●リプレイ本文
●接敵開始
雪原の上を12機のKVが進む。
低空飛行をするグロームにクノスペ、そして地上を駆けるノーヴィ・ロジーナbisの4機はロシアで合流した現地の小隊だ。
「寒そうな所ですね〜。雪合戦をするには良さそうなところですが〜」
ウーフー2『ホワイトシャーベット』に乗っている八尾師 命(
gb9785)はコックピットのディスプレイに映った白く広い大地を横目にレーダーの反応に注意している。
目標のウランバートル基地へ攻撃を仕掛けるとみせかけて、迎撃戦力を引き出すのが今回の作戦”シベリアの狼”なのだ。
『そうだ、戦闘データは確認した。殆どが模擬戦だったが結果は悪いものではない。君の実力に期待する』
気楽そうな命に対して、前衛を担当するリヴァル・クロウ(
gb2337)は事務的な口調で通信をしてくる。
「いやいや〜それほどでも〜。おっと、敵さんのお出ましのようです〜」
照れ笑いを浮かべた命のコックピットにレッドアラートが響いた。
レーダーを確認すればゴーレムが5機、タートルワームが3機こちらに接近中である。
「<強化ジャミング中和装置>は発動中ですから、皆さん作戦通りにいきましょう〜」
『陽動作戦か。でも、別にここで全機墜としてしまってもかまわないんだろ? やるならとことんやらないとな』
『ルーネも軍の人達に負けないくらい、頑張る』
命やリヴァルと同じB班となっているAnbar(
ga9009)とルーネ・ミッターナハト(
gc5629)は答え、機体を加速させた。
『初陣のものは無理をせずにバックアップ担当を信じろ。やるべきことは決まっている。こちらは正面より仕掛ける』
声色に硬さがあったルーネを気遣ってか、リヴァルは力強く作戦行動を指示する。
『‥‥フォーム、アサルト』
リヴァルの言葉に安心したのか、冷静な声に戻ったルーネの声にあわせてアンジェリカは手にもったレーザーライフルWR−01Cの形状をアンチマテリアルのように変形させるのだった。
***
敵機の登場が連絡されると同時に4機の現地小隊と残りの能力者部隊は分散して攻撃態勢に映る。
側面に回り、現地小隊はタートルワームを、能力者達はゴーレムを狙う手筈だ。
「がんばりましょう‥‥ガスヴァ‥‥私の新しい翼♪」
発売されたばかりの新型機「ガンスリンガー」に乗る王 憐華(
ga4039)は機器の位置やグリップの握り加減などをみる。
『何だかんだ言ってもまだ経験浅いから、少しでも経験は積んでおきたいわ‥‥そういうことで宜しくね』
そんな憐華とペアを組むことになっているユリア・ミフィーラル(
gc4963)もスカイセイバーでゴーレム達と肉迫するべく加速した。
『今回の作戦は陽動ですからね。せいぜい派手に暴れてやりましょう』
レイド・ベルキャット(
gb7773)もガンスリンガーで互いの連携が取れるように距離を保ちながらユリアへ追随する。
『ゴーレムだとうと何だろうと、経験がどうだろうと脅威にゃ変わらねぇ。気ぃ抜いてやられるなよ‥‥俺が真っ先にやられそうな気もするけどなぁ』
へらへらっと軽口を叩く布野 橘(
gb8011)もスカイセイバーでレイドの前へと出た。
ガンスリンガーとスカイセイバーの2組のペアは正面の部隊に意識が集中しているゴーレムを横合いから攻める。
タートルワームへも現地の小隊が連装機関砲で弾幕を張って引きつけていた。
現地小隊にならい、憐華はスナイパーライフルD−02に<DFスナイピングシュート>で狙いを定めて撃ち込む。
普段ならあたらない距離の攻撃も吸い込まれるかのように弾丸が敵へと食らいついていった。
「これがガンスリンガーの能力ですか‥‥今までの機体とは比べ物にならに狙いやすさですね」
『ユリアって言ったか。一番槍はお前だ。行け、支援するぞ!』
『了解です! ついでだから、この槍の性能も試させてもらおうか、な!』
機槍「千鳥十文字」を構えたユリアのスカイセイバー『betelgeuse』が<アサルトフォーミュラA>を使って突撃を仕掛ける。
静かな雪原に嵐が訪れた‥‥。
●氷雪の天使参る
横から襲撃を受けたゴーレム達の足並みが一瞬、乱れる。
「<SESエンハンサー>起動‥‥直接支援、行きます!」
呼吸を整えたルーネは照準をあわせてトリガーを引いた。
8.8mまでバレルを伸ばしていたレーザーライフルから光が迸る。
乱れた足並みのゴーレムの一体の胴部に直撃し、よろめくのがディスプレイからでもわかった。
ルーネの支援を受け、前衛を担当するAnbar機が肉迫した。
地表に積もる雪を砂煙の様に巻き上げながら、スラスターライフルを撃ち続ける。
『こちらから援護続けますよ〜。大丈夫ですよ〜』
レーザーライフルML−3を撃つ命機の援護を受けてリヴァルもダブルリボルバーで二体のゴーレムを攻撃しながら間合いを詰めた。
射程ギリギリではゴーレムに当てることは出来ないものの、逃げ道を塞ぐ役目は果たせている。
「これが‥‥KVの戦い」
ルーネは初めて味わう感覚に戸惑いを感じながらも、自分の機体‥‥そして、一緒に戦う仲間を信じて攻撃を続けた。
リロードのサイクルの早いレーザーライフルをたたみ、RA.0.8in.レーザーバルカンにて弾幕を張ることに専念しはじめる。
相手は5機でこちらよりも数は少ないが経験のないルーネにとっては未知の存在でもあった。
空いたゴーレムの一機がルーネに向かって近づきながら手に持ったガドリング砲の弾をばら撒きながら突撃してくる。
体当たりを受けそうになるところを機爪「ワイルドキャッツ」で受け止めた。
それでも物凄い衝撃がコックピットに伝わりルーネの体を揺らす。
『大丈夫ですか〜。今、いきますね〜』
「お願いします」
接近されたルーネを援護すべく、命機がビームコーティングアクスとゼロ・シールドを構えて迫りゴーレムを力任せに叩いた。
***
1機のゴーレムと命機、ルーネ機が戦いだしたために支援砲撃が止む。
出刃包丁のようなソードで斬りかかって来るゴーレムを相手しながらAnbarはシラヌイ改『アルタイル』の<超伝導アクチュエータVer2>を起動させる。
「兎に角はやめに片付けてしまおう。これまでだってゴーレム相手に戦ってきたんだ。今更必要以上に恐れる必要もないんでな」
状況が気になるものの、Anbarは不敵に笑い、名前の由来となった琥珀色の瞳でゴーレムを睨みつけた。
駆動部が唸りをあげ、機体を加速させている。
「新しく生まれ変わった『アルタイル』の初陣にふさわしい戦果を上げてみせるぜ」
得物を量産型機槍「宇部ノ守」へと持ち替え、機体の加速と共に突く。
肩口から食い込んだ槍が関節部を砕いて後ろへと伸びた。
間髪入れずに槍の連続突きを繰り出して、ゴーレムのボディに幾つもの穴を空ける。
『状況が変わった。仕留めさせてもらう』
自らが相手をしていたゴーレムをシュテルン・G『電影』が<PRMシステム・改>を起動させて威力の高まったハイ・ディフェンダーでなぎ払う。
一閃と共にゴーレムの胴体が斬りおとされ爆発する。
『今から向こうの支援に向かう、ここは任せた』
リヴァル機は一言のべて、ルーネ機や命機の援護に走りした。
「さぁ、相手をしてもらうぜ。ゴーレム!」
ボディに穴をあけられながらも動く相手にとどめを刺すべくAnbarも全力で動き出す‥‥。
●ガン×セイバー
中距離に陣取ったレイドのガンスリンガー『フルフラット』がRA.1.25in.レーザーカノンを狙撃するように構える。
乱戦となっている中でも確実にレーザー光がゴーレムへ叩き込まれた。
『私のサポートが心配ですか? ‥‥ふふ、一度言ってみたかったんですよねぇ』
「それじゃあ、頼りにさせてもらうぜ。レイド、タイミング合わせて俺を撃て。3、2、1!」
レイドの言葉に反応した布野が組み付いていた敵の前から横飛びに離れる。
『このチャンス、逃しませんよ‥‥。バレットファスト起動、仕掛けます!』
布野の指示に従ったレイド機が<DFバレットファスト>を起動させてDC−77クロスマシンガンをゴーレムに向けて放った。
数十発の弾丸がゴーレムを蜂の巣にせんと襲いかかる。
ダダダダンと弾丸がよろめくゴーレムに向けて撃ち込まれ、装甲に幾つか穴があいた。
「さぁて、まだ後ろがいるんだ。手間取っている訳にはいかないんだよっ!」
横っ飛びした布野はスカイセイバー『アペホロケウ』をターンさせて、練剣「メアリオン」を閃かせる。
圧縮レーザーが筒から噴出され、刃となりボロボロなゴーレムを袈裟に斬りさいた。
「よし、まずは一機だ。ユリア、そっちは大丈夫か?」
布野が共に戦うユリア機を眺める。
『憐華さんに助けてもらっているので大丈夫です。派手に、そして堅実に‥‥ってね』
射線をふさがない様に動きながら、ユリア機は素早く立ち回るようにしながら槍で何度も突いた。
引っ付くユリア機を振り払うかのようにゴーレムが出刃包丁のような剣で攻撃してくるも、ユリア機は銃身に十字架の刻まれたクロスマシンガンで受け止める。
『今です。<DFバレットファスト>起動‥‥P−C−P−S臨界へ‥‥銀光翼展開‥‥さぁ、ガスヴァ舞い踊りましょう』
専用に作ったアクセサリーが特殊能力と起動共に6つの天使の羽を背中から粒子を放出して作り出した。
憐華機が3.2cm高分子レーザー砲をその状態で放ち、動きの止まったゴーレムの背に穴を作る。
ビクリと痙攣したかと思えば、ゴーレムは瞳の光を失って動かなくなった。
●ラストアタック
ゴーレムは片付き、残るはタートルワームとなる。
1機はすでに現地の小隊が片付けてくれたので、残るは2体だ。
『よく持ってくれた! 次、いくぜ』
布野機がタートルワームに向かう。
メアリオンの光刃をそのまま保ち、踏み込みと同時にタートルワームの甲羅へ突き刺して穴をあけた。
『くらえ! ガトリングナックル!』
その穴に向かって布野機はガトリングナックルの弾丸を叩き込む。
『次はタートルワームですね〜。流石に固いですから火力を集中させないと〜』
ゴーレムを片付けた命機達B班がタートルワームの破壊に加わった。
<強化ジャミング集束装置>を発動させて、周りの味方の支援力を強める。
『よーし、物理が強いならこっちでどうだ!』
ユリア機がドラゴン・スタッフにビームを供給し、ハンマーのように使って殴りつけた。
そんな勢いついた能力者達の攻撃で、タートルワームは瞬く間に片付く。
『無事、終わりましたね。皆さんお疲れ様です』
熱くなった銃身を下ろしたレイド機が周囲を確認した。
『ルーネも‥‥皆の役に立てたかな?』
激戦を乗り越えたルーネの声は不安を帯びてはいる。
『大丈夫だ、問題ない。帰還しよう』
ルーネの不安を打ち消すようにリヴァルは力強く答えた。
●無事であった喜びと共に
ルーネが湯気の立つ赤いスープを一口食べると体の心から温まる気がした。
材料はテーブルビートにタマネギ、牛肉、キャベツ、ニンジンとシンプルなものである。
現地小隊の計らいも合ってKVの燃料補給にあわせてパイロットも「燃料補給」をしている。
「美味しい♪」
「これが本場のボルシチなのね」
ユリアがサワークリームをたらすとまるでコーヒーにミルクを注いだようにゆっくりと広がりを見せていた。
「ねだった甲斐がありました〜。本場の味もそうですけど、あったかい料理はいいものです〜」
命もハフハフとしながら熱めのスープをしっかり味わっていた。
周囲の軍人達は皆、たくましいロシアの男ばかりなので、ルーネ達、若い女性3人の姿は目立つ。
「あれ、王さんはどうしたのでしょう?」
レイドがボルシチを食べながら、もう一人いるはずの若い女性の姿を探した。
「ああ、今回の戦闘データを引き出して反省するってさ」
むしゃむしゃと一緒にあるパンにつけて食べている布野がレイドに答え、最後の一口まで飲み干す。
無事に終わったからこそできた時間。
戦争であるためにいつ誰が死んでもおかしくない状況下で、能力者もここにいる軍人達も生きている。
反省し、次に生かすことで自らの命を延ばすことも勿論必要なことだ。
「今回はいい経験ができた‥‥これからも負けないように頑張る」
ルーネは温かい料理を食べながら、決意を新たにする。
そう、まだ大規模作戦は終わってないのだから‥‥。