タイトル:Impalps感謝祭マスター:橘真斗

シナリオ形態: イベント
難易度: 普通
参加人数: 19 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/11/25 08:04

●オープニング本文


「今年の夏はコミック・レザレクションには参加できませんか」
「そうですね。さすがに大きくなりすぎてしまいました」
「ラスト・ホープからも避難指示がでていますから、今後は活動自体も縮小せざるをえなくなるかもしれません」
 渋い顔をする米田時雄を前に秘書はスケジュール帳を開いて今後の計画を練り直している。
 赤や青のカラーで修正が多く、大変さがすぐに分かった。
「そうなりますかね‥‥では、ここは私たちImpalpsだけでイベントを別口に行いましょう。ファン感謝祭も踏まえて出し物をする方向ですかね」
「分かりました。ラストホープの事務所はライディ君に預けて、今後は展開しましょう。とはいっても、長くは続けられないでしょうけれどね」
 米田はため息と共に新聞にのる戦争の激化の情報を眺める。
 戦争が佳境に入ってきたとなれば能力者アイドルたちも本職が忙しくなるということだ。
 スケジュールの調整は難しくなる、最悪のケースもあるのだが、そこは考えたくはない。
「彼らのやる気にもよりますが、一時活動凍結も考えないといけないでしょうね」
 秘書の方も手塩にかけてきたグループの本格的な活動停止を考えなければいけない状況を歯噛みする。
「とりあえずは、この夏の感謝祭。ファンとの交流も含めての楽しいイベントにしましょう」
「分かりました。この件は最優先で手配します」
 米田の笑顔を受けた秘書はスケジュール帳を閉じると凛とした声で答えるのだった。

●参加者一覧

/ リュイン・グンベ(ga3871) / 葵 コハル(ga3897) / 秘色(ga8202) / 加賀 弓(ga8749) / 大和・美月姫(ga8994) / 終夜・朔(ga9003) / 瑞姫・イェーガー(ga9347) / イスル・イェーガー(gb0925) / 嵐 一人(gb1968) / 沖田 神楽(gb4254) / 宵藍(gb4961) / ヤナギ・エリューナク(gb5107) / 禍神 滅(gb9271) / ファリス(gb9339) / エイラ・リトヴァク(gb9458) / 鈴木悠司(gc1251) / ユウ・ターナー(gc2715) / 秋姫・フローズン(gc5849) / 黒樹 怜(gc7789

●リプレイ本文

●振り返れば色々
 開場前に飲食スペースに立てる『おかんの店』の設営や仕込みの方をリュイン・カミーユ(ga3871)と秘色(ga8202)が行っている。
「気がつけばImpalpsに加入して、もう少しで1年‥‥時が経つのは早いものだ」
「わしも所属してから八ヶ月程じゃが、随分と濃い時間を過ごした気がするぞえ」
 双方とも2011年に入った同期とも言える間がらで、その縁もあってか今宵店を構えることになったのだ。
「秘色母様、ファリスにもきちんと教えて欲しいの‥‥せっかくなら美味しいのを食べて貰いたいの」
 浴衣をたすきかけしたファリス(gb9339)が秘色に駆け寄ると見上げてくる。
「おお、そうであったのぉ。基本は愛情じゃが‥‥技術的なことをいうならば強く押し付けずに形を整えるには回転させることじゃの」
 優しい瞳で秘色はファリスをみると作り方のレクチャーをしていく。
 手本をしめし、真似させ、そして手を取っていく姿は『おかん』の二つ名に恥じないものだ。
「おにぎりといえば具の方でアイディアがあるのだがな。我としてはチーズおかかとキムチの中辛と激辛をな。案ずるな具は我がもって来ている」
 そんな二人にしたり顔でリュインが瓶詰めやらタッパに入った具を置いた。
 
 ***
 
「コミレザ出演はナシかぁ‥‥でも大規模作戦もあったし自分の分も準備するとなったら、それこそ過労死フラグだしまー良かったカナ? けどコレじゃあサークル参加してんのと大差ないねー」
 たははと葵 コハル(ga3897)が笑いながらダンボールをブースに置いた。
 中に入っているのは水筒やら木製バットなどサンタクロースが子供に配るのではないかと思うものの数々である。
「ざ、在庫処分じゃないからねっ!」
「誰もそんなこといってねーからさ」
 視線を感じたコハルが言い訳がましく噛み付いているのはエイラ・リトヴァク(gb9458)が苦笑を返した。
 エイラは自分をモデルにしたゲームキャラクターである『オルガ・ユーティライネン』のパイロットスーツ着用で対戦準備をしている。
 対戦はフォーゲルマイスターポータブルと呼ばれる対戦ロボットアクションゲームだ。
 ゲームセンターで能力者の乗るKV[ナイトフォーゲル]が操れることから人気がでて、現在ではアニメ化までされている。
 現役アイドル達がキャラクターのモデルをしていることもあってその人気はロボット好きだけにとどまらないのが現状だ。
「まぁ、そっちはそっち、こっちは格ゲーの方をやるけどねー」
 コハルは気分を切り替えて自分の担当をするゲームをセットしてコンピューター相手にウォーミングアップを始める。
 こちらも数年前から同人ゲームからコンシューマーへと移植もされた格闘ゲーム『タワー・オブ・マーセナリー』だ。
 コハルもまた自分をモデルしたキャラクター『コードズB』でのハンディマッチ戦をするのである。
 両者とも自分のキャラには思い入れがあり、重ねてきた仕事の成果だった。
 今日は着てくれる人に楽しんでもらうために、二人はそれぞれの趣向で挑む。

 ***

「アイドルとして久しぶりのお仕事ですね。最近は本当にお仕事に間が開くことが多いです」
「あ、ここでいいですか?」
「はい、ありがとうございます」
 写真集を並べ終わった黒樹 怜(gc7789)に加賀 弓(ga8749)は柔らかな笑みと共に頭を下げた。
 テーブルの前には写真集の他にも団扇や抱き枕の存在も見えている。
 2008年の5月にアイドルとしてデビューして、様々な仕事にかかわってきた弓の軌跡ともいえるものたちだ。
「なんか、いろいろやっているん‥‥ですね」
「ええ、気がついたらいろいろやっていました。この年でアイドルなんて変と思ったこともありますけど、今は楽しくがんばっていますよ」
 今日の弓も写真集の表紙と同じ和風ドレス着用でやる気十分である。
「傭兵の仕事がはじめてなんですけど‥‥イメージ変わります」
 黒樹は素直に驚きと関心の言葉をもらした。
 異星人との戦闘に借り出される傭兵の知られざる一面を垣間見た気さえする。
「ふふふ、でもここもきっとある意味戦場ですよ」
 弓が意味ありげに微笑むとライディ・王(gz0023)が二人の元にかけてきた。
「黒樹さん、そろそろ入場ですから中の人員整理の用意お願いします。今も入り口に人だかりですから押し込まれるとひどいことになりますから」
「わかりました‥‥すぐに、行きます」
 黒樹は弓に礼をするとライディと共に他のスタッフと合流しにいく。
 遠ざかる二人の背中に弓は手を振って見送った。

●Live On!
 会場内にすえつけられたライブステージは開演からライブイベントを入れているためステージは犇き会うほど人でごった返している。
 その間にも各ブースでアイドル達が出し物をしたり、給仕をしたりしているのだ。
『あつい中、ようこそ。今日は最後までお楽しみくださいね。あっ、でも熱中症にはくれぐれも気をつけて下さい』
 英国の新米新聞記者か少年探偵を思わせるパンツにベストスタイルの大和・美月姫(ga8994)がMCとして壇上にあがり笑顔を振りまく。
 モデル経験もあることもあり、男装もしっかりと決まっていた。
『一曲目はビーストマンユニットでお送りします、朔さーん』
『はいですの。この歌は私が一番好きな歌、そして私の一番の思い出‥‥』
 いつもの黒服ゴシックロリータ姿で猫耳をピコピコさせて終夜・朔(ga9003)がステージに上がれば黄色い声援が飛ぶ。
『世界は今本当に大変な事になってるけども‥‥』
『諦めないで‥‥』
『希望を捨てないで‥‥』
 響いていた声援はなりを潜め、静かに朔の言葉を待っていた。
 彼女の言うように平和なお祭りをしているようだが、世界は日本はバグアの侵略から脱するために戦っている。
 ここではないどこかで傭兵たちが立ち上がり命を懸けて、平和を勝ち取ろうとしていた。
『希望を胸に、想いを胸に‥‥』
『聞いて下さい、Desire‥‥』
 ゆったりとしたピアノの旋律をBGMに二人は歌い始める。
 ”願望”という名の詩を‥‥。

 ――Desire――

♪〜〜

 Light of hope(希望の光)
 Poetry of wind(風の詩)
 I wish the prayer(私は祈り願う)
 Your safety(貴方の無事を)
 Your return(貴方の帰りを)
 Even if you can do only the praying thing(譬え祈る事しか出来なくても)
 If it is possible to become your power(貴方の力に成れるなら)
 It keeps praying(祈り続けよう)
 It keeps thinking(想い続けよう)
 I think you who loves to be a mind(愛する貴方を心に想い)
 
 〜〜♪
 
 すべて英語の歌詞ではあるものの、賛美歌に近い響きに静かに誰もが聞きほれた。
 歌っている途中で感情の高ぶった朔が真紅の髪を揺らして薔薇の紋章を輝かせる。
 幼い印象から大人っぽさを感じる雰囲気さえ身にまとっていた。
 合成でも早着替えでもないその演出は静かだった会場におぉという静かな声が漏れる。
 その高ぶる空気をそのままに歌は続いた。

 ♪〜〜

 Light of love(愛の光)
 Poetry of the earth(大地の詩)
 I think and fight(私は想い戦う)
 Your voice(君の声を)
 Your face(君の顔を)
 Even if far away now(譬え今は遠く離れていても)
 If it is possible to think of the thing that it can meet you(君に逢える事を思えれば)
 It keeps fighting(戦い続けよう)
 It keeps thinking(想い続けよう)
 I think you who loves to be a mind(愛する貴方を心に想い) 
 
 〜〜♪

 誰かに想いを伝える歌らしく朔と美月姫が互いに向き合ったり、ファンの方に向いたりと自らの思いを出しきる。
 歌が終わって二人が礼をすれば暖かい拍手が捧げられた。

●初挑戦!
「私たちが‥‥作った‥‥ドラマCDです‥‥ぜひお手にとって見てください‥‥!」
 体のラインが強調された黒い戦闘服に身を包んだ秋姫・フローズン(gc5849)が道行く人に声をかける。
 しかし、中々立ち止まってはくれなかった。
「根気よく、いこう‥‥」
「うん」
 沈んだ顔をしている瑞姫・イェーガー(ga9347) の肩を相棒であり、夫でもあるイスル・イェーガー(gb0925) が叩く。
 今はまだアイドル候補生ポジションの瑞姫と秋姫は他のアイドル達と知名度の部分で負けている。
 しかし、情熱は負けていなかった。
 脚本を必死で瑞姫が考え、秋姫と協力してもらったオリジナルのドラマCDなのである。
 ストーリーは露天商とメイドを掛け持ちしている冥夜という少女があらゆる金属を盗む『怪盗シルキーキャット』となって悪の組織と戦いあうものだ。
 タイトルもずばり『怪盗シルキーキャット』。
 瑞姫はそのシルキーキャットのコスチュームでもある頭にゴーグル・キャミソール短パンで露出度高め肉球付きブーツ、更には猫耳という姿だ。
 ただし、大胆不敵で陽気な設定とは裏腹に瑞姫はションボリしている。
「ったく、CDデッキくらい用意してCDの一部でも流せばいいだろ」
 そんな3人の前に口の悪い赤髪のスタッフがCDデッキをセットしてCDの1部分をリピートをかけて流し始めた。
 秋姫と瑞姫が役になりきり、シルキーキャットの狙う特殊なレアアース『ダークアース』を奪い合う戦闘パートが流れる。
「ほら、今の瑞姫はシルキーキャットなんだからさ、もっと陽気に、ね」
「そうだね、ごめん。スタッフさんありが‥‥」
 瑞姫が顔を上げたときにはスタッフの姿はなくCDから流れる掛け合いに興味の引かれた人たちが立ち止まってくれた。
「お買い上げ‥‥ありがとう‥‥ございます‥‥」
 1枚目が売れたとき、何ともいえない気持ちが溢れてくる。
「ふにゃーはっはっはーお前達のハートはいただいたにゃ」
 思わず瑞姫は役になりきりポーズを決めるのだった。

●Heat Up!
 ステージで静かなメロディが流れているとき、ステージ裏では円陣を組む3人の男女の姿がある。
 黒のパンクなつなぎを腰まで脱ぎ、中に破れた黒いTシャツ身を包むヤナギ・エリューナク(gb5107)がメンバーの顔を確認しつつ円陣を組んだ。
「久し振りのステージ、頑張っちゃうぞ☆」
「久々のライブ! 超楽しみ!! 集ってくれた皆も、俺達も楽しんで常に笑顔を絶やさず明るく元気に! それが皆にも届く様に行くよ!」
 赤いチェックのスカートに、白で切りっ放しで安全ピンが沢山付いたシャツ、スカートと同様のタイという姿のユウ・ターナー(gc2715)に黒いパンク衣装の鈴木悠司(gc1251)も気合が入っている。
 3人は常日頃から仲がいいので、今回『Triangle』というバンドを組んだのである。
『『3.2.1.GO!』』
 暗がりのステージにあがると3人は全員で声をそろえて声を上げた。
 ステージがライトアップされ、楽器とマイクを持った3人のライヴが始まる。
 
 ――String――

 ♪〜〜

 駆け出した想い
 交差する気持ち

 重なる言葉、僕の糸
 今リンクする想い

 きっとキミに逢いたかったんだ
 ずっとキミを待っていたんだ

 〜〜♪
 
 間奏に入るとベースのヤナギとギターの悠司が、背中合わせの演奏をステージのセンターで派手に行う。
 美月姫と朔のデュエットとは打って変わった激しいロックにステージを見にきた観客達は大いに盛り上がっていた。
 
 ♪〜〜〜

 駆け出した想い
 どうして止まらない?

 奏でる音、僕の糸
 今動き出すこの気持ち

 きっとキミに逢いたかったんだ
 ずっとキミを待っていたんだ

 この広い青の下(もと) 何処かで繋がるキミとボク
 今、駆け出し伝える想い、キミに響け!

 〜〜♪

 ラストの『キミに響け』のフレーズを力強く、ファンに届けれるようにユウは歌う。
 自分もファンもドキドキするような出だしから、フィニッシュまで想いを込めて歌いきったユウに口笛や拍手が贈られた。
『おにーちゃん、おねーちゃん、ありがとう! まだ、ライブは続くから最後まで楽しんでいってね! ユウからのお願いだよっ!』


●身近にアイドル!
 ステージで熱狂している人がいる一方、体験ブースも盛り上がっていた。
 中でも注目されているのは撮影会を行っている禍神 滅(gb9271)と宵藍(gb4861)である。
 Impalps内の数少ない男性メンバーではあるのだが、集まっているのは女性よりも男性の方がやや多く、女性も平均年齢が高い。
 整理券を事前配布した上での挨拶と撮影がこれから始まろうとしていた。
 午前の部の整理券はかなりはけているため、午後の部も期待できそうな勢いである。
「皆さ〜ん、僕は禍神滅といいます。今日は楽しんでいってくださいね〜」
 くるりと一回転して挨拶をすると長い髪が揺れて小動物のような愛らしさを醸し出した。
 水兵服の下にはスクール水着を来ているため、脱ぐ演出だってできる。
 なお、注意しておくが滅は男だ。
「恥ずかしいですけど、ご希望があれば水着もOKです」
 俯いて少しし上目遣いで滅がいうと、野太い声があがる。
 ここにいるファンにとってどうやら性別などというものは飾りのようだ。
「なんか、怖いな‥‥整理券を配布して置いて良かったかも」
 宵藍は濃いファンの勢いに圧倒されている。
 衣装の方は格闘ゲーム「タワー・オブ・マーセナリー Impalps」の自分をモデルにしたキャラクターの「ロー」が着ているアシンメトリー(左右非対称)の中華衣装にスポンジ素材のヌンチャクだ。
 細身で童顔なので年齢どころか性別も間違われそうだが、れっきとした成人男性である。
「シャオチャーン、会いたかったですよ〜。握手お願いします」
「うわ、一番乗りお疲れさん」
 宵藍を愛称で呼んだのはワカメのようなロングヘアーでぐるぐる眼鏡の女性だった。
 握手に宵藍が答えてあげると感動に体を震わせている。
 男のファンばかりと思っていた宵藍にとっては意外でもあり、嬉しいことでもあった。
「これからも応援をよろしく」
「はい〜、映画とかもチェックさせて貰いますね〜」
 ぺこりと頭を下げた女性は後ろの人と場所を変わる。
 スタッフが整理するほどの列を眺めた宵藍は両手で頬を叩き気合を入れ直すのだった。

●Rock You
『ステージに来てくれてありがとう』
『ステージがあるなら、そこで演るのがミュージシャンてものだ。新曲も引っ提げてきたぜ!』
 三番手にステージに立ったのは沖田 神楽(gb4254)と嵐 一人(gb1968)のジーンズを中心にコーディネートされた二人だ。
 レザーのフライトジャケット、空色のキャミソールにデニムのジーンズという姿でカッコよく決めている。
『それじゃ、私と一人の曲『WIND OF HOPE』行くぜぇーーー』
 ベースを手にやや震えるのをごまかすかのように大きな声を上げてマイクパフォーマンスで嵐をリードした。
 嵐はいつもの赤と黒のラインの入った白いジーンズをボトムに、トップは夏らしく素肌にボトムとおそろいのベストである。
 持ち前のギターテクを披露しながら投げキッスを贈るとキャーと黄色い声があがった。

 ――WIND OF HOPE――

 ♪〜〜

 風になって走れ
 あの空へ向かって
 遮るもの全て吹き飛ばして

 暗い道に迷い
 行く手見失って
 心 闇に閉ざされそうな時

 ふと気付くこと
 背中押す力
 西からの乾いた風

 そうさどんな時も
 昨日からの風は明日目差し駆け抜けてゆく
 両手広げ風を受け止めたなら
 夜明けの向こうまで突き抜けていけ

 風になって走れ
 あの空へ向かって
 遮るもの全て吹き飛ばして

 希望の風は必ず届くさ
 あの空の下 お前の元へ

 〜〜♪

 ウェスタンな雰囲気のロック。前半は抑え目だが中盤から激しくなっていき観客の盛り上がりも大きくなる。
 ベースを初めて扱う神楽も嵐との練習の甲斐あってか中々にそろった演奏を魅せていた。
『私だって、出来るってトコ判って貰えたかな』
 歌い終わった後に汗を拭いつつ問いかける神楽へ拍手が返って来る。
『ここでいったん休憩だ。お昼からまた楽しんでくれよ!』
 嵐が締めの挨拶をして締めくくり、ライブが一時終了となりお昼時間がやってきた。
 
●イートインで
「よく来たな。汁物はどうだ?」
「あ、貰います。黒樹さんも注文してください。僕がおごりますから」
「そうですか? じゃあ、豚汁とオススメのものを適当にお願いします」
「分かりましたの」
 昼食時間で込み合う中、スタッフでもあるライディと黒樹は見回りも兼ねて『おかんの店』を尋ねていた。
 秘色とファリスが注文を受けた段階でおにぎりをその場で握って用意してリュインが汁物をよそって会計をするセルフサービス形式である。
 すでに行列ができているものの手際よく3人がまわしているためスムーズに流れて混乱はないようだ。
 浴衣や割烹着姿の3人を写真で撮る人もいて盛況さが見て取れる。
 もっとも、キラキラした笑顔で「さあ買え」と脅すようなオーラを出すリュインはどうかと思ったライディだったが、喉の奥に言葉を飲み込んだ。
「おかかとキムチ、豚汁、待たせたな」
「一生懸命握ったの。ちょっと形が悪くなったけど、味はファリスの保証付きなの。美味しく食べて欲しいの」
「ありがとうございます」
「しかし、あれだな‥‥ここで聞いていたが『Wind Of Hope』とは面白いタイトルを歌う」
「僕も驚きでしたよ。あ‥‥列が詰まるのでまた後でお話しましょう」
 黒樹が注文の品を受け取っているとリュインが意味深な笑みでライディを見つめてくる。
 席に移動して二人が食事をしている間も「らっしゃい! 何を握るかえ?」という秘色の威勢のいい声が良く響いていた。
「ライブすごかったです。本格的でびっくりしました」
「ステージに立つ人は楽器をやっていたり歌を歌ったりしている人もいますけど、Impalpsになってからはじめたという人も多いんです。日々の頑張りと真剣な姿勢の賜物ですね」
 ライブを見ていた黒樹は予想を遥かに上回る完成度に簡単な感想しかいえないでいる。
 ライディもこの業界に関わってきてはいるものの、素人同然だったImpalpsがここまで大きくなれたのはひとえにファンを大事にするアイドル達の姿勢と仕事へのこだわりだと思っていた。
 なので社長もこういった感謝祭という形をとったのだと思う。
「傭兵の仕事って色々あるんですね‥‥」
「こういうのは今後は減ってくると思いますけどね‥‥」
 戦争が本格化すればライブなどを開ける場所も集まる人も減ってくるために活動が縮小されるのは仕方のないことだ。
「それでも続けていきたいですね」
「そうですね‥‥」
 イートインスペースから眺める笑顔のために。
 
●楽しむということ
「はぁ‥‥やっぱ、あたしじゃ役不足なんかなぁ‥‥なんか気がすすまねぇ‥‥」
 昼休みを終えて戻ってきたエイラは肩を落としていた。
 午前中が調子が良くなく、散々な負け方をしたために午後の参加が憂鬱なのである。
「あっちゃー、君うまいねぇ。はーい、サイン入りのランタンと握手ね」
 ブースではコハルが勝者にプレゼントを渡して握手を交わしていた。
 対戦者の列がコハルの方が多いのがますますエイラの気分を落とす。
「VM関係は、あたしだけみてぇだし‥‥がんばらねぇとな」
 小さく呟くと対戦台に戻り、アニメ版のキャラクターとして機体を選択しなおし対戦相手と向き合った。
 機体を動かすときキャラクターのイメージを思い浮かべて動かす。
 ゲームを自分から楽しみ、全力を出していると相手の反応がよかった。
「何だか、午前中とはちげぇ気がする‥‥そうか、こういうことか‥‥」
 VMの看板を背負うことばかり考えていたエイラだったが、このとき何故午前中に上手くいかなかったが見える。
 ここに来てくれる人はエイラ・リトヴァクよりもエイラをモデルとしているキャラクターに会いにきていた。
 そんなことも分からなかった自分が恥ずかしく、けれども笑顔でありがとうといってくれる人に涙がこぼれる。
「おーい、エイラちゃん、どうしたの? なんか調子が悪いのかな?」
 キスマーク付きのバンダナをプレゼントすると共に記念撮影をしていたコハルがエイラの変化に気づき近づいて顔を覗いてきた。
「これは、ちげぇよ‥‥、泣いてねぇ、泣いてなんか‥‥ねぇんだよ」
「普通に泣いてるし、かなり泣いてるし‥‥あー、皆さんちょーっと集まらないでねー」
 コハルが突っ込みを入れるもエイラの涙は止まらず、人垣ができる。
 泣きながらもエイラは自分の姿がゲームのワンシーンにそっくりだなとおぼろげに思うのだった。

●スーパーメイドタイム
 午後のとある時間から宵藍と滅の撮影ブースの列に変化が現れる。
 男女比が9:1くらいに変わっていったのだ。
「何故『女装』だとバレた!?」
「何かばれると困るのですか?」
 ミドル丈のスカートのメイド服を着て姿を現した宵藍をノースリーブに短パンメイド服、そしてヘッドドレスとエプロンドレスの滅が出迎える。
 短パンの下には何故か赤褌という変わったコーディネートではあるがちらりと見えるところが逆に女者の下着っぽいと撮影した男達は語った。
「いや、ほら‥‥野太い『シャオちゃーん』コールとか」
 げんなりとしながら宵藍が集まっている男達に目を向けると「愛LOVEシャオたん」とか手作りの団扇を用意している集団が野太くも黄色い声援をあげている。
「愛されてますね。僕もサービスして頑張りますよー」
 声を上げる男達をみた滅の方は宵藍に負けじとばかりに撮影者に向けて午前中の愛嬌ある仕草から、艶やかな表情でポーズを取ったりしてフラッシュを浴びた。
「いや‥‥こういう方面で張り合われても困るんだが‥‥」
 滅のリアクションに益々困る宵藍であったが、撮影待ちの列を消化するために気持ちを切り替える。
 扇情的なポーズは恥ずかしさが勝ってできないが、その照れているところがギャップ萌えだと撮影したものは語った。
「ありがとう! シャオたん! 今日は最高の日だ!」
 涙を滝のように流して喜ぶ男性ファンに宵藍は思わずこう答える。
「べ、別にお前のために着たわけじゃないんだからな」
「「「ツンデレキター!」」」
 その場にいた全員が口をそろえて興奮し、新たな男性ファン獲得に一役かったのは言うまでも無かった。

●閉幕
「お買い上げ‥‥ありがとう‥‥ございます‥‥」
 最後のCDを渡した秋姫が深くお辞儀をした。
 時間ギリギリではあるが、秋姫が昼から二時間ほど宣伝に出歩いた成果もでて完売まで届く。
「なんとか‥‥売り‥‥切れたね」
 相棒であるイスルの言葉に瑞姫はただ頷くだけである。
 苦労して作ったものが売れたのが嬉しい反面、もう少し宣伝に力をいれなければと悔やんでいるのだ。
「ご苦労様でした。全部売れて良かったですね」
 俯いていた瑞姫の前に弓が立っている。
「私も自分のグッズを売り切ったので、今は他のブースの様子をみているんですよ。ライブステージは熱狂的で近づけていませんけど」
 苦笑を浮かべるもののどこか上品で、露出の多い衣装とのアンバランスさが魅力的だった。
「もうこうしてアイドルのお仕事をするのも恥ずかしくなくなりましたね。最初はこの歳でアイドルなんて不安や場違いを感じたりもしていましたけど、自分が楽しんでファンの皆さんを楽しませているとそんなこと気にならなくなりました」
 そう話しながらも弓は歩く人に握手を求められれば軽く答える。
 瑞姫は弓を見上げ、その言葉を胸に刻んだ。

***

『いよいよ、最後の曲となりました。皆さん、準備はいいですか?』
 ステージではユウがハーモニカを吹いたり、一人がソロ演奏をしたりしていたが、締めの一曲のために美月姫が音頭をとりファンとアイドル達をまとめている。
『最後はもちろん、私たちImpalpsの全体曲です。今日来てくれた皆さんと、そしてこれなくてもいつも応援してくださっている皆さんに向けて感謝を込めて歌わせて貰います。これからも私達をよろしくお願いします』
 美月姫の言葉はステージに立たないアイドル達の気持ちを代弁していた。
 イントロが始まると手拍子が響く。
 それはステージに前の観客だけでなく、会場のいたるところから美月姫の呼びかけに答えたものだった。
 歌が始まると会場が震えるほどの大合唱となる。
 そこではアイドルもファンもスタッフの垣根もなく言葉通り一つになった。
 一夏の大切な思い出がまた一つ生まれる。