの編集を元にスタッフ等で調整をいれて『真冬の衝撃』というDVDになった。
別撮りされたシーンや、合成等も混ざったまさに衝撃の作品である。
コミックレザレクション本番まで、あと2週間‥‥。