●リプレイ本文
●心機一転!
「新人のまま、住み分けの表明もせずおりました天戸るみです。今回より改めて、と言うよりも本格的にalpとして頑張っていきたいと思います」
天戸 るみ(
gb2004)が頭を下げて挨拶を終えると盛大な拍手がミーティングルームに響く。
バレンタインのポスターからALPに加わり、ライブ活動を二回ほど行ってきた天戸はここ一年ほどはアイベックス・エンタテイメントの活動を停止していたのだ。
「これから宜しくです。ミルルも活動回数は少ないので一緒にがんばるですよ♪」
ぶいっと人差し指と中指でサインを作ってミルフィーユ(
gb8619)はウィンクを飛ばした。
「はい、ありがとうございます」
「alpは活動メンバー少なくなって来ていたので嬉しいです!」
一方、椎野 のぞみ(
ga8736)は天戸の参加を心から感謝している。
メンバーの少数化がやや不安だったので、ここでの参加は素直に嬉しいのだ。
そんな風にアイドル達が盛り上がっているとミーティングルームの扉が開く。
「alpの菓子パン会議はここでいいのかしら? 昔の伝の紹介で案内されたのだけど‥‥」
「お邪魔します‥‥今日は見学に来ました」
入ってきたのは元モデルだった南 星華(
gc4044)と終夜・無月(
ga3084)の二人だ。
「能力者やりながらでもアイドルとかやれるのね‥‥」
自らは引退を決めてしまった南としては今、目の前にいる少女達の存在は興味深い。
「能力者やってて、アイドルに転身したみだけどな‥‥姐さんもそうだよな?」
「俺様のその口だな。さぁて、アイドルといっても今日は菓子パンのプロデュースだ。徹夜仕事では世話になったからな良いものを作りたいぜ」
エイラ・リトヴァク(
gb9458)とテト・シュタイナー(
gb5138)は互いの顔を見合わせながら星華に答えた。
「しっかり、良いものを作るようにがんばりましょう!」
改めて天戸が鼓舞して、ミーティングルームでの新作パンの作成が始まるのだった。
●パンを考えよう
「内容は分かったわ。ちょうど弟が作ったのがあるからこういうのはどうかしら?」
星華が紙袋から取り出したのはフィグ(イチジク)を乗せたデニッシュである。
「イチジクは美容にも良いし、ドライフィグなら栄養価も凝縮されていて女性受けは良いと思うわよ?」
メープルシロップで甘みを取っているため砂糖は無く、自然な甘さの引き立つデニッシュだった。
「とりあえずボクも試作品作ってきたので、まずは食べて見てください!」
のぞみが出したのはバーガータイプのコロッケパン。
コンビニでよく売っている半分切り開いて、中に挟んでいるタイプのものだ。
「よく見かけるタイプですね。結構好きですよ」
マネージャーのライディ・王(gz0023)が試食のためにバーガーを口にすると、驚いたような顔になる。
「気づきましたね、マネージャー。まずこのコロッケ、普通のではなくて、ジャーマンポテトなんです」
「なるほど、それ以上に何か隠し味ありますよね?」
「はい、バジルとパセリを利かせたレモン汁をソースに使ってます。生野菜も入れたかったんですけど‥‥」
「その点はコンビニ商品ですから入れても良いと思います。サンドイッチ類のコーナーにおいてもらいましょう」
食べ終えたライディはのぞみの意見を隣にいるコンビニからの担当者へ確認を取った。
「あ、一つだけ‥‥マヨネーズだけはアレンジでも入れないでください。ボク、マヨネーズが苦手なので‥‥」
のぞみが切実な思い吐露すると、コンビニの担当者からは苦笑がもれる。
「昔コンビニで食べたキノコクリームの揚げパンが非常においしかったことを思い出したのでそれで行きたいと思います。試作品はないんですけど」
続いては天戸が思い出の深いパンを紹介した。
キノコたっぷりのホワイトソースが入った揚げパンはこれから寒くなってくる時期には丁度よく、きのこを具にしているのも季節感があってよい。
「レンジで食べると美味しいとか‥‥そうですね、アイドルから一言手書きメッセージでも入れてあるとお客さんよろこばないでしょうか?」
天戸の意見に関心を見せた担当者はメモを入れていく。
「次はミルルの番ですね。ミルルがプロデュースするのはカボチャのベーグルなのです」
ぶいっとお決まりのサインを飛ばすとミルフィーユが説明をはじめた。
「綺麗な黄色、もっちりした触感、かぼちゃのほんのりとした甘みが絶妙なのですよ。もちろん、飾りのかぼちゃの種も食べられるようにするのです」
ストレートな商品なだけに手堅い売り上げが期待できそうな品がでてくる。
「カロテンもたっぷり入っていますので、美肌効果もあるのですよ」
「美肌系はアイドルも押していると効果ありそうですよね」
ライディが意見を聞きながらも、マネージャーとしての観点から意見を述べた。
「ただ、そのまま『かぼちゃベーグル』という名前で売り出すのも、コラボとしては少々味気ないですね‥‥」
「だったら、ハロウィンシーズンも兼ねるし、『ジャック・オ・ベーグル』というのはどうかしら?」
「おー、そのアイディアいただきなのです!」
星華が提案したアイディアをミルフィーユは受け入れる。
「この程度の意見であれば自由にね? こうしたところに入れてもらえるだけでなんか昔を思い出して私も楽しいから」
元気なミルフィーユの姿に星華は顔を綻ばせて微笑むのだった。
一方、隣の部屋ではテトとエイラ、そして見学ついでにと無月ができたてを食べてもらえるように、試作品を作っていた。
「甘過ぎると食えねぇって奴も少なくねぇだろうし。ここら辺はきちっと調整しねーとな」
テトが作っているのは秋の味覚であるサツマイモを使ったパイである。
四角い形でサツマイモ餡とホイップクリームを包む形のものだが、双方の比率を気にかけながらテトは調合を続けた。
「んぁー、こいつはちと甘過ぎるな。こっちの方が良さげか? よう、エイラの方はどんな調子だ?」
いくつか作ったホイップと餡で作ったタネを指で掬って味見をしながら、テトはエイラへと声を掛けた。
「あたしのはシナモンロールだ。故郷の味を出せたらなと思ってさ」
砂糖やシナモンが万遍なく振りかけられた生地をロール状に巻くときににレーズンを入れていく。
その目は真剣で、不器用な手つきながらも一生懸命なのがテトにも分かった。
(「むずいな‥‥とは言えやり遂げなきゃいけねぇ気がするよな。くそ、上手くいかねぇな‥‥親子そろって料理あんまし上手くねぇしな」)
内心で呟きながらもエイラは手を止めずに予熱で暖めておいたオーブンで形を整えたシナモンロールをいくつか入れて焼き始める。
ふぅと、息をつくがすぐさまオーブンの窓から中を覗いて焼きあがる様子を見守る。
(「簡単に助け求めたりはな‥‥あたしの為にもやっちゃいけない。いろんなこと考えすぎて上手くいかねぇな‥‥」)
心の中で自分のできなさを悔やみの方へ視線を無月へ向けると、手際よく栗餡の草餅をパンで包むという変わった創作パンを用意していた。
「これ‥‥結構、知り合いには定評なんですよ‥‥」
「男なのに上手いんだな」
エイラの関心した言葉に無月は笑顔を返すと、作業を再開した。
すると、オーブンが焼きあがったことを知らせる。
「あとは蜂蜜のアイシングで完成だ」
取り出した熱いシナモンロールに蜂蜜をかけていくと、エイラのパンは仕上がった。
「上手いじゃねぇかよ。さて、一口もらうぜ? 程よい甘みでいいじゃねぇかよ。やったな? レシピちゃんと書いて渡せよ」
焼きたてのシナモンロールを口にしたテトがエイラの肩を叩く。
叩かれたエイラの目から涙がこぼれだした。
「大丈夫‥‥ですか?」
驚いた無月が手を止めてエイラに近づく。
「痛かったわけじゃないんだ‥‥美味いっていってくれたのが嬉しくって。馬鹿だよな、食べてもらうもの一つ作るのに無くなんて‥‥」
「そんなことありません‥‥。誰かに喜んでもらえるのは嬉しいこと、ですから‥‥」
無月は泣き続けるエイラの背中を撫でて諭すのだった。
●次はグッズへ
全てのアイディアが出され、その全てが採用の方向で話がまとまった。
また、無月と星華のものはコンビニの通常の季節商品として採用が決まる。
ほっと一息、飲み物を飲んだり、試作品を皆で味わったあとはグッズと売り出し方法の会議に入った。
今度は米田社長も混ざり、よりアイドルのプロデュース的な要素が強くなる。
「さて、でははじめましょうか。今回のアイドルプロデュース商品との連動して出すグッズですが意見ありますか?」
「えっと、せっかくですので学生手帳風のが良いかなって思ってます。カードブロマイドといいますか‥‥」
周囲を見回す米田に向かって天戸が手をあげて緊張した面持ちで意見を述べた。
「なるほど定番ではありますね」
「定番といえば食器類もありだと思うのです!」
「だよな、応募券集めて〜マグカップなんかはよくあるぜ」
天戸に向かって米田が優しく笑みを浮かべていると、ミルフィーユとテトが食器やマグカップのアイディアを持ち込む。
どちらもパンのお供としては欠かせないものであるため、コラボ商品としてはぴったりだ。
「そちらもいいですね。他のアイディアはありませんか?」
「あー、こんなのがいいかわかんないけどよ。俺達の身に着けているものレプリカとかどうかな?」
「レプリカですと、少し高価になりますからね。そちらのアイディアは今後のImpalpsグッズの一つとしては受けましょう」
エイラは米田の言葉に少し落ち込むも、テトが頭を撫でて宥める。
「A等とかとは別に、送ると必ず当たる物っつーのがあっても良い気はするな。こう、邪魔にならないヤツとかでさ」
「ランク付けでいくつかあるのはいいですね」
「じゃ、じゃあ、必ずあたるものでカードを作ってレアとかあるのはどうだ?」
落ち込んでいたエイラが今度こそはと米田に向けて自分の意見をぶつけた。
「その方向でいきましょうか‥‥せっかくなので、テーマは学校の放課後という形で行きましょうか?」
「学生証であるならいいですね。放課後に食べるパンってことで、マグカップやCDコンポを上位賞で、残念賞でランダムでカードを渡すという方向でまとめましょうか?」
米田がコンビニの担当者に顔を向けるとコンビニの担当者は頷きで答える。
「では、その方向で行きましょう。エイラさんも良いアイディアをありがとうございます」
「あ、ああ‥‥あたしはやれることをやっただけ、だからな‥‥」
笑顔を向ける米田にエイラは照れて頬をかいた。
「あ! すみません! できることなら、ポスター作りませんか。ポスター! そのついでにプレゼント用にアレンジしたものやミニ写真集なんかもあると良いと思います」
話し合いがひと段落すると、のぞみが手を上げて主張を始める。
店頭で張り出すものとしてはポスターは欠かせないものだ。
「プレゼント用よりはそのまま別口販売がいいでしょうね。写真集は前のエイラさんと同じように通常グッズ扱いで採用をしましょう」
「なるほど、了解しました! じゃあ、以上ですね」
のぞみが席に座りなおすと思った以上に意見が集まり米田も満足そうである。
「今回のコラボレーション企画は良い形になりそうですね。企画タイトルは『ALPの放課後』ということで行きましょう」
企画の確定にその場にいた全員が拍手をして、会議の終了を締めくくった。
コンビニの担当者も今回のレポートを持って外に出て行くのを頭を下げて見送る‥‥。
「さて、他の人も解散で‥‥」
ライディが立ち上がって解散を促そうとすると、米田が手を出して止めた。
「何をいってるがね、せっかくだで撮影もやってくでよ。時間はありゃあするしセーラー服の写真集作るで〜」
会議の堅苦しい雰囲気とは別人の米田が大きく背を伸ばしながらアイドル達の周りを飛行機のようなポーズで飛び回る。
そんな社長の姿にびっくりしながらもアイドル達は撮影の準備に取り掛かるのだった。