●リプレイ本文
●死合開始
「クライマックス? もう終ってるんだから、ただのエピローグだ。おとなしく消えると良いんじゃないか?」
サント・マスカラードの戦線布告を受けたジャック・ジェリア(
gc0672)は鼻で笑いつつSMG「スコール」から銃弾をばら撒く。
<制圧射撃>と<四肢挫き>のスキルを乗せた鉛弾150発がマスカラードを包んだ。
初撃を受け止めたマスカラードが動こうとするも、体が言うことを利かないのか動けない。
「これは‥‥」
「動きの取れないルチャドール、さて、後は何ができる? 悪いがさっさと沈んでもらう」
「きゃーかっこいージャックくん! 守って欲しいねいっと!」
茶々を入れるわけではないが、か弱いサイエンティストのゼンラー(
gb8572)は支援できる範囲と身の安全を考えて間合いをとった。
「さぁって、突撃開始だよ!」
大神 直人(
gb1865)のエネルギーガンが火を噴くと6人の能力者達が動く。
その一人、白鐘剣一郎(
ga0184)は月詠とカイキアスの盾を構えながら、走り出した。
「天都神影流、白鐘剣一郎‥‥推して参る!」
マスカラードの視線が上位クラスの特徴である紋章を見せる剣一郎を捕らえている間に能力者達は包囲網を作るように動く。
「この間のカリを返すとする」
<迅雷>で一番早く背後に回ろうとするのは漸 王零(
ga2930)だ。
以前にもマスカラードと戦い苦汁を飲んでいる。
「どこまでできるか自分試しといこうか!」
自らの腕試しを兼ねて、このキメラ闘技場まで来た世史元 兄(
gc0520)も剣一郎や漸と共に三角形を形成するように動いた。
だが、先手を打つのは別の3人組である。
「まさか一人で立ち塞がるとは‥‥ね」
相手の力量がいかほどか図りしれないと内心思う鳴神 伊織(
ga0421)だったが、やるべきことに変わりは無かった。
詰めた間合いから愛刀の鬼蛍「常世」を抜刀し、覚醒紋章の剣を輝かせながら一閃する。
鍛え上げられた体と刃が一体となってマスカラードの体を斬り裂いた。
「これほどの一撃を持つものがいたとは‥‥ここで待っていた甲斐がある!」
斬られたというのにマスカラードは高揚するかのような言葉を漏らす。
『貴公がバグア四天王か。貴公と関わるのはこれが最初で最後になりそうですね』
AUKV「ミカエル」を装着した神棟星嵐(
gc1022)が畳み掛けるように機械剣「サザンクロス」を薙いだ。
十字に分かれた光の刃が煌いてマスカラードに更なる傷をつける。
「余所見してちゃだめだよ! こっちもあるんだからね!」
後ろからは回り込んでいた荒巻 美琴(
ga4863)が肘打ちを首元へ叩き込もうとするが、それは受け止められた。
「余所見はしていない、ようやく本気で戦えそうな相手がきたことに喜んでいたのだ!」
マスクの下の顔が不気味にゆがむ。
捕んだ美琴の体を引き寄せヘッドロックをしながら地面へと叩きつけた。
グギィと嫌な音が闘技場に響き、本当のゴングとなる。
「ルチャ・リブレをただのプロレスと思っていると痛い目を見るぞ、セニョール、そしてセニョリータ!」
倒れている美琴をそのままにマスカラードは立ち上がった。
●獅子奮迅
「早速、回復だねい!」
ゼンラーが<練成治療>で美琴の傷を治しにかかる。
踏み込んでいた伊織と星嵐はマスカラードに掴まれないよう間合いをはずすと、入れ替わるように剣一郎と王零が踏み込んだ。
盾で体当たりを仕掛ける剣一郎だったが、相手の上半身が視界から消える。
「飛び上がった、来るぞ!」
予備知識を持っていた能力者達はすぐさま包囲網を解き、各々に動いた。
「伊織は何をするつもりだ?」
<迅雷>で離れつつ倒れている美琴を拾い上げた王零はその場で動かない伊織の様子に眉をひそめる。
愛刀の鬼蛍「常世」を抜刀するようにした伊織は腕に力をためて落下する瞬間を狙って<ソニックブーム>を繰り出した。
「ついでにコレも受け取れ!」
衝撃波に合わせるように世史元も超機械『扇嵐』の竜巻を飛ばす。
空間さえも切り裂くような音が鳴りマスカラードを衝撃波と竜巻が襲った。
マスカラードは落下攻撃の勢いを殺さぬようにフォースフィールドを強める。
「試す価値はあるんだねいっ! <虚実空間>!」
ゼンラーが超機械「アスモデウス」を振りかざし、マスカラードに妨害電波を飛ばした。
刹那、強く輝くフォースフィールドが消え、伊織の放った衝撃波とにマスカラードは弾かれて地面に落ちる。
「ぐぅっ‥‥油断した」
受身を取って、着地をするも衝撃波の傷口は深く、血が止まること無く流れだした。
「まだ俺達の攻撃は終わらないっ!」
追い討ちをかけるように剣一郎が走り勢いに任せたシールドバッシュを叩き込む。
ドンともズシンとも聞こえるような鈍い音が聞こえるも、マスカラードは剣一郎の攻撃を受け止めていた。
「こちらもこの程度の傷でやられるほど甘くはないぞ‥‥んぐっ!」
「‥‥天都神影流・狼牙閃、その脚貰ったぞ」
シールドを受け止めていたマスカラードの足には剣一郎が<急所突き>で繰り出した月詠が刺さっている。
「まだ我はいるぞ、今度こそ息の根を止めてやろう」
接近して来た王零が魔剣「ティルフィング」でマスカラードで畳み掛けるような斬撃を放った。
一撃を受け止めたマスカラードはどこかつまらなそう王零を見る。
「同じ武器で同じ攻撃‥‥成長がないな」
「零距離からでも手はある!!」
無理やり<迅雷>を使って懐にもぐりこんだ王零はグローブ状の超機械「シャドウオーブ」から黒いエネルギー弾を撃ち込んだ。
一方的な集中攻撃といっても過言ではない状況だが、マスカラードの表情に失意や恐怖といったものは見えない。
もっとも、マスクをつけているからなのかもしれないのだが‥‥。
「オイシイ所は先輩達が持って行ったから、アイツの腕一本位は俺がブッチ切りしていいよな!」
「腕一つか‥‥今のままでは確かに持っていかれるだろうな。しかし、そう安くは無い! 死闘であるならギブアップなどはないっ!」
くるんと巨体に似合わない軽やかな動きで回転をすると世史元へ三連撃を叩き込んで吹き飛ばす。
それだけの攻撃のはずなのに、世史元の体はダンプにでも轢かれたかのようにボロボロになって落ちた。
すぐさま王零の足を両足で掴んでの投げに入る。
「鮮やかな動き。これは回復が間に合うか心配だよ」
「そんなのは関係ないな。このまま沈めるまで弾丸を叩き込むだけだ」
「ああ、やることが変わるわけじゃない。俺達は支援をし続ける!」
心配するゼンラーを他所にジャックと直人は各々の得物で攻撃の砲火を緩めなかった。
「支援に答えないとね。回復してくれた分、返すよ!」
ゼンラーに治療を受けていた美琴も立ち上がり、深呼吸を一つ終えると戦いに戻る。
包囲網が崩れかかっている今、なんとしても一撃を与える必要があった。
迫ってくる美琴をマスカラードは待ち構える。
一度横にそれ、撹乱するように動いたところで美琴は掴まれる前に<瞬即撃>を鳩尾に放った。
当身投げな戦い方をするマスカラードの裏をかいた作戦である。
「さらに、いくよ‥‥さっきのお返し!」
美琴の脚の周囲に翼の形をした紋章が浮かび上がった。
鳩尾に更にもう一発拳を叩きこむ。
ペネトレイターのスキル<真燕貫突>だ。
強靭な体となったマスカラードの鳩尾に美琴の拳が抉りこむ。
「これならどうだ! ボクのクラスは”グラップラー”だった。それだけだよ!」
「いいパンチを持っているな‥‥だが、まだまだだ!」
パンチを受けた体勢のままマスカラードは美琴と同じように鳩尾へボディブローを当てた。
一撃の重さが美琴の放ったものと、そしてはじめに倒されたときのものと明らかに違う。
「か‥‥はっ!」
目を見開いた美琴の首に延髄チョップが決まり、再び地面へと美琴は沈んだ。
●疾風怒濤
「こうも負傷者がでてくると回復が間に合わないんだよねぃ!」
超機械で回復をするゼンラーだが、世史元と美琴の傷が深く、死なない程度に抑えるのが精一杯である。
王零は自分の持つ救急セットを使って治療するが、時間がかかりそうだった。
「ちっ、思ったよりやってくれるね。ルチャドーラ」
ゼンラーをあけるわけには行かず、舌打ちをしながらもジャックはスコールで<制圧射撃>と援護を続ける。
「俺も前にでる。いいかげんにくたばりやがれ!」
エネルギーガンを撃ちながら、直人はマスカラードへと近づいた。
一発が頭部のマスクを剥ぎ、素顔を露にさせる。
角ばった顎と闘志に燃える瞳を持つ、一人の戦士がそこにいた。
「しまった!」
「勝負‥‥天都神影流『秘奥義』神鳴斬!」
先ほどまで、冷静に対処していたマスカラードが狼狽をみせ、隙を逃すまいと剣一郎が踏み込み攻撃にでる。
エースアサルトの証である剣の覚醒紋章が強く輝いたかと思えば剣一郎の握る月詠が光の太刀筋だけを残して走った。
「まだまだぁ!」
再びフォースフィールドを強く張り、マスカラードは剣一郎の一撃を防ごうとする。
だが、星嵐がそれを許さなかった。
『これも効いてくれることを切に願います‥‥! <竜の角>発動! 受けて貰います、<竜の尾>!』
機械剣「サザンクロス」から妨害電波を発して、マスカラードのフォースフィールドの強化を打ち消す。
剣一郎の一刀を受けて、マスカラードはよろめく。
そこへ、星嵐が斬撃を与えようと接近するが闘志の炎を燃え滾らせるマスカラードは剣一郎をタックルで吹き飛ばすと星嵐を掴んで投げ、ボディプレスで潰した。
「はぁ‥‥はぁ‥‥この感覚だ。求めていたものは‥‥死ぬに相応しいこのリングの感覚!」
血を流し、息を切らせながらもマスカラードはどこか喜んでいるかのような口ぶりを見せる。
「このまま押し切ります」
伊織がキッと相手を睨むと禍々しい刀の形をしたエースアサルトの覚醒紋章が強く輝き、スキル<猛撃>が発動した。
踏み込んで一撃を放つのをマスカラードはフォースフィールドを強く張って凌ぐ。
「散れっ‥‥!」
鬼蛍をカシャと鳴らすと伊織は連続で斬撃を繰り出した。
その動きは<剣劇>[ブレードオペラ]と呼ぶべき華麗であり、無慈悲な刃となってマスカラードを斬り刻んだ。
「ごふっ‥‥見事だ‥‥だが、その力を持つ限り、そして使いこなす闘士である限り。いずれ、お前達も俺のようになる」
口から血を吐き出しながらマスカラードは能力者達を眺め、自嘲するように笑った。
「戯言はそこまでだ‥‥亡霊と踊って息絶えるがいい」
トドメとばかりに王零が<急所突き>を使った一撃を見舞う。
「くふっ‥‥ここで死ねるなら本望だ‥‥そして、この体も顔もここで眠らさせてもらう」
意味深な言葉と共にマスカラードが倒れると闘技場が地震が起こったかのように揺れ、崩れだした‥‥。
●闘技場陥落
助け合って脱出した9人は崩れ行く闘技場の姿を小高い丘から眺めていた。
UPC軍の兵士達も退却をし、被害は最小限に収まっているが、死体の回収は困難だろう。
「サント・マスカラード、その名覚えておく‥‥」
剣一郎は最後に戦った漢[オトコ]の名前を口にして、目を細めた。
キメラ闘技場で散った一人の女軍人の姿を脳裏に過ぎらせ、振り返る。
「終わりましたね。重体者が3人で止まったのは逆に救われている方かもしれません」
星嵐に肩を貸していた直人は眼鏡のズレを直しながら一息ついた。
南米に吹く風は生暖かく、南半球の気候であることを実感させる。
「それにしても‥‥最後の言葉、考えさせられますね」
直人は瓦礫の山のようになった闘技場を眺め、マスカラードの言葉を口にした。
『いずれ、お前達も俺のようになる』
戦う力を持つものは、その力を確かめたくなる。
より強くなるために‥‥。
もし、地球からバグアがいなくなったら、能力者はその強くなった力をどう使えばいいのだろう‥‥。
答えはまだ誰も出せなかった。