●リプレイ本文
●エルドラドのユイリー
2010年2月中旬‥‥エルドラドの首都ジャックシティにあるユイリーの事務所に能力者達が集まる。
これから、難航する交渉相手のところへユイリーを護衛する依頼のためだ。
「水無月 魔諭邏(
ga4928)と申します。宜しくお願い致します」
おっとりした口調で名乗り、魔諭邏はユイリーに頭を下げる。
「こちらこそ、今回はよろしくお願いします。私がエルドラドの代表を務めていますユイリー・ソノヴァビッチです」
ユイリーも頭を下げ返し、握手を求めた。
「挨拶もいいけど、ちょっと確認事項があるんだけどいいかな? 今回使うボートってAU−KVも乗せれる?」
二人の手が結ばれると、アリエーニ(
gb4654)が質問をしてくる。
「元々エルドラド軍が使っていた荷運びようのものを使いますので問題はありません」
「じゃあ、よかった‥‥あたしはドラグーンだからAU−KVがないといろいろと困るんだよね。あ、名乗り忘れてた、あたしはアリエー二。よろしくね」
安堵の息をついたかと思うとアリエーニは軽くウィンクを飛ばして挨拶をすませた。
「ムーグデス。私、ハ、イツカ、アフリカ、ニ、帰るタメ、ニ闘ッテ、イマス。支配ガ、続ク、あの地、ヲ、再興、スル、タメニ、コノ依頼、ヲ通して、復興ニ、必要な事、ト、ソノ意思、‥‥熱気、ヲ、学べタラ、ト」
2mを越すムーグ・リード(
gc0402)は応接室の天井に頭をぶつけないようにしながら、ユイリーに自らの目的を話す。
キリンと共にサバンナで暮らし、キリンと共にラストホープまで逃げてきた彼にとってユイリーのエルドラドでの行いは驚きと共に目標足りえた。
「ね、熱気ですか? 熱意の間違いとかではないですよね?」
「‥‥ソウトモ、イイマス、ネ」
ムーグの言葉に何か違うニュアンスを感じたのかユイリーが遠慮がちに突っ込むとムーグは表情を変えぬままに答える。
「私には皆さんのように戦う力があるわけではありません。バグアとUPCの争いに巻き込まれて北米からこの地まで逃げてきたくらいです。でも、ここにいる人々を守るために私に出来ることをしたい‥‥それだけです」
そんなムーグに小さく笑うとユイリーは自分なりの答えを伝えた。
支えられながらも見つけた答えである。
「遅くなった‥‥SPのムノーだ、護衛は、果たす」
サングラスにアーマージャケットという格好の各務 百合(
gc0690)が物々しい雰囲気で部屋へ入ってきた。
彼女は不安定な精神をしているため映画等の影響を受けて日々口調等が違うらしい。
「え‥‥ええ、よろしくお願いします‥‥ね?」
少しばかりの不安を抱きつつ、ユイリーは護衛の流れ等の打ち合わせを進めるのだった。
●変化―チェンジ―
「俺達はユイリーとこれから昔あんたらが潜伏していたプエルトナリニョの街に行く」
鹿島 綾(
gb4549)が真っ直ぐな目を男たちに向けて言葉をつむぐ。
「そっか‥‥あそこにいくのか」
汚れと汗にまみれたシャツを着た男の一人が汗を拭きながら答えた。
彼らはジャック・スナイプによるエルドラドの建国時、軍人として働き現在のエルドラドに対してレジスタンス活動を続けていた。
今、現在はレジスタンス活動の首謀者であるアンドリューが死亡し現在のエルドラドで住民として働いている。
農作業から機械の修理、見回り警備など雑用が多いが生き生きとした様子なのは誰の眼にも明らかだった。
「交渉のためにもお前たちからのメッセージを伝えたい。プエルトナリニョとの国交をユイリーは作ろうとしている」
アルヴァイム(
ga5051)は訪問の目的、ユイリー自身が出向くことをしっかりと伝える。
「話すのが苦手という人は手紙でもいいんだから、早くしてよねっ!」
微ツンデレな態度でカルミア(
gc0278)がアルヴァイムと綾の間から顔を出しつつ持ち前のツインドリルを揺らした。
ユイリーが気を張り詰めているのが見て判っていたため、少しでも楽に交渉が進むように便宜など何かと手を回したいとカルミアは思っている。
自分に出来ることをできる範囲でやりたいのだ。
「うちらとて事を荒立てにいくつもりはあらへんのや。向こうにいっても手は上げへん‥‥ユイリーを」
荒神 桜花(
gb6569)はヘルムにアーマージャケット‥‥そして、何故か鬼の面をつけて男たちの説得にでる。
父親が傭兵、母親がゲリラであったこともあり、目の前の男たちの気持ちがわからない訳ではなかった。
しかし、だからこそ判ってもらいたいこともあると桜花は心に決めて今回の依頼を受けている。
能力者たちの説得に応じ、男達はボイスレコーダーにメッセージを入れたり、手紙を書いたりと協力をした。
初めはこちらを敵視していた彼らも平和な大地が変えてくれたのかもしれない。
「こんな風に変わってきたか‥‥感慨深いものがあるね」
敵視していた元アンドリュー一派の変化、ユイリーの積極的な動きなどを思い返し綾は空を見上げた。
●クロコダイルツアー
「万一の際にはわたくしが盾となり、身をもってお守り致します」
「ありがとうございます、私も自衛は多少なりとも出来ますから無理はしないでくださいね?」
飛沫に顔をしかめながら魔諭邏がユイリーの肩を叩きつつ声をかけるとユイリーはホルスターに納まっている銃を見せる。
自分の身をある程度守れるように射撃訓練なども欠かさず行っていた。
「前方の水面に動きあり。迎撃に移ろうか」
双眼鏡を覗きながら警戒をしていたアルヴァイムが警戒を促がす。
『後方からも来てるね、射程内に来次第迎撃していくよ!』
AU−KVを装着したアリエーニがスクリューの回る後ろ側にたって、真デヴァステイターを構えた。
水面(みなも)を震わせて水中の影がボートへと迫ってくる。
「今日もドリルまわしまーす」
オーラを身に纏いツインテールを揺らすとまるで回転するドリルのように見えた。
小銃「S−01」を使って牽制の弾丸をカルミアは震える水面に向かって撃ち出す。
尻尾が飛び出しパシャンと叩いたりしながら影が近づき、鱗に覆われたその大きな口をあけて襲い掛ってきた。
「動物、型、デス、ネ‥‥殲滅、シマス」
<プローンポジション>で射撃体勢をとっていたムーグが飛び掛ってきたワニキメラにガドリングガンの洗礼を浴びせる。
振動が腕に伝わると共に目の前のキメラが砕け肉片が飛び散った。
動物を愛するムーグにとって動物キメラを殺すことは心が痛む。
だが、襲ってくる限り命を守るために戦わなければならなかった。
「水中相手じゃ飛び掛ってくる瞬間を狙うしかないか‥‥」
機械剣「ウリエル」でムーグとは別の方向から襲ってくるワニキメラを切り裂きながら綾も揺れるボートの様子を警戒する。
上がってこない敵は体当たりを仕掛けボートの揺れは酷くなる。
「ご退場、願おうか‥‥」
揺れに足をとられながらも百合は水中に向かってホルスターから抜いた小銃「バロック」と小銃「M92F」を叩き込み、ボートから離した。
水中用装備を誰も持っていないため、水中から飛び出て来た瞬間を狙わなければならないため短期決戦とは行かなかった。
「これで終わりや」
桜花が煙管刀を<流し斬り>で最後のワニキメラを倒した。
狭いボートの上で互いの背中をカバーしながら乗り切った一同は一息つく。
「殲滅完了、デス、ネ‥‥お怪我、ハ、アリマセン、カ?」
「疲れましたけど‥‥大丈夫です」
息を荒くしながら、ユイリーがムーグの気遣いに答えた。
ユイリーの手は震えていて、恐怖を抑えているのが見てわかる。
「ソウデスカ‥‥では、この死体、供養、シマス」
ユイリーの様子を確認したムーグはバラバラになったワニキメラの死骸の一部を両手で掬い上げてしまった。
●プエルトナリニョでの遭遇
町外れの安宿を確保し、準備を整えた一行は中心部へと歩いていく。
「アンドリュー一派の潜入先か。ま、エルドラドの様な前例がある。仲良くやれるさ‥‥絶対にね」
「あ‥‥は、はい‥‥」
綾がユイリーの肩を叩いて声をかけた。
心配になるほどユイリーの顔は固くなっていたからである。
「そうですよ、笑顔笑顔〜。にっこり笑えばきっと何でも解決ですよ」
カルミアがユイリーの手を握って笑顔を見せた。
「ありがとう‥‥。そうね、交渉だからって硬くなっても仕方ないですよね」
カルミアの手を握り返し、ユイリーは目を閉じて深呼吸をする。
「でも、何か歓迎されていない感がものすごくするね」
中心部へ行くほどに刺さるような視線を受け、アリエーニはフォーマルな衣装でユイリーより前を歩いた。
バグア側の考えをしている人間が多いためかプエルトナリニョの市民達が傭兵やユイリーに向ける視線は冷たい。
だからこそ、アンドリュー一派に協力していたのだ。
表だって何かをするわけではないが、扉を閉めてみないようにしたり、物陰から鋭い視線をぶつけている。
「‥‥ふむ、こういう、町、か‥‥なかなかに、注意箇所が多そうだ、な‥‥」
サングラスで視線を隠しながら、敵が潜んでいそうな場所を百合は<探査の眼>で見た。
ことを荒立てずに移動はできたものの、中心部にたどり着いた頃には一触即発の空気へと変わっている。
そして、市役所を訪れたユイリーをプエルトナリニョの代表が出迎えた。
武装した護衛と共に‥‥である。
「エルドラドの代表であるユイリー・ソノヴァビッチです。このたびは予約なしの訪問すみません。ですが、直接あってお話をしたいと」
「わざわざ長旅ご苦労だが、こちらに話す事は無いのでお引取り願えないだろうか?」
代表の男は興味無さそうに鼻を鳴らすと、建前の礼儀で持ってユイリーを追い返そうとした。
「頭から否定に掛かっている‥‥だが、ここで引いたらこれからも変わることはないな。こちらのカードを切ればいい」
後ろに立つアルヴァイムがユイリーに聞こえる声で伝えると、ユイリーは綾やアルヴァイム、カルミアが集めた手紙やらボイスレコーダーを取り出す。
「これらは今のエルドラドにいますアンドリューさんの部下だった人たちのメッセージです。こちらを聞いてください」
護衛の男たちが代表に代わってそれらを受け取り、口々に相談を始めた。
「どうせ、脅してとったに決まっている」
「UPCに寝返ったヤツラのコトなんか信用できない」
疑いを持った護衛たちが固まった空気を爆発させ、銃口をユイリーに向けて撃つ。
突然の行動にユイリーは目をつぶって立ち尽くすしかなかった。
しかし、撃たれたのは両手を広げ立ちはだかったアリエーニである。
「傭兵のあたしが何を言っても、きっとあなた達には届かない。それだけの事をあなた達にしてきたんだと思う。だけど、過去の過ちを認めて。それを背負って前に進もうとしてる彼女を、あたしは護りたい。責任感とかそんな綺麗ごとじゃなく、一人の人として、彼女を応援したい」
アリエーニは肩から血を流しながらも、きっと男たちを見据え、思いのたけをぶつけた。
『うちにとって南米は第2の故郷みたいなものやな。幼い頃から父母と共に「反体制」側で生きてきた。常に「体制」に逆らって生きてきた、「体制」は弱者を切り捨て、我欲の為だけに生きていると。けどな、このユイリー代表は今迄の「体制側」とは違う所があるとうちは思ってるんや』
桜花がアリエーニに続き、会えてコロンビアの公用語であるスペイン語でもって男たちに伝えた。
二人の言葉にはじめは疑いのまなざしだった男たちは内容を信じたようである。
護衛の一人が代表に耳打ちすると、代表は未だに信用できないという視線を向けながらも口を開いた。
「わりました。話『だけ』は聞きましょう‥‥応接間へ」
「その前に一人手当てをお願いできますか?」
「大丈夫大丈夫、私のことはいいからちゃんと行ってあげて‥‥いい交渉できると自信もっていいからさ」
肩を押さえつつ、アリエーニは心配するユイリーに笑顔で答える。
「‥‥ありがとうございます」
アリエーニに頭を下げ、ユイリーは案内されるままに応接間へと向かった。
張り詰めた空気はいつの間にかなくなっている。
本当の交渉はここからだ‥‥。
●区切り
日も暮れたため、安宿での一泊をすることになり遅めの夕食をとっているとカルミアがユイリーに声をかける。
「今後、うまくいくといいですね?」
「ええ‥‥一回で上手くいくとは思っていませんが、出だしとしてはよかったと思います」
ユイリーの前の料理は減ってはいないが、表情は出発前よりは柔らかくなっていた。
「隅マセン‥‥色々、お尋ネ、死体、事、ガ、アリマス」
ユイリーと同じテーブルで食事をしていたムーグが手を止めてユイリーの方へ顔を向ける。
「奪還二、ナニガ、必要、なので、SHOW?」
「そうですね‥‥一番なのはそこに住む人たちの意思だと思います。一方的に平和になるからとバグアから奪還してUPC領にするのは間違っています。そこで暮らす人々がどう過ごしたいかを考えて戦わなければ自己満足にしかならないと思います」
「自己満足‥‥ナル、ホド」
「取り戻したとしても、復興までには時間もお金もかかりますから‥‥そこが苦労しますね。支援を受けるにしても本当に必要なものを必要なだけでないと‥‥善意と押し付けは違いますから」
エルドラドの復興の際に起きたことをユイリーは話だした。
ユイリーの熱意をムーグはその大きな体で受け止め考える。
アフリカの未来と、そのために自らがやらなければならないことを‥‥。