●リプレイ本文
●我、一言物申す
「半年という制作期間は妥当ね。ただ、多数決のみで決めるのはどうかと思うわ。秀逸な活用法があればマイノリティな意見であっても採用すべきよ」
シミュレータールームに入るや否や鯨井昼寝(
ga0488)は一つ言い放つ。
「ああ、それだけのいいアイディアがあればの話だが‥‥俺だってその方向を考えてねぇわけじゃねぇよ」
眠そうというか半分寝かけている目を擦ってゴンザレス=タシロは欠伸をした。
仮眠時間3時間、それまでは徹夜でシミュレーターへのデータ登録とバグ取りをしていた男である。
「そう‥‥ならいいわ」
「おっちゃんもJJもお疲れだな。これでも飲んでくれよ」
ゴンザレスの返事に昼寝が納得しているとテト・シュタイナー(
gb5138)が栄養ドリンクを箱で持ってきて配りだした。
死屍累々となっていた作業員達も栄養ドリンクを飲むと次々と起き上がる。
ゾンビ映画のような光景だが、あえて突っ込まないことにする。
「ところで機体スペックはどのような感じなのでしょうか?」
ゆらりと起き上がり、何もいわずに作業を始める作業員達を見届けつつ井出 一真(
ga6977)が今回の依頼で気になる部分を聞いた。
「スペックは‥‥まぁ、ドローム社のフェニックスをベースに弄っている程度だな。でかさが12、3mくらいに押さえると成ればそんなに無茶なことはできねぇよ」
ゴンザレスはぐいっと栄養ドリンクを飲む、プハァと息を吐く。
「そうですか、改造の限界がどんなものか興味は尽きませんね‥‥ああ、申し送れました整備士でもあります井出です。二年くらい前に格闘強化フレームの依頼に参加させてもらいました」
「そうだったのか‥‥あれもな難しいラインになっているが宜しく頼むぜ」
井出から差し出された手をゴンザレスは握り返した。
整備士の大先輩であるゴンザレスと同じ仕事に関われただけで井出の心が熱くなる。
「科学者、技術者の夢、巨大KVか‥‥もっとも奉天の新型の破曉が15.7mだもんな。ま、でかすぎれば格好の標的だし、ジャングルという状況からいえば遮蔽物に隠れること出来るようにしないとな」
今回まとまった資料に目を通しながらリチャード・ガーランド(
ga1631)は浪漫と実用性の狭間に揺らいでいた。
「まぁ、いろいろと考えはあるがまずは動かしてからだ。とっとと起動テストを頼むぜ。バグ取りはしているが実戦形式でのチェックはまだなんでな、モジュール作成にもかかわるんでしっかり頼むぜ」
多少元気を取り戻したゴンザレスが集まっている面子の肩を一人一人叩く。
「出来上がったデータ、徹底的にテストさせてもらうぜ!」
肩を叩かれたテトは不敵に笑いゴンザレスに答えるのだった。
●シミュレーション開始〜電子戦タイプ〜
「手加減はしません。全力でいかせてもらいます」
クラーク・エアハルト(
ga4961)は目の前で動く派手なデザインなKVをめざし愛機のシラヌイを加速させる。
ワイヤーフレームで囲まれていた景色はジャングルにパネルをひっくり返すように変わっていった。
『簡単にはやらせませんよー。こちらは修正三倍ですっ!』
大型KVの護衛についている白蓮(
gb8102)のアイスホワイトのリヴァイアサン”プロセルピナ”が高分子レーザー砲を撃ってくる。
『機体スペックの低さはどうにもならないが‥‥ちっ、眠気がとんだ』
ブロンズ(
gb9972)がジャングルの木々を薙ぎ払うほどの光の束を避けようとするも二、三発ほど受けてしまう。
『ブロンズ君は近接戦だよね? ヘビガドで援護するから近づいちゃって!』
バイパーの隣にいたクロスエリア(
gb0356)のディスタンから言葉通りの援護射撃が飛び、派手なデザインのKVまでの道が開けた。
『電子戦機とはいっても戦えないわけではないですよ。敵機確認、攻撃お願いします』
ナビゲーターポジションにいるストレガ(
gb4457)が声をあげると大型KVがヘビーガドリング砲をばら撒く。
鋭い弾丸が飛ぶが、そこをクラークのシラヌイが白蓮機を狙うと思いきやブーストと<超伝導アクチュエータVer2>を仕掛けて大型KVへと迫った。
「木偶の坊かどうか見せてもらいましょう」
トリガーを引きR−P1マシンガンを放つがディフェンダーを構えた大型KVにかすり傷を負わせるにいたる。
『見た目どおりのタフさがあるか‥‥そうじゃなきゃな』
ブロンズが同じように踏み込み練剣「七星」の二刀を連続できりつけた。
今度はかすり傷さえ負わせられず、電子戦仕様機であっても強靭さを持っていることがわかる。
『下手したら自分のプロセルピナより硬いっ!? こ、これはいける!』
白蓮が思った以上の頼りがいのある大型KVに感動しつつ、自らもドラゴンスタッフを使って梅雨払いを始めた。
竜の頭部を模した杖を愛機の動力と接続し、ビームをその口から放ってブロンズやクラークを大型KVより引き離す。
「煙幕で間合いを離しますか‥‥中々、楽しめそうですね」
白蓮機が攻撃している間に大型KVが220mm6連装ロケットランチャーを打ち込んでジャングルの中に消えていくのをクラークは見送りつつデータ上の強さに思わず頬が緩んだ。
●シミュレーション開始〜マルチロックオン機〜
「いいねぇ、腕が鳴るねぇ‥‥各装備チェック完了。ランチャー、スナイパーライフル、ヘビガトとと」
通常のKVと同じコックピットに収まったテトが射撃管制装置の代理処理を行う。
新しい玩具を弄るようにワクワクする瞬間だ。
『レーダーに敵機を確認。距離300mからスタートだそうですよ』
通信処理を行っているストレガからの声が届く。
『それじゃあ、動くわよ。面子が違っても仲良くね』
メインパイロットの昼寝が大型KVを動かした。
ズシンという大きな踏み込みと共に巨体がしなる。
全高は10m前後だが装甲などはかなり増加されているのが搭乗してみるとわかった。
生存性を高めるための処置としては妥当だろう。
『敵機との距離接近、100mきりました』
「OKぇっ、マルチロックオンシステムを起動するぜ。方向修正、装備確認っと」
ストレガの声を受けてテトがコンソールを動かし手動でロックオンをしていった。
装備の選択と対象の選別を的確に行うには人間の手の方が確実だからである。
射程内に井出機、ブロンズ機、クロスエリア機を捉えた。
『フルショットッ!』
昼寝の掛け声と共にロックオンされた3種の武装が一斉に火を噴く。
『ちょちょっ、危ないよっ!』
機盾「レグルス」で220mm6連装ランチャーを受け止めたクロスエリアから悲鳴に近い叫びが上がった。
『でかい相手には肉薄しての突撃戦が一番ってな! 喰らいな! ヤクザ名物ドスアタックだ!』
被害を受けた一同とは反対側からリチャードのミカガミがブースト点火の上、<機体内臓『雪村』>で特攻を仕掛ける。
「ちっ、方向転換してディフェンダーを構えろ!」
『旋回機能が悪いわ。間に合わない、イクシードコーティングを張りなさい、白蓮は後ろへの援護を重視して』
「仕方ねぇな!」
昼寝が旋回を諦め、正面の敵への攻撃に集中する方向に切り替えるとテトが<イクシードコーティング>を起動させて雪村からの一撃を減衰させた。
「後ろ側が死角か‥‥そこに専用武装を乗せるかどうか課題になるだろうな」
致命傷を避けたが、生きた心地のしない展開にテトは大きく息をつく。
『テト、次の敵が来るわよ。しっかり撃ちなさい』
『死角を狙って動いて来ています。気をつけましょう』
「まとめて相手をしてやるぜ、どっからでもかかってこい!」
昼寝やストレガからの声が届くとテトは瞳に力を戻し目の前の難題に取り掛かりだすのだった。
●シミュレーション開始〜一騎当千タイプ〜
「出番が回ってきましたか‥‥一番の浪漫機のメインパイロットができるなんて幸運ですね」
井出はシミュレーターのコックピットでありながらどこか違う空気を感じ大きく息を吸う。
実物で無いにせよ、今から動かすものは夢溢れる仕様のKVなのだ。
『機体の出力等はかわらねぇな。武装はこいつだけは専用武装だ。そこだけ気をつけろよ』
外部のゴンザレスから通信が入ると井出は装備の確認を始める。
今回の専用武装は雪村を改良した巨大練剣『イビルレイザー』と三連装レーザーキャノン、可動式盾「インターセプト」と独自の装備が目立っていた。
『一騎当千タイプですので護衛機は一機もありません。全部を相手にがんばりましょう』
強い希望のもと3パターン全ての電子制御担当をしているストレガから井出に優しい言葉がかけられる。
「はい、行きましょうか。ナイトロック出撃!」
ロック鳥から拝借した機体名案を口にしつつ井出は大型KVを出撃させた。
場所はジャングル、実際の戦場を想定された場所である。
「足の裏に無限軌道が欲しいですね。関節への負担が怖いですね」
二足歩行で動く機体の各部を確認しながら井出はストレガの指示する敵機の方向へと向かった。
『さっきは効かなかったが、これなら‥‥』
ロックオンアラートが響くと共にブロンズのバイパーより放たれた強化型ホールディングミサイルが着弾する。
ミサイルの直撃を受けたものの被害はなかった。
ブロンズのバイパーの性能との差だろうが、逆を言えば同等の小型ヘルメットワームやキメラに対しては十分戦えることが証明された。
「反撃いきますよ、レーザーキャノン発射ッ!」
井出の掛け声と共に搭載された三連装レーザーキャノンが一点集中でブロンズを襲った。
『遮蔽物を薙ぎ払う一撃ですか‥‥こちらは連携していますから、そうそうやらせませんよ』
クラーク機が射線上に割り込み、<試作型ACE>で機体を包みレーザーキャノンの一撃を受け止める。
多少の装甲が溶けたが動けないほどの被害はなかった。
『非物理の出力はそれほどでもないですか‥‥ならばまだまだやりようがあります』
シラヌイがRA2.7inプラズマライフルを放つ。
『ライバルたる案3――徹底的に、その欠点を洗い出してやるぜ?』
正面をシラヌイが立つと後方からブーストをかけて間合いを詰めたテトのフェニックスが機杖「ウアス」を振り上げてナイトロックを襲った。
「インターセプト!」
背後から迫ってきたウアスをナイトロックに装備されている可動式盾「インターセプト」が受け止める。
『制作期間長いだけあっていいもの装備してるなぁ、よぉ!』
『同時攻撃いきますっ、ドラゴンスタッフ!』
前の2タイプでは護衛に回っていた白蓮が今度は大型KVナイトロックへと攻撃を仕掛けていく。
竜の口からビームが迸るも傷ついた様子はなかった。
「反撃といきますよ、イビィィィルイレイザァァァァ!」
この手のノリがすきなのか、井出はアニメのロボット乗りのように武器の名前を高らかと叫びKVを越えるサイズのレーザーソードを作り上げ切りかかる。
『やべえ‥‥! なら、こいつでどうだ!』
レーザーソードの一閃をラージフレアをあわせて間合いを共に詰めていたために狙われたリチャード機が避けた。
「命中精度に若干不安はありますね‥‥燃費もいいとはいえませんし、実剣ですと動きを阻害するでしょうからその辺の選択が肝ですね」
獲物の使い具合を確かめながら井出は浪漫機体で戦い続けるのだった。
●総括
「お疲れ様です。皆さんコーヒーをどうぞ」
「ありがと〜、シミュレーターだったけど3人乗りKVは見ていてかっこよかったなぁ」
クラークから差し出されたコーヒーを受け取ったクロスエリアは大型KVの勇姿を思い出す。
「おっちゃん、そういえば名前も集めてたんだよな? ユニバースナイトにあやかって、ユニバーストルーパーとかユニバースソルジャーとかどうよ?」
同じくコーヒーを受け取り砂糖を入れたリチャードが大型KVへ名前をつけた。
「悪くはねぇな‥‥けど、北米向けっぽいよな?」
「じゃあ、マルチロックオンタイプをヘカトンケイルとかどーでしょーかっ!」
「私はヘイムダルがいいと思うけどな」
「自分はタイタンくらいしか思いつかなかったですね」
リチャードを口火に話題は大型KVの名づけへと移っていく。
「特に理由はないけど‥‥ラキシスとか?」
「案2を採用するならマーゴイやグランマーゴイがいいわね。けど、グランエミターって名前が気に入らないだけだから他でもいいわ」
ブロンズや昼寝も同じくコーヒーに口をつけ、自らも持ってきたアイディアを披露する。
「なるほどなぁ‥‥採用案の方だが案2である電子戦タイプで決定させてもらうぜ。戦い方を見ている限りそれほど悪い部分は見えなかったからな、名前も昼寝のアイディアであるグランマーゴイを使わせてもらうぜ」
静かに話を聞いていたゴンザレスがJJから渡された戦闘データを眺めて決定をくだした。
「ただ、3番目のアイディアに対する浪漫に惹かれているのは多いようだからこっちはデータを改良し、フォーゲルマイスターで使うデータ機として採用するぜ」
「VM‥‥あのシミュレータータイプのゲームですか。3人乗りの物も出ていたようですから確かにいい使い方かもしれませんね」
クラークが少し驚きを見せながらも、ゲーム用の機体であれば確かに問題はないと納得した。
「ああ、デカイヤツラが増えたからな。シミュレーター上だけでも本当の巨大モノを作ってやろうと思ったのが理由だぜ。俺もこの仕様は好きなんでな」
同業他社により大型KVの増加にゴンザレス自身負い目もあったため、今回の決定となったのである。
「今回はありがとよ、半年後には戦線で活躍できるから実戦でも支援を頼むぜ」
「こちらこそ今回は貴重な経験をさせていただきありがとうございました」
頭を下げるゴンザレスにストレガも頭を下げて答えた。
大型支援KV「グランマーゴイ」の製作がこの日から始まる。
激動の南米戦線を救う賢者の誕生を皆、楽しみにするのだった。