●リプレイ本文
●寿司屋に集う猛者たち
「いや、それにしても、ラストホープで最初に見る姿が泣いてる姿というのは如何なのだろうな」
御山・アキラ(
ga0532)は回転寿司屋『寿司Kotoh』に入り、作業着ではなくヨレヨレになったタキシードで泣いているゴンザレス・タシロをみてため息をつく。
「おっちゃん! タシロのおっちゃん! なしてこんなところにいるだか!? メルス・メス社の仕事はどうしただ?」
「ゴンザのおやっさんはメルス・メス社の本社勤務からラスト・ホープの支社担当に変わったんだ。あんたは知らなかったか」
タシロに駆け寄る内藤新(
ga3460)に続き店に入って来た能力者の一人、霧島 亜夜(
ga3511)がことの成り行きを説明した。
「うるせぇなぁ‥‥俺はいま‥‥って、嬢に坊主に亜夜かおめぇらなにしに来たんだよ」
一連の流れを聞いていたタシロが3人の方を向き、一瞬驚くがすぐにベルトコンベアーの方に顔を向けて寿司を食べだす。
「そんなことより、ゴンさんの方こそ何をしているのです? 隣の二人も気になりますが‥‥」
瓜生 巴(
ga5119)がタシロと残り二人―八之宮忠次とジェイコブ・マッケイン―より上流に座った。
「旧知の結婚式帰りだよ、見れば分かるだろうが! 貴様の目は節穴か!」
ジェイコブがビールジョッキをガツンと置きつつ巴に対して厳つい視線を送る。
「軍曹も荒れるな、まぁ落ち着いて呑めよ」
ジェイコブの肩を叩き、ビールを注ぐと自分も乾杯をしてゲック・W・カーン(
ga0078)は隣に座って酒を飲みだした。
「昼間から飲むとは、良い日ではないか。我輩は八之宮の開発に携わった刃金だ。他の二人はよろしく頼むぞ」
刃金 仁(
ga3052)はジェイコブと一緒に飲むゲックをみて、気分を良くしつつ八之宮の隣に座る。
カウンター席には仁、忠次、ゴンザレス、ジェイコブ、ゲックという5人の男の奇妙な列ができていた。
●嫌な事は愚痴って呑んで忘れろ
「は〜い、軍曹様。ビールどうぞ。一応、俺は男だからね?」
浴衣姿で鳥飼夕貴(
ga4123)はホステスのように振舞って軍曹のグラスにビールを注ぐ。
「女装した男が多いな、LHは‥‥それでも貴様らに頼らなければ現状を打破できやしない。歯がゆい! ああ、歯がゆい!」
そそがれたビールをぐいっと飲み干してジェイコブは唸った。
(「酒席でリネーアさんの相手ができるように練習ですね」)
奉丈・遮那(
ga0352)は一つ違った気持ちでこの難題に対応している。
「すみません、僕自身もブートキャンプは耐えられそうになくて参加していませんでした」
「軟弱な奴も多いか‥‥まったく、最近の若い奴らは‥‥」
ジェイコブが遮那の言葉を聞き月並みな台詞と共にビールを飲みつつ愚痴をこぼした。
「わはー、すげーな軍曹。軍曹ってお酒強いんだ」
まるで水のように軽々と飲んで消えていくビールを見て火茄神・渉(
ga8569)が少年らしい尊敬のまなざしをジェイコブに向ける。
「我輩たちの中で一番強いのである。軍隊はそういう場所なので、大人になったら気をつけるのである」
渉に対し隣の席に座っていた忠次がニヤァと笑らった。
「子供がビビルだろうが、爺さん。間に座れ、貴様はジュースでも飲め」
気分がよくなったのかジェイコブはゲックと一緒に渉が座るだけずれ、オレンジジュースを頼んで注ぐ。
「ありがとう、軍曹。じいちゃんもな」
にこっと笑った渉はそのまま回転する寿司を食べだした。
食べているのは玉子、〆サバ、いわしに穴子と中々通である。
「メアリーもあいつくらいのときは可愛かったのによぉぉ、こっちにきてUPC本部オペレーターの男とできるとはぁぁぁ!」
盛り上がっている3人をよそに、タシロは泣きだした。
「娘が嫁に行った父親の愚痴というものを聞かせてくれて助かった。生憎、もう自前では聞けないから‥‥」
寿司をつまみウーロン茶を飲みながらアキラはぶっきらぼうにいう。
「嬢の両親は‥‥そうか。ジェイコブも嫁さんをなくてたっけな。そうしてみりゃ、俺も幸せな方か‥‥」
「昔の話をほじくるな、クソが」
悲しむことでさえ、できる人できない人がいることをタシロは確認させられる。
「俺も最近結婚したんだけど、やっぱり周りのみんなが祝ってくれるから幸せなんだよな。おやっさんがそんなんじゃ、娘さんが可哀想だぜ。元気出しなよ!」
見るにしのびなくなったのかタシロをはさむようにアキラとは反対側の席に亜夜が座り、ビールを追加して注ぎだした。
「メアリーの幸せか‥‥俺は今まであいつに碌なことしてやれなかったからなぁ」
亜夜の言葉にタシロも調子を戻す。
「おっちゃんの新武装はどうなっただか?」
内藤がアキラの横に座って顔を出しつつタシロに聞いた。
「ブリッツ・インパクトか? それなら、阿修羅が参考になったぜ‥‥メルス・メス本社じゃR−01やS−01が主流だったがこっちは違うな。本当に各社の競争が見える」
多種多様な能力者が集まり、個人で貸し出し権を得ている傭兵では南米ではいじれないものを多くいじれているとタシロはいった。
「なるほど‥‥」
「阿修羅が参考になったってことはサンダーホーンみたいな機体固有装備ってことか? できればディスタンより安いといいな」
納得するアキラと亜夜。
亜夜のほうはさらに要望を突きつける。
「阿修羅の値段レベルの機体は作りたいもんだな、整備しつつ検討はするが俺としては陸戦機をベースにした格闘用KVだからよ」
涙を拭いたタシロは、開発者魂に火をつけて語りだした。
飲むよりも寿司を食べる方に集中しはじめている。
(「大分食べるようになってきましたね。そろそろころあいでしょうか‥‥」)
コンベアの上流でその様子をみていた巴はお茶をもらうついでに店員にある提案を持ちかけるのだった。
●八之宮忠次へのお願い
「のう、八之宮。撃ち切ったら補給まで使えない兵装を、その場で使用可能にする予備弾倉や錬力高速チャージパックとかそう言う声も上がっておるぞ」
「ベルナール社長がレーザー兵装の予備パックをアクセサリで補うとか言っているらしいのである。チャージパックは別途開発はされるかもしれないのである。我輩の方で確保できればよいのであるが‥‥」
イカをもしゃもしゃ食べつつ忠次は仁からの提案を聞いていた。
「予備弾倉やリペアユニットはこっちでも考えていたぜ。前線に出て行って撃墜される現状は減らしたいもんだ」
タシロも忠次の話に乗っかりつつ話を始める。
整備記録などをみると大規模作戦などにおけるKVの撃墜が多いことをしり、前線でのすばやい対応が必要だとタシロは思っていた。
「F−15も鹵獲されている現状だ。相手の技術を知る前にこっちの手の内を知らされ始めてるのは戦争をやるにしては不利だ」
中トロを食べつつ、ジェイコブが同意を示す。
「F−15の改造計画も予算を絞られておるので自由にできないのが困り物であるな‥‥」
以前提言していた、改造計画も綱渡りを多少抜け出た忠次の研究室では予算をひねり出すのは厳しかった。
「ならば、売れるものをいってやろう。知覚兵器を増やして欲しい。扱いやすい荷電粒子砲やワイズマンクロック改良版もしくは知覚ミサイル兵器などだ」
ネガティヴな忠次に対し、仁が提案を持ちかける。
「ミサイルをカードリッチごとビームコート射出すればできなくはないかもしれないのであるが、高価な使い捨て兵器になるがそれでもよければやれなくはないのである。長射程レーザー砲は我輩も考えておったところであるな」
髭をいじったあと茶をすすり、忠次が仁に答えを返した。
「ねぇねぇ、じいちゃん。小型KVで人型のまま空をビューンと飛べたりできないの?」
カツオのタタキ、スモークサーモン、カンパチ、クエとおよそ子供らしくないネタを食べていた渉が忠次にもちかける。
「KVの小型化はSES機関の問題もあって難しいんだよ。直立形態でいけば4〜6m、航空機形態でいけば6〜10mが必要になってくる」
忠次に言ったはずの質問は隣でウニを食べるタシロから回答が出された。
「それで人型のままできる空中戦KVができたら面白いな。忠次さんのマニューバユニットやジェイコブさんの空戦技能やタシロさんの技術力が結集すればできると思うぜ」
「発案の段階でヘルメットワームの慣性制御にそれで勝てないと、試作品の製造すら現状では厳しいが‥‥小型化による軽量化とブースト空戦スタビライザーでも何とかなるかどうか‥‥」
「本当にそんな機体ができるのなら、すごいよねぇ」
盛り上がるメンバーに食べるのをやめて、夕貴は酌をして回る。
米好きの夕貴として、盛り上げるメンバーがいるならと黙々と食べていたのだ。
ちなみに、軽く20皿は1人で平らげている。
「変形しないKVは新しいですし、僕としても興味ありますね」
聞きに回り、飲ませていた遮那も笑い夕貴と同じように酌をした。
そして、もう1人、ほぼ食べるのに集中していた人間が動く。
「ゴンザさんが好物なウニですよー。今行きますよー」
ウニにしては何やら青みの強いモノを巴は流した。
「ウニはおいらもすきー」
「渉サン、ソレハトッチャダメデス」
手を伸ばそうとする渉をカタコトな言い回しで巴が静止する。
「おお、悪いなそれじゃ‥‥ごふっ!?」
気分も乗ってきたタシロがウニを取り食べた。
だが、そのウニはウニとワサビの比率がワサビのほうが明らかに多い特殊仕様であったため食べたタシロはダメージを受け倒れる。
その後勘定をすませて、アキラの提案通りLHの飛行場で気分転換をすることとなった。
「やはり、95%はまずかったですね‥‥勉強になりました」
店から出るとき巴はそっと呟く。
騒動の発端がでていって従業員達のつき物が取れた笑顔に能力者達は見送られるのであった。
●飛行場で二次会?
「カップ酒と缶ジュースですが、改めて乾杯しましょうか‥‥タシロさんの娘の幸せと新たな開発事業を願って」
遮那がそういって成人になった人の分だけのカップ酒、未成年用の缶ジュースを買って滑走路の見える公園に集まった能力者たちに配っていく。
「大丈夫ですかゴンザさん。とりあえずごめんなさい」
巴が顔が青ざめているタシロを支えつつ、形式的な謝罪をした。
「舌がひりひりするが、お陰で目が覚めたぜ。おめぇらありがとよ」
カップ酒を受け取り、タシロは精一杯の笑顔を浮かべる。
「時に軍曹‥‥今度は白兵戦の訓練を頼みたいんですがねぇ? やっぱKVで格闘やらかすにゃ、自分で自分の身体をどう動かすか理解してた方が、実際に戦う際に有利かと思うんですがねぇ」
カップ酒を持ちつつ、ゲックが落ち着いたジェイコブにいえなかった話を切り出した。
「KVの専門訓練はできないが、搭乗者の基礎体力訓練とかなら俺の基地でも担当できるか‥‥敷地で乗っておさらいくらいの流れなら考えてやらんでもない」
酒は飲みあきたのか安物の煙草に火をつけジェイコブは紫煙を吐く。
「楽しみにしてますよ、泊まりで朝まで飲むのも‥‥」
「はっ、それまでにいい酒を用意しておいてやるよ」
にやりと笑うゲックに鼻で笑いつつジェイコブは言葉を返した。
「資金を稼ぐために精進するのだぞ、依頼があれば我輩も参加しよう」
「お主の知力は我輩も認めているのである。お互いくたばるまで開発していくのである」
仁と忠次はニヤニヤと見つめあいながら肩を組んでいる。
「それじゃあ、お疲れ様とがんばりましょうをまとめて乾杯!」
依頼も終わったということでお酒が飲めると夕貴が意気揚々と乾杯の音頭をとった。
そのとき、滑走路から飛行機が飛び立つ。
数々の夢や希望もこの日飛び立った。