●リプレイ本文
●強敵[ライバル]同士
幕が上がると音楽室の用なセットではオーディションを控えた『Hot To Geese』が繰り返し練習をしている。
彼らにとってこのオーディションは千歳一隅のチャンスなのだ。
「Yasu! そこ。もうちょっとテンポ早く、な?」
「Nobu‥‥間違えたの、誤魔化しただろ」
ベース担当のHide(ヤナギ・エリューナク(
gb5107))はムードメーカーらしく仲間の様子を伺っては合わせることに余念がない。
「Hideに言われなくてもそのつもりだったよ」
Yasu(宵藍(
gb4961))はHideの言葉に反発しながらもドラムを叩くリズムをあげて、リーダーのNobu(鈴木悠司(
gc1251))を見上げた。
「いいリズムだ。Yasu。上手くなったな」
ワシワシとNobuはYasuを撫でるもYasuはイヤイヤと振り払う。
「年下扱いするなよ、僕だってこの『Hot To Geese』のメンバーなんだからね!」
「そーだった、そーだった」
からかい混じりにNobuが笑ってギターを奏でているとプチンと弦が切れた。
「張り替えたばっかだったんだけどな‥‥ま、いいや。Hide、張り替えといて」
それだけ言い残すとNobuは音楽室の外へと出て行く。
「なんか、縁起悪いよね」
「気のせいだって、本番で切れなかっただけマシだろ?」
切れたギターの弦を眺め、二人は呟いた。
「あ、やっぱりここにいた。Yasu君にゃ〜」
「煩いのが来たよ」
Nobuと入れ替わりに来たエイプ(クラリア・レスタント(
gb4258))の姿にYasuが不機嫌になる。
「未だに楽器の調整ができてないようじゃ、お前達よりデビューは俺達『Animonday(アニマンデイ)』で決まりだな」
音楽室の床だというのに側転、バク転と軽やかに決めて着地したリーダーのワイルドボア(リュイン・カミーユ(
ga3871))が挑発するように二人の前で更なるダンスを決めた。
「ただ体を動かすだけじゃ、ハートには届かないぜ?」
一瞬むっとしたHideだが、すぐに不敵な笑みを浮かべ返す。
「二人とも落ち着いて、落ち着いて、その‥‥折角のデビューのチャンスだけれど互いに全力を出し切って終えれば一番、だよね」
普段なら余裕を見せた嫌味の一つでもいうライノス(ウォンサマー淳平(
ga4736))が言葉に詰まりつつボアとエイプの二人を宥めた。
おかしいと感じながらも二人はライノスにしたがって下がる。
「そういえば、Nobuさんは?」
「ギターの弦が切れたのを任せてどっかいったよ」
「俺達が来るのがわかって逃げ出したのかもなぁ?」
Hideが不貞腐れつついうと、ボアが喧嘩腰に詰め寄った。
「ボア! もういいから、いつもの場所で練習に戻って‥‥俺は‥‥ちょっと用を済ませてからいくよ」
二人にそれだけをいうとライノスは小走りに駆けていく。
「変なライノスにゃ〜」
エイプは首を傾けて走っていくライノスの後ろ姿を見続けるも、すぐに飽きてダンスの練習を始めようとライノスとも部屋を後にした。
照明が暗くなり、場面が変わる‥‥。
●危険なカンケイ
立ち入り禁止の屋上。
‥‥とはいうものの、一部の生徒はそれを越えて出てくることもある。
禁止と書かれたことに反することは一種の背徳感のようなものがあるのだ。
「やっぱり、ここにいたんだね‥‥Nobu」
「ライノスにはバレバレか」
人気の無い屋上に二人の男が声を掛け合う。
「もう直ぐオーディションだね‥‥悪いけど、俺らがいただくつもり」
ぎゅっと抱きしめながらNobuはライノスの耳元に甘く囁いた。
「正直言って、俺はNobuと競い合いたくない‥‥だって、どちからしかデビューできないのなら離れ離れになるじゃないか」
チームメイトには見せない弱気な顔をライノスは浮かべてNobuを抱きしめ返す。
「それはそうと、キスしていい?」
答えを聞く前にNobuはライノスの眼鏡を上げて顔をくっつけてキスをした。
客席からは微妙に見えないアングルでのキスである。
「離れ離れになるとしても、追いかければいいだけだろ? 俺はもし負けてもそうするつもりだよ」
「わかった‥‥じゃあ、今度のデートで気持ちを切り替えるよ」
「忘れるなよ?」
眼鏡をかけなおしたライノスはドギマギしつつも熱っぽい視線でNobuに答え、Nobuも笑顔で返した。
そんな二人を屋上の給水塔で昼寝をしていた男子生徒(片柳 晴城 (
gc0475))に見られているとも知らずに‥‥。
●突然の事件
舞台は病院に移る。
手術中のランプが光っている間にオーディションを受けるためのメンバーが集められたのだ。
「え、えっと、そのNobuさんが病院に運ばれて意識不明の重体でして!」
いち早く連絡を取り次いで皆を呼び出したマネージャー候補のテン(張 天莉(
gc3344))があたふたとしつつも状況を説明する。
「大丈夫なのか? おい、ウチのリーダーは大丈夫なのかよ!」
ぐっと、Hideがテンの襟首を掴んで睨みつけた。
「そ、そんなことを言われましても〜。ほ、ほら、手術が終わったみたいですしっ!」
手術中のランプが消えて医者が姿を見せるが、落ち込んだ様子から誰もが察する。
『Nobuは助からなかったのだ』と‥‥。
「死んだ‥‥のか」
あまりな結果にライバルであったアニマンディのワイルドボアさえ、動けなかった。
中に案内されたメンバー達は安らかに眠るNobuを前に一層現実味の沸かない感覚を味わう。
「嘘っ! 嘘だよね? 目を開けてよ、Nobu‥‥」
Yasuにいたっては半狂乱といってもいい状態でNobuに掴みかかろうとするも、Hideが抱きしめて止めた。
「ライノス?」
静かにNobuを見つめるライノスの表情は俯いて光る眼鏡に隠されて声をかけたエイプにさえ分からない。
「本当はこいつが‥‥ライノスが殺したんだろ! 僕は見ていたんだ、二人で屋上に行くところを!」
静寂に包まれていた手術室でYasuの大きな声が響き渡り、その言葉を聴いたライノスの顔はこわばった。
●険悪な関係で
手術室で大声をだしてしまったことで、全員は今、病院のロビーに集まっている。
暗く沈むライノスと、怒りを露にするYasuは変わらなかった。
「脅したりなんかして、Yasuを殺したんだ! 邪魔だったからに違い無いんだ!」
背丈の低いYasuが、気迫でライノスを圧倒している。
そこへ、黙っていたエイプがワナワナと震えつつもYasuへと牙をむいた。
「オマエ、愚弄したな!? 今、ライノスを愚弄しただろう! 謝れ! ふざけるなよテメェ、謝れ!」
ライノスに強く惹かれていたエイプだからこそ、Yasuの一方的な言い方が我慢できなかったのである。
「言いがかりも大概にしろ! こいつがそんな事するわけないだろっ!」
エイプに刺激されたワイルドボアも何も言わないライノスの前に立ちはだかった。
「あ、あの‥‥皆さん、おちつい、て」
二組のをなだめようとテンがおろおろするも、両者のぴりぴりした空気に入りこむことなどできなかった。
「Yasu‥‥落ち着けよ、Nobuはもう‥‥戻ってこない。どんなに怒っても、どんなに泣いても‥‥」
後ろからぎゅっとHideに抱きすくめられたYasuは怒りにゆがめた顔を涙で溢れさせてHideの胸でなき続ける。
「‥‥。‥‥帰ろう。もう、時間も遅いんだ」
黙っていたライノスはそれだけいって、ワイルドボアとエイプを連れて病院を後にする。
「だって、ライノス!」
「そうだ、あんなに言われていて言い返さないのか? ライノスを疑うなんて冗談じゃないぜ」
「帰りたいんだ‥‥頼むよ、ボア」
病院の外に出たとき、逃げるような形になってしまったことに不満な二人がライノスに文句を言うものの、ライノスの苦しそうな表情を見て何もいえなくなった。
照明が暗くなりシトシトと雨の振る音と共に、場面が再び変わる。
●崩れてしまった絆
その後の二組はどうにも上手くいかなかった。
片方はリーダーの死亡、片方はメンバーへの不信感が不協和音を生み出し、心地よい音色を作ることを阻んでいる。
「嫌な予感なんて笑い飛ばさずに気をつけていればな‥‥」
Hideは最後のセッションをしていたときの事を思い出していた。
もうオーディションを明日に控えているのに楽器に触ってすらいない。
「Hide‥‥僕、もうオーディションはやめでもいいと思うんだよ。Nobuと一緒にデビューしたかったんだ」
静かな音楽室でHideとYasuは互いの傷を舐めあうように抱き合い続けていた。
「ちょっと、そこの二人‥‥今度のオーディションのプロデューサーからの連絡が来たぞ」
二人だけの音楽室に飄々とした男子生徒が入ってきて手紙を渡す。
「これは‥‥本当なのか?」
「Hide‥‥どうしたの‥‥え、これは‥‥なんで!?」
その文面にHideとYasuは愕然となった。
***
練習場として使っている踊り場で学校で行われるオーディション用の曲をワイルドボアがダイナミックに踊る。
革ジャンにダメージジーンズというラフなスタイルなだけけに、野性味溢れる動きが光っていた。
しかし‥‥。
「だめだ、だめだ、だめだ! このまま不戦勝みたいになるのも嫌だし、ライノスに疑いがかかったままなのも嫌だ!」
ラジカセを止めてワイルドボアが頭をかきむしる。
先日の事件はあくまでも『不慮の事故』としてマスコミをはじめとした関係者には処理されていた。
その分、ライバルグループであるYasuの一言がひかっかってしかたがないのである。
「そうだよ、なんであの時言い返さなかったのさ! 最近のライノスは暗いし!」
中性的な顔立ちでツインテールを揺らすエイプも不満を押し込めずに騒ぐ始末だ。
普段であれば冷静に二人を止めようとするライノスは俯き、悩んだ表情のままで何も語ろうとしない。
「あ、あのー。オーディションについて変更があったとプロデューサーから連絡がありまして‥‥」
険悪とも言える雰囲気のところにひょこっと顔を出しつつマネージャーのテンが言いづらそうにオーディションについての連絡を届けに来た。
「なんだよ、こんなときに‥‥」
ワイルドボアがテンから紙を奪い取ると、その内容に眼を走らせ、手紙を睨みつける。
「どういうことだ! ホトトギスとアニマンディを組んで一つにしてオーディションだと! ふざけるのもいい加減にしろ!」
ワイルドボアの大きな声が舞台に良く響いた‥‥。
●明かされる真実、そして‥‥
学校内にあるスポンサーやプロデューサーと面会を行う会議室に”Hot To Geese”と”Animanday”の5人が集められた。
帽子を深くかぶり、黒いスーツを着こなしているのが今回のプロデューサーであるHKである。
実のところ彼は学園の3年生としてずっと在籍し、ふらふらとしながら原石を探すというのを主義としていた。
「プロデューサー! この提案は受け入れられないです!」
「僕も無理! Yasuとなんか組めないよ!」
一番初めに反論したのはYasuとエイプの若手二人である。
「こちらが知っている情報だと、Nobuとライノスは普通の友人というわけではないということがあるんだが、ライノスはどうかな?」
HKから声を投げかけられたライノスは、びくっと震えながらも覚悟を決めた視線で前にでる。
「皆‥‥黙っていて、すまない」
「俺はNobuが好きだったんだ‥‥付き合ってもいた」
ライノスからの予想できない答えに静まりかえって聴くしかなかった。
「事故のあったあの日、会う約束をNobuとしていたんだ‥‥」
「やっぱりお前がNobuを殺したんだ!」
容赦の無いYasuのことばにライノスはぎっと唇を噛む。
「ただの会う約束じゃないよね? ライノス」
すべてを見透かしているかのような言葉がHKから投げかけられると、ライノスは肩を落としつつ答えた。
「そう‥‥デートだったんだ。俺とNobuは好き同士だったんだ、愛していたんだよ!」
今までこらえていたものを吐き出すかのようにライノスは語気を荒げる。
その場にいた全員が思わず気圧されるほどに強い思いが言葉には篭っていた。
「じゃ、じゃあプロデューサーはそのことを知っていて‥‥」
「そうだ、あれは事故だ。どちらも悪くないし、それ以上にこのことでどちらもオーディションがダメになっては彼も浮かばれないだろ?」
テンの言葉にHKは頷き、集まっている二組のアイドル候補生達を見回すように顔を動かして答えを促す。
「俺からも頼む‥‥。Nobuを入れた”Six”というグループで一緒にデビューして欲しい」
畳み掛けるようにライノスが土下座をしてYasuとHideに頼み込んだ。
「Nobuの分まで頑張らなきゃ‥‥だよね? Hide」
「ああ、そうだな‥‥頭上げろよ、ライノス」
不安げに見上げるYasuの頭をクシャリと撫でながらHideがライノスを立ち上がらせる。
「‥‥‥わかったよ。組めばいいんだろ。‥‥ハッ! せいぜいボクの土台にでもなれよ、Yasu」
エイプは最後まで納得した様子は見せずにイーっとYasuに向けた。
「Nobuも入れて6人。だからSixだ。最高のステージ見せてやるぜ!」
「そうだな、リーダー」
ワイルドボアの肩をライノスが叩き、5人のアイドル達の心が一つに固まる。
「では、改めてオーディションを行うぞ、体育館まで準備ができたらくるように」
帽子を深くかぶりなおすとHKはスタスタと会議室を後にした。
「Nobuさんを忘れない気持ちがあれば‥‥皆で上手くやっていけますよね! 最高のステージにしましょう!」
テンもどちらにつくべきか悩んでいたことが解消されて笑顔で拳を握る。
こうして、5人組のアイドルユニット『Six』は生まれたのだった。
【Fin】