●リプレイ本文
●懐かしいこの場所で
「おおー、懐かしの風景だよ。まだまだIMPも動きはじめたばっかりの頃だったよね。確か? こーゆーのを『原点回帰』って言うのカナ?」
黒のセクシーなビキニを身につけた葵 コハル(
ga3897)が振り返りながら尋ねる。
その姿をシーヴ・王(
ga5638)はカメラに収めて答えた。
「ビミョーに違う気がしなくもねーですが、細けぇえことはいいでやがるです。コハルの成長に比べれば些細なこと」
彼女がいうように4年の歳月で男の子に間違われやすかったコハルの体はメリハリの利いた大人の美女に変わっていた。
「ぷひひ、ライディ君も頼もしい旦那様になったしね。キメラにさらわれたのは覚えてますよー」
「余計なことは覚えてなくていいです。はい、コハルさんに頼まれてたカメラです」
防水機能のあるデジカメをライディ・王(gz0023)はコハルに手渡す。
「はいはーい、ありがとねー。シーヴもライディくんも、それに、みんなも自分がいいと思ったのはバシバシとっていこうね」
コハルのひと声にライディからカメラを受け取ったアイドル達は頷いた。
●渚のビーナス
ポーンという軽い音と共にビーチボールが打ち上げられた。
空中に舞い上がったボールは眩しい太陽を遮って落下する。
「そーれ、弓さんいきましたよー!」
「あ、はい‥‥それっ!」
一拍遅れて、地面に落ちるスレスレのボールを加賀 弓(
ga8749)がなんとか返した。
砂浜の上に白いビキニで大人の色気溢れる肢体を持つ弓が倒れこむ。
「やっぱり年なのでしょうか‥‥」
砂を払って起き上がるとラリーをする大和・美月姫(
ga8994)と舞 冥華(
gb4521)を見る。
二人とも10代のピチピチした肌をしていて、いかにも『アイドル』らしく可愛いかった。
その姿を写真でとりつつも三十路を迎えた自分が一緒にいていいものか弓は少し迷う。
「ゆみ、いったー」
「はいっ!」
冥華からトスされたボールを返し、弓は一息ついて汗を拭った。
その姿を冥華が撮影するのを見ると、まだまだいけるのかもと思いなおす。
(折角のお仕事なんですから、やりきりませんとね)
迷いを消し、楽しみながら撮影するよう弓は気を引き締めるのだった。
●アイドルとマネージャーとその奥さんの関係
「ふぅ、これでなんとか寝床や日陰はかくほできたかな?」
「ライディ、お疲れ様でやがるです」
テントや食事用のテーブルにタープなどを用意し終え、汗を拭う夫に妻はそっとミネラルウォーターをさしだした。
「ありがとう。シーヴも手伝ってくれてありがとう」
「これくらい平気でありがやるですが、暑いのは堪えるです」
南国らしい突き刺すような太陽の光を避けるように日陰に入ってシーヴもミネラルウォーターを口にする。
砂が服について大変だったので彼女もライディも水着にパーカーサンダルとお揃いの格好だった。
「よし、撮影の方もやれるだけやっていこう。ええっと、スナップは誰の順番になりますか?」
顔をぺしぺしと叩くと仕事モードに頭を切り替える。
「次は冥華でありやがるですね‥‥丁度きやがったです」
「まねじゃ、さつえーにきたよ。小道具も弓に借りてきた」
ピュピューと水鉄砲をあさっての方向にうちながら冥華が二人の前に姿をみせた。
ドット柄のビキニで可愛らしい冥華に水鉄砲はまさに『小悪魔』らしい。
「はい、じゃあポーズとって下さいね」
モノのいいカメラを構える姿は色々と仕事のこなしてきた彼らしく様にになる。
「よくわからないから、まねじゃが注文つけて。でも、えっちぃのはきんしー。奥さんが怒るから」
とりあえずカメラに向けて水鉄砲を構えた冥華がイイ笑顔をつくった。
「仕事でありやがるから、ジロジロみないなら許すです」
奥さんからの痛い視線を背中に浴びながら撮影をする羽目になったのは言うまでもない。
●ミニスイカ割り大会!
「夏! 海! そして砂浜! ここまできたらやるしかないでしょ、スイカ割り!」
ぐぐっと拳を握ったコハルが大きな声を張り上げた。
魚が全然釣れなかったからではない‥‥たぶん。
「スイカはシーヴと冥華で用意してやがります」
スイカ割りセットを持ってきていた二人がスイカを砂浜におき、準備を整えた。
「で、やっぱりここはお楽しみの一つとしてライディくんにも埋まってもらうのがいいよね」
ムフフと不気味な笑みを浮かべたコハルがスコップを手にする。
魚が全然釣れなかった腹いせではない‥‥たぶん。
「写真しゅーのさくせいにまねじゃのぎせーはひつよー」
「あはは、のんびりできそうにないですね」
苦笑を美月姫は浮かべるだけで止めようとはしてくれなかった。
「お二人とも手加減しなくてはいけませんよ。撮影は私が頑張りますけど、グロテスクなものは少しだめですから」
注意をするもののカメラを構えて弓も止めようとはしない。
最後にライディの視線がシーヴへと向けられるが、サムズアップで返される。
「ライディなら大丈夫でありやがるです」
やや無表情にも見える顔で言われてもライディには不安しかなかった。
●ミューズのバカンス
鼻歌にあわせてペンをタクトのように振ったかと思うと、すぐさま歌詞をノートに書き込んでいく。
木によってできた自然の木陰は涼しく、頬を撫でるように吹く海風は心地よかった。
「場所をかえて作詞すると新しいメロディーがでてきていいですね」
伊達眼鏡をくいっとあげていると、パシャリとシャッターをきる音が聞こえてきた。
「なんかよかったから、とってみたー」
「うふふ、ありがとうございます」
小さなカメラマンにお礼をいって美月姫は手を止めて向き合う。
「今回はいいですけど、モデルさんをちゃんと撮るなら不意打ちじゃなくてちゃんとお願いするのがマナーですからね」
本職がモデルということもあり、美月姫は軽く注意を冥華にした。
ウィンクしながら人差し指びを軽く立てたポーズは決まっている。
「では、いまのポーズでもーいちまいー」
こくりと頷いてカメラを構え直した冥華がお願いすると、角度を変えて注意をするポーズを美月姫は決め直した。
普段はストレートに下ろしている髪をポニーテールにしているためか、大きなリボンと共に軽く跳ねる。
パシャパシャとカメラマンとなった冥華が美月姫の姿をシャッターをきってく。
「お返しに冥華ちゃんも撮りますね。ポーズの取り方も教えてあげますよ」
「おおー、プロのしどーはうれしい。冥華らっきー」
美月姫のポーズ指導を受けながら、二人はお互いに色々と写真をとりあうのだった。
●楽しい晩ご飯
水平線に夕日が沈み、夜空に星が輝きだす。
動物は寝静まるようになってくるが、アイドル達は元気だ。
「さぁ、夜はバーベキューだよ、バーベキュー!」
水着にエプロンをつけたコハルが最も気合をいれて声を上げる。
その姿のまま、肉の塊や野菜を愛用の刀でズンバラリンと切り刻んだ。
「こういう写真もとっておきませんとね」
パシャパシャとコハルの姿を美月姫のカメラが捉える。
「ひおこしはまねじゃがやってくれたから冥華はやいてくがかり。やさいもたべなきゃ、しぼーがきけんしんごー」
熱くなった鉄板に冥華がきざまれた食材を投下して焼いていく。
したったらずな喋りが写真には残せないがこちらの姿もライディが撮影している。
「冥華ちゃんのいうように野菜も取りやすいようサラダも別に作りましょうか」
「私は野菜中心のつもりでしたし、手伝いますね」
美月姫と弓がタープの下でランタンの灯りのもとサラダ作りをはじめた。
こちらは実に家庭的な雰囲気を漂わせている。
ただ、弓が野菜中心を心がけているのは自分の年齢を気にしてのことではあるのだが‥‥。
パシャパシャとライディが弓達をとっていると冥華がトコトコと手に何かをもってやってくる。
「どうかしましたか?」
「ばーべきゅーは冥華たちがたべるから、まねじゃには日頃のごくろーのねぎらいーでうなじゅーをどうぞー」
思いがけないプレゼントをうけたライディは冥華の笑顔という最高のシャッターチャンスを逃してしまった。
「ありがとうございます。なんか、とっても嬉しいです‥‥」
照れて頭をかく彼に小さなアイドルは強烈な一言を告げて走りさる。
「ふとるがいー」
「うっ、い、いたいことを‥‥」
三十路を手前に控えはじめたライディには堪える一言だった。
●食後の花火
チカチカと夜の闇に光が灯る。
一つが二つ、二つが四つと増えていくも、そのあかりは小さく飛び散るる火花も弱々しい。
「きれー」
「線香花火は締めにいいですね」
シャツワンピースや浴衣を羽織ったアイドル達は線香花火を静かに楽しんでいた。
無人島の浜辺も波の音くらいしかなく、静かで月と星が眩しい美しい世界を作り出している。
「いいねぇ、いいよぉー」
静かに楽しむ二人をコハルはパシャパシャとシャッターを切って撮影していた。
「皆さん、食後のデザートというわけでもありませんがチョコブラウニーとトリュフチョコどうですか?」
無駄と書かれた浴衣に着替え終わった美月姫がクーラーボックスで冷やしておいたチョコを持ってくる。
「いるいるー。美月姫ちゃんは気が利いていいねー。お嫁さんに欲しいいくらいだよねー」
美月姫の姿をファインダーに収めつつコハルはニシシと笑った。
「も、もう、何を言っているんですかっ!? 意地悪する人にはチョコあげませんよ」
「えー、それとこれとは話が違うじゃーん」
顔を真っ赤にしてチョコを上にあげる美月姫とそれにすがるコハルという姿を冥華がパシャリと写す。
「しゃったーちゃーんすげとー」
「ふふ、確かにお二人らしい姿をですよね」
誇らしげな冥華の隣で弓は口元を抑えて小さく微笑むのだった。
●思い出に浸り
宵闇が深まる渚に月の光を浴びた弓が足をつけて立つ。
彼女は白い水着に浴衣を羽織り、静かに瞳を閉じて波の音に耳を傾けているようだった。
静かな時をパシャリという人工的な音が破る。
「美月姫さんでしたか」
「はい、ちょっと歩いたらいい感じでしたので一枚。何をされていたんです?」
てへっと笑ってから、美月姫は弓に近づくと、彼女の耳にイヤホンがついているのが見えた。
「私達のCDですね。『小悪魔の楽園』も、ずいぶん古いCDになってしまいました‥‥聞きませんか?」
「それはもちろん、喜んで」
そういうと弓は砂浜をあるいて小さな岩の上に腰掛ける。
美月姫も後を追い、弓の隣に座ると片方のイヤホンを貰う。
「私と弓さんは同じ依頼でデビューしましたから、長い付き合いですよね」
ふと、二人はCDを聞きながら思いにふけた。
収録曲はいま聞くと少しはずかしいものの、彼女達にはある種の青春らしい思いいれがある。
「夏のイベントでライブをやったり、合宿で全体曲を作ったりしましたね」
「今はあまり会えない人の曲も入っているから懐かしさがありますよ」
「ええ、写真集もとったり結成時は色々ありました」
思い出話しは途切れることなく、就寝時間まで続く。
月夜の下で話し合う二人の写真もしっかりと写真集にのった。
●みんなの集大成
パラパラと出来上がったサンプルを眺めていた米田時雄は一息ついて写真集を閉じた。
その表情や姿は依頼を持ち込んできた時とは違い、真剣そのものである。
黒のスーツにサングラスをびしっと着こなしたとき、彼は敏腕プロデューサーとして輝く。
「自然な感じがでていますし、アイドル達がとりあったとすれば十分にカバーできる仕上がりになっていますね」
ふっと頬を緩め、感想を口にして秘書へとサンプルを渡した。
「これで販売に載せます。タイトルは『Resoat Again〜孤島のアイドル達〜』でいきましょう。ビデオ映像は次のDVDで特典にもっていきます」
「了解いしました。すぐに先行販売イベントなどの手はずも整えておきます」
頼もしい返事をする部下の姿をアルカイックスマイルで受けとめた米田は窓から外をながめる。
「いい仕事してくれましたね」
綺麗なラストホープの夜景を眺めながら、頑張ったアイドル達をしずかに褒める米田だった。
***
一足遅れた夏物の写真集ではあったものの、アイドル達の素のままをとらえていた写真集は好調に売れた。
見るのもの撮るものも楽しんで作ったのがわかるからなのは言うまでもない‥‥。