●リプレイ本文
●どうして、こうなった
「いよぅ、そこのねーちゃん。こっち来て一緒に飲もうぜぇ!」
赤ら顔で酔っ払ったビジネス街のオッサンよろしく、ライディ・王(gz0023)がレヴィ・ネコノミロクン(
gc3182)をくいくいと猫の手で呼び寄せた。
「ええ、もっていくから待ってね」
「あ、ちょっとそこのお嬢さん。お酒にこれを‥‥隠し味というやつだよ」
エシック・ランカスター(
gc4778)がレヴィを呼びとめるとコスケンコルヴァを適量混ぜる。
レヴィはウィンクをするエシックにやや首を傾げるが気にせず呼び出されたライディの隣に座り、グラスを渡す。
グラスを渡されたライディはグいっと一気に飲み干してぶっはぁーと酒気を帯びた息を吐いた。
その行動はどこをどう見てもただのオッサンである。
「ええ、尻してるじゃないかぁ。酒は俺が払ってやるから。ねーちゃんも飲めよぉ」
ぐへへと露出の高いレヴィの腰に手をやりながらライディは卑下た笑みを浮かべた。
「おーい、次の酒もってこい。ボトルだぁ、ボトル! ちゃんと金は払ってやるんだから文句はねぇだろ!」
荒っぽい声でライディは酒を求めて空いたグラスをテーブルにドンドンと叩きつける。
「今、お届けしますわ」
ボトルを何本か持ってきたのはヤナギ・エリューナク(
gb5107)だった。
なぜか、生足にチャイナドレス‥‥そして、髪飾りに化粧まで施されて女性ぽく見える。
当人も驚いてはいるが、ライディの姿を見て一緒に飲もうという思考が先に動いていた。
「なんだ、この店は綺麗どころが多いじゃねぇかよ。おら、酌しろよ」
問答無用にグラスを突き出したライディにヤナギはしなだれかかりながら酒を注ぐ。
それを一気に飲み干すと、ライディはお代わりを要求してきた。
「‥‥ふふっ‥‥ライディ、実は酒、強いじゃねーの」
男らしく酒を飲むライディの姿にヤナギは嬉しそうに頬を緩ませる。
「あの‥‥いくらなんでも飲みすぎでは‥‥?」
店の支配人のような姿なカイト(
gc2342)はさすがにライディの様子を心配しだした。
何故自分はこのような立場なのか記憶が定かではないが、こうしなければいけない気がする。
「うるせぇいっ! つべつべ言わずにじゃんじゃんもってくればいいんだよ。全部『シュッチョウケイヒ』とやらですむんだからなぁ!」
ゲハハハと豪快にライディが笑っていると入り口の扉が開き、5人の能力者達の姿が見えた。
●飲んだくれ、中華街に立つ
「また何か、厄介ごとに巻き込まれたのか‥‥」
クラーク・エアハルト(
ga4961)が今回の依頼内容を聞いた感想はそれだった。
今までも何かと事件に巻き込まれるライディの姿があると聞いてため息をつくしかない。
「下戸のライディが飲み歩くというのはおかしいな‥‥バグアが絡んでいるのかもしれん」
ロサンゼルスの中華街だけにチャイナドレスを着込んだリュイン・カミーユ(
ga3871)がスリットから自慢の足を覗かせてヒールを鳴らしてあるいた。
彼女はライディとの付き合いは長いので、色々と知っているだけに怪しいのは明白である。
「強化人間かヨリシロか‥‥どちらでもかまわんがな」
「何をいっているんだよ、リュンちゃん。ライライがお酒弱いのを克服したんだよ。お祝いにいくのがトモダチだヨ!」
双子の妹であるリュインとはまったく違う予想をしているラウル・カミーユ(
ga7242)はウォッカを飲み歩いていた。
そんな兄の存在だけがリュインの不安要素であることにラウルは気づかない。
「酒を奪い呑むような輩が居る‥‥これは何とかしなければ! いや、寧ろ俺にものませろと!」
ウォッカにスブロフ、コスケンコルヴァに日本酒と手土産を抱える五十嵐 八九十(
gb7911)は妙な気合をいれた。
「飲んだくればかりね‥‥その方がいいかもしれないけれど」
各人の依頼の姿勢にレオノーラ・ハンビー(gz0067)は呆れながらも店を案内する。
余談ではあるが、彼女もスリットの深いチャイナドレス姿だった。
「ULT本部に連絡があったのはここね」
『酒池肉林』と書かれた看板の店の前にレオノーラはたって扉をあける。
中ではスーツ姿で頭にネクタイを巻き、酒ビンを転がし、さらに両手に美女を抱えるライディの姿があった‥‥。
●飲め、飲め、Hey!
入ったとたんに出入り禁止をくらいそうな客のような姿をしているライディの姿に普段の彼を知っているものは固まる。
「もー、ライライ実は酒乱だったのかぁ。そんなことしていると奥さんに怒られちゃうゾ☆」
頭に鉢巻のようにネクタイをだらしなく巻いて、よれよれになったスーツと肌蹴気味のワイシャツ姿のライディにラウルは遠慮なく突っ込みをいれた。
「俺はぁ、グローリーグリ‥‥ごふんごふん、ランディ・ワンワンだ」
「グローリーグリ‥‥ム、なのか? そうか、お前とは一度、飲み比べで勝負をしたいと思っていたところだ!」
わざわざ言い直したが名前が間違っているライディ(?)に五十嵐がいち早く反応し、自前の日本酒をどんとおいて正面に座る。
「ほほぅ、このワシと酒を飲み比べるか! いいだろう、おい! 酒もってこい、酒!」
ドンドンとヤナギに酌をさせて空になった空瓶でテーブルを叩いて赤ら顔のライディ‥‥いや、グローリーグリム(gz0255)は酒を要求してきた。
「ただ普通に飲んでいるようじゃ二流だぜ? ビールと焼酎を混ぜてバクダンからいこうか!」
「はーい、お酒一杯もってきたわよ。ねぇ、グリムさん。私にもおごってくださる? いろいろとお話したいことがあるのよ」
レヴィが店の酒を持ってきながら、グローリーグリムに後ろから抱きつきおこぼれに預かろうと色気を見せる。
「おうおう、ねぇちゃん良い乳してるなぁ、ワシがおごってやるぞ、ぐははは! どうせ全部『シュッチョウケイヒ』だ!」
間違った知識を使いながらグローリーグリムは呼び間違いも気にせずにレヴィの同伴を認めた。
「ワシも飲んだのなら、お前さんも飲むんだぜ?」
そのまま、五十嵐のバグダンを一気に飲み干し、赤い顔を更に赤くしながらニヤリと笑う。
「酒強い人って魅力的だぁね‥‥。普段より‥‥男前に見えるゼ。どう言うことなのかねェ?」
ヤナギは自分でも驚くくらい妖艶な雰囲気を漂わせながらボディタッチを始める。
「このくらい酒豪だから問題ない! もう面倒だ、樽ごと持って来いっ!」
ぐいっと五十嵐も飲み干して空いたグラスをテーブルにガンと叩きつけた。
「グリム童話がどうとか周囲がいっているけど、ライライ普段弱いカラ、こうやって一緒に飲むの夢だったんだよねー♪」
友人の豪快な飲みっぷりに素直に拍手をしながらラウルも席について一緒に飲み始める。
向かいの席でレヴィがグローリーグリムとバグアの美男美女話とかに花を咲かせているのだが、まったくラウルは聞いていなかった。
「えっと‥‥ライディさんの体に入って、生き延びれていても‥‥飲めない体なのにそんな飲んでるとどっちにしろ命に関わるような気がします‥‥」
迷惑な客を止めるはずが、一緒に楽しみだす一同にぽそっと、カイルが突っ込みをいれるがドンちゃん騒ぎで聞いていない。
「まぁ、こうなってしまったら好きにやらせましょう。あ、すみませんリンゴジュースを二つ」
清々しい笑顔で状況をスルーしたクラークはレオノーラと向かい合った席に座りのんびり注文をはじめていた。
「ねぇ、ああいう迷惑な客は嫌ですよね。あんな人らはおいて置いて、そこのウェイトレスさん俺とデートしませんか?」
「そうですねって‥‥何をしているんですか‥‥」
同じく酒に細工をして酔わせようと思っていたエシックだが、面倒くさくなってナンパに回っている。
カイルは自由気ままな二人にため息以外の何もでなくなってしまった。
さらに視線を床に移せば見えそうで見えない悩ましげな足の組み方をしたリュインが寝転がっている。
本当に事件を解決しに着たのか怪しかった。
「なんで、こんなことになっているんでしょうか‥‥」
ため息をもう一つ漏らすが、カイルの問いかけに答えるものはいない。
宴会も盛り上がり、終盤になった頃、寝ていたはずのリュインがむくっと起き上がった。
「目覚めに一杯のみたいな。少し厨房を借りるぞ」
コキコキと首を鳴らしたリュインは答えを聞くよりも先に厨房へずかずかと入っていくとカクテルを作って戻ってくる。
「さあ、次の酒はこれだ。我もこれには参加するぞ」
リュインは飲み会の席に持っていったのは真っ赤なカクテルだ。
タバスコを2、3『本』入れたウォッカをベースにビールとタバスコを混ぜたビア・バスターである。
見た目の真っ赤さなもさることながら、目が染みるような『何か』を出された全員は感じた。
「なんだ、我の酒が飲めないというのか?」
ギロリと覚醒をして鋭い視線を飛ばしたリュインに卓の4人はぐいっと真っ赤なビア・バスターを飲む。
味はビアどころかタン(舌)・バスターであったのは言うまでもなかった‥‥。
●大乱闘、酒乱な無礼者
ゴバァと口から血の様な赤い液体を噴出したグローリーグリムは乱闘モードに入る。
「こんな酒が飲めるかぁぁぁっ!」
テーブルをガッシャーンとひっくり返し、酔いではなく怒りで赤くしてグローリーグリムは鼻息を荒くした。
それでもしっかり飲み干した辺りは流石かもしれない。
「りゅ、リュンちゃん‥‥刺激的過ぎ‥‥」
グローリーグリムと同じように噴出したラウルは口の中でじゃりじゃりというほど砂糖をいれた紹興酒を飲みだした。
双子だけに極端なのは変わらないらしい。
「あ、大丈夫ですよ。これテレビ撮影なんです。あの人芸能関係者で‥‥」
グローリーグリムが暴れだすのを確認するとエシックはナンパを続け店員やら客やらをおびえないように配慮する。
カメラの姿は見当たらないようだが、それでも客は納得したようだ。
ロサンゼルス市民は撮影に慣れっ子らしい‥‥。
「ようし、こいつの覚えている太極拳とやらでお前達をぎったんぎったんにしてくれるわ! 覚悟しろぉい!」
ゆらぁりと上体を揺らし、流れるような動きでグローリーグリムは構えを取った。
しかし、次の瞬間顔を青ざめさせてオエオエと嗚咽音と共に『素敵なもんじゃ焼き』が床面に広がる。
「どうにかなっちゃったよ‥‥すげえ‥‥」
案の定悪酔いしたグローリーグリムの姿にカイルは唖然とした。
「今です、取り押さえますよ。レオノーラ!」
「ええ、わかってるわ!」
クラークが軍隊仕込みの格闘術でレオノーラと共にグローリーグリムを抑えにかかる。
「くそっ、この程度でワシは負けん‥‥ぐふぅ!?」
気力だけは有り余っているグローリーグリムだが、いかんせん体のライディが酒への耐性がなさすぎた。
動こうと思えば酔いが回りいろんなものが口から飛び出し放送コードギリギリである。
緩いパンチをかいくぐってクラークがグローリーグリムにカウンターを当てて、レオノーラが足を崩して床に組み伏せた。
「やれやれ、これほど弱いとは思っても見なかったなぁ‥‥この勝負俺の勝ちでいいな。グリムさんよ」
倒されたグローリーグリムをしゃがみながら見つめ、五十嵐は口直しのビールを飲む。
「前の姿ならヒゲを堪能したかったけれど、体が変わっていて残念だわ。また今度、会いましょうね」
ペシペシとグローリーグリムの頭を叩きながらレヴィも勝ち誇った笑みを浮かべた。
「さて‥‥中華街の店々に迷惑をかけた詫びの言葉を聞こうか?」
そんな中、リュインはぐりぐりとヒールで頬を踏みつけながら見下げる。
スカートの中は絶妙なアングルでグローリーグリムの視線からは外れていた。
「ぐぐ、こんな体でなければ貴様ならんぞあっという間に捻り潰し‥‥」
「聞こえんなぁ?」
負け惜しみを呟くグローリーグリムの頬をぐりぐりとヒールの踵でリュインは抉る。
どっちが悪役なのかもはや判断が難しかった。
その後、強引に謝らせ、ライディのポケットマネーで酒代を支払わせて、事件は解決する‥‥。
●目覚めれば現実
「うぅん‥‥なんか変な夢を見ていた気がする」
ライディ・王は飛行機の中で頭を押さえながら目を覚ます。
北米方面への進出もかねて、企業への挨拶に行った帰りだった。
付き合いもかねて接待を受けてきたが、悪酔いしたのか頭痛がする。
「すみません、酔い覚ましください」
キャビンアテンダントに薬を頼み、窓の外を見た。
ラストホープが雲の隙間から見え、無性に懐かしさがこみ上げてくる。
「何だろう‥‥しばらくチャイナドレスは見たくない気がする」
ふっと、遠い目をしながらライディは呟くのだった。