タイトル:【JTFM】カリ包囲戦−Aマスター:橘真斗

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/04/26 01:47

●オープニング本文


 『2011年 1月末 コロンビアのキメラ闘技場制圧』

 この一大転機はUPCの南中央軍にとって大きな成果だった。
 ボリビアの解放に続き、着実に南米からバグアの勢力を追い出すことに成功している。
 だが、コロンビア闘技場は崩壊し、貴重な研究資料等も破棄されていることから安心はできなかった。
 大規模作戦であるボリビア解放戦からベネズエラに動きはないが、エクアドルの多数戦力が沈黙を守っているのは逆に不気味である。
 未だに密林は最前線のままだった‥‥。
 
 2011年 2月 クルゼイロ・ド・スウル基地
「エクアドルからの進軍でカリを制圧されたか‥‥」
 苦虫を噛む顔でジャンゴ・コルテス大佐は報告書に目を通す。
 闘技場の陥落を目指して全軍に指揮をしていた隙を狙っての見事な作戦といえた。
 無論、こんなことができる人物は一人だけである。
「ソフィア=バンデラス(gz0255)‥‥いや、グローリーグリムだな」
 元補佐官として、傍らにおいていた女性の名前を呟き、コルテス大佐は眉間に皺を寄せた。
「今なら、まだ増援を食い止めることができる。すぐさま傭兵とKV部隊を借り出し、カリ基地を包囲するのだ」
 手を振りかざし、コルテス大佐は部隊に指示をする。
 補給も手早くすませ、すぐさま次の戦いへ南米の戦線は動き続けていた‥‥。
 
●戦女神の騎行
 ヴァルキリー級量産飛行空母二番艦『ヴァルトラウテ』のブリッジには緊張が走っていた。
 張り詰めた空気の中で、管制官がレーダーを睨むように眺めているとカリ基地と共に敵影が反応しだす。
「進路上に敵機部隊の確認。こちらの有効射程圏内まで5000!」
「は‥‥はいっ! 各員は‥‥第一種戦闘配備‥‥お願い‥‥します」
 大きな声にびくっとしたのか艦長のビビアン・O・リデルは消え入りそうな声で指示をだした。
「復唱、各員第一種戦闘配備。KV部隊と傭兵達は出撃して警戒に当たるように!」
 そんなビビアンの指示を副艦長であるチャールズ・ハイデマンで繰り返して艦内へ伝令をする。
 ヴァルトラウテから次々とKVが出撃し、隊列を組んで飛行を始めた。
「敵機の識別完了‥‥高速攻撃型ビックフィッシュ、タロス、ヒュドラを始めにヘルメットワームも確認!」
「中々の戦力が集まっているようですな。急襲をかけてカリ基地を制圧する手並みといい、さすがといえるでしょう」
「おほん‥‥敵をあまり褒めないでください、不謹慎です」
 咳払い一つして、落ち着きを取り戻したビビアンが眉根を寄せつつ副長に釘を刺す。
「『敵ながら天晴れ』と日本の格言にありますからな、油断するよりは認めるのも必要な資質ですぞ。指揮官機の存在は確認できるか?」
「はい‥‥これは! ティターンから回線がつながります」
『Buenas tardes(こんにちわ)、UPCのお嬢さん。ボリビアに続き、ここにも来るなんてご苦労様ね?』
「De nada(どういたしまして)ご婦人。まさか、貴女がこちらに来るとは思いもしませんでしたよ」
 ディスプレイに写ったのはミス・ボリビアの姿であり、ハイデマンが皮肉タップリに相手をしはじめた。
「これ以上、戦火を広げないためにもここで貴女を討たせていただきます」
『こちらも手駒を削るのはこの辺で止めたいのよ‥‥では、行くわよ』
「敵、動き出しました! 有効射程内に入ります!」
「対空砲、ミサイル発射! KVの展開を支援してください!」
 管制官の声を受けてビビアンは指揮をする。
 戦乙女が降り立つ南米の空が激しい戦場へと変わっていった。

 

●参加者一覧

奉丈・遮那(ga0352
29歳・♂・SN
榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
如月・由梨(ga1805
21歳・♀・AA
旭(ga6764
26歳・♂・AA
風羽・シン(ga8190
28歳・♂・PN
緑川 めぐみ(ga8223
15歳・♀・ER
アンジェラ・D.S.(gb3967
39歳・♀・JG
十六夜・朔夜(gb4474
20歳・♀・ST
神楽 菖蒲(gb8448
26歳・♀・AA
エヴリン・フィル(gc1479
17歳・♀・ER

●リプレイ本文

●先手必勝
『こちらも手駒を削るのはこの辺で止めたいのよ‥‥では、行くわよ』
 ソフィア・バンデラス(gz0255)の声が開戦の合図となった。初手をとったのは能力者側である。
『先手必勝です。ツインブースト、ドロア、アタッケ、起動確認。K−02目標補足。行きなさい!』
 緑川 めぐみ(ga8223)の操るフェイルノートIIから<ツインブースト・アタッケ>と<ツインブースト・クー・ドロア>の乗っかったK−02小型ホーミングミサイルが放たれたのだ。
 10体のキューブワームを爆炎が包み込んでいくが、まだ落ちることはない。
「まずはここから‥‥叩き込むっ!」
 追い討ちとばかりにめぐみと同じフェイルノートII『ヘリオス』に乗った旭(ga6764)も同じ機体能力を使って敵の射程外からのミサイルのカーテンを張り巡らせた。
『ホント。ミサイルの動きがアニメみたいで派手だこと』
 旭の攻撃で散っていったキューブワームを横目に他人事のようにめぐみの呟きが旭の耳に届いた。
「はぁ‥‥結構、振動がくるなぁ‥‥」
 重体でありながら戦闘に参加する旭の表情は苦悶に満ちている。
 しかし、無理はしないでもやれることはやっていきたかった。
『コールサイン『Dame Angel』、カリ再攻略にて敵司令官率いる集団を攻め落とし、速やかなる平定を敢行するわよ』
 アンジェラ・D.S.(gb3967)がキューブワームが駆逐されたことを確認すると、スピリットゴースト隊と共に接敵を開始する。
 だが、バグア側もやられてばかりではいなかった。
 タロスや本星ワームがキューブワームを攻撃してきた旭やめぐみに狙いを定めて加速してきたのである。
『悪いがそうはさせん!』
 朱漆色を基調として武者鎧を思わせる細かな塗装を施している雷電『忠勝』が榊 兵衛(ga0388)の強い意志をまとってK−02小型ホーミングミサイルを足止めとばかりに撃ったのだ。
『助かったわ。このままエンゲージして交戦するわよ。一体ずつ、確実に行けば勝てるわ』
 アンジェラは兵衛に感謝し、リンクス『アルテミス』のMSIホーミングミサイルの射程まで近づき撃ちだす。
 同じ敵に向かってスピリットゴースト隊も己の持つ長距離カノンで集中砲火を浴びせていった。
「皆、すごいな‥‥」
『大丈夫ですか? 無理だけはしないでくださいね』
 激しい交戦風景に思わず息を漏らす旭に奉丈・遮那(ga0352)が常日頃と変わらない穏やかな声をかけてくる。
「ええ、無理せず危なくなったら逃げますよ。奉丈さんも一緒に帰りましょうね」
『はい』
 遮那のワイバーンMkII『ワイバーン』が兵衛が足止めを仕掛けた部隊の方へと向かい、旭は目の前の敵に傷の痛みを堪えながら集中するのだった。
 
●獅子奮迅
「相手にとって不足は有りませんなぁ。目標のナンバリング完了やわ」
 ワイズマンにのる十六夜・朔夜(gb4474)が全部隊に対して整理した情報を開放する。
 近くで交戦中なのは2つの部隊だが、長距離砲撃を主体とするビッグフィッシュへはまだ誰も動きを見せてはいなかった。
 ヴァルトラウテはフィールドを展開して直撃を防ぎつつ、カリ基地包囲戦に参加している被弾機体の回収を続けている。
『これでグローリーグリム、いえ、今はソフィアですか‥‥と、楽しめそうです』
 如月・由梨(ga1805)のディアブロ『シヴァ』はビックフィッシュ隊を迂回するように飛んでティターンに向かう。
『喰い散らかすわよ。エヴ、ついてらっしゃい』
『はい‥‥二人‥‥なら負ける気はしません‥‥』
 神楽 菖蒲(gb8448)のサイファー『レイナ・デ・ラ・グルージャ』と共にエヴリン・フィル(gc1479)のサイファー『リべリオン』が番の鳥のように空を舞う。
 狙うはヴァルトラウテに砲撃を行うビッグフィッシュが率いるヘルメットワーム部隊だ。
『さぁて、戦乙女に率いられているとは言え、まだまだヴァルハラ送りになるのは御遠慮するぜ。最後の最後まで生き足掻くのが信条なんでな‥‥スカイセイバー隊、いくぜ!』
 一歩遅れて、風羽・シン(ga8190)がシュテルン・G『アインヘリヤル』でスカイセイバー隊を率いて二機のサイファーに追随していく。
 北欧神話での『勇敢な戦士の魂』という意味を持つ愛機の名前だけに、シンとしては不安にならざるをえなかった。
 大型、小型の双方のヘルメットワームからプロトン砲が飛び近づけさせんと牽制が始まる。
 その砲撃の合間を縫うようにしてシン機は飛行し、ドッグファイトを仕掛けた。
 試作型「スラスターライフル」が火を噴き、小型ヘルメットワームの装甲をうがいていき、そこにスカイセイバー隊も90mm連装機関砲での支援を続けて着実な殲滅を心がけていく。
『ヴァルトラウテの皆さんも協力よろしゅう頼みます』
 乱戦状態に突入していくと、十六夜は自機を管制塔に情報リンク支援を続けた。
 
●戦々恐々
『邪魔ものはさっさと消えてくださいな』
 由梨機から高揚したような声が広がり、厄介なヒュドラ達をK−02で狙った。
 同じように榊機もスナイパーライフルを叩き込む。
 そんなことをしていると、横から邪魔をするようにタロスと本星ヘルメットワームにティターンが大きく間合いを詰めつつフェザー砲を乱射してきた。
 ヒュドラの1機がK−02の爆炎に巻かれ、沈む。墜ちて行くそれを背後に、由梨機、榊機を砲で捉えたティターンの顔がにやりと笑ったかのように見える。
『さぁ、グリム。余所見をしないで相手をしてくださいますよね』
『そちらこそ、邪魔をしないで貰いたいわ!』
 十式高性能長距離バルカンを撃ちだして、由梨機はティターンの装甲を穿った。
 お返しとばかりにソフィアはライフルのようなものを構えて撃ちかえす。
 被弾を双方ともするが、勢いが止まる事はなかった。
『残りのヒュドラは対応班に任せてこちらはこちらで行くぞ!』
 ティターンと由梨機の対決を邪魔させないことも踏まえて、榊機から再びK−02を放って、タロスや本星ワームを少しでも食い止める。
 遮那機も機体性能に不安を抱えつつもやるべきことをやるだけと支援射撃を中心に戦場を飛ぶ。
 タロスにいたっては練剣とシールドを構えて接近戦を仕掛けてきていた。
 ホーミングミサイルの爆風と煙を掻き分けて、翼の生えた巨人が加速して遮那機と榊機を執拗に狙ってくる。
『弱いこちらを狙われても困るんですけどね』
 遮那機は突出しないように距離をとり、ファランクス・アテナイの自律攻撃やGPSh−30mm重機関砲で弾幕をはり、その間に榊機が温存していたUK−11AAMで襲い掛かってくるタロス達をいなす。
『援護はしていく、そのうち援軍も来るから辛抱だ』
『もてばいいんですけどね‥‥』
 現状数で上回っている敵からの攻撃に機体の被害が芳しくないのか、遮那は苦笑を漏らす。
 漏らすしかなかった。
 
 ***
 
『これなら、最後まで戦えそうだね‥‥』
 旭機からホッと一息つくような声と共に射程内に収まっているヒュドラへK−02小型ホーミングミサイルが放たれた。
 爆発音が連続して響き、名前の由来となっている首をもいでいった。
『K−02は派手に撃ちつくしましたから、ここからが本番といったところでしょうか。大分減っているので、それほど苦にはならないでしょうが』
 ホーミングミサイルG−01に切り替えつつも、機体特殊能力をフル活用して、緑川機も早期殲滅を目指す。
 ヒュドラが一機、また一機と破壊されていくのを十六夜機も常に確認をしている。
『キューブワーム、ヒュドラ共に殲滅を確認やね。厄介なのがいなくなったから全力で勝負しいや!』
『こちら『Dame Angel』。ビッグフィッシュとの戦闘チームの援護に向かう』
 発破をかけるような声がワイズマンから広がると、KV達は活気付いて大空を力強く飛んでいった。

●疾風怒涛
 キューブワームとヒュドラを蹴散らし残り二つのグループに向けて能力者達の猛攻は始まる。
 面積の広い側面に回りこんでいた神楽機は十六式螺旋弾頭ミサイルを叩き込んだ。
 ビッグフィッシュの対空砲火を<フィールド・コーティング>で防ぎながら自分の間合いへとさらに踏みこむ。 
『副砲などはこちらでも引き付けますから、そのまま神楽さんは攻撃を続けてください』
『エヴ、そっちは任せるわよ。邪魔なものからまずは潰すっ!』
 相棒[バディ]からの通信を受けて、神楽機は自動追尾機銃に向かって47mm対空機関砲「ツングースカ」を叩き込んで潰していった。
 母艦の窮地にターンをするヘルメットワームの背後からシン機がソードウィングで迫って斬り裂いた。
『すぐに反転できるからって敵に背を向ける馬鹿がいるかよ』
 爆発するヘルメットワームを尻目に次の相手へとシンは動く。
 だが、外見上は常にいるものと変わらないヘルメットワームでも、性能はだいぶ高いのかスカイセイバー隊は大型のヘルメットワームに落とされていた。
『ちっ‥‥五分五分くらいか、面倒だ』
 舌打ちと共になるべく自分にプロトン砲を仕掛けてきたヘルメットワームに<PRMシステム・改>で抵抗力を高めて真っ向から突っ込み、8式螺旋ミサイルで反撃をしていく。
 シン機と増援に来た部隊がヘルメットワームと戦っている間もエヴリン機と神楽機はお互いに位置を変え、向きを変えてビッグフィッシュを攻め続けていた。
 初の連携作戦だが、二機のコンビネーションは絶妙である。
 一度離れ、旋回と共にリロードを済ませた神楽機とエヴリン機が横並びでビッグフィッシュへ迫った。
 砲塔を向け、撃墜を狙ってくる敵機をあざ笑うかのように二機は避けて、左右から挟みこむように動き、 8式螺旋弾頭ミサイルと十六式螺旋弾頭ミサイルが発射されて砲塔近くで爆ぜる。
 誘爆していくつかの砲塔が吹き飛び、攻撃機能が格段に落ちる。
『ナイスよ、エヴ』
『神楽さんも‥‥ですあとは、落ちるまで叩き込むまでです』
 それでも、残った装備で反撃をしてくるビッグフィッシュへ二機は対空砲を全方位から叩き込んで行くのだった。
 
●死中に活
『くっ、すみません‥‥』
 本星ヘルメットワームの猛攻に耐え切れなくなった遮那機が撃墜された。
 スピリットゴースト隊も回りこんできたものの、ソフィアが指揮を執り、機能的に動くヘルメットワーム達に翻弄され、つぶれていく。
『やはり、数と手の内が多少読まれている相手は厄介か』
 榊機がタロスを相手に立ち回りながら、味方への被害を鑑みる。
 確実に人が乗っている動きであるため、ソフィアの指揮能力が生かされていた。
 タロスの一機を十式高性能長距離バルカンを叩き込んで撃破までいくと、榊機は次のタロスを相手どる。
 由梨機の援護をしようにも確実に分断され、囲まれてしまう形ではどうしようもできなかった。

 ***
 
「楽しいですか? グリム? 私は楽しいですよ」
『そうね、血が騒ぐというのかしら? そんな気分よ』
 バルカンの弾幕を受けて再生を続けるティターンを眺め、由梨は次なる手を打つ。
 KV用の全長8.5mレールガン、電磁加速砲「ブリューナク」が火を噴き、再生しかけているティターンの傷口を抉った。
 だが、リロードのタイミングにソフィアも重力砲を撃ちこみ、由梨の機体を揺する。
「本当にいい勝負ができてうれしいですよ」
 強敵と出会えたことが由梨の心を大きく燃え上がらせた。
 戦闘によって死ぬとか生きるとかというよりも、ずっと戦い続けていたい欲求が由梨を支配している。
『本星ワーム、ビッグフィッシュ部隊も全滅確認やわ。タロスもあと少しやで、頼みます。遮那はんは重傷になったが無事収容されとります』
 十六夜機から戦況の報告が届いてきた。正規軍と傭兵達の損傷は軽くないが、戦況は時間が経つにつれ確実にこちら側に傾いている。
『他の戦域も人類が押してます。カリ包囲戦は成功目前いうことです』
 東西南北、陸空からカリを包囲したUPC軍と傭兵達は、その輪の中にいる敵を次々に撃破していっていた。
 よい報告のはずだが、由梨はどこか浮かない。
『‥私は、まだ負けるわけには‥‥!』
 由梨機と火線を交えながら、ソフィアが悔しげに呟く。
 コロンビアを失い、ボリビアへの干渉と攻撃に失敗した今、南米を指揮するソフィアに、もう負けは認められなかったのだ。
 しかし、補給路を断たれた今は増援の到着が遅れ、カリに駐留させていた戦力も殲滅されつつある。
「調子に乗ってミサイルを使いすぎましたか。でも、まだやれますね」
 榊機のバルカン掃射を何とかかわしたタロスだが、緑川機の弾幕と旭機のUK‐10AAMを受けて動きを鈍らせる。その隙に、弾丸を放ちながら突っ込んで来たシン機の剣翼が襲い掛かった。
『ソフィア様! お逃げください!』
 傷ついたタロス2機がティターンを護るようにしながら、じりじりと高度を上げていく。
『逃げるなど‥‥!』
 仮に負けを認めても、撤退することすら困難だった。付き纏う由梨機にフェザー砲を放つソフィア。しかしその瞬間、背後から回り込んでいたアンジェラ機がリンクス・スナイプを発動し、ティターンの腹に弾丸を撃ち込んだ。
 すかさずバルカンを撃ち突進して来た由梨機の前に、タロスの1機が立ち塞がりティターンに代わって引き裂かれる。
『ヴァルトラウテから報告や! 包囲網を抜けたフォウン・バウがこっちに向かっとります!』
 慌てた様子の十六夜機の報告に、菖蒲が眉を寄せた。
 タロス上方から迫るエヴリン機のエニセイ掃射に合わせ、側面から螺旋弾頭ミサイルを叩き込む。
 爆炎の向こうに見えた黒い点が、みるみるうちに大きくなっていく。
『フハーッハッハッハッ! スーパーバグアのお出ましだ!』
 傭兵機の周囲を飛んでいた正規軍機を蹴散らして、高速のフォウン・バウが高笑いとともに戦域に乱入してきた。ティターンに集中していた傭兵機が迎撃のため散開する。
『シェアト(gz0325)?』
『喜べ! この俺様が助けに来てやったぞ! 今のうちにさっさと逃げるんだな! ハァーーーハッハッハッハ!!』
 2機のタロスが墜ちるのを見ながら、ソフィアは暫く沈黙した。
『まさか‥‥あなたに助けられるとは。誰の指示かしらね‥』
 ソフィアの声にはただ、カリを死守できなかった悔しさだけが滲んでいた。
 撤退の動きを見せたティターンを傭兵機が止めようとするも、フォウン・バウが邪魔で追い付けそうにない。
「また、邪魔が‥‥」
『こちらも‥‥ゼオン・ジハイドを相手にする戦力は‥‥ないです。敵の大将を逃がすのは惜しいですけど‥‥深追いは禁物、だと思います』
 由梨が舌打ちすると、ヴァルトラウテ艦長のビビアンが冷静に自己の判断を述べた。
『この勝負‥‥預けるわ』
 苦々しくソフィアは言い残して、フォウン・バウが強引に切り開いた道へと、ティターンを退かせるのだった。