タイトル:Mpa〜熱闘テニス〜マスター:橘真斗

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/10/30 22:45

●オープニング本文


●社長、今月の思いつき

『今年はスポーツの秋を推しましょう』

 米田時雄のこの一言から始まり、10月10日に向けて能力者アイドル同士によるNO.1テニスプレイヤーを決めるという企画。
 『熱闘スマッシュアイドルズ』というモノが出来上がり、ルールなどの調整、場所の手配をライディ・王(gz0023)が行っていた。
 場所はラストホープということで、大規模作戦で騒がしい中でやるには気の引ける企画である。
「でも、娯楽番組も必要には必要だし。何よりこういうスポーツをやっている姿を見せることで戦士よりも身近に能力者を感じてくれそうなのはあるんだよね」
 自室で机に向かって作業をしながらライディは呟いた。
 大きな作戦ごとに借り出される能力者は傭兵という区分であり、戦争の道具という側面がないとはいえない。
 だからこそ、その間にもこうした楽しい企画を一般人に見せることで親しみを持ってもらおうというのはライディにも共感できた。
 一方で、批判的な意見もないとはいえないがやる価値はある。
「問題はルールかな‥‥なんとかバランスをとらないとラケットとかも特殊なのを用意してもらった方がいいのかな」
 ボソボソと呟きながらやるべきことを書き出していくと、少々気がめいってきた。
「時間はないけど、何とかやろう。よっし!」
 気合を入れなおしたライディは企画書の作成作業に戻る。
 寝る間を惜しみ日々コツコツとマネージャーとしてがんばるのだった。

●熱闘スマッシュアイドルズ
 2010年10月10日、晴れ。
 ラストホープにある、総合陸上競技場のテニスコートを借り切って能力者アイドルによるテニス大会がはじまろうとしていた。
「今回はMpaのみということで大会を行います。人数の問題と顔出し、及びスポーツ業界への売り込みを踏まえてです」
 ライディが控え室に集まっているアイドル達に向けて説明を始めた。
「ルールは通常のテニスと一緒です。シンプルにいきました、スキルの使用もありのトーナメント形式で行います。組み分けは希望者があれば希望者同士、そうでなければ同じくらいの実力者でこちらで組みます」
 名前の書かれていないトーナメント表を見せながら話を続ける。
「スポーツマンシップにのっとり、励んでください。一応ボールもラケットも能力者仕様のを用意してもらいましたので安心してください‥‥たぶん」
 最後の方だけが自信なさげだが、ライディは能力者アイドル達に頭を下げるのだった。

●参加者一覧

鷹代 朋(ga1602
27歳・♂・GD
リュイン・グンベ(ga3871
23歳・♀・PN
玖堂 暁恒(ga6985
29歳・♂・PN
金城 ヘクト(gb0701
26歳・♂・EP
宵藍(gb4961
16歳・♂・AA
七市 一信(gb5015
26歳・♂・HD
ヤナギ・エリューナク(gb5107
24歳・♂・PN
鈴木悠司(gc1251
20歳・♂・BM

●リプレイ本文

●美女と熊猫
 ブロローンと排気音を鳴らしながら、空からテニスコートへパイドロスに乗った七市 一信(gb5015)が降りてくる。
 途中でバイクがパンダの着ぐるみのように変形して装着され両手を上げて見事に着地した。
 良い子は真似しないというテロップが入りながらも七市は高らかと宣言する。
「パンダが地上最強プレイヤーと証明してくれるわ!」
「曲芸パンダに我が負ける訳にはいかないな」
 対するはMpaの紅一点、リュイン・カミーユ(ga3871)だ。
 パンツルックの多い彼女だが、今日は白いテニススコートで勝負に挑む。
「さあ野郎共、レッツパーリィ!」
 リュインの気合のはいったサーブから試合が始った。
 試合は基本のルールである6ゲームの3セットマッチで、引き分けの場合はゲーム獲得数の多い方が勝ちとなる。
 しかし、スキルの使用がありということもあり普通の試合にはならないのは誰もが思っていた。
 <練成強化>によって光りを帯びたラケットが鋭いボールを飛ばす。
「パンダの雄たけびを聞くがいい‥‥パンダーーーーー!!」
 サービスコートでバウンドし、コート端に飛んでいったそのボールを<竜の翼>で走り正面に捉えた七市が打ち返した。
 打ち返されたボールをリュインが<瞬天速>で追いかけて更に返し、コート端を手に入れる。
 客席から初戦からの激しい攻防に歓声があがった。
「ふふ、まずは1点だな」
「じょ、女性が見えそうになるとかそんなことしちゃいけないのだ!」
 七市が返せなかったのはリュインのスコートが見えそうで見えない揺れをしていたからである。
 そして、それから二人は同じ様な動きでボールを返したり、入れたりと同じスタイルのプレーの白熱の展開をしていた。
 ついに、最終セットでゲーム数はリュインが有利。
 そのラストゲームを互いに3ポイントといった局面を迎える。
 これをとられれば勝負が決まってしまう七市は最後のサーブを力強く飛ばしてきた。
 リュインはラケットを持ち替えてそのボールを、回転レシーブで返す。
「必殺、不敗乃黄金大猫熊スマッシュ!!!」
 バウンドしたボールを七市は全身に広がる竜の紋章が金色に輝かせなら力づよいスマッシュで打ち返した。
 ギュルルとボールが物凄い回転をしながらリュインを狙うが、リュインもぎゅっとラケットを握り輝かせる。
「なかなかやるが、我は負けるのが嫌いでなっ!」
 勢いのついたボールへ更に回転をつけて、コートの端へ返し、試合はリュインの勝利で終わった。
 
●炎と水
「覚醒状態は‥‥、アイドルとしてどうか‥‥ワゥォォォォー」
 ラケットを握りしめた途端に金城 ヘクト(gb0701)が奇声を発する。
 野獣のような声にびくりと観客が一斉に動いた。
「すまない。感情を抑えきれない一対一は‥‥」
「大丈夫だよ。こちらはいつでもいい」
 フシュルルルと獣のように唸るヘクトを相手にする鷹代 朋(ga1602)は至極冷静である。
「ヌン!!」
 ヘクトの力任せなサーブから第二試合は始まった。
 動きを読んでいた朋は普通に走って追いつき華麗に返す。
 大学時代やった分だとは言うが、テニス未経験者が多い今回のメンバーではアドバーンテージを少なからず持っている。
「セイッ!!」
 獣のような動きとともに言葉数が少なくなっているヘクトだが、それでも鉛色になった瞳はボールをとらえ、一気に飛び上がって強烈なスマッシュを叩きこんだ。
「さすがにすごいパワーだ‥‥ま、いいか、劣ってる部分は勝ってる部分で勝てばいいだけの話だ」
 捕らえ切れなかったボールを拾って投げ渡すと朋は眼鏡を左手で直す。
 ヘクトを見つめる黒い瞳は静かな闘志を燃やし始めていた。
 テクニックよりも野性的な本能による戦いを見せるヘクトと、知的でバランスよく戦う朋のプレイは実に対照的で、試合運びもセット数を同数といい勝負をしている。
 1セットずつ取得の試合運びが行われ、よいよ最終セットとなると朋とヘクトのラリーが長く続く。
 小気味よくラケットにボールが当たり、跳ねる音と靴がきゅっとなる音だけがコートを試合していた。
 ヘクトから来たボールを朋が返したとき、ヘクトがネットの傍で大きく跳ぶ。
「サイクロンダンク」
 <紅蓮衝撃>を使い、右回転をかけた強烈なダンクシュートのようなスマッシュを放った。
「やべ‥‥なんてね!」
 言葉通り竜巻のように回転したボールが朋の予想を外れて真逆に飛んでいく。
 それを朋は眼鏡を光らせたかと思うと<弾き落とし>と<瞬天速>を使い、逆回転をかけるスマッシュで返す。
 ヘクトの顔の横を通り過ぎたボールがコートに落ちて勝負が決まる。
「ウォォォォウ!」
 一瞬、時が止まったが悔しさに遠吠えのような叫びを上げたヘクトと共に歓声が巻き起こるのだった。

●ロックとパンク
 歓声の中に黄色い声援がより強くなる。
 対戦はヤナギ・エリューナク(gb5107)と玖堂 暁恒(ga6985)の対戦だった。
 観客の女子にウィンクを飛ばしファンサービスを欠かさないヤナギと、ぶっきらぼうな暁恒だがパンク風とロック風な容貌で女性ファンの人気は高い。
「このビート‥‥やっぱ気持ちイイねェ」
 普段ベースでリズムを刻むように体を動かしながらヤナギはサーブをする。
 覚醒すると妖艶な雰囲気をまとい、テニスをしているだけなのにどこか色っぽさが映えていた。
「とりあえずルールさえ憶えたから‥‥醜態を晒さずに済むだろ‥‥」
 高校時代から幾分か経ってはいるものの、能力者として体を鍛えていた暁恒は感覚をすぐに取り戻して、サーブを返す。
「ビートに乗るゼ!」
 ネット近くまで寄っていたヤナギが余裕を持ちつつテクニカルなスマッシュを返す。
「ちっ‥‥やりづらい相手だな‥‥」
 ヤナギがスマッシュを決めると再びキャーキャーと黄色い声援があがった。
 暁恒はちっと舌打ちを零しながら、次のサーブに対応する。
 勝負はヤナギが1セットを制したところで、暁恒も本気を見せた。
 ヤナギからのショットを返すと暁恒は<高速移動>で残像を残しながらコートを駆け回る。
 どこに返しても返されるような錯覚をヤナギに起こさせた。
「ヒュー、やるじゃない‥‥」
 暁恒の動きに冷静さを欠いたヤナギは返すことが出来ずに暁恒へポイントが入る。
 サーブを暁恒がして、ヤナギが返し更に暁恒が返す‥‥。
 どちらも本気で汗を飛ばしながらチャンスをうかがうようにラリーを続けた。
 暁恒からの高めのボールをヤナギが宙返りをしながら力強くスマッシュする。
「疾返し‥‥」
 ボールの軌道を見切った暁恒が<瞬天速>で一気にネット際まで詰めボールの高さとネットを抜けるギリギリのコースでボールを打ち返した。
 コートにボールが跳ねて暁恒が更にポイントを重ねた。
 しかし、その後はヤナギがポイントを抑えてゲームを制する。
「頂きぃ」
 2セットを抑えたヤナギは手放しで勝利の喜びを表すのだった。
 
●先輩と後輩
「見た目が20歳ならいいじゃないか‥‥」
「宵藍(gb4961)さんの童顔っぷりには負けるけども、テニスでは勝てる様頑張るよー!」
 小さな呟きをかき消してしまうような元気な声を鈴木悠司(gc1251)はあげる。
 無邪気さの見える25歳と、幼なくそして女性っぽく見える顔立ちにコンプレックスを感じる25歳と同じ25歳でも思いはそれぞれだ。
「目一杯楽しんでいこう」
 それでも自分も楽しみ観客を楽しませようと握手の手を差し出す宵藍に悠司も答えると更に観客が沸く。
 試合運びは中国武術の軽やかな動きをする宵藍とアクロバティックに跳ね回る悠司のラリーが派手に続いた。
「もっと跳んでみせて!」
 跳ね回るのがデモンストレーションとでもいいたげに悠司が高くトスをする。
「そのくらいっ!」
 高くトスされたボールでも宵藍は宙返りしながら<両断剣>でコートギリギリへと打ち落とすスマッシュを決めた。
「うわーすごいや、ワクワクしてくるね♪」
 宵藍のスマッシュもキラキラとした瞳で悠司は見つめている。
「次のサーブは俺からだ‥‥いくぞ!」
 大きく飛び上がった宵藍が<キュア>で体を光らせながらサーブを放った。
 回転のかかったボールが悠司に迫る。
 コート端に落ちるかと思いきや悠司は<瞬速縮地>で追いついてギリギリで返した。
 派手かつ動きの多い試合運びは1セットを引き分けで終わらせ、2セット目には宵藍が勝利を収める。
「このセットは負けられないね‥‥こちらのサーブいくよっ!」
 ボールを高く上げると高速のフラットサーブを悠司は仕掛けた。
 スパァンといい音がしてラケットから弾丸のようにボールが飛ぶ。
 すばやいサーブをワンバウンドを確認した宵藍も、円舞のようにラケットを回転させて打ち返した。
 長いラリーの末、ラインギリギリを狙ったショットで勝負を決めた宵藍が二回戦に進む。
「ありがとうございました!」
「こちらこそ、いい試合だった」
 勝負が終われば同じ仲間、握手で始まり握手で終わるいい試合をした二人だった。

●美男と美女
「まずは一勝、このまま優勝を狙わせてもらうぞ」
 ひらひらと揺れるスコート姿でリュインは構える。
 対する朋は至極冷静にたまの動きを脳内で計算していた。
 嫁以外のチラリに興味などないのである。
 パワーをこめたリュイン弾丸サーブが飛んでくるが、朋は眼鏡をきらりと光らせてボールの軌道を追いかけた。
「甘い球‥‥もらったっ!」
 強い力のかかったサーブがコートで跳ねて浮いたところを朋は捕らえスキルの<スマッシュ>を込めて倍返しといわんばかりの力で返す。
 しかし、ボールは高く跳ね上がり、そのチャンスをリュインは逃さない。
 <疾風脚>で脚力を高めるとジャンプし、宙返りをした。
 スカートがチラリどころでは無いが、リュインには関係ない。
「くらえっ、ムーンサルト‥‥めんどくさいっ!」
 必殺技名でも叫ぼうとしたのだが、性に合わないとリュインは省略して強打して足元へとボールを返す。
 さすがのカウンターに朋は一歩及ばずポイントをとられた。
 1セットはリュインが押さえ、2セット目は朋が押さえて勝負は3セット目に持ち込まれる。
 ゲーム数も同数の獲得のため、ここが勝負の別れどころだ。
「中々やりますね。初めてとは思えませんよ」
「コートにボールを叩き込めばよい、それだけならばやりようはあるというものだ」
 不敵に笑う朋にリュインも強気の笑みを返す。
 1ポイントをとっては取り返し、接戦が続いてゲームも佳境にきた。
「このゲームをラストとにする!」
 朋がサーブを放つ。
 お互いの練力も余裕があるわけではないので、試合の決着を早くつけなければ覚醒と非覚醒での対決は避けられなかった。
「我の運と実力を甘くみるな!」
 飛んできたボールをリュインが<瞬天速>で追いつきながら返す。
 視線を空いたスペースに向けながら朋がボールに向かって<瞬天速>で同じように駆けた。
 リュインが先回りするかのように動いた瞬間に朋が<弾き落とし>と<スマッシュ>を織り交ぜた回転スマッシュで足元ギリギリのコースへボールを飛ばす。
 ポイントが入り、それで勝者は朋で決まるのだった。

●戦慄と旋律
「シャオさーん、がんばってくださーい!」
 ベンチでは試合に負けた悠司が応援をしている。
 そうでなくても試合の行く末をみるために見ていた。
 対戦は鏡併せの相手と戦うように秀でている部分が同じもの同士の対決となる。
 妖艶な雰囲気を纏ったヤナギと瞳を瑠璃色になって凛とした雰囲気を強くした宵藍との対戦は殺陣のごとくリズミカルな戦いだった。
 ビートを刻むようにラケットを唸らせるヤナギに対して宵藍は剣舞のような軽やかな動きとともに返す。
「ビートを上げるゼ?」
 宵藍の返しに気分を良くしたヤナギはコート端を狙ったショットをかます。
 反対側のすれすれ、すぐさま対応できない宵藍は奥の手を使った。
「超ウルトラグレート‥‥以下略!」
 <迅雷>で加速し、ボールに追いついたかと思えば返す掌でボールをスマッシュする。
 止まらない勢いを宵藍は回転するターンできっちり決めた。
 ヤナギはボールに追いつかずに宵藍にポイントがはいる。
 そのままそのセットを手に入れ、展開が宵藍に向きかけたと思ったが、ヤナギのビートは更に高まった。
「更に上げるぜ!」
 ネット際で<影撃ち>を使ったり、宙返りスマッシュなど技を使ったテクニカルな攻めで押し切りヤナギが多数のゲームを制して決勝戦へとコマを進める。

●勝利と祝福
『第一回、熱闘スマッシュアイドルズ優勝者はヤナギ・エリューナクさんです』
 司会者が発表をすると壇上にヤナギが上がってきた。
 朋との試合はダイジェストでディスプレイに流れているが得意のプレイによる攻めが効いたようではある。
 準決勝で負けてしまった宵藍も決勝戦では得意の二胡をBGM代わりに弾いて盛り上げている。
 接戦ではあったが、運や他の要素も実力の内であり負けたアイドル達も拍手でヤナギの優勝を祝った。
 ただし、試合終了後ベンチで居眠りをしているリュインを除いてではあるが‥‥。
『優勝賞金は10万Cです。受け取ってください』
 10万Cと書かれた大きな紙の札を受け取るとそれを両手で掲げて、ヤナギはウィンクを客席に飛ばした。
「悔しいが勝負は勝負さ」
「妥当な結果だ‥‥」
 優勝台に立ってフラッシュを受けたりするヤナギを見ながらヘクトと暁恒は不意に笑みを浮かべる。
「「だが、次は負けない」」
 スポーツで繋がった絆と新たな闘争心は傭兵アイドルに一つの可能性を見出せた。
『それでは皆様、今回試合をした選手8人にも惜しみない拍手をお願いします』
 司会者の声とともに客席から大きな拍手が沸き起こる。
 熱い試合に対する何よりも得がたい報酬だった。