タイトル:新たな鎧と鬼軍曹っ!マスター:橘真斗

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/11/20 18:11

●オープニング本文


「ぜぇぇいんせいれつっ!」
 がっしりした体格の男の声がアメリカの西海岸にあるUPC大西洋空軍基地の戦闘機格納庫に響いた。
 その男の前に腕立てや、整備をしていた軍人達が一斉に並ぶ。
 その動きには微塵の無駄はない。
 整列から、敬礼までを軍人達はロボットのように正確にこなす。
「近いうちにULTのヒヨッ子どもとの模擬戦の話はしたな!」
 男はサングラスをかけ、帽子を深くかぶっている。
 しゃがれた声は40を越えている年齢を感じさせた。
 しかし、目や放つ気配は自分よりも二回りも大きく、一回りは幼い軍人達を威圧していた。
「日時が決まった。我々は今使っている機体で、向こうは新型機でのチーム戦とのことだ!」
 整列した軍人達の真ん中に男―ジェイコブ・マッケイン軍曹―は立ち止まり、軍人達を睨む。
 その視線に背筋が一斉にピンとなる軍人達。
「此方の弾はペイント弾。ミサイルも電子ロック式のものだが、実戦と思え! 負け犬に用はない!」
「「イェッサーッ!」」
「作戦名を発表する『AWR(Air Wars Run)』だ!」
 ジェイコブは高らかに叫び、F−15を指揮棒でさす。
「イーグルドライバーとしての誇りと、名誉をかけて空を駆けろ! 貴様ら!」
「「サー、イェッサーッ!」」
 軍人達の返事はジェイコブに負けないほど大きく、雄雄しく格納庫にひびいた。


「皆さんへULT上層部より依頼です」
 オペレーターのリネーア・ベリィルンドは凛とした口調で話をだす。
「新型機F−107による模擬戦を行ってもらいます。相手はUPC大西洋空軍の『イーグルドライバー』です」
 その言葉に能力者たちの反応はさまざまだった。
 首を傾げるもの。
 怖気ずくもの。
 羨望のまなざしをもつもの。
 それらの反応など関係なく、リネーアは続けた。
「ただし、新型機を貸し出せるのは8機まで、戦闘機形態のみの空中戦を行ってもらいます」
「4機前後の小隊を組み、最大2チームのチームドッグファイトです。相手も同じ条件なので、有利不利は機体と腕になります」
 新型機のスペックが表示され、知らされているナイトフォーゲルより上なのは明らかだった。
 問題は、それを使いこなせるか‥‥。
「バルカン類はペイント弾。ミサイルは電子ロックによるシュミレーションプログラムで再現します」
 実戦でないことに安心しつつも、新型機を触れる高潮感が場を支配していった。
「オペレーション名は『AWR(Air Wars Run)』です。希望者は登録を行ってください」
 内容を読み上げ、リネーアは一礼した。
 そして、そのまま終わるかとおもいきや思い出したかのようにリネーアが顔を上げてにこやかに微笑みつつ話し出す。
「そうそう、現地担当の教官は鬼軍曹って呼ばれるほど厳しい人のようよ」
 その響きはリネーアの笑顔に反して、とてつもないものに聞こえた‥‥。

●参加者一覧

水上・未早(ga0049
20歳・♀・JG
ゲック・W・カーン(ga0078
30歳・♂・GP
アグレアーブル(ga0095
21歳・♀・PN
ツィレル・トネリカリフ(ga0217
28歳・♂・ST
藤枝 真一(ga0779
21歳・♂・ER
月影・透夜(ga1806
22歳・♂・AA
麓みゆり(ga2049
22歳・♀・FT
カイト・キョウドウ(ga3217
20歳・♂・SN

●リプレイ本文

●遭遇、鬼軍曹
 高速移動艇が現地に到着しても、新型機の姿はない。
「いい空気だ。懐かしさがある」
 カイト・キョウドウ(ga3217)は高速艇をおりながら、軍事基地独特の風を感じていた。
「早く進め、後ろが詰まる」
 月影・透夜(ga1806)にせかされ、カイトは悪いと先に進む。
「『イーグルドライバー』か‥‥あこがれるな」
 藤枝 真一(ga0779)は戦争や紛争をなくしたいと思っている。
 そんな彼にはバグア軍ともやりあえている『イーグルドライバー』は憧れの的以外の何者でもなかった。
「遅いぞヒヨッ子ども! とっととこっちへ来いっ!」
 突然、しゃがれながらも基地全体に響きわたるような大きな声が聞こえてきた。
 能力者たちはその声にびくっとなる。
 格納庫の奥から出てきたのは、40代のキャップにサングラス。白髪交じりの口ひげを携えた軍人。
 リネーアから聞いていた『鬼軍曹』こと、ジェイコブ・マッケインだというのはすぐにわかった。
「今回、お前ら能力者達の『お守り』を担当することになったジェイコブ・マッケイン軍曹だ。ここに来たからには俺の流儀に従ってもらう。わかったな?」
 凶暴なキメラとは違う感情のある威圧がそこにあった。
「ついてこい、新型機が来るまでもう少しかかるって行ってきやがった。デリケートだか知らんが‥‥」
 能力者の反応など求めていないかのようにジェイコブはミーティングルームへ案内するのだった。

●ミーティング&トレーニング
 ミーティングルームに軍曹がはいると、横一列に並んでいたイーグルドライバー達が直立不動の姿勢をとった。
「俺が見てないから時を抜くな! 戦場では一瞬の隙が生死を分けるんだ! わかってるだろ!」
「「サー、イェッサ!」」
「休め!」
 その言葉に肩幅ほど足を広げ、一斉に腰のあたりで手を組むイーグルドライバー達。
 ぴりぴりとした空気が張り詰めている気がする。
「その辺に座れ、概要は連絡行っているな?」
 教壇のようなところにたち、ジェイコブは能力者達を席に座らせ、確認した。
 それに能力者達は頷く。
「てめぇらについている口は飾りか! 返事くらい声でしろ!」
 ドン!と教壇をジェイコブは叩いた。
「まぁいい、2チームで、離れた空域で戦ってもらう。まずはお前ら、試験飛行もかねて30分間9時の方向と、3時の方向へ飛んでいけ。そのあと、こちらのチームが出撃する。反転して迎撃するなら狙って来い」
「頭をとられるかもしれませんよ?」
「ヒヨッ子にやられるようなら、それまでだ! いいな、お前ら」
 ジェイコブは教壇をはさんで並んでいるイーグルドライバー達を一喝した。
「それと、ミサイルによる撃墜、ペイント弾を当てられたやつは即帰還。その後機体の清掃だ。自分の尻は自分で拭け!」
「「サー、イェッサ!」」
 それから担当するイーグルドライバー達を紹介された。
 各自が自己紹介を行う。国籍も肌の色もさまざまで、まさに北米らしいといえた。
「TACネームの希望もかねて、ヒヨッ子ども自己紹介をしろ」
 TACネームは希望を言って教官に決めてもらうのが通例である。
 もっとも、通らないこともあるのだが。
「TACネーム、clockの麓みゆりです。よろしくお願いします」
 麓みゆり(ga2049)マフラーにフライトジャケットと装備からして戦闘機乗りらしい。
 敬礼もどこか決まっていた。
「TACネーム、Soirの、アグレアーブルです」
 アグレアーブル(ga0095)がみゆりにならって自己紹介をした。
 軍曹に気おされたのか、少しぎこちない
「TACネーム、Holgerの傭兵・水上・未早です。よろしくお願いします」
 水上・未早(ga0049)は丁寧に一礼した。
 女性陣がいることに顔のにやけるイーグルドライバーもいた。
「女だからって油断するなよ、相手AIを埋め込んで人間じゃなくなったヤツなんだからな」
 ジェイコブの厳しい声が響く、事実であってもなんとなく居心地の悪い空気が流れた。
 そのまま月影が自己紹介をはじめ、真一、カイトと続いた。
「TACネームなし、ツィレル・トネリカリフです。経験不足ではありますが、チームリーダーを務めます」
 ツィレル・トネリカリフ(ga0217)はそんな自己紹介をした。
「TACネームを考えてないなんて、空戦をなめてるのか? てめぇの資料はもらっている。てめぇのTACネームはSkullだ!」
 自己紹介と、UTLから送られてきたパーソナルデータを見合わせていたジェイコブは吼えた。
「‥‥了解」
 一瞬言葉を詰まらせたが、ツィレルは下がった。
「同じくTACネームなし、ゲック・W・カーン。」
 ゲック・W・カーン(ga0078)はそれだけいうと砕けた敬礼をした。
「てめぇもか‥‥、てめぇのTACネームはGutsだ。その頭に叩きこんでおけ。連携をするうのなら呼び名がわからないのは死んでいるのも一緒だ!」
 苛立ちを隠せない軍曹は、語気が荒くなる。
 大体終わったとき、外にF−107が搬入されていた。
「すみません、教官。多少、この領地内で動かしてチェックをしてもよろしいでしょうか?」
 ツィネルがいい、水上、月影、が同意を示した。
「それはかまわん」
 意外な返事にちょっと戸惑う能力者達。
「お前らもこちらのデータを集めて対策を練るつもりだろう? こいつらにも新型の動きをしっかり見させてもらう」
 ジェイコブは両側のイーグルドライバー達をにらみ、ドライバー達は任務と理解し答えた。
「「サー、イエェッサ!」」
 手の内を見せることになるが、仕方ない。
 能力者達は各自、行動に移った。
 データ収集をするもの、試作機のチェックをするもの。
 実際に変形機構を再チェックしたりするものなど、さまざまだ。
 イーグルドライバーたちも作戦時間まで能力者に付き合っていた。
「さぁ、五分五分かそうでないか‥‥こんなところで負けるようじゃ、世界を任せられねぇぞ。ヒヨッ子ども」
 ジェイコブは若き戦士達を眺めながら、小さく呟いた。
 
●AWR開始
「アルファリーダーより各機へ、状況を報告せよ」
 ツィレルがF−107の無線を使いチームへ連絡を取る。
 今、空を飛んでいる。
『こちらClock、ちょっと重量級だけど操縦にはなれたわ。皆も気をつけてね』
『同じくHolger。雲もなくていい天気ですね』
『Gutsより、Skullへ。お互い妙な名前をつけられたな』
『異議なし。そろそろ向こうが離陸してくる時刻か‥‥』
 F−107についている時計を見ながら、ツィレルはため息をつく。
「イーグルドライバー。バグア襲来まで無敵を誇ったF−15パイロットの精鋭、か」
『Clockより、Skullへ。彼らを越えなければ、ワーム戦い続けるのは厳しいわよ』
 ツィレルたちは4機編隊の基本フォームロッテ戦術のためパートナーを合わせて組んでいる。
「アルファリーダーより各機へ、機体を旋回させて敵機との戦闘空域へ入る‥‥」
『『了解っ!』』
 ツィレルの一声に全員が返す。
 今、アルファチームは一心同体だった。
 
●エンゲージ!
 一方、ブラボーチームは早速空戦に入っていた。
 先手を取られてしまったのだから仕方ない。
「ブラボーリーダーから、各機へ。敵機高位をとらえられた各機へ、回避行動!」
『Kestrelより、ブラボーリーダーへ、ズーム&ダイブで仕掛けてくると思う』
『Soirより、ブラボーリーダー、Kestrelに同意‥‥来ます』
 レーダーが上空からの敵機の接近をしめした。
 最大速度で接近してくる。
 獲物を捕らえた鳥そのものだった。
 しかし、事前に調べていた賜物か、回避に成功する。
 だが、背後をとられた。
「‥‥Shit!」
 思わずカイトの口から舌打ちが漏れた。
『ブラボーリーダーより、ブラボー4へ。あせるな、まだ決まったわけじゃない』
『ブラボー2よりブラボー4へ。被弾はしていないし、距離も開いている』
「そうだな、後ろを取ったら、取り直せばいい。あせったら負けだ」
 カイトは深呼吸をして、再び連携を取り戻す。
「ブラボーリーダーから、ブラボーウィングへ。ドラッグを試してみてくれ」
『ブラボー3、了解』
『ブラボー4、了解』
 アグアレーブルとカイトはそれぞれ編隊をはずれ、F−15を狙うため、高度を上げる。
 F−107の表面に太陽の光が反射し、きらめいた。
 それでも、F−15はウィングを追いかけず、サイドワインダーをシュヴァルム単位で発射した。
 真一のコックピットに電子音が鳴り響く。
 4発のミサイルが近づいているのがモニターに表示されていた。
「ブラボーリーダーより、各機へ。狙われた。このままミサイルを引き付ける。シュヴァルム解除、第一、第二ロッテにて行動」
『ブラボー2、了解以後、Lunerとする。相手はオーバーシュートしたようだ』
 正確な判断かはわからないが、真一は自分の状況に集中するのが精一杯だった。
 幸運にもミサイルはバレルロールで回避できた。
 月影も同機動を描いてついてきた。
 敵はオーバーシュートし、背後をとる形になる。
 敵の背後を取った。
「遊ばれている気もするな、その隙をつく」
『SunよりLunerへ。早めにアタックを仕掛ける』
 真一からも同じ答えが帰ってきた。
 攻めるときに攻める。
 それはどういうときでも変わらない。

●ブースト&ダイブ!
 エンゲージしてから数十分間、一進一退の攻防が続いていた。
 そんなとき、急にみゆりからツィネルへ通信が入る。
『ClockよりSkullへ、提案があるのだけれど』
「SkullからClockへ手短かにな」
『ブーストで一気に高度ととってダイブして攻めるというのはどうかしら?』
 機体のブーストはマッハ6まででる超加速だ。虚を突くのなら、あるてだが‥‥。
「難易度が高いが‥‥先手必勝か、アルファーリーダーより各機へ、これよりロッテを解除。GutsとHoligerは通常で高度取り。Clockと俺はブーストをつかってさらに上からズーム&ダイブする」
 正直むちゃくちゃな話だが、勝ち目をするには博打をする必要もある。
『Holiger、了解』
『Guts、了解‥‥Skullは気をつけろよ、かなりGがかかるはずだ』
「わかっている」
 ツィネルはそう返しながらも、バレルロールやGヨーヨーで疲弊していた。
『それじゃあ、先にいくわよ。Skull!』
 アルファチームが高度をとろうと動き出す。
 そのなかかでもみゆりの機体のSES機関による高出力ブースターを点火させた。
 遅れて、ツィネルの機体も速度を急激に上げた。
「ぐぉぉっ‥‥」
 マッハ6で重力に逆らって駆けあがる2機の戦闘機。
 そしてキランと太陽の光を反射したかと思うとループする。
 ブースターをふかしながらの無理なループ。
 だが、確実に相手の上を取っている。
 すさまじいGにツィネルのAI『スティア』が起動し、Skullの何ふさわしい形相へとツィネルは覚醒した。
「この速度での機動が、これからのスタンダードになるんだよッ!」
 マッハ6による接近。みゆりと共に一瞬で迫った有効射程でペイント弾の雨を降らせた。
 4機のうち2機をそれで潰し、そのまま突き抜ける。
 キィィンというソニックブームが残りの二機を揺らした。
「いい感じね」
『俺のほうは限界だ‥‥何とか‥‥体勢を、持ち直してから援護に‥‥回る』
 墜落までは運良く防ぐも、ギリギリのようだった。
「無理しないで、もう二人いるのだから彼らに任せましょう」
 はるか上空で戦う二人をみゆりは見上げる。
 空は青く、太陽はまぶしかった。
 
●フルファイアッ!
 ブラボーチームのカイトとアグレアーブルは第一ロッテを追うF−15を挟む様に動いた。
「Kestrelから、Soirへ。ミサイルと共に機銃の連射を行う」
『了解、援護します』
 2機のF−107からホーミングミサイルのプログラムが作動し、F−15を狙った。
 そして、2機は加速し、ミサイルをよけようとバレルロールするF−15を同じ機動でカイトは追いかけながらペイント弾を連射した。
 4機のうち2機がハイGバレルロールで急激に速度が落ちた。
 後方の1機にペイント弾ががヒットする。
 すぐさま二人は背後を取られ、ペイント弾による報復を受けた。
「ブーストッ!」
「‥‥撃ってきたか、ならば‥‥かわす!」
 アグレアがブーストで加速し、カイトは急降下でよけようとする。
 カイトは急降下のGに勝てず、ペイント弾を2,3発くらうこととなった。
「KrestelからSoirへ。ブラボーリーダーの援護へ行ってくれ。帰還する」
 
●一瞬の決断
「GutsからHoligerへ、後ろのリーダー機影なんとかならないか?」
『ホーミングミサイルも使ってますが、腕が違います』
 避けられながら、シザースをさっきから繰り返してばかりだった。
「一発賭けをしてみるか」
 緩やかにループをかけながらゲックは上昇。ペイント弾の有効射程ギリギリのところまで引き寄せた。
 そこで、空中変形をし速度を無理やり落とす。
 戦闘機から、手足が生え、人の姿を形成する。
 バレルロールではない動きにリーダー機と思われる機体が一瞬戸惑った。
 急降下してくるゲック機を避けた。
 ゲック機は再び戦闘機へ変形し、ペイント弾をリーダー機に浴びせた。
「軍曹に殴られるだろうな‥‥」
『私はしりませんよ』
 ゲックの呟きに対して、ペアの返事は冷たかった。
 
●殴る訳、そして‥‥
 勝負は五分五分の結果におわり、ペイント弾を食らったものは機体の掃除をしている。
 ゴスッ!
 平和な雰囲気を潰す鈍い音が夕暮れの格納庫に響く。
 予想通り、ゲックはジェイコブ軍曹から思いボディブローを貰っていた。
「殴られた理由をいってみろ、クソ野郎!」
 ゲックの胸倉を掴みながらジェイコブは怒鳴り散らす。
「ルールを破ったからだと‥‥」
「馬鹿野郎! てめぇはロッテ戦をなめてる。偶然成功したからいものの、ペアがいなくなったもう一人はどうなる?」
「そして、あの機体に能力者! てめぇらの存在がなきゃこの戦いかてねぇんだよ! 気に食わないがな!」
 あまりの剣幕にゲックは言葉を失った。
 能力者として背負うものは大きい。
 背負えるだけの強さを求められている。
「だが、変形してこっちのリーダーを落としたことは褒めてやる」
 掴んでいた胸倉を離し、ジェイコブはキャップをかぶりなおした。
「TACネームは登録しておく。この基地で空戦を学びたいならまたきな。しごいてやるからな」
 ジェイコブはそれだけいうと基地の奥へと戻っていくのであった。