●リプレイ本文
●訓練日記その1
訓練終了後、俺は日記を書いている。
その日を記録することで反省できるとかそういう話らしい。
募集で集まったのは9人。
俺を入れて10人であり、組み合わせは先輩傭兵の意見もあってこうなった。
A班
・水上・未早(
ga0049)
・井筒 珠美(
ga0090)
・リズナ・エンフィールド(
ga0122)
・フォル=アヴィン(
ga6258)
・玖堂 暁恒(
ga6985)
B班
・蒼羅 玲(
ga1092)
・ファルロス(
ga3559)
・ラルス・フェルセン(
ga5133)
・リーゼロッテ・御剣(
ga5669)
・山戸・沖那
実戦ではなかったが、今回の訓練は俺にとってためになった。
『能力者』であることがどういうことなのか、教えられた一日に‥‥。
●小さな指導係
「今回、貴方の指導役をやります蒼羅 玲と申します」
「え‥‥マジか?」
山戸・沖那は驚いた。目の前で指導役と名乗った玲は沖那よりも視線が低い。
軍人に指示されて、たどり着いた訓練所。
その控え室で待っていて、初めて会ったのが玲だったため、沖那の顔に不安が出る。
「本当だよ。多分今回のメンバーでは一番強いよ。あっ、私はリーゼロッテ・御剣って言います♪ 気軽にリーゼって呼んでね♪」
「あ、山戸・沖那だ‥‥」
次にきたのは目のやり場に少し困る格好をしている女性だった。
「能力者ってこういう人ばかりなのか‥‥俺は仲間を護るために強くなれるのか?」
「そんなわけじゃないけどね。でも、皆いろんな過去を背負って君のように能力者に、そして傭兵として活動しているんだ」
沖那はぼそっと小声で言ったのだが、聞いていたフォルが沖那の肩を叩く。
「そうなのか‥‥」
沖那の頭には故郷の出雲を襲った醜女の姿が浮かんで、消えた。
「能力者になったということは、いろいろあります。覚醒によって『人格がかわったり』『体に奇妙な変化がでてきたり』する人もいます」
眼鏡をかけて、いかにも委員長風な姿をした未早は沖那に優しく諭す。
「わかっているさ‥‥この目で見てきたから」
「きっと貴方なら大丈夫です。能力者といっても力の使い方を間違えればバグアと変わりません。そのために、自分をしって力の使い方を覚えてください。餞別代りに、これをつけてくださいね」
そういって、玲が沖那にロザリオをかける。
「玲さんや、リーゼさんのように頼れる仲間がいるからね? お互いがんばりましょう」
未早がそう締めくくり、俺に握手をもとめてきた。
「あ、ああ‥‥よろしく」
沖那は返しながら、この傭兵達に少しでも近づきたいと思っていた。
●第一訓練〜標的破壊〜
『先手、取らせてもらうわ!』
コンユンクシオに雷光が走ったかと思えば、先手を取ったリズナは壁で左右に動いている的へ駆け出して斬る。
『弟が受けろ受けろ‥‥って‥‥うざかったが‥‥わるくねぇ』
玖堂は悪態をつきながらも近くの的を拳で叩き壊す。
さらに、上下に移動する的へも瞬天速で壁を駆け上がって蹴破った。
沖那へスキルの使い方を見せることも考慮して、A班が先に部屋に入って訓練をしている。
20m立方の部屋に5人の能力者が入り乱れ、飛び出してくる的を各々がつぶす。
壁の的は動き、床から出てくる的は静止していた。
『懐かしい訓練方法だが、初心忘れるべからず‥‥か』
アサルトライフルの銃身上にコインを置いて、鋭角狙撃で壁の移動する的にコインを落とさないようにして撃つ。
距離によるずれを射撃ごとにカウントし、リロード共に修正する。
弾丸による穴が的の隅から真ん中へ移っていった。
「すげぇ‥‥」
そんな戦闘の様子を窓から眺め、沖那は関心している。
「スキルを使いこなせばああいうこともできるんですよ」
その隣で少し背伸びをしつつ眺めていた玲が沖那に声をかけた。
「スキル‥‥か、AIに書き込んで使えるようになるっていうけど、実感わかないぜ」
「そのへんは〜慣れですよー」
茶会の王子様ことラルスは用意されている椅子で紅茶を飲んでリラックスしていた。
「慣れ‥‥ねぇ」
真理ではあったが、沖那としてはいまいち納得できない。
「スキルはクラスごとで特性が違う。A班の玖堂が壁登りに使ったのは『瞬天速』グラップラーだから習得できるスキルだ。リズナの『先手必勝』は誰にでも取れるスキルになっている」
ファルロスもけだるそうな雰囲気でテーブルに肘を着いているが、視線はA班の動きを逐一観察していた。
「『先手必勝』は高いので、ファイターである沖那さんは『豪波斬撃』『流し斬り』『急所突き』があれば戦いで困らないと思います。あと余裕があれば『豪力発現』ですね」
「了解、先生」
沖那は玲の頭を撫でながら答え、スキルの書き込みに席を離れる。
「いっていることと行動があってないと思います! もっと、尊敬をしてください」
子供扱いされて憤慨なのか、玲はぷーっと頬を膨らませた。
そんなことをしていると時間が来てA班が戻ってくる。
「交代のようーですね〜」
「向こうは40個台。まずは、それより上に行くぞ。訓練だろうと本気でないとな」
お茶を飲み終えて立ち上がるラルスにファルロスは先ほどまでの気だるさを感じさせないほどハキハキしている。
「っと、書き込み終わったぜ、先輩」
「よーし、それじゃあ。がんばろう♪」
戻ってきた沖那をリーゼが元気に出迎えた。
そして、狭い空間にB班が入る。
無機質な金属質の壁や床、天井が狭い空間に圧迫感を加えていた。
「ねぇ、沖那君‥‥私は銃を手に持つと震えがとまらくなるんだ‥‥力って、何だろうね?」
息を止めていた沖那に横で瞳と髪の色が金色に変わったリーゼが話かける。
「覚醒は不思議ですよね、自分が変わるのですから‥‥。でも、根っこは変わりませんので、忘れないよう」
間延びしたしゃべりをせず、淡々とレイ・バックルで強化したフリージアでラルスは的を破壊していく。
「中身は変わらないか‥‥そうだな」
沖那は『覚醒』をするも、姿や体に変化はない。
だが、はじめての戦いというのに体がスムーズに動き、床から出てくる静止的を潰していった。
(「素質があるのか‥‥それとも‥‥」)
その動きにファルロスは疑問を持ったが、今はそれどころではないと近くの的を二丁の銃で同時に潰した。
勝利チーム:B班(51個)
●第二訓練〜アスレチック〜
次のアスレチックはスキルありの基本能力と応用力勝負となった。
先ほどとは別の部屋で障害物でできた道が二列併設されている。
そんなコースに2班が別々に集まる。
「障害物競走みたいだな、学校でやった」
沖那のポツリと漏らす感想に一同は頷いた。
「めんどくせぇな‥‥」
玖堂は頭をかき、目の前のコースを見てうんざりする。
「スキルありなのね‥‥まぁ、それならやれる限りやるだけね」
じっくりとコースを眺め、リズナが障害の目星をつけて対策を頭で考えていた。
一番手はA班が未早、B班がラルスだった。
「それじゃあ、いってきます。スキルが使うのは手の内を見せることにもなります各自の判断でお願いしますね」
未早がそういいつつ準備運動をする。
スナイパーはあまり激しい動きには向いていない。
コンディションを整えなければ苦戦するのは目に見えていた。
それに次の訓練を考えて疲労を残したくは無い。
「そうですね。さすがリーダー」
フォルが年下でありながらも、しっかりした考えを持っている未早に関心する。
「あんまり煽てないでください」
少し頬を赤くし、未早はスタートラインに立った。
隣にいるラルスに対して微笑み、合図と共にスタートする。
序盤の台座飛びや網くぐりは難なくクリアするも、中盤に差し掛かったところにあったウォールのぼりに苦戦した。
「体力がないと厳しいですね‥‥」
その次にある平均台は持ち前のバランス感覚を生かしてクリアする。ラストに待ち構えていたのは勢いよく開閉する鉄扉。
時間を脈でカウントし、抜け出した。
「タイムは苦戦して2分弱ですか‥‥皆さん、今回は無理しない方向で。ただ、低い能力のエリアは苦戦します。弱点を長所で補えるように動きましょう」
未早は自分のチームの輪に戻ると早速対策会議を始める。
ラルスのほうも意見をいっていた。
「スキルありだから、豪力発現の出番が増えそうね」
リズナは余裕を見せて微笑む。
次はリズナがスタートライン立ち、雷光の勢いで走りきった。
勝利チーム:A班
●閑話休題
「沖那さんがんばってますね。先生はうれしいですよ」
「び、微妙な気分だ‥‥」
玲に椅子の上に立ってのナデナデを受け、沖那は複雑な心境だった。
第二訓練まで終え、スキルを使ったこともあり休憩がてらの反省会が休憩所で行われている。
ラルスの厳選したお茶とお菓子を広げての砕けた雰囲気だ。
「確かに動きが良かったわね、何か格闘技とかの経験は?」
「いや、無いけど‥‥能力者ってあんなものじゃないのか?」
第一訓練で様子を見ていたリズナが沖那の具合を見ての感想を漏らした。
能力者になればたいてい超人じみた行動が取れるようになるが、どこか違うようにリズナは感じていたのである。
「そういえば外見上の変化はみられなかったですね。大抵見たや口調に覚醒の兆しはでるものなのですけど」
フォルもラルスの紅茶を飲みつつ沖那の変化に対する疑問をぶつける。
「う〜ん、でも私みたいに震えることなく戦えるのってちょっとうらやましいかも‥‥それだけ大切なモノ‥‥護れるから」
元気なリーゼも最後に向かうほど声が小さくなる。
彼女にとって、力とは未だ得られていないものらしい。
「戦えねぇより‥‥戦えたほうが‥‥いい」
ぶっきらぼうに玖堂も答える。
力あるから戦える、戦うために力がある。
どちらが先でも傭兵である限り戦わなければならないといっているようだった。
●第三訓練
「ついに対人戦か‥‥」
休憩も終わり、どこかの工場を思わせる部屋に入ると沖那は緊張した面持ちで呟く。
「障害物も多数―ありますね〜」
「より実戦に近い形というわけだな。覚醒なしだからスキルは使えない。ただ、スキルのとり方で戦闘スタイルは見えるからな。実戦そのものより厄介だな」
ファルロスが拳銃の最終確認をしつつ呟いた。
「大丈夫です、作戦通りに動くことを沖那君は考えてください。きっとロザリオが守ってくれます」
不安になっている沖那に対して、玲は微笑んだ。
「そうだ‥‥な」
ぎこちなく沖那が微笑み返し、首から提げたロザリオを握ると開始の合図がなる。
両班が物陰に隠れながら動き出した。
「能力者同士の対戦って、中々ないから楽しませてもらうわ」
リズナがふっと微笑み、玲を探す。
チョコチョコ動き、物陰から様子をみる玲を察知すぐさま駆け寄り正面を取り出す。
「お手合わせ願うわ」
西洋剣術の防御重視の構えを取り、リズナは玲と対峙した。
「こちらこそです」
微笑ながら玲が蛍火を振るいリズナへ斬りかかってきた。
それをリズナは防ぐ、しかしそれは支援をする味方の射線を防ぐことにリズナは気づかなかった。
「くっ、玲の小ささを失念していた。リズナがほとんど塞いでしまっている」
珠美が舌打ちし、射撃体勢を解除する。
そのとき、リーゼからのスナイパーライフルによる弾丸が珠美を狙ってきた。
「余所見している暇はないですよ、先輩」
手が震えているためか、弾道がぶれているのが珠美にはわかる。
だが、静止して戦うわけにもいかない。
「やり過ごしつつ、方法を変えるか‥‥」
珠美は物陰に隠れて、チャンスを探しだした。
それと同時に物陰に隠れていた玖堂が動く。
「アタッカーを‥‥潰さない‥‥とな」
リズナで足止めをくらっている玲のほうへ玖堂の足は向く。
だが、その前に沖那が刀を抜いて立ちふさがる。
「悪いが、やらせないぜ!」
「ヒヨッコ同士で踊るか‥‥それも、悪くない」
玖堂はどこか楽しそうに口元を緩め、ファングを沖那に叩きこみだす。
「そうはさせませんよっ!」
二人一組の行動をすることになっていたため、フォルが援護にでる。
しかし、それも考えのうちかラルスがフォルに立ちふさがった。
「だめですよ〜同じ力くらいで勝負させなくてーは〜」
間延び口調のまま、ラルスがフリージアでフォルを撃ち出す。
「まずいわ! 作戦の建てなお‥‥きゃっ!」
未早が声を上げて、A班の分断を取り戻そうとする。
しかし、ファルロスがここで動く。
「そうはいかない」
シグナルミラーを片手に持ちながらシェルクラインを抜き、リズナや珠美などに光を浴びせつつ射撃していく。
予想外の行動にリズナも珠美も対応できず目をくらませた。
「チャンスです!」
リズナの防御が緩んだ隙を逃さないよう玲が腕をつかみ投げる。
激しい衝撃を背に受け、リズナの動きが止まった。
それを口火にB班の反撃が怒涛のように始まる。
「ちっ‥‥向こうの策士が優秀か」
玖堂や、フォルも捕らえられ未早以外を捕獲という流れで勝負はついたのだった。
勝利チーム:B班
総合勝利チーム:B班
● 訓練日記その2
以上の結果が俺の初仕事の結果だった。
勝利や報酬も嬉しかったが、何より能力者の存在が少し近くに感じられたことが俺には嬉しい。
訓練のあとに刀の使い方を教えてくれた、フォル。
俺より年上だけど、どこか子供っぽいリーゼ。
怪我を手当てしてくれたリズナ。
ライバルになりそうな玖堂。
見た目は子供、中身はプロな玲。
こんな先輩たちに追いつけるよう俺もがんばらないとな‥‥出雲を守るためにも‥‥。
2008年2月某日 山戸・沖那