●リプレイ本文
●嵐の前の‥‥
「輸送トレーラーとは言え、キメラ相手に逃げ切るだけの腕はある筈が通信途絶の上、行方知れず。これは想定を上回るトラブルが起きたと見た方が良さそうだ」
白鐘剣一郎(
ga0184)は揺れる翠の肥満(
ga2348)のジーザリオの中で全員に聞こえるように独白する。
南米の戦いはコロンビアから中立国のボリビア、そしてブラジルのマナウス基地などに広がってきていた。
「この時期ですし襲撃を受けたと考えるのが妥当でしょうね。後に大きな仕事がありますし、面倒事はなるべく排除しておきたい物です」
愛刀の鬼蛍を腰に携え、小銃「スノードロップ」の具合を確かめながら鳴神 伊織(
ga0421)も剣一郎に同意した。
「大規模、作戦、ヲ、前‥‥ニ、オダヤカ、デハ、ナイ、デス、ネ‥‥」
伊織の言う大きな仕事―大規模作戦―を考えていたムーグ・リード(
gc0402)も狭い車で身を縮ませながら腕を組んで呼吸を整える。
『目標を確認。横転しているようだが資材に被害は見られない』
先行していたアレックス(
gb3735)から通信が来た。
AU−KVを駆るドラグーンの嵐 一人(
gb1968)、萩野 樹(
gb4907)、皓祇(
gb4143)の3人も相棒を組んでトレーラーの近くへ停止する。
「‥‥やられてるな。案の定かよ、クソッ‥‥」
双眼鏡を眺めていた嵐は舌打ちを零し、周囲の様子をそのまま確認した。
敵が近くに隠れている気配はないようだが、油断はできない。
「南米もこれで3回目だけれど‥‥暑いな」
育った瀬戸内の自然と違うジャングルの景色と暑さに樹も愚痴を零しながらトレーラーを遠目で確認する。
車輪を潰され横転しているトレーラーの運転席は樹の位置からは見えなかった。
不気味な静けさを感じながら、後続のリッジウェイを彼らは待つ‥‥。
●予想だにしない敵
8人はトレーラーを囲うようにして状況把握と回収作業に移った。
「運転手は死んでますね。正面ガラスは蜂の巣になってます」
死体を見ながら伊織は何でもないかのように言葉を漏らす。
何者かが襲ってきたのだが、資材は無事というところがおかしい。
何が目的なのかまだはっきりしていない。
「コノ、轍‥‥普通ノ、バイク、ノ物、トハ‥‥危険、DEATH」
トレーラーの周りにあった轍とアレックス達AU−KVの轍を見比べたムーグが巨体を起こした。
刹那、弾丸が飛んでくる。
「見つけた、岩場の影に潜んでる!」
誰かが叫び、トレーラーの窓さえも砕ける射撃が飛び交ってきたかと思えば、聞きなれた走輪走行音が迫ってきた。
「こいつはSES兵器? さらにAU−KVなんてどこの部隊だ!」
翠がガトリングシールドを構えて守りを固めながらヘルメットにあるビデオカメラを起動させる。
接近しているのは『リンドヴルム』が2体、アサルトライフルを腰に構えてクロスしながら撃ってきているのだ。
リンドヴルムの両肩は血のような赤で染まっており8人を取り囲むように高速で移動しながら動く。
『その肩の色はなにを意味しているのでしょう? あまり似合っているようには見えません‥‥あなた方の血で塗られているならなにも言いませんが、他人の血なら許しませんよ』
ミカエルを装着した皓祇が銃弾から樹を守るように立ちはだかった。
パァンと白銀の銃身から弾丸が放たれ一体のリンドヴルムに当たる。
その攻撃の前に光ったのは赤い障壁‥‥。
「俺達の他に傭兵が来るなんて話は聞いてねェ! だったら!」
拳銃「ジャッジメント」からランス「エクスプロード」へと持ち替えたアレックスがAU−KVを装着すると胸の前に炎の竜の形をした紋章が浮かびあがった。
ハイドラグーンと呼ばれる上級クラスの証である。
『その正体確かめさせてもらうぜ、嵐!』
『おう!』
嵐もリンドヴルムを装着して地面を文字通り走る。
アレックスがランスを構えてリンドヴルムの射線をさえぎるようにして<竜の翼>でチャージを仕掛けた。
捕らえたかと思った相手が一瞬消える。
いや、正確には同じような高速機動で位置を変えたのだ。
『何!』
背中に回りこまれたと思ったがアレックスに向かって鉛弾の洗礼が注がれ、後ろ向いているリンドヴルムの背にもう一体がついて死角をふさぐように戦う。
単純な行動を行うキメラではないのは明らかだった。
「狙撃が厄介だな‥‥」
剣一郎も動こうとするがパイドロスからのこちらの射程外からの狙撃に動きづらさがある。
その状況に追い討ちを掛けるようにゴツイAU−KVである「バハムート」が銃弾の飛び交う中、剣一郎に両刃の直刀で斬りかかって来た。
「まだいたか‥‥くそっ、天都神影流・虚空閃っ!」
手持ちの盾で受け止めた剣一郎は力任せに弾くと、<ソニックブーム>を月詠から繰り出してバハムートの装甲を裂く。
「仕方ありませんね。ペアになって各自を相手にしましょう。翠さん、例の狙撃を狙いに行きましょう」
「了解っと。リッジクンも援護射撃とかできたら頼むの敵の射程に届くは君くらいなんだからね。あとは遮蔽!」
リッジウェイの上に上って ガトリングシールドの援護をしていた翠はコンコンと装甲板を叩くと伊織と共に狙撃主を狙いに動きだすのだった。
●反撃の狼煙
「赤い肩‥‥レッドショルダーってか! 吸血部隊か何かでも気取ってるつもりか、あんにゃろー!」
ガトリングシールドを構えて遮蔽を取りつつ翠は移動しながら、狙撃を続ける敵に向かって走った。
後ろに逃げるにしろ、こちらに攻撃が集中するなら味方の動きは有利に運べる。
伊織が踏み込みを大きくしながら小銃「スノードロップ」で撃っているとい岩場から肩を赤くペイントしたパイドロスが姿を見せた。
出てきたパイドロスに向かってリッジウェイが<試作型高性能照準装置>で狙いを定めた20mmバルカンを放つ。
パイドロスの動きに一瞬だが隙が生まれた。
「伊織さん、僕とリッジウェイで敵を釘付けにします。その隙に一撃を!」
通信機で指示をだしながら、有効射程まで一気に踏み込んだ翠はガトリングシールドの弾丸をばら撒く。
盾にも使えるいい装備ではあるのだが、射程の少なさがネックだった。
「仕方ありませんね‥‥翠さん、すみませんが援護をお願いします」
伊織は小銃「スノードロップ」を撃ちながら伊織は腰の鬼蛍をいつでも抜けるように握る。
パイドロスはスナイパーライフルを捨ててマシンガンで応戦をしてきた。
だが、伊織の勢いは止まることは無い。
一度強く地面を踏み込んで大きく跳ぶ。
「余所見するなよ!」
伊織に集中していたパイドロスに向かって翠が遠慮なく鉛弾を叩きこんだ。
釘付けされたとことに伊織の<ソニックブーム>が上空から飛び、パイドロスの両足を斬り崩す。
バランスを崩れて倒れたところへ<紅蓮衝撃>と<スマッシュ>をこめた必殺の一撃が叩き込んだ。
鬼蛍を握る右腕には剣の形をした紋章が宙に浮かび光り輝く。
エースアサルトと呼ばれる上級クラスの証だ。
その一撃をもってパイドロスがぐしゃりと潰れて動きを止める。
「間合いを詰めれば楽だったが、結構やばかったな‥‥」
ところどころ拉げたガトリングシールドと、銃弾の掠れた自らの体をみながら翠は呟く。
「他の人が心配です、行きましょう」
鬼蛍を鞘に収め伊織は踵を返すのだった。
弾き飛ばしたバハムートにはアレックスと嵐が回ったため、ムーグと剣一郎はペアを組んでリンドヴルムを相手どる。
「AU−KV‥‥」
ムーグは小さく呟き射程内に収まったリンドヴルムに向かって<制圧射撃>を行った。
狙った獲物は逃がさないとまでいわれる銃の番天印から弾丸が飛び散り、リンドヴルムを釘付けしようとするもその射程内からリンドヴルムは加速して逃げる。
「良イ、判断‥‥デス。デスガ、ソレモ‥‥予想内」
言葉通り、逃げたはずの先には剣一郎が待ち構えていた。
リンドヴルムは驚く様子も無く、至近距離射撃に切り替えてくる。
アサルトライフルの引き金を引きつつ真っ向から剣一郎を捕らえた。
剣一郎はカイキアスの盾で銃弾を防ぎながら間合いを計る。
月詠を力を込めて握り自らの間合いに捕らえたと思った瞬間に剣一郎は立てでアサルトライフルの銃口を弾きながら月詠を煌かせた。
「天都神影流・斬鋼閃!」
機動力をそぐために剣一郎が足を斬り捨てる。
ガタリと上体が崩れるもリンドヴルムが弾の切れたアサルトライフルを剣一郎に向けて引き金を引き続けた。
プログラムされた機械のような動きであり、恐怖などを感じていない様子さえある。
「バグアめ、悪辣な手を‥‥今、終りにしてやる。天都神影流『奥義』断空牙」
居合いの構えを取り直した剣一郎は、一呼吸を置いて太刀を振るった。
月詠を持つ手の周りには伊織と同じ上級クラスの証たる剣の紋章が浮かび、常の覚醒症状でもある淡い金色のオーラを伴ってリンドヴルムへのとどめの一撃を見せる。
<紅蓮衝撃>に<ソニックブーム>と<急所狙い>が合わさった剣一郎の一撃でリンドヴルムの動きが止まった。
「デキレバ‥‥回収シタイ、デスネ」
ムーグは警戒のために銃を握りつつもリンドヴルムへと近づく。
JTFMと呼ばれる南米での戦いは大規模と共に過酷さをましてきていた、そのため敵の新戦力と思えるものの情報は少しでも欲しかった。
「そうだな‥‥いや、待て近づくな!」
リンドヴルムのバイザーが赤く光ったのを見た剣一郎が叫ぶと共にムーグを押し倒すようにして地面へと転がる。
次の瞬間、大きな爆破音と共にリンドヴルムが爆ぜた。
「敵モ‥‥考エテ‥‥イマス、ネ」
大きな体を起こし、ムーグは周囲に散った鉄片を拾い上げ、少しでも資料にしようと動く‥‥。
●明かされる姿
ガキィンと甲高い音を響かせ、アレックスの<竜の咆哮>をこめた一撃がバハムートのヘルメットを弾き飛ばす。
コロンと地面に転がり下から見えたのはカンパネラ学園の制服を来た金髪の女生徒だった。
しかし、目はうつろで肌は青白く人間らしい感情が一切読み取れない。
『くそっ‥‥中身をキメラ化しやがったのか!?』
バグアのやり方に底知れぬ怒りを感じたアレックスはエクスプロードを再び構えて突きを放った。
フォースフィールドを纏ったバハムートの装甲に食らいこむが倒れる様子はない。
ゆらりと体を動かし、深く自らに突き刺して抜けないようにしながら両手に持った機械剣と両刃の直刀で連撃をアレックスへと繰り出す。
『なんて奴だ‥‥』
『相手に回すと厄介だな、こいつは! アレックス、得物をしっかり握っていろよ!』
武器を手放して間合いを放すことに戸惑っていると、嵐が機械脚甲「スコル」でバハムートを蹴り飛ばした。
<竜の咆哮>が乗った一撃で、バハムートの体から赤黒い血に染まったエクスプロードが抜かれる。
『助かったぜ、嵐!』
アレックスがサムズアップをすると嵐もそれに答えた。
頭から地面に突っ込んだバハムートは大量の血を流したままの姿で起き上がり、両手をクロスして踏み込む。
『早く楽にさせてやろうぜ』
『ああ!』
嵐の言葉にアレックスは強く答えてランスを腰ダメに構えた。
<竜の息>で威力を高めたスコルのブースターを噴かせて嵐が先にでてバハムートに蹴りを放った。
嵐の蹴りを真っ向から受け止め、<竜の咆哮>のような吹き飛ばし攻撃で嵐をバハムートは弾き、アレックスへ加速して迫る。
『これで終りだ!』
ランスエクスプロードを再び叩き込むとバハムートは槍先から放たれた炎の衝撃を受けてそのまま吹き飛んだ‥‥。
『この10秒で‥‥援護は、ギリギリ‥‥です。荻野さん‥‥頼みますよ』
<竜の息>や竜の瞳>、<竜の爪>などのスキルを使って樹の動きを補佐する皓祇は息を切らせていた。
長続きはするものの消費練力が高いため、持久戦には向かない。
リンドヴルムであっても敵は手ごわかった。
『どんな姿でも、戦いたくなかった‥‥でも、やならければ‥‥いけないんだ』
皓祇の言葉に樹は覚悟を決めて、戸惑いながら握る槍に少しばかり力を込める。
銃弾を避けながらじりじりと距離をつめて、リロードの隙を突いて樹が<竜の翼>を使った。
リンドヴルムの懐まで瞬時に間合いを詰めるが、リンドヴルムも逃げるように瞬時に移動する。
『皓祇君!』
しかし、それも予想の範囲内。
動いたところへ、皓祇が瑠璃瓶で足元を狙ってそれ以上の移動を阻んだ。
再び樹が<竜の翼>で間合いをつめてカデンサの連撃を叩き込む。
ガックリと一度リンドブルムの体がゆがむも吹き飛ばしするようなタックルを当てて来て二人の前から逃げるように去っていく。
『荻野さん‥‥深追いはやめておきましょう。こっちも手痛いですからね』
銃弾を全身に受け傷だらけの装甲の皓祇が倒れた樹を起き上がらせた。
『手ごたえはあった‥‥けれどまだ足りなかったのか。一体何‥‥あのAU、KV』
樹の呟きは戦闘の喧騒に消えていく‥‥。
●戦い終わって
傷ついた人はリッジウェイに乗っていた能力者がサイエンティストであったこともあり手当てを施してもらったためそれほど酷いことにはならなかった。
一同は最後の安全もかねてと建設中のマナウス基地へと向かう。
回収した資材を現場指揮官に渡すとき、翠とムーグが映像データと武器の残骸などを提出した。
「今回の相手はAU−KVでしたよ。バグアのね。戦闘データははいっているんで解析とかしてくださいよっと」
一仕事を終えた男の顔で翠は牛乳を飲む。
「コレハ‥‥武器ノ残骸、デス。ショップ、デ、ミルモノモ‥‥アリマ、シタ」
ムーグが出したアサルトライフルの破片はラストホープで販売されているものの同型であり、バグアによって改造されたものらしいことが推測できた。
鹵獲KVだけでなく新たに現れた鹵獲AU−KV。
カンパネラ学園の生徒の死体を使ったと思われるこの兵器は今後の戦いで驚異となりえるものだ。
「今回は逃してしまったけど‥‥次は、倒します」
樹は静かに決意を固めて帰り支度に入る。
大規模作戦は動き出しているのだから‥‥。