●リプレイ本文
●アイドルに対する思い
ラストホープのTVで最近見るようになったアイドル・マーセナリー・プロジェクトという傭兵アイドルグループ。
街頭TVでその活動を見て、リズムに合わせて楽器を扱うマネをする瑛椰 翼(
ga4680)がいた。
「やっぱり、諦めきれないよな‥‥」
無意識に動いていた体に瑛椰は苦笑する。
バンド仲間を失ってから、瑛椰は音楽活動から疎遠になっていたがTVで歌っているアイドル傭兵達をみると血が騒ぐ感じがした。
瑛椰の隣ではルード・ラ・タルト(
ga0386)が同じくTVを見つつ別の思いをはせる。
(「アイドルが何なのかいまいちわからんが秘密結社は金がかかる。正体を隠して応募するぞ」)
CMのあとに流れた最終募集の告知を見て、瑛椰とルードは本部へと駆け出した。
その二人をみて、TVを見ていた加賀 弓(
ga8749)も苦笑しつつも立ち上がる。
「二十代後半の新人アイドルというのもある意味斬新かもしれませんね‥‥」
いくつになっても憧れというものはあるのだ。
「早くいかなきゃっ! 前回書類選考で落ちてたからラストチャンスっ!」
急いで走っているのは常夜ケイ(
ga4803)である。
路上で歌うストリートシンガーであり、IMPに以前から参加を希望していたが、中々通らなかった。
今回で最後とあり気合をいれている。
「私もいきましょうか」
しゃなりしゃなりとした足取りで弓は本部へと移動していった。
●出発前オーディション
本部で手続きを済ませ、選ばれたメンバーが郵便用移動艇に乗り込む前、空港の会議室でオーディションが行われることになった。
(「私は、他の女の子たちみたいに、可愛くないけど‥‥でも、お手紙を届ける役に立てるようなら、嬉しいな」)
コレット・アネル(
ga7797)は審査員として並んだIMPのメンバーや、今回オーディションを受ける女性達を見て思う。
「緊張しなくてええで、とりあえず席について自己PRしてくりゃ〜」
そして、その中で一人だけラフにスーツを着込んだ米田時雄が仕切りだした。
緊張感をとくには自分が緊張していてはいけないというのが米田流である。
「1番、私の名前は阿野次のもじ! 今期テーマは疾風怒濤! 戦場に咲く華は咲いて咲いて‥‥ただ、咲き誇るのみ! それがマイウェイYES色即是空」
阿野次 のもじ(
ga5480)は椅子の上に仁王立ちになって挨拶をした。
その後のPRも気合が入って、ノリノリである。
「あー、意気込みと勢いは分かったでよ、次いってみよか〜」
のもじの勢いに気圧されつつ、米田はすすめた。
「えっと、傭兵の私が自己PR‥‥ですか?」
ファレル(
ga7626)が困った様子で答える。
「もしかして、普通に依頼を受けに来た傭兵さん? オーディションが不要なら出発準備してもらっていいわよ」
姉御アイドル鷹代 由稀(ga1601)が苦笑しつつファレルにいった。
「そうですか‥‥コレットはどうします?」
「今回限りでないなら、遠慮させていただきます」
ぺこりとコレットも礼をしてファレルと共に部屋をでていき自分のKVの出発準備に取り掛かった。
「えっと、私で最後かな? 初めまして、大和美月姫と申します。畑違いかもしれませんが現役モデルやってます」
妙な流れの中、大和・美月姫(
ga8994)の自己紹介がはじまる。
現役モデルという言葉に米田は興味をしめした。
「勿論、歌と踊りも大好きです。基礎程度は学んだ事もあります。各地の皆さんをどんな時にでも元気付けられる存在になれればと思い応募しました」
純粋な日本人でありながらもブロンドヘアを揺らしつつ美月姫は挨拶をすませる。
その後、『たると』の名前でセーラー服を来て自己紹介をしたルードなどを含め4名が自己PRを済ませていった。
「ほいほい、ご苦労さんだがね〜。面接はこんなもんだら〜で傭兵としての仕事がんばってくりゃあよ」
チェックを済ませた米田が全員に向けて笑顔で答えた。
だが、実際はカメラスタッフに撮影をしてもらい、またそれをLHで検証する。
今回の能力者たちが全員出発したあと、米田は呟いた。
「さ〜て、ここからが本番だがね」
その顔は真剣である。
●ポストアイドル発進
「進路に敵はない、安心して飛ぶがよい」
索敵しつつルードが尊大な言い方で輸送機パイロットに声をかけた。
ルードの機体は金色のハヤブサであり、今回のメンバーの中でも特に目立つ。
『了解です。四国地方、関西地方へまずいって、補給を受けた後中国地方に配ってから戻るルートになりますので、よろしくお願いします』
パイロットから安心した声が聞こえてくる。8機のKVに守られながら飛べるのは精神的に楽だ。
『巡航速度で向かっていると多少暇だな』
瑛椰が呟く。
『歌でも歌ってみるのもいいかもしれませんよ?』
KV操縦経験がはじめての美月姫は自分を安心させるためにも提案をする。
無茶はできないのだ。
『煙幕銃が改造できなかったのは残念だわ‥‥鳩の羽は平和の象徴でいいかなと思ったのだけど』
コレットも依頼では初のKV戦ではあるが、緊張はしていない。
それよりも、サイエンティストとして煙幕銃の弾に羽をいれられなかった方が残念がっていた。
「そんなことよりも敵だぞ! 数は四!」
ルードの声が全員に響き、ファレルがクスリと笑う。
『‥‥空に舞う血飛沫、とても楽しみですよ♪』
近づいてきた牛頭で人の体をした空を飛ぶキメラ、バグアが伝承を間違えた”バフォメット”に対してファレルが近づき、最大射程でK−01小型ミサイルを撃ち込んだ。
しかし、250発ものミサイルを操作して文字を描くことはできない。
アルファベット一字が限界だった。
だが、4体のバフォメットにミサイルが全弾命中して、バフォメットらは瀕死になる。
『激しいビートでいくよっ!』
遊撃担当のケイの掛け声と共に右翼、左翼に展開していた瑛椰機と弓機が動く。
『おう!』
『はい!』
三人ともスナイパーライフルで次々と弱ったバフォメットを倒す。
『とどめの一撃! サンダークラーシュー!』
ディアブロのアグレッシヴ・フォースがかかったのもじ機の一撃が最後の一体を倒した。
「うむ、とりあえず敵はいないようだ。四国地域のUPC軍基地に着陸して配りにいこうぞ」
敵がいないことを確認したルードの仕切りで一同は一路手紙を配りに着陸することにする。
『了解です。護衛感謝します』
戦闘の様子はずっとアイベックススタッフが撮影し、通信もすべて収録されていた。
●手紙をお届け
「郵便です」
弓が手紙を基地にいるUPC軍人の検閲官に手渡す。
「あ、護衛を頼まれた傭兵ですよ。お返事はすぐにとはいかないようですね」
驚く検閲官に対して弓はやわらかく微笑んで答えた。
まだ生きている街中をケイや、のもじが郵便配達員のコスプレをして配る。
「お返事の際もご用命下さい、空路は私達が繋ぎますから」
「チリリン。息子さんからのお手紙です。伝言があれば受け取りますよ〜」
とあるキメラによって疲弊した都市は回復の兆候にあった。
その中でポストにそっと手紙を入れるコレット。
(「誰かがいると、素直に喜べないっていう人も、いるかもしれないから‥‥」)
心で呟きポストの前から立ち去る。
その後、関西地方の基地までいき、機体の燃料補給と能力者や配達員、スタッフの休憩を済まして再び配達ははじまった。
「なにも心配するな、私がいる限り絶対に手紙を守りきる。これはお前達を思う心であり、心と心を繋げる大事なパイプだ」
検閲の済んだ手紙を自らの手でルードは兵士達に渡していく。
見た目は12歳ではあるが、セーラー服を着ながらも威厳を保つ姿に戸惑いつつも兵士達は手紙を受け取っていった。
「お前達が命を賭け、誰かを守る気持ちを忘れず、自分を信じ戦い続ける限り‥‥必ずや届けると約束する。我が名と命に代えてな」
にっこりと笑うルードに勇気付けられている物は多い。
「写真一枚いいですか? 送り主に届けようと思いますから」
休憩中に買っておいたポラロイドカメラを片手に瑛椰は街中で手紙の届け主に了承を得た。
後ろに簡単なメッセージを書いてもらい丁寧に預かる。
「必ず、届けますから」
瑛椰は笑顔でそういって、次へ、次へと配達を済ませた。
ファレルも手紙の相手をコレットと思い笑顔で配っていく。
「‥‥貴方への思い、届けました」
美月姫は精一杯の笑顔で、手紙を瓦礫の上においた。
キメラの襲撃により、破壊されてしまった地域だったのである。
LHにいる限り、そういう情報は中々届かないのが現状だ。
世界中の情報が入り混じり、小さなものは消されていく。
「こういうのを減らすために戦い、またこうなってしまった人のためにも私達ががんばらなきゃ!」
自分に言い聞かせるようにして、美月姫は配達を続けた。
●最後の配達と結果発表
中国地方の基地に着陸するとき、後方からバフォメットが二匹襲ってくる。
『もう、街を傷つけさせないっ!』
「煙幕で目くらましをします」
左で待機していた美月姫機と後方待機のコレット機が動いた。
反転し、コレット機のG放電装置が唸り、一匹のバフォメットが消し炭と化す。
『このぉっ!』
その間に近づいてきたバフォメットに対して、美月姫機が短距離高速型AAMを撃ち込み、さらにスナイパーライフルRで止めを刺した。
『お疲れだ。敵の反応はないな?』
「ええ、アンジェリカのセンサーに反応はないね」
ルードの問いにコレットが索敵をするが、異常は見当たらない。
『さっさと配って、帰りましょう』
再び配達が始まった。
その光景が今、米田や審査員として参加したメンバーの前でビデオで流れている。
生中継ではなく、スタッフから預かった物を未編集で流していた。
「さて、誰を採用するか大体決まったかい?」
マジメな口調で米田はメンバーに聞いた。
各自は頷く。
依頼の報酬と共に、アイベックス・エンタテイメントから最後のIMPメンバーの合格通知が届けられた。
採用は5人。
総勢19人のアイドル傭兵が生まれたことになる。
「今後の方針の意見も聞かせてもらったけれど、来月あたり強化合宿を行うことにするよ。あとラスト・ホープにマネージャーも置く」
審査員としてきたメンバー達は歌の希望が多かった。
米田は歌唱力を強化する合宿をラスト・ホープで行うというのである。
「ここからは君達に配れる仕事は少なくなるがお互いを高めあって欲しい‥‥それだけだがね〜ほんじゃ、お疲れだでよ」
真剣に締めるかと思いきや、米田は最後に砕けた口調で審査員達を送りだした。
がんばれIMP、負けるなIMP!