●リプレイ本文
●勇者の帰還、そして新たなる旅立ち
ほんの一日前のこと。
「蒼き魔女の死の商人という異名は伊達ではなかった‥‥」
ゴ・ディーヴァと呼ばれる土地への遠征からバグア国の騎士団長ブルーレイン・ベルナール(葵 宙華(
ga4067))は血に汚れた鎧で王城へ辿りつく。
久しぶりの故郷で妹のように甘やかし甘えられる存在のアスレードの元を尋ねようとすると神官のハンナ・ルーベンス(
ga5138)がブルーもとへと駆けてきた。
「ブルーレインさん。遠征お疲れ様と言いたい所ですが‥‥また姫様が家出あそばれました。‥‥私の言いたい事と、為すべき事は判りますね?」
笑顔で話すハンナだが、目が笑っていない。
アスレード姫の教育係であり、花嫁修業の予定を消化してもらおうと常に目を見張っていたのだった。
怒り心頭なのは最もである。
「分かった。今動ける者を集め、姫を救いにまいりましょう」
ブルーレインは遠征帰りであっても姫がどこかに言ってしまったの仕方ない、捜索隊を結成すべきである。
集まったのは暴れん坊ロジー(ロジー・ビィ(
ga1031))と魔法剣士シャオ(宵藍(
gb4961))の二人だけだった。
それほどまでにゴ・ディーヴァでの戦いは厳しかったのである。
「ぶっちゃけ自業自得だろ。チョコ食いまくるからこうなるんだよ。俺も後の楽しみに取っといたの、何度も盗られたっけ‥‥」
「何か異議あるのでしょうか?」
ゆらぁり揺れたハンナの気配にシャオは口をつぐんだ。
「姫、今から助けに参りますわっ!」
「お、おう‥‥ロジー、頑張れ〜」
しかし、そんなハンナの黒い気配など気付かないロジーはピコピコハンマーを何度も震い出発への気合を入れている。
「頼もしい仲間のはずだが、何故だろうな‥‥この不安は」
「大丈夫ですよ、教育係の私と執事のサクリファイス(
gc0015)がついていきます」
「ええ、実はどうでもいいなんて、言えませんよね」
執事は何かブッチャケているし、ハンナは黒いオーラが漂っていた。
ブルーレインはメンバーに不安を感じながらも姫を探すために一肌脱ぐ。
そして、そのとき国王からアスレード姫が魔王城に連れ去られたため、助けて欲しいとの命が下るのだった。
●魔王の間
「魔王ブラット様、勇者達がやってくるようですが気にすることはありません」
マントを翻したハインリッヒ・ブラット(gz0100)の背後にゴスロリ衣装に三角帽子を被った少女がすぅっと現れた。
悪いゴスロリ魔法使いさやちゃん(里見・さやか(
ga0153))と自称する少女はくすくすと笑う。
「堕天使アゲット(Anbar(
ga9009))も魔王様のために戦いましょう」
中性的な装いで、左羽根が漆黒で、右羽根も付け根部分まで漆黒に染まっている天使と思える少年がブラットに向かってかしずいた。
(「魔王様のご趣味は正直分からないが、まあのようにお喜びになっているんだ。その幸せが少しでも長く続くように務めるのが臣下たる俺の役目というものだろうな。邪魔者には早々に消えて貰うことにしよう」)
アゲットとさやちゃんは暗闇の中へひっそりと消えていく。
3人の動きを結晶の中で眠るアスレード(gz0215)姫はただ、見守るだけだった。
●潜入、魔王城
「姉様、もうやめない? あんな魔王なんかに従うの姉さんならこんな世界奪えるのに‥‥」
サキュバスのレイ(柿原 錬(
gb1931))は双子の姉であるメイ(柿原ミズキ(
ga9347))に愚痴る。
「レイ分かってるけどさ、そういうの飽きちゃったんだよね‥‥それに今は力がつかえない」
これから勇者達を出迎えるというのに二人の態度は城内の魔物達とは違っていた。
メイにとって、双子というよりも魂を分けた存在であるレイがこのような精神を持つとは思っていなかった。
それでも、この『世界』も潮時ということだろう。
「おい、そこのお前ら! 俺の姫様をどこにやった!」
窓から飛び込んできた綾瀬 怜央(綾河 零音(
gb9784))が二人の背後から怒鳴り散らす。
「やれやれ、折角の姉様と二人きりだったのにさ‥‥」
「愚痴るのはそこまで、相手は一人だよ。さっさと片付けちゃおうか」
剣を構えて、目を光らせるレオにメイとレイは薄く笑いながら近づくのだった。
●世の中は計算どおりに行かない
さやちゃんは第一の広間で待っている。
勇者を倒せば中堅どころから幹部にまで出世ができるのが決まっているのだ。
あの牛男には負けられない。
「この軍師サヤがいる限り、魔王様のところへは行かせません! かかれ!」
『ウォォォォッ!』
頭に『Loveさやちゃん』という鉢巻をつけたゴブリン達が棍棒を持って部屋に入ってきた勇者一行に襲い掛かった。
卑怯も減ったくれもない、勝てば官軍なのである。
「雑魚は寝ていて下さいのーっ!」
ロジーの手から謎の光りが飛び出す。
『メガー、メガー!?』
光線を浴びてゴブリン達の勢いが衰えた。
「楽できそうなことしてくれるじゃないか」
一歩下がったところから適当に剣を振るってシャオがゴブリンを倒していく。
「もう、私の邪魔をしないでください‥‥姫様! どこにいるのですか!」
「な、なんなんですか!? あの修道女!」
パチンパチンと張り手でゴブリンをいなしていく修道女ハンナにさやちゃんは戦慄した。
棍棒を持っているゴブリンが殴りかかろうものなら当て身投げで飛ばすハンナはハンパない。
そのとき、横の壁が砕けてレオが転がってきた。
「げふっ‥‥モテル男は辛いといっても魔族相手はきつい‥‥」
服は汚れ、口元から流れる血をレオは拭う。
足元には瓦礫に潰されたゴブリン達がいるが気にしない。
「あ、お前はブルー! 婚約者だってのに連れ去られているとは何事だよ!」
レオが気にしたのは広間で戦っているブルーだけだった。
いきなりの展開にアワアワし始めているさやちゃんはアウト・オブ・ガンチューである。
「我とて事情がある。汝こそ、この期に及んでまだ姫の周りをうろつくか」
ブルーの剣がレオの狙って振るわれるが、頭を下げて交わすと背後から襲いかかろうとしたゴブリンが斬り裂かれた。
「フ、不意打ちが読まれていますとぉ!?」
さやちゃんは目の前の出来事に驚く、出世どうのよりもうリアクション担当なのは仕様のようにさえ思える。
「さぁ、蹴散らしますわよぉ〜」
小太刀二刀流を構えたロジーが指揮官が動揺し、混乱の生まれ始めたゴブリン軍団をザッパザッパと斬っていった。
勢いあまったソニックブームがゴブリンを通り越して広間を支える柱すら貫通する。
「あー、楽させてくれ! 面倒ごとはごめんだ!」
突然現れてブルーとひと悶着しながらもゴブリンを倒すレオや、ソニックブームで部屋を壊そうとするロジーなど酷い有様にシャオは深く息を吐いた。
その間にも<氷嵐剣>と呼ばれる凍てつく風を放つ魔法剣で倒壊を防いでいる。
「いやいや、実に混沌で面白くなってきたじゃないですか」
魔法の杖『あさるとらいふる』を使って魔弾を飛ばすサクリファイスは本音をブッチャけながら援護をしていた。
否定したいが、彼の言葉は正しい。
「くぅ、負けませんよ! せめて給料あっぷ、ボーナスを勝ち取るまではがんばります! ゴブリンでダメなら」
「アゲットも高みの見物のようだし‥‥頑張ろうか」
「あいつ、パイドロス壊すなんて‥‥許さないからね」
合流する前、レオと闘い傷つけられたレイが怒りを露にした。
魔王軍の3人も気合を入れなおし、ようやくシリアスな戦闘がはじまろうとしていたが‥‥。
「「「うるさいっ! 外野はだまっていろっ!」」」
ブルー、レオ、ハンナの3人が痺れを切らして大きく暴れ、瞬く間に一掃されてしまうのだった。
●闘いは続く
『さやちゃん‥‥そんな起きてよねぇ、起きてってば』
倒れているさやちゃんに向かってレイが叫んでいる。
血にまみれたさやちゃんの仇を討とうとレイが立ち上がったところで幻影が途切れた。
「サヤやメイ、レイを破ったことで意気が上がっている所悪いが、あやつ等は所詮魔王軍の中の小物に過ぎないんでね。真の恐怖と言うものを今から味わわせてやるぜ」
堕天使アゲットは頬だけで笑うと自らの部屋を後にした。
アゲットがいなくなったくらい部屋、幻影を投影していた水晶が再び光りを帯びる。
『姉さん一つになろう‥‥真の力見せてやろうよ』
『仕方ないね‥‥そうするしかないか』
移った映像は勇者達が抜けてレイとメイの二人だけになった部屋。
傷ついた二人の片手が合わさると黒い光りと共にレイとメイの姿が合わさるような幻が浮かんだ。
●決戦! 魔王の間
「いつまで寝た振りをしているんですか? 姫様‥‥魔王の策略によってさらわれようと思い付いた着眼点は評価致します。‥‥ですが、それで私の花嫁修業から逃げられると思ったのがそもそもの間違いです。‥‥遅れた分は特訓で取り戻しますから、これに懲りて二度とさらわれようとはなさらないで下さいね」
氷付けになって眠るアスレード姫に対してハンナは近づきいきなり説教を始めていた。
「フハハハ、どれほど言っても無駄だ。姫は美しいまま私の傍に永遠に置かれるのだ」
ばさぁっと黒いマントを翻した魔王ブラットがその姿を現す。
黒い甲冑に身を包み、シュオンシュオンと闘気を放つ姿は周囲の温度を下げた。
「何故生きておかせたのでしょうか? 生きているから助けに来る、いっそ殺してしまえば永遠に貴方の物となったでしょうに」
魔王に対して執事のサクリファイスは慇懃無礼な態度を崩さずに誘いをかける。
心なしか周囲の温度がちょっと上がる。
「魔王ブラット‥‥我の姫を返してもらう」
「いーや、俺の姫様だ」
剣を持ったブルーとレオが互いを牽制しながら魔王への敵意をむき出しにした。
「いいだろう、アゲットと共に相手をしてやろう。この私が主役であることをその身に教えてやろうではないか!」
残念な台詞を口にしながらブラットがマントを翻してシュオンシュオンという音をより強める。
「お前ら絶対ゆるさねぇ!!」
ブラットに向かってレオが剣を振り上げてブラットへと斬りかかるがアゲットが割り込んで障壁を張った。
「どうした? その程度か?」
「何だとっ!?」
バチィンと弾かれるもレオは着地をするが、アゲットの手から光と闇の魔弾が飛び交いレオを狙う。
「我に手間を駆けるな。汝一人で突っ込んだところで勝てる相手ではない」
盾を持ったブルーが攻撃を防ぎ体勢を立て直させた。
「さっきまでの勢いはどうした!」
アゲットが高笑いをしながら部屋の隅々まで魔弾をばら撒いていく。
「もう、やりたい放題ですね。もう少し、この場の盛り上がりというものを考えてですね‥‥」
魔王の間にある甲冑を盾にして避けていたサクリファイスが『あさるとらいふる』を構えて魔弾を返した。
アゲットの目の前に障壁がおきて弾かれる。
「アゲットだけではないぞ、うぉぉあっ!」
拳に力を込めたブラットの拳がブルーを狙った。
「そちらも私達をお忘れになっては困りますわ」
ロジーが小太刀をクロスさせてブラットの拳を受け止める。
ドンと衝撃が後ろに飛び、床にひびが入った。
「くっ‥‥少しくらい背が高いからって、いい気になるなよ!」
受け止められ、驚愕するブラットに向かってシャオが風をまとう刃、<風刃剣>を放つ。
「魔王はブルーとレオが手を組んで何とかしろ、側近は俺とロジーで何とかする‥‥面倒なんだから早く帰らせてくれ」
最後に本音をぶっちゃけつつシャオがアゲットへ<疾風剣>と呼ばれる踏み込み攻撃をしかけていった。
「そのくらい、この障壁で!」
アゲットが障壁を展開するも連続攻撃でヒビが入る。
「光では闇に勝てないはずだ‥‥だが、なんだというんだ、この力は!」
「今回の主役は『俺達』ですからね‥‥やられ役は終わってくださいよ」
サクリファイスはあさるとらいふるをアゲットに集中して叩き込むと障壁が崩れた。
「そこだっ!」
シャオの刃が目にも留まらぬ速さでアゲットの心臓を貫く<真空斬>という技である。
言葉もなくアゲットが膝を突いたとき魔王との対決も決着がつこうとしていた。
「レオ、力を貸せ‥‥ゆくぞっ!!」
「俺に命令をするなっ!」
ブルーとレオが左右に分かれながらブラットを囲む。注意をそらそうとすればロジーが攻撃を仕掛けて集中ができない。
「これでも食らえ! 獅子特攻【スコントロ・ディ・リオーネ】」
炎を纏ったレオの剣とクロスするようにブルーの鋭い刃が鎧もろとも魔王ブラットを切り裂いた。
「しゅ、主役は私のは‥‥ず」
口から血を吐き出しながら魔王は倒れる。
「汝は油断をしていた‥‥それが敗因だ‥‥」
『それはキミも同じだよ‥‥シャドウソニックっ!』
倒れ行く魔王に剣を収めながら台詞を吐くブルーに闇の中から衝撃波がとんだ。
「ブルーレインさん!」
ハンナが叫び衝撃波で倒れこんだブルーを見た後、闇を見返す。
『魔王といってもこの程度、それを倒した勇者とて我が敵ですらない』
姿を現したのはメイとレイの面影を残している異形の悪魔だった。
悪魔が叫ぶと部屋全体に衝撃波が飛んで勇者一行をはじきだす。
『ここで死ぬがいい』
「死ぬわけにはいかない‥‥姫の為にと買ってきたものが我を守った。そういう想いの無い汝らに我は負けない」
ブルーは立ち上がり、闇に囚われた従姉を救うためにと編み出した技の<影討ち>を放った。
敵そのものではなく影を斬る一撃が悪魔に触れると大きな光りが広がる。
視界が白くなり音が消えた。
●その後の話
「融合体が分裂してメイとレイは消えてなんかどっかいくし、姫が砕けたチョコを見て暴れまわって魔王城壊すし‥‥散々な一日だった」
シャオは戻ってきた城でため息をつく。
「でも楽しかったじゃありませんの。私は大満足ですわ」
ピコピコとハンマーを振るう目の前のロジー。
愚痴る相手が間違ったとシャオは再びため息を漏らした。
「で、レオが騎士団に入ってブルーと毎日姫の取り合いだぜ? ハンナは修行が遅れると騒がしいしさ」
「寂しいよりもよいではありませんか他人事ですし」
二人に紅茶をだしながらサクリファイスは相変わらず本音をぶっちゃけている。
「戦争するよりよいではありませんか」
コロコロとロジーが笑っているとハンナがズンズンと言う足取りで3人の下へとやってきた。
「皆さん、花嫁修業の遅れを取り戻す特訓を手伝って貰いますから‥‥これから交代で24時間張り付きますよ」
「ふふ、グッパイ安息の日々」
恐らく魔王より恐ろしい神官に命令を下されたシャオは涙をキラリと光らせた。