●リプレイ本文
●始まりの刻[ピリオド]
中国系料理を中心に出す大衆食堂。
無国籍な人が集まる街らしく肌の色や国の関係のないもの達が昼間から楽しく食べていた。
「そろそろ、落ち着いたらどうだ‥‥、家業を継ぐのも悪くないだろう?」
カウンターでは用心棒を名乗る名張 キジム(金城 ヘクト(
gb0701))が大柄で小奇麗な姿のウォン(ウォンサマー淳平(
ga4736))をからかっている。
「そうかもしれませんけど‥‥僕にはまだ、やりたいことがですね‥‥」
ウォンは後ろに振り返りながら接客を行う曙紅(宵藍(
gb4961))を目で追う。
幼馴染みで一緒に遊んできた仲だ。
テーブルでは昼間から飲んだくれているセブン(丙 七基(
gb8823))や最近やってきた放浪者のタイガーロウ(玖堂 暁恒(
ga6985))という男がいる。
「うちの妹は簡単にはやらないぞ? なぁ、信信」
曙紅の兄である宵紅(宵藍一人2役)が子供達に檻の外から遊ばれているパンダの信信(七市 一信(
gb5015))に声をかけると信信は首を縦に振った。
「べ、別に僕はそういう意味でいったわけじゃ‥‥」
双子の兄にたしなめられてウォンは椅子の上で小さくなった。
いつもと変わらない日常の一コマである。
「あ、いらっしゃい」
店でアルバイトをしている少年のナオキ(山戸・沖那(gz0217))がテーブルに料理を運んでいると一人の客がやってきた。
小さな街の小さな店なので訪れるのは常連ばかりのはずだが、サングラスにダークスーツにコートという姿の客は余所者の空気を纏っている。
「宵紅はどいつだ?」
「俺がそうだが?」
カウンターからでると宵紅は怪しい客の前に鼻の頭を掻きながら立った。
「俺の名前は柳(片柳 晴城 (
gc0475))お前に恨みは無いがこれも仕事だ」
「何を!」
宵紅が驚くのも束の間近づいた柳がトンとぶつかったかと思うと離れていく。
何があったかわからないが、宵紅の腹から赤い血が流れて崩れ落ちた。
●立ち上がるための覚醒[イグザクト]
「ワシヤ先生! 兄さんは兄さんは!」
血まみれの食堂では呼ばれてきた開業医のワシヤ(鷹代 朋(
ga1602))が宵紅の様子をみていたが無言で首を振る。
その場で柳を取り押さえようとして、返り討ちにあい幾人か死傷者がでて、何も出来ずにじっとしている者、悔しさに壁などに奴当たる者などがそこにはいた。
犯人の柳は悠々とその場を去っており、やり場のない気持ちだけが明るかった食堂に充満している。
「‥‥、くっ、良い奴に限って先に逝っちまう‥‥用心棒だってのに情けない」
傷を負っているキジムが悔しさに打ちひしがれていると上空から半透明な『何か』がキジムの身体に入っていくと瞳が青から黄色へ変化した。
「世話してくれた宵紅さんの敵討ちだ‥‥何か今の俺ならできる気がする」
ウェイターをしていたナオキはキジムと同じように何かを身体に入れたのか瞳の色が紫色に変わっている。
「本気か? 柳という男‥‥そうとうやり手だぞ? 半端な腕じゃ返り討ちにあう」
医者の立場からして、斬られ方などから相手の実力を察したワシヤがナオキに忠告をした。
「関係ないな‥‥折角の楽しみを邪魔されたんだ。それなりに返してもらう」
セブンが口元から垂れる血を拭い立ち上がった。
無言でタイガーロウも続く。
「皆さん私も‥‥戦うわ!」
店の奥から伝来の大剣を持ってきた曙紅にも『何か』が宿り、瞳が赤くなる。
「いくぞ、皆!」
キジムが音頭をとって店を出ようとすると、信信が瞳を真っ白にして怒りのためかで檻を破ってでてきた。
「わ、分かりました。どうしても敵討ちをするなら、僕もついて行きます」
ウォンが出遅れながらも曙紅の決意に満ちた瞳に負けて同行することに決める。
彼の瞳も茶色から緑になっていた。
「信信も悔しいんだね‥‥ウォンもありがとう‥‥。いきましょう、兄さんの仇を討ちに」
7つの人影が店の外に出て行くのをワシヤは静かに見届ける。
苦しむ店内の人々を眺め直し、静かに手当てを再開するのだった。
●巨大な影[シャドウ]
6人と一匹は町を駆け回り情報を集め始める。
田舎の農家や商店、スラムとなった地区などありとあらゆる場所から手がかりを求めた。
その結果、目撃された男は裏から町を牛耳る製薬会社の『H−Go−Ya』であることが分かる。
裏の秘密を知った物は殺されるということも含めて‥‥。
「エチゴヤ、脅威‥‥」
集めた情報から推測される相手の大きさにタイガーロウが片言ながらも動揺を口にした。。
「本当に行くつもりなのか? 途中までだが一度だけ中に入ったことがある。何も知らずにいくのではみすみす死ににいくようなものだぞ」
情報を集め、再び食堂に戻ってきた一同の前にワシヤが姿を見せる。
「いかなきゃならないな‥‥俺たちだけじゃない、同じやり方で被害を受けた元子分達のためにも」
キジムが元いたストリートギャングの子分達も被害者となっていたことを知りさらに怒りを燃え上がらせていた。
ワシヤはキジムの態度を見るとフゥと息をつき眼鏡を右手の人差し指と中指で直すとさらに一歩近づく。
「お前達だけの問題ではないからな‥‥付き合おう」
瞳が茶色から青色へと変わっているワシヤを見た6人は仲間であると心で通じていた。
●立ちふさがる脅威[メナス]
『H−Go−Ya』に向かった7人と1匹を待っていたのは武装した警備員だった。
「お前ら、大人しく帰るなら何事もなかったことにしてやる。だが、それ以上来るようならば撃ち殺すぜ」
警備隊長らしい男が卑下た笑みを浮かべて部下に銃を構えさせる。
「てめぇらのやり方は反吐がでる。まとめて叩ききってやるぜ」
「邪魔、倒す」
セブンとタイガーロウ、そして信信が先陣を切って警備員達に突っ込んでいった。
「う、うてぇぇ!」
号令と共に引き金が引かれ銃弾がばら撒かれるも、スローモーションのように見える二人には一発たりとも当たらない。
セブンの刀が煌くと数人が倒れ、残った警備隊長もタイガーロウの脚甲からの連続攻撃でのされた。
最後の一人の隊員を信信が倒すと鼻の頭を掻く。
「社長のエチゴヤは最上階にいるはずだ。だが、中の警備はもっと厳しい。心していけよ」
ワシヤの言葉に一同は頷き、中へと乗り込んでいった。
言葉どおりに警備員の数が多く、さらにトラップなどの仕掛けられた通路などを越えてついに社長室へとたどり着く。
「こんなにも早くこれるとは‥‥お前たちはどうやらSamuraiになったようだな」
低いバリトンの声と共に社長のエチゴヤがくるりと振り向く。
鍛え抜かれた体を持った男が強い視線で来訪者を迎えた。
「エチゴヤァァァッ!」
信信が急に身体を震わせながら叫びエチゴヤに向かって走る。
その動きは武術を学んでいたかのような動きだ。
「動物に移ったSamuraiを見たのは初めてだ、よほど未練のある魂のようだ」
全てを知っているかのように越後屋は立ち振る舞い信信の手を掴むと投げとばす。
「何だって!?」
あまりの光景に動けなかったなおきが信信をぶつけられて床に倒れこむ。
「ちっ‥‥落とし前、キッチリつけさせてもらう!」
キジムがエチゴヤに向かおうとしたとき、天井からニンジャが現れ、エチゴヤを守るように囲った。
「お前たちの相手はそのニンジャだ。私を倒したければ彼らを倒してくるがいい」
エチゴヤはニンジャの護衛を受けながら社長室後ろの隠し扉より去っていく。
「兄さんの仇‥‥その邪魔をしないでっ!」
「‥‥生かす術を知る者からすると、お前達の所業は許し難い‥‥必ず倒して見せる」
涙を目に浮かべた曙紅と逃げるエチゴヤに怒りを覚えたワシヤがニンジャへとの闘いにでた。
●居場所なきSamurai[サムライ]
逃げられたボス。
その居所を探るために、そして自分たちの力の意味を考えるために再び食堂へと戻ってきたSamuai達。
しかし、まっていたのは焼けた残った木の匂いと灰や燃えかすだった。
まさかとタイガーロウは思い育ててくれた農家に向かって走る。
不安を抱えながらも一抹の希望にすがったが、たどり着いた農家は食堂と同じように燃やされて、住人は無残にも殺されていた。
「うぉぉぉぉ!」
虎のような方向を揚げていると、ガタガタと井戸に垂れる紐が揺れて生き残った子供がでてくる。
「ロウ‥‥父さんと母さんが‥‥」
「仇は、必ず討つ、お前の怒り、悲しみ、俺が背負う」
子供は泣きながらタイガーロウに抱きついた。
「お前のところもか‥‥俺も子分どもを皆殺しにされていた。済まない‥‥、俺の責任だ結局巻き込んだ」
キジムも仲間を倒された悔しさを抱えてタイガーロウの農家にまで着ている。
「ここもか‥‥くそっ、何がSamuraiだ! 力があっても何もできないとはっ!」
我、関せずといった態度を通していたセブンがここに来て怒りをあらわにした。
H−Go−Yaのやり方は非道きわまりない。
「手を引くようにと脅迫状が届いているようだな」
二足歩行で立ち、話すようになった信信は煤けた柱に刺さる手紙を持ってきた。
「ここで退くつもりはないのか? 死体の山が増えるだけだぞ?」
タイガーロウの育ての親を弔っていたワシヤが悲しそうな瞳で問いかける。
「そうだぜ、ボスの居場所もわからないのにどうするっていうんだよ?」
「でも、私は兄さんの‥‥それに食堂や思い出も含めて全部をぶつけたいわ」
ナオキや曙紅、ウォンも遅れて食堂から集まってきて意見を交えた。
「僕は何があっても力になりますから。‥‥好きですから」
「ボスの居場所は‥‥恐らく、いや、恐らくだがわかっている‥‥」
ウォンがさりげなく曙紅に告白をしたが、それは信信の言葉に被さって薄まる。
「必ず、仇‥‥討つ」
タイガーロウが瞳の鮮やかな色を強く放ち、決意を新たにすると一同は信信と共に決戦の場所へと動くのだった。
●別れを生んだ決戦[クライマックス]
脅迫にも負けず、手に入れた力の責任を果たすためにもSamurai達はボスの足取りを信信の予感にしたがって追いかけ飛行場までやってくる。
だが、ボスを守るように目の前にいるのは彼らとH−Go−Yaを結んだ張本人、柳がいた。
雑魚を倒してきたSamurai達は疲弊をしているものの闘志はいまだ消えていない。
「よくここまで来たな‥‥だが、ここから先は進ませない」
「兄さんの仇‥‥許さない‥‥!」
黒い刀身の刀を抜き出した柳は瞳を漆黒に変えて睨見つけてくる‥‥瞳の色、そして纏う力はSamurai達のものと同じだった。
「ここは俺に任せろ、お前らは仇を‥‥殺された奴らの無念を晴らしてくれ!!」
怒りに瞳を赤くする曙紅を手で制して信信が柳の前に仁王立ちし、残り7人を先に向かわせる。
ボスが飛行機に乗って飛び立とうとするのを7人は滑走路を走っておかけた。
ニンジャ達が再び現れボスを守ろうと立ちはだかる。
「この刀で斬るんじゃない。心の刃で悪を断つ! それがオレの強さってものさ‥‥命が惜しくないヤツから、かかってきな‥‥」
ニンジャ達をセブンが今までよりも激しい立ち回りで斬り捌いていった。
「もう、不幸の連鎖をとめるしかないんだ」
ウォンも力強さのあるアクションで倒していく中、柳と信信の対決もはじまる。
白い瞳と黒い瞳‥‥姿もパンダと黒コートとどこか対象的な二人が全力でぶつかり合った。
一進一退の攻防、本気となった信信の動きは柳の華麗な太刀さばきと寸分の差もなく滑走路から倉庫にまで戦場を変えながら続く。
「覚悟‥‥っ!」
セブンの大きな声と共に越後屋の断末魔の声が聞こえたかと思うと飛行機が空へと上がり爆発した。
●総括
『身体の頑丈さが取り柄とは言え無茶しすぎたか‥‥、あんたが居なかったら勝てなかったな、信信いや宵紅』
キジムが曙紅を庇って負傷した利き腕を押さえながら信信の前に立つ。
『ああ、そうだ 俺は‥‥宵紅だ‥‥ウォン、妹と信信の事、頼んだぜ?』
信信に魂の移った宵紅はウォンの方をみて妹を託した。
泣きじゃくる妹を優しく撫でたかと思うと身体から幽体が天へと登っていく。
そんな完成された映像を暗い小さな映写室でタリテーノ監督、米田社長、ライディマネージャーと能力者9人が見ていた。
「監督としてはいかがですか?」
「中々のセンスだったYO。ダイジェスト版としては十分だけど、もう少し敵側に回る役者はすり合わせが必要だNE。ミーの演出を混ぜて今回はこんな具合だけど毎回これではいい画は難しいNE」
米田が尋ねると監督は腕を組みながら答えた。
問題点はあるもの予想よりいいものが取れたようである。
「設定のアイディアやパンダの移り方は良かったYO。こういうおかしさの中にもリアリティが欲しいんDA」
「ありがとうございます。ウォンサマー君は初仕事お疲れ様です。事務所への所属も許可しますので今後とも励んでください」
「こちらこそ、大変だけど感動を与えられる仕事は好きなのでがんばります」
米田に迎えられた淳平はハキハキと答える。
「Mpaは眼鏡をかけた人が多いですね。歌えるならこう眼鏡男子ユニットとかあると面白いかもしれません」
ライディが新たな加入者と朋を見ながらふと思いついたことを口にした。
「歌はな‥‥マネージャーも難題を吹っかけてくる」
朋の方は眼鏡を中指で治しながら苦笑を返す。
新たな仲間も増え、男子俳優グループ『Mpa』はより大きな活躍の一歩を踏み出した。