●リプレイ本文
●ファーストインパクト?
「それでは今回の講師でもある、Alpの皆さんに来てもらいます。皆さん、拍手でお迎えください」
ライディ・王(gz0023)がキッチンスタジオの前で呼び出すと、アイドル達が拍手に迎えられて入ってくる。
「今日は何気なくもらっておるものに手間暇かかっていることを知って貰えればと思ってての。よろしくじゃ」
「お料理イベントは久しぶりだから楽しみだよ、今回もよろしくね」
先ずはしゃもじにサンダル、着物という格好の秘色(
ga8202)と元気いっぱいな椎野 のぞみ(
ga8736)が挨拶をする。
「今日はせっかくの機会ですから楽しんで行きましょう」
「俺様は料理ってあんまりやらないんだよな。機械いじりは得意なんだけどよ。そんな奴らもいるだろうし、一緒に学べりゃいいと思っているぜ」
続いてにっこりと笑顔を見せる天戸 るみ(
gb2004)と自信満々にサムズアップするテト・シュタイナー(
gb5138)が挨拶をする。
「お菓子を作るのは楽しいの。ファリスも皆と一緒に楽しんでクッキー作りをするの」
「こんにちはなのっ! ユウはゴシパンAlpのユウだよ! 今日は仲良くしてねっ☆」
ファリス(
gb9339)とユウ・ターナー(
gc2715)が揃って可愛らしく挨拶をすませた。
「こげた料理を出して、『愛情入れたから食べて』はちがいます! おいしく食べてもらいたいから、おいしく作りたいんです」
「愛情を注いで欲しいからってむりやり食べさせてはいけません! 『料理は愛情』それは一方通行ではなく交換こなのです!」
気合いのはいったセラ(
gc2672)の言葉に思わず会場から拍手があがった。
「でも、先ずは楽しくいこうね!」
そして、最後に毒島 風海(
gc4644)が挨拶をする予定だったのだが、姿がない。
「あれ、ふみさーん?」
ライディがキョロキョロと見回しているとシュコーシュコーという呼吸音と共に風海が姿を見せる。
映画の悪役のようなガスマスクに猫耳フードというアンバランスな姿は間違いなく不審者だ。
「謎のガスマスクAlp、毒島風海です。新人のためか警備員と少しもめて来ましたが、どぞよろしく」
「そ、それじゃあ早速はじめたいと思います!」
『揉めた原因はそこじゃないだろ』と誰もが突っ込みを入れたかったが、ライディがごまかす。
掴みはある意味でバッチリだった。
●基本を抑えて
「いろんな形のクッキーが出来て楽しいの。みんなも自分が好きな形の型を使って、くり抜いて作ってみると良いの」
「生地を作るのも簡単じゃからの。数を作って何度も焼いてコツをつかむとよいぞえ」
ファリスと秘色が小麦粉、卵、バターなどを混ぜて生地のつくり方から見せる。
「ポイントははじめからアレンジはしない、下準備をしっかりする、材料を少しずつ混ぜることなの」
小さいながらも手際よく準備をしていくファリスの姿に同い年かやや上の生徒達は驚きと感心の声を漏らしていた。
型抜き用にステンレス製のハートや星、ウサギの形をしたものがずらっと並べられている。
「後は型抜きをするだけなの」
「大きめの型を使えばあとで文字をチョコレートで書けたりできるのでシンプルなものでも十分活用できるぞ」
見本を二人で見せていく姿は子供向け料理番組に近いかもしれない。
「はい、ではこちらはあちらと同じような生地を使いますが、棒状にします」
別のテーブルでは天戸が生地を棒状にころころと転がしていき、さらにラップできゅっと締め付けるように包む。
「こうすると綺麗に輪切りになるんですよ?」
にこっと微笑みつつ天戸が包丁を入れると言葉通りロールケーキのように生地が仕上がった。
「チョコとプレーンの2色の生地を重ねて丸めて渦巻き柄にしたり、長方形の生地を重ねてチェック柄にしたりできるので彩りを凝りたい方にもお勧めですよ」
簡単にちょっと変わった形にできるクッキーのアレンジ方法にメモを取る生徒が多数いる。
やはり『少し特別』なものをあげたいというのが正直なところなのだろう。
「なぁ、これ‥‥こんな感じでいいのかな?」
「えっと、搾り出しでしたっけ? そんなぐらいでいいと思いますよ。あんまり量が多すぎると焼き加減が難しくなりますし」
テトが生クリームを絞るようにむにゅっと搾り出したクッキーの大きさを天戸は確認した。
「ふーむ、こんな感じでいいのか‥‥。有難うな! というわけで、お前ら! こんな風にやればいいんだぞ!」
今さっき教えてもらったというのにどこか得意げでテトが生徒達に搾り出しクッキーの見本を見せ続ける。
同じようににゅるっと出して綺麗に切ろうとするも上手にできない人も何人かでてきていた。
「ほら、こーだよ、こう! やってみると、結構楽しいもんだなぁ。菓子作りってーのは」
上手に形を作ろうと何度も試して数を作っていくテトの姿は年よりも幼い少女のようにはしゃいでいる。
♪〜〜
室温でやわらかくしたバターをほぐせー♪
砂糖と卵を入れるんだー♪
小麦粉加えてチョコチップー♪
オーブンシートにちょちょいと盛って焼き上げろー♪
〜〜♪
テトが天戸に説明を受けていると、キッチンに歌声が響く。
セラが歌に乗せてチョコチップクッキーを作っているのだ。
絵描き歌があるように料理も歌として覚えるのは効果的なのか、生徒達のウケはいい。
「余熱で暖めていたオーブンの準備もできたかのぅ。ほれ、失敗を恐れずできたものからやいていくのじゃぞ」
オーブンの準備をしていた秘色が声をかけるとおっかなびっくりしながらも生徒達は自分達の作ったクッキーをいれていくのだった。
●やっぱり変り種もね
「あ、ライディさんもついでに奥様の為に作りませんか!」
「えっと‥‥はい、混ざります」
逃がさない笑顔でのぞみがライディの肩をつかんで生徒達の輪の中へ引き込む。
「はい、それではボクの授業を始めようと思います。使うのはこの『ホットケーキミックス』です」
のぞみが手をひとつたたいて説明をはじめると「えーっ」という声があがった。
だが、その声にのぞみは臆することなく手際よく、ホットケーキミックスの中に砂糖。と牛乳、バターなどを混ぜていく。
「その『えー』の答えは完成後ね!」
にっと笑うのぞみの手の中でホットケーキミックスがボロボロとしたクッキー生地にしあがっていく。
「もっと、どろっとした感じになるかと思いましたけど、結構きれいな形になるんですね」
「そうですよー。お手軽で買いやすい材料ですから、皆さんもおうちでチャレンジしてくださいね」
キジの中にコーンフレークを混ぜて適当にこねる。
麺棒で伸ばさずに手でこねていくやり方は自分でもできそうだという印象を男子生徒たちに与えた。
「あとはこの分量なら9等分くらいに手で大まかに形をつけて、170℃に予熱しておいたオーブンで焼けばできあがりだよ。さぁ、材料はあるから実践してみよっか。何事も慣れだよ」
「おにーちゃん、これ、泡立ててみない?」
「おねーちゃんはどんな形で絞るの‥‥?」
ユウの担当テーブルではユウが積極的に生徒の輪へと混ざってメレンゲを使ったサシュワのクッキーを作らせる。
卵白と粉砂糖だけを使うメレンゲクッキーは見るのもはじめてて、戸惑う生徒も多いということもあって、作業を時折任せたり、絞り方をチェックしたりとパタパタと楽しそうに顔をだしていた。
「全粒粉とドライフルーツのクッキーのほうはどうかな? おにーちゃん、バターとお砂糖がもったりするまでまぜてる?」
生徒の半分は小麦粉を全粒粉に変えたものをベースにドライフルーツで甘みをつけてるのでとってもヘルシーなクッキーに仕上がるのである。
「おねーちゃんは生地とドライフルーツを混ぜ混ぜしてねっ☆」
ひょこひょこと人の間から身を乗り出して笑顔で作業をお願いしていく。
講師というよりは本当に妹として手伝ってもらうという空気で満ちていた。
『まず常温で戻したバターを混ぜ、砂糖、はちみつ、塩を加えます。こう、切るように混ぜるのがポイントです』
ガスマスク姿のまま、コーホーという呼吸音と共に風海は冷静にそば粉クッキーの作り方を教えている。
彼女の姿からして怪しげな実験のようにもみえなくもないが、やっていることは実に普通な料理教室だった。
『そこで豆乳を投入‥‥いや、洒落ではありませんけど、豆乳は一気に入れず、数回に分けて入れるのがポイントです。そこにそば粉と白胡麻を入れ混ぜましょう』
砂糖は甜菜糖(てんさいとう)と呼ばれる寒冷地で育てた砂糖をつかったり、植物性と動物性油を半々に使ったりと体を考えたこだわりの食材がいたるところに使われている。
『そば粉に多量に含まれるルチンは肌の老化予防、美白に効果があり、ビタミンCの吸収を助け、血行を良くする効果があります』
使われる材料についての説明をこまめに入れ、一作業ずつメモをとる時間を作りながら丁寧に教える風海のやり方は怪しげな雰囲気とミスマッチながらも生徒には好評だった。
●楽しいお茶会
あまい香りのするクッキーと、暖かい紅茶やコーヒーが用意されて試食会が始まる。
もちろんすべてがすべて成功というわけではないが、それでも自分達ががんばって作った物を食べて話す時間は楽しいものだ。
時期も時期ということもあって、話題はやはりお返し相手に関することになる。
「テメェ等は、バレンタインでいくつ貰った? 俺様は‥‥プライベートだと一個も貰ってねーんだよなぁ。‥‥まぁ、女だから当然か?」
「‥‥で、渡す相手は本命にかえ?」
湯のみでお茶を飲みつつ興味津々な目で秘色と不良っぽく絡むテトが生徒達に尋ねると生徒達は顔を赤くしてうつむいてしまった。
「若さとはよいものじゃのぉ‥‥」
ずずっとお茶を飲みクッキーを摘む秘色は初心な反応ですべてを見抜いたように納得する。
「とりわけバレンタインのお返し目的の男性の方々になんですけれども。バレンタインの3倍の値段のものをって言われますが、あれは語弊だと思います」
天戸の方はやや熱っぽく話を切り出した。
自ずと男性陣の視線が集中するも、照れることなく天戸は続ける。
「『3倍の気持ち』というのを具体的に形で表したら『値段』となったんだと、そう思ってます。だから、せっかく込めるなら3倍の値段でなく3倍の気持ちにしましょう」
「セラの言った愛情の話も忘れちゃダメだよ♪ 三倍の気持ちを込めても美味しくなかったらダメだからね♪」
「まぁ、三倍の気持ちを考えるとこだわって自然と三倍の値段になってしまうかもしれませんけど‥‥目的と手段をはき違えないでくださいね」
パチパチと拍手が送られると熱く語っていたことが恥ずかしくなったのか天戸が赤くなって座りこんだ。
「ユウちゃんのメレンゲクッキーシュワシュワしてておいしー♪ セラにも作り方教えて?」
「うん、今度は一緒にお菓子作りしよーね☆」
年の近いユウとセラがキャピキャピとクッキーを食べては感想を言い合う姿は見ているものを和ませる。
「ホットケーキミックスでもこんなクッキーができるように、大事なのは材料や過程ではありません。好きな人に食べて欲しい、その心が大事なんです! そこに正しいレシピが加われば、それは世界で一つの美味しいものになるんですよ!」
のぞみのいうホットケーキミックスのクッキーはパリパリとした食感のあるいいものに仕上がっていた。
手軽に買える食材でもこれほどのもののができるのかと生徒達は驚いている。
「クッキーを焼いて渡す、それだけでも楽しいと思います。でも、たとえば焼いたクッキーと一緒に好きな人の為にコーヒーや紅茶を探し出して、好きな人と一緒に飲みつつクッキーを食べるのも、また良いものじゃないんでしょうか?」
「俺様も、渡したい相手が一人いるからな。出来るだけ美味いクッキーを作れるようになりたい所、だぜ」
ぼそりとしたテトのつぶやきは楽しいお茶会の空気の中に静かに埋もれていくのであった。