●リプレイ本文
●傭兵として、アイドルとして
「当日券と合わせて満員御礼って感じ? 寒い中頑張ってチケット配った甲斐があるね。来てくれた人に楽しんで貰えるようにステージも気合い入れていこーぜぃ」
冬の夜、しかも野外ステージだというのに伝わってくる熱気を前に葵 コハル(
ga3897)は不敵な笑みを浮かべている。
「本当に今日はバックダンサーや演奏でいいんですか?」
「いーの、いーの。十分顔は売ったしね。折角の後輩の舞台を応援したいって先輩心ってやつ?」
隣にいたライディ・王(gz0023)が尋ねるもコハルは笑みを崩すどころか満足げに頬を緩ませてライディを見上げてきた。
スタッフオンリーの観覧席にいる二人だが、周りにはDVDに収録するためのカメラが置かれ、ライブの開始を今か今かと待っている。
客席の興奮とスタッフの緊張が高まってきているのが肌で分かる瞬間だった。
ライディの視線に立ち入り禁止エリア内できょろきょろとあたりを見回している男女が入る。
「あれは‥‥迷子なんでしょうか」
「どうなんだろう、ちょっと行ってみよっか」
ライディとコハルが駆けつけると、他のスタッフが対応をするも、相手が能力者ということもあって困っているようだった。
男の方は草薙 八雲(
gc6501)といい、女の方は黒宮(
gc6517)というフェンサーらしいことが判明する。
「二人とも傭兵なんだね。今日はね、傭兵でありながらアイドルをしている子達のカウントダウンライブがここでやるんだよ」
コハルが人懐っこい笑みでこれから行われることをざっくりと説明した。
「ラストホープの傭兵の仕事ってそんなこともあるんですね」
八雲は驚きを隠せない様子でコハルを見る。
「じゃあ、私達は場違いだったのかしら?」
黒宮の方は複雑そうな顔でコハルに目を向けた。
「マネージャー、折角だからライブを見てもらっていってもいいんじゃない? こういう活動もあるよってことでさ」
「そういうことですので、今回は特別ですよ。ラストホープに来て間がないみたいですし、一つの宣伝ということで」
コハルの要望にライディは予想通りといった顔で頷き、答える。
「そういうことで、後はこのマネージャーのライディ君に聞くといいよ。あたしは控え室でちょっと緊張ほぐしてくる!」
手を振ってコハルはライディ達から離れていった。
「では、スタッフ証の方の手配と観覧席へとご案内します。これから夜明けまでのライブをゆっくりと楽しんでいってくださいね」
八雲と黒宮をライディはスタッフエリアの一角へと案内する。
ライブ開始まで残り5分だった‥‥。
●21:00 ライブ開始!
「のぞみん、ボクがんばるよ」
瑞姫・イェーガー(
ga9347)は用意してもらった虎耳に尻尾、チャイナドレスにチョーカーをつけて気合をいれなおす。
つけていれば一人じゃないと自分に言い聞かせて、ステージへと踊りでた。
『どうもー、ボクは新人の瑞姫・イェーガーです。よろしくにゃ』
手を振りつつ笑顔を振りまき、瑞姫は新人として丁寧に頭を下げる。
『そこ、虎なのにとか言わない。みんなに突っ込んで欲しいのににゃー』
暖かい拍手が贈られるが、予想外の反応に瑞姫は若干戸惑いつつリアクションを返した。
『アレ、受けてない‥‥、Impalpsカウントダウンライブへようこそ! まずは注意事項をいうよ‥‥』
チャイナドレスのポケットからメモ用紙を取り出してライブのお決まりを瑞姫は伝える。
『それじゃ、開始するよ司会の人よろしく』
『司会のトップバッターは私がいくよ‥‥瑞姫トラさん、前説ありがとう。ほな、Impalpsカウントダウン開始するで!』
沖田 神楽(
gb4254)が最後の方は関西弁にしながら宣言するとドンと大きなクラッカーが爆ぜてカラフルなテープが客席に向いて飛んだ。
ワーッと歓声が上がったのもつかの間、ピアノの音色が会場に響きだす。
青系のドレスに身をつつんだ祈良(
gb1597)がリズムに合わせて体を動かしながら、鍵盤を叩き音色を奏でた。
ステージの中央に立つのは先ほど前説をやった瑞姫だが、衣装はチャイナドレスから青色のミニドレスに変わっている。
さすがにソロで歌うことに表情が硬くなっている相方へ、祈良は幻想的な音色でピアノを弾きつつ声をかける。
「大丈夫、だよ。2人で頑張ろ」
その言葉に勇気付けられた瑞姫はマイクを手に軽く深呼吸をして、歌い始めた。
―蒼い炎― 作詞:瑞姫
♪〜〜
ボクは、どこに行けばいいの
居ることすら許されないのに
思い続けたことさえ 虚しいだけ
苦しんだ先に 何が有るの
罪悪感から逃れないのなら消えてしまいたい。
何故続けていたのだろう苦しい自問自答
ボクは誰かを、不幸にさている
だから飛び続けるんだ、必要とされる宙へ
それさえ、許されないとしても
諦めはしない、翼が折れ嘴が曲がっても
この想いいつか伝わるのか分からないけれど
この身を包む蒼い炎闇夜を照らせ
誰かを癒やす光に変えて
〜〜♪
『新人のスタートとしてはいい出だしだね。これから、がんばって欲しいな‥‥皆も瑞姫に拍手を』
歌い終わった瑞姫に拍手を捧げて観客を煽ると、つられるように大きな拍手が瑞姫と祈良に捧げられる。
『続いてはMpaのニューフェイスの登場だよ。ほな、よろしゅー!』
瑞姫達がステージから降りると、照明がやや暗めに落ち白と黒のローブを着込んだ二人が上がってきた。
***
バックに流れるのは宵藍(
gb4961)が奏でるアコースティックギターの音色‥‥。
静かではあるものの、テンポのよいリズムを刻むギターに合わせて二人はローブの裾を靡かせて踊った。
軽く飛んでは回転して着地したりと、白いローブのクラリア・レスタント(
gb4258)は”魅せ”る。
また、ローブをターンと共に翻しダイナミックに黒いローブのリュイン・カミーユ(
ga3871)が”見せ”た。
二人がステージの両端に踊りながら離れたかと思うと、ローブを脱いで反対側に投げて、覚醒する。
リュインの瞳と髪が黄金色に変わり、クラリアの瞳が赤くなった。
そして、移動系スキルである<瞬天速>と<迅雷>で交差しつつローブを追いかけて取るとステージ後ろに投げる。
鮮やかな演舞の流れに息を殺して見守っていた客席が沸いた。
その興奮を冷まさないように宵藍はギターのリズムを変える。
フラメンコで喜びを意味する『アレグリアス』だ。
秘色(
ga8202)が手拍子で加わり、曲に厚みが増す。
「いい調子だ、このままいくぞ!」
「はいっ!」
ステージ上で熱気を感じる二人は激しいダンスを踊りだした。
リュインの衣装は紫と白のロングドレスだが、クラリアのものは赤と黒を基調にしたもので、胸元が開いていたり半そでだったりと上半身の露出が高い。
すべてにおいて対象的な二人の衣装は曲調と共に明るくなったステージ上でコントラストを描いて輝く。
「オーレ!」と時折掛け声を入れて踊り続けるうちに観客の方からもタイミングを合わせて掛け声を入れてくれるようになった。
手拍子と掛け声も合わさり、一体感のあるステージを見事に二人は決める。
曲の締めと共にポーズを決めれば、二人へ惜しみのない拍手が贈られた。
『皆さん、初めまして! クラリア・レスタントです。楽しんで頂けたでしょうか?』
曲が終わると、クラリアは少し息を荒げながらもマイクを受け取り、挨拶をはじめる。
『リュイン・カミーユだ。我らの渾身のダンスだ。楽しくないわけがないだろう?』
丁寧なクラリアとは対照的な挨拶をリュインも行った。
『苦しさと、辛さの多い世界ですが、喜びと楽しさを忘れず、明日に行きましょう。ありがとうございました!』
『もちろん、我も喜びと楽しさを提供しよう。この顔を忘れずに帰るんだぞ』
二人が挨拶を終え、ステージから消えるまで、すばらしいダンスと頑張ってきたことへのご褒美とばかりに拍手が収まることは無かった。
***
『やぁ、久しぶりだなてめぇ等! 今年最後の夜を楽しんでるかー!?』
司会の神楽が何かを言う前にデデンとドヤ顔でテト・シュタイナー(
gb5138)が登場し、ふてぶてしいまでの挨拶を交わす。
おめでたい紅白を基調としたゴスロリ服に身を包んんだテトに一部の熱狂的ファンが「テトたーん、かわいー」と声をかけてきた。
『俺様が可愛いのは当然だ!』
サムズアップを返せば更に盛り上がる。
Alpとして活動を続けているテトも2年という月日を重ねて確実にアイドルとして自分の位置を得ていた。
『なんか、私の出る幕ないね‥‥。後はお任せするよ』
テトの勢いに押されてしまった神楽は早々に切り上げてステージから降りる。
もっとも、次の出番の為に着替えなどをしたいという理由もあっての行動だ。
『OKOK。俺様も、てめぇ等と一緒にこの時間を過ごす事が出来て楽しいぜ! んじゃ、そんなてめぇ等に、一足早いお年玉だ。新曲――行くぜ!』
「Yeah!」と盛り上がる中、明るかった照明が夜をイメージした薄暗いものへと変化し、イントロが流れだす。
―Bridge― 作詞、作曲:テト
♪〜〜
晴れぬ思い、胸に秘め
見上げる空は灰色に染まり
足取りの重さ感じながら 涙を堪え、歩いて行けば
目の前に現るは一つの橋
その先に見えるのは晴れ渡る空
この橋を渡れば変われるだろうか?過去の自分と決別をして
先へ行けば見えるだろうか?陽の光に満ちた希望の道が
〜♪
前半が終わると昼をイメージした明るさへと光りが強まる。
このあたりの照明の変化はプログラミングで制御し、またBGMの音色も明るめに変調できるのはテトの腕だった。
♪〜
さぁ、いざ走ろう
何時までも、重い足枷を付けていないで
さぁ、渡ろう
前を向いて、目の前の橋を
暗い思いを振り切って
明るい願いを抱いていこう
この橋を渡りきれば
きっと、新しい道を見つけられるはずだから
〜〜♪
ふてぶてしさと俺様キャラが売りであるテトの純粋な歌声はギャップも相まって根強い人気を見せている。
先ほどの新人二組とは違った魅力のある一曲をテトは披露しきったのだった。
●22:00 追い込み!
『はーい、ここからはボクが司会をするよ。みんな、元気してるー?』
ライブの司会をずっと務めている椎野 のぞみ(
ga8736)はマイクを客席に向けて声を集めるなど、パフォーマンスを自然と繰り出す。
客席の反応も慣れている様子で自分をアピールするような声が返ってきた。
『元気一杯だねっ! ボクも負けないよう元気に司会していくね! まずは、今回結成された新ユニット『lazward』からだよ』
のぞみが紹介をすると和服に健康サンダルの秘色と中華系の普段着を着こなす宵藍がスポットライトを浴びる。
『シャオ坊とユニットを組むことになった秘色じゃ。わしは先日アイドルとなって、此れが初の活動となるのう。初舞台として相手に不足はないので応援よろしく頼むぞ』
『坊と呼ばれるほど年齢差はないと思うんだけどな‥‥見た目か、見た目なのか‥‥そこ! シャオちゃんと呼んじゃらめぇ!』
客席の一部から聞こえた呼びかけに思わず突っ込みを入れるが、逆に可愛いという声が上がるだけだった。
主に男性だが‥‥。
『気を取り直して、俺達lazwardのデビュー曲になるのかな‥‥『Only』を聞いてくれ』
『しかと聞くがよいのじゃ、ワシらの魂の声をのぅ、シャオ坊‥‥それに演奏をする皆よ!』
秘色が堂々とした様子で高らかに宣言すると、バックバンドがイントロを弾き始めた。
ギターを鈴木悠司(
gc1251)、ベースをヤナギ・エリューナク(
gb5107)、キーボードをセラ(
gc2672)が担当し、スピード感溢れる音楽が観客を魅了しはじめる。
―Only― 作詞、作曲:lazward
♪〜〜
宵藍:喜怒哀楽 どんな色に染まっていようが
陽は容赦なく昇り 俺を叩き起こす
二つと同じ日なんかない
「「毎日がOnly Days」」
「だから」
秘色:何一つ零すもんか
宵藍:何一つ失くすもんかと
「「HighSpeedで”今”を駆け抜ける」」
『邪魔する奴は蹴飛ばして』
秘色:数えきれない
「「ONLY and ONLY ONLY ONLY」」
秘色:手放せない”絶対”は山程
一つだけなんてケチなこと
言わなくたっていいじゃない(宵藍:いいじゃん! いいじゃん!)
宵藍:貪欲は人を成長させる
秘色:それが私のモットーなんだから
「「欲張りで行こう」」
『大切なモノは』「「Everything is Only!」」
〜〜♪
秘色と宵藍はデュエットをし、ソロパートとハモリ、ユニゾンを組み合わせて歌いあげる。
「蹴飛ばして」のフレーズで蹴りだした秘色の健康サンダルが脱げるハプニングなどはあったものの、無事に締めることができた。
『皆に負けじと頑張って参る故、よしなにのう!』
終始威風堂々とした様子を見せた秘色に観客は関心した拍手を捧げるだった。
***
『続いてはImpの重鎮、お色気キャラの加賀 弓(
ga8749)さんですよ』
『あの‥‥のぞみさん。私はお色気キャラではないですよ? それと、まだ最年長‥‥なんでしょうか?』
苦笑しながら紹介された弓がステージへとあがる。
突っ込みを入れた通り、衣装は着物姿で弓の足取りも落ち着いたものだ。
なお、先ほどの秘色が27歳のようなので、最年長記録は破られていない‥‥はず。
『年齢はこの際、気にせずに〜。久しぶりのライブで歌ってくださいよ』
客席をのぞみが見れば『加賀弓親衛隊』と書かれた横断幕を張る一段がいて、声を張り上げて応援していた。
忘れられていたのかと心配していた弓は杞憂に終わったことを嬉しく思い、微笑む。
『それでは‥‥新曲を歌わせていただきます』
頬をわずかに赤くさせながら弓が一礼すると、静かなメロディと共に歌が始まった。
―夢追い人― 作詞:弓
♪〜〜
どこに行ってしまったのだろう
この胸にあった夢は 明日への道筋を
確かに見えていたはず 明日への希望を
見えなくなった夢を 追い求め彷徨う
近くて遠い場所に行ってしまった
見えなくなった夢は 確かにそこにある
地平の向こうにはなく ボクの隣にいた
何時から見えなくなっていたのだろう
ボクの大切な夢はそこにあったのに‥‥
〜〜♪
『人数が増えて、ものすごく長く離れていた気がします。でも、こうして皆さんの記憶に残るステージをこれからもしていきますので応援よろしくお願いします』
歌い終わった弓は今一度大きく礼をすると、ステージを後にする。
『大人の対応でしたね。休憩前のステージもあと一曲で終わりです。最後は神楽ちゃんです、拍手ー!』
雪女をイメージしたような白い小袖を紐で結った衣装に着替えた神楽がステージに上がった。
『ちょっと、締めに向いているかどうか分からないけれど‥‥精一杯、新曲を歌わせてもらうよ』
拍手に出迎えられた神楽は頬を軽く掻いてマイクをしっかりと握る。
冷たさを感じさせる音色が流れ、それと共に粉雪が舞った。
―ドロップスノウ― 作詞、作曲:神楽
♪〜〜
降り始めた白い雪
全てを覆い尽くしてく
優し嘘みたいに いつか酷く汚れていくけど
何故傷つけてしまうの ふとしたことで
まるで雪雲みたいに 灰色に変わってく
涙も冷たさに凍り付いて
何故 叩き付けてはくれないの
辛いよ 心の芯が凍えてく
暖める事も出来なくて
積もっていく白い雪
全てを白に変えて
拒絶していくように 灰色の塊になってゆく
残酷に青い空が 全て見透かされてく
嘘の歪んでいく姿を
雨に変わって欲しい
全てを溶かしてしまえばいい
この思い 消えてゆくから
永遠に続きはさせない為に
〜〜♪
最後は青い照明を中心とした青空の中で、綺麗なバラードを神楽は歌いきった。
『これでステージの前半は終了です。10分間の休憩を挟んでから後半になります。それじゃあ、また後で会いましょう!』
神楽がステージから降りるときにのぞみは客席に向けて手を振り前半の流れを締める。
あっという間の二時間過ぎていく‥‥。
●23:00 アクセル全開!
『ここからの司会は私、加賀弓が担当させていただきます』
休憩時間が終わると、着物姿の弓がマイクを持ってスポットライトを浴びる。
久しぶりのステージでの司会ではあるが、懐かしさと共に観客の暖かさを感じて弓は思わず顔を緩ませる。
『こうして舞台に立てて、歌を歌えて、覚えてもらえていることが嬉しいですね』
ふふふと小さく微笑みながら、ステージ裏をちらりと見て、準備ができたと合図を出すスタッフの姿を確認した。
『ですが、今日は新しく入ってきた子達を支えたいと思います。休憩後の一番手は新ユニット「乙女組」の皆さんです、どうぞ』
拍手をしながらステージの端に弓が移動すると揃いのフリフリのゴスロリ服を着た4人組が出てきた。
『おにーちゃん、おねーちゃん、はじめまして! ユウだよ!』
ピンクのカラーにファッションブランド【Steishia】のゴシックロリータの日傘をさすユウ・ターナー(
gc2715)くるりと回って笑う。
『わらわはらいむじゃ。ぜっとおんな組の一員として、小公女あいどるとして頑張らせてもらうのじゃな』
ユウの隣にいる黄色のカラーの正木・らいむ(
gb6252)が続けて挨拶をするも、乙女組が読めなく少々ヘンテコな挨拶になってしまった。
『「ぜっとおんなぐみ」ではなく、「おとめぐみ」と読むんですよ。望です‥‥自分に出来る精一杯やっていこうと思います』
らいむに突っ込みをいれた白の衣装を着る若山 望(
gc4533)は思わず恥ずかしくて口を閉じてしまう。
しかし、表情はどこか硬いために望の心を観客が知ることはできなかったのは救いだった。
『『乙女組』なの! ファリス達の歌をみんな聞いて欲しいの! 「明日を夢見て」、LET GO!』
ブルーを基調とした服を着こなすファリス(
gb9339)が曲名を高らかに叫ぶと、イントロが流れ出す。
コハルのキーボードによる生演奏で、アップテンポの明るい旋律が始まった。
―明日を夢見て― 作詞:乙女組
♪〜〜
「「さあ、明日[あす]を信じ、進もう
きっと明日[あした]はステキな朝が来るから」」
ファリス:辛いことや哀しいことは周りにいくらでもあるけど
らいむ:楽しいことや嬉しいことだって きっとあるはず
望:辛さや悲しみで立ち止まりそうになる時もあるけれど
ユウ:暗く哀しい夜だって、必ずお日様がその光で切り開いてくれるように
「「わたしも前に踏み出すの!
立ち止まっていたら、何も見付からないから」」
ファリス:その一歩は今は小さくとも、その勇気は
らいむ:きっと何かを変えてくれる
望:わたしは一人きりじゃない
ユウ:きっと笑い会える人が居るよ!
「「空元気だっていいじゃない!
今は笑顔を思い出して
いつかきっと自然に笑える日が来るから」」
〜〜♪
ソロパートを織り交ぜた一曲は、各自がぎりぎりまで練習を重ねて来た集大成だった。
望は気持ちが篭るように胸に手当てて歌い、ユウは客席に呼びかけるように手を伸ばす。
ファリスが腕や手でジェスチャーを織り交ぜて歌えば、らいむは拳を握り力強く頭上へと掲げた。
明るく元気な応援歌として、4人が一生懸命に歌い続けているのが誰の目にもはっきりと分かる。
その証拠に歌が終ると拍手と共に口笛がなって、4人の奮闘と成功を観客達は労ってくれたのだ。
『4人とも初めてとは思えないすばらしいパフォーマンスでした‥‥なんだか、すぐに人気を取って追い越されてしまいそうです』
あまりのすごさに弓も思わず目を見開いてしまうほどだった。
***
『次はフォーゲルマイスターのOVAより、あの人の登場ですよ?』
意味ありげな紹介をしながら、弓は準備をしていたエイラ・リトヴァク(
gb9458)へパスをする。
「おい、ヤナギ‥‥怪我大丈夫なのか?」
「これくらい平気だって、こんな面白いステージを逃すわけにはいかないだろ?」
「そうだな‥‥ありがとよ、じゃあ行くぜ!」
裏手でそんなやり取りをしてから、二人はステージへと上がった。
エイラはフォーゲルマイスターのOVAで演じた自分のキャラのパイロットスーツのコスプレをしていて、ヤナギと嵐 一人(
gb1968)も登場人物の着ている男のパイロットスーツでベースを弾く。
ステージに設置されたシンセサイザーの前に座ると、ベースとエレキギターで加速された旋律に乗せてエイラはシンセサイザーを弾きはじめる。
『聞いてくれみんな‥‥そしてティーダ姉さん』
出演したキャラになりきって、エイラは歌い始めた。
―Beyond epatoivo〜絶望を越えて〜― 作詞:エイラ&ヤナギ
♪〜〜
奪われた記憶
嘘だらけの過去
吹き飛ばされた大切なモノ
取り戻せないのなら新しく作ればいい
前を向け 目の前の嵐、消えることは無い
立ち向かえ 恐れさえ糧にして
全てを信じろ 孤独なんて気持ち次第
動かなかったことに後悔したくない
上書きされた記憶
閉ざされた過去
道塞ぐ傷つけないと決めた人
受け入れぬなら新たに信じればいい
アタシは変わらない
何一つ変わらない
たった一つの信じる道
ただひたすらに走り続けるだけ
逃げはしない 違えることになっても
この誓い揺るぎはしない
切なる願い 明日を切り開く勇気に変えて
〜〜♪
蒼系の静かで落としめの照明で歌の心情を表し最後の方に自身に強くスポットを当てて、フィニッシュをかける。
「そういやぁ‥‥テト姐さんと組んだことなくねぇ? まっ良いんだけどよ」
ポツリとマイクを切って呟くエイラの目からは涙が零れ落ちた。
●カウントダウン直前!
エイラまでの歌が終わると、ステージにはカウントダウンをするためにアイドル達が集まっての軽いトークショーが行われている。
瑞姫はここでも盛り上げるために司会を買って出て、精を出していた。
『今年もあと僅か‥‥外は寒いが、最後までクールに決めていくぜ!』
先ほどまで、ステージでギター演奏をしていた嵐はトーク中にギターをソロで弾き、カウントダウン開始までの場つなぎをする。
『ソロプレイかっこいい〜』
セラは目を輝かせて嵐のギターソロに釘付けだった。
自分も楽しむ事で人を楽しませる‥‥かっこよく言えばそうなのだが、今は純粋にステージをセラは楽しんでいる。
『セラちゃんのキーボードも上手だったよ。楽しんでいるのが一緒に演奏していて解ったよ』
本物の犬耳と尻尾を揺らし、白のシャツに黒のベスト、黒のパンツ姿の悠司もセラとの競演を楽しんでいた。
Impalpsに入って初めてのライブステージだが、緊張よりも嬉しさの方が悠司には大きい。
『人が多くて、賑やか、だね。大人数で、新年を、迎えるのは。きっと、楽しいよね』
客席を眺め、そしてステージのアイドル達を眺めた春夏秋冬 歌夜(
gc4921)は普段着に近いラフなスタイルでステージにあがっていた。
バックダンサーとしての出番をちょろちょろとやっていたが、カウントダウン前に表に出て顔見せをしている。
退屈そうな顔をしているものの、内心興奮しているのは秘密だ。
『もうすぐカウントダウンなの! みんな、Noirと一緒に声を出して欲しいの』
終夜・朔(
ga9003)が休憩中に用意された大型ディスプレイを指差すと、カウントダウンの表示がでる。
10からはじまるカウントは新年への秒読みだ。
『9、8、7!』
アイドル達が声を上げ、指を折ってカウントする。
『6、5、4!』
観客たちも大きな声をだし、一緒に手を振りだした。
『3、2、1!』
もちろん、ライディをはじめとしたスタッフ、一緒に見ていた八雲や黒宮も息を合わせてディスプレイを見つめる。
「「0! A HAPPY NEW YEAR!」」
ユウをはじめとしたアイドル達がジャンプをして新年を祝うと、ギターを嵐と悠司、キーボードをコハルとセラ、ピアノの祈良、シンセサイザーのエイラで曲をスタートさせる。
ステージの裏から花火が上がると、Impのファンならなじみの深い曲『Will〜光へ』のイントロへとリズムが流れた。
歌夜や、リュイン、クラリアが他のバックダンサーを連れてクラッカーを鳴らすとダンスを始めて、新年を派手にスタートさせる。
『それじゃあ、新年の一曲目! Impの全体曲でもある、「Will〜光へ」をどうぞ!』
イントロに乗せた瑞姫の宣言で、ライブは加速した。
●0:20 終わりへのトップスピード
『次は男性グループ「anima」の登場だよ』
『私がいたころは男性が少なかったですから、期待大ですね』
瑞姫と弓、そして神楽の3人で司会を続け、ラストまでを駆け抜けるように進めていく。
『新曲を披露するぜ、今日という日を忘れないように心へ刻んでくれよ!』
カウントダウン前に衣装を黒のデニム、ジーンズ、白と黒の配置反転のシャツに替えた嵐が一際激しくギターをかき鳴らした。
『ロックで激しくいくぜ、倒れるなよ!』
ヤナギも黒系のパンクファッションでベースでついていき、観客を煽る。
疾走感のあるロックは盛り上がっていた観客の興奮を高めていった。
―Sunrise― 作詞:anima
♪〜〜
悠司:もう暗い世界 満足できない
そう気づいた瞬間[とき] 始まるRunning
顔上げて 瞳凝らせ
オマエの光 解き放て
嵐:明日へと続く輝くRord 奔れ‥‥!
暗闇切り裂いて その軌跡刻み込め
未来への恐れ 背中推す力に変えて‥‥
昇ってみせるさ Sunshine
「「地を蹴り上げ今掴め!
bright road, so we’re the world」」
〜〜♪
悠司のパートでが後ろからスポットライトを当てられ、そのシルエットを浮き出させる。
嵐のパートでは照明を落とし気味にしたあと、嵐が覚醒し、発光と翼でシルエットをより鮮明に演出された。
サビでは照明が回転して目まぐるしい疾走感を全体に”魅せる”。
静止した強い光を浴びるラストパートはヤナギはコーラスで参加し、観客‥‥特に女性達をトリコにした。
『みんなー! 最後まで聞いてくれてありがとうー!』
ガツンとフィニッシュを決めた後に悠司は拍手をしてくれる観客に向かって手を振り、精一杯の感謝を示す。
耳と尻尾が嬉しさのためか自然に動いていた。
***
『続いてはダンスタイムです』
『こういった演出も近年のメンバー増加で可能になったのは喜ばしいことだよね』
瑞姫は積極的に司会を勤め励み、そのフォローを神楽がしていく。
照明が暗くなると、スポットライトがステージ中央を照らした。
和服にピンク色の袴と、卒業式や成人式で見られるような格好ののぞみが、無音の空間でカツンと靴のつま先で音を鳴らす。
タッタカタン、タタンタタンと軽快な音を響かせるタップダンスが披露された。
静寂に響く音を聞こうと、興奮していた会場が静まり、さらに音が広がる。
のぞみだけかと思いきや、ステージの右袖から歌夜、左袖からはコハルがのぞみと同じ格好でタップダンスを踊り、中央までやってきた。
時折まわり、ポーズを決めたり派手さよりも正確にそろった3人の動きは美しささえある。
のぞみが途中で後ろに下がっていくとコハルと歌夜が互いにタップダンスの無声映画のように見せ合って繰り広げだした。
区切りごとに観客の拍手を促し、その多さを競っているかのような演技をしていると、のぞみの声が響く。
『みんな! 去年とは違った曲だけど、聴いてね!』
照明が再び暗転すると、のぞみのアカペラの賛美歌が流れた。
サビのあたりまでくると、突如ステージが明るくなり、ロック調の白い半袖シャツとネクタイ、白い革のミニスカートに黒バンド、大きな黒いロザリオをつけたのぞみが姿を現す。
『みんなー! 今年もどうぞ宜しくね!』
曲調はメタルロックだが、賛美歌のアレンジであるため、自信を持って歌うのぞみだった。
***
『のぞみんはお疲れ様。見ていて楽しいステージだったよ』
『そうですね。本当に色々な方が趣向を凝らしてステージを作っているのが楽しいです』
神楽と弓がのぞみのステージを褒めていると、白いシンプルなドレスで、髪を結い上げ大人っぽくした祈良がピアノの前に座り準備を整える。
『次は祈良のピアノ弾き語りだよ』
『改めて、こんばんわ。祈良だよ。私は、今まで色んな人に励まして貰って、頑張れたから‥‥。今度は私が、皆を励ませるような、歌を歌いたい』
神楽に紹介された祈良はマイクの位置を調整しながら自分の気持ちを観客に伝える。
『どんな事があっても、諦めなければ、人は前に進める。その事が皆に伝わったらいいな。じゃあ、聞いてね‥‥「未来へ」』
鍵盤の上で指を躍らせ、祈良はピアノでメロディーを紡いでいった。
―未来へ― 作詞、作曲:祈良
♪〜〜
現実がどんなにひどいものでも
未来まであきらめちゃいけない
幸せとは
悩みや問題が
なくなることじゃなくて
笑顔も涙もみんな抱えて
未来へと
走りつづけることだと
あなたが教えてくれた
これからも
嬉しいこと
泣きたいこと
色々なことが
たくさんあるよ
生きていれば
幸せを求める心を
なくさなければ
未来へ
道は開かれる
〜〜♪
綺麗なソプラノボイスは派手めな曲調の多かった新年開始の雰囲気をぐぐっと下げ、ライブの終わりを観客に予感させる。
拍手を受けた祈良は椅子から立ち上がると、観客に向けて頭を深く下げてステージを後にした。
***
『Noir、今年一番の歌を皆に届けるの』
ラストの個人パートを担当するのはNoirこと朔である。
いつものゴスロリ服でステージにあがった彼女はスカートの両端をつまんで一礼をして微笑みを浮かべた。
一部の区画で、そんな彼女に対する熱の篭った応援の声がだされる。
声援にこたえるように朔はピアノとハープの音色のイントロに合わせて歌い始めた。
―Believe〜明日への扉〜― 作詞、作曲;Noir
♪〜〜
今 紡ぎ出される 新たな旋律
この 時を 抱ける幸運
さぁ 今旅立つ
ある日 目の前に 現れた
光 輝く 世界への扉
今迄の自分を置き去り
新しい自分を持ち行こう
扉の向こうに 待つもの 其れを信じて
Believe My Soul Believe My Mind
Believe My Friends Believe My Family
Believe
今 生まれる 新たな世界
この 一歩を 踏出せる幸運
あぁ この世界に
ある日 目の前に 現れた
光 溢れる 夢への扉
前の自分を脱ぎ捨てよう
新しい自分に生まれ変わるの
自分自身が 待つもの 其れを信じて
Believe My Soul Believe My Mind
Believe My Friends Believe My Family
Believe
〜〜♪
照明を落とし、スポットライトのみで照らされた朔は歌詞の間を上手くとり、また自分の体を使った動きで観客を流し目し、終わりを綺麗な礼でしめた。
その幼いながらも堂々とした出で立ちと綺麗な歌声で会場の観客の心を朔はつかむ。
途切れることの無い拍手を受けると朔は今一度スカートを摘んでお辞儀をした。
●24:50 フィナーレ!
ついに4時間に渡るライブも最後の時を迎える。
控え室では、コハルが最後の発破をかけていた。
「失敗とか間違い、したってきっと大丈夫。こーいうのは『お祭り』みたいなモノで、勢いとか雰囲気の方が大事だと思うの。『踊る阿呆に見る阿呆』とまでは言わないけど、どうせだったらお客さんと一緒に、むしろお客さんを巻き込むつもりで楽しんじゃおうよ。これで、ラストがんばるよー!」
締めの全体曲とあって、緊張を抑えきれない一同に一人づつ肩を叩いていく。
「コハルのいう通りじゃな。わくわくするくらいの気持ちをもって、最後を締めようぞ」
秘色がしゃもじ口元にあて、不敵に笑った。
「みなさーん、最後の出番ですよ。あがってください」
ライディが控え室のドアを叩いて促すと、アイドル達はフィナーレのステージにあがっていく。
***
『これが、このライブでの最後の曲となります』
弓がゆっくりした口調で締めの挨拶をはじめていた。
『最後の曲はImpalpsとして、作られたあの曲だよ』
『皆も一緒に歌ってくれたら嬉しいな』
弓に続き、神楽と瑞姫が観客に呼びかけて、締めをしようと張り切っている。
「もう終わりなんですか」
「なんというか、あっという間だった気もするね」
その様子を眺めていた八雲と黒宮はもう、4時間たつのかと半ば驚いていた。
戦うことが仕事である傭兵でもある彼女達は立派にプロのアイドルとして誇りを持ってライブをいいものにしようと頑張っている。
『それでは、聞いてください。「―IMPALPS〜絆の翼〜―」!』
のぞみが大きな声で曲名を叫ぶと、生演奏による最後の曲がはじまった‥‥。