●リプレイ本文
●初めての依頼
明らかに自分たちよりも年の低い少年から渡された資料。
しかし、内容はちゃんとした物であり特性や過去の発見事例も載っていて見やすかった。
「時速156kmかぁ〜大丈夫かな?」
「最高時速だね。基地に襲撃を仕掛けてきたときはそのくらい出していたそうだよ」
シュタール・レーベン(
gc2144)の疑問にガブリールはノートパソコンを弄りながら答える。
依頼に同行し、直接物を受け取りたいと高速移動艇に乗ってきたのだ。
「性質の悪い剛速球だよね‥‥電撃をもっているなら魔球? でも潜んでいるならそんなに速度は出せないのかな‥‥」
シュタールと同じように初任務として参加している獅堂 梓(
gc2346)は未知なる生物の能力に常識を覆されて驚くばかりである。
「ずいぶんと新人ばかりのようだね。まぁ、それでもバケモノを相手するには十分な力を持っているのだろうけど」
皮肉を込めてガブリールは能力者達を見回して経験の少なさそうな顔ぶれにやれやれを頭を振った。
博士号も取得した天才ではあるようだが、性格的に歪んでいる。
「実地の観測もできないお坊ちゃんと思っていたが、ついてくるのだね〜。机上で武器の性能を上げるだけだと思っていたよ」
梓やシュタールが驚きを表している中、ドクター・ウェスト(
ga0241)の嫌味をガブリールは鼻で笑って流した。
向こうもドクターの方をたいしたことの出来ない能力者と思っているのかもしれない。
「南米コロンビアか‥‥どうなることかだね〜」
窓の外から景色を眺めながらドクターはシルフの確保を個人的に行う算段を練り始めた。
「赤道近くは暑いから好きじゃない‥‥それでもこれが仕事なら戦争屋は戦争のことを考えるのが筋でしょうね」
ドクターと同じように窓の外を眺めたラナ・ヴェクサー(
gc1748)はサングラスを指で治しながらため息をつく。
さまざまな思いを乗せた鋼の鳥はコロンビアへと真っ直ぐ向かっていくのだった。
●デコイ
埃っぽい廃墟の中を4つの人影が歩く。
栄えていた頃の面影を残しながらも、人の気配は感じられなかった。
ヒューヒューと吹きすさぶ風が不安を運んでくる。
「やってみせろよ、道化」
レインウォーカー(
gc2524)は逃げろと頭の中で響く臆病な自分に必死に抗っていた。
僅かに震える手を握り締めて目を閉じ息を吸う。
(「ボクは‥‥負けない」)
ゆっくりと吐けば本来の目的である『臆病な自分を否定する』ことに意識が集中してきた。
初任務となる悠夜(
gc2930)とテトラ=フォイルナー(
gc2841)は武器を構えながら周囲を見回し敵の奇襲に備える。
囮を兼ねた近接攻撃担当のA班としての役割を果たしているのだ。
「捕獲任務ではありますが、女性陣に怪我をさせないように私達の囮を上手くやりたいものですね」
元々お金持ちの執事であったセバス(
gc2710)はゼロと呼ばれる15cm長の黒い爪を両手に持ちながら廃墟を警戒しながら進む。
足音は自分たちの物と、送れてついてくる援護のB班のものと2つの塊だけだ。
「あそこに形の残った大きな建物があるぞ」
歩いていくと、テトラがスーパーマーケットのような平屋の大きな建物の残骸を見つける。
薄暗い入り口は不気味さが漂っているが、潜む場所も多いためシルフがいる可能性は高かった。
「照明銃を撃ち込むぞ」
テトラが照明銃を握りしめて、入り口の暗闇の中へと放つ。
パァンと軽い音が響いたかと思うと閃光が暗闇を吹き飛ばし、小さな人影を飛び出させた。
30cmの少女のような姿のそれこそが『シルフ』である‥‥。
●捕獲開始
「<練成強化>をかけるよ。君たち、がんばりたまえ〜」
半径30mの距離を置きながらシルフが飛び出してくるのをみたドクターが機械剣αを作動させて、自分を含めた全員の武器を強化させる。
サイエンティストのドクターは支援用のスキルを多く持っており、それを一度に全員にかけられるのはくぐってきた戦場の数が桁違いに多いことを示していた。
覚醒したドクターの眼球が強く輝く‥‥バグアに対する憎悪を示すかのように。
シルフが全身を帯電させて囮として近づいていた4人に攻撃を仕掛けてくる。
一度に飛び出してきた数は4体、それぞれが帯電をし言葉を発さずにトンボのような羽を震わせて体当たりを行ってきた。
テトラが狙われるもメトロニウム合金の盾、プリトウェンを構えて防ぐ。
迸る電撃が目の前で拡散するのを確認するとテトラは大きく息を履いた。
「甘いな。こちらからいくぞ」
攻撃に特化した50cm長の爪、スティングェンドでテトラはカウンター気味にシルフを<流し斬り>で裂く。
胴体を切り裂かれたシルフは身体の大半を削られ弱りながらも、飛び回り死角からの体当たりを狙ってくる。
「頭を下げろっ、そのまま撃ち落す」
だが、帯電して光るシルフをサングラスの奥の瞳で追いかけていたラナがSMG「ターミネーター」の引き金を引いて迎撃した。
20発の銃弾に身体を貫かれたシルフは地上に落下する。
手足などが吹き飛んではいるものの大半は残っているので使い物にはなるだろう。
「お見事です。この調子で協力すればやれそうですね」
連携が功をそうしていることにセバスも気が軽くなった。
しかし、まだ3体のシルフが連続して体当たりを挑んでくる。
帯電した身体が眩しく光っているが目を細め、動きを良くみながらセバスは全身のバネを使って交わした。
「加減するというのは意外と疲れるものですね」
方向転換をする前にと<疾風脚>を使って筋力を強化した体で連続攻撃を叩き込む。
加減をしなければならないこともあり、いつもよりも闘い方に気を使っていた。
シルフの姿が女性らしいのも原因かもしれないが‥‥。
攻撃を受けてもまだ大丈夫なシルフは懐にもぐりこんでその電撃でセバスの身体を痛めつけた。
「大丈夫か? 油断をするな」
テトラが間合いを取ろうとしたシルフを爪で翼を斬り裂いて落とす。
「この場であと2体。さらに4体は回収しなきゃいけないんだ。気をつけて当たれよ」
仲間に注意をしながらも飛び回る残りのシルフに向けてSMG「ターミネーター」をラグは撃ちつづけた。
●キメラとカクレンボ
4体のキメラを回収し終え、残り4体の回収をするために瓦礫だらけの荒野の探索を能力者達は再開する。
背の低い梓は視線の違いを利用して探索を続けた。
「かくれんぼなら負けないよ!」
ばっと瓦礫の影から飛び出しながら梓はシルフの存在を探る。
上、下、右、左と視線をめぐらせるが気配は感じられなかった。
初仕事の近況もあってか、一つ一つの動きがどこか硬い。
「どうしよう‥‥まだ4体もいるけど中々みつからないよ」
シュタールが不安を口にしながらスコーピオンを構えて梓の背中に立って死角の排除に努めた。
能力者は覚醒をしている間も練力を消耗していく、その分短い時間で人の眼にも捕らえられないほどの高速な戦闘行動が行えるのである。
故に、時間をかけて探索を続けることは不利になるのだ。
「油断はすんな、梓も遊びじゃないのだからもっと集中しろ」
不安がっている同じ初任務の二人に悠夜は先行しつつも声をかける。
口は悪いが仲間思いのようだ。
カランと何かが転がる音がする。
ざっと、意識を集中させて音の方へ全員が振り向いた。
しかし、物陰から出てきたのはネズミである。
「違った?」
安心とも残念とも取れるため息をシュタールが漏らした。
だが、梓の眼には別の物を捕らえている。
瓦礫の奥の暗がりで動く別の小さな人影だ。
(「うまくできるかわからないけど、皆で生きて帰るんだ! ‥‥だから、集中するんだ」)
口には出さずに引いて構えていた長弓「黒蝶」を少しずらして狙いを定める。
緊張で先が震えてくるが必死に堪えて一発を逃さないように息を止めた。
浮き上がった髪が揺れ、薄青く光る瞳に力を入れる。
「見えた‥‥そこっ!」
姿がはっきりしたところで梓は矢を放った。
<強弾撃>により鋭さをまして飛び出した矢がシルフの胴体を貫く。
「梓、敵か!」
「うん、この奥に一体見つけたよ」
「後は任せろっ! 射刑に処す!」
悠夜が親指を立てながら答えると小銃「ブラッディローズ」を握り締めながら飛び込みシルフに向かって24発の弾丸を叩き込んだ。
弾を打ちつくしたカードリッチが外れ、銃口からは煙を吐き出す。
「もう一体確保ですね‥‥この調子ですと8体が限界かもしれませんね」
回収を確認したシュタールは空を見上げながら呟くのだった。
●ラストファイト
頭上に輝いていた太陽が大きく傾いてきた。
あれから2体倒すも時間的にも厳しくなってきたため、囮を行うレインウォーカーの心にも若干の焦りがではじめる。
しかし、表情には出さずにレインウォーカーはコンビニくらいの小さな建物へと向かった。
「んじゃ、行ってくるかぁ。フォロー頼むよぉ。間違ってもボクに当てるなよぉ」
軽口を叩くのは道化としてでもあり、自らの焦りを落ち着かせるため‥‥。
緊張で手に汗が噴出して滑りそうになる武器を握り直して足を勧めた。
中は壊れた冷蔵庫やら棚が残っていて災害時の光景に良く似ている。
ただし、これは天災ではなくバグアの侵略という一種の”人災”というところが違っていた。
バチンと音がして空気が震え、暗がりが一瞬明るくなる。
「そこにいたか、バケモノっ!」
シルフが棚を破壊しながら体当たりを仕掛けてくるも、レインウォーカーは<疾風>で高めた脚力を生かして回避した。
味方からの援護射撃を受けながらレインウォーカーは間合いを詰める。
反転する前の隙を突いて体を回転させながらの<円閃>で身長の三分の二に近い長さの刀でシルフを斬りつけた。
手ごたえを感じたレインウォーカーはさらに二回の攻撃を当てて捕らえる。
「‥‥嗤え」
倒した敵を一瞥するとレインは刹那を鞘に収めた。
「これで全部のようだね〜。もう少し探してサンプルを見つけたいところだが今回は諦めるとしようかね〜」
覚醒時間には限度もあるし、初任務で精神的緊張もあったメンバーをこのままにしておくわけにもいかずドクターは撤収を決める。
ボロボロではあるものの形を残した状態でのキメラの確保、疲労感はあるものの負傷の少ない依頼結果に誰もが満足そうに頷いて答えた。
●結果報告
「ずいぶん遅かったじゃないか、もう少し手早く済ましてもらいたい物だね。僕も暇ではないのだから」
専用のヘリから降りるとガブリールは毒づきながらUPC軍人にシルフの回収を指示する。
感謝の言葉の一つでもあれば可愛げもあるのだが、ひねくれた天才に望むのは酷だ。
「こんなものか‥‥」
テトラは開かないペンダントを取り出してしまう。
俯き気味で物足りなさそうな表情をしていた。
「皆、生きてる? 何とかなって本当によかったよ」
二人とは違い初依頼が無事に終わったことを梓はテトラの隣で素直に喜んでいる。
壊されるか心配だった救急セットも無事でもあるし、少しだけ自信がついた。
「ええ、無事に依頼が達成できましたね」
セバスも服についた埃を払いながら、ドクターに<練成治癒>を受ける。
「でも、疲れた〜」
緊張が取れたのか気の抜ける声をあげてシュタールが大きく伸びをした。
「高速移動艇はもうすぐつくだろうからそれに乗って帰ればいい。また珍しいものを獲ってきて欲しいこともあるだろうから君らに会うこともあるだろう」
一通り処理を済ませたガブリールはUPC軍人と共にヘリに乗って北米へ飛び立っていく。
「何か変な子だったね‥‥」
「依頼主にもいろいろなタイプがいるからね〜。覚えておくといいよ」
ドクターは眼鏡を直しながらヘリを目で追う梓に言葉をかけた。
「梓、テトラ、依頼成功だな! この先も依頼であったときはよろしく頼むぜ」
梓とテトラの間に入るようにして肩に手を回した悠夜はニヤニヤと喜びを全身で表現する。
「そうだね。まだ私達は能力者として一歩を踏み出したぶんだもんね」
「機会があればな‥‥」
二人は悠夜に答えながら空を見上げた。
夕日の沈見かける空に一際目立つ赤い星。
そのバグア本星を叩くまでは能力者として戦場にこれからも立つのだと感じるのだった。