タイトル:仁義なき宅配マスター:橘真斗

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 9 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/07/05 02:34

●オープニング本文


「空気が美味いぜ」
 懲役10年を終えて収容所をでてきた、伊頭 蒼紀は久しぶりにすう娑婆(しゃば)の空気を楽しんだ。
 蒼紀はいわゆる『ヤクザ』と呼ばれる職業であり、バグア襲来時も近畿の収容所で過ごしていたのである。
「さて、実家にかえらねぇと‥‥な、なんじゃこりゃぁ!?」
 しかし、実家である伊頭組の屋敷はバグアの襲来により倒壊して、組織としても動いていなかった。
「若旦那! おい、おめぇら! 若旦那がけぇってきたぞ!」
 瓦礫となった実家の前で蒼紀がぼーっとしていると、下っ端構成員が集まってくる。
「おお、おまえらか。じいさんとか親父とか、どうしたんだよ」
「へぇ。大親分は亡くなりやして、親分は行方知らずでして‥‥」
 厳つい顔の男の一人が、蒼紀にかしこまりつつ説明をはじめた。
「ってことは、実質組は俺が仕切らなきゃならんのか」
 蒼紀はため息をつきながらも顎をさする。
 ピンチではあるが、逆にチャンスでもあった。
「おい、組の残り資金はどれだけあるんだ?」
「それが、崩壊と共に盗んでいった奴もいやがって‥‥これくらいしか」
 構成員の数えた金額はあまりにも少ない。
 蒼紀は何か建て直し資金を稼ぐ方法を探すしかなかった。
「俺も獄中で何もやってなかったわけじゃない。ピザ屋で稼ぐぞ」
「ぴ、ピザ屋‥‥」
 予想外な蒼紀からの言葉に構成員達が動揺しだす。
「おうよ、俺達は腕っ節に自身がある奴らばかりだ。どんなところだろうとピザを届けれれば人気も上昇ってもんよ」
 バグア襲来の間、外の情報を知らない蒼紀にはキメラも分かっていなかった。
「わ、若旦那‥‥今は、その‥‥」
 汗を噴出しだす構成員達。
「チンピラどもも集めろ、バイト代は払ってるんだ役立ってもらうぜ。運ぶのはお前らだ。遅刻したら、指詰めてもらうから覚悟しろよ」
 蒼紀のにやりとした顔は本気と書いてマジだった。
「お、おい‥‥UPCに連絡して傭兵を集めようぜ。俺達だけじゃどうにもならねぇ」
 本気になって意気込んでいる蒼紀にばれないよう、構成員達はこそこそと傭兵に連絡を入れだす。
 自らの命のために、背に腹は代えられなかった。

●参加者一覧

御山・アキラ(ga0532
18歳・♀・PN
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
緋室 神音(ga3576
18歳・♀・FT
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
周防 誠(ga7131
28歳・♂・JG
鷺宮・涼香(ga8192
20歳・♀・DF
レティ・クリムゾン(ga8679
21歳・♀・GD
女堂万梨(gb0287
28歳・♀・ST
Fortune(gb1380
17歳・♀・SN

●リプレイ本文

●前途多難ソウキーズピザ開店
「しかし、なぜヤクザがピザ屋?」
 御山・アキラ(ga0532)の第一声はソレだった。
 近畿地方のとある町外れ。
 ところどころが街が破壊されて、どこか退廃的な雰囲気さえあった。
 その中で特に異質を放った暖簾の有るピザ屋。
 そこが依頼主である伊藤組の構成員がいるピザ屋であることは間違いない。
「おう、うちの舎弟が呼んだ助っ人だな? うちの組のもんなら働いてもらうぜ」
 店に入るとガタイが良く高級なシャツを胸元まで着ている伊頭 蒼紀が出迎えた。
 アキラの格好はレディースなどに見えなくもない。
「久しぶりだな。ボン、大きくなったな」
 一方、イタリアのマフィアに見えなくもないUNKNOWN(ga4276)がさも当然そうに挨拶を交わしだした。
 コレはまずいと思った依頼人である構成員達は蒼紀を奥へと押しやりだす。
「若! 若は開店までのんびりしていてくだせぇ。後はあっしらでなんとかしやすんで!」
「いや、あいつ親父がどうの」
「おじやの間違いっすよ。おじやの‥‥」
 そんな説得をされつつ蒼紀は店の奥へときえていった。
「まいったね。出足から何か不安だよ」
 周防 誠(ga7131)は着任早々起こったちょっとした騒動に苦笑する。
「そういえば基本メニューはあるわけ? 宣伝するにもチラシがなかったりすると困るのだけど」
 依頼内容をプリントアウトした文書片手に緋室 神音(ga3576)が構成員に聞く。
「あ‥‥え‥‥」
 だが、構成員の視線は神音の短いスカートからでている太ももに集中していた。
「本当に参ったね。もうすぐ開店時間のようですし、チラシもらっていきますよ。宣伝で配って回りますから」
 惚けている構成員をおいて誠が店においてあるチラシをざくっりもらい神音達に一枚ずつ配る。
「スマイルは0円だけど、私自身は安くないわよ」
 神音は笑顔を鼻を伸ばしている構成員に向かっているが、その目は蒼紀に負けないほど本気と書いてマジだった。

●1日一歩教育的指導
「あい、ソウキーズピザ‥‥あぁん? もっとはっきりいえや! サイドメニューは? サイドメニューもたのめといってるやろが!」
 ツーツー。
 1日目、そもそも注文を受け取る段階でこけている。
「あ、あの〜怖いです、もっと優しく電話には対応してくださらないと‥‥逃げてしまいます」
 おどおどとした口調で女堂万梨(gb0287)が電話応対をした構成員に対して注意をする。
「これは今日一日時間をかけてでも礼儀作法を教えないといけなそうだわ」
 せっかく依頼前に作った自作マニュアルが無駄になったことを悲しみつつも鷺宮・涼香(ga8192)は新たな目標に闘志を燃やした。
「若旦那、自分はピザ屋のバイトしたことあるんでその辺を教えようと思うんですがいいですかね?」
 奥でピザの試食と称してツマミ食いをしている蒼紀に対して、誠がたずねると蒼紀はOKをだす。
「み、店番は私がやっておきますので‥‥あの、よろしくお願いします」
 女堂は上手く流れていく様子にホッとしつつ一礼をした。
 ピザ屋は雑居ビルの1階を使っていて、ビル丸々伊藤組の持ち物なのでそのうちの1つの階を使って接客講座が開かれることとなる。
「はい、それじゃあ。接客その1。『笑顔で元気良く』電話で話していてもこれだけは忘れちゃだめよ」
 大きく通る声で涼香が説明をした。
「笑顔つったってなぁ?」
「メンチならきれっけど、後はこんなとか?」
「うわ、それマジシビレル」
 集められたのは若いチンピラとか暴走族や、レディースと呼ばれる人達である。
 笑顔といっても怖い微笑とかを作ってお互い笑い合っていた。
「私、何かくじけそう‥‥」
 壁に手を着き、涼香が項垂れた。
「接客講座をやっているから様子を見に来まし‥‥何やら、上手くいってないようですか?」
 新作ピザの試食もかねて様子を見に来たFortune(gb1380)が部屋に入ってきて項垂れる涼香を見て声をかける。
「ああ、Fortuneさん。大丈夫、私はまだ負けないわ」
「この旬のフルーツピザでも食べてがんばってください」
 Fortuneの差した蜂蜜や、クリームチーズソース。そして、旬のフルーツにより甘い香りの漂うピザを涼香は食べた。
 しかし、フッと振り向けばそこにはよだれをたらしたチンピラたちが‥‥。
「わ、わきゃぁぁぁぁ!?」
 ピザを求め押し寄せる人波に揉まれながら、涼香はこの人らがちゃんと接客ができるようになるにはまだまだ時間がかかりそうと感じた。
 
●新メニュー開発
「若旦那、見回りご苦労様です。ツマミ食いもほどほどにしてくださいよ」
「コレも仕事仕事。んくぅ〜この海鮮わさびピザはいいねぇ。地酒に良くあう」
 しばらく料理から離れていたホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)は料理の勘を取り戻そうとその腕を惜しげもなく振るっている。
 蒼紀が試食という名のツマミ食いを良くするので、二枚態々焼かなければならなかった。
 海鮮わさびピザはソースにわさび・ホタテエキス・マヨネーズを使い、トッピングに大葉を扱った和風シーフードピザともいえるものである。
(「本当にこの人物は儲ける気があるのだろうか‥‥」)
 ホアキンの脳裏にそんな疑問さえ浮かんだ。
「こっちも試作完成だ。いい焼き加減だ」
 レティ・クリムゾン(ga8679)が満足げに焼きあがったピザを見る。
 レティ自身もピザが好きでたまに自分でも作るので、今回の依頼は半ば息抜きがてらであった。
「ほうほう、こっちも上手そうじゃないか‥‥んぐんぐ、こふっ!?」
 ピザを食べて喉に詰まらせたらしく、蒼紀は胸をドンドンたたき出す。
「若旦那、水です」
「お、おう‥‥」
 バイトのチンピラが水を持ってきて、それでレティの作った『ほっくりピザ』をぐいっと飲み込んだ。
 ジャガイモをベースにトマト・オニオン・パプリカ・アスパラを乗せたモッツァレラチーズのピザは色鮮やかで腹にもくる。
「はぁ‥‥地獄の爺さんが見えたぜ」
「勢い良く食べるのがいけない。試作は問題ないなら、後は注文とレシピを教えるところかな?」
「おうよ、これらのレシピをこいつらに叩き込んでやってくれよ。その腕を認めてやるぜ」
 レティが蒼紀の反応を満足げに見れば、蒼紀はレティとホアキンの肩を叩く。
「あ、あの‥‥いま注文入りました。種類はと住所はこのメモに‥‥」
 申し訳なさそうに女堂が顔をだして、メモをホアキンに渡した。
「それじゃあ、第一号を仕上げるとしようか。欠けたピザはそのままお試しということで一切れつめていくか?」
 ホアキンがレティにいい、レティも頷く。
「てめぇらも気合入れて仕事しろよ。指がピザの具にならないような」
 蒼紀は物騒な一言を残して厨房からさった。

●仁義なき宅配
「保温できるボックスのことをすっかり忘れていた」
 地図を片手に長い髪をロングポニーテールにして神音はピザ宅配用スクーターを走らせている。
 神音とUNKNOWNと分担して宅配をしていた。
 範囲は伊頭組のシマのみという話だったが、結構広いようである。
『もうすぐ無線が通じなくなるわ。キメラが見つかったら即刻排除で、地図にマーキングする方向ね』
「ええ、宅配はUNKNOWNの担当地区のようだからキメラとチラシ配るとしよう」
 神音からの無線連絡にアキラは答え、チラシを配る。
 壊れて人のいない家もあるが、生活している家もあった。
(「ピザの宅配をしながら、見回りもできるか‥‥意外とあの若頭食えない男かもしれないな」)
 アキラはそんなことを思いつつ、一軒一軒人がいないか、敵がいないか確認しつつ郵便受けにチラシをいれていく。
 そのとき、ブニョブニョっと奇妙な音がする。
「敵か!」
 音のするほうへアキラが向かうと、そこには一匹の大型スライムキメラがいた。
「シマの治安維持もヤクザの仕事か‥‥傭兵もヤクザも違いはあるようでないのかも‥‥なっ!」
 アキラの格好はピザ屋の制服姿だが、その拳には不釣合いなメタルナックルが握られている。
 サンドバックを殴るかのように拳をスライムキメラに叩き込み、倒した。
「ゴミ掃除完了っと。UNKNOWNは無事ピザを届けていればいいが‥‥」
 一抹の不安を抱えながら、アキラは空を見上げる。
 そのころ、UNKNOWNはきっちり仕事をしていた。
「――ピザ屋だ。喰わせてやろう」
「え‥‥ピザ屋?」
 制服ではなく、スーツで宅配用スクーターを走らせて来たUNKOWNは到着すると、紫煙を揺らし少し帽子をかぶりなおしてピザを届ける。
 その姿に注文をした男性は唖然となった。
「君は友人がいるかな? いるのなら、宣伝をしてくれ」
 ふぅーと紫煙を吐いて代金を受け取るとUNKOWNはそのままスクーターで走り去った。
 
●2日目〜3日目
「えー、とりあえず。今日は基礎的な敬語から教えていきたいと思います」
 1日目は涼香がやって上手くいかなかったこともあり、2日目の開店前に誠が講師をおこなう。
「まずは敬語を心がけましょう。敬語といっても若旦那さんとか、親分さんに使うようなものじゃなくて一般的なものですよ」
 誠はそういいながら、涼香の作ったマニュアルの『基本の挨拶一覧』と呼ばれるページを開かせた。
「こんな言葉ムズイー」
「やってらんねー」
 敬語を苦手としているのか、ぐずぐず文句を言い出すチンピラ達に涼香の堪忍袋が切れる。
「やらんのなら、オノレの首、若旦那に差し出したろか?! 若旦那に指つめられんのと、ここで壁みたいになるのとどっちがいいんじゃ! あぁん!」
 涼香はドスの聞いた声と共に、瞳を真紅にしてコンクリートの壁を素手でへこませた。
 そのとき、場がシーンとなる。
「あ、私ったらつい本気になっちゃったわ☆」
 すぐに覚醒をといて笑顔になるも、チンピラ達は青ざめた顔で必死に敬語を復唱しだした。
「えー、それと、忘れないでください‥‥『お客様は神様』ですよ」
 誠が補足するように言うが、伝わっているかどうかは謎である。
 2日目からは注文もそこそこ入りだし、宣伝の効果はあったようだ。
 厨房では料理ができるものを優先に担当をまかしてローテーションを組んでいる。
「ちゃんと手を洗って衛生面に気をつけてください。食中毒なんかが起きたら食品を扱うお店としてはアウトです」
 Fortuneが注意をしつつ、厨房で旬のフルーツピザをつくっていた。
 おやつ時などに人気がでている。
「サイドメニューも少し趣向をこらしたいな‥‥ただ、懲りすぎて今後続かないと意味がないかもしれないが」
 簡単につくれるパスタを中心にホアキンが新メニューを頭の中で構想を練った。
 そんなとき、店頭の方から怒鳴り声が聞こえる。
「いつまで待たすんじゃおらぁ!」
「てめぇ、じっと待ってろや! 比良組の奴らがここまで来たなら、こっちの流儀にしたがえや!」
 怒鳴り声をあびせられ、接客していた構成員がキレだした。
 どうやら、偵察がてらに伊頭組と敵対関係にある組の人間がやってきたらしい。
「はい、そこまでっ!」
 すっぱぁんとハリセンで涼香が接客していた構成員の尻を叩いて黙らせる。
「『担当者』を呼んできますので、少々お待ちください♪」
 にっこり笑顔で涼香が店の電話をかけて『担当者』を呼んだ。
「呼んだかね?」
 電話をかけてすぐ、黒のフロックコートを翻したUNKNOWNが店に入ってきた。
「はいはい、来ましたよ」
 休憩中の誠も上の階からおりてきくる。
「それじゃあ、ここで話というのもなんだから裏手で話そうか」
 煙草を消しつつUNKNOWNがニヒルに笑った。
「ゆっくり、じっくり話し合いましょう」
 誠とUNKNOWNがいちゃもんをつけてきた比良組の人間を捕まえる。
 講義の声が聞こえるもずり刷りと引きずられ、店の裏へと3人は消えていった。
「お次のお客様‥‥あの、ご注文をどうぞ‥‥」
 3人を見届けた女堂はそのまま待っているお客に対して受けつけをはじめだす。
 おどおどしつつも傭兵。肝は据わっていた。
 
●4日目〜最終日
「今日もシマ内のキメラは排除したわ。今後、来ないって保証はないけど治安状況としては整備しやすいでしょう」
 配達を終え、見回りも済ませた神音が2階の休憩所でピザを食べつつ、地図をみていた。
 ところどころ○や×が記されていて、キメラがでてきたところ、倒したところを表している。
「ありがとうございます、姐さん」
 冷たい炭酸飲料を出しつつ、依頼をした構成員は頭を下げた。
「姐さんって呼ぶのはやめて頂戴。今後、こっちに来るかどうかもわからないんだから」
 構成員に対して、神音は答える。
 傭兵は長期滞在できるわけじゃない、その後の維持は彼ら自身のヤル気にかかっているのだ。
「よう、売り上げ上場で何よりだな。どこからひっぱって来た分からないが、生え抜きでイイのがいて助かったぜ」
 ホクホク顔の蒼紀がFortuneを引きつれ最新作、『運命の輪』と呼ばれる十種類のピザが1つにまとまったものをもってくる。
「若旦那もご苦労様。申し訳ないけれど、バイト代をもらったら私達はちょっと帰らなければならないの‥‥これって」
 ピザを見た神音は驚いた。
 ソースは1つだが、具材が今日来たメンバーの好みで彩られたものと蒼紀の好みをあわせた1つのピザだったのである。
「おう、面白いネタだったから乗っかってな。見慣れない顔のお前らのお陰だから、この店の看板にさせてもらうぜ」
「食えない人でしたよ‥‥これからもがんばってください」
 してやったりと言った顔の蒼紀に対して、Fortuneは微笑みながらエールを送った。