●リプレイ本文
●密林で彷徨う
「もしもし、聞こえているかね〜?」
夏季であり、蒸し暑いジャングルの中、無線機を耳につけたドクター・ウェスト(
ga0241)が声をかける。
周波数はいなくなった先遣隊が使っていたものにあわせているものの返事は聞こえてこなかった。
山道らしいと頃から入り、かれこれ3時間は歩いている。
道中でキメラに遭遇しても8人がかかればすぐに倒せている‥‥だが、何も聞こえてこないとなるとさすがに嫌な予感がしはじめた。
「返事が無い‥‥いや、このあとはやめておきましょう。密林ではあまり言い思い出がありませんが他人に該当するわけでもありませんからね」
抹竹(
gb1405)はのど元まででかかった言葉を飲み込み、先月に起きた被撃墜のことを思い出す。
嫌な思い出でがあるからこそ今回の依頼はいい結果で終わらせたかった。
「こっちダ。間違いないヨ。マトモな血の通った人間の匂いがする‥‥」
ジャングルの中、CHAOS(
gb9428)が指差すところに血が垂れている。
地面に血の跡が残っているところを見れば何者からか逃げているのは明らかだ。
「踏む、近くにいるようではあるねぇ? 地図からすれば闘技場へはここから30分ほどのようだ」
地図を広げたドクターの無線機にノイズが走る。
『‥‥誰か、いるのか? こちらコンドル4‥‥キメラを追い払って物陰に潜伏中だ‥‥場所は‥‥』
「生きてるのがいりゃぁ、上等だ。早速いこうじゃねぇかよ」
ドクターの無線機から先遣隊の声と居場所が知らされると、OZ(
ga4015)が卑下た笑みを浮かべて現場へと足を進めた。
一同は互いに頷き会い、OZを追うように密林の中潜伏ポイントへ向けて動き出す。
蒸し暑いジャングルに八筋の風が流れ出した。
●銃声と悲鳴と‥‥
茂みを掻き分け、潜伏ポイントへ向かう能力者達の耳に銃声が響いた。
「クソッ、来るなァッ!」
男のギリギリに近い叫びが続いた後、視界を2mくらいの影が飛んでいく。
「今、何か飛んでいった‥‥声のする方へ急ごう!」
ミア・エルミナール(
ga0741)が取り回しのしやすい片刃の斧、タバールを握りしめて駆け出した。
影が降り立った場所にたどりつくと、ファルシオンをへし折られ、地面に転がる能力者とトドメを刺そうと近づくレスラーがいる。
「そこの人、これな〜んだ」
緊迫した雰囲気にミアの軽い声が広がった。
能力者とレスラーの顔が同時にミアのほうを向く。
右手に持っていたピンへ視線が集まった。
すぐさま、ミアは後ろに持っていっていた左手に握っていた閃光手榴弾をレスラーに向かって投げつける。
「うおっしゃー、やるっきゃないな!」
「ジャングルに覆面レスラーたぁシュールな組み合わせだな、生憎、ここはリングじゃねぇんで、最初からガチで行かせてもらおうかねっ!」
八房 太郎丸(
gc0243)が両腕の義手のインティークに空気を取り込みながら踏み込むと、アローン(
gc0432)が<援護射撃>を飛ばした。
目の眩むマスカラードに対して怒涛のような攻撃が伸びていく。
「ここは俺たちがどうにかする。お前らはソッチの荷物を拾って調査に回れ」
緋沼 京夜(
ga6138)が鎮痛剤代わりの煙草をもみ消し、あらかじめ決めていた調査班に向けて先遣隊の回収を顎で示すとレスラーに向かった。
全ての攻撃をレスラーは身動ぎせずに受け止める。
「お前たちも俺のリングを汚すつもりかっ!」
「リングを汚してんのはアンタの方だヨ。レスラーならレスラーらしくちゃんとしたリングの上で戦いなヨ」
レスラーが興奮した様子で叫ぶとCHAOSは静かに異を唱え、<練成強化>を味方にかけた。
そして、倒れているファイターを抱えると共に闘技場へと動いていく。
「貴様っ!」
「おい、強化人間‥‥バグアに下った理由を聞かせてもらおうか?」
逃すまいと動くレスラーの前に緋沼が冷めた瞳で見つめながら立ちふさがった。
「強化人間ではない、サント・マスカラードの体は支配ずみだ。こいつの意志と俺の好みが一致したまでに過ぎん」
マスカラードの体を支配したバグアが気合と共に能力者達を弾きながら答えた。
「じゃあ、遠慮はいらないね? 調査が終わるまであたし達と遊んでもらいましょーか」
ぶぉんと空を斬るようにタバールをまわしたミアがマスカラードを睨む。
甲高い鳥の声と共にマスカラードと能力者達は一斉に動き出した。
●潜入、キメラ闘技場
「見張りがいて、専用の車で案内されているとは‥‥入るのはよほどの要人なのでしょうか?」
発見した隠し通路から内部へと潜入した抹竹は双眼鏡でみた本来の入り口の様子を思い返す。
吊る等でカモフラージュがされているが、その下から見えるものは切り出した石だった。
「見世物をして楽しむ奴らだからロクなやつらじゃねぇよな?」
「ここまで潜入できたのでさえ初めてだ。実情まではわかってない」
ドクターに手当てを受けていたファイターがどこか楽しそうに笑うOZを訝しそうな目つきで射抜く。
そんな二人を他所に抹竹は指を立てて耳をそばだてる。
通路の先から歓声のようなものが聞こえてきた。
「試合の盛り上がりでしょうか‥‥そんな感じがしますね」
声を小さくしながら抹竹は警戒を強める。
人の多いところが近いなら警邏の人間がいたっておかしくないのだ。
「けっ、バグアがいなくて平和になるとかいっている一方でバグアに偏って美味い汁すする奴もいるってか?」
ケラケラとOZは笑い、舌なめずりをする。
「力に飢えた阿呆の巣窟か‥‥けったくそワリぃ‥‥」
この先にあるものを想像してかCHAOSは眉をしかめた。
薄暗い通路を進むとさらに地下へと進むような階段が見える。
「地下? 外見だけでも闘牛場くらいあるのにまだ地下があるようだね〜。バグアの機械類も今のところなかったようだし重要なものは地下かもしれないね?」
「行って見ますか‥‥まだこちらの動きは知られていないようですし」
抹竹は周囲にカメラが無いことを不審に思いながらも動きの無いことを踏まえて調査の続行を進言した。
「隠されたのを暴くのは女の服を脱がすのに似ていて刺激的だよなぁ、おぃ」
相変わらず意地汚い表情のまま、OZは抹竹の後に続く。
深遠に続く道を一歩一歩能力者達は降りていった。
●狂戦士[バーサーカー]
「どうした、初めの勢いはどこへ行った!」
マスカラードが太郎丸に向かってクロスチョップで飛び込んで来る。
ミサイルのような突撃に太郎丸は避けきれず、義手で受け止めることさえ出来ずに木へ体を減り込ました。
「さっすがね、ベビーフェイス! くーっ!」
重い一撃を受け、口から血をにじませながらも太郎丸の目は強敵とであったことに喜びを得ている。
太郎丸だけではない、多くの能力者達が力の差を見ながらも戦いを楽しんでいる節さえ見られた。
「ハッ! 素手でくるとはいかれてんなぁ、嫌いじゃないぜそういうの? その自信へし折ってぶっ殺すのは、最高にテンションが上がるからなぁ!」
武器を使わず、自然を生かした突撃を駆使してくるマスカラードへ挑発じみた言葉を浴びせアローンはガドリングシールドの弾をばら撒く。
地面を穿ちながら近づく弾丸もマスカラードは足の負傷も気にせずに駆けてきた。
絶対の自信があるのか、恐怖という感情がないのか表情の伺えないマスクは何も語ってはくれない。
「こっちを無視してるんじゃねぇ‥‥」
横殴りの一撃といわんばかりに注意をひきつけるような緋沼の<ソニックブーム>が空を斬ってマスカラードに迫った。
「ここはリングじゃないんだ、1対1とは限らないよ」
震える空気を感じ、マスカラードが間合いをあけようとしたとき、背後からミアが<流し斬り>で足元を薙ぐ。
「そういうことだ‥‥」
自分の放った真空波を追いかけてきた緋沼が顎を狙ったアッパーを放つ。
経験をつんだ猛者達の本能レベルでの連携だった。
逃げ場が無いと思われた瞬間マスカラードは跳び、落下と共に地面へ両手の拳を組んで叩きこむ。
ドォゥンと太鼓を叩いたような音が響くと、叩き込まれた拳の一点を中心に衝撃波が迸った。
有無を言わさぬ衝撃がミアと緋沼を包んだかと思うと周囲にそびえたつ大木まで弾かれる。
二人は口から血を吐き出し、ずるずると地面へと落ちた。
「ここがリングで無いことは承知だ‥‥だが、今の俺にとっての聖地そのものだ。だが、お前たちも俺が普通の技だけしか持っていないと思い込みすぎだ」
マスカラードは衝撃によって生まれたクレーターから立ち上がると動きをとめたアローンの方へと走りだす。
「勝手に占拠した場所を聖地扱い、他人の体のっとって我が物顔、まさしく盗人猛々しいとはこのことだな、そんな連中が誇りなんて語れる立場かよ、お笑いだな?」
身震いをしたアローンは顔を斜に構え咥えている煙草を揺らしてガドリングシールドを構えた。
弾丸をばら撒くも間合いを詰められ拳を叩き込まれる。
シールドを構えて受け止めたにもかかわらず自動車にぶつけられたかのような衝撃がアローンを襲い地面へと転がった。
「半端無い奴じゃない‥‥まぁ、時間も状況も悪いし撤退と行きたいね。誰か閃光手榴弾を‥‥」
ミアが戦っている味方へ声をかけるが、誰も答えない。
いや、答えられない‥‥ミア以外、閃光手榴弾を持っていないのだ。
「こうなったら、トコトンやるしかないな」
口元に垂れた血を拭った緋沼は痛む体の感覚に生きる意義を見出しているかのように笑う。
「まだ動けるか、そのファイティングスピリッツは評価に値する」
マスカラードは緋沼に向き直ると改めて構える。
マスクの奥の顔は緋沼と同じように笑っていた。
●緊張
「ふむ、普通のビルとか工場でも地下は設備が多いものだが、ここも例外ではないようだね〜」
「完全にバグアのものといったところですね‥‥しまった、カメラがありませんね」
「写真より実物を持っていけばいいのではないかね?」
「どうなのでしょうか‥‥機械剣できるのはさすがに辞めた方がいいと思いますよ」
見た感じはビルの地下にあるラジエーターや温水器のような機械の前でドクターと抹竹が相談している。
「撮影は俺がカメラを持っているからやっている‥‥とにかく得られるものは得ていこう」
先遣隊のファイターが小型カメラでもって施設の内部を撮影していった。
CHAOSとOZはバックで後ろからの警戒を続けている。
薄暗い通路を進むと天井から光りの差し込んでいる区画へとたどりついた。
野次や獣の雄たけびなど盛り上がっている様子が光り共にこぼれてくる。
『本日は出資者でもあるコロンビアの去る資産家の方がご観覧です。闘士の方はエキサイトな勝負を行ってください』
「ヒュー、盛り上がってるようじゃねぇか!」
「力に飢えた阿呆の巣窟か‥‥ったくそワリぃ‥‥」
司会者の言葉にOZとCHAOSが光りの先を見ながら見えない闘技場の様子を声から思い描き各々の言葉で示した。
「長居をしているわけにもいきませんね、気づかれないうちに脱出しましょうか」
抹竹が一歩下がり、戻ろうとしたとき警報が鳴り響く。
足音が響き、近づいてきた。
「行きはよいよい‥‥しかし、帰りは怖いというセキュリティでしたか」
順調に行き過ぎたツケが一気に来たように抹竹は感じるが今はそれどころではない。
階段を折り、入り口に銃を持った男たちが姿を見せた。
服装からして軍人というよりは雇われたチンピラといった風情である。
「こいつぁ、ただの資産家じゃねぇなぁ。うまい汁のすすり方を俺にも教えてくれよ?」
チンピラの姿にバックの後ろ暗さを感じたのかOZは舌なめずりをしながら口で閃光手榴弾のピンを引き抜いて投げたのだった。
●次へと誓う
「ぐはっ‥‥」
「くっ‥‥」
緋沼の義手に仕込まれた炸薬が破裂し、パイルバンカーのように杭がマスカラードの顔面に叩き込まれる。
だが、クロスカウンターのように緋沼のボディへマスカラードの拳が減り込んでいた。
「そろそろ疲れてきたんじゃないの、マスカラさんよ!」
息を大きくはいてミアが斧を振り下ろす。
生身の相手を攻撃しているというのに刃がボロボロであり、動ける能力者自身も少ない。
相手の体を傷つけることはできていても致命傷といったものは与えられてないのだ。
変わりにこちらは疲労と痛みで逃げることすらままならないでいる。
「そろそろ限界といわざるを得ない‥‥」
ラリアットをカウンターされて土を噛んだミアは立ち上がりながらも呟いた。
「終わりにしようか。まだ倒さねばならない奴らがいる」
マスカラードがミアに近づいていこうとしたとき、アサルトライフルの銃弾が行く手を阻む。
「おい、そこのレスラー。こんなところでやっちまっていいのか? どうせやるならよぉ、リングの上で血祭りにすりゃぁいいじゃねぇかよ」
茂みを掻き分けOZが姿を見せた。後ろからは追っ手を振り払ってきたドクターや抹竹、CHAOS等もいる。
「逃げていたものが牙をむくか。ならばこの場で‥‥」
「だぁかぁらぁよぉ、ここで殺しても折角の勝利の瞬間を客が楽しめねぇだろぉ? キメラ闘技場って楽しいリングがあるならそこで決着をつけたほうがアンタもいいだろ?」
アサルトライフルを向けながらOZはマスカラードに親しげに話しかけた。
「嘘はいわねぇ、変わりにそこのオッサンと潜伏している先遣隊の居所を教えてやる。生かして人質にすればUPCへの交渉材料にもなるだろ。だから、俺たちは帰らせてもらうぜ?」
「お、おずさん‥‥何を‥‥」
義手を使って立ち上がった太郎丸がOZの言葉に呆然となった。
「何をいって‥‥」
CHAOSもあまりの提案に言葉を失う。
「追っ手を振り払ったとしてもこのレスラーとやりあってたら俺たちは逃げられない。だったらよ、手土産残してでも帰るのが先だろ? 依頼も調査しかされてねぇ。先遣隊のオッサンたちの救出は別料金なんだよ」
鼻でフンッと笑いOZは手当てをされた先遣隊のファイターをマスカラードの前に突き出した。自分たちが無事帰るためでもあるが、ベルディット=カミリア(gz0016)達に知らせれば、きっと人質を救出に来る――そう踏んだ上での交渉だ。
しばらく、沈黙が訪れるがマスカラードは何を思ったのかファイターの男を捕まえて闘技場の方へと体を向ける。
「決着はリングの上でつけよう。それまでにもっと鍛えてくるがいい」
大きく飛び上がり木々を蹴ってマスカラードはジャングルの奥へ姿を消していった。
「次は‥‥殺す」
抹竹に起こされながら、緋沼は去っていく背中に向かって誓いを立てる。
闘技場のリングの上で次なる試合のために‥‥。