●リプレイ本文
●束の間の休日を
「忙しい時期ですが、こうやって羽を伸ばせる事は中々無いですし‥‥。今はただゆっくりとする事にしましょうか」
鳴神 伊織(
ga0421)はロープウェイタイプのケーブルカーに揺られながら、外の景色に目をやる。
くねくねと曲がった林――天橋立が眼下に見え、進行方向には小さな遊園地があった。
「いろんなところがありますねー、久しぶりに一緒に遊べますから回りましょうね!」
伊織の隣ではセシル シルメリア(
gb4275)がパンフレットを眺めながら目を輝かせている。
「一泊二日って初めてだから、楽しいツアーになるといいなぁ。兵舎の仲間も何人かいるし楽しいツアーになりそうだよね?」
月明里 光輝(
gb8936)がぐんぐんと大きくなる遊園地――天橋立飛龍観ランドを見ながら言葉を弾ませた。
「私には綺麗な景色はみえませんが‥‥一緒に骨休めできればいいですね」
補助具をつけてようやく歩ける視力の奏歌 アルブレヒト(
gb9003)は光輝に寄り添い言葉の弾みを耳で感じ、微笑みを浮かべる。
「にゃー! けーぶるかー高いなり! 楽しいなり! スゴいなり!」
一方、リュウナ・セルフィン(
gb4746)はケーブルカー自体が初めてなのか椅子に膝をついて座り、窓にべったりと顔を寄せていた。
「騒ぐと‥‥切れて落ちるぞ?」
「落ちるなりか!? 落ちたらいやなりー!」
西島 百白(
ga2123)がからかい混じりにリュウナを注意をすると、リュウナはぺたんと座り直してアワアワと騒ぎ出す。
「リュウナ様をからかわないでくささい、大丈夫ですからね?」
東青 龍牙(
gb5019)が騒ぎ出したリュウナを抱きしめて頭を撫でるとリュウナは落ち着きを見せた。
「今年も平良さんと旅行できて‥‥良い年になりそうね」
「久しぶりに磨理那さんと遊ぶの」
『忙しかったからね』
吾平に事情を聞いて参加したシュブニグラス(
ga9903)は乙(
ga8272)と癸を挟んで座る平良・磨理那(gz0067)の様子を見る。
シュブニグラスと磨理那を挟んだ反対側には鬼非鬼 つー(
gb0847)が四段重ねの弁当箱を片手に話をしている。
「最高の思い出にする一工夫をしてきたよ。磨理那さんのためにね」
「恥ずかしいことを真顔で言うでないわ‥‥まったく‥‥」
毒づく磨理那ではあったが、頬を桜色に彩り満更でもないようだった。
「話のところ悪いが、一つ聞かせて欲しい。この辺の土産ものでいいのはないだろうか?」
区切りがついたところを見計らって、リヴァル・クロウ(
gb2337)が磨理那へと話しかけてくる。
「そうじゃの、基本は和菓子などの食べ物や漬物じゃが。縮緬細工の根付なんかは揃いでもっている夫婦等はおるかの?」
「お揃いのストラップか‥‥感謝する」
さっと返ってきた返事にリヴァルは頷いた。
「まりにゃんは相変わらずカワイーよね。元気してた? ご招待ありがとー☆」
「磨理那も沖那も久しぶりでやがるです。大兄様は沖那の故郷がこの辺だといってやがったですが、顔を合わせなくていいです?」
「おっきーってそうだったんだ」
ラウル・カミーユ(
ga7242)とシーヴ・フェルセン(
ga5638)が手狭な室内を動いて来て、磨理那と近くにいる山戸・沖那(gz0217)へと挨拶をする。
「うるせーよ。故郷つったって、俺は殆ど出雲で育ったんだ。今更ここが実家だっていわれても納得できるかよ」
沖那は視線を外に向け、苦いものを食べた顔をした。
血縁上の母親との再会を去年したのだが、複雑な心境なのである。
「み、皆さん。な、仲良、い、いいんですね。俺がまざってもよかったの、でしょうか?」
和気藹々とした会話がされる中、ナイトハルト(
gb4913)が遠慮がちに入ってきた。
「あー、仕事で何度も顔を合わせてたりするしなー。背中を任せるときもでてくるんだから、遠慮すんなよ」
「そだよー。でも、今日はレジャーだから一杯たのしもーネ」
沖那とラウルに諭され、ナイトハルトはこわばった顔を和らげた。
●イベント発動?
「ね、眠い‥‥」
「亮さん大丈夫のです?」
「大丈夫‥‥ちょっと早起きしてお弁当作るのに気合をいれすぎただけだから」
ケーブルカーから降りると強い日差しに思わず眩暈を感じる櫻庭 亮(
gb6863)を守部 結衣(
gb9490)が小さな体で支える。
「嬉しいですけど、無理してはだめなのです。おやすみしながらゆっくり楽しむのです」
亮の心遣いに感謝しながらも守部はぷぅと頬を膨らませて怒ったが、すぐに笑顔を向け腕に手を搦めて亮を連れ出した。
「‥‥どれから行く‥‥? 人、沢山いるね‥‥」
ウラキ(
gb4922)が案内板の前に立って隣にいる恋人にアトラクションを決めようと顔を向ける。
しかし、そこにクラリア・レスタント(
gb4258)の姿はない。
「‥‥あれ‥‥?」
一瞬呆けるが、すぐさま覚醒をし、全神経をフル活用してクラリアの姿を追った。
観覧車の前、周囲をキョロキョロしているクラリアをウラキは見つけて近づく。
「良かった、もうはぐれないよう、ね‥‥うん‥‥大丈夫‥‥だった?」
「はい、ごめんなさい。はじめての遊園地でいろいろものめずらしかったですから」
俯きながら顔を赤くするクラリアを見てウラキは心を和ませた。
丁度いいと、そのまま二人は観覧車へと入っていく。
「いいなぁ‥‥カップルで観覧車」
杉崎 恭文(
gc0403)は楽しそうに観覧車に入る二人を見ながら、自らの境遇を顧みた。
「俺も一緒で構わないでしょう? 何か問題でも?」
ミカエル・ラーセン(
gb2126)の口元に浮かぶ小悪魔のような笑みに杉崎は言葉を返せない。
「お二人とも‥‥依頼で‥‥ご一緒でしたし‥‥折角‥‥ですから‥‥」
一目ぼれして、誘った相手、井上冬樹(
gb5526)にも言われてしまっては何もいえなかった。
「ほら、列に並ぼうよ」
「あ−、そうだな‥‥くっそ」
ミカエルに促がされ仕方なく3人で並ぶことにする杉崎。
冬樹はそんな二人に首をかしげながらついていくのだった。
●観覧車に乗って
「‥‥どうしましょう。やはり高いです。怖いです」
高く上がった観覧車のゴンドラで沢渡 深鈴(
gb8044)の小さく呟いた。
「大丈夫か?」
声は届いて無いようだが、心配そうな顔をした相賀翡翠(
gb6789)が深鈴を覗きこんでくる。
胸元には深鈴とお揃いのおすわり猫ペンダントが下がっていた。
「あ‥‥はっははは、はいっ! いい天気ですね!」
緊張と怖さからか深鈴が取り乱してよくわからない返答をすると翡翠がゆっくりと近づき、その大きな両手で深鈴を包み込む。
「怖がらなくていい、大丈夫。一緒だ」
翡翠の声が吐息と共に耳から深鈴の心へと染み込んできた。
「あの、余り抱きしめられるとお弁当が‥‥」
幸せな気分に浸りながらも深鈴は頑張って作ったお弁当を心配する。
「分かっている‥‥すごく嬉しいけど、もう少しこのままでいさせてくれ」
翡翠に抱かれ、深鈴は幸せをかみ締めるのだった‥‥。
***
「へぇ‥‥双眼鏡で景色をみるのもKVとは違って見えるもんなんだな」
「そうなんですか? わ、私にも見せてください」
須佐 武流(
ga1461)が軍用双眼鏡でゴンドラの外を眺めていると、前に座っていた美沙・レイン(
gb9833)が緊張した面持ちで須佐に近寄る。
「きゃっ、きゃーゴンドラが揺れますっ!」
しかし、須佐の隣に座っていた御崎 緋音(
ga8646)がわざとらしくゴンドラを揺らして須佐に抱きついた。
「お、おい、大丈夫か? これくらいの揺れで騒ぐなんて戦闘中はもっと酷いだろ?」
急に抱きつかれた須佐だったが、不思議そうに首を傾げる。
緋音としてはここで少しでも距離を縮められたらという作戦だったのだが、外れたようだ。
「そ、そうですね。すみません」
「もう、緋音さんはおっちょこちょいなんだから‥‥あ、あのゴンドラにはユッキーちゃんと陽山さんが乗っているみたいね」
緋音と美沙は席へと座り直し一呼吸置く。
美沙にいたっては外の景色と共に観察対象の一組を見つけていた。
「二人とも今日は変だぞ。降りたらジュースとかソフトクリームとか買って来こようか?」
「「じゃあ、ソフトクリームで!」」
須佐からの申し出に二人は声をそろえて答える。
元気そうな二人に須佐は一先ず安堵の笑みを浮かべた。
***
「高い所からだともっと壮観だなぁ‥‥」
「わぁー‥‥すごい‥‥」
陽山 神樹(
gb8858)とライフェット・エモンツ(
gc0545)は寄り添ってゴンドラの窓に張り付き、視界に広がる天橋立を見る。
飛龍観ランドの名前の通り、高い位置から見る天橋立は龍が体を曲げて青い海を飛んでいるように見えた。
(「ライちゃんと一緒に観光‥‥これって‥‥デート!? いやいや、今回はただの観光旅行だ! うん! そうに違いない!」)
「神樹兄ちゃん、ボクとのデート楽しくないの?」
「えぇ!? いや、その、楽しいよ。うん」
ライフェットの無邪気すぎる笑みに一瞬、心奪われた陽山だったが喉の置くから言葉を出して答える。
「良かった♪ お昼はあそこのレストランで食べるんだよね?」
真下に近いところに見えた建物をライフェットは指差しながら陽山へ上目遣いで尋ねた。
何気ない動作一つ一つが陽山の心を揺さぶる。
「あ、ああ‥‥驕ってやるぜ。高いもんでもなんでも注文してくれよ」
「それだけじゃ申し訳ないから、あーんしてあげるね♪」
ライフェットの笑顔に既におなか一杯になった陽山だった。
***
「既に廻りからは熟年夫婦に見られてる気がするけど、まだあたし自身未成年で新妻なのね‥‥」
観覧車に乗るほかのカップル達を見た百地・悠季(
ga8270)は何気なく言葉を漏らす。
「急にどうした?」
「何でもないわ、何の話だっけ?」
「ああ、ここ最近各地で大きな連動作戦が行われている。佳境ともいえるな」
呟きを誤魔化すように悠季は目の前の夫――アルヴァイム(
ga5051)へ意識を戻した。
「そうね‥‥」
「ああ、だからそろそろ考えないとな‥‥いつか生まれてくる子供とその未来についてもっと具体的に‥‥」
「期待しているわよ。丸一年後には『手に届く未来』がここに宿っていること」
夫からの優しい言葉に悠季は自分のお腹を軽くさすって答える。
近い未来、叶うと信じて‥‥。
●Go! Car! 闘!
「温泉が楽しみですな」
「どうせ入るならいい汗かいてから行きましょうよ」
遊園地にいながらも心は既に温泉な米本 剛(
gb0843)を誘い蓮角(
ga9810)はゴーカート乗り場へと連れ込む。
「絶対に勝つよ」
「こっちはドラグーンだぜ? 負けるかよ」
米本達と同じ時間に来たのは依神 隼瀬(
gb2747)と田中 直人(
gb2062)の初デートペアだ。
隼瀬は女性ブランドものの服で統一し、短めのデニムパンツと普段の男勝りな格好よりも可愛さを重視した姿である。
「おう、次はゴーカート乗ろうぜ!」
「ジェットコースターよりは大丈夫そうだ‥‥な?」
まだまだ暴れたり無いと行った様子の大河・剣(
ga5065)と虎牙 こうき(
ga8763)の二人もゴーカート乗り場へと入っていった。
付き合いは長いのだが、まっとうなデートをしたことが無い二人で剣の方はいろいろと気合も入っているようである。
「タイミング計ったかのように集まるなんて‥‥こうなるならもっと大々的に賭けを企画するべきだったな」
気付けば能力者だけでゴーカート全てを貸しきる形になり、翡翠と賭けレースをしようと打ち合わせていた麻宮 光(
ga9696)は驚いた。
ここまでくれば翡翠だけでなく、他のメンバーからも勝ちを取りたいと光は思う。
「お兄ちゃんがんばってー」
「アリステアさんも負けないでくださーい」
コースの外からは星月 歩(
gb9056)と神代千早(
gb5872)が手を振って応援してきた。
「声援を受けますと頑張ろうって気になりますよね」
光の隣で手を振り返すアリステア・ラムゼイ(
gb6304)が誰に対してというわけでもない言葉を漏らす。
「そうだな‥‥。いいところを見せたくはなる」
光は前を見ながら答えると、シグナルに注目した。
赤から、黄色‥‥そして青へと変わる。
アクセルを踏み、能力者達は風となった。
●すかっとパター?
「ラウルさ‥‥あの二人運にしてもよすぎないか?」
「おっきー気にしちゃだめだ」
1ホールが終わり、ホールインワンを出したのはゴルフのようなスイングで打ったシーヴと磨理那の二人である。
「黙るです。集中できねぇです」
2ホール目のスタート時、シーヴに注意されて二人は黙った。
しかし、運が何度も続くわけはなく、ボールはコースからはずれOB扱いとなる。
「ナイスショットだったの‥‥私も真似するの」
『パターゴルフでナイスショットって、ダメな気がするんだけど‥‥あ、入ってるし‥‥』
次の乙がスパァンと打った球は空中で弧を描いたあとカランコロンと音を立ててカップに入った。
まっとうなパターの試合ではありえないのだが‥‥エミタの力恐るべしである。
「このまま負けるのも面白くない。逆転させてもらおう」
理不尽なホールインワンを目の当たりにしながらも、3ホール目もリヴァルは冷静にコースを読んだパーショットを心がけた。
「ちょっとはいい格好見せたいですしね」
リヴァルの後にくっつくようにナイトハルトが追いかける。
「観察するのは得意な方よ」
シュブニグラスは視線を凝らすと黒いラインが見えたような気がした。
ボールをそれに沿わすようにパターで叩くとコロコロといいラインで転がっていく。
ホールインワンはなかったものの、リヴァル、ナイトハルト、シュブニグラス、ラウル、つーがパーでクリアして最終ホールとなった。
「これで最後じゃぁっ!」
過剰に気合を入れて磨理那はボールを打つ。
他の人のを見て、ルールを覚え直した磨理那はまっとうにプレイをし、最終ホールの最後の一打だった。
コロコロと転がったボールはカップに入り、この時点で磨理那の優勝が決まる。
「ぱたーごるふとやらは面白いの。今度父上に頼んで庭にこーすでも作ってもらうかの」
一番になったのがよほど嬉しかったのかご満悦な様子でパターをぶんぶんと振った。
「おめでとう磨理那さん。じゃあ、優勝商品として俺の手作り弁当を一緒に食べようか」
つーは重箱を掲げて中身の説明を始める。
「1、2段目には京筍ご飯、ロール春キャベツ、ウドと蕗の薹の天ぷら、レタスとポテトのサラダに豚肉と新玉ねぎのマリネ」
「3段目には卵焼き、鶏のから揚げ、ピーマン入りナポリタンとおにぎり」
「4段目にはフルーツ各種てんもり白玉あんみつさ」
「それもよいの‥‥べりの沖那に驕ってもらうよりよさそうじゃ」
「ウルサイ‥‥乙も一緒じゃないのかよ」
「女子に驕らせるのは男の恥じゃぞ。もっと男らしくしなくてはならぬぞよ?」
「へいへい、わーりましたよ‥‥じゃあ、つーの方か俺のおごりか好きなほうで分かれるってことで」
「いぎなーし、折角だからおっきーにいいもの驕ってもらおう」
優勝者であり、保護観察者の一人でもある磨理那にいわれては沖那は同じくビリだった乙も含め驕るしかなかった。
春も近いというのにこの日、沖那の財布は冬の到来を予感している。
●手作り弁当タイム
太陽も真上に近くなってくると、展望レストランや芝生広場などに集まり昼食を楽しむ人々が増える。
「軽いものということで、おにぎりと煮物ですー♪ はじめて和食を作ったのでお口にあうとうれしいのですが‥‥!」
芝生広場では緊張した面持ちでセシルが箸を口に運ぶ伊織を見ていた。
「美味しいですよ? 手作りしていただきありがとうございます」
親の敵でも見るような視線を向けていたセシルに伊織は微笑みを返す。
「よかったですー」
「食べ終わりましたらご当地アイスとか食べにいきませんか? 抹茶アイスがあったと思いましたので」
「はい、いきましょー」
伊織からの申し出にセシルは笑顔で答えた。
少し離れた場所では剣とこうきが食事をしている。
「不恰好だけど大丈夫。食える食える」
「どうした剣? なんでもない、ほら一応‥‥弁当」
「ありがとうな、手作り弁当を作ってもらうって憧れだったんだよなぁ‥‥ほら、剣。あ〜ん」
「あ、あーん? ‥‥ちょっと、誰かみてんじゃ‥‥あ〜ん」
「へへへ、たまにはこういうのも悪くないだろ?」
恋人同士らしい行為に思わず照れてくる。
でも、二人とも嫌な気分はしなかった。
***
「えーと、サンドイッチなんですけど、どうでしょうか?」
千早の強い視線がアリステアに向けられている。
「‥‥もう少し万人受けする方が好みかな? 美味しくないわけではないですよ?」
一瞬固まったアリステアであったが、恋人の努力を評価した。
「つ、次はもうちょっと頑張りますね‥‥」
アリステアの後に自分でも食べたが、塩味の強さに涙が出そうになる。
それでも笑顔を向けてくれるアリステアのために千早は腕を上げる決意をした。
***
「俺は今死んでも悔いはねぇ‥‥」
「あの‥‥死ぬは‥‥よくない‥‥です。お口に‥‥あいません‥‥でしたか?」
涙を流して物騒なことを呟く杉崎に井上はおろおろとしながら目じりを下げた顔で見上げる。
目を合わせることが苦手で、俯きがちな井上の澄んだ青い瞳が杉崎と会った。
ドクンと心臓が高鳴る。
「あぁぁぁ!? 大丈夫、そういう悪い意味じゃなくて美味くって! ありがとう、井上さん‥‥俺、彼女にするなら井上さんみたいな人がいいな」
「そ‥‥そんな‥‥あの‥‥ありがとう‥‥ございます」
大慌てで訂正した杉崎はとんでもない発言をしたが、このことは後日思い出すことはなかった。
社交辞令として受け取った井上も、俯きながら答えるだけである。
まだまだ時間が必要のようだ。
***
「あれ? 普通これって逆だよね?」
日差しの気持ちいいベンチに腰をかけ隣で弁当を取り出そうとする直人を見て隼瀬は複雑な気分になる。
「何が逆だよ。ほら、いろいろ回って腹減っただろ? ピタサンドだ」
料理本を見ながら作ったファーストフード系の食べ物を直人は隼瀬に差し出した。
「ありがとう‥‥あ、結構イケル」
みずみずしいキュウリとレタスの歯ざわりにトマトの豊潤な味が加わる。
奥に鎮座しているチキンも焼き加減が程よく、食べごたえもあった。
「あと‥‥これだ、お前が好きだっていってた蜂蜜レモン」
「覚えていてくれたんだ、嬉しいな」
魔法瓶に入れられた甘い香りのする飲み物をカップで受け取ると隼瀬のモヤモヤはどこかに飛んでいく。
「このあとどうする?」
「最後はさ‥‥観覧車に乗りたいな」
ピタサンドを食べながら問いかけてくる直人に隼瀬は少し俯きながら答えた。
デートの醍醐味ともいえるアトラクションに直人も何かを感じる。
「俺からも一つ要望があってさ‥‥手繋いでいかないか?」
「いいよ」
何気ないやり取りの中、二人の距離は一歩近づいた。
●回る‥‥二人だけの世界
「結衣のお握り美味しかったなぁ、オーソドックスだったけど気持ちが一杯篭ってたよ」
「正面きって言われると照れるのです。亮くんの俵おむすびや玉子焼きも美味しかったのです」
陽も沈みかけている頃、観覧車に乗った亮と守部はゴンドラの中で今日のことを振り返る。
一緒に遊んだこと、お弁当を交換したことなど恋人らしく過ごせたなと思った。
「いつものようにする?」
亮が膝を叩くと守部は何も言わずにその膝へと乗る。
「また、こうやって一緒に旅行に来ような」
「はいなのです」
落ちないようにゆっくりと亮は守部を抱きしめ、ゆっくりと変わる景色を眺め続けた。
***
「わー、けーぶるかーとは景色が違うなり〜」
きゃっきゃっとはしゃぐリュウナを東青は見守る。
「‥‥サンドイッチ‥‥美味かった」
「え、あ、ありがとうございます」
今まで無言でついてきていた正面に座っている西島がここに来て静かに口を開いた。
「観覧車とかも迷惑でなくてよかったです」
東青は苦笑しながら西島の様子をみる。
いつもどおりの無表情で楽しんでいるのかどうかさえ分からなかった。
「ひゃくしろ、おんぶする‥‥なり〜」
先ほどまで元気だったリュウナがずるずると床に倒れていく。
はしゃぎ疲れて寝てしまったようだ。
「リュウナ様‥‥本当に今日楽しかったようですね」
「‥‥そうだな」
「あの‥‥今夜ですけど」
静かになったゴンドラで東青は意を決したように言葉をつむぐ。
西島は首を軽く傾け言葉を待った。
「一緒にお散歩しませんか?」
夕日のせいか緊張なのか赤い頬をした東青に言われ、西島は首を縦に振る。
「むにゃむにゃ〜」
寝息を立てるリュウナを嬉しそうに抱っこし東青は席に座り直した。
●いい湯だな〜
「食事前の温泉は贅沢ですなぁ」
「遊んだ後のひとっ風呂というのもいいものですね」
主目的が温泉と豪語する米本と蓮角はゆっくりと檜風呂につかり日ごろの疲れを癒す。
ぼーっとするだけで何かいろいろなものが落ちていく気さえしていた。
「先客がいたか‥‥」
湯船につかっている二人に向かって須佐が入りながら声をかける。
「ええ、ですが3人なので広く過ごせますよぉ」
「軽くトレーニングした後だから丁度いい。只、遊ぶだけというのも何か馴染めない」
須佐は湯を被って汗を流した。
「まだ、少ないか‥‥女湯の方もいないだろうし覗きとかはないだろうな」
須佐に続いて光も入ってくる。
「いやはや、覗きも確かに温泉の醍醐味かもしれませんなぁ」
「ですが、覗いたところで返り討ちが怖いのがなんともいえないですね」
「まったくな‥‥」
相手はか弱い女性ではなく能力者、不届き者の末路は想像しただけでも恐ろしいと4人は思うのだった。
●温泉だよ、皆、集合
「足元‥‥気をつけてね?」
「はい、大丈夫です‥‥こんなですから温泉は好きでもなかなか行きづらくて‥‥助かりました」
光輝に手を引かれて奏歌が浴室に足を運ぶともわぁとした熱気と共に目には見えない重圧を感じる。
「光輝さんに奏歌さんもこられたんですね」
「兵舎のメンバーが集まるなんて久しぶりだわ、奏歌さん大丈夫?」
湯気の奥から緋音と美沙の声が聞こえてきた。
「はい‥‥光輝さんに手を引いてもらっていますから大丈夫です」
身体的には、と言葉をつけそうになったが奏歌は飲み込む。
自らの胸が残念なことは仕方がないのだ。
「一杯いるわね、なんていうか選り取りみどり?」
自前の桶を片手に奏歌の後からシュブニグラスが浴室へと入る。
若年層を中心にいろいろな美女のそろう浴室は昼間の遊園地と同じように心のファインダーで納める価値があった。
●カニ食えば‥‥
「くっ、箸では難しいです」
「何じゃ、おぬしは下手じゃの?」
カニ鍋で茹で上がったカニと格闘するシーヴを優越感に浸る顔でみながら磨理那はカニを屠る。
「やっぱり、冬はお鍋が一番なの」
『乙、手がベタベタだよ。ほら、おしぼりでちゃんと拭いて』
乙も同じ鍋を食べているが苦戦がテーブルの上に散らばるカニの殻が物語っていた。
「お久しぶりです。元気そうですね?」
「おお、伊織か。そちは綺麗じゃな。大和撫子とはそちのことをいうのじゃろう」
「私よりも他の皆さんの方が美しいですよ」
食べている磨理那のそばへ湯上りに浴衣へと着替えた伊織が正座をして挨拶をする。
艶やかな黒髪に白地に緑で松林の描かれた浴衣を着こなす伊織は磨理那がいうように美しかった。
「はじめまして、セシルですー。今日は楽しい企画に参加させていただいてありがとうございますー」
伊織に続いてセシルが磨理那へと挨拶を続ける。
トリートメントされた銀髪は伊織によるものだ。
お揃いの浴衣ということもあって非常に上機嫌である。
「挨拶もよいので、鍋をつつくがよいぞ」
磨理那に促がされて伊織とセシルはシーヴと共に鍋をつつきだした。
「ひゃくしろ、野菜は嫌いなのであげるなり」
「リュウナ様、好き嫌いはいけません」
別の卓では風呂上りの牛乳を楽しんだ西島、リュウナ、東青の3人が仲良く鍋を食べている。
無表情な西島も好きな魚介類が入っているためかどこか嬉しそうだ。
「おお〜! カニ鍋なんて初めてだ! その他も豪勢だし!」
ガツガツと陽山がカニ鍋を食べだすと一緒にいるライフェットも思わず頬を緩ませる。
「隼瀬は酒があるからのむか?」
「あー、実は俺弱いんだ‥‥だから、直人と同じもので乾杯しよう」
酌をするために直人が猪口を傾けようとすると隼瀬はオレンジジュースのビンをコップによそって見せた。
カツンとグラスを二人はあて、照れくさそうに笑う。
「じゃあ、その酒俺が貰うぜ‥‥今夜は気合がいるんだ」
横から猪口を取ると剣はグイっと一気に飲み干し、他の卓の酒も飲みだした。
「ほら、亮君。はい、あーん」
「あ、あーん」
また、別の卓では守部と亮が人目もはばからぬほどにいちゃついている。
「若いな‥‥俺もあんな時期があったな」
初々しくも楽しげな光景を見ながらリヴァルは料理を楽しんた。
●壷風呂を楽しもう
「う、うぅ‥‥昔従姉妹たちと一緒に入ったのとはワケが違いすぎる‥‥」
「あ、あの恥ずかしいから後ろを見ないでくださいね」
衝立で仕切られた屋外の壷風呂の一つにアリステアと千早は背中を合わせるようにして入っている。
空には星が浮かび、少し冷たい風が吹くが火照る体には丁度よかった。
「こうして二人で遠出って、去年の秋に英国に航空ショー見に行った時以来かな?」
「はい、最後に観覧車も乗れてよかったです」
相手の顔を見ないまま、取り止めの無い話を二人はする。
何気ないひと時がとても嬉しい瞬間だった。
「千早さん大丈夫?」
「へ‥‥? あ、は、はい‥‥大丈夫ですよ、大丈夫‥‥あ、あれ?」
しばらく会話をしていたが歯切れの悪くなった千早を心配し、アリステアが横目で確認すると千早は壷の端にぐったりと体を倒す。
「ち、ちはやさーん」
静かな夜にアリステアの大きな声が響いた。
***
「何かあったみたいね」
「そろそろ引き上げ時か?」
体を流し合い、寄り添って小さな壷風呂に入るアルヴァイムと悠季は声の主を気にかける。
「この後はもちろん‥‥ね?」
腕に胸をあて悠季が赤い顔でアルヴァイムを見上げた。
言外に何があるのかもう知らない仲ではない。
「判った、受けて立とう」
アルヴァイムは一言、そう答えた。
***
「お食事‥‥美味しかった‥‥です」
冬樹は一人壷風呂に体を沈めながら料理のことを思い返す。
温泉目的できた今回の旅も明日の天橋立を残すばかりだ。
「気持ち‥‥いい‥‥です」
湯船に沈めながら今日の出来事を思い返す。
ピクニック気分を久しぶりに味わい、不思議な杉崎や頼れるミカエルとも一緒に過ごせた一日。
大切な思い出が一つ増えたなと冬樹は思うのだった。
●覗きは犯罪です
ガコッという鈍い音が浴室に響く。
そーっと女湯の方へ近づこうとしたナイトハルトの頭を翡翠の投げた桶が直撃したのだ。
「麻宮がやると思っていたが、伏兵がいたとは」
「い、いやですよぉ。本当に覗くわけないじゃないですか」
乾いた笑いを浮かべてナイトハルトは否定する。
「ワカイっていーよね。そういえば、おっきーはそーゆー話はないの?」
「あるといえばあるけど、無いといえば無い」
翡翠たちのやり取りを見ていたラウルは沖那の背中を流しながら聞き始めた。
「もう少し詳しく聞かせてもらおーか」
「べ、別にいいだろっ! ラウルの方こそどうなんだよ」
「僕はープロポーズの返事待ち、デス‥‥ともかく、部屋に帰ったらじっくり聞かせてもらうヨ」
「恋バナは温泉旅行の常ですなぁ」
「まったくそうですねぇ」
湯船にはラウルと沖那のやり取りを眺める米本と蓮角の姿がある。
食膳食後、さらに深夜と翌日朝も入ろうと決めているほどの温泉好きな二人だった。
「このあとは上がったらコーヒー牛乳飲んで、卓球やってかな」
「いいですなぁ、卓球は私も是非やらせていただきますよぉ」
顔を洗い檜の香りを楽しんだ蓮角が思い出したかのように呟くと米本は嬉々として乗る。
「日本の温泉ってそういう流れなんですね。雪原へダイブ‥‥は雪が降って無いからないですか」
米本と蓮角の日本の温泉作法を聞いていたミカエルは関心しきった顔で頷いた。
「よし、ミカエル。皆で上がってコーヒー牛乳を飲むぞ。腰に手を当てて喉を鳴らすのが礼儀だ」
「へーそうなんだ。日本って違うんですね」
杉崎から微妙に間違った知識をミカエルは刷り込まれる。
「おいおい、変なこと吹き込むなよ」
沖那が静かに突っ込みを入れるが誰も聞いてはいなかった。
●夜の過ごし方
「ん、美味しいね‥‥これ」
「こっちも美味しいですよ、はいあ〜ん」
「あ〜ん」
個室ではウラキとクラリアが遅めの夕食を取っている。
ウラキの希望で料理を運んでもらったのだ。
日本風のフルコースともいえ、飯や汁物、煮物や焼き物などさまざまな料理が並ぶ。
口をあけた中に入れられた焼き魚は身がしまっていて美味しい。
「‥‥頬、何かついてる‥‥」
ウラキはクラリアの頬についているご飯粒をとってそれも食べる。
少し前までは銃が恋人だったウラキにとって何もかもが新鮮だった。
言葉を失ったクラリアが明るく話してくれる姿がとても嬉しい。
「今日、いろいろありましたね。楽しかったです明日は‥‥あ」
食事も済ませ、雑談を続けているとウラキはまぶたが重くなってくるのを感じた。
それに気付いたクラリアは布団を引きずってきて横になるように促がす。
横向けになり、薄らぐ視線の中クラリアの顔がぼやけて見えた。
「おやすみですか? ‥‥おやすみのキス。ほっぺか唇、どっちがいいです?」
妖精のような声がウラキの耳に聞こえるが、なんと答えたのか覚えていない。
只一つ、柔らかい彼女の唇がそっと体に触れたのだけは判った。
***
酒を傾け、雑談に興じていたこうきと剣が二人部屋でゆっくりと寝ようとしたとき、事件がおきた。
「こぉきぃ〜」
「ちょっと、剣!?」
目の据わった剣が浴衣が肌蹴るのも気にせずに布団にもぐりこみこうきの胸に自分を胸をくっつけてくる。
こうきの心臓が早鐘を打ち、体が緊張でこわばってきた。
「なぁ、俺たち‥‥恋人だろぉ?」
いつになく甘えた声を出した剣が白い肌を上気させ、馬乗りになって布団へこうきを押し付けてきた。
外見ではこうきの方が逞しいのだが、力は剣の方が上であり抵抗しても押しのけることは出来ない。
もっとも、緊張でそれどころではないのだが‥‥。
「もっと‥‥距離を‥‥」
キスをするように剣の顔がこうきに近づいてくるが、唇には当たらず肩に顔が落ちた。
「う‥‥つる‥‥ぎ?」
「んにゃぁ〜、こうきぃ〜あいしてるぜぇ〜」
「俺も愛してるぜ‥‥剣」
むにゃむにゃといっている剣を、緊張した体に激を飛ばして優しく抱きとめたこうきは静かに耳元に囁く。
口にするだけ恥ずかしいが大切な言葉を‥‥。
***
「お兄ちゃん、一緒にお話しよ」
「わかったよ、何かの手違いで相部屋みたいだから寝るまで付き合うさ」
食事も終わり、風呂も済ませた光がフラフラ歩いていると浴衣姿の歩が声をかけて来た為二人は部屋に戻る。
「京都観光したのは一年半くらい前、ラストホープに来た頃に紫陽花祭りって言うのに参加して以来だな」
「そうなんだ、私が能力者になったのは去年の10月だから、ずいぶん前からがんばっているんだね」
お酒をお酌しながら歩は麻宮の話に耳を傾けた。
自分の知らない麻宮を知ることが自分にとって大切な宝物になるのだから‥‥。
「世界中飛び回っているしな。ここもあの頃からよくなったのかわからないな‥‥」
「私もお兄ちゃんと旅行ができて嬉しいよ。また一緒にこれるといいね」
沈んだ顔をする麻宮を心配し、歩が上目遣いで見つめる。
「ああ、そうだな」
妹と慕ってくれる存在に向けて麻宮は優しい微笑みを返した。
***
「一曲弾くか‥‥」
窓に腰掛け月を見ながらアコースティックギターを鳴らした。
緩やかに子守唄のような旋律が平良磨理那の屋敷全体に広がっていく。
友情を越えた愛情を持つもの同志で抱き合って寝る、緋音と美沙。
夫婦になった喜びをこれから結婚を控える磨理那に話すシーヴ。
兄のような存在とライフェットと、妹と思いながらも意識して眠れなくなる陽山。
同じ布団で一緒に寝ているにも関わらず目が冴えてしまっているアリステアと千早。
眠りながらも布団に入ってきた守部を優しく抱きとめる亮。
約束どおり夜の庭を散歩する東青と西島。
深夜の風呂を楽しむ米本と蓮角。
個室で愛を語る人もいれば、
大部屋で雑魚寝して、修学旅行のように過ごす人もいる。
多くの人間がこの一箇所で昼間の思い出を胸にそれぞれの夜を過ごしていた。
●天橋立にいこう
「はーい、皆さん元気ですか? 修学旅行希望の方はこちらですよー」
バスガイドの衣装を着た緋音が元気に旗を振っている。
コースは松並木→磯清水→岩見重太郎仇討ちの場→橋立明神→トワイライト・レールロードと名所を押さえた構成だ。
「ボスのバスガイド姿に合いすぎます」
奏歌が旗を振る緋音を見ながら感嘆の声を漏らす。
「ツアーももう終わりなんだね‥‥寂しいけど、その分一杯楽しもうね、奏ちゃん」
「カンパネラの制服を着ていると本当に修学旅行ですよね」
ナイトハルトは旗を振る緋音や周りいる同い年くらいの女の子達をみて呟く。
「ほ、ほら須佐さん! よそ見していると置いてかれちゃいますよっ!」
「あ、ああ‥‥」
カンパネラ学園の制服を着た美沙が少し離れたところにいる須佐の腕を引っ張ってきた。
「苦手だからって避けちゃだめですよー。じゃあ、一緒に行きましょう」
美沙の反対側に緋音がつき須佐を挟んだ形でツアーが始まる。
「写真、終わる頃に撮れたらいいな」
ナイトハルトはカメラを持ちながら空を見上げる。
今日もいい天気だった。
●歩きながら‥‥
「前を向いて生きることは良い事だ。でも人間は前ばかり見てはいられない。横を向いたり、後ろを振り返ることもある」
「何じゃ藪から棒に」
笠松公園を歩いているとつーが磨理那へ急に話を切り出す。
「磨理那さんが将来京都を治める長になり、結婚して妻になり、懐妊して母になり、年月を経ておばあちゃんになっても、ふっと今日のことを思い出して懐かしむことができるように」
真剣に語るつーの顔を磨理那は見上げた。
自らを鬼と名乗り、酒を飲み続ける不思議な男‥‥。
「今日をそんな日にしたい、いいかな? かぐや姫」
「妾をかぐやと申すなら、もっといろいろなものを謙譲せよ。努力がたらんぞ」
ふっと細めた目を見つめられずに目をそらして磨理那は答えた。
「シーちゃん、さすがにワンピで股覗きはどうかと思うよ」
「ここまで来たらやらねぇのがおかしいです」
丁度、股覗きスポットについたため、そこではシーヴやライフェットがスカート姿で股覗きをして景色を楽しんでいる。
「なんじゃな‥‥今日こうしてそち達と旅が出来たことは嬉しく思うぞ。大切な思い出じゃな‥‥」
二人して眺めながらも磨理那は顔を合わせずにつーへと礼を述べるのだった。
●帰り道
「年内なら花嫁姿みられそうね」
シュブニグラスは磨理那を迎えに来た吾平に近づき、静かに話す。
心配なのはこのまますんなり結納までいけるのかどうか。妨害をされる危険は今の所ないのか確認をしたかった。
「京都市は政治的に安定しておりますし、妨害等はないでしょうが‥‥私はてっきり能力者の鬼が姫様を浚うかと思うておりました」
「今のところは彼、応援しているみたいだからそれはないんじゃないかしらね?」
「しきたりを守るのも大事ではありますが、姫様には幸せであって欲しいと私は思うております」
「結婚相手がどんな人かわからないけど、平良さんに何かあったら、とてつもない数の傭兵を敵にすることになるわね」
私もその一人だけどと付け加えシュブニグラスは苦笑する。
一年半ほど前、紫陽花祭であってからというもの磨理那の成長を見てきた自分が今、ここにいるのだ。
「それでは姫様を連れて帰ります。式の折には招待状をだしますので、そのときはよろしくお願いいたします」
吾平は頭を下げ、シュブニグラスから磨理那の方へと歩いていく。
視線を巡らせると、西島と東青が手を握りあうのが見えた。
お互い恥ずかしがっているのか視線がそれ、初々しい。
「私の思い出もまた一つ増えたわね」
二人の光景を心のファインダーに納め、シュブニグラスは微笑みを浮かべるのだった。