●リプレイ本文
●待ち合わせの風景
「ええと、荷物はこれくらいですか‥‥ね?」
結城加依理(
ga9556)は京都駅で平良・磨理那(gz0056)から配られた京野菜である紫ずきんをコーヒーしか入っていないカバンに詰め込んだ。
「山登りをするっていうのにコーヒーだけって信じられな〜い。加依理にぃ変だって!」
妹である結城玖沙久(
ga9646)にさえ、兄である加依理のコーヒー好きぶりは信じられなかった。
「運動の後に飲むコーヒーは格別なんですが‥‥玖沙久も大人になればわかりますよ」
「そんな大人には私なりたくないぃ〜」
平然と返す兄に玖沙久は頬を膨らましながら返す。
「出遅れておるものはおらんかえ? 沖那と行くものや目的地がわかっていくものを除いたものがこれだけなら出発するのじゃ」
人垣に埋もれ姿の見えない磨理那が巨大ハリセンを目印の旗の如く振って存在感をアピールしていた。
「あ、あと一人ぃぃぃ〜〜! 待って、待ってぇぇぇぇ!」
そこに大きな荷物を背負った火絵 楓(
gb0095)がぜぇぜぇと息を切らしながらも京都駅に姿を現す。
楓が歩くたびに荷物は上下に揺れてカンカンとかキンキンとかタポタポなど奇妙な音をだしていた。
「一体‥‥何をもってきたんですか?」
「えっと、ハイキングするからラムネ、紅茶、緑茶、ミネラルウォーターに‥‥あ、オレンジジュースは疲れた今飲もうっと」
早速、荷物から取り出すとオレンジジュースを飲みだす楓。
「ぷっはぁー! 生き返った」
「先は長いのにこんな調子で大丈夫なんですかね?」
「私、しーらないっと」
親父臭いゲップと共に口元を腕で拭く楓を見ながら加依理は妹に聞くが、玖沙久はくるりとホームに向きを変えて歩きだすのだった。
●スーパー鯨井ブラザーズ
目にしたキノコは全て食さなくてはならない。
明らかに色合いがデンジャーなものであっても、そんなことはおかまいなし。
外側を鍛えるのは普通の傭兵。胃袋さえ鍛えてこその一流。
もうお腹いっぱいとか、そんな泣き言を言ってる暇があれば食え。
戦場で敵がたくさん出てきたら、もう戦えませんと諦めるのか。
違うだろう戦うだろう、それと同じことだ‥‥。
【ここに登場する人物たちは特殊な訓練を受けています。よいこは絶対真似しないでね】
「さあいくわよ起太、準備オーケー?」
「当然。存分にきのこフェスティバルを楽しませてもらおうじゃないか!」
何か始まったような気がしたが、そんなことはお構いなしに鯨井昼寝(
ga0488)は双子の弟である鯨井起太(
ga0984)に声をかけた。
当社比2倍のシリアス調である。
「俺、バーベキュー会場に着いたら腹いっぱい野菜キメラを食うんだ!」
「馬鹿野郎、戦う前から死ぬやつがあるかっ!」
どこか遠い目をしながら呟くキムム君(
gb0512)に昼寝の鋭い右ストレートが唸った。
「な、なぐったね! 妹にだってぶたれたことないのにっ!」
どこかで聞いたことがあるようなないような言葉を吐きながら倒れたキムム君は昼寝を見上げる。
「いや〜皆さん楽しそうですねー。沖那君もそう思うでしょう〜?」
保冷剤を入れたクーラーボックスを背負ったラルス・フェルセン(
ga5133)がラルス以上に荷物を背負った山戸・沖那に微笑みかけた。
「あ、頭が痛くなってきた‥‥」
「暗いぞ少年。きのっこの〜このこと一緒に歌おうじゃないか」
目の前で起きている光景に不安以外何も感じない沖那をユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)が歌いながら肩を叩いてトドメ(?)をさす。
「キノコといえばだな‥‥」
「隊長! 黄色いキノコを見つけました!」
「よし、食べろ! きっと分身がふえたような気分になるはず!」
リュドレイク(
ga8720)が来る前にコンビ二で買って来たポケットキノコ辞典を開いていると、その側からキムム君が怪しげなキノコに手を伸ばしていた。
「色鮮やかなのはー日本では危険といわれていますが〜北欧ではカンタレルという丁度ああいうキノコが‥‥あれれ〜?」
「それってすごくまずくないか?」
ラルスがキムム君が食べようとしているキノコを指差し、笑顔で首をかしげる。
リュドレイクが汗をたらしながら突っ込みを入れたが、時すでに遅しカンタレルはキムム君に食された。
5秒とたたないうちにキムム君がその場に倒れる。
「「メディィィィック!!」」
昼寝と起太の大きな声が紅葉のある山中に響いた。
●好きな人と二人で
大勢で旅行することを楽しみのものがいれば、静かに京都を満喫したいものもいる。
「レティさん、今日は一緒に来てくれてありがとう。楽しい思い出作ろうねっ」
篠原 悠(
ga1826)もその一人であり、好きな人であるレティ・クリムゾン(
ga8679)の腕に抱きつきながらお日様のような笑顔を向けていた。
「私も嬉しいよ。大変な依頼の後でもあるし、羽を伸ばせたらいいな」
遅れてしまわないように二人は早めに現地に着き、ゆっくり観光後合流する予定である。
楽しそうな笑顔をむけられ、思わずレティも悠に微笑みを返した。
手荷物には鬼包丁や三角巾、エプロンなどが入っているが悠にはナイショである。
「さて、それではまずどうしようか? 京都は良くわからないから悠に任せたいんだが‥‥」
「レティさんに京都の料理を食べてもらいたいから、買い物からでいいかな? ちりめん雑魚とか山椒が一杯欲しいんだ♪」
悠は腕から離れながらもレティの手を引き、街中を回るバスの停留所へと歩き出した。
「せっかくだから、『ぜんざい』とかそういうものを食べてもみたいかな? 少し遅れてしまうだろうが」
「あ、いいね! うちの知っているお店でよければ案内するよ」
引っ張られながらも平和なひと時を楽しむようにレティも悠を追いかけだす。
そのとき、二人の横をインデースが通り過ぎた。
中に乗っているのはジェイ・ガーランド(
ga9899)と紅 アリカ(
ga8708)である。
「買いたての新車でアリカとデートができるなんてタイミングが良かったよ」
「‥‥本当、嬉しいわ」
助手席で普段は無口で無表情なアリカがジェイに微笑むを向けた。
窓を開け、アリカは外の風を受け目を細めている。
いつもとは違う姿にジェイは少し見惚れながら、街中を通り過ぎ高速道路へとそのまま乗り込むルートをとった。
「赤色が揉み出されるようにして色づくことから、『揉み出づ』が訛って『もみじ』って言うんだそうだ」
車はそのまま走り、紅葉に彩られる山が見え出したころ、ジェイがふとアリカに向けて話し出す。
「‥‥揉み出る赤なのね。でも‥‥イチョウの黄色も紅葉っていっているわ」
「正確には『黄葉』と言って、厳密には紅葉とは分けるんだそうだね」
「‥‥日本人である私より詳しいなんて、‥‥ちょっと悔しい」
口では悪態をつくが、アリカの表情は穏やかだ。
それは無表情だからゆえか、恋人がいるからなのかは分からない。
「通りすがりの英国紳士‥‥されど、その正体はただの日本通。なんてね? 講釈はこの辺にして、今日は色々食べて楽しもう」
ジェイは後ろに乗せているラム肉やサツマイモ、九条葱をチラリと眺めたあとアクセルを踏み出した。
●とれいん・とれいん
「日本のこういう行事は初めてですので、粗相があるかもしれませんが‥‥よろしくお願いします」
揺れる電車の中、シャーリィ・アッシュ(
gb1884)は鹿嶋 悠(
gb1333)の向かいの席で丁寧なお辞儀をした。
シャーリィの格好はいつもの学生服ではなく白いブラウスを基調に緑のリボンや青いスカートを合わせた私服である。
鹿嶋はその姿に少しばかり惚けていたがすぐにいつもの余裕を取り戻して礼を返した。
「こちらこそ、態々付き合っていただきありがとうございます」
大規模作戦後の慰安と交流のために誘った鹿嶋にとっては意外な収穫である。
他の参加者とは席を大きくずらしているが決してデートではない。
「一時間ほどかかるようですし、のんびり外でも眺めていましょう」
「そうですね‥‥あっ‥‥」
鹿嶋に言われてシャーリィも外を見ていると、ホームから引きずられて乗りこんでくる女性と引きずっている男性のペアが見えた。
「もう、真琴さんは食べ物に釣られすぎです。乗り遅れたらどうするつもりだったんですか‥‥」
「あははー、秋の味覚の誘惑に負けちゃって。うちこんなんだから叢雲が一緒で助かるよ」
叢雲(
ga2494)は不知火真琴(
ga7201)をシュブニグラス(
ga9903)と水無月 霧香(
gb3438)と磨理那の座っている席へと座らせる。
「平良さんは私の膝に座って。ここはカップルを隣同士にさせなきゃダメよ」
ぱんぱんとシュブニグラスは膝を叩き黒でスリットの深いチャイナドレスの上に磨理那を呼び込んだ。
「メンバーそろたろしさあ勝負や! 勝負! ブラックジャック、大富豪、ババヌキ、ビリは罰ゲームや!」
叢雲たちが席にゆくと1人、水無月 霧香(
gb3438)が盛り上がりカードを切り出す。
「ババ抜きならできるかのぅ‥‥おぅおおぉ!!」
なれないシュブニグラスの膝の上でトランプをもった磨理那がしくはくしていた。
「平良さんへのプレゼントもいろいろ買ってきたのよ?」
トランプを遊ぶ磨理那の頭にはシュブニグラスから渡されたカウボーイハットがちょこりと乗っている。
「やるからには勝ちをめざすわよ?」
ずしりとしたバッグを床に置き、磨理那を膝に乗せて準備万端といった様子でシュブニグラスは答えた。
「うちもやりますー。叢雲も一緒にやろ?」
霧香からトランプを受け取った真琴は隣にいる叢雲を見上げる。
読書しようとしていた叢雲だが、子猫のような真琴の視線に折れた。
「わかりました。付き合いましょう。俺は表情にでやすいからすぐに負けそうですけど」
「嘘ばっかし、めちゃくちゃポーカーフェイスやん」
トランプを受け取りながら叢雲は微笑み、そこを真琴に突っ込まれる。
「なんや、ピンクオーラが強いけど、気にせずいくでぇ〜」
真琴と叢雲のやり取りをみてずれそうになる着物の襟を正した霧香が気合を入れなおしてばば抜きの開始を宣言した。
「聞いてなかったが、罰げーむは何をするのじゃ?」
ペアになったトランプを捨て札にしつつ磨理那が霧香に問う。
「罰ゲームは、バーベーキューんとき、能力者製一味唐辛子を口いっぱいに頬張ることや! もちろん、食べる時に水は、な・し・や・♪」
ニヤリとした視線を向けたあと、霧香はまばゆい笑顔で手札を磨理那の方へ向けるのだった。
●家族で山へ行こう
「バーベキューだー♪ 食べ放題だ〜♪ くちーぶえふきつーつ〜♪」
微妙に歌になっていない歌を歌いつつ月森 花(
ga0053)は宗太郎=シルエイト(
ga4261)と手を繋ぎ山道を進んでいく。
「このキノコ食べれるのかな?」
「姉さん、それはテングダケですよ。食べたら笑うとかいわれてますが、実際は下痢など引き起こしますから絶対食べないでください」
「ふぇっ!? そ、そうだったの‥‥危ない危ない」
キノコを取ろうと思っていた花だが、義理の弟であるヴァイオン(
ga4174)に注意をされてすぐにその手を引っ込めた。
サバイバル生活をこなしてきたヴァイオンにとってこの手の知識は命に関わることで身をもって知っている。
「あのころは苦労しましたよ‥‥動物と餌のとりあいとか」
哀愁漂う姿でたそがれるヴァイオン12歳。
その背中をUNKNOWN(
ga4276)が軽く叩いた。
「たそがれるにはまだまだ年季が足らないな。もっと前を向くといい。人生の先は長いのだからね?」
UNKOWNの格好は紅葉の木々でも目立つ黒で飾られている。
そのUNKOWNに寄り添うのは白衣を着込んだエレナ・クルック(
ga4247)だ。
表情も余裕なUNKOWNと対象に紅葉に負けないほど赤くしてうつむきながらついてきている。
「ほんのちょっぴり幸せです‥‥」
「下をむいていると足を滑らせないかもしれないけれど、せっかくの景色がもったいない。寒暖もあったから綺麗なのだけれど」
「あぅ‥‥えっと、その‥‥あんのんお兄様、手を繋いでもらってもいいですか?」
「疲れたのなら、背負ったりも‥‥ん、静かに。何かいるようだ」
エレナに向けて手を差し出そうとしたUNKOWNだが、何かの気配に気づいた。
ざわざわと草がゆれたあと、ポヨンという気の抜けた音と共に何かが飛び出す。
その『何か』は丸みを帯びたフォルムに黄色い傘に茶色の水玉模様がついていて、円らな瞳で此方を見てくるキノコだった。
「‥‥なんか、どこかで見たようなデザインだが、キメラ以外の何者でもねえな」
花といる分気分が和らいでいるのか、肩の力を抜いた荒っぽい口調の宗太郎がキアルクローを構える。
「さぁ、俺の腹の中にはいってもらうぜ、キノコ野郎!」
奇妙なキノコ狩りがここに始まった。
●紅葉の見かたいろいろ
「今日の呉葉は、磨理那さんだな」
疲れたといって霧香に肩車されている磨理那に鬼非鬼 つー(
gb0847)は酒を傾けながら話を切り出す。
「なんじゃ急に‥‥紅葉伝説を持ちかけるとは‥‥」
「紅葉伝説ってなんだ?」
少し不貞腐れながら答える磨理那に疑問を思ったユウ・エメルスン(
ga7691)がつーに聞き出した。
「呉葉という美女が秘術をつかって男たちをたぶらかす話さ。京都に来たときに呉葉は紅葉となのったから紅葉伝説というのさ」
「へー」
「わらわをそこまで酷い女と申すか」
「そうはいわないけど、磨理那さんになら、誘惑されたいからね」
「た、戯けっ! 口の達者な鬼じゃ。ここで成敗してくる〜霧香、ヤツを追うのじゃ!」
紅葉伝説の概要を語り、ウィンクを残して去ろうとするつーを磨理那は霧香の頭をゆすって追いかけさせる。
3人の楽しげ(?)な光景をシーヴ・フェルセン(
ga5638)が借りたポラロイドカメラで写真に残した。
「いいショットでやがるです。丁度、紅葉も散ってすごく綺麗です」
ファインダーから顔を上げたシーヴは風に吹かれて散る落ち葉を眺めつつ髪を押さえる。
「本当に綺麗なの。でも、早くバーベキューとかしたいの」
シーヴの隣では、手足のはみ出したリュックを背負う乙(
ga8272)が道を眺めてため息をついた。
「早いところ焼かないとなんか痛みそうだから、目的に急ぎたいところだな」
バスケットに野菜キメラの手足を詰め込んでいたユウはじっと手足を眺めて呟く。
ふっと、手足が動いた気もしたがあえて流した。
『乙以外にも野菜キメラを持ってくる人がいるとは思わなかったよ』
テディベアの癸が乙の腹話術によってユウに話しかける。
「似た考えのがいるとは思なかったのは俺も同じだ。どんなリアクションをするか、早くいって試してみるとしよう」
咥え煙草のままふっと笑うユウは一歩大きく紅葉で赤くなっている道を歩き出した。
●キノコの果てにゴールあり
キノコキメラ?
そんなものはスーパー鯨井ルールの前では何の関係も無いこと。
唯一にして絶対のルールは、目にしたキノコを食べる、ただそれだけである以上、キメラだろうがバグアだろうが全く関係は無い。
やばいキノコを食べてしまった場合でも、気合と根性でなんとかしようと試みる。
たぶんどうにもならないだろうが頑張る。
戦場で明らかに勝てない敵新鋭機が出てきたら、どうにもならないから諦めるというのか。
違うだろう戦うだろう、それと同じことだ‥‥。
「キノコに中って倒れながら、シリアスに呟いてんじゃネェよっ!」
口から泡を出し、白目をむいている起太を一瞥して、沖那は夕凪を振るっていた。
怒りをあらわにしているのは起太に対してだけではない。
目の前のキノコキメラは踊っていた。
具体的に言えば人のような姿をして、タンゴを‥‥。
「紅葉の中では、似合わない敵ですね? タンゴを踊るキノコなんて‥‥。援護いたしますので、戦闘系の方、頑張ってください」
「いえいえ、これは見事な食材! バラしてバターホイル焼きの材料に!」
神無月 翡翠(
ga0238)が『練成強化』をかけられた鳳覚羅(
gb3095)がバイルスピアを突き刺しキノコキメラ『マ・タンゴ(仮)』を倒していく。
マ・タンゴの数は多く、無理にでも食べた昼寝やキムム君を初め倒されたマ・タンゴと共に仲良く寝転がっていた。
「ちっ、体がもたねぇ‥‥」
沖那の体力が切れそうになったとき、踊りながらマ・タンゴは沖那へタックルをしかけてくる。
「くっ、回避が‥‥」
避けようと沖那は動くも足が笑い思うように動けなかった。
迫り来るマ・タンゴの動きが止まる。
バタリと目の前でマ・タンゴは倒れ、ブシューと胞子が噴出す。
「よう山戸‥‥『ありがとう』は?」
玖堂 暁恒(
ga6985)が倒れたマ・タンゴの後ろに立ち、ニヤニヤと笑っていた。
「へっ‥‥ありがとよ。これでいいだろ」
「無理をしないで下れ。食材を無駄にするな」
疲れた顔で笑う沖那をハイン・ヴィーグリーズ(
gb3522)が後ろに下がらせ、ロングボウでマ・タンゴを『強弾撃』で射る。
沖那は大切な食材を背負っているのでやらせるわけにはいかないのだ。
「これくらい‥‥まだ運べるっての」
「ほら、無茶しないで荷物持つから」
翡焔・東雲(
gb2615)が沖那の背負う荷物を1つ持ち、スコーピオンでマ・タンゴを砕く。
傷をつけないように戦うものたちもいたたが、能力者も数がいたためマ・タンゴはしばらくして駆逐された。
「肉が発達していておいしそうではありますね。見た目に目をつぶれば」
鳳が倒したマ・タンゴの良さそうな部分を鬼包丁で切り取り収集していく。
「野菜キメラに続いてこれも食べるのか‥‥タフだな、傭兵は」
ハインから傷の手当てを受けた沖那が立ち上がり汚れを払った。
「あとは倒れているこいつらを引きずって目的地にいかなきゃならないか‥‥」
「めんどくせぇな‥‥」
戦闘を終えて疲れている能力者たちは未だ白目をむいている被害者達を見下ろして深くため息をつく。
目的の紅葉公園まであと少し、最後の一踏ん張りだった。
●命がけの準備
「これは食べれますか?」
「辞典にのってないけど、どうだろう?」
「私は食べたことがあるから大丈夫だ」
「あんのんお兄様なら何を食べても平気な気もします‥‥」
沖那ルートと磨理那ルートは合流を果たし、集められたキノコを佐伽羅 黎紀(
ga8601)が中心となって仕分けをしている。
間違ってとってきた毒キノコもあり、生来のサバイバルで培った実体験をもっているヴァイオンやUNKNOWNの経験は役に立っていた。
問題はキノコキメラであるが、一応食べれる部類として振り分けられている。
「かまどとかの力仕事や、串に野菜刺すくらいなら‥‥なんか、いってて寂しくなるでやがるです」
その一方ではシーヴが飯盒炊飯のためのかまどを用意しつつどこか遠い目で青く澄んだ空を見上げた。
「下ごしらえくらいなら、すぐにできるようになるさ。一口サイズにキノコを切ったりすることからはじめてみたらどう?」
ユーリは炊事場で振り分けられたキノコを洗い、キノコ汁の準備のために野菜などを切り出す。
「遅くなりました。ラム肉とサツマイモですよ」
準備が着々と進められる中ジェイがアリカと共に手土産である食材をもってきた。
「私は飲み物くばるねー人数分たぶんあるし」
京都駅を出るときには一杯だったリュックから楓が緑茶などをテーブルに広げだす。
「ほら、手が空いているなら落ち葉集めを手伝って。美味しい焼き栗わけてあげるから」
「手伝い〜ますー」
シュブニグラスが落ち葉を集め、声をかけるとラルスもそれを手伝いだす。
それぞれがそれぞれのできることで準備をしながら、バーベキューの時がやってきた。
●食べろ! バーベキュー
「はーい、磨理那様の挨拶から始まるよ」
ざわざわとしてきた雰囲気を落ち着かせ、緑茶を持った磨理那が壇上にあがった。
「皆のもの。今日は妾に付き合っていただきありがとうなのじゃ。もうすぐ妾と傭兵が付き合いだしてからも一年じゃ。盛大に楽しむのじゃ」
「「「「カンパーイ!」」」
ほぼソフトドリンクで乾杯が行われ、バーベキューは盛り上りを見せていた。
「ここで、大食い対決するんか?」
キムム君と楓は準備をし、なにやら垂れ幕とかが整える。
テーブルには白いテーブルスキンが用意されていくなか。大食い勝負が始まった。
「ちょっと疲れて食欲ないんだー。でも、がんばるよ♪」
食があまりすすまない。花だが体調に問題はない。
「花さん、あーん」
宗太郎が花に焼きあがった首長龍の干し肉を食べさせた。
「んんんんん〜〜〜! 美味しい〜」
「それじゃ、僕からも」
宗太郎から出された箸を持ち替え。こんどは花がラム肉をとって「はい、あ〜ん」と宗太郎にお返しをした。
「箸の使い方大丈夫ですか?」
「力加減が難しくて‥‥」
おいしそうに食べている他を他所にシャーリィは箸の使い方に困っている。
焼けた肉を鉄板の上から取ろうとするも箸のかける力の調整が上手くいかなかった。
「こうなったら‥‥シャーリィさんこれを使ってください」
「いえ、自分のがありますから」
鹿嶋はそういって、フォークをシャーリィに渡す。
「おい、ここにあるキノコって食べていいんだよな。いっただきまーす」
キムム君が伸ばしたのは焼却処分用キノコである。
そして一口食べたキムム君は青ざめた顔で立ち尽くした。
「無茶しやがって‥‥お前のライフは0だってのに‥‥」
涙をふき、鯨井昼寝は戦友キムム君を担いで木陰へと移動させる。
振り返ってはいけない、キノコとの戦いはそういうものだ。
「ほな、罰ゲームの能力者特製一味唐辛子一気食いいこか?」
霧香は涼しい笑顔を真琴へと向ける。
「う、うちだよね‥‥うぅ、がんばります」
恐る恐る京野菜である唐辛子から作られた一味唐辛子をジュース飲むかのように口の中へと流し込んだ。
ババ抜きで表情を読まれてしまったために負けたので仕方ない。
「おぉー! 姉さん素敵過ぎるわ」
ぐっと涙を目に浮かべて飲み込む真琴を見て霧香が思わず抱きついた。
そして、すかさず真琴は叢雲から水を貰う。
「お疲れ様でした。水ですよ」
「よくがんばったのじゃ。『あっぷるぱい』を先に食べると良い」
叢雲から水を貰って落ち着いた真琴は磨理那からの言葉に笑顔になって頷いた。
●料理はアイジョウ
「はい、万願寺唐辛子のじゃこ炒めだよ」
「これはおいしそうだな。栗ご飯にキノコ汁もあるから豪華な食卓だ」
少し遅れて合流した悠とレティは盛り上がっているところより少し離れたところで二人だけの食卓を囲んでいる。
「そういってもらえるとうちも嬉しいな♪ レティさん、はい、あーん」
「あむ‥‥。美味しいな。それじゃあ、私からもあーん」
「え‥‥あ、あーん」
悠から食べさせてもらったじゃこ炒めを食べたレティは焼きあがったラム肉を悠に食べさせた。
恋人同士のようなやり取りを二人は楽しんでいる。
『野菜キメラ焼くの!?』
「きっと誰か食べると思うの。私は食べないけど‥‥」
大きな鉄板の上では明石の大きいダコキメラの足と野菜キメラの手足とキノコキメラ「マ・タンゴ」の頭などが焼きだされた。
「いざ焼いてみると、すごい光景だな」
自らも鉄板に乗せたユウだったが、異様な並び方に食欲がうせる。
「あれを食べるというのか‥‥もう少し斬ってあれば食べやすそうな感じもするな」
鉄板を眺めながら、レティが呟いた。
「場所を借りますね。バターホイル焼にしたいので‥‥」
「すぐに食べたいのでしたら、奥の方が良いですよ‥‥焼芋の具合はいかがでしょうか」
鳳がそういって持っていくと火の管理をしていたジェイが場所を指示した。
指示をし終えたジェイはシュブニグラス達が用意した落ち葉の方で焼いているサツマイモの様子を見に行く。
「焼けているみたいよ。さっき串に刺して確認してみたから」
焼けた丹波くりをハフハフと食べているシュブニグラスが取り出してあるサツマイモをジェイへと渡した。
「おーい、ムカゴご飯ができたけど誰か食べるか?」
「ああ、貰うぜ」
「あたしも食べようかな」
「僕も貰います」
リュドレイクが炊き上がった飯盒を持ってテーブルに置くと沖那と東雲、そしてヴァイオンがそこに集まる。
「先に‥‥食えよ」
前回、依頼で迷惑をかけた二人を前に沖那は遠慮してか一歩退いた。
「そんなに遠慮しなくていいですよ。失敗は誰にだってありますし」
「そういうことだよ。逆に遠慮される方が困るからさっさと食べようぜ。アケビもとってきたからそれもデザートにな?」
ヴァイオンが3人分のムカゴご飯をよそって配る。
「あー‥‥うん、ありがとう‥‥な」
二人の優しさに照れながら沖那はムカゴご飯を受け取った。
●解決、食わず嫌い
「つー、頼まれてきた椎茸だ」
「せんくす。これで期待に添える椎茸料理を作ってみせよう」
「あんのんお兄様、私も少しもらっていいですか?」
「花の椎茸嫌いの解決に協力してもらえるのなら遠慮なく使ってくれ」
UNKNOWNから椎茸を受け取ったつーとエレナは料理を開始する。
これだけいれば苦手なものがある人も多く、また家族で来ていれば心配もされた。
シーヴもその1人である。
「野菜や海鮮ばかりでなくーお肉も食べましょう〜。大きくなれませんよー」
あえてどこがとは言わず、ラルスはラム肉などをよそった皿をシーヴに押し付けた。
「よ、余計なお世話でありやがるです。野菜と魚とデザートがあればいいんです。磨理那にもさっき教わったおにぎりの礼でありやがるです」
「よき心がけじゃ‥‥のぉ!? そちは妾をいじめると申すか。何ゆえにこやつが‥‥しかとない様に避けたはずなのじゃが」
シーヴにおにぎりを教えて手を洗ってきた磨理那にピーマンが山になった皿が出された。
ピーマンが大の苦手な磨理那には拷問以外の何物でもない。
「ああ、ピーマンなら誰ももっていかないようだったから私が運んだよ」
三角巾にエプロン姿のレティが驚愕する磨理那の横をそういって通り過ぎた。
「これを食えというのならば、しーぶも肉を食うのじゃ! でなければ妾はくわないのじゃー!」
それだけ言い残し、磨理那はトテテテとその場から逃げ出す。
京都の代表者としてしっかりものと見られているが、やはり10歳の少女らしさを磨理那も持っていた。
「さぁ、出来たぞ。花さん食べてくれ」
磨理那の騒動がある間につーの『椎茸と賀茂茄子と餅のグラタン』ができあがる。
グラタンといっても30分もかからないお手軽料理だ。
「うー、ママ食べなきゃダメ?」
出されたグラタンとUNKNOWNを見比べて花は子犬のような目で訴える。
「ダメだ。今日はそれを食べるまでは帰らないよ。大丈夫、一晩二晩くらいならこの装備でも生きられるからね」
冗談なのか本気なのか分からない表情でUNKNOWNは花の頭を撫でた。
ここまでされてはと思ったか、花は「よっし」と気合を入れてグラタンに手をつける。
クンクンと匂いを嗅ぐが椎茸特有の香りはせず、チーズの甘い香りとにんにくのツンとする刺激が食欲をそそった。
「い、いただきまーす!」
パクリと一口食べる。
不思議とすんなり食べれた。
「美味しい? ナスも椎茸も嫌いだったのにすごく美味しいよ」
一口、また一口とグラタンを食べだす花。
それをみたつーやUNKNOWNは互いに微笑みあった。
「あんのんお兄様‥‥私の作ったつみれ汁ですけど‥‥どうですか?」
無事に解決したが、せっかく作ったのでとエレナはしいたけををすりこ木で擂ってつみれに混ぜておいたつみれ汁を出す。
「あー、何かおいしそうなの食べてる? ねぇねぇ、もらえないかな?」
UNKNOWNがエレナからつみれ汁を受け取っていると玖沙久が匂い釣られてやってきた。
「もしダメだったとき別の料理用に残していた椎茸も全部グラタンにしようかな」
つーは1人呟くと再び炊事場の方へと歩いていく。
「おーい、デザートのノルマンドとパンプキン・レアチーズタルトを切り分けるぞ。早い者勝ちだ」
「わわ、デザートも食べてこなきゃ。そのあとグラタンもらうね!」
「それは食べ方間違ってるよ‥‥玖沙久」
ユーリのデザートコールを持ってバーベキューによる秋の宴は終焉を迎えていくのだった。
秋の景色。
紅の落ち葉。
皆でとった写真。
そして、「人」として楽しんだ思い出。
それらを胸に能力者たちは次の戦いへと出向く‥‥。