●リプレイ本文
●オフショット
UPC南中央軍の装甲車に撮影スタッフとライディ・王(gz0023)が乗り込む中、毒島 風海(
gc4644)がガスマスク姿でスタッフに尋ねる。
「‥‥成る程、撮影隊は安全な遠方から取るのですね。でもそれじゃ単調になって、TV的には面白くなさそうです。よろしかったら私、カメラ持っていきましょうか?」
突然の申し出に撮影スタッフは打ち合わせをはじめるが、リアルな映像を撮りたいこともあったので予備のカメラとテープを渡すことにした。
「あと、段取りも教えてください。アングルが被らないようにします。連絡の無線はこちらのチャンネルで‥‥」
業務用カメラの操作法を教わり、準備を進めている。
「カメラがあると何時ものキメラ退治といっても、何だか雰囲気が違うね」
毒島の様子を眺めながら鈴木悠司(
gc1251)は装備や、自分の服の確認をした。
無線機での連絡、男3人での立ち回りなど簡単な依頼ではあるものの油断はできない。
「本気でキメラ退治してる所を撮られる‥‥ちょいと変な気分だなぁ。ま、いつも通りやれば問題無しだな!」
「しっかり鷲さん回収です♪」
チームメイトの夜刀(
gb9204)と張 天莉(
gc3344)も悠司の肩を叩き自信に満ちた顔を見せた。
「では、行きましょうか」
双眼鏡で偵察をしていた仲間が呼んでいる。
ここからが傭兵の仕事の始まりだ。
●戦闘開始
「巨鳥の群となると、数も相まってなかなかの迫力だな」
リュイン・カミーユ(
ga3871)は木の葉かと思いきや殆どがキメラで出来ているような大木を見上げて言葉を漏らす。
サイエンティストに転職してからの初陣だ。
支援できる距離を保ちながらセラ(
gc2672)と共に木へと近づく。
バサバサバサとキメラたちが木から羽ばたき広がってきた。
「強化、かけるぞ!」
リュインが<練成強化>を届く範囲に分かれた5人へとかける。
「数匹が不意打ちにくる。ここは私が受けるから、リュインさんは反撃を頼んだよ」
<探査の眼>を使っていたセラが上を見てリュインに伝えた。
セラ‥‥いや、覚醒しているときは二重人格の片割れであるアイリスの言葉どおり急降下してくる一団がリュインに向かってくる。
だが、アイリスが立てを構え両手のガントレットを強く握り襲撃を抑えきった。
「初依頼ですし、皆さんの足を引っ張らないように頑張らなければ」
リュインからの支援を受けた若山 望(
gc4533)はスコーピオンを強く握り締め上空に向かって引き金を引く。
銃口が火を噴き、弾が広がっているガルーダの群れに吸い込まれていくように飛んでいった。
群れのうちの何体かが銃弾を受けるもそれが切欠となり彼らをその気にさせる。
『ケアァァァァッ!』
鳥の鳴き声とは思えないような耳障りな音を発してキメラ達は急降下して、嘴で望達を貫こうとした。
動きやすいように首の後ろにリボンで結んだ髪を揺らしながら望は盾を構えて耐えようとするもあまりの勢いに体が押される。
倒れそうになるのを春夏秋冬 立花(
gc3009)が後ろから支え、機械本「ダンタリオン」を開いてキメラへ電磁波を飛ばした。
「キメラを傷つけるのもいやですけれど、皆さんが傷つくのも嫌なんですよ。援護しますから、早く片付けてしまいましょう」
「はい‥‥すみません」
望は一呼吸を置いて、再び敵に目を向ける。
足手まといになるわけには行かないのだ。
●三匹がKILL!
黒く広がったガルーダ達は様子を見るように能力者達の頭上で輪を作り、チャンスがあればと突っ込んでくる作戦で襲い掛かってくる。
「ぅぁ‥‥改めて見ると凄い数ですね‥‥っと。うん、頭上の攻撃は防ぎ易いですね♪」
混元傘を雨でも避けるかのように構えながら張はキメラの突撃を防いでいた。
しかし、元々強度のあるものではないので、長時間の使用は厳しい。
そこを悠司や夜刀がフォローする形で3人は動いていた。
「ぎりぎりまで引き付けて‥‥いよっしっ!」
悠司が急降下を防がれたガルーダに向かって<紅蓮衝撃>を付与した<流し斬り>で一閃する。
続けて機械剣「莫邪宝剣」を握ってレーザーの刃をだすと軽く飛び上がった。
横に切ったガルーダへとどめとばかり頭上から真っ二つにし、その瞬間に襲い掛かってきた次のガルーダに向けて<真音獣斬>でレーザーの刃を飛ばして斬り裂く。
「ヘイヘイそこのチキン共! 恐怖の傭兵軍団のお出ましだぞ!」
張の傘に身を隠していた覚醒で黒髪となった夜刀も小銃「グラディヴァ」を撃ってガルーダを迎撃する。
エースアサルトの大太刀型の覚醒紋章と共に九尾の狐のようなオーラをまとって、傘から外へと踊り出た。
急降下攻撃を二刀流で受け止めて、返す刃できる。
翼をなるべく狙い、捕獲を優先に夜刀は戦っていた。
「おっと、危ない!」
ソニックブームを飛ばしてきたガルーダから二人を守るように張が<ボディーガード>を使い、混元傘を盾に守る。
衝撃波が混元傘を切り裂き、張を傷つけるがまだ倒れるほどではなかった。
「よし、それじゃあいっちょ連携攻撃いってみるか?」
「いいですね♪」
「乗りましょう」
不敵に笑う夜刀の提案に張と悠司は頷きで答え、合わせるように動く。
混元傘を広げたままの張が<シールドスラム>で道を作ると、犬耳と尻尾を揺らす悠司が身軽な動きで翼を機械剣で切り落とした。
「ボディがお留守だぜっ!」
とどめとばかりに夜刀が胸を壱式で貫いてガルーダの息の根を止める。
だが、一体に時間をかけていたのもつかの間、今度は一斉にガルーダ達が攻撃を仕掛けてきた。
「中々、魅せる絵というのも難しいですね」
覚醒で生えた犬耳をピクピクとさせながら悠司が息をつく。
「まずは数を減らしましょう」
「いよし、行くぜ!」
3人は背中合わせになって頷きあうと武器を構えて突撃してくるキメラたちを迎撃していった。
●ガスマスク子は見た
臨場感あふれる3人の戦闘の様子を一台のカメラが捕らえている。
「レンズを通すと‥‥違った世界が見える。なんて‥‥素敵なんだろう」
いつの間にかガスマスクをはずして後ろ髪を結んで毒島は撮影に夢中になっていた。
趣味でもある絵を描くときと同じような興奮が毒島の心に渦巻き、体を動かしている。
リュインとセラ達の方にカメラを向けると、セラが妖精のように盾を輝かせながら戦場を舞い、エネルギーガンを持ったリュインがキメラを撃ち落していた。
「攻撃してくるのが分かっていれば、当てるのは難しくない」
急降下してくる敵を鬼蛍を抜きながら斬り上げ、すぐに自分にとって最適な間合いをとる姿は元グラップラー故か‥‥。
凄惨な光景かもしれないが、戦う能力者一人一人が死力を尽くし戦う姿はかっこよく見えた。
「毒島さん‥‥危ないです」
撮影に集中していた毒島の頭上から苦しむ鳥の声が響く。
望がスコーピオンで迎撃したのだ。
「命中‥‥一体撃破。次」
「風海ちゃん、よそ見していちゃだめですよ」
さっと後ろ出に何かを隠しながら立花は望が撃ち落したキメラにもう一撃、電磁波を当てて大人しくさせておく。
キメラであろうと傷つけたくないという思いが立花にそういう行動をさせていた。
「あ、すみません。撮影に集中していて。大分減ってきましたね。もう一息がんばりましょう」
カメラを向けながら毒島は気合を入れなおす。
そのとき立花はものすごく意外そうな顔をしたが、毒島はそのまま他のメンバーの撮影に戻る。
立花が意外そうな顔をしたのは、カメラを向けながら話す毒島が見たこともない笑顔を浮かべていたからだった。
●戦闘の撮影完了
「命を奪うのは抵抗あるんですが、被害があるなら仕方ないんですかね‥‥」
手持ちのワイヤーでぎゅぎゅっと生きているガルーダをまとめて縛りながら立花は汗を拭う。既に虫の息と化したキメラには、もはや抵抗する力も残っていない。
40体という数はさすがに大変で、一体一体の性能はそれほどでも無かったために確保に時間はかかった。
今回も10体ほど途中で逃げてしまったので、30体ではあるが数的には上等だろう。
悠司のスキル使用による練力疲労や望の負傷度合いも踏まえれば無理は出来ない。
「――Amen」
リュインは死体となったキメラに向かって十字をきると<練成治療>による治療に回った。
「あとはキメラ研究所の人が回収してくれるみたいですね」
ガスマスクを被りなおした毒島が近くまで寄ってくる。
「皆さん、戦闘はいい映像が取れましたよ。輝いて見えました」
ガスマスクで表情と声が分かりづらいものの、楽しんだようである。。
しばらくすると、キメラ研究所のトレーラーがやってきて特殊な檻の中にキメラがモノのごとく詰め込まれていった。
その様子を見ていた夜刀は閉められた檻の中で苦しむガルーダを見つめ、呟く。
「なあ‥‥もしお前ら言葉があったら、何を真っ先に叫ぶんだろうな? ‥‥『生きたい』って、泣いてるのかな?」
夜刀の言葉に答えることは無く、トレーラーの扉は閉じられて戦場から走り去った。
●自己PRタイム!
「皆さん、お疲れ様でした。こちらでも映像の方しっかり撮影できました」
ライディが装甲車が下りてきながら、参加者をねぎらう。
「さて、一応オーディションというか新人選考も兼ねてますので皆さんからその辺りについても聞きますので答えられる限りで答えてくださいね」
第二部の撮影についての説明を終えると、カメラが回り、現地のTVレポーターがマイクを持って装甲車から姿を見せた。
「我か? そうだな。我はアイドルという柄ではないのだが演技分野に興味がある。己でない者を演じるのは楽しそうだと思ったのが理由だな」
マイクを向けられたリュインは手短に答え、覚醒時の黄金色から銀色に変わった髪を揺らした。
「名前は夜刀! 雑技団で馬芸者もやってる。歌や演技も経験あり!」
次にマイクを向けられた夜刀はつらつとした声で自己紹介を始める。
「あ、あとコスプレも‥‥バニーとか、巫女さんとか、ヒーローとか、着ぐるみとか、女学生とか‥‥言っとくが今は女装してないからな!」
コスプレの多い遍歴を語りながらも最後に釘を刺した。
「名前も言った方がいいのかな? 鈴木悠司です。歌が好きで、人並みにギターが弾けるくらいですがね。演劇の方に進みたいと思っています」
照れくさそうに頭を掻きながら出番の回ってきた悠司も答える。
「セラはね。アイドルになってお知り合いのお兄ちゃん達をメロメロにしちゃいたいの♪ 鍵盤楽器が得意なんだよ☆」
戦闘時はクールな別人格のアイリスになっていたが、こうした場面でセラの無邪気な姿もカメラへと押さえられていた。
「あのキメラ達、これからどうなるんですかね‥‥あ、すみません。えっと、ないむねアイドルりっかたん目指しています」
マイクを向けられていた立花だったが、連れ去られていったガルーダ達のことを思い返していたのか呟きを零す。
すぐさま、アピールを考えるもどちらかといえば自虐ネタに近いコメントになってしまった。
「今回初めて使ったんですが、傘の楯って面白いですよね♪ 後は守るための戦いを基準に考えています。目指すのは『ガーディアン』ですから」
屈託の無い笑顔を見せながら張は語るが、アイドルとしてのアピールはどこへいったのだろうか。
「私みたいなのがアイドルなんて出来るのでしょうか。内心が表に出ないのでいつも無表情‥‥人によっては冷たく見えたり不機嫌に見えたりですし、話し方も他人事のように淡々としてますし‥‥」
望は膝まである長い髪を梳きながら自らの思いを吐露した。
それでも、これが能力者としての初仕事であり依頼達成のためにがんばれたことに安堵の息を漏らしている。
「アピールと言われましても裏方に徹したので、アイドルの話は無いだろうと思います‥‥でも、良い経験にはなりました。楽しかったです」
ガスマスクを外すことなく半分諦めの様相を浮かべて毒島はレポーターへと語った。
一言の撮影も無事終え、後は現地TV局での編集となるためスタッフは撤収する。
「それでは僕達も帰りましょうか。今日の撮影のものはノーカットで社長には送られるそうですから判定はそれからになります。決定次第、通知が皆さんに行くと思います」
ライディは来るときに高速移動艇が降り立ったポイントへ移動を促し、最後に笑顔で伝えるのだった。
●社長の判断
送られてきたVTRを社長室で眺め終わった米田時雄は一息つく。
「採用通知はいかがしましょうか?」
「そうですね。春夏秋冬さんはアイドル希望のアピールがやや弱めですね。申し訳ないですが今回は不採用で。カミーユさんの女性でMpaというは採用でもいいでしょう」
静かに腕を組み、スーツ姿の米田は鋭く目を光らせながら秘書に伝えた。
「若山さんは自信がないようですが、希望があるなら採用させてあげたいところですので候補生という形で送ってください」
秘書は米田の言葉を一語一句逃さぬようにメモを取り続ける。
「男子が3人増えたのは嬉しいところですね。Mpaの増強になります。セラさんも楽器が出来るのはいいですね」
「それで毒島さんはどうされますか?」
目を優しくした米田に秘書は話題に上がっていない一人について尋ねた。
「彼女は素材はいいと思います。出来ることなら顔を出して売りたいところですが‥‥そうもいかないでしょう」
「では、不採用で?」
「いえ、彼女が了承すればではありますがCD収録やアナウンスなど顔を出さない部分で素顔の分からないミステリアスなアイドルとして売ってもよいのであれば採用したいと思っています」
意外な言葉に秘書は目を丸くする。
「Alp候補生として、毒島さんは先ほどのメッセージと共に通知を送ってください」
米田は悪戯を考え付いた子供のような顔をしながら秘書へ指示をだした。