●リプレイ本文
●メインキャンプ組 1日目朝
「シェリー。借りたいものはちゃんと聞いてっていったわよね? 私がもっているからいいけれど、ちゃんと確認とって頂戴。最低限自分で用意できるものは用意してね?」
SASウォッチを借りたいといってきたシェリー・ローズ(
ga3501)にレオノーラ・ハンビー(gz0067)は自分の腕につけていたSASウォッチをはずして渡した。
「死体に地上ワームですか‥‥きな臭さが満載ですね。もっとも、自分は休養をとらせてもらいますが」
密林組が移動しているとき、メインキャンプ組は装備を整えてローテーションの確認をしている。
その上で周防 誠(
ga7131)は風羽・シン(
ga8190)と共に休憩に入った。
「前回の経験者から言えば、油断しているとヤバイぜ。この辺りは‥‥」
シンはぶっきらぼうに言い残すと、メインキャンプの中に消えていく。
「無音シャッターのカメラもありますし‥‥できる限り、証拠を押さえましょう」
全員に配られた偵察隊も使っていたカメラを片手に終夜・無月(
ga3084)は決意を高めた。
「兎もこの辺で待ちでー」
「貴方は‥‥俺と一緒にメインキャンプの周辺を‥‥探りますよ」
周防達と一緒に休もうとしていた因幡・眠兎(
ga4800)を無月は手を引っ張り連れ出す。
作戦はこうして展開された。
●密林組 1日目昼
「この辺にテントを建てましょう。人数が少ないですし捜索範囲も広く取れませんから」
智久 百合歌(
ga4980)は自分の持ってきたテントを建て出した。
休憩のためにメインキャンプ地まで戻っていては効率が悪いという考えからである。
「それほど強くないが、キメラもいる。普通の人間なら近づかない所だな」
バスタードソードに付いた緑の液体や、血を振り払ってヒューイ・焔(
ga8434)は百合歌のテント設営を手伝った。
「バグアと通じているなら、格好の交渉場所ともいえるでしょう」
宗太郎=シルエイト(
ga4261)も覚醒をといて、黒江 開裡(
ga8341)と共にカモフラージュの木々を運ぶ。
「いくら隠れるといっても用心はしないとな。寝ている間に襲われたら話にならない」
黒江は警戒をやめずに準備を続けた。
どれほど気をつけていても最悪は常に付きまとう。
そのための手段はいくつか用意していた。
「女性一人だけだから、キメラよりも味方の方が怖いかもしれないわ。手を出しちゃダメよ」
ふと、百合歌が周囲の男性陣を見て緩やかに微笑む。
冷たい視線であることを3人はひしひしと感じた。
●メインキャップ組 1日目昼
「国境がはっきりしていないというのもやっかいですね」
「国境なんて人間が引いたものだろ。実際に境界なんてあってないようなものだ」
メインキャンプ地の周辺を調査し、キメラの数やエルドラドのカメラがないかシンと誠は探っていた。
今は二つの班が休憩中である。
二人でカバーしきれるわけではないが、直接潜入していたシンの経験は役に立ていた。
「地上ワームだけは勘弁してほしいですね」
「そうだな‥‥」
二人の偵察はまだまだ続く‥‥。
●密林組 3日目朝
日が昇りはじめたころ、休憩も程ほどに宗太郎と黒江は起き上がり、装備を整えテントから出た。
「今のところ発見はなし、今日当たり成果を何か出したいところだ」
眠気はないが、空腹が激しい。
メインキャンプから離れてビバークするにはエマージェンシーキットの保存食では厳しいものがあった。
黒江が木の陰や、茂みを探っているとジャングルという場所に似合わない『モノ』を見つける。
「シルエイト、こっちに何かあるぞ」
「おう、今行くぜ‥‥これは、見たことない服だな」
覚醒して警戒をしていた宗太郎が黒江のもとへいくと、そこにはUPC軍のものではない軍服を来た死体が転がっていた。
「腕が吹き飛んでいるし、頭がざっくりやられている‥‥即死だろう」
痛々しい死体に両手を合わせる黒江だが、そのとき茂みの上にある木の枝が揺れる。
「上に何かいる!」
「ちっ!」
宗太郎の叫びで上を向く黒江に蜘蛛型キメラの粘液が飛び込んできた。
粘液は宗太郎にも及ぶも、早くに気づいた宗太郎は避けきる。
続けざまに無線機に宗太郎は怒鳴った。
「こちら宗太郎、証拠と思われるもの発見。敵とも遭遇戦闘を開始する」
定時報告だけを終え、宗太郎は蜘蛛型キメラへエクスプロードを向けて、迎え撃つ。
「クソ、身動きができん‥‥。死体を餌にするとは嫌なキメラだ」
粘液で捕らえられ、動けない黒江は力任せに剥ぎ取ろうと動くも、その間に蜘蛛型キメラが襲い掛かってきた。
「てめぇの相手は俺だ! 余所見してんじゃねぇっ!」
宗太郎が無視されたと思い怒りをこめた一撃を蜘蛛型キメラに与える。
激しい爆音がジャングルに響き、鳥が羽ばたいた。
●メインキャンプ組 3日目朝
「もうすぐ‥‥お昼で交代時期ですね‥‥」
街道の調査の二回目。
一回目では成果もでず、そのまま奥へと進み無月と因幡は調査をしていた。
朝方、奥の方で鳥が多く羽ばたいたことも理由としてある。
連絡もないため、それが何なのかは二人にはわからなかった。
定時連絡も届かない距離、完全に二人で孤立してはいたが周辺に気を配って手がかりを探す。
「タイヤの跡‥‥ジャングルに突っ込んでる?」
因幡が比較的新しくできたと思われる街道のタイヤ痕を発見した。
「木々も‥‥倒されているようです‥‥から、間違いない‥‥ですね」
エルドラドのほうから伸びているタイヤ痕は途中で急に曲り、ジャングルへと向かっている。
「車があるようだけど、一度戻ろうよ」
「いえ、動かせる車なら‥‥回収しましょう」
無月が因幡の言葉に頷き、ジャングルへと入りこんだ。
すぐに横転したジーザリオを発見する。
近くには頭を砕かれた死体が転がっていた。
ジーザリオはフロントガラスが割れ、後部座席のドアも取れている。
『何かがあった』ことは事実だ。
「動かせる‥‥かも‥‥しれませんね」
無月は豪力発現で力を込めて、ジーザリオを立ち直らせる。
「すごいですね。兎には真似できない芸当だよ」
マジマジと立ち直ったジーザリオを見て、因幡が関心をした。
「この死体も‥‥回収していきましょう、エンジンをかけて‥‥」
「それくらいは兎がやるよ。何もやらないのも気分悪いからね」
因幡はそういってギュギュギュギュンとエンジンをかけ出す。
そのとき、ジーザリオの前に人影が現れた。
男は白人らしく、白い顔をしたままユラユラとした動きでやってくる。
「UPC軍人でも‥‥ない? こんなところを‥‥フラフラしていると‥‥危険です‥‥よ」
無月がゆっくりと近づき、男に声をかけた。
だが、男は答えずに無月との間合いを詰めて流れるような蹴りを放つ。
「くっ!」
不意をつかれた無月は蹴りを受け止めきれず、衝撃に体が軋み吹き飛んだ。
「この力‥‥普通じゃない‥‥能力者? エミタというものは‥‥そうまでして」
無月は呟きつつ、覚醒をする。
月詠と氷雨を構え直し戦うことにした。
『敵ハタオス』
人とも思えない声を始めて男は発し、すばやい蹴りを無月に食らわせる。
「練力がギリギリですか‥‥」
無月が攻撃を受け止め、間合いを取りつつソニックブームを放った。
だが、そこまで使った攻撃も一度きり、二度目、三度目と使えるほど練力は無月には残っていない。
しかし、相手はそれで攻撃を緩めない。
痛みを感じないのか、ソニックブームを受けてさえもユラっと上体を戻し、瞬時に間合いを詰めてはブレードシューズによる蹴りをくりだした。
「えーい、兎あたっくー」
だが、エンジンをかけた終わった因幡の乗ったジーザリオがグラップラーと思われる能力者に体当たりをする。
そのまま太い木へと因幡はぶつけた。
「ほら、逃げるよ」
ぴょんという擬音がよく似合う動きでジーザリオから飛び出しながら逃げだした。
「そう‥‥します。写真だけでも」
無月は逃げながらグラップラー能力者の写真を収め、全力でその場から立ち去る。
ジャングルから、抜け出し街道まで出た。
そのとき、爆発音がジーザリオをぶつけた方向から聞こえてくる。
「壊された!?」
「足止めに‥‥ならなかった‥‥ようですね」
無月がどう動こうかと考えているとき、ジーザリオに乗ったシェリーとレオノーラが走りこんでくる。
「交代時間になっても戻ってこなかったから、こっちから来たよ。アタシ達の様なのが生きて‥‥生きて抵抗を続ける事が大切なんだよ。早く乗りな」
目の前に止まり、ドアの開いたジーザリオへ無月と因幡は飛び込むように乗り込んだ。
「敵が来てるから、ダッシュで逃げて」
「OK、捕まってなくて落ちても責任持たないわよ」
レオノーラがアクセルを踏んで反転し、ジーザリオはメインキャンプへと勢いよく走りだす。
そのとき無月はカメラを持ったまま、揺れる車の中でゆっくりと眠りについた。
●密林組 3日目昼
盛大な爆発音が鳴り響き、ジャングルの周辺に武装した軍人達がやってきたため、黒江と宗太郎は撤退を余儀なくされる。
「おいおい、こっちからすごい音と鳥が羽ばたく音が聞こえてきたが、大丈夫か?」
ヒューイと百合歌が音と方位磁石を頼りに休憩をやめてやってきた。
覚醒をといているため、戦闘を続行するには不利なのは変わらない。
「早く撤退しましょう」
「その前に死体を‥‥」
百合歌の撤退指示に、黒江がそう返すと、死体を宗太郎が背負った。
血なまぐさい香りと、べっとりとした血が宗太郎の衣服にまとわり付く。
背後からは銃声が響き、銃弾が飛び交うも物陰に隠れながら能力者たちは逃げていった。
「敵さんのドまん前かよっ、くそ! キメラも寄って来た」
疲労の残るヒューイだが、そんなことはいってられない。
「道を確保していきますから、走って!」
百合歌が叫び、弓を番えて物音によってきたキメラを次々にしとめていった。
『聞こえ‥‥か‥‥、巨大‥‥ムが、そちら‥‥に』
走っていく最中に、黒江の無線に途切れ途切れな誠の声が聞こえる。
「ふんだり蹴ったり‥‥ですね」
「証拠になりそうなのは得ているんだ、後は生き延びるのが俺達の仕事だぜ」
覚醒をといて走り続ける宗太郎にヒューイが声をかけつつキメラを捌いていった。
●4日目昼 情報交換
「この軍服は見忘れない‥‥エルドラドの中にいた奴だ」
シンは宗太郎が持ってきた死体の服を見ながら、呟く。
休憩と治療を終えたあと能力者たちはメインキャンプで情報交換をおこなっていた。
「それと‥‥同じ服を‥‥横転したジーザリオの‥‥傍で見ました」
無月が自分の見たことを話す。
「なるほど‥‥エルドラドの人間がジーザリオを運転して『何か』をしようとしていたのは確かか」
メインキャンプの指揮官は無精ひげを撫でつつ能力者たちの話を聞いた。
「すみません。物音を立ててしまった上、国境付近であったために警戒が厳しいです。近寄るのは厳しいかもしれません」
宗太郎が指揮官に深く礼をする。
武器の選択を間違ってしまった事実は拭えない。
「大丈夫‥‥です。成果はでています‥‥。能力者と‥‥思われる人物と‥‥戦闘をしました」
無月が戦った能力者と思われる人間の写真を出した。
「まさか、死んだ能力者とか? そうだったら、どうして動いているんでしょうね?」
写真を見ながら誠がヤレヤレといった様子で答える。
「この姿じゃわからないが、新藤雪邑だったら‥‥泣けてくるな」
シンも車にはさまれている能力者の写真をみて唸った。
「白人ぽかったし、日本人じゃないと思うよ。それに挙動不審だったから、生きているとも思えない」
無月と一緒に行動をしていた因幡はそんな反応を返す。
「エミタによって動かされていた‥‥と考えるのが妥当だろうが、学者じゃないから決定はできないな」
「ワームがエルドラドへ移動していくのも確認できたし、まったくの白からグレーにはなったといったところか」
指揮官の言葉にシンが言葉を続けた。
「ワームが動いてきたなら、これ以上こちらも動くわけにもいかないわね。早いけれど切り上げて、LHへ帰りましょう」
レオノーラが能力者たちを労って、依頼は終了を告げる。