●リプレイ本文
●試合前
「くくく‥‥楽しくなって来たぜぇ」
トイレといって10分ほど離れていたOZ(
ga4015)が列に混ざる。
「ずいぶん遅かったようですが、何をしていたのですか?」
覚醒をし、いつもよりも感情を抑えている優(
ga8480)が冷めた言葉をOZへかけた。
「野暮用ってとこだ」
OZは鼻歌を歌いながら暗い通路を抜け、歓声と光りの差し込む闘技場へと足を踏み出す。
(「ここで勝てばバグアの情報ゲットで俺の株も上がるってもんだぜ」)
クソッタレな人間の見世物にされる試合がここで始まろうとしていた。
●仮面武闘
「全力で行くが、今回は殺せんな。片手間じゃ不可能だ」
「ああ、仕留めるのは次の機会まで取っておこう‥‥」
息苦しいほどに思い空気の中、緋沼 京夜(
ga6138)と杠葉 凛生(
gb6638)は小さく言葉を交し合うと攻撃に出る。
緋沼が先に踏み込み、雷光鞭をマスカラードに向けてしならせた。
電磁波が80cmの鉄鞭から迸りマスカラードの肉体を焦がす。
「物理よりもまだ有効か‥‥次に合うときの参考にさせてもらおう」
「ついでにこれも受けろ」
緋沼が身をかがめると拳銃「マモン」と拳銃「ラグエル」を構えた凛生が貫通弾をこめた射撃を<二連射>で叩き込む。
「いい闘志だ、そうでなければ全力を持って相手をするに失礼だ!」
マスカラードは攻撃を受けながらも高揚しているかのように叫び動きだした。
「余所見をしているなよ、いや助けることを第一に考えればいいんだろうがなぁっ!」
威龍(
ga3859)が牽制の拳を放つ。
カニの爪状なつくりをしているグランキオフォルフェクスがマスカラードの首元を狙ったが、視界からマスカラードの姿が消える。
正確には状態を屈めながら回転し、ティヘラと呼ばれる両足で頭を掴む体勢に入ったのだった。
威龍が頭をつかまれ回転して地面に叩き込まれ、肘で置いて追い討ちをされる姿を見た抹竹(
gb1405)は背筋に寒気を感じる。
「こんなことで怯えている場合ではありませんね。こちらの不手際で囚われてしまった彼らを助けなければ」
自分に言い聞かせるように目的の再確認をした抹竹はフォルトゥナ・マヨールーの使える射程まで踏み込んでトリガーを引いた。
しかし、マスカラードの勢いは止まらず、銃弾を体で受け流し緋沼へ狙いを定めて、旋回して加速をつけたボディアタックを仕掛ける。
「戦いが全て語る‥‥さあ、やるか」
ボディアタックを持ち替えたデカラビアで受け止めながら、軽く下がりカウンターステップで踏み込みながら<豪破斬撃>と<急所狙い>を返した。
斬り裂かれた肉から血が流れるもマスカラードは全身をばねにした回転蹴りを叩き込み、凛生の射線を緋沼で隠すようにして緋沼そのものを追い立てる。
「味なことを‥‥だが、お前の本気、楽しみになってきた」
強い攻撃を受けながらも緋沼は憎悪をたぎらせ、反撃のチャンスを伺うのだった。
●戦闘狂
「ったく、悪趣味なのが滲み出てるわね 吐き気がするわ」
「ギリシャの剣闘士、アメリカのストリートファイト、タイのムエタイ‥‥どれもこれも人類が賭けをしている格闘技だろ? てめぇらはそういう生き物なんだよ。ここに”死合い”を楽しむギャラリーだっているんだからなぁ?」
冴城 アスカ(
gb4188)が毒づくとアスレード(gz0165)は目をぎらつかせ両手を広げながら吼える。
呼応するように観客が大きな声をあげた。
ここにいるものは人類でありながらもバグアの庇護の下、大きな金を得ている者達なのである。
「さっさと終わらせて帰るわよ!」
「もちろんだ」
返す言葉の無いアスカは藤村 瑠亥(
ga3862)と共にアスレードへ肉薄した。
藤村が二刀小太刀「疾風迅雷」を瞬時に抜くと共にアスレードを真っ向から斬る。
能力者の筋力から繰り出される二刃の軌跡にアスレードの動体が斬られ血が溢れた。
さらにアスカの脚甲「ペルシュロン」がアスレードの顔を蹴り飛ばし、地面へとその顔面をぶつけさせる。
「ククク、流石に30%じゃあダメだよなぁ?」
体を回転させて倒れたはずのアスレードは立ち上がり、斬られた部分の血を舐め取って笑った。
「これで終わりとはいわないわよね、ダンスのお相手してくださる? 断るなんて言わせないわよ」
「そっちも精々楽しませてくれよ、なぁっ!」
倒れたアスレードを見据えていたアスカだったが声が背後から聞こえてくる。
「くっ、早いっ!」
振り出されたアスレードの裏拳を<瞬天速>を使い間合いをステップバックすることでアスカは交しきった。
「今のうちにいかせてもらうぞ」
アスカに集中しているアスレードを尻目にレティ・クリムゾン(
ga8679)が救出のために動くがアスレードは逃さない。
「おっと、そうもさせないよっ!」
ベルディット・カミリア(gz0016)がレティに迫るアスレードへ銃を持って応戦を行った。
「いいぜ、テメェらまとめて相手にしてやるぜ!」
能力者を数人相手取りながらもアスレードは嬉々として戦いに身を投じる。
これが闘争を常に求める、ゾディアックリーダーたる男なのだ。
●九死に一生、起死回生
「威龍さん、大丈夫ですか?」
「あ、あぁ‥‥からだがガタガタだが、まだなんとかな」
抹竹に手を貸されて起き上がった威龍は口から黒ずんだ血と共に折れた歯を吐き出す。
たったの数撃を受けただけで体はガタガタだった。
「動けるなら救出を優先だ。サンタに闘技場、変わらずの演出好きだなが、アスレード。お前のゲームでは負けた事が無いし負ける気も無い」
レティが声を上げ、二人は頷いて答える。
アスレードへ牽制攻撃をしていたベルディットも救出しようと4人の張り付けにされた能力者へと近づいた。
各自は担当を分けていたために流れはスムーズに運ぶ。
「馬鹿が、もっと俺を放すべきだったなぁっ!」
アスレードの手から指弾が飛び4人の体へ銃弾よりも鋭い一撃を見舞った。
しかし、4人は自らの痛みよりも救助を優先する。
「ハハンッ! アンタも余所見が過ぎるぜぇっ!」
アサルトライフルを構えていたOZが閃光手榴弾を投げ込み<影撃ち>と<制圧射撃>を合わせて放った。
だが、閃光手榴弾の効果発揮は30秒後、10秒の間に多くの行動が可能なバグアにとって十分すぎる余裕である。
土煙を上げて飛び交う銃弾をアスレードはガードの体勢を取って受け止める。
ダメージを求めてはいない、全ては時間を稼げればいいのだ。
「此方の相手もして貰いますよ」
排除が一番だと思いながらも優は時間稼ぎと少しでも手傷を負わせるために動き出す。
指弾の射線をさえぎるように動きながら月詠と機械刀「凄皇」を使い、<流し斬り>と<ソニックブーム>を乗せた斬撃による衝撃波が地面を斬り裂きながらアスレードへ喰らいついた。
計4つの側面を狙うようなソニックブームが浴びせられるも、痛がる声は土煙の中から聞こえてはこない。
「いいぜぇ、大分いい感じに仕上がってきたなぁ。殺すのが楽しみになってくるぜ」
「いつまでも茶番に付き合ってる暇はないわ 帰らせてもらうわね」
アスカが土煙の晴れた瞬間を狙って拳銃のシルバー・チャリオッツを引き抜きアスレードの眼を狙って撃つ。
余裕の笑みを浮かべるアスレードの顔にアスカの放ったペイント弾が叩き込まれ、ピンク色の塗装が顔に広がった。
間髪いれずにアスカは<先手必勝>を乗せた<瞬即撃>の膝蹴りでアスレードの股間を狙う。
視界が潰されたはずのアスレードはそれでも<瞬天速>のような動きで間合いをずらすが反撃には一歩足りなかった。
「このチャンスを逃すわけにはいかない」
カウンターを捌いてきた藤村は転じて攻撃に出る。
軸ずらしや、ダッキング、スウェーバック、バックステップを使いアスレードの拳や蹴りを寸でのところではあるが避けてきていた。
「その声、いいぜェ。テメェの技を感じさせてもらうぜ」
アスレードは口元に笑みを浮かべつつ、藤村の剣戟を避けではなく受けるが、押されているのが誰の眼にも明らかである。
10秒ではあるが出来た隙[チャンス]この行動が全てを決めた。
●闘志尽きるまで
ドォゥンという音と共にキメラ闘技場が震えた。
マスカラードを中心に衝撃波が放たれたのである。
「「予測済みだ」」
緋沼と凛生が声をそろえて衝撃を受け止め、反撃へと転じた。
地面に拳を叩きつけて動きの止まっているマスカラードへ凛生が低い悪魔のような声をあげて貫通弾の入ったマモンとラグエルが火を噴く。
「はは、残念だったな‥‥最後に目に焼き付けたものが緋沼と俺だなんてな」
飛び出してきた弾丸が凛生の憎悪を体言するかのように真っ直ぐマスカラードの眼を抉ろうと迫った。
顔を何とかそらせるものの一発が目を潰し鮮血をリングへと撒く。
痛みもあるだろうが、転がるものの加速をつけたマスカラードの足が緋沼の胴体をつかんで回転の力を合わせて凛生に向かって投げた。
「まだ終わらんぞ」
そのまま側転からさらに加速をしマスカラードは軽く飛び上がりながらフライングボディプレスで二人をその強固な肉体の下敷きにする。
内臓への衝撃が二人を襲い、血を吐き出して身悶えた。
「これで終わりにしよう‥‥片目への一撃は見事だった」
「終わり‥‥? それは貴様の方だ」
倒れていて、トドメを刺されるのを待つだけと思っていた緋沼がマスカラードの追い討ちの蹴りを転がるように避けて立ち上がり、後頭部へ<紅蓮衝撃>と<豪破斬撃>の合わせ技を斬りつける。
焔を帯びた剣が後頭部を裂いてマスクを剥がす。
「くっ‥‥このマスクを剥がすとは許してはおかないっ!」
「元から許しを請うつもりは無い。力をそぎ落とさせてもらうぞ」
血を流しながらもマスカラードは振り返り、緋沼へと拳を向け、緋沼もサタンでもって応戦した。
二人の影が重なりあい、激しい戦いの音が響く‥‥。
●救出作戦
試合開始から20秒が経過していた。
「よし、解放はできた。急いで撤退する。すまないが援護を頼む」
レティは乞食のようにみすぼらしい姿にされた女サイエンティストを抱えながら仲間に大きな声で伝える。
ベルディットがエクセレンターを、抹竹がファイター、威龍がグラップラーを抱えて撤退をはじめた。
「もうすぐで助かりますよ、気をしっかり」
「そうだ、必ず生きて帰るぞ」
威龍も抹竹も傷だらけではあるが人質を不安にさせないように声をかけて全力で逃げだす。
「楽に通れると思うなあっ!」
顔を拭ったアスレードの拳から指弾が飛び、一番傷ついている威龍を狙った。
「楽に通させせるとも思わないでください」
だが、指弾の軌道に優が立ちはだかり身を持って受け止める。
傷を<活性化>で防ぎ強い意志を持った目でアスレードを見据えた。
「その通りよ、あっちに気を駆けてないでこっちの相手をしなさいよ」
「相手をしてやる、だが少しばかりマジになるぜ?」
アスカからの蹴りをアスレードは片手で受け止め、ニヤリと笑ったかと思うと足を握り締め武器を振るようにアスカの体を地面に叩きつける。
クレーターが浮かび、その衝撃のすさまじさを物語ったが、さらに二度、三度と叩きつけ最後にアスカを投げ捨てた。
現実離れした光景にさすがの観客も静まる。
「次はテメェだ」
「相手に‥‥なってやる」
戦慄を感じる藤村だったが、逃げる隙を作るために閃光手榴弾に手をかけた。
「そいつがはじけるのは30秒後だ。その間に立っていられると思うなよ?」
腰に下げていたためアスレードに見切られている。
たとえ、タイミングをかけたとしても30秒の間、片手で戦い続けられるかといえば難しい‥‥。
今、この状態でさえ1分もたっていないのだ。
<瞬天速>で間合いをはずそうとした藤村を同じ歩幅でアスレードは追いかけてくる。
膝が軽く浮き上がり膝蹴りであると藤村は感じた。
攻撃を避けながらもアスレードの動きを集中して観察し、得たのである。
膝蹴りを藤村が軸ずらしで避けようとしたとき動きが変わった。
後頭部へと足の先が伸びてきて対処が遅れる。
「テメェはいい男だったぜ。だから、俺から刻印を与えてやる。もっと楽しめるように生き延びろよ」
鮫のように笑ったアスレードが抜き手を出し藤村の腹に4本の穴をあけたのだった。
●犠牲を払って
「あと少し、勝利はいただきますよ」
抹竹と威龍が人質を連れながらも出口へと後一歩というところまで近づく。
「く‥‥逃すか」
「それは‥‥」
「こちらの台詞だ」
片目と後頭部からおびただしいほどの血を流すマスカラードが二人を追いかけようと動くが足に緋沼の雷光鞭が巻きついた。
重体となった体でも最後の闘志を緋沼は見せ、呼応するように凛生が<二連射>を使ってありったけの銃弾を叩き込む。
しかし、凛生が4回目の引き金を引いたとき、覚醒が解けた。
練力の使いすぎである。
「全力をもって抗うならば、全力を持って叩き潰そう」
フライングニードロップをマスカラードが凛生に叩き込んでいる間にレティ、威龍、抹竹の脱出は全て整う。
「テメェらの勝ちだなぁ、傭兵! だが、このゴミはどうするつもりだ? いいぜ、逃げてもこいつらで楽しませてもらうだけだからよ」
転がっているアスカを足蹴にしながらアスレードは高笑いをした。
「俺も下衆だと思っているがアンタもかなり下衆だな」
OZは鼻で笑いながらアスレードを褒める。
緋沼、凛生、アスカの3人が瀕死の重傷であり抹竹、威龍も戦闘を続けるのは厳しい。
優と藤村はまだ戦えるが3人を助けながらは無理だ。
「彼らには悪いが逃げるしかない」
威龍が静かに言葉を発する。
「だが、誰一人として欠けずに脱してこそ、あのアスレードに人泡吹かせれるのに‥‥」
レティが悔しさに顔をしかめていると、ベルディットが<豪力発現>でもって強化された筋力で投げ飛ばしたエクセレンターが落ちてきた。
「悩んでいる暇があったらそこの3人を抱えてにげな! OZの閃光手榴弾が爆発するまで後20秒、チャンスは今しかない。なぁに、あたいが時間を稼ぐさ」
銃とファルシオンを構えたベルディットは赤い髪を靡かせてレティに言い放つ。
アスレードとマスカラードは挑発をしたベルディットへ迫った。
「無茶ですよっ!」
「元から無茶な勝負だ、一人が犠牲になって7人救えりゃ上等さ! ウダウダいってないで、早いところ脱出するんだよっ!」
藤村と優がアスカを回収し、抹竹と威龍が緋沼と凛生を助ける。。
「あたいの名前を知っているかい? ナパームレディ、ベルディット=カミリアさっ!」
仲間達が逃げアスレードが動いた瞬間、ベルディットは懐からスイッチを出して、押す。
キメラ闘技場を揺るがす激しい爆発がベルディットを中心に起きたのだった。