●リプレイ本文
●鬼が来る
「ようし、ここは相撲で勝負をつけるぜ。古来から決め事はこれってね」
鬼非鬼 つー(
gb0847)が平良屋敷の庭で、準備をしている。
山戸・沖那が勝手に調査に出向こうとしたこともあり、相撲で勝負を決めることになった。
「何で俺がこんなことを‥‥めんどくさいぜ」
沖那の方も和装に身を固め、準備運動をしていく。
「そのわりにはやる気十分じゃないの。がんばりなさいよ」
シュブニグラス(
ga9903)に言われ、頭を掻いて沖那はつーと間合いを取った。
「では、見合って見合って‥‥はっけよい、のこ〜たー」
気の抜けるようなラルス・フェルセン(
ga5133)の行司により二人が相撲を取り出す。
「何だ、何だ!? 何でつーと沖那が庭で相撲とってるんだ?」
二人が取っ組み合い、土俵の上を回しを握りあって駆け回っていると蓮沼 千影(
ga4090)とレーゲン・シュナイダー(
ga4458)が買い物を済ませて帰ってきた。
平良・磨理那(gz0056)の案内で縮緬(ちりめん)で作られた兎のストラップを買っていたのである。
「せいっ!」
「どはぁつ!?」
「勝負ありーですね〜」
どしゃっと派手に沖那がつーに投げ飛ばされ、ころがった。
「なんで、つーと沖那が?」
「男の友情ってやつさー」
痛がる沖那を投げ飛ばしたつーが抱えあげてニヤリと笑う。
「中々見物じゃったぞ。二人とも一休みの後仕事に参るがよい」
「俺が勝ったから、こっちの作戦方針に従ってもらうぜ?」
磨理那が二人を祝すと、つーは沖那にこっそりと耳打ちをするのだった。
●神木の傍にて
「本来、丑の刻参りは呪詛ではなく、心願成就を目的としたもの‥‥。人の業が、思念が、それを捻じ曲げてしまうのならば、なんと悲しいこと‥‥痛かったでしょう?」
真田 音夢(
ga8265)は貴船神社の御神木を撫でて1人呟く。
音夢は普段彼女を知るものからは想像できないほど慈愛に満ちた表情をしていた。
「境内の方には怪しげなところは無い様ですが、真田様の方はいかがでしょうか?」
「御神木にキズ‥‥」
占部 鶯歌(
gb2532)がラルスと共に調査の様子を音夢に聞くと無愛想に答える。
「林の方には足跡があったわ。誰かが毎度毎度来ているのは確かなようね」
茂みの中からシュブニグラスも姿を現した。
後ろには沖那もついてきている。
「‥‥そう」
音夢が頷くとシュブニグラスの携帯にロジー・ビィ(
ga1031)からの着信が入った。
『もしもし〜? ロジーですの。学校関係を当たったところ、事件と関係あるかどうかは分かりませんが貴船神社から聞こえた音で倒れたという方がいましたの』
「そう。沖那君以外にも被害者がいるということね?」
『今から、ちょっとお尋ねしようと‥‥レグのナンパはいけません。私の方も今は手が離せないのでダメですの』
おっとりした口調でマイペースに電話をしてきたロジーはそこまでいって電話を切る。
「被害者がいるとなれば見間違いとかではありませんし〜、神社の方をもう少し詳しく探してみましょうか? どこかで戦うにしても場所を把握しませんとー」
ラルスの提案に4人はしかと頷いた。
●被害者を訪ね
「思い出すのも辛いかもしれないけど、貴船神社にいったときのことをどうか教えてくれないか?」
ロジーやレグと共に千影は気分の悪くなったという被害者の女子高生を訪ねる。
学校帰りにナンパして、現在茶屋で一服しつつ話を聞いていた。
「時間は‥‥えっと、日付変更くらいで‥‥その‥‥恋愛成就のご利益もあるもので。そのとき何か音が聞こえてきて‥‥」
「釘を打つ音ですか?」
レグが女子高生の隣であんみつを食べつつ聞く。
「はい、貴船神社は呪いでも有名ですから‥‥」
視線を落とし、ぽつぽつとした口調になおって女子高生は話した。
「それで?」
つーが昼間だというのに自前の酒を飲み女子高生に話を促す。
何時になく顔がにやけ、興味をそそられているのが分かった。
「はい‥‥石段を登った上に行ったところまでは覚えているのですが、そのあと御神木の近くで白装束の人影を見たような気がします‥‥その後は気を失って覚えていません」
「本宮の付近ということですのね‥‥境内全体か一部かは推測の域をでませんがざっと100mくらいを見ておきましょうか?」
ロジーが話を聞きながら貴船神社の敷地を示したマップに効果範囲を記録していく。
「人間も能力者も苦しめるとあったら、今宵の橋姫は鬼かな」
つーがふふりと笑い酒をぐびりと飲み干した。
「あんまり脅かさないっ! もう少し詳しく教えてくれないかな?」
千影は苦笑しつつ女子高生に話を聞きだす。
夕暮れのひと時に能力者たちは聞き込みを続けるのだった。
●夜の境内で
「中宮、奥宮については何もなかったですねぇ〜。一安心ですー」
ラルスは貴船神社本宮の境内に集まった仲間と共に情報を知らせる。
社務所で水占いをしたときに聞いた話ではここ一週間の事件であり、沖那を含めて犠牲者は3人ほどの小さな事件ということだった。
「被害も少ないのなら、今確実にしとめるべきですね」
占部が槍を持ちラルスからカラーボールを受け取りながら、御神木を眺める。
効果範囲はおよそ100m、それより近づけば気を失うようなダメージを負う心配があるため間合いを取る位置を探った。
「ランタンの明かりと月明かりがとっても綺麗ですわ」
照明用のランタンを片手に防寒シートで冷え込む空気を押さえ込んだロジーが空を見上げてポツリと呟く。
「満月とはこれまたいい雰囲気だねぇ‥‥鬼としては血が騒ぐ」
つーは相変わらず飄々した雰囲気で酒を飲んだ。
『おい、石段の下から白装束が上がってくるぜ‥‥いったん隠れろ』
見張りをしていた沖那とシュブニグラスからの無線連絡が届き、一同は本宮の後ろへと隠れる。
ヒタヒタヒタと草鞋で階段を駆け上がる音が静寂の夜に響いた。
時計を確認すれば時刻は零時を回ろうとしている。
「来ましたが‥‥昼間シュブニグラスさんたちが調べた足跡とは別ルートなのが気にかかりますね」
覚醒し、真剣な表情になったラルスが様子を見ながら呟いた。
白装束の人物は石段を駆け上がり、御神木のほうへ一目散に移動しだす。
「この距離からでも狙えなくはない‥‥千影、ラルス、つー。準備はいいな?」
覚醒し、人が変わったかのような占部が3人に確認をとり、全員が頷いた。
ヒュンッと投げられたカラーボールが白装束にあたり、蛍光塗料のピンク色に染められる。
「人間? ‥‥いや、君は夕方にあった女子高生!」
逃げもせずその場にうずくまった白装束に千影たちが近づけば彼女が夕方情報収集した被害者だったことを知った。
「おいおい、橋姫になりたいったぁどういう了見だい?」
つーが両足を開いてしゃがみこみうずくまる白装束‥‥いや、女子高生に話を聞きだす。
「ごめんなさい‥‥実をいうと出会ったのは丑の刻だったんです。だから、それより早く来てここで恋愛の願掛けをしたくて‥‥」
女子高生はなきながら答えだす、願掛けに来たかったのは事実であり人に見られたくないためあえて時間を日付変更前としたのだった。
一日で直ったほどだからとあまり警戒していなかった、ただし、千影たち話を聞きに来た人物が能力者だったというオチである。
「あとで、怖い姉さんにしかってもらうとして、この子どうしようか?」
「まだ、時間があるならば‥‥いえ、時間はなさそうですね」
覚醒したレグのことを頭に浮かべつつ千影が問うと占部が昼間調べた林から来る足音を察知した。
「つーつーからロジロジへ、姫様の御到着だ。盛大に歓迎してやろう」
『了解ですわ。そちらも気をつけてください』
「いいかい? 俺たちは能力者。そして、相手はキメラなんだよ‥‥利用しようなんて考えはもうしない様に」
千影が女子高生に念を押してから、覚醒をする。
黒い髪が紫に染まり、どこか甘い雰囲気を表情からは漂わせ出した。
ザッザッと草むらを掻き分け、白装束を身にまとい、顔に白粉を塗り、頭に五徳をかぶってそこにロウソクを立てている人影が姿を現す。
『アア、ウラヤマシ、ウラヤマシ』
人とは思えない声を上げ、般若のような顔のキメラは能力者達を見据えた。
「貴女の望みは、ある種、純粋なものかもしれません。‥‥ですが、恨みの念に囚われ、憎み続けて、それを達成しても‥‥。貴女はきっと ‥‥救われない」
本宮に身を潜めていた音夢が威嚇として射程距離から多きく外れる般若に対して弓を射る。
あたりはしないが、攻撃されたことを知ったキメラは口を開閉させた。
すると、カツーン、カツーンという音が響く。
「御神木への傷はカモフラージュ‥‥ッ!」
覚醒していれば視認できる黒い波動をキメラは複数飛ばし、女子高生を庇った千影はそれを身に受けた。
「予定通りの誘導をしましょう、同時攻撃は厄介ですが中宮へと向かえば挟み撃ちが出来るはずです」
ラルスの声に能力者たちは移動をしだす。
本宮から中宮に向かう道へ進路を代え、挟み撃ちを狙った。
千影は遅れながらも女子高生を抱きかかえ走る。
迎撃班が隠れている本宮を通り過ぎ、80mほどキメラが離れたとき動きだした。
「ほうら、がんばりなさい。沖那君もね」
沖那と共に合流を果たしたシュヴニグラスが手近な能力者へ『練成強化』をかけ出す。
そして、蒼い闘気の羽を生やしたロジーが間合いを飛ぶようにつめ、小銃「S−01」による急所を狙った一撃を背後から当てた。
追いかけるのをやめたキメラがロジーのほうを向き直り、釘を打つかのような歯音を響かせる。
「おっと、こっちにもいるンだよっ!」
荒っぽい性格へと変化しているレグが『練成弱化』をかけてキメラを撹乱した。
「人騒がせもこれまでです」
逃げるのやめ、『ファング・バックル』の攻撃力と『影撃ち』の命中力を持ったアルファルの一撃をキメラの顔面に撃ち込む。
『グァァァ、ウラヤマシ‥‥、ウラヤマシ‥‥』
顔から血を流し、白装束を朱色に染めながらも嫉妬心を爆発させ闇の波動をやたらめったにキメラは放ちだした。
「私の前にその姿で現れたことを後悔する暇もなく、私の友人達の処へ誘ってやろう‥‥! 沖那、タイミングを合わせろ」
「うるさいっ、そのつもりだ! 一発も当てれずに終わるもんかよ!」
瞬天速で逃げていた位置から一気に間合いを詰め、鬼のように真っ赤な体をしたつーが待機していた沖那共に挟みうちでキメラを叩く。
「爪技、須臾!」
「剣技、草薙っ!」
二人からの攻撃を受けたキメラはそのまま動かなくなった。
「沖那‥‥鬼になれた気分はどうだい?」
「鬼を倒したからって鬼になんかなりたくないな‥‥」
返り血をぺロリと舐めながらいう赤鬼に対し、沖那は刀を納めながら返す。
伝承に沿ったキメラに故郷・出雲のことを思い出しながら‥‥。
●事後処理
「いいかい嬢ちゃん、恋愛ってのは他人まかせじゃないんだ。自分で切り開かなきゃだめなんだよ」
「すみません‥‥」
その後、平良屋敷に戻った一同だが始まったのは覚醒したレグによる説教だった。
「千影も千影だ、敵の攻撃くらってふらつくとは何事だっ!」
バチーンと気合の入るびんたがレグから千影に対して飛ぶ。
「秋の夜長に騒がしいことじゃの‥‥」
「貴船神社が汚れずにすんで何よりでした」
3人から離れて磨理那の入れたお茶を飲みつつ占部が一息ついた。
「蚊取り線香ありがとう。お陰で待っている間も虫に刺されずにすんだわ。このお礼というわけでもないけれど、京漬物寿司屋で奢らせてもらうわ‥‥場所がわからないから案内して欲しいけど」
シュブニグラスが磨理那にお礼をいいながら豚の蚊取り線香入れを返す。
ただ、現在は深夜4時もうすぐ朝だが、寿司屋はさすがにやっていなかった。
「一眠りした後に食べに行くかの‥‥しかし、京に伝承系の『物の怪』が出てくるとは、偶然とかであれば良いのじゃがな」
磨理那は1人縁側で月をみる沖那の背中を眺めながらため息交じりにいう。
月は今日も綺麗に光っていた。