●リプレイ本文
●まぁ、趣味という奴で
ドローム本社に到着すると、傭兵達は研究等の端っこのさらに片隅に案内される。
『ドローム社AirCraft研究室』と看板には書かれていた。
「AC研という割に、主力機体でなく旧来の戦闘機や武器の開発に寄って行ってしまうのは何か理由が?」
「AirCraftじゃぞ? 航空機の武器開発をやっていて問題はないのである」
白鐘剣一郎(
ga0184)の問いに依頼主の八之宮・忠次室長は爆発したような白髪頭とは裏腹にエレガントに整えられた口ひげを撫でながら答えた。
答えはあっているが、ドローム社の利益にならない開発だから問題なのである。
「もっとも、あることが原因でそれもままならなくなってしまったので、皆さんに緊急で依頼をだしたわけです」
副室長であるアルパンサ・ロレンタが概要を書いた書類を一人一人に渡していく。
その一枚をぎゅっと握り締め、なみだ目で忠次に抱きつく少女がいた。
「うわーん! 忠次おじいちゃん、ミユさんに褒めてもらえるからと思ってやったのに逆効果になってごめんなさい〜」
このとき、大人の世界の厳しさを知った水理 和奏(
ga1500)である。
忠次がわかなを叱ろうと思い、手をあげるも、同世代の刃金 仁(
ga3052)に止められる。
「大人げないぞい」
「うむむ、仕方ないのである! だが、我輩の一存で作る武器は空戦兵器しかつくらないのである!」
「というより、知識や技術がないんですよ。今まで飛行機関係の開発ばかりやっていたものですから」
両手を腰にあてて踏ん反りかっていた忠次の腰がロレンタの突っ込みにより直角に曲った。
「まあ、室長の理想は違うかも知れんけど、俺らも必死だからさ‥‥何とかいいものにしたいな」
阿木・慧慈(
ga8366)は資料をめくりながらロレンタに答える。
「まぁ、あの人の趣味なので‥‥これでも結構絞ったほうなんですよ」
と忠次の方を見つつ、ロレンタはため息を漏らした。
「忠次のじいさんよ、兵器開発のアイディアに資料をもってきたぜ」
にやりと笑いつつ映像記録ディスクを渡したのは九条・縁(
ga8248)。
中身は数々の日本製ロボットアニメである。
「ふむ、参考にさせてもらうのである。傭兵の需要に応えねば予算がおりないのである」
直角に曲った腰を戻して、忠次は頷いた。
元気な爺さんだなぁと傭兵たちは思う。
「それでは、早速話し合いに入りましょう。コーヒーとかいれますね」
F−15が鎮座する部屋の片隅にあるミーティングルームにて長きにわたる討論が始まろうとしていた。
●アウト・オブ・眼中、地上魚雷
「兵器に必要なのは質と量のバランスだからな‥‥まぁその兼ね合いが難しい所だが、私はこれを推す」
御山・アキラ(
ga0532)は開発プランの一つ、クレイモアミサイルの解説書をテーブルに広げた。
「私の個人的分析からもこれがいいと思われる」
崎森 玲於奈(
ga2010)もアキラに同意した。
「ビジネス的観点から意見させてもらいますと、AC研の現状から考えて、最優先させるべきは何と言っても新兵器を売ること。そうするとマニューバ武装を押したいですね」
無表情なエメラルド・イーグル(
ga8650)がマニューバ武装の解説書を広げる。
「我もマニューバ武装を推したいな。対シェイドやステアー戦に対しての有効打の中で高火力、高命中力は捨てがたい」
顎をさすりつつ漸 王零(
ga2930)も同意を示した。
事実、人型で使える威力のある武器は多いものの、戦闘機形態で使える威力のあるものは少ない。
「浪漫思考というか、夢物語のような武器だが、期限の厳しさが忠次室長の負担になりそうだけどな‥‥」
同じくマニューバ武装を推したカルマ・シュタット(
ga6302)はつぶやく。
「地上魚雷は0票なんですね‥‥以前の輸送依頼ではクレイモアミサイルに誘導装置をつけて欲しいという意見があったので用意してみたいのですが‥‥」
意外そうな様子でロレンタはつぶやいた。
「それなら没なのである。しかし、マニューバ武装はおぬしらの言うように『何を』『どれだけ』つみ『どういう動き』で攻撃するかによって性能は大きく変わる調整の難しい武装なのである」
忠次は堂々と語った。
そんな難しい物をそもそも出さないで欲しいと傭兵達は思うが言葉を飲み込む。
「しかし、クレイモアミサイルも好評じゃからこのまま廃棄するのも勿体ないのである‥‥他に欲しい武装というものを聞いておくのである」
忠次はそういって、傭兵達から意見を聞きだす。
ビーム兵器など、いろいろでるが多かったのはH12ミサイルポッドの改良であった。
「これは射出機構は既存のポッドシステムと変わらんのであるか?」
ピンとひらめいたのか、忠次がロレンタに聞き出す。
「ええ、そのようですね‥‥」
「つまり、これの弾等を我輩のつくりだしたクレイモアミサイルにすれば射程の延長は可能であるな。一回の射出量を減らしても威力はそこまで下がるまい‥‥おい、この計算をすぐにやるのである!」
鬼気迫る顔で、研究員の一人にぐしゃぐしゃぐしゃっと公式を書いたクレイモアミサイルの解説書を忠次は渡した。
「本格的なのはマニューバ武装であるが、そのための資金を出してもらうための善処案を出さねばあのお嬢は納得しないのであるからな。これで我輩の天下が一歩近づいた!」
ぐぐっと拳をにぎり、忠次はにやりと笑った。
その姿に、仁は同じ空気を感じざるを得ない。
「一番足りないのが時間ということだ、後使うのも我々だと言う事もあるのだがな。搭載するベアリング弾の威力も不足するだろうからこれも改良すべきだろう」
「確かにな、おい、そこも計算するのであるぞ! わかったくわぁ!」
仁の一言に忠次は同意し、研究員に激を飛ばした。
(「やはり、こういう開発とかっていいもんだよなぁ‥‥」)
仁はココロの中でつぶやいた。
●マニューバ武装あれこれ
「そういえば“マニューバ武装”は武器スロットに装備する1つの武器として考えれば良いのだろうか?」
話が一本化したため、詰めの作業に入る。
ある程度の方向性を決めておけば対応はしやすいからだ。
詰め作業は剣一郎の一言から始まった。
「その通りである。カプロイア社のK−01小型ホーミングミサイルがいい例なのである。あの数のミサイルを対象をロックさせつつ発射させている点は賞賛に値するのである」
「規模作戦の経験からお話する事になっちゃうけれど、わかなロケット(彼女いわく84mm8連装ロケット弾ランチャーらしい)だと対シェイドの場合命中率がやっぱり不安で」
わかなはつぶやいた。
されど、ホーミングミサイルでは威力は弱い。
ただし、1発ならではある。
「つまり、これの応用なのである。アビオニクス込みで、小型ホーミングミサイルを発射しつつバルカンを撃ち込む。そのために行動力を制限せねばならない」
ミーティングルームに建てられたボードで戦闘機がミサイルを放ったあとバレルロールを描きバルカンを放つ動画が表示された。
「これは武装をばらばらにつかったりはできないのか?」
王零が問う。
「どこかが足りなくなってしまえばバランスが取れなくなりエラーが出る。それにKVは副武装とかつけられるのである。他の武装はそれでも問題ないのである」
確かにそうだと一同は頷いた。
「マニューバ武装か、確かに扱える物は限られるだろう。ただ、一点集中や面制圧できる柔軟性はあるかな。空間戦闘というか空間制圧性は直に使って見なければ判らないだろうが」
仁は動画を見つつ、言葉を続けた。
「もっとも、火力にもよるが機銃をやったところでシェイド、ギガワームに対し言うほど効果を上げるとは思い難い。但し、北米ではステアーが確認されているので、ステアーや中型以下のヘルメットワームに使うには良いかもしれない」
アキラはそういつつも、これによって『空中変形→空中で格闘攻撃→空中変形』という無謀な攻撃者を減らせる効果の方を高く見ていた。
「行動力を総て消耗せず、ある程度保持できて、有り余るメリットを誇れるならば上級能力者向けの武装としては使えそうだが‥‥積む武装選びや軌道がネックになってくるだろうな」
3ヶ月という時間を考えて玲於奈がため息をついた。
「どの位の距離を想定するかになるよな? ガトリングとかミサイルって事は中距離? 距離を伸ばして命中を下げるのもあれだからな」
阿木がマニューバ武装の重量や、練力消費についても検討する必要があることを指摘し、自分なりの要望をメモして忠次に手渡す。
「クレイモアポッドは一ヶ月で完成するじゃろう。マニューバ武装に関しては現在ある銃器などを参考に組み合わせを我輩の方で検討するのである。複数用意してまず試作をつくり、社長のOKがでればバリエーションを増やす予定なのである」
複数の武装をアビオニクス連動で使用する武器のため、武装や軌道の組み合わせでバリエーションは豊富になる。
それだけ、将来性があると忠次はいうのだ。
「射程と使用回数を増加させたミサイルポッドはできそうなのか!」
忠次の言葉に喜んだ。
「我輩に不可能はない!」
「忠次おじいちゃん、マニューバ武装はわかなの貯金とか出してもいいから完成させようね!」
Vサインをだす忠次にわかなが発破をかけた。
期限まであと3ヶ月。
果たしてどのようなマニューバ武装ができるのやら、それは誰にもわからない。
唯一つ、完成させなければならない事は確かなのであった。