●リプレイ本文
●丘を越えていこうよ
「磨理那のとこにも招待状がくるとは本気(マジ)で、世界中から集めやがってるですか‥‥カステーラ伯爵」
「カプロイア伯爵だって、あぁぁシンドイ!」
シーヴ・フェルセン(
ga5638)のボケに対し、山戸・沖那は盛大に突っ込みを入れた。
京都の山林をリアカーを引いているのに突っ込みを忘れないのは持ち前の性分なのかもしれない。
「ほらほら、あとちょっとだよー。ファイトファイト」
「苦労した分だけ料理は美味しいものよ」
リアカーの上からはこれも修行のためと蒼河 拓人(
gb2873)とシュブニグラス(
ga9903)が応援をしていた。
「少しくれぇなら手伝って‥‥いや、そんな暇なくなったです」
シーヴがリアカーに手を伸ばそうとしたとき何物かの気配を察知した。
コロコロと毬をまとった栗がいくつも転がってきて、タックルをかましてくる。
『イガガガァッ!』
「なにぃ!?」
「『栗キメラ 秋の味覚に 思いはせ』なんてね!」
句を読みつつシュブニグラスの100tハンマーが栗キメラの一体をメキョリと潰した。
『イガァー』
フリル服で戦うシュブニグラスもそうだが、キメラの奇妙な鳴き声もついて非常識この上ない光景である。
近づいてきた栗は50cmくらいの大きさで中々に大きかった。
「なんつーキメラがいやがるですか」
「たいした強さじゃないけど、数が多いね。皆、油断だけはしないように」
栗キメラのタックルをシーヴがコンユンクシオで受け止めて弾けば、拓人がスコーピオンで穴だらけにして倒していく。
「普通の京野菜の前に野菜キメラが先かよ」
「これ一体で栗ご飯が一杯炊けるわ。ちゃんと運んでね、沖那さん」
「次は海老芋のようだぜ。空気を呼んでいて嫌になってくる‥‥」
『エビビン! エビビン!』
背中を曲げた海老の姿に見えなくもない芋がピョンピョン跳ねつつ能力者一行に迫った。
「海老芋――言われてみりゃ海老? くれぇにしか‥‥むぅ」
沖那に言われ、シーヴが確認をキメラを確認するも、芋が跳ねているというほうがしっくり来る。
「おつぎは芋のミンチ、いくよ」
拓人は冷静に万華鏡のように煌めく瞳で芋キメラを見据え、スコーピオンを構えるのだった。
●いつでもどこでも酒飲み
「酒が飲めるぞ〜♪ 今日は京野菜で酒が飲めるぞ〜♪」
京都の地酒『まりな姫』を一口飲んで上機嫌な鬼非鬼 つー(
gb0847)は愛車のジーザリオを転がす。
表情も変わってないためパッと見酔っているとは思えなかった。
車の運転もお手の物である。
※良い子のみんなは決してマネしないで下さい。
「うわー、金閣寺だって! 大根がなければ行きたかったなぁ」
助手席で初めての京都に前田 空牙(
gb0901)興奮しつづけていた。
「今回はどうぞよろしくお願いいたします。何かドライブ気分でいいですね」
後部座席では小川 有栖(
ga0512)が救急セットと超機械を用意しながらも目的の農家に向かう道を素直に楽しんでいた。
農家に到着すると聖護院大根をすぐに受け取った。
お礼を言って帰ろうとしたとき、黒ずんだ大根に手足の生えたキメラが能力者たちの目の前に現れる。
「あ、アレは悪の大根キメラ『アクダイコン』!」
小川が驚きながらも真剣な表情でそのキメラに勝手に名前をつけた。
「そのネーミングは流石にないんじゃないかい? まぁいい、とっとと退場願おう」
つーは『まりな姫』を再び一口のみ、つーの体が真っ赤になる。
「野菜のくせに邪魔するなよ! まだまだ集めなきゃいけない素材が一杯あるんだよ、こっちは!」
アクダイコンに前田は瞬天速で一気に間合いを詰めて拳を叩き込もうとした。
「そういえば、大根の急所ってどこだ? いや、考えるのも面倒だ!」
一瞬、考えをめぐらせるがいい答えが浮かばない前田はそれでも点穴を突くかのごとく黒色の爪をアクダイコンにめりこませた。
「私の野菜に手を出すとは、良い度胸ですね! つーさんやってください」
「言われなくてもちゃっちゃと片付けるさ」
なにやら時代劇のノリをかもし出しながら小川の指示でつーも前田に続いてアクダイコンを成敗した。
「これにて一件落着。次の食材を集めにいきましょ〜」
小川が大根とアクダイコンの残骸をジーザリオに詰め込んでつーと前田に笑顔を向ける。
時代劇のノリをそのままに一行は左京区へと向かうのだった。
●唐辛子フィーバー
神無月 翡翠(
ga0238)はジーザリオを転がしながら、助手席のアヤカ(
ga4624)の持つリストをチラっとみた。
「京都で、野菜集め? 久し振りに来たが‥‥なんだ、この集める野菜の種類の多さは‥‥」
「でも、あたし達の集めるのは全部唐辛子ニャ〜」
『唐辛子にも、色々種類があるんだね。やっぱりみんな辛いのかな?』
「私は辛いのは苦手なの」
テディベアの癸を腹話術で話させながら乙(
ga8272)は後部座席から話に混ざる。
「青唐辛子は加熱することで甘くもなるものじゃ。使い方次第で幅の広がる食材じゃの」
乙の隣では平良・磨理那(gz0056)が野菜収穫というのに豪華な着物姿で説明をくわえた。
すでに伏見唐辛子、万願寺唐辛子、鷹ヶ峰唐辛子は回収済みである。
「うニャ、携帯がなってるニャ。アヤカニャー」
『こちらは拓人です。海老芋、丹波くり、紫ずきん、丹波やまのいも全部回収できましたー!』
「ニャニャ、ご苦労様ニャね。あたし達も後2つニャよ」
『早い段階で帰れそうですね。晩御飯を楽しみにしています。アヤカちゃんもがんばってね。それじゃあ、後ほど!』
「あいニャー」
ピッと通話を終えたアヤカだったが、その目が車の目の前に立ちふさがるを玉ねぎが頭の人影を捕らえた。
「何か前にいるニャ!」
「おっと、磨理那はこのまま唐辛子を見守ってろ。俺らが片付ける」
翡翠はキキィーと車を止めて農道を塞ぐ人目でキメラと分かるそれに対して警戒をする。
『練成強化』が乙とアヤカにかけられ、二人は前に躍り出た。
「無益な殺生はしたくニャいのニャが邪魔をするならズンバラリン☆ニャ」
ルベウスを光らせたアヤカはタマネギキメラの顔面を思いっきり殴る。
ブシュゥと血の代わりにタマネギの液が噴出した。
「ニャー!? 目がー、目がー」
予想外の攻撃(?)にアヤカが苦しむ。
『タマネギの液は危険だね』
「目にしみるの‥‥体もタマネギなのか気になるの」
『だからって僕をシールドにくくりつけるのやめない?』
アヤカに一歩遅れ、乙がレイシールドに癸をくくりつけながらタマネギキメラに接近し、両断剣で腕を切り落とした。
タマネギの液は飛び散らない。
「ちょっと残念なの‥‥でも、せっかくだからもって帰るの」
『ちゃれんじゃーだね』
物騒なことを言いながら乙は切り落とした腕を回収した。
「アヤカ、練成治癒だ」
「うニャ! 燃える拳でばーにんぐっ!」
その間にアヤカは練成治癒で視力を回復させて怒りの『紅蓮炎衝』でタマネギキメラを倒す。
「一体だけだったのは助かったな。さっさと次に‥‥ナニをやっている」
「タマネギを回収するニャ。七輪で焼いて食べてやるニャ」
翡翠がジーザリオに乗り込もうとするとアヤカがタマネギキメラの頭だけを持ち出してきた。
乙は切り落とした手を持っている。
「俺は食わないからな」
『カープサイシーン』
ため息をついていると体に良さそうな鳴き声と共にどこから生えてきたのか唐辛子でつくった精霊馬に見えるキメラ群がジーザリオの後ろから突撃してくる。
「逃げるか」
「逃げるニャね」
「ちょっと食べてみたいの」
『おいおい』
「早く乗れ、全力で振り切る‥‥めんどうだな」
漫才のようなやり取りのあと、ジーザリオは目的に向かって全速力で走りだす。
車を追いかける精霊馬が出るという都市伝説がここに生まれた。
●青果一番
「もう少し優しく運転できないのか?」
ユウ・エメルスン(
ga7691)は青果市場に到着したとき、つーの運転でつい落としてしまった煙草を咥えなおす。
未成年で吸えないのだが何かと落ち着くため咥え煙草は欠かせなかった。
「早く料理が作りたいんでね。いいものを選びたいのもあるが」
悪びれた様子もなくつーは盛り上がる市場に進んでいく。
「仲良くいきましょー仲良く」
小川が二人の間に入って取り持った。
「にぎやかでいいな。こういうところはどこも一緒な感じがする」
前田もにぎやかな市場の雰囲気を楽しみながら、目的の京野菜回収を目指す。
「俺は手が汚れないのを探させてもらうぜ」
ユウはそのまま茄子や水菜のコーナーの方へ足を向け、前田もユウについていった。
「時間を決めて車の前に集まるとしようか、後でな」
つーは小川と共に他の野菜を見に分かれる。
「あの大根キメラにはビビッたが、まさかこの市場でああいうのはいないよな」
「だといいですよね」
ここまで人が多いところにキメラが出たらパニックになるのは予想が出来た。
戦いづらくもなるし、勘弁してもらいたいと煙草を口で軽くゆらしながらユウはぼやく。
「あ、竹とんぼかな? 平和だなぁ」
前田が空に回転する影を見つけて和んだ。
少しずつその影が大きくなる。
いや、近づいて来ていた。
「待て‥‥アレは葱じゃないか」
ユウは頭痛が来るのを感じ飛来してきた回転する葱を見据えた。
「引き寄せて倒すぞ。何をしてくるかわからん」
S−01を懐に控え、急いで市場からユウと前田は離れだす。
それに従い数本の空飛ぶ葱群はユウを追いかけてきた。
「人払いもできたことだから、遠慮なく撃たせてもらうぜ。手袋を汚したくないんでな」
飛んでくる葱群に対し、シューティングゲームのようにユウは撃ち落しにかかる‥‥。
●実はこちらが本題?
「皆のもの手伝ってくれて感謝するのじゃ。伯爵に送る分は確保したので、残りは好きに使うがよい」
生野菜をそのまま葛篭(つづら)に詰めて用意した磨理那は労いとばかりに台所と食材を能力者たちに解放した。
「俺は寝させてもらうぜ。疲れた」
リアカーを引いてヘトヘトとなった沖那はふらふらした足取りでそこから離れる。
「伯爵より一足先に秋の味覚を味わいたいものね」
「メニューはすでにリストを貰ったときから決めてある。居酒屋経営者の実力をご覧に入れよう」
扇子で優雅に扇ぎながら悩むシュブニグラスに不敵に笑うつーが腕まくりをして台所にたった。
「野菜キメラにも、ビタミンやミネラルが含まれるんでしょうかね〜?」
一方、各自で意図せずに集められた野菜キメラの残骸を見た小川はこちらをメインに調理するつもりである。
タマネギ、葱、大根、栗、海老芋、唐辛子と京野菜と被ったりそうでなかったりと種類も量も豊富だった。
「あたしは料理を教えて欲しいニャ。ありすちゃんよろしく頼むニャ」
「はい、家庭料理いきましょうか。お肉とかってありますか?」
興味津々に耳をピコピコ動かしているアヤカが小川にくっつく。
「冷蔵庫にあるものを好きに使ってよいぞ。どちらにせよ妾がそち達を迎えるために宴を開くつもりじゃったからの」
「その心使いありがとよ、磨理那に喜んでもらえるような料理を俺も作らせてもらうぜ」
ユウは冷蔵庫を覗いて並ぶ食材の数々に感謝の意を込めて磨理那の頭を撫でた。
「え、ええいっ! 妾の頭を勝手に撫でるでないっ!」
不意に撫でられ磨理那は顔を真っ赤にしながらユウの手を振り払う。
「意外と可愛いところあるじゃないか。それじゃあ、台所使わせてもらうぜ」
咥え煙草でニヤリと笑いユウは鍋の準備をし始めるのだった。
●命がけの宴会
『鰹キメラは鰹味だったけど、野菜キメラはちゃんと野菜味してるのかな?』
「それは食べてみないと分からないの」
小川達がが作った京野菜会席が並び、待っていた乙と癸は感想をもらす。
「食べるのがもったいないくらい豪華な料理が並んでいるな〜」
拓人はユウの作った鍋やつーの作った紫ずきんの唐揚げ、小川の作った野菜キメラの卵とじなどを見て興奮しだした。
「それじゃあ、京都の農家に感謝と敬意をこめて、乾杯!」
「「かんぱーい」」
つーの音頭と共に宴会が始まる。
「すごく美味い! 栗ご飯も美味しいな」
前田も戦闘で疲れていたのかもしゃもしゃと勢い良く食べだした。
「飲み過ぎや食べすぎるなよ? でも、楽しいからいいか」
1人呟き、翡翠はつーの買って来ていた『まりな姫』を共に味わいだす。
「んぁ‥‥宴会が始まるなら読んでくれよ」
奥で寝ていた沖那が出遅れて宴会に混ざりだすと、そこにシーヴがよく分からない『何か』を差し出してきた。
「初めて作って何だか分からねぇですが、味見してくれです」
照れる少女から料理を出されるのは男として嫌なわけではないが、その『何か』からは指らしいものが生えていたり、栗の殻がところどころ見えたりしている。
「こ、これを食べろというのか‥‥」
「ちゃんと食べなきゃダメよ? シーヴさん栗をそのまま火の中にいれたり、直火焼して焦がしたりとか大変だったのよ」
ユウの鍋に手をつけつつシュブニグラスが沖那の背中を押した。
「手当ても大変でしたけれど、気持ちはこもっていると思います。がんばってください」
小川までも真剣な面持ちで沖那を見る。
食えないとは言えない状況だった。
「わ、わかった‥‥食えばいいんだな」
覚悟を決めた沖那はシーヴの料理を食べだす。
「味、どうです?」
「ちょっと、香辛料が足らないかも‥‥」
「それならせっかくとった唐辛子でつくった一味を‥‥あっ、入れすぎた!」
青ざめた顔で沖那がいうと、拓人が一味唐辛子を持ってくるも蓋がはずれゴッソリ注がれた。
「お嬢‥‥」
「なんじゃ、妾は客人の酌で忙しいのじゃ。『さいえんてぃすと』もおるのじゃから多少問題があっても大丈夫じゃろう」
助けを求める沖那の視線を磨理那はスルーしてつーや翡翠に酒を注いでいる。
騒々しい宴会はこのまま夜遅くまで続く‥‥。
「あとで、唐辛子キメラの足とか『かぽいえら伯爵』に送っておくの」
『やめた方がいいと思うよ? それにカプロイア伯爵だし』
そんな中、乙は1人野菜キメラの手足の味を伯爵に聞いてみたいと本気で考えていた。
==収穫祭への品物==
九条葱
千筋京みず菜
壬生菜
賀茂茄子
柊野ささげ
伏見唐辛子
万願寺唐辛子
鷹ヶ峰唐辛子
田中唐辛子
山科唐辛子
能力者製一味唐辛子
海老芋
丹波やまのいも
丹波くり
紫ずきん
野菜キメラの手足