●リプレイ本文
●日は沈み、また登る
「沈んでいたのはタシロだけかと思っていたが、予想通りこちらにも居たか」
御山・アキラ(
ga0532)が始めに見かけたのはデスクで燃え尽きているJJである。
アキラは付き合いの長さから何となく様子を見に来ると、デスクで黒人の男が項垂れていた。
「おい、JJ。技術者がこんなところで腐っていてどうする」
「アキラさん‥‥。いや、まぁ‥‥夏バテってやつだよ」
肩を叩かれたJJは一度アキラの顔を見たが、その後再びデスクで項垂れる。
「まったく、恋に破れて沈むようじゃブリッツ・インパクトを完成させるなんて夢のまた夢だ」
「そんなことはない! いつか俺があれを完成させる!」
アキラのフンと鼻で笑う態度にJJが怒り、立ち上がってアキラへ掴みかかった。
その腕をアキラはゆっくり払って、代わりに高級煙草を渡す。
「その意気だ。期待しているから、これでも吸って気分を変えてくるんだな」
「っと、ああ‥‥。ありがとう‥‥アキラさん」
JJは驚いたが、すぐに一礼をして煙草をポケットにしまった。
「これは大事にとっておく。ブリッツ・インパクトが完成したときに吸わせてもらう」
「勝手にしろ」
笑顔で返すJJにアキラは一瞥を返し、皆と合流に向かう‥‥。
●リペアキット意見交換
「やっほー、タシロのおっちゃん。久しぶり〜っていない?」
リチャード・ガーランド(
ga1631)が指定された会議室に顔を出すと、そこには予想していたおやっさんの姿はなく瓶底眼鏡の少女であるマローナ・ドランツがいた。
「おやっさんはいないでやんすよ。ラスト・ホープの支社で勤務中でやんす。あ、あっしが今回の依頼人であるマローナ・ドランツでやんす」
眼鏡をくいっとあげつつマローナは時代劇の下っ端風の口調でリチャードに伝える。
「よ、マローナ。久しぶりだな? 面白いもの開発して、タシロのおやっさんに一泡吹かせてやろうぜ!」
霧島 亜夜(
ga3511)もマローナにサムズアップして気合を伝えた。
「チャンプでやんす〜今回もお世話になるでやんすよ。まずはリペアキットの意見交換からでやんすね」
亜夜に向かって両手を挙げてマローナは喜び、ホワイトボードに文字を書き出す。
「軽さが一番ですが、回復量がおざなりだと意味がないです。S−01などの4割近い補修部品などは欲しいですね」
ふむとマローナの書き出した説明に対し、榊 刑部(
ga7524)が意見を述べた。
「燃料タンクのように小型、中型、大型と段階別に分けられているなら尚いいと思います」
「4割近い回復は逆にいうとそれだけのKVパーツを持たなくちゃならなくなるでやんすから、難しいでやんすね‥‥段階分けでパーツ量調整はありと思うでやんすが」
鏑木 硯(
ga0280)の要望にマローナは頷きながらホワイトボードへメモをとっていく。
「キズを埋めた装甲板と内部機器の間に注入して少しでもダメージを抑えるようなモノを組み込む事が出来れば、リペアユニット自体の信頼性の向上にも繋がると思うのですが、どうでしょう?」
「あと、余計な機能をいれると値段もあがるでやんす。低コストでいくため、お試し品として軽量版をまず提案してみるのが良さそうでやんす」
榊が追加要望として意見をだすも、マローナはうーんと唸って技術者ならでは意見を加えた。
「それは具体的にどんなものかね? 自機や他機を修理できたりするのかね?」
静かに意見を聞いていたUNKNOWN(
ga4276)はゆっくりと帽子を被り直し、静かに質問をマローナに投げかける。
「基本的に自機、他機に適用できるつもりっす。いうなれば救急キットのようなものでやんすね。作業時間はそんなにかからないと思うでやんすよ。ただ、慣れれば修理量は増えると思うでやんす」
手順書もセットのようであるが、あくまでも予定でありこのまま採用されるとは限らない。
「あとは軍の上が首をどう振るかだろう‥‥」
咥えている高級煙草を揺らしながら、UNKNOWNは低い声で呟いた。
●予備弾薬はどうする?
「あ、その予備弾薬は再装填不可武器を1度だけ再装填すると理解しているのですが‥‥。あー、理解通りなら、その異論はありませんが‥‥」
続いての議題である『予備弾薬』の話に移り、同年代の女性が苦手な守原有希(
ga8582)はマローネにたどたどしく意見を述べた。
「弾薬だけでなくって、練力チャージも欲しいなぁ。できればでいいんだけどさ」
砕牙 九郎(
ga7366)は顎を抑えながら自らの意見をだす。
「予備弾薬は有希さんのいうとおりでやんすね。一回でやんすが、武器に応じた弾薬を用意しておく感じでやんす。練力チャージは結局燃料タンクを積むのと変わらないでやんすね‥‥」
マローナは意見に答えながら、ホワイトボードに記述をしていった。
「予備弾薬は遠距離武器の弾薬補給に使えるものを優先して希望したいな」
「おやっさんもそのつもりのようでやんすね。ミサイル類の補強ができれば空戦がやりやすくなると思うのでやんす」
「予備弾薬はリロード不可用と高速リロード用の二つを提案だね。銃を使うとリロードするときに隙生まれるからな」
リチャードも弾薬についての意見をだす。
「リロード用の奴でやんすか‥‥正直、今回の企画としては使えないでやんすね。あっしの力ではできないでやんす‥‥連射できるようになるのは弄る部分も多くなりそうでやんすし」
銃を撃った後の隙は何も弾丸を込めるだけではなく、銃身が焼けないための配慮である部分も多いのだ。
銃器自体を弄らなければならない可能性もあり、今回は保留という流れになる。
「じゃあ、せめてエネルギーカートリッジっていかない? ただの燃料タンクじゃなくて、リロードできるタイプとか。使い捨てじゃ効率わるいし」
「お、それいいな!」
「アクセサリーにカードリッチでやんすか‥‥ヒートディフェンダーの前例もあるでやんすし、検討してみるでやんす」
リチャードが九郎のアイディアを発展させたアイディアをだしマローナも検討するということで同意した。
「そういえば、弾薬って作業時間はどうなんだ? できればない方がいいんだが」
「武器を使えば時間かかるのと一緒で、まったくないということは無理でやんすね。さすがに‥‥普通の銃でもペイント弾に入れ替えるのに時間かかるでやんす。それと同じでやんすよ」
思い出したかのような亜夜の意見にマローナはもっともな答えを返す。
「ミサイルなども補強できれば長距離任務でよろこばれますからね。先日の輸送任務のようなことが次あったときのための備えにしたいものです」
有希はマローナから視線を外しつつ、まとめをした。
まだ女性になれるには時間が必要だと思いつつ‥‥。
●ブレイクタイム
開発作業は頭を回すものだ。
頭を使うことなので、適度な休養は必要不可欠である。
「バウムクーヘンやいたので食べるでやんす。紅茶もあるでやんすよー」
マローナの手作りバウムクーヘンにてちょっとしたティータイムを能力者たちは迎えた。
「これは中々‥‥」
榊がバウムクーヘンを食べ、その美味しさに思わず声をだす。
「おやっさん元気でやってるのかな?」
紅茶を飲みつつ亜夜が会議室の天井をふと眺めると、会議室に備え付けてあるインターホンがなった。
「はいでやんすー」
ぱったぱったとマローナがインターホンにでると、濁声が会議室にまで聞こえてくる。
『おう、そっちはどんなものだ? こっちは休憩してるからかけたけどよ』
声の主はゴンザレス・タシロだった。
「タシロのおやっさん〜。おやっさんに会いたかったって人が来てるでやんすよ〜」
そうマローナは言って、リチャードと亜夜へおいでおいでと手招きをする。
「やっほーおっちゃん。聞いたよ〜ラスト・ホープで整備士やってるんだってねー。スパークワイヤーの開発以来で会えるかと思ったんだけどね」
『てめぇはあの時の悪ガキだな? お陰で出回れる製品になってよかったぜ。俺もてめぇにゃ感謝してっぞ。マローナにも協力してやってくれ』
「おっけー。新製品ネタも持ってきたからおっちゃんもあとで貰ってな」
『あいよ』
リチャードが言い終わると亜夜に代った。
「亜夜だ。お陰でヒート・ディフェンダー手に入れられたぜ! 色々ありがとな♪」
『チャンプか、毎度ご苦労なこった。あれもいい製品に仕上がったな。出回ってくれりゃあ、俺としても嬉しいぜ』
「また、テストパイロットがいることがあったら呼んでくれよ」
『ああ、そのときはな。おっと、休憩が終わるぜ。それじゃあ、マローナにもよろしくいっといてくれや』
タシロからの電話はそうして切れる。
「おっさんがよろしくってさ」
「心配性でやんすね‥‥おやっさん。あっし達も休憩を終えて次にいくでやんすよ」
亜夜から伝えられた伝言にマローナは苦笑し、バウムクーヘンを飲み込んで会議の仕切り直しをするのだった。
●新兵器ブレインストーミング
「とりあえず、採用できるかはあっし判断じゃ限界もあるでやんすし、ブレインストーミングと思って気ままに意見を出して欲しいでやんす」
休憩後の会議はとにかく新しい製品の意見を募集する形となる。
ブレインストーミングとは、自由に意見を出し合い、あるテーマに関する多様な意見を抽出する技法のことだ。
アイディアを集める方法として一般的なものである。
「欲しいものをあげればいいんでしょうか? KV用の迷彩アイテムが欲しいですね。あとはKVを連結して練力の受け渡しができるようなものとか」
鏑木は長時間の護衛とかの地上作戦中にKVが目立って空から余計な敵を引きつけたりした経験をもって意見をだす。
もう1つは出力の高い武器が多いための補強案だ。
「折角、KVには「腕」と「脚」があるから、な‥‥サーフボードのようなもので海の上を走れると水上戦闘は楽になると思うのだがね?」
UNKNOWNはメトロニウムシールドをベースにした推進機つきのアイテムを提案する。
「ん〜、俺としてはミサイル迎撃できるガドリングや長距離航行時の燃費向上の太陽電池パネルってのも面白いと思うんだ。武器としてはハイディフェンダーやK−01の廉価版が欲しいところ」
九郎は持久戦に主眼を求めたアイディアを出した。
「キューブワーム精神防御装置とかは欲しい。あとは予備弾薬のバリエーションで射程の長いミサイル自体を作るとかか?」
アキラもこれからの大規模作戦を見据えての話をだす。
「射程延長は俺もやりたかったな。今のミサイルは威力があるものは値段が高いしスナイパーライフルD−02と比べると射程も短いからな」
九郎もアキラの話に乗っかり、自分なりの考えを付け加えた。
武器の話題にうつると、そのままリチャードが意見をいいだす。
「俺は散弾銃が欲しいな。射程距離は落とす代わりに命中率上げて、近づいたやつを確実に仕留めるって考えだ。重装甲の雷電もロールアウトしたし、ダメージを喰らっても、まずはHITってダメ?」
「ダメじゃないだろ。ミサイルポッドCのこともあるし十分、需要はありそうだけど」
リチャードの意見に亜夜も頷いた。
ワイワイとその他も意見が飛び出し、能力者どうしでアイディアの渦が起こりホワイトボードが文字で埋まる。
「KV用の多目的擲弾銃を提案してみるとです。能力者用銃器のペイント弾感覚で使えればて思うとです」
どさっと有希がレポート用にまとめた意見書をこれで最後とマローナに提出した。
「多目的投擲銃でやんすか‥‥うーん、内容をみると煙幕銃や照明銃と被っているのもあるでやんすね」
レポート内容を確認し、マローナは瓶底眼鏡の奥の瞳でじっくりと吟味する。
「ただ、KVの場合は携帯品って項目がない分予備弾をどこに持つかが課題になりそうだ。利点だけでなく欠点もちゃんと考えなければ、な」
UNKNOWNがマローナの言葉から内容を瞬時にイメージし、意見をだした。
「ありがたく貰っておくでやんす。今回は皆さん多くの意見と協力に感謝いたしやす。なるべく多くの意見を形にすべくがんばるでやんすね」
マローネが一礼をし、開発のための意見会議は終わりを告げる。
今は机上のものだが、いつかここで出たものが形になってであえることを能力者たちは願い、ラスト・ホープへ帰っていった。