タイトル:救急最前線マスター:橘真斗

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/01/20 14:07

●オープニング本文


「撤収ー! 撤収ー!」
 戦場というに相応しい声があたりに広がっていた。
 南米ゲリラ区域。
 その中でも、負傷兵を集めていたキャンプ付近で急に無線が使えなくなった。
 こんなジャミングがはれるのはバグア以外の何者でもない。
 動ける兵士は駆け回り、輸送トラックは負傷兵を運び出していった。
 けれども、明らかに間に合わない。
「ヘルメットワームをジャングル内で発見しました。数は4! 低高度を維持しつつ、此方へ接近中!」
 斥候兵からの連絡を受けて、指揮官の男は唸った。
「くそ、KVを動かせば被害がでかくなる‥‥何よりも数が足りん」
 忌々しいという思いを指揮官は机を叩いて表した。
「誰かが航空機でこの空域を離れて無線を繋ぐしかない‥‥」
 指揮官の言葉は重々しい。
 この状況から逃げれる人間は少数。
 その間、ここはワームの接近を許してしまう。
 何よりも、あがったとたんに撃ち落されないとも限らない。
「隊長‥‥俺が行ってきます。もし、やられたら・・・・すみません」
 苦笑しつつ若い航空機のりが手を上げた。
 VTOL式でなければ飛び立てず、それを動かせるのは今いるのは彼だけだった。
「わかった・・・・。いってくれ」
「サー、イエッサ!」
 そして、VTOLは希望の島へと飛び立たっていった。

●参加者一覧

花=シルエイト(ga0053
17歳・♀・PN
犀川 章一(ga0498
24歳・♂・FT
御山・アキラ(ga0532
18歳・♀・PN
大山田 敬(ga1759
27歳・♂・SN
如月(ga4636
20歳・♂・GP
辰巳 空(ga4698
20歳・♂・PN
羅・蓮華(ga4706
23歳・♀・BM
クラーク・エアハルト(ga4961
31歳・♂・JG

●リプレイ本文

●待っている人々のために‥‥
「負傷者は200人で、動けるのが10人‥‥。負傷者のうち重傷者が100人を越えているのは状況としてまずいですね」
 辰巳 空(ga4698)はVTOLで何とか逃げてきたパイロットに状況を聞いてメモを取る。
 白衣を翻す姿は医者が患者に症状を聞いている姿に重なった。
「ここでボランティアとか募集できればよかったが、知り合いもいないし傭兵でもないからな‥‥そこは諦めるよ」
 VTOLのパイロットはラストホープのデッキで給油と補修を済ませつつ苦笑した。
 その言葉に能力者たちは言葉を失う。
 自分達にできる範囲を考えていたが、視野の狭さを指摘された気がする。
「とにかく向かいましょう‥‥けが人も、戦況も悪くなっている可能性だって‥‥あります」
 強化した自分のKVを眺めつつ、犀川 章一(ga0498)は出発を促した。
「そうだね! あとは飛行中に相談しようよ。ジャミング領域にはいる前なら、大丈夫だから!」
 赤いサイドテールを揺らして、月森 花(ga0053)はグッと握り拳を作った。
 花に発破をかけられるように一同は頷いて、行動にでる。
「各自、時計合わせ!」
 大山田 敬(ga1759)の声と共に、能力者たちは時計を合わせだす。
 ただいまの時刻1200。
 南米負傷者キャンプの救出作戦が開始された。

●駆け抜ける翼
「そろそろいわれていたジャミング領域ね‥‥」
 座標を確認しながら、羅・蓮華(ga4706)は一息ついた。
『タイミングはこっちが先手をとってその後に救出チームがトラックをもっていくんだな?』
 御山・アキラ(ga0532)が念のためにと確認の通信を行う。
『できれば、鹵獲したいところですが‥‥手加減している余裕はないでしょうね』
 如月(ga4636)も通信に割り込み、軽口を叩いた。
「こちらは数が少ないうえに、負傷者の救出が優先なのよ。引き寄せられれば上出来!」
 羅は気合を入れると共に、愛機で空を駆ける。
『こちらSリーダー。まずは一機撃墜からいきましょう』
 クラーク・エアハルト(ga4961)の頼もしい声が通信機から響いた。
「クラークさんね‥‥空挺師団の力量を見られなくて残念だわ」
 羅はふふと微笑みながら、通信相手に答える。
『生身で戦えたらそうしていますよ。ジャミング領域に入りましたが、通信できるようですね』
 羅は座標を確認するも、クラークのいうように通信ができなくなったという領域にはいったが異常は無い。
 レーダーにはヘルメットワームの姿もあった。
「通信ができるのならば好都合ね。ブースターで突撃するわ!」
『了解、あ、最後に一つだけ聞きたいのですが。TACネームが無いのでつけてもらえませんか?』
 クラークのちょっと気の抜けた問いかけに羅は思わず苦笑を漏らした。
「せっかくの気分がぶち壊し‥‥そんなお前には『Crash』というのはどうだ?」
 女性のような声から一転、深い男性ボイスで羅はクラークへ返した。

●戦場の現状
「これが、現状‥‥」
 近くのUPC軍駐屯地より往復している辰巳の運転するトラックに便乗してやってきたは章一は無表情ながらも思い言葉を吐いた。
 救命救急士として働いていた現場よりも酷い光景が広がっている。
 遠くでは銃撃の音が響き、戦闘が始まっていることを示していた。
「一人で乗れる怪我の方はトラックへ乗ってください! 手当ての必要な人は僕が見ます。動ける人は救助を手伝ってください」
 運転席から身を乗り出して、辰巳は避難と協力を呼びかけた。
 辰巳の白衣姿にキャンプ地の人間は安堵の表情を浮かべる。
「今、ボクの仲間が戦っています! ヘルメットワームをひきつけているうちに早く!」
 花もキャンプ地を走り回りながら、避難を呼びかけた。
 周囲がどこもかしこも血と薬の匂いで満ちている。
 重傷者らしい人たちの中には、花よりも年下のように見える少年少女たちも見えた。
(「戦争で孤児になっちゃったのかな‥‥ボクみたいな子を増やさないためにも、がんばらなきゃ!」)
 心の中で花は誓った。
「君達が応援者か!」
 走っていた花に指揮官らしき人物が駆け寄ってくる。
「ボクたちが応援を要請されていた傭兵です」
 花は慣れない敬礼をしながら答えた。
「助かった、交戦が始まったのでもしやと思ったが‥‥」
 指揮官らしき人物も簡単な敬礼を返して、話を始める。
 重傷者の避難は50人が完了していた。
 残りの50人はかなり傷が酷いという話だ。
「でしたら‥‥治療を手伝います‥‥免許をもっていますから」
 いつの間にか、花の隣には章一がたっており救急救命士の免許を指揮官に見せていた。
「助かるよ、医療チームも人手不足なんだ」
「俺以外にももう一人、医者がいますから‥‥呼んできます」
 章一の言葉に指揮官の緊張した顔がゆるんでいった。
 空が光ったあと、大きな爆発音が遠くから響いてくる。
「一機、落としたようだよ!」
 その音を聞いて、花が嬉しそうに飛び跳ねた。
「こちらも‥‥負けてはいられませんね‥‥」
 章一は呟き、辰巳のいるトラックへ駆けていった。

●時間との戦い
「一機、撃墜完了‥‥」
 如月はスナイパーライフルD−02の次弾を装填しつつ、呟いた。
 ブースターに回す出力を温存しておき、アグレッシヴ・ファングで威力を高めたライフルはヘルメットワームの外郭をいとも簡単に貫く。
「このまま機体高度を維持、接近します」
 いつもの軽口は無く、如月の頬に浮かんだ十字に絡みつく蛇はその形をピクリとも変えない。
 如月のR−01が別ヘルメットワームの一機に接近し、すれ違いざまの突撃仕様ガドリング砲を浴びせた。
 ヘルメットワームは回避運動をするも、鋼鉄の雨に打たれる。
 だが、フォース・フィールドを貫通するにいたらない。
「ガドリングでは無理ですか‥‥」
 しかし、すれ違った如月のほうにヘルメットワームは向きをかえ、加速してきた。
『作戦は成功‥‥だ、な。このまま、いく‥‥』
 ノイズの中から、アキラの声が聞こえてきた。
 はじめのときよりも感度が悪い。
「ジャミングが来ましたか、あとは有視界での戦いですね」
 後ろを見つつ一息つく。
 戦いは始まったばかりだ。
(「少しでも撃墜及び、行動不能にさせたいものですね」)
 後方で銃声が響くのを聞くと、如月は正面の敵に集中をし始めた。

●翻弄させ行く鉄の鳥
「作戦開始から2時間、燃料も状況もひじょーにきびし〜ってか!」
 ヘルメットワーム2機から追いかけられている大山田はそれでも気楽に飛び回っていた。
 飛んでくるプロトン砲の連続砲撃を回転する回避運動で避ける。
 しかし、一発が偶然にも移動先に来たため、当たってしまった。
「ぬおぅ!」
 煙を上げて落下していく大山田のKV。
『大丈夫で‥‥すか!』
 クラークからのノイズ交じりの通信がコックピットに響く。
 撃墜したと思ったのか、ヘルメットワームたちは旋回して、クラークと羅のKVのほうへ迫っていく。
 羅のKVが突撃仕様ガドリング砲を放つも、ヘルメットワームの外郭をすべり、たいしたダメージを与えられていない。
「だが、どっこい生きてるっ!」
 大山田がチャンスとばかりにKVを旋回させて近づき、スナイパーライフルを叩き込んだ。
「これで、どうだ!」
 攻撃を受けてヘルメットワームから煙が出て揺らいだ。
「羅、大丈夫かよ」
『大丈‥‥夫、そっち‥‥は?』
「さっきの煙は煙幕銃よ! 追いかけっこを続行しようじゃないか!」
 大山田の顔は笑顔ではあるが、KVは被弾箇所アラートサインを出し続けていた。
(「さぁて、状況はやばくなってきたぜぇ〜。俺が落ちるが先か援軍が先か、ワクワクするぜ」)
「いいぃやほぅ!」
 大山田は不安を払拭するかのようにKVの出力を上げてキャンプ地より外へ飛び出していった。

●生か死か‥‥
「輸血パックが圧倒的にたらないか‥‥」
 治療をするに当たっても物資の不足が著しい。
 ラストホープからもってきた救急セットが役に立っていることに辰巳はほっと安堵の息をもらした。
 白衣が泥と血で汚れても、気にせず手当てをしていく辰巳に対して、手当てされた患者は感謝をしめす。
「先生、ありがとうござい‥‥ます」
「私はまだ新米ですよ」
 少し照れくさく思い、辰巳は頬をかいた。
 一方、章一のほうは高度熱傷の患者の手当てをしていた。
「心肺停止‥‥除細動器はありますか」
 口調に変化は無いが、表情には必死さが浮かんでいた。
 心臓マッサージに限界が来たため、除細動器による電気ショックを章一は行なうことに決める。
(「もっと、設備と準備があれば‥‥いや、何より俺の未熟さが恨めしい」)
 ぐっと唇をかんで感情を押さえ込み、章一は専用テントでの治療を進めていく。
「まずいね‥‥血の匂いに怪物がよってきてる」
 花が金色の瞳で森から来た小さな虎のようなキメラを愛用の武器である『緋天』で潰していく。
「章一さん、こちらは終了しましたが、そっちは!」
 辰巳は自分が治療し終えた患者を最終便のトラックに乗せていく。
「もう少し‥‥」
「はやく、終わってくれないかな」
 緋天の弾がきれ、リロードがまにあわず、もう一丁のスコーピオンで虎キメラを撃ち倒す。
 元気さの無い花は味気なかった。
「一命はとりとめました‥‥この患者は私が担いでいきます‥‥花さん、最後の踏ん張り頼みます」
 治療を何とか終えて植皮した患者を担いでいく。
 早く出なければ何かに感染するかもしれないからだ。
「撤退の合図を出しましょう‥‥」
 辰巳が照明銃を上空にむけて撃った。
「KVを動かせるやつは乗っていけ! 俺も出る! 傭兵ばかりにいい格好させるんじゃないぞ!」
 指揮官はその照明銃に煽られてか、残った隊員を率いてキャンプ地に駐留していたKVを動かしだす。
 反撃の狼煙は今上がった。
 
●反撃の狼煙
「照明弾確認、上手くいったいみたいだな」
 アキラはKVから様子を眺めて微笑んだ。
『後は‥‥撤収‥‥だ』
 聞き取りづらくはあるが、如月が撤収を促していることはわかった。
「ああ、だけど逃げられるかどうかだな」
 背後に取り付いた一機のヘルメットワームの攻撃を避けつつ、チャンスをアキラは探っていた。
 そのとき、如月からスナイパーライフルによる援護が飛ぶ。
 ヘルメットワームが揺らぎ、震えた。
「このまま突撃する。逃げるにしても、錘は捨てたいからな」
 アキラはにやりと笑いループ。
 ギューンと白い雲で弧を描きながら、ヘルメットワームの上を捉えた。
「これでももっていけっ!」
 ガドリングを放ち、すぐさま127mm2連装ロケット弾ランチャーに切り替えて叩き込んだ。
 出力を上げて強化されたアキラのKVの攻撃によりヘルメットワームは不時着していく。
『鹵獲‥‥チャン‥‥』
「おい、如月! やめておけ!」
 アキラが静止すると、一拍如月の接近は止まる。
 すると、ヘルメットワームの熱源反応が高まり、自爆した。
「ヘルメットワームは自爆するという情報があったからな‥‥なれてないと思うが、覚えておくといい」
 シートに体重をあずけ、アキラは額の汗を拭った。
 もし、あれで巻き込まれていたら被害はすさまじいものになっただろう。
『こちら‥‥キャンプ駐‥‥これより、援護する』
 アキラの通信機からキャンプ地のKVからの通信が入った。
 撃墜もなんとかできそうだ。
「了解、全機破壊に作戦を変更する」
 アキラのKVは戦っているS班のほうへ向かい戦闘を続けた。
 
●勝利とは‥‥
「お疲れ様」
 クラークは章一に缶コーヒーを手渡す。
「ありがとう‥‥ございます」
 傭兵達は燃料もぎりぎりだったため、南米の基地で補給を受けることにしていた。
 KVも、傭兵達もへとへとだった。
「おう、そっちは順調だったようだな」
 大山田がフライドチキンを食べながら、自販機で休んでいる二人の側へガニ股歩きでやってくる。
「いえ‥‥『戦いに勝って、試合に負けた』そんな気分ですよ」
 章一はため息をついて、缶コーヒーを空けた。
「貴方は一人の命を救ったじゃないですか、それは自信をもっていいと思います」
 辰巳も着替えや、患者の容態チェックを済ませて自販機前にやってきていた。
「そういってもらえれば、助かります‥‥」
(「でも、俺はもっと上を目指したい‥‥救える命、いやそもそも救わなければならないような‥‥状況を起こさないために‥‥」)
 表面上は気にしないように答え、内心は新たな闘志を章一は燃やしていた。
 あけた缶コーヒーをぐっと飲む。
 南米で飲んだ缶コーヒーは、何故かラストホープで飲むよりも苦く感じた。