タイトル:力持つ宿命〜選択〜マスター:橘真斗

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 難しい
参加人数: 9 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/05/29 01:32

●オープニング本文


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 ぼんやりした景色の中、青銅の棺に向かう女性の手を俺はぎゅっと握っていた。
 
 隣には俺と同じ様な背格好をした少年も反対側の手を握る。
 
 それでも、女性は青銅の棺へ一歩一歩すすんだ。
 
 そのときの俺は今よりも小さかったため、女性を止められない。
 
 なぜ止めなければならないのかはわからなかった。

 でも、俺と俺に似た少年はその女性を止めたかった。
 
『オキナ! タケル! やめなさい!』

 そこで、俺―山戸沖那―は目が覚めた。
 手に感じるのは硬いベッド、眼に入ってきたのは冷たいコンクリートの床と壁。
「そうか、ここは営倉だったっけ‥‥」
 着慣れない服を着せられ部屋に入れられて、食事だけさせられていた。
 能力者達が養父母に会いにいくといったときは止めた、正直、俺がよそ者というだけで苦労かけている。
 これ以上心配をかけたくないというのが俺の気持ちだった‥‥。
「山戸沖那!」
「はい!」
 外からかけられた声に体が無意識に反応し直立不動で敬礼をする。
「処分が決定した。本来であれば軍事法廷により極刑もあったが、君を助けた能力者達の弁護もあったため出雲の少年院で罪を償ってもらうこととする」
 決定としては未成年の少年と同じ扱いだった。
 どうせなら死んでしまいたいとも思う俺がいる。
 戦うことが怖い‥‥あの『タケル』になってしまうことが怖い‥‥。
「返事はどうした?」
「分かりました‥‥」
 俺はうつむきながらも納得するしかなかない‥‥。
『止めはしないが、何かあって後悔しても責任は持たないぞ‥‥』
 そんなとき、ある人の言葉が脳裏に浮かんだ。
 
●アクシデント
 俺だけを乗せた輸送車がUPC軍基地から地元である出雲の少年院へ走っていく。
「少年院で罪を償うか‥‥」
 俺はボソリというと『本当にそれでいいのか?』と声が返ってきたような気がした。
 そのとき、ゴガァッと車が横転し、俺は倒れる。
「緊急! 緊急! 炎を纏ったウサギキメラに体当たりを受けて横転、救援求む。30匹ほどが出雲方面へ向かっている模様!」
 運転手が必死に無線で連絡をしていた。
「っつぅ‥‥」
 頭を抑え俺は目をあける相当の熱を持っていたのか護送車の壁に穴が開いていて、逃げれそうである。
「これで‥‥脱出できる‥‥けど、そのあと俺はどうしたらいいんだ‥‥」
 そう思うと、心が一気に覚めて座り込んだ。
 戦闘しても死に掛ける、戦闘しようと思えばヤツが出てくるだろう。
 俺はどうしたらいいんだ?

●参加者一覧

水上・未早(ga0049
20歳・♀・JG
リズナ・エンフィールド(ga0122
21歳・♀・FT
ファルティス(ga3559
30歳・♂・ER
南雲 莞爾(ga4272
18歳・♂・GP
ラルス・フェルセン(ga5133
30歳・♂・PN
リーゼロッテ・御剣(ga5669
20歳・♀・SN
フォル=アヴィン(ga6258
31歳・♂・AA
玖堂 暁恒(ga6985
29歳・♂・PN
佐伽羅 黎紀(ga8601
27歳・♀・AA

●リプレイ本文

●それぞれの『選択』
「山戸君の説得の方お願いしたけれど。ちゃんと伝わってくれるかしら?」
 水上・未早(ga0049)は自分の携帯にボイスレコーダーでメッセージをいれて手渡したことを思いだす。
「さぁな‥‥あいつしだいだ。ったく‥‥ココに何があるってんだ‥‥」
 煙を吐きながらため息をつき、玖堂 暁恒(ga6985)は煙草をもみ消した。
 すでに救出要員が2人沖那への伝言を受けながら、護送車の救援に向かっている。
「足をぉ〜引っ張らない程度にぃ〜善処ですぅ〜」
 気が抜けるような声で佐伽羅 黎紀(ga8601)はヴィアを構えた。
(「今までの報告書をみる限り、多重人格ではなく『彼が作り出した幻影』です。乗り越えられるはずです」)
 内心、黎紀は精神科医としての経験で思う。
「UPC軍には救援要請が届いているようですし、増援は来ます。何とか食い止めましょう」
 フォル=アヴィン(ga6258)は救援要請で聞いている燃えるウサギの集団の話を伝え、沖那への伝言もリーゼに託した。
「贖罪は必要ですが、それで罪が消える訳ではありません。法による決定事項には介入出来ませんが‥‥それからを一緒に考えたいものですかれと」
 すでに瞳がダークブルーで、額にルーンを浮かばせた覚醒状態のラルス・フェルセン(ga5133)は真っ赤に燃え滾る小さな塊をにらんだ。
 ラルスの知覚で捕らえたキメラである。
「私達は迂回します、後はお願いします!」
 リーゼとリズナは横から駆け出し、救助へと向かう。
「問題ない、敵性存在確認―――R.O.C.K.On‥‥」
「さぁ、ウサギ狩りをしよう」
 覚醒しても言動等の変わらない南雲 莞爾(ga4272)が構え、ファルロス(ga3559)がシエルクラインを構えて全身に青いオーラを放った。

●少年の『決断』
(「思えば沖那君と出会って、彼と仕事を通じていろんな事を迷って、葛藤して‥‥でも今回もそれが最後! だから沖那君に伝えたいの‥‥私の答えを!」)
 ”意志を告ぐ者”としてリーゼロッテ・御剣(ga5669)は護送車まで全力で走ってきた。
 先に到着していたリズナ・エンフィールド(ga0122)は運転手たちの手当てをしている。
「沖那君! 出雲の方にウサギキメラが向かっているの! 手を貸して!」
「俺に‥‥何ができるんだよ。人殺しなんだよ、俺は!」
 空いている空間からリーゼが声をかけるが、沖那は声を荒げて護送車の奥に頭を抱えて座り込んだ。
 手錠もされた手で、服もパジャマのようなものを着ているため、初めてあった時より弱弱しく感じる。
「沖那君!」
 護送車の中に入っていき、リーゼは沖那の頬を叩いた。
 沖那はびっくりしつつも赤くなった頬をただ触る。
「初めて会ったときいったよね? 私も能力者になってから、ずっと自分の力が怖かったって。だけど、なんで能力者になったの? このまま夢を掴めず、現実から逃げてしまって良いの? 私は逃げない。それが答え」
「俺は‥‥まだ、お前より強くない‥‥」
 沖那は声を震わせながら答えた。
「これ、水上さんからのメッセージ」
 リーゼが預かった携帯を再生しだす。
 
『私たち能力者の役割は何でしょう?
 
 バグアの脅威からあらゆるものを護ることです。
 
 なので私はキメラの撃退へ向かうため、コレを預けます。
 
 今の山戸君は私たちの援護にこれる状態ですか?
 
 悩んでも居るでしょう。
 
 横転時の怪我は?
 
 武器は?
 
 今、出雲の人たちを護るための戦力は一人でも多いほうが心強いです。
 
 それでも戦える状態でない人間に来いとは言えません。
 
 キメラと戦うだけが人を護る行為ではないはずです。
 
 今、貴方の周りに助けを求める人はいませんか?
 
 護送車に乗っていた人は怪我していませんか。
 
 周辺の住民は?
 
 火事は起きていませんか?
 
 戦闘以外でも、そこから離れなくても、能力者の貴方が出来る事はあるはずです。
 
 顔を上げて、周りをよく見てください。
 
 がんばって』
 
「委員長‥‥」
 沖那の声に少し力が戻ってきた。
「沖那君、武器はこれを使いなさい」
 夕凪で運転席と護送扉の間を斬り裂いたリズナが沖那の手錠も夕凪で斬って手渡す。
「リズナさん‥‥」
「フォルさんからも伝言。『タケルも沖那君自身です。タケルを、力を、必要以上に恐れないで下さい』って」
 平手を打ったリーゼが優しく伝えた。
「フォルさん‥‥」
 沖那は呟き、リズナからもらった夕凪をグット握る。
「その刀は貴方にあげるわ。捨てるも構わない‥‥力と共に歩み続けるか、力を捨てて普通の生活に戻るか自分の意思で決めると良いわ」
「リズナさん、そろそろ向かわないと‥‥」
 時間が大分たってしまったことを確認し、リズナと決断できずに要る沖那を心配に思いながらもリーゼは護送車から離れ駆け出していった。
「力を捨てることもできる‥‥恐れないで‥‥」
 沖那は一人取り残された護送車の中で言われた言葉を反芻する。
 そして、唯一携帯がゆるされたロザリオを取り出し沖那は眺めた。
「『無理や無茶はしない』『焦らない』 そして『誰が相手でも敵に対して躊躇わない』‥‥か。今の俺の敵は俺の弱さだよな。先生」
 そう呟いて沖那は立ち上がり、駆け出す。
 それは、リズナやリーゼの後ろだった。
 
●焔まといし兎
 リーゼ、リズナ、そして沖那が向かっている間、残り7人の能力者たちは駆け出してくるウサギキメラを食い止めていた。
「くぅ、近づくだけでも大変ですね‥‥」
 炎を纏ったウサギに攻撃を仕掛けようと思っても高熱に近づくことさえフォルは苦心する。
「とにかく気を引いてくれればそれでいい」
 ファルロスがシエルクラインとフォルトゥナの強弾となった二連射でウサギを遠距離から潰していく。
 フォルトゥナとリロードしてさらに二連射で撃ちこんだ。
「全力で‥‥ようやく10匹か‥‥」
 練力をかなり消費し、疲れた様子でファルロスが呟く。
「リーゼさんを向かわせたのは少し、まずかったかもしれません」
 ファングバックルで、強化されたアルファルでウサギキメラを射抜いていくラルスも苦悶の表情で呟いていた。
「それでも、守りきらないと‥‥」
 黎紀は火傷を負いながらもウサギキメラの突撃を受け止めていた。
「せっかく用意してもらったバリケードも意味がないみたいね」
 玖堂が頼み、おいてもらった車はウサギキメラの体当たりで穴が開いて抜けられ、それをみた水上は呟く。
 飛び出したウサギ10匹をつぶし、その次の10匹のウサギを現在潰している段階だ。
 玖堂のショットガン20が唸り、南雲が一人炎をものともせずウサギキメラを相手し続ける。
「遅れてごめんなさい!」
 バリケードの向こう、穴の空いたところから金髪で翼の生えたリーゼの姿が見え、ドローム製SMGをウサギキメラに撃ち放った。
「援護するわ」
 リズナの声も響き、紅蓮をまとうコンユンクシオが、車を抜けようとするウサギキメラを3匹まとめて薙ぎ払う。
「伝言は後者を選らんだか‥‥」
 ファルロスは、沖那の姿が見えないことに対して呟いた。
 『得た力の使い道は得た者次第だ。そのまま持つも捨てるもお前に次第だ。ただし、自分の選んだ選択に後悔はするな』とリーゼにメモを渡していたのである。
「今は食い止める。それだけだ、後半分だぞ」
 南雲がそういい、蛍火によって斬った。
「援軍が来るまでに片付きそうですね!」
 パリィングダガーで受け止めつつ、朱鳳で流れるような斬撃を与えつつフォルは余裕を見せる。
「いえ、違います! 周囲に散りだしてます」
 残り10匹だったウサギキメラはバラバラに逃げ出した。
 
●自分と戦う少年
 周囲は森、春に芽吹いた草花が燃え出す。
 ラルスが戦うことに集中していたため、逃してしまった事を悔やんだ。
 一定時間がたつと炎が消え、一瞬普通のウサギに戻っていたため気づくのが遅れる。
「逃がさないっ!」
 リーゼがSMGを片手に、黎紀はヴィアとイアリスをもって追いかけだし、南雲もスコーピオンをメインにもって続いた。
 能力者の正面戦力がバラバラに鳴り出したとき、タイミング悪く、燃えたウサギの体当たりがバリケードしていた車の燃料タンクにあたり大きく爆破する。
「うわっ!」
「ちっ!」
 フォルと、玖堂、ファルロスがその破片を何とか防ぐ。
 だが、道路からは動かなかった。
「3人とも大丈夫!」
 リズナがウサギキメラを倒しつつ、近づく。
 3人とも重なったダメージもあり、疲労も大きかった。
「手当てをしている暇もないな」
 ファルロスが救急セットを出すも、ウサギキメラはまだこちらに駆けてくる。
 その後ろから武器を持った少年もだ。
「うぉぉぉっオレは‥‥いや、俺は沖那だっぁっ!」
 全力でかけてきた少年は夕凪を振り上げてウサギキメラを斬った。
「沖那君」
 リズナが優しく声をかける。
「本当の敵は自分だって‥‥わかったから‥‥はぁ‥‥」
 息も絶え絶えに沖那は答えた。
「俺が言おうとしたことを勝手に理解しやがって‥‥だが‥‥肩を並べて戦えるのはうれしいぜ」
 玖堂がにやりとし、よろよろと立ち上がりながらウサギキメラと戦いだす。
 決着はその後、数分でついた。
 
●力持つ宿命そして、意外な結末
「援軍の人は消火作業に回ってくれたようで、被害は抑えれましたね」
 フォルはファルロスから手当てを受けつつ一息ついた。
「いったぁ、もうちょっと優しく頼む!」
 沖那はリズナに手当てを受けもだえていた。
 火傷も多くあるが元気そうである。
「沖那君には話してなかったですよね。俺が能力者になった経緯‥‥」
 フォルはそうして、街では剣術では街一番だったこと、それでも守れなかったことを話す。
「そうなんだ‥‥」
 沖那は改めて各自の話に耳を傾ける。
「私も〜家族を守るためになったんですよね〜」
 ラルスも手当てを受けつつ、妹までなったのが意外であったりとか語る。
「力はみんな護る為につかってるんだよ、恐怖を乗り越えて‥‥来てくれてありがとう、山戸君」
 水上が沖那の手をとって微笑んだ。
 火傷などがあるが、それでも気丈にみえる。
「妙な夢を見たんだ‥‥俺とタケルは別にいて、女の人を止めている夢」
「そういう夢、そしてタケルであるときも貴方が理解していたのなら二重人格ではなく別の要因があるかもしれませんね」
 覚醒をといた黎紀がマジメな口調で沖那に連絡する。
「暴走は無い様だが処遇について決めないといけないな‥‥エミタの摘出手術をするなら、皆金を『貸す』そうだ」
 南雲が沖那を見て、自分でどうするつもりだと言わんばかりの視線を向けた。
「あわせて90万Cですから〜一生かかってでもかえして〜もらいますよぉ〜」
 にっこぉとラルスが笑顔で問いかける。
「俺は‥‥まだ、未熟だし。この力事態が怖い‥‥『タケル』を乗り越えれたかはまだわからない」
「手術‥‥するの?」
 リーゼは少し残念そうに沖那の顔を覗こうとしたが、俯いている沖那の表情は分からなかった。
「だから、できれば能力者として訓練していきたい‥‥けど‥‥人を殺したここでは、やれないだろうな」
 事実は変えられない。
 沖那が人を殺してしまった事実は変わらないのだ。
「それなら、私に一案が‥‥もしもし、先日はお世話になりました。あのですね、保護観察を頼みたいのですけれど‥‥はい、いいですか? ありがとうございます」
 黎紀が携帯電話を使い、誰かと話をしだす。
 相手が誰かわからない一同は不安になっていた。
「沖那君は未成年なので、保護観察処分も適応できるはずです。その辺は軍部に掛け合いましょう。受け入れ先は近畿UPC軍の平良家が了承してくれましたから‥‥はぁ、マジメ口調疲れましたぁ〜」
 きりっとしていた黎紀の顔がふにゃっとなる。
「それじゃあ、まずは一緒に行きましょう」
 手当てを受けたフォルが沖那を支えて立ち上がった。
 そして一緒に進むとき、リーゼも肩を貸し、不意に沖那の頬にキスをする。
「沖那君。君がまた道を誤ろうとしたら、私たちが止めてあげる。だから‥‥一緒に頑張ろう♪」
「ちょ、今のって、えぇ!?」
 顔を真っ赤にする沖那に対してリーゼは何も言わず中国UPC軍の駐留所へ移動していった。
 少年の進むべき道は果てしなく長い。
 だが、それても戻せるだけの時間と力を彼はもっていると能力者たちは信じていた。