●リプレイ本文
●人気パーソナリティ(?)ライディ・王
「京都に来るんは、えらい久し振りやわ♪」
沢良宜 命(
ga0673)は夏のまぶしい日差しを手でさえぎりながら、京都の空気を思い切り吸う。
「『泣くよシクシク平和な京』‥‥意味分かんないケド、ソレのとこだよね? 京都って」
「それは平安京やがなー」
素でぼけたラウル・カミーユ(
ga7242)に月夜魅(
ga7375)のマジツッコミが飛んだ。
スッパーンといい音が京都の大地に響く。
「皆さん、元気ですね‥‥」
遅れてライディ・王(gz0023)が高速移動艇から出てきた。
「元気なのはいいことじゃない。京都なんていつ以来かしら‥‥日本人の端くれなんだけれど、ゆっくり旅行なんて殆ど覚えていないわ」
リン=アスターナ(
ga4615)はどこか決意にも似た雰囲気を漂わせつつ、いつもと同じスーツに煙草姿で現れる。
今回京都入りした能力者は14人、その誰もが楽しい旅行を期待していた。
だが、そんな能力者たち一行を謎の影が襲う。
「な、なんだアレ!」
いち早く見つけたライディは影に驚いた。
影は西瓜の頭をし、ビキニをつけたキメラだったのである。
「曲者じゃ! 皆の者出合え、出合え!!」
葵 コハル(
ga3897)は京都らしく時代劇のノリで蛍火と夏落を振りかぶった。
「京都の景観を壊すんやない! 成敗や!」
「ダブル突っ込みはりせーんっ!」
コハルのノリに打ち合わせていたかのように命と月夜魅はハリセンで西瓜キメラの頭をぐっちゃりと潰す。
命のOカップの胸がたゆゆんとゆれ、キメラの頭部が潰されるのはなんともシュールな光景だ。
「貴方達! こんな風情のある街に似合わないのよ! 成敗ッ!」
シュブニグラス(
ga9903)も100tハンマーでボディ丸ごと頭部を潰す。
「でも、この西瓜美味しいヨ。うん」
ナイフで西瓜頭を切り、食べながらラウルは笑顔で答え、京都の夏は西瓜(キメラの頭部)割りから始まった。
●傭兵、宇治グリーンビーチランドに上陸した!
「目の前で西瓜キメラがぶちゃっと割れたんだ。この場所もきっと奴らに制あ‥‥つぅっ!?」
「プールにまで来て何をやっているの!」
宇治グリーンビーチランドの入り口にて、迷彩服姿で匍匐全身をしていた雑賀 幸輔(
ga6073)を葵 宙華(
ga4067)の鉄拳が襲った。
「ふごっ!?」
「もう、せっかく久しぶりのデートなんだから‥‥ちゃんとしてよ」
力いっぱい雑賀を叩いた宙華の顔が曇る。
「ごめん‥‥」
宙華に釣られて沈んだ、雑賀は顔に白スクール水着の鳳 つばき(
ga7830)から水鉄砲をかけられた。
「暗い顔していないであかるッく行きましょー」
つばきに顔を濡らされたこともあり、雑賀も宙華もグリーンビーチランドの中へ入っていく事にする。
「やれやれ、宿題がたまってるんだがこんな京都にまでつれてきて朋の奴‥‥」
都築俊哉(
gb1948)はトランクス型の水着で人でごった返す宇治グリーンビーチランドへ足をいれる。
「だーれだっ!」
柔らかい手が俊哉の視界を塞いだ。
こんなことをする間柄の人間を俊哉は1人しか知らない。
「って、朋! お前‥‥また‥‥あー、その格好は泳ぎにくくないか?」
俊哉が手を払って振り返ると、若干際どいカットのハイビスカス柄のパレオ付きビキニを着た岩崎朋(
gb1861)の姿があった。
幼さの残る顔と違ってその体は年頃の乙女である。
「ちぇっ‥‥もう少し面白い反応があると思ったのになあ。まぁいいや、遊ぼう!」
俊哉の手を引き、朋は流れるプールの方へ連れ出した。
流れプールの手前ではシーヴ・フェルセン(
ga5638)がライディと共に泳ぎの練習をしている。
シーヴは泳ぐのも初、水着も初とのことで浮き輪が手放せなかった。
「てぇ‥‥離さないで欲しい‥‥です」
ライディに両手を掴んでもらい、シーヴはバタ足をする。
いつもは露出も少なく、ボディラインの目立たない格好をしているシーヴだが、今は藍と白の小ドット柄のホルターネックAラインワンピース姿だ。
「離さないから‥‥えっと、練習続けようか。ゆっくり進むよ」
いつもとは違う視点からみる『恋人』をライディは少なくとも意識して顔を赤くしつつゆっくりとプールの中を歩く。
「あ、はい‥‥です」
ライディの視線に恥ずかしさを感じたシーヴは早く泳げるようになりたいと練習を続けた。
●見守る側としての楽しみ方
「‥‥半年ほど経つのか。今は精一杯、前を見て走るとしよう」
恋人同士で楽しむ能力者たちを見て、ホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)はフードコートで目を細めた。
ホアキンはこのところ恋人と出会えていない。
だが、彼女と胸を張って会えるよう今は楽しもうと気分を変えアイスの段重ねの限界に挑戦した。
「キャラメル、チョコ、ストロベリー、バニラ‥‥もう一段追加っ!」
「そんなに一杯重ねて‥‥とけないうちに食べるのが大変そうです」
ハンナ・ルーベンス(
ga5138)はホアキンの段重ねアイスを見て驚く。
「南国風な曲をもってきたんで、かけてきたぜ。俺もジュースをもらおうかな」
ラジオの準備を先に済ませ、その上自分で持ち込んできた曲をかけてきたアンドレアス・ラーセン(
ga6523)はジュースを買って一息ついた。
「お疲れ様です。今回もすばらしい放送になるといいですね」
ハンナがレンタルした水着の上にTシャツ姿でアンドレアスに微笑みかける。
「何時にもまして大舞台だからな、それなりにでかく飾りたいよな。あの二人のためにも」
アンドレスの視線が自然とライディとシーヴの方を向いた。
それをハンナも追って頷く。
「はふぅ‥‥つばきさんに負けてしまいました。体力では勝ててたんですが‥‥変顔は反則です」
「ふふふ、勝負に情けは無用ですよ。いちごぱふぇ美味しい」
「いちごぱふぇ〜」
潜水勝負に負けた月夜魅はつばきにイチゴパフェやら焼きそばやらを食べていった。
月夜魅の悲しむ声が響く。
「あ、ライディ君。あたし、サブパーソナリティ志望なんだけど‥‥」
さまざまな感情が混ざり合うフードコートへ上がってきたライディにコハルが声をかけるが共に上がってきたシーヴを見るや否やにんまりと笑った。
「どちらとは、どちらのとは申しませんが、お二人のジャマになる様でしたらフェードアウトさせて頂きます」
「そんな気を使わなくっていいですって‥‥3人でやりましょう」
ライディとシーヴを見て、そそくさと立ち去ろうとするコハルをライディは捕まえる。
「変に気を使われる方が調子狂うです」
「三人共いつも通りにがんばってくれ。アイスも食べたことだし、俺は飛び込みをしてくる」
もじもじとしだし、髪の毛を弄るシーヴやコハル達にエールを送りホアキンは飛び込み台のほうへと向かっていった。
●『希望の風』出張版
『ライディ・王のWind Of Hope! イン 京都!』
宇治グリ−ンビーチランドすべてに響き渡るライディの声とともに、ラジオ番組の出張収録が始まった。
「あ、これ、お弁当作ってきたんだ、食べて☆ お、美味しいかどうか分かんないから、あまり期待しないでよ!」
「重い荷物を持たされたと思っていたらお弁当だったのか‥‥。ああ、美味いよ」
フードコートでは朋と俊哉がそんなことを話しながら、ラジオ放送に耳を傾けている。
『京都の皆さんはじめまして。ラスト・ホープでラジオ番組をやっています。もし、こられる方がいましたら聞いて下さると嬉しいです』
『サブパーソナリティのシーヴ・フェルセンです。プールも水着も初めてでしたが息づきして少し泳げるようになりました』
『同じく、サブのコハルです! 京都では3月に『ひなふぇすた』というお祭りにでていました。覚えてるかなー?』
コハルの言葉にガラス張りのスタジオ前へ人が集まりだした。
「競泳用でもいい! 宙華の水着姿は宇宙一!」
「もう、恥ずかしいよ。バカッ」
水着を持ってき忘れたためレンタルものを着ている宙華を同じく借り物水着の雑賀が褒め、殴られる。
それにしてもこのカップルは漫才コンビのようだ。
『今回は皆さんからいただいた『祈り』に関するお便りを読みたいと思います。ラスト・ホープにいる方々の話となってしまいますが皆さんも聞いてくださいね』
南国のトロピカルなリズムに乗せてライディのトークが始まる。
『ではでは、最初のお便りをあたしからいきます』
『
『祈り』という言葉を辞書で調べたら、『神仏に請い願うこと』と書いてあった
神サマを信じていない僕は、祈ることも出来ないのかな?
何処へ向かえば良いか分からないけれど、それでも祈るのはキミの幸せ
RN:紫水晶の影
』
『
祈りと願いの違いが分からない
結局誰かに何かを望む事なら、その祈りは自分自身へ向けたい
失いたくない、護りたい、支えたい――自分の手で
RN:紅の炎
』
「いきなり重いパンチが飛んできやがった‥‥です」
シーヴがポソリと呟いた。
『紫水晶の影さん、紅の炎さん。僕の調べた辞書ではこう乗っていました。”心から望む。願う。” 誰かの幸せを心から望んだり、願ったりする行為そのものが祈りなんじゃないかと僕は思います』
『ライディ君かっこいー』
『コハルちゃん、からかわないで‥‥。他人任せにするのはいけないと思っているかもしれませんが、相手を信じるという意味でも祈るって使うと僕は信じています。それじゃあ、シーヴは次の手紙お願い』
『は、はい‥‥読みますです』
『
皆を笑わせてくれる道化師へ
いつも笑顔をありがとう
いつも仮面を被りつつ皆に愛を囁くその様が
どうしても「私」への言葉であるとつながりにくく
貴方を何度も傷つけイラつかせた
言葉足りぬ私の言葉は貴方を荒れさせた
それでも貴方の言葉は届いた
とてもとても実直に
とてもとてもまっすぐに
私の心に届いた
私は素直でないからいつも苛立たせるけども
それでも私を信じていて欲しい
私も貴方が好きだから
いつかは燃ゆる糸に身を投じよう
私が還る所は1つだけ
愛しい笑顔の見える貴方の傍だけ
いつもそう祈らずにおえない
そう思えるのは貴方だけ
覚えておいて、捕われるんじゃない
私が貴方を捕らえるという事を
私も貴方が愛しいから
RN:紫紺の蝶
』
『長く、詩のようなお便りですね』
ライディが関心する声を漏らしていると、騒いでいた雑賀は静かになる。
宙華はただ黙っていた。
『シーヴはこの紫紺の蝶さんのような体験はないですが、誰かを好きになるっていうのはとても分かります』
『あたしも両思いになりたいよー。って、アイドルにこれはスキャンダルかな?』
『微妙なラインですね‥‥。えっと、話がずれてしまいましたが蝶さんと蝶さんに愛されている方。お二人の幸せを番組から『祈らせて』もらいます』
『では、次、あたしいくよー』
『
夏の夜空に瞬く星よ
どうか、忘れないで
かつて貴方を見上げた人が
例え貴方たちより高き天に召されたとしても
その人達が貴方に向けた願いと祈りを
いつまでも忘れないで
RN:マリア
』
『
過去の自分の祈りに届こうとしている
きっと君と一緒なら、どこへだって飛んで行ける
こんな俺だけど、いつまでも君の隣にいられますように
RN:道化師
』
『一気に二枚よんだよー。シンプルだけど強い祈りがこもっているね』
「祈りか‥‥こうして俊哉とゆっくり一緒に過ごせたらな」
「それは祈らなくても、俺が暇だったら付き合うよ」
ラジオを聴きながらお弁当を食べていた朋がぼそっと呟く。
俊哉はそんな朋の肩を抱き寄せて笑顔で答えた。
『最後は僕のほうから読ませていただきます』
『
あの時失くした友達が、みんな天国で笑っていてくれますように
RN:風桜
』
『
言葉にならないすべての祈りが形を得られるように
RN:空飛ぶ海賊
』
『
まだ、10という年月じゃが今後成長できるよう祈るのじゃ
胸がでかすぎては弓が引きづらくなるからの
可もなく不可もなくがよいの
らじおねーむ:京都の姫
』
『京都の姫さん、風桜さん、そして空飛ぶ海賊さん。いろいろな祈りをありがとうございました。二人の祈りはきっと通じます。それでは南国らしいナンバーをどうぞ』
読み終えたライディはすっきりした笑顔で締めてアンドレアスに曲を流すよう指示をだす。
「お疲れ様でやがるです。ちょっとフードコートにいって抹茶アイス買ってきたです」
ライディが一息ついているとシーヴがコハルやアンドレアスの分もまとめてアイスを持ってきた。
「ありがとう、あれ‥‥僕のだけアイスが1つ多いような‥‥」
「そこは突っ込まずに流すものだよ、ライディ君」
「そういうもんだぜ、ライディ」
アイスを食べて、その美味しさかそれともその光景が面白いのかコハルとアンドレアスはにやけた視線を向ける。
「う、うーん‥‥」
悩めるライディを他所に番組は進んでいった。
●鞍馬温泉においでませー
「この度はお誘い感謝いたします♪」
「うむ、苦しゅうないのじゃ」
不知火真琴(
ga7201)は鞍馬温泉へ誘ってくれた平良・磨理那(gz0057)にペコリとお辞儀をする。
磨理那は夏でも着物姿でにっこりと笑い返した。
夕暮れ時に能力者やライディは揃って鞍馬温泉へやって来ている。
「それじゃあ、真琴あとでな」
「え、混浴じゃなかったの?」
「ばっ、そんなわけあるかー!」
盛大なボケをかます真琴にアンドレスのツッコミが飛んだ。
「愉快な者たちじゃの」
「平良お嬢さんはお久しぶり。写真もありがとうね」
シュブニグラスが磨理那の頭を撫でながら、先日あったコミックレザレションの駄賃である写真の感想を述べる。
「洋装もたまには良いの。じゃが、妾があの格好で街中をであるこうとすると碁平がうるさいのじゃ」
頬をぷぅと膨らませつつ磨理那は能力者たちを鞍馬温泉に案内していった。
●裸と裸のお付き合い?
「のんびり湯に使って月見酒。これが京都の風情というものだ」
ホアキンは盛大に飛び込んではしゃぎ、遊んだプールの疲れを湯船につかって癒す。
「一度コレやってみたかったのよ。今まで妨害が多かったからな。‥‥美味ぇ〜!」
「体があったまっている分、酒が回りやすいから気をつけろよ」
日本酒を飲み、感動しているアンドレアスにホアキンが注意をした。
5ヶ月ほど前の京都で経験済みだからである。
それに、ホアキンは恋人やまだそこまで行かないが奮闘しているアンドレスを応援したいと思っていた。
「ねぇ、ライライ。もう少し肉つけたほうがいいよ。僕よりひょろいのダメっしょ。これから益々忙しくなるんだから」
湯船のそとではラウルがライディの背中を洗いながら、肉付きをみて背中をぺしぺし叩く。
「忙しいから逆に痩せちゃっているのかも‥‥うーん。難しいところだよ」
「いっぱい食べなきゃだめだよ。『また』倒れてシーちゃん泣かしたら許さないヨー」
ニヤニヤとラウルがライディに釘を刺しつつ背中を流しだす。
「守るものがいるのならしっかり食べて強くならないとなぁ、王」
ラウルに乗ってかホアキンもそんなことを言い出した。
「気をつけます」
「そーいえば、前に『嫉妬したことない』っていってたけど、今はどう? 答えないとくすぐりの刑♪」
「えー、えっと‥‥わわ、答える前から‥‥くくく‥‥あはは。く、くすぐらないでぇ!?」
ホアキンに頭を下げつつ答えたライディにラウルの容赦のないくすぐり攻撃が襲う。
「答えロー。風呂上りのフルーツ牛乳が待っているんだから」
男同士の裸の付き合いは派手だった。
●真剣! 女湯しゃべりば
「んーどうにも最近肩が凝ってねぇ。疲れをしっかり洗い流したいわ♪」
命が湯船にその豊満な胸を浮かべながら肩まで湯につかる。
「映画撮影なんて慣れないことをした疲れを取るための骨休めね。色々あって疲れたわ」
「うーん。なんというか戦闘力の差を感じる」
体を洗い終えたリンがゆっくりつかりだし、その隣でコハルが命やシュブニグラスのバストを眺めたあと自分の胸を見て呟いた。
「もっと大きくなりたいですよね。その気持ちとっても分かります」
つばきも月夜魅の背中を洗っていたかと思ったら、胸をむぎゅっと掴んで切実に語る。
「ひゃわわわっ!? つばきちゃん掴んでる掴んでる!」
「掴めるだけあるのがすでにすごいよねー」
コハルは月を見上げながら、その顔に哀愁を漂わせた。
「胸への拘りを捨てるのじゃ! さすれば救われるのじゃ」
そこに割って入ってきたのは、磨理那である。
言っていることは妖しげな宗教の言葉のようだ。
「そやで、おっきいても肩ばっかりこってしまうわ。普通が一番やわ」
命も磨理那の言葉に同意するようにコハルの後ろに回って抱きしめる。
「でも、好きな人がどういうのが好きかはちっと気になる‥‥です」
ぽつりとシーヴは呟くが、すぐに湯船の中で顔を少しだけいれてぶくぶくと照れ隠しに泡をだした。
「『しーぶ』や、そちは『らいでー』の外見で好き嫌いを決めたわけではなかろ? ならば、悩むことはないのじゃ。こはる同じじゃの」
「至言ね。好きになるって気持ちの問題だから、どんな体型でも自分で好きになれたらそれでいいんじゃないかしら?」
体を洗って入りだす磨理那の言葉にリンが頷く。
「自分を好きにですか‥‥」
「きっとすぐに色っぽく好きになれますよー」
言い聞かせるように呟くつばきを月夜魅が励ました。
「うむ『胸による差別を是正しよう』と能力者たちでも動いているようじゃ。妾はそういう前向きな精神は好きじゃの」
「前向きね。貧乳もステータスと思えばステータスかー」
どこかしっくりこないといった感じのコハルだが、そんなわだかまりはあったかい温泉に解けていく。
「あんまり長風呂してると男衆を待たせてしまうやろし、ほどほどであがりまへんとな。温泉卓球もやっていきたいものやし」
「卓球の相手ならば妾がやるのじゃ。妾も中々の腕じゃぞ?」
「そら楽しみにしときまひょ」
命の卓球話に磨理那が乗っかり、まったりとした時間が女湯では過ぎていった。
●流せる思い出、流せない気持ち
「アスさーん。お待たせしました」
「浴衣も、似合うな‥‥えぇと‥‥綺麗だ、ぜ」
「ありがとうございます♪」
磨理那から借りた浴衣を来てほっこり湯上りな真琴をアンドレアスは迎えながら共に歩く。
160cmと日本人として平均的な真琴だが、190cmを越えるアンドレアスのほうが真琴に合わせてゆっくり現地へ歩いた。
「灯籠流し‥‥故人を偲ぶってほどでもないですけど、誰といわれたら母親でしょうか?」
静かな雰囲気。
ゆっくりと流れる時間がおのずと真琴の口を開かせた。
「そうか‥‥」
アンドレアスは初めてきく彼女の話に相槌を打ちながら耳を傾ける。
「うちが産まれて間もなく亡くなってしまったので、顔もよく覚えていませんけれど、やっぱり親は親ですしね」
「なんか、妙なこと話させちまったな‥‥おおー、綺麗だな! Jul‥‥クリスマスみてぇ!」
しんみりした雰囲気になってしまったのか周囲を心配させないようわざと騒ぎ立て、林の間から見えた灯籠を真琴の手を引いてアンドレアスは追いかけた。
奇しくも二人っきりとなり、話をどうしようかと真琴もアンドレアスも悩む。
先に動いたのはアンドレスだった。
「アスさんは何でシュークリームを‥‥」
「え、故人の好きだったモノ入れるって聞いたから‥‥変?」
「変ですよ」
アンドレスの取り出したシュークリームに思わず真琴が笑みをこぼす。
「変ついでに、少し懺悔じみた話を聞いてくれるか?」
「今日のお話ですね」
真剣な顔で話しだすアンドレスに真琴はコクリと頷いた。
「前に‥‥競合地帯にいって帰ってこなかった幼馴染の話をしたよな?」
「はい♪」
「彼女の出発前日、電話を貰った。でも俺は出なかった。どうせ大した話じゃないだろうし、最後になるなんて思わなかったから‥‥」
どこか落ち着かず、指で自分の腿を叩いてアンドレアスはリズムを取り出す。
「あの時話してればって思いがずっと引っかかってる。この気持ちも傲慢だけれど」
暗い話にも関わらず真琴は笑顔を絶やさずに話に聞き入った。
「真琴は俺を優しいって言うけど、違うんだよ。いつか消えちまう時間なら、悔いの無いようにしたいって‥‥自己満足なんだ」
心のそこから搾り出すような言葉をアンドレアスは出す。
明るく頼りがいのある普段の姿からは想像できないほど弱弱しい姿だった。
「うちは馬鹿なんでアスさんの気持ちが理解できるとは思えません。けれど、自己満足でも前向きな方がうちは好きです」
真琴はアンドレアスの前でくるりと回る。
しかし、夜道で足を踏みはずし川へ落ちそうになった。
「はわわわ!?」
そんな真琴の手を握りアンドレアスは引き戻し、抱きとめる。
「あぶねぇ! けど‥‥聞いて貰って、ラクになったわ‥‥ありがと、な」
「アスさんが少しでも元気になってくれたら、うちはそれで十分です」
すぐに真琴は離れ、灯籠流しを行う場所へアンドレアスを引っ張っていった。
●君と出会ったあの丘で
「待宵草‥‥花言葉のひとつは【愛の祈り】だ」
浴衣「七々夜」を来たホアキンは恋人と語り合った星の見える丘へと来ている。
嵐山には向かわず、磨理那から神楽笛を借りてのまでこの場所に着たかった。
「再びこの街を訪れる日が、いつかまた来ることを祈って‥‥笛を吹こう」
目の前に恋人はいないが、それでも笛の音が伝わることを祈り演奏をはじめる。
きらめく夏の夜空に笛の音が静かに響き渡った。
●それぞれの灯篭流し
「灯籠流し‥‥か。今までの戦いでなくなった人のためにも俺たちが頑張らないと‥‥な」
「大丈夫。あたしとあんたで頑張ればきっと‥‥ね!」
「そうだな、あ‥‥朋、浴衣似合ってるよ」
「も、もう‥‥こんなときに言わないでよ」
灯籠流しをしている会場にたどりついた朋と俊哉は共に浴衣姿で戦いの決意をしていた。
そんな二人を眺め、リンが珍しく煙草に火をつける。
「バグアとの戦いがひと段落したら‥‥墓参りに行くわ。できれば、私の、大切な人と一緒にね」
多くの人でにぎわう会場にその小さな声は消されていった。
リンは眼を伏せて、傭兵となるきっかけとなった事故を思い出す。
1人の女友達がまぶたに浮かび、リンに対して『まさか貴女みたいな無愛想女を好きになってくれる人がいるなんて』と笑った。
「志半ばで斃れた方々の事‥‥お願いいたします、院長先生」
灯籠を流す場所では、ハンナが大勢の名前を描き模様のように仕上がった灯籠を流す。
それは今までの大規模作戦により、その命を失った戦死者の名簿だった。
ハンナの表情は何時に無く暗い。
このときばかりは迷いを諭す修道女ではなく、ハンナ・ルーベンスという20歳の女性だった。
祈りと微笑を絶やさなかった修道院長との別れを今一度行い、決意を胸にハンナは立ち上がる。
「ハンナ姉様ないてやがるですか?」
シーヴがハンナの目じりに浮かぶ雫に目をつけた。
ハンナはそれを脱ぐい気丈に振舞う。
「あまりにも綺麗で感動したんです。シーヴは誰のを流すのでしょう?」
「えっと‥‥ライディの父様と母様にです」
シーヴは手を繋いで隣にいるライディの顔をみて確認したあと、ハンナに話した。
「両親は中国で亡くなって‥‥それからアメリカにいって、その後、僕はラストホープに来たんです」
「辛い話をさせてしまってごめんなさい。二人の邪魔をしないように姉さんはあちらにいってますね」
ライディからも説明を受けたハンナはシーヴに微笑みかけるとそっと離れる。
「両親がいたから、ライディがいるです。シーヴは感謝しているです」
「そういってくれると僕も嬉しいよ」
ハンナが離れた後、シーヴはライディの目を見て話、そっと灯篭を流した。
そのあと、潤んだ瞳でライディを見つめる。
「シーヴはライディにとって『能力者の恋人』でしかねぇです? ちょっと寂しいです」
一人称の違いをシーヴは寂しく思っていた。
ライディ自身も能力者と初めてあったころはもっと砕けた喋りをしている。
コハルから聞いていたその話をシーヴは『壁』のように感じたのだ。
「うーん。”俺”っていうのも最近なんか恥ずかしいんだけど‥‥らしくないというか、どうなのかな?」
「ふふ‥‥ライディがそういうところシーヴは初めて聞けたです」
初めてのこと。
だけど、それが嬉しいとシーヴの笑顔は訴えた。
「死者は答えてくれないけれど、俺達は生きて言葉を交わせる。‥‥ずっと一緒にいよう、宙華」
ライディとシーヴの様子を眺め、そして自ら過去に愛し、殺めたものへの餞(はなむけ)として灯籠を雑賀は流す。
「答えは‥‥分かっている癖に‥‥」
せせらぎにのって流れていく灯籠を宙華も目で追い、雑賀に返した。
灯籠はすぐに他の灯籠と混ざり分からなくなる。
死んでしまえば何もかも消えてしまうかのように宙華の目には映った。
「灯籠流しなんて、えらい久しぶりやわ。子供の頃にやったっきりやものねぇ」
流れ行く灯篭を見て、命が感慨にふける。
「ここ数年は灯籠の数が増大しておるのじゃ。それだけ世があれておるかもしれぬの」
磨理那も灯籠にお供え物を載せて流した。
「お母さんから受け継いだ想い、きっと叶えます。だからお母さん、どうかお父さんを守ってあげてください‥‥」
月夜魅から離れ、静かにつばきも灯籠を流す。
去年、亡くなった能力者の母を偲ぶものであり、元気なつばきではやれないことだ。
親友であるからこそ、この姿は見せたくないとつばきは思う。
灯籠と共に願い、祈り、望みは流れていった。
●渡月橋の向こうで
「幸いなのね‥‥未だ供養する側ではないのは」
シュブニグラスは回収される遠くから流れる灯篭を眺め、ひとりごちる。
「あ、こんなところにいたのか‥‥探した探したっ」
静かに佇むシュブニグラスの元へ、日本刀を背負った少年。山戸・沖那がやってきた。
「あら、貴方は‥‥」
「もうすぐ、高速移動艇が出る時間だから呼びに来た。それと、供養する側にはならない方がいいぜ‥‥自分が誤って殺したりとか‥‥な」
「そうね‥‥大丈夫‥‥なるつもりもないわ」
シュブニグラスは沖那にそういって、能力者達と合流に向かう。
京都での一日はこうして過ぎ去った。