●オープニング本文
前回のリプレイを見る●大江山 山城屋敷
薄暗い屋敷の中では今日も鬼達が顔をつき合わせて宴をしていた。
「門をこじ開けてきたか。じゃあ、出迎えをしてやらなきゃなぁ」
美味しそうに杯に入っているモノをあおり、朱貂は顎で傍にいる中世ヨーロッパの旅芸人のようにエキゾチックな姿をした美女、ヤクシニーに酌をさせる。
「要塞とかしたらここにくるなんて命知らずだね。けど、やってくるだろうね。彼らは‥」
「面白い。ならばこの鬼堂が本気でやりあってみようか」
白衣を着た少年、榊原と侍風の壮年の男、鬼堂は朱貂と代わらぬ楽しそうな笑みを浮かべていた。
「油断をしない方がいい。寝首をかかれるぞ」
ヤクシニーが二人をたしなめると朱貂が手を軽く上げてヤクシニーを制する。
「どうせ、ここに来るんだ。先に鬼堂と榊原が出向いてもいいだろう。どちらも中途半端で返ってきたんだから全力をだしたいだろ?」
朱貂が二人に顔を向ければ二人は頷きのみで答えた。
薄暗い部屋の明かりが一瞬揺らいだかと思うと二人の姿は消えている。
「兄貴ぃ‥‥ここまで生きてこれるか‥‥直接なぶるまでは生きてもらわなきゃ困るぜ」
再び杯を傾けてつつ朱貂は静かに呟くのだった‥‥。
●大江山麓 京都UPC軍前線基地
簡素な陣地では今宵も平良・磨理那(gz0056)を中心とした作戦会議が開かれていた。
京都市の二条城から軍備を動かし、大江山への活路を見出す作戦のため、長期戦になれば空いている京都市が敵にやられてしまう可能性だって高い。
それでも篭城を続けるわけにはいかなかったために苦渋の決断での陣移動だった。
「偵察隊の話では大江山山頂の屋敷に向かうまでには処理しなければならない案件がいくつかあるのじゃ」
「要塞化した山の施設だったか?」
山戸・沖那(gz0217)が磨理那の言葉を確認するかのように地図と写真に目と落とす。
視線の先にはさまざまな兵器の写真とそれらが置いてある地点に印がされていた。
「うむ、そうなのじゃ。妾よりは姉上の方がこの手には詳しいの」
「承知。まずはこのキューブワームが連結されたものはジャミング強化装置と思われます、対爆雷などの迎撃装置と、自立砲撃装置がこちらの写真でしょうな」
磨理那の視線を受けて白川仁宇は写真を一つずつ確認しながら、沖那に向けて説明を続ける。
「これらを全て沈黙させないことには一般のUPC軍では近づくことすら容易ではないのじゃ。ゆえに、近畿UPC軍のKV部隊にも応援を頼みここれらを一気に制圧する作戦で参る」
パシンと扇子を閉じた磨理那は沖那と仁宇‥‥そして、手伝いに来てくれたラストホープの能力者達に作戦目標を伝えるのだった。
●リプレイ本文
●峠越え
大江山の入り口を突破して陣を築いた京都市の『朱貂討伐隊』が山頂を目指して進軍を開始する。
空と陸の二段重ねの作戦だ。
近くでみると要塞のように武装した大江山は”京都”のイメージから大きく外れている。
『自動砲台は上を向いた。今のうちに突撃しろ』
『全部避けちゃうんだから!』
近畿UPC軍所属の5機のディスタンと斉天大聖を引き連れて緋沼 京夜(
ga6138)の改良ディアブロ『Naglfar』とユウ・ターナー(
gc2715)の改良ディアブロ『ミカエル』が空を飛んだ。
砲台から迎撃の弾が飛ぶも全てを避けられ、上空への接近を許す。
『当然の話だが随分と厭らしい陣を敷いてくれる‥‥しかし、姫様は俺達が突破できると信じてのお達しだ、道理をヘシ折ってでも通らせて貰うぞ』
ウーフー2の玖堂 暁恒(
ga6985)が中心となって陸戦の部隊が動いた。
援軍の骸龍もいるため、ジャミングの中和は大きな効果を発揮しているも、近づくことで酷い頭痛が能力者達を襲う。
キューブワームを連結したジャミング強化装置の影響である。
『上に人を待たせてるの。通らせてもらうわ』
対空迎撃砲はあるものの、折角の作ってくれた隙を活用すべく、シュブニグラス(
ga9903)はバショウセンを構えたサイファー『Gothe』で突き進んだ。
進軍にあわせて、金棒を持った朱貂配下のゴーレム『修羅』がその姿を見せる。
●怒涛の進軍
「ちっ‥‥物騒なモノはさっさとツブして、禿山になってもらうとするか。でないと‥‥安心して山登りできそうにないし、なっ!」
風羽・シン(
ga8190)のシュテルン・G『アインヘリヤル』は修羅に対して試作型「スラスターライフル」を構えて攻勢にでた。
『沖那殿、進軍にかかるぞ。UPC軍のディアブロ隊は移動砲台の破壊へ向かって欲しい』
『分かってるよ、ガードは任せろ』
修羅との戦闘任せて白川・仁宇のワイズマンと山戸・沖那(gz0217)の破曉『ヘカトンケイル』が移動砲台の破壊のため、ディアブロ隊を引き連れて進む。
近づくほどに強い怪電波で頭痛が酷くなるが、それでも足を止める訳にはいかない。
「ただでさえ視界が悪い上に、視界も悪くて忌々しい妨害装置付きとなると、頼りになるのはお前の機体の眼だけだ。指示、頼んだぞ」
苦しさをこらえながらシンは仁宇へと声をかけた。
『解っておりますぞ、師匠』
「それと、無理をするなとは言わんが、無謀だけはするなよ」
『其方も無論であります』
ついでとばかりにシンは優しい声色で静かに仁宇に釘を刺す。
『おい、話し合ってないで集中しろよなっ!』
一度、上空を撃っていた砲塔が移動し、沖那に狙いを定め発射してきた。
シールドを構えて抑えきり、その間に砲台部分の破壊を一斉にディアブロ隊が仕掛けていく。
そのとき、空戦部隊のフレア弾による爆撃が始まった。
落ちてくる爆弾に対して対空迎撃砲が火を吹き半数を蹴散らし、更にレックスキャノンが拡散するプロトン砲を放って攻撃をしてきた機体を屠ろうとしている。
それでも落下してきた爆弾は直径100mの火球をつくりながら地上で爆ぜる。
熱風が広がり、酷い頭痛が治まってきた。
「連携を取られる前に潰させてもらうぞ!」
レックスキャノンの支援を修羅が受けれないように立ち回り、シンは修羅を相手取る。
ソードウィングで棍棒を持った修羅に斬りかかった。
『四鬼士‥‥今回は居ますね、そんな感じがします。気をつけてください』
スピリットゴースト『サザンクロスIII』に乗る南 十星(
gc1722)が注意を促した時、一機のゴーレムが刀を煌かせたかと思うと、物凄い勢いで踏み込んでくる。
『誓約の名の元に‥‥漸 王零(
ga2930)‥‥推して参る』
修羅に対して95mm対空砲「エニセイ」や試作型「スラスターライフル」で支援をしていた王零の雷電『アンラ・マンユ』がゴーレムの動きに併せて体をぶつける様に加速した。
『エース級か、だが慌てる必要は無い。こちらの安全を確保しながら確実に相手の足を止めよう』
動きの素早さにジャック・ジェリア(
gc0672)のスピリットゴースト『ジャックランタン』が<ファルコンスナイプ>を使い、真スラスターライフルのトリガーを引く。
戦場の空気に緊張が走りだした。
●竜の神に向かい
フレア弾の時差爆撃によって焦土となった場所でも生き残ったレックスキャノン『竜神』は背中に背負うプロトン砲を放ち、ユウ機を撃ち抜いた。
「ううっ‥‥今のは痛かったよ」
揺れるコックピットの中で破損箇所を調べたユウはまだ戦えることを確認し終えて眼下を見る。
「でも、負けないんだカラッ! ネッ! 京夜おにーちゃん!」
『ああ、分かっている。危険は承知だが、くぐり抜けて来た死線の数と生存技術、そして執念‥‥全てを振り絞って戦い抜いてやる』
『もちろん、我々もです。活路を開きますので突撃願います!』
ディスタン隊が<アクセルコーティング>を盾のように発動しながらユウと緋沼機が着陸するチャンスを作り出す。
『雑魚が! 邪魔なんだよ!』
榊原の苛立った声と共に竜神は咆哮を続け、ディスタン隊を落とそうと拡散プロトン砲を空中に放ち続けた。
何機かが落ちる中で京夜機は着陸を果たす。
「いっけぇぇぇ!」
自分達の攻撃する隙を作るべく爆発して青空に花を咲かせたディスタンがユウの網膜に焼き付く。
ユウは唇をかみ締めながら<パニッシュメント・フォース>を込めたI−01「パンテオン」を放った。
100発ものミサイルが竜神に叩き込まれ、その巨体が煙に包まれる。
だが、その煙を振り払うかのように拡散プロトン砲が容赦なく発射された。
「そ、そんな! 全然効いてないっ!?」
驚愕をするユウだったが、プロトン砲の砲塔の一つが鋭い刃によって切り裂かれる。
払われた煙に中から姿を見せたのは先ほど降りていた緋沼機だ。
「キョーヤおにーちゃん!」
『いい隙を作ってくれたぞ、ユウ。またここで散っていった戦士の悲しみをその身で受けろ。俺の憎悪はこんなことでは治まらないぞ』
そのまま緋沼機はソードウィングを振り下ろして竜の皮膚を斬り裂く。
痛みを感じるのか竜は咆え、そして痛みを与えた敵を屠らんと牙を向けた。
「やらせないよ! ユウ達は負けられないんだからっ!」
既にディスタン隊は全滅している。
だからこそ、ここで負けられないとユウは真スラスターライフルを撃ち続けるのだった。
●悪鬼羅刹、参る
対空迎撃砲や自走砲塔が攻撃されて落ちていく中、エース級ゴーレムの羅刹が<慣性制御>で少し浮き上がる。
『名乗る心意気を認める。我は鬼堂‥‥この羅刹と共に相手となろう!』
左右に体を揺らして火砲陣をきり抜けながらトップに走った王零機へ大きな刀で横に薙いだ。
王零機は機盾「アイギス」でその剣閃を受け止めるが、すさまじい気迫と共に放たれた一撃に足が地面にめり込む。
『中々だな‥‥』
『そちらもな!』
王零も鬼堂も口調からはどこか楽しさすら浮かんでいるが、戦いは決闘ではない。
「背中がお留守だ。こっちは取り囲んでいるんだからな」
『四鬼士、京都の平穏のために倒させていただきます』
包囲網を築くために回り込んでいたジャックと南機が機動を止めるべく、四肢やスラスターを狙って砲撃を仕掛けた。
双方とも射撃戦を得意とするスピリットゴーストであり<ファルコン・スナイプ>で狙いを定められた弾丸が飛ぶも羅刹は<慣性制御>を応用した跳躍で避ける。
部位を狙った攻撃は当たれば有効だが、相手との技量とタイミングによっては難易度は上がるのだ。
「ちっ、こっちが足止めか」
全身に巻きつくワイヤーがジャックの機体を縛り上げ、そのままワイヤーを回収する勢いで迫り腕部を刀で貫く。
『狙いは良かったが、自惚れるな!』
「それはこっちの台詞だ。馬鹿が」
動く腕で羅刹を掴むと両肩に装着されている200mm4連キャノン砲を至近距離で叩き込んだ。
不測の事態にとって置いた一斉射分が功をそうする。
『援護にはいるぞ‥‥<強化型ジャミング集束装置>起動だ』
修羅を相手にしていた玖堂機が倒しきり援軍へと加わってきた。
『仁宇もこちらに参りますぞ、』
『悪いな、時間かかった』
そして、仁宇機と沖那機が更に加わって、羅刹の包囲網がより強固になってくる。
至近距離の砲撃を受けてよろめき離れた羅刹へ、勝負どころと見た王零がデアボリングコレダーを叩き込んだ。
篭手から電撃が迸りフォースフィールドに干渉したかと思うとそのまま貫く。
『ぬぐぅ! おのれぇ!』
『我が螺旋に‥‥穿てぬ物はない!』
狼狽をみせる羅刹へ、刀身の螺旋を回転させたジャイレイトフィアーの更なる一撃が叩き込まれた。
回転する刃で装甲を削り胴体に穴を空け、蹴り飛ばす。
『今ですぞ、集中砲火!』
仁宇の声と共にディアブロ隊が手に持った90mm連装機関砲で逃げ場の無いようにしながら撃ちまくった。
「いい加減に終われよ」
ジャックもワイヤーの戒めをはずすと真スラスターライフルを倒れこんでいる羅刹に向かって放つ。
銃弾が何発か地面を穿ち土煙を上げていくが金属が拉げる音も響き、手傷を負わせている感覚は誰しも抱いていた。
『やったか?』
沖那機が警戒をしたままにじり寄ると倒れていた陰がゆらりと立ち上がる。
『いい連携だ‥‥この命を懸けるに値する!』
ボロボロな姿の羅刹の目が光ったかと思うと、その傷のしたから人間の筋肉のようなものが浮き出てきた。
一部の装甲ははがれ落ち、顔も人『らしさ』が見えてくる。
『<人機一体>‥‥この鬼堂の業。命と共に見せてくれよう!』
羅刹は口から機械と人の混ざり合ったような声を響かせ、刀を構え直すのだった。
●竜が散る
『サイファー‥‥悪くないわ』
鞭のようにしなるウィップランス「スコルピオ」でシュブニグラス機は竜神へ攻撃を仕掛ける。
「四鬼士! 京姫の騎士として貴方達を倒します!」
ユウ機と緋沼機だけだった竜神の担当は今や南も加わり追い込みに入っていた。
『群れてしか動けない人間どもが!』
苛立つように大口径プロトン砲による砲撃を仕掛けてくる竜神だが<フィールド・コーティング>を発動させたシュブニグラス機がバショウセンを広げて受けとめる。
『仲間がいるからこその強さもあるのよ。それを教えてあげるわ』
被弾の損傷はあるが、シュブニグラスの声は余裕を帯びていた。
その証拠に上空からはユウ機が真スラスターライフルを撃ち、シン機がレーザーガトリング砲を叩き込んでいく。
皮膚を物理の耐性に特化させていた竜神もじりじりと損傷がたまりだした。
『物騒なものをもう一本頂いていくぞ』
緋沼の声が響いたかと思えばソードウィングが大口径プロトン砲を破壊する。
『許さないぞ! お前達! どこまで僕をコケにするんだ!』
怒りを露にした榊原の声は傲慢な子供のようだった。
その怒りを竜神は咆哮で示し、尻尾や爪などを振り回して近づいている緋沼達を振り払った。
「その傲慢さがどれだけの人を苦しめたか! 心を痛めている人だっているのですよ!」
距離をとっていた南が大きく間合いを詰める。
竜神も突進をしかけてきた。
二機がぶつかりあい、竜神は爪で南の機体を掴んでまだ無事なプロトン砲の一門を向けて放つ。
『これでくたばれよ!』
至近距離の砲撃が南の機体を撃ち貫くが南は止まることなく機剣「レーヴァテイン」を抜いた。
「致命傷にさえならなければ!」
搭載された小型のブースターで加速された刀身が竜神の顎下の柔らかい部分を貫き頭部まで貫く。
その一撃で竜神は沈黙した。
『いつ以来かしら、私がここまで本気になるのも‥‥本当に、悪くないわ』
倒れていく竜神を見据えて、シュブニグラスはそっと呟く。
いつものクールな声色ではあるものの、強い力を感じる一言だった。
●真剣勝負
『仁宇! 危ない!』
『すまぬ、沖那殿っ』
動きが人間らしいものへと変わった羅刹は電子戦機を先に叩こうと素早く動いていた。
仁宇のワイズマンを守るために沖那機がその身を盾として一撃を塞ぐ。
鋭さを増した剣先がシールドと共に薙ぎ払われた。
続けざまにマシンガンを周囲の機体に撃ち牽制と共に骸龍を狙う。
煙幕を発射して時間を作ろうとするが、関係ないかのように羅刹は動いてきた。
『動きが変わりすぎている‥‥援護もおいつかんぞ』
暁恒がなるべく足を止めようと援護射撃をするが、ますます狙いづらい状況になっている。
だが、それでも王零は冷静に動きを見据え、勝負どころを狙っていた。
一瞬でも止まる瞬間、そのときだけをジャイレイトフィアーを構えて待つ。
ジャックがスキルを使用して真スラスターライフルを撃ち込んだとき、そのときが訪れた。
「今だ‥‥アンラ・マンユ、いくぞ!」
<超伝導アクチュエータVer.3>とブーストを併用し、加速して背後から羅刹へ迫る。
とっさに振り返るが、そのチャンスを今度はジャックも逃がさずスラスターを破壊すべく強化型ホールディングミサイルを放った。
今度は直撃し、前方へ羅刹が倒れこもうとしたとき、ジャイレイトフィアーが心臓部辺りを貫いて背中から飛び出した。
『見事だ‥‥全力で戦えたのならば、悔いはない‥‥しかし、覚えておけ。朱貂様は俺のような真っ当な戦士ではない、ぞ‥‥』
がくりと四肢が垂れたかと思うと羅刹は爆発する。
要塞と共に一人戦士が散った‥‥だが、これは最後ではないのだ。
目指す朱貂のいる屋敷までは、後一息‥‥。