タイトル:Imp〜サンタガール〜マスター:橘真斗

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/01/06 20:01

●オープニング本文


●一足早いプレゼント
「今月はコミックレザレクションがない為、時間的に余裕はあるのですがいかがいたしましょう?」
 ペラペラとスケジュール帳をめくっていた秘書が米田に尋ねる。
 事務所として大きくバックアップの必要なこともあるため、彼女も大きなスケジュール管理をしているのだ。
「今は頭が回らんでよ、テキトーに仕事割り振ってくりゃあせんかね」
 付き合いの食事会が多くなる時期であるため、米田は赤くなった顔で椅子に座りネクタイを緩める。
 冷えた空気が入るだけでも気持ちいいのか顔がだらしなく垂れていた。
「休養も必要かとは思いますが、折角ですから年越しにカウントダウンライブイベントを持って来て、その他のチケットを配るというのはどうでしょうか?」
 「おお、それはええがね。なんだか戦争をやっとるようだで、それ次第もありゃあすが、北京で応援年越しライブというのもありゃーのー」
 ぐでんとしながら米田は秘書の提案に子供のように笑い返す。
 これ程までに気を許しているのは彼女にだけだ。
「詳細は状況次第ですので、シークレットライブのチケットという扱いでいでしょう。サンタクロース格好をしてもらい、配ってもらおうと思います」
「じゃあ、あとはマネージャーに任せてみるがね。場所はラストホープでええでよ。じゃあ、俺は少し寝るだがや」
 怪しげな名古屋弁を喋りまくった米田はうつ伏せになりながら、スヤスヤと社長室の豪華な机で眠りだす。
 秘書は静かにドアへ向かうと明かりを消して社長室を後にした。

●参加者一覧

葵 コハル(ga3897
21歳・♀・AA
大和・美月姫(ga8994
18歳・♀・BM
終夜・朔(ga9003
10歳・♀・ER
祈良(gb1597
15歳・♀・FT
沖田 神楽(gb4254
16歳・♀・FC
舞 冥華(gb4521
10歳・♀・HD
ファリス(gb9339
11歳・♀・PN
秋姫・フローズン(gc5849
16歳・♀・JG

●リプレイ本文

●強い想い
「アイドル‥‥としての‥‥初めての‥‥お仕事‥‥頑‥‥張ります」
 秋姫・フローズン(gc5849)が自分に言い聞かせるように呟いた後、ミーティングルームのドアをノックする。
「はい、どうぞ。入ってくださっていいですよ」
 中からはライディ・王(gz0023)の声が聞こえ、ドアを開けると既に何人か先輩のアイドル達が来ていた。
 ここはラストホープにあるアイベックス・エンタテイメントの事務所。
 秋姫が来るのはオーディションを受けてから2回目だ。
「新人さんですね。はじめまして、Impの大和・美月姫(ga8994)です」
 柔らかい微笑みを浮かべて手を差し出してきたので、秋姫は照れて俯きながらもその手と握手する。
「‥‥初めまして、なの。この間のオーディションで候補生になったファリスなの。姉様達、宜しくお願いしますの」
 美月姫が秋姫を中へ案内していると、開いたドアの外からエプロンドレスのファリス(gb9339)が姿を見せ、スカートを両手で摘んで挨拶をした。
「すごくしぐさが可愛いね。私は祈良(gb1597)だよ。よろしくね」
 ファリスのしぐさにはしゃぐように反応を示した祈良は手を振って挨拶を返す。
 秋姫もファリスもImpalps候補生として、仮採用状態ではあるがやる気は十分だった。
「現在はImpは新規メンバーを募集してはいませんのでこのグループでの採用にはなりませんが、色々と経験していってくださいね」
 席に着いた二人に向かってライディが優しく話しかければ二人はゆっくりと頷きを返す。
「いやー、それにしてもさ、ライブチケット500枚、タダで配ると来ましたよ! 何とも太っ腹、配る人は大変そうですにゃー」
「コハルさん、配るのは私達だからさ‥‥」
 どこか他人事のように話す葵 コハル(ga3897)へ沖田 神楽(gb4254)は突っ込みを入れた。
「まねじゃ、しつもんがあるー」
「はい、なんですか?」
 ぴょこっと飛び出した手にライディが声をかけると、手の主である舞 冥華(gb4521)が立ち上がる。
「まねじゃもおてつだいする? するならいしょうは‥‥冥華たちとおなじのになる? まねじゃもすかーと? それともびきに?」
「どちらも着ません。僕の方は警察の方と共にトラブルが起きたり、未然に防げるように対処する方に回りますから、そういう方向でのお手伝いはしますよ」
 汗をたらりと流してライディは冥華に答えた。
 Impはかなりの人気グループであるため、人が集まり何かしらのトラブルになる可能性は避けきれない。
「そういえば、あと一人足りませんね?」
 首を回して人数をライディは確認するが、席が一つ空いたままだ。
「遅れて‥‥ごめんなさい、なの‥‥」
 そのとき、息を切らせて終夜・朔(ga9003)が姿を見せる。
 ぱっと見て分かるほどに疲労や怪我がひどい。
「朔さん! ちょっと、大丈夫ですか? 今回はお休みされた方が‥‥」
 近寄って支えようとしたライディの服の裾をぎゅっと朔は握って見上げた。
「朔、一人でも多くの人の心を癒せるなら頑張りたいの。だから、お願いなの、まねーじゃーさん」
「本当はファンの人も朔さんには無理してまで応援してもらいたくないと思いますが、今回だけですよ? メイクで傷も隠して止血剤と鎮痛剤は事務所にあるものを使ってください」
 真剣な瞳を向けられたライディはため息一つもらしながらも折れる。
「こんなこともあろうかとーって訳じゃないけど、私がメイクセット持ってるよ 一緒にがんばろう」
 祈良がメイク道具片手に近づいてきて朔に笑顔を向けるのだった。

●気持ちのこもったお菓子を‥‥
 挨拶も終え、オーディションや商品開発にも使われた調理室ではアイドル達のクッキー作りがスタートした。
「材料やラッピングも私の方でいくらか用意しました。いいものを皆さんで作りましょうね」
 美月姫は買ってきた食材などをテーブルにおいて笑顔を見せる。
 自腹を切っての用意だが、それだけクリスマスプレゼントらしい素敵なものにしたかったのだ。
「冥華達からのくりすますぷれぜんと、ゆきうしゃぎがたのくっきーはれあーなのにする」
 冥華はテーブルの上にクリスマスツリーや、トナカイのクッキー型を並べていた。
 シンプルな分気持ちの篭ったものができそうな気がする。
「私はジンジャーマンブレッドを、作るね。クリスマスっぽいし‥‥。上手く出来ると、いいな。あ、皆もちょっと食べてみる?」
「おお、いけるね。ちょっとこの後に衣装作りをしたいから。生地を型で抜いてサクサクやいちゃうよ。クッキーだけにね!」
 祈良のジンジャーマンブレットを口にしたコハルは生地作りに入っていた。
 最後の方は面白いことを言ったとばかりにドヤ顔をするが、誰も突っ込んではくれない。
「‥‥それじゃあ、心を込めて作らないとね」
「ファリス、叔母さまのお手伝いしているから、お菓子作りは少しは手伝えるの」
 何事もなかったかのように神楽とファリスも同じテーブルで生地作りからはじめようとしている。
「あの‥‥生地は‥‥少し、砂糖を‥‥控えめに‥‥した方が焦げ、にくい‥‥です‥‥」
 おずおずと遠慮がちに二人の前にいた秋姫がアドバイスをしてきた。
「お菓子作りが得意な子が多いと助かるね」
 コハルはニシシといつも通りの笑みを浮かべるとアドバイス通りに量を適度に調整して生地作りを進める。
「朔さんは大丈夫ですか?」
「お菓子作りは結構、朔得意分野なの♪」
 美月姫が一人で黙々とがんばる朔の隣へ様子を見にいく。
「わぁ‥‥美味しそう、だね。ちょっと味見してみても、いい?」
 自分の分を焼き終えた祈良が次々と焼きあがっていくクッキーをきょろきょろと見回しながら尋ねた。
「つまみぐいしていたら、なくなっちゃうかも?」
「ラッピングのプレゼント分を先に作った方がいいと思うの」
 祈良に冥華とファリスが突っ込みを入れる。
 和気藹々な雰囲気で一足早いクリスマスプレゼントの準備を各自は楽しみながらやっていた。
 
●ハッピー☆クリスマス
 イベント当日。
 広場にステージというわけではないが、スピーカーと音源が用意され、ヘッドセットマイクをつけたアイドル達が準備をしていた。
 夕方の帰り道、噴水のある広場から見える町並みはネオンと共にところどころクリスマスに着飾って輝いている。
「あ、あー、らららら〜♪」
 コハルが自腹を切ってレンタルしてくれたマイクやスピーカーのチェックもかねて祈良が発声練習をしていた。
 衣装はスクール水着にモコモコブーツ、さらにトナカイの角カチューシャといったトナカイガールである。
 スクール水着には『きら』と直筆で書いてあった。
「じゃあ、歌おうか‥‥少しでも道行く人に気づいてもらいたいから」
「よーし、クリスマスらしいナンバーをいっちゃいまっしょー!」
 ミニスカサンタ衣装の神楽とコハルが発破をかけると歌の担当である祈良とファリスは頷いて答えた。
 クリスマスで馴染みの深い曲をアカペラで4人は歌い出す。
 祈良のソプラノの旋律がマイクを通して広場に広がっていく‥‥。
 道行く人の一部が足を止めて、コハルたちに集中してきたところで、チケットを配るメンバーが動いた。
「めりーくりすます。うたうたうひとのとなかいいしょうさむそう」
「メリークリスマス。私達Impからのクリスマスプレゼントです」
 同じミニスカ風サンタルックの美月姫と冥華が笑顔と共にチケットの入った袋を手渡す。
 綺麗にラッピングされたクッキー袋で、種類は8人で作ったものが均等に混ぜられている。
「朔は今日は天使さんなの♪」
 真っ白な僧衣に真っ白な翼と腕や首に十字架のアクセサリーを施した素足姿の朔も笑顔でクッキーを配っていた。
 冷たい地面に素足を下ろして、寒さを感じないかのように笑顔を振りまく。
 僧衣の下は血がみえないように包帯でしっかり巻かれているとは誰も気づかないだろう。
「宜しくお願いしますの♪」
 クッキーを手渡し、撫でてくれた人にはより輝く笑顔を返して朔はクッキーを配り続けた。
「よろ‥‥しく‥‥お願い‥‥します」
 秋姫もメイド服を模したサンタ衣装で、できる限りの笑顔を浮かべる。
 白いヘッドセットとミニスカートから伸びる黒いタイツに覆われた両足が魅力的である。
 冷えた空気の中、息を白くしながら1時間弱チケットを配り続けるのだった。

●セクシー☆クリスマス
 10分ほどの休憩の後に歌う組とチケットを配る組が交代をする。
 1時間近くやっていたこともあって、足をとめてくれる人の数は増えてきていた。
 もちろん、チケット配りをしている存在がアイドルいうことにも気づいてくれた人もいる。
 そのあたりは警察の方でロープの囲いを作るなどの配慮をしてくれていた。
「ようし、今度はチケット配りだー! コスプレで鍛えた裁縫で作った衣装のギミックをみせるとき!」
 妙に気合を入れたコハルが普通に丈の長いワンピースだったサンタ衣装をばっと脱ぎ捨てる。
 中からはチューブトップとホットパンツに茶色いフェイクファーを事務所に用意してもらって自分で縫い合わせて作ったビキニトナカイだ。
「さ、神楽ちゃん、覚悟は良い?」
「もう‥‥できてるよ。脱げばいいんだよね?」
 コハルのキランと光る目に神楽はどこか諦めた様子で同じように上着を脱ぎ捨てる。
 中からは青いビキニとモコモコブーツ姿が現れ、トナカイカチューシャを神楽は頭につけた。
「なんか凄く目立ってない‥‥って自分で選んだけど」
 露出の多い衣装へと注がれてくる視線に神楽は苦笑を浮かべた。
 覚悟はできているといったものの、現実とイメージのギャップに戸惑う。
「さぁ、チケット配っちゃうよー。IMPからのクリスマスプレゼントをどうぞ〜♪カウントダウンライブのチケットでーす」
 子供は風の子といわんばかりのテンションで、コハルが率先して囲いから外にいるファン達に向かってチケットとクッキーを渡した。
「コハルさんには敵わないな‥‥でも、がんばらなきゃ‥‥よろしくお願いします」
 神楽もコハルの元気さを見習うようにクッキーを配りはじめるが、ぎこちない笑顔になってしまう。
「んっと‥‥クリスマスだし、皆が幸せになれるように、思いを込めた、よ」
 神楽とは違ってはにかむ様な笑顔を浮かべて祈良も先ほどのトナカイ衣装のまま配る。
 一人一人に手渡しをする心遣いはがんばり屋の祈良らしかった。
 
 ***
 
「じんぐるべー、じんぐるべー」
 歌をアカペラで歌いながら、冥華は鈴をならす。
 チケット配りのメンバーがセクシーな姿で魅了しているとするならば、こちらは可愛さを前面にだしている。
 シャンシャンと鈴が鳴る演出はクリスマスソングにはぴったりだ。
「皆の心に響いてほしいの」
 一曲目が終わり、次の曲ということで朔がメインとなって天使の様な歌声を響かせる。
 静かなクリスマスキャロルの一つは今日の朔の天使らしい衣装とマッチしていた。
 怪我を悟られないように動きは抑え目にしつつも、日も暮れて照明と月明かりに照らされる中で白い衣装の朔は見栄えする。
 三曲目は静かなリズムのクリスマスの夜をテーマにした曲を歌った。
 歌うときは真剣になって歌っていた秋姫だったが、終わると思わず恥ずかしくなって俯いてしまう。
「では、最後に私からは少しアレンジバージョンをお届けしようと思います」
 美月姫が率先して歌いだしたのはクリスマスの定番曲の一つであり、英語の歌だった。
 弾むリズムに乗せて、サンタの訪れを子供に教える歌に思わず口ずさむ人さえもいる。
 多くのアーティストに愛され、カバーされた曲をチョイスした美月姫の判断は間違っていなかった。
 総計三時間に及ぶ街頭のチケット配りとミニライブはこうして終わり、500枚のチケットは無事配り終わったのである。
 丁度、そのとき空から雪が降ってくる‥‥。
 まるで、がんばったアイドル達への早めのクリスマスプレゼントのようだった。

●一仕事を終えて
「はーい。ココアだよ」
 祈良が入れてくれた暖かいココアを皆で飲むと、同時にはぁと息をついた。
 事務所へ撤収したアイドル達は形が崩れたり焦げてしまったクッキーの残りや、型抜きのあまりを揚げたスナックでお茶会をしている。
「皆さん、お疲れ様でした。特にコハルさんや神楽さんは寒そうな格好で」
 美月姫は毛布に包まってココアを飲む二人を見てくすくすと笑った。
「雪まで降ってくるのは予想外だったよー。ホワイトクリスマスもこういうときはちょっとありがたくないっての」
「暖かいココアが体にしみるよ‥‥うん、クッキーも残りものだけど美味しいよ」
「朔、だいじょうぶかな?」
「疲れているだけだと思いますよ、能力者といえども不調で無理してはいけませんからね。ゆっくり休めば大丈夫ですよ」
 今はこの場におらず、休憩室で休んでいる朔の様子を冥華は心配しているが、ライディは頭を撫でて答える。
 暖かい雰囲気の中、窓の外を眺めればコンコンと雪が降っていた。
 その後、話題は候補生の二人が先輩達に苦労話や経験談を聞く時間になっていく。
 短い時間でも、二人にとって大切な時間であり、何よりの収穫になったのはいうまでもなかった‥‥。