●リプレイ本文
●空港は喧騒に包まれて‥‥
『緊急警報、キメラ接近! これは演習ではない! 繰り返す! これは演習ではない!』
管制塔から、指示が空港に響きわたる。
『こちら、Archer。戦闘は私達能力者が受け持ちます、皆さん避難してください!』
つづいて、無線機を経由しての霞澄 セラフィエル(
ga0495)の通信が続く。
戦闘時独特の雰囲気が空港全体を包みこんでいく。
二機のナイトフォーゲルR−01は加速して飛び立った。
「まわせー!」
伊藤 毅(
ga2610)が手を回しながら機体に駆け寄り乗り込む。
交代で休憩を取っていたのがここで響く。
「NemoからGraへ、遅れました。出撃します」
『無茶はするなよ』
Graこと建宮 潤信(
ga0981)は無線でそう返した。
管制塔から流れ込んできた映像の妖精は9時の方角から低空ギリギリを飛んできている。
その姿は幻想的ではあるが、キメラであることに違いはない。
『管制塔や支援隊との連絡は私が担当しますから、がんばってください』
「はい! Nemo、いきまぁぁぁすっ!」
毅のナイトフォーゲルS−01が加速。
出撃時のGを受け止め、若き翼が、今飛び立った。
●妖精は西から舞い降りて‥‥
「Graより、Rafeへ。敵機をミサイルの射程内に捉えたら一斉発射。機体重量を軽くしていく!」
『Rafe、了解しました』
潤信の指示に対して、エレメントを組んでいるRafeこと犀川 章一(
ga0498)は返事を返す。
『シルフ』と仮称された低空飛行する4匹のキメラに対し、2機のKVが一斉にミサイルを放った。
妖精に対し、6つの鋼の矢が煙を上げながら迫る。
ドドドドドンと爆発による光球が広がった。
『やった‥‥か?』
爆風が収まると、妖精の姿は消えている。
それを確認した章一は疑問譜を浮かべながらターンする。
「GraよりRafeへ。二匹残っているようだ、予定通りクロスアタックを仕掛けるぞ』
同じようにターンをしていた潤信の機体のサブアイシステムが捕捉した。
森の中から二匹のシルフがこちらへ向かって飛翔する。
紫電の光がきらめき、光の尾が生まれていた。
『Rafe、了解‥‥速いな』
マッハではなくなったにせよ、シルフの移動速度、行動力はキメラの中でも高い。
シルフの手が稲妻をまとって潤信と章一機体へ体当たりを仕掛けた。
回避しようとしたが、主翼にカスり、バランスが崩れる。
「くぅ、バランスがッ‥‥だが、異常はない」
『RafeよりGraへ、こちら異常なし』
潤信も章一も致命打にはなっていない。
しかし、連続で受けてはそれも危うい状況だった。
そこへ、遅れて飛び立った毅が翔けよってくる。
『遅れてすみません。Nemo、援護します。フォックス3っ!』
潤信たちへの援護のため、毅がバルカンを放った。
それと同時に潤信と章一は体勢を整えるため飛び上がる。
シルフの一匹がガドリングを避け、もう一匹は潤信と章一を追う。
しかし、毅の攻撃は終わらない。
ホーミングミサイルが時差で二発飛んだ。
一発、二発とあたり、シルフの一匹は沈む。
『スプラッシュワン!』
「GraからNemoへGood Killだ」
『こちらも‥‥負けてられませんね』
「そうだな、予定通りのまず空港から敵を離すぞ」
『了解‥‥』
シルフを空港から引き剥がすために、二機のKVはシルフを背に加速した。
●妖精の輪舞曲は続いて‥‥
『管制塔からの連絡です。キメラが2匹、森の中を飛翔してこちらに向かってきています。速度は落ちていますが‥‥あと1分ほどで森を抜け、そちらの目の前にでます』
突如入ってきた霞澄からの通信に、待機していた月影・透夜(
ga1806)と鳴神 伊織(
ga0421)は人型となったKVを機動させた。
鋼の騎士に力がみなぎってくる。
「こちらLunar了解した。迎撃に移る」
『こちらIo了解です。しかし、ミサイルに撃墜されたとみせかけるなんて‥‥』
「それだけ、空港を本命と思っている。囮作戦としては上々だ」
関心の声を上げる伊織に対して、月影は冷静にいう。
アラート音がなり、レーダーに妖精のポイントが映る。
時速にして170km弱で接近してくるシルフ。
人型KVの歩行速度を大きく上回っていた。
「帯電による体当たりや電撃を飛ばしてくるかもしれない。油断しないことだ。コクピット付近への被弾は避けよう。計器に影響が出る可能性があるからな」
『了解です。けど、新幹線ほどにないにしてもすごい速度ですね』
物静かながら敵の強さに少し関心を持つ伊織。
強敵を相手に興味を覚えるのは武人の性かもしれない。
「全力をだして、音速を超えるのも頷ける‥‥こちらもブーストをかけてでも止めにかかるぞ」
月影の機体が先陣を切って陸を駆け銃弾の雨を降らせた。
突撃仕様のガドリングとバルカンが唸りを上げ、二匹の妖精をそれぞれ狙う。
前後に距離をあけ、飛翔するシルフ達。
銃弾の雨を回避しようと動くも、手前の妖精の翼はもげる。
そのまま数十発の弾丸が腕を、足を、顔をと次々撃ち抜き、バラバラにした。
後方のキメラは依然速度を保って接近してくる。
バレルロールのような動きをし、銃弾を避ける姿は舞を踊っているかのように見えた。
「キメラが相手と思っても人型をやるのは気分がいいものじゃないな‥‥Lunarから、Ioへ撃ちもらした奴を頼む」
『IoからLunarへ、ええ。了解したわ』
グンと伊織の機体屈みこみ、脚部の車輪がキュィィィンと回転数を上げていく。
ボォゥンッという爆音をひびかせ、ブースターによる移動を行った。
砂煙を上げて、ディフェンダーを斜にかまえる。
騎士による突撃をかねた一撃。
機体能力である、アグレッシヴ・ファングも乗せた斬撃がシルフをなぎ払った。
‥‥かのように見えた。
『これでっ‥‥えっ!?』
体形の小ささと小回りが効くのか、ディフェンダーの一撃をすんでのところでループしてかわし、空港に向かって加速した。
余りの出来事に伊織の声に驚きが含まれる。
「LunarよりArcharへ‥‥すまないが、抜けられた。追いかけてはみるが、頼む」
月影はそれだけいうと、滑走路へ進入したシルフを追いかけだした。
●追走、そして決着を‥‥
一方、潤信と章一はシルフを空港より引き離し、決着をつけようとしていた。
一進一退の攻防。
命中率の高いミサイルのうち尽くし、バルカンによる攻撃を繰り返す。
相手の高い機動力による電撃攻撃により、機体もじわじわと披露が残る。
「Rafeより、Graへ、ここらで決めましょう!」
『GraよりRafeへ。了解した。こちらでドラッグする、ブレイクは任せるぞ』
長続きする空戦から、章一の声に青年らしさが戻ってくる。
「Rafe、了解!」
シルフの突撃が章一の機体を狙って迫った。
それを、バレルロールでよけ、シルフを潤信が引き付けていく。
グググッと強いGを感じながら章一は機体をゆるく上昇させつつ旋回させ、シルフの背中を真上から狙えるように動いた。
「ブーストッ! 終わりだ‥‥っ!」
火属性のこもったバルカンがシルフの片方の翼を撃ち抜いた。
シルフの動きが止まる。
『こっちの攻撃も食らえっ!』
潤信も反転しバルカンとガドリングをあわせた攻撃をあびせる。
2機の同時攻撃によりシルフは微塵も残さず消えた。
『NemoよりRafeへ、ナイスキルです』
毅からの賞賛が章一の耳に届く。
シートへ体を沈め、息を大きく吐いてすった。
『二匹逃していたようだな‥‥』
潤信の呟きに、章一はおちおちしていられないなと体勢を戻す。
「大丈夫ですよ、あとは任せましょう」
『IoよりNemo、Rafe、Graへ。一匹のシルフが滑走路まで到達しそうです。急いで戻ってきてください』
「前言撤回‥‥いきましょう」
『Gra、了解』
『Nemoも了解しました』
3機のKVが松山空港の方角へ機体を旋回させ、空を翔けた。
●妖精と天使のセレナーデ
高速で滑走路へ降り立ち、破壊工作を始める妖精。
美しくも残酷な光景が広がっていく。
それを一条の光が邪魔をした。
シルフが矢の飛んできたほうへ顔を向ける。
そこには霞澄が矢を番えて待っていた。
「私達と比べるとニンフですね‥‥」
キッと霞澄はシルフをにらみ、覚醒をしだす。
「弓とファンタジーは切り離せません‥‥私の場合覚醒すると、なお更ファンタジーですけれど」
オーラが背中からあふれ出し、3対の翼へと姿を変えた。
シルフは自分と同じような翼を生やした霞澄を敵と決めたのか攻撃を仕掛けてきた。
一瞬で距離を詰められ、電撃による攻撃が霞澄に浴びせられる。
霞澄はその攻撃を受けても耐え切った。
「この程度の攻撃‥‥私には効きません」
電撃を耐え抜き、霞澄は苦痛を感じながらも弓を引いた。
驚くシルフに対して、霞澄は弾頭矢を零距離で撃ちこむ。
心臓の位置に弾頭矢が突き刺さる。
弓の勢いがシルフを押し、矢と共に飛んでいき、空中で爆破した。
熱風が霞澄の髪とオーラの翼をなびかせる。
それはまさに天使の姿といって過言ではなかった。
しかし、シルフはまだ倒れていない。
ボロボロになりながらも、残った雷撃を集中させる。
「まさか、自爆!?」
脅威的な光がシルフを包みだし、熱を持ち始める。
「皆さん! 敵が自爆しそうです。シェルターなどへ避難してください!」
爆破が近いことを悟り、霞澄はシェルターなどへの退避を呼びかけた。
自らも逃げようとしたそのとき、空のかなたが光った。
月影のKVが、急接近しバルカンを放った。
『くたばれ、妖精っ!』
自爆しかけていたシルフはバルカンにより、空中で散った。
『騎士』と『妖精』、そして『天使』の物語はここに幕を閉じたのである。
●終わり、そして次なる始まりへ‥‥
空港の管制施設などへの被害はなかったが、滑走路はシルフの攻撃により大きく被害を被っていた。
戻ってきた潤信たちは、補修の手伝いをしている。
「ギリギリだったな‥‥自爆まで持っているとは、油断できない相手だ」
「ええ、月影さんのお陰です」
廃材を担いでいる潤信に、霞澄は答えた。
伊織と毅は念のために空中偵察をしている。
もっとも、毅の場合は空を飛んでいたいだけかもしれないが‥‥。
「片づけが終わったら‥‥帰って夕飯の仕度」
ラスト・ホープのある方角をみて、章一は呟く。
そんなとき、自分も手伝いをしようと戦闘機形態のR−01から降りようとした月影がコックピットから聞こえた短波通信を捉えた。
内容を確認すると、再びコックピットへ戻る月影。
「すまない、急ぎの用事ができた」
それだけ言い残し、月影は飛び立つ。
彼を待つのは、戦場か平穏か‥‥。
見送る能力者達にはわからない。
ただ、できることは無事ラスト・ホープで再会できることを願うだけだ。