●リプレイ本文
●ウェルカム! ドリーム・パレス
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ドリーム・パレス発!
筐体型近未来ロボットアクション【Vorgel Meister】稼動中!
明日のマイスターは君だ!
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そんなことが書いてあり、操作法が書かれているパンフレットを手に取った如月・由梨(
ga1805)は呟く。
「私達が使っているシミュレーターに近い感じなんですね‥‥」
近未来をイメージしているドリーム・パレス本店で和服姿の由梨は非常に目立っていた。
周囲の視線を強く感じ、すぐに今日の本題であるVMの置いてあるエリアへと移動しだす。
「ふむふむ、なるほど‥‥巨大ディスプレイで試合が流れているので勉強になりますな」
「アル様もきてらしたんですね」
由梨以上に目立つ黒子姿のアルヴァイム(
ga5051)を見てどこか安心したように由梨は微笑んだ。
「動きは中々のものですよ。恐らく敵のクィーンでしょう」
アルヴァイムがディスプレイの方を指すとそこでは二体のワイバーンが荒野を駆けている。
時には平行に走り、時にはクロスして動き対戦相手を翻弄していた。
ワイバーンが対戦相手にとどめをさすとカメラが拡大され、前足の肩に猟犬のエンブレムが見える。
「あれが、噂のチーム『ヤクトハウンド』か‥‥どんな相手なんでしょうね」
宗太郎=シルエイト(
ga4261)はワイバーンの勝利と共に操縦者―マイスター―が出てくるのを待っていた。
ドアが開くと10歳くらいの少女が二人でてくる。
前髪を片方にたらし、左右で違いが分かる程度の少女達だった。
「お姉ちゃん、あの人たち‥‥」
「‥‥うん、きっと傭兵」
双子も宗太郎達を見て対戦相手と分かったのか近づいてくる。
「傭兵にも子供はいるけれど‥‥ゲーマーの年齢帯も似たようなもんなのかな?」
霧島 亜夜(
ga3511)は出てきた少女を眺め、ドリンクをキョーコ・クルック(
ga4770)分まで持ってきて時間を潰していた。
大会も近いということもあり本店では順番待ちの列が長く続いている。
「お嬢ちゃん達は今度のV1にでるのかい?」
近づいてきた双子にキョーコは背をかがめて微笑んだ。
「‥‥うん」
「そう、だよ」
猟犬という名前を持つチームにはとても思えない物静かな二人である。
「そう、それじゃあ当日楽しみにしているよ。あたしも参加するんだ。対戦相手はあっちのお兄ちゃんだけどね」
「ええ、当日はよろしくお願いします。まさか、こんな若い人だとは予想していなかったですけれど‥‥」
宗太郎は少し苦笑しつつ二人と握手を交した。
「どこかで見た顔だと思ったら‥‥今度のV1参加者どもか?」
「おやっさん! 呼ぶつもりだったけど先に来ているなんて、どういうことだ?」
順番待ちで暇そうにしていた亜夜は見知った顔を見つけ、急に元気になる。
「チャンプか。てめぇも暇だな、おい。俺は仕事だよっ! 元々格闘強化フレーム搭載機になる予定だった『マタドール』をゲーム用にコンバートしたわけだ」
火のついていないヨレヨレの煙草を咥えながらおやっさんことゴンザレス・タシロはデータディスクを見せた。
「あ、そういえば私達のKVデータはどうやってコンバートするのでしょう?」
「お前らがちゃんと覚えてれば受付でデータを打ち込んでディスク化する流れだぜ。まぁ、当日がんばれや。俺はこれから筐体の最終調整しにいくからよ」
由梨の背中を叩きゴンザレスはメンテナンス中の筐体へ向かっていく。
「それならば、先にデータ化して列に並ぶとしましょう」
「私もお供しますよ。順番待ちの方と話すのも悪くありません」
流れを聞いた由梨はアルヴァイムと共に動き出した。
●唯一無二の鷹を目指して
「『銃を抱く騎士と守護天使』制服姿で登場と言う所でしょうかね? わかなさん?」
クラーク・エアハルト(
ga4961)が水理 和奏(
ga1500)と共に白い軍服姿で拍手の中入場していく。
本物のヒーローを近くで見れるということで普段ゲームをやらないような人までドリーム・パレス本店には訪れて人垣をつくていた。
「おおー、お祭りだ! 燃えてくるぅー! わっしょーい!」
お祭りさながらの雰囲気にテミス(
ga9179)はアニメ風な着物姿で大いにはしゃいでいた。
テミスにとってV1は初めての参加でもあり、気合をいれている。
「V1は狙っていたのですが、タイミングが悪く参加できずでしたからね。楽しみですよ」
高坂聖(
ga4517)もテミスほどでは無いが今回のV1に対して強い興奮を覚え、武者震いをしていた。
傭兵としてエントリーされたメンバーが控え室から筐体の置いてあるエリアへ整列し、大会の準備が整う。
すると、実況中継を行っている大型ディスプレイにドリーム・パレスのMCキャラクター『みゅう』と緋霧 絢(
ga3668)が現れた。
「おい、あれってIMPのAyaじゃないか?」
「本当だ、スゲー! 写メ取ろうぜ、写メ」
絢はIMPでおなじみの衣装をそろえての登場であり、意外な参戦にギャラリーも多いに盛り上がる。
『はーい、皆、おまたせー! よいよ、V1グランプリ開催よ♪ 解説には噂のアイドルIMPのAyaちゃんを迎えての豪華なイベントになるわ』
『Ayaです。‥‥このたびは解説や試合中のBGMを担当させていただきますので観客の皆さんも楽しんでいってください』
絢の一礼に拍手が浴びせられたとき、急に明かりが消えた。
「あたいの紹介を忘れるたぁどういう了見さね。悪い子にはお仕置きが必要かい?」
そんな口上と共にスポットライトでライトアップされた二階席の一角に赤いバニーガール姿をしたベルディット=カミリア(gz0016)がいる。
二階の席から空中ブランコでステージに降り立つとベルディットは胸を揺らしてアピールをした。
「今日はあんたらマイスターの勝利の女神になりに来たさ。楽しもうじゃないか!」
おー!っと、参加するマイスター達が拳を上げて盛り上がりを見せる。
そのまま大よそ60機は並んでいる筐体内へ傭兵やマイスター達は乗り込んだ。
実況ディスプレイの映像が切り替わり、黒と白の正方形で作られたマップが現れる。
その板状にKVたちが次々とチェスのコマの特殊なエンブレムをつけて配置されていった。
全機で揃ったとき、MCのみゅうとAyaがディスプレイに姿を戻す。
『『第四回 V1グランプリ〜ナイト・ザ・チェス〜 オープンコンバット!』』
二人が開始を同時に宣言すると映像内の鷹(Vorgel)達は一斉に動き出した。
●乱入者
「んもー、なぱーむバニーになんか負けないんだからね。【Hope of Force】ふぁいとぉー!」
双方のKVが陣形を取り出したところで月森 花(
ga0053)のコックピットに見慣れないメッセージが表示される。
【Warning! Warning! ―侵入者あり―】
通常のレッドアラートに似たような警告音が響き、レーダーは増援がきたことをしめしていた。
『これはなんということでしょう! エイジア学園都市内のドリーム・パレス支店から強制アクセスです』
みゅうが驚きながらも冷静に状況を解説していく。
向かい合う傭兵チーム【Hope of Force】マイスター側の中間地点である座標に月神陽子(
ga5549)がホログラムの姿で登場した。
『わたくしの名はアリス――鏡の中の異邦人。チェスの駒の皆様。元の世界に戻るため、わたくしと戦っていただけますか?』
ゴシック・ロリータ風の衣装に身を包んだ陽子はそう名乗り、スカートをつまんで一礼をすると巨大化し、鋼の鎧”バイパー”を纏う。
その瞬間、BGMが激しい戦闘を彷彿させるものへと変わり、次々と乱入者が姿を現していった。
『これより、武力介入を開始しちゃったりしますが。こう、漁夫の利ー、とか、横取りナントカー、とかいう具合にっ‥‥て、敵陣どまんなかやないかーい』
鈴葉・シロウ(
ga4772)が降り立ったのは榊兵衛(
ga0388)やレティ・クリムゾン(
ga8679)の布陣していたエリアである。
『こんな近くに!? 出鼻をくじかれたが、邪魔をするなら消すまでだ』
レティは動揺するシロウ機へ榊機や由梨機と共に攻撃を仕掛けた。
『このレイヴァント・シロウ。このたびは阿修羅をも凌駕する心意気だー! 乗っているのは雷電なのはスルーで!』
ポーンだったシロウ機の雷電が一瞬光り、ルークへと昇格するエフェクトが走る。
それと共に全身の武装をフルオープンに射撃を繰り出した。
『その程度では当たりませ‥‥くぅっ!?』
『援護しますよー、韋駄天キンコのお通りです♪』
回避しようとした由梨機を女装した金城 エンタ(
ga4154)の登場間際の射撃が釘付けにする。
それに遅れて飛んできたシロウのガドリング砲とミサイルの攻撃が由梨機に直撃した。
【HOF】に降りたものもいれば、そのほかにもマイスター側の真ん中に下りたのもいる。
二手でぶつかるはずの戦いは乱入者によって、混乱の様相を見せた。
しかし、稲葉 徹二(
ga0163)は一人この戦いの中に別の側面を感じている。
「ゲーマー側はディスタン1、ワイバーン2、ディアブロ4、基本機体が複数と‥‥で、XN−01はどこに? そんなにアイツが嫌いかぁぁぁぁ!」
悲しさと自棄の混じった咆哮を稲葉はあげると【HOF】、マイスター側関係なしにハンマーを振って殴りこみをかけて行った。
●猟犬は駆けまわり‥‥
「刃の翼、行くわよ!」
ワイバーンが智久 百合歌(
ga4980)の掛け声と共に地を駆ける。
狙いは敵の両サイドにいると思われたヤクトハウンドだが、中央の二列に交互にいてそのままキングに向かってマイクロブーストで突撃を仕掛けてきた。
『正面突破かね。果たしてそのままか、赤いのの入れ知恵か悩むところだ』
【HOF】のキングであるUNKNOWN(
ga4276)が百合歌にアドバイスとも取れる呟きを投げかけた。
斜めに移動しながら近づく百合歌がソードウィングで斬る。
斬撃が赤いワイバーンを狙ったが、ギリギリのラインで避けられた。
『悪いな、プラス・ワンだ!』
二機と思われていた敵のワイバーンにツァディ・クラモト(
ga6649)が加わり、反撃のツインドリルアタックにソードウィングで追い討ちをかけてきた。
ガリガリと装甲が抉られたところに来るソードウィングの衝撃がコックピット内の百合歌を揺らした。
『だが、こちらは捕らえましたよ』
『援護射撃いっくよーっ!』
宗太郎がもう一方のワイバーンをスパークワイヤーで絡めとり、そこに篠原 悠(
ga1826)のスナイパーライフルD−02の砲撃がぶつかった。
衝撃に吹き飛ぶワイバーンだが、かすり傷程度で済み、逆にワイヤーからの脱出をそれで果たす。
『すごく、たのしい』
高出力ブースターを積み、全身からバーニアで方向転換などをして戦う猟犬は強敵を前に興奮していた。
そのとき、再び時空が揺れて、次の機体が登場するというエフェクトが発生する。
【Warning! Warning! ―UNKNOWN接近―】
『次の敵‥‥くる』
敵ワイバーンのパイロットが警戒していた。
すると、強いが風おこり、次元が刀により引き裂かれる。
漸 王零(
ga2930)の雷電がその姿を現した。
「こちら、零。戦闘を確認、これより武力介入を開始する」
傭兵軍よりもマイスター側に近い場所に王零機は降り立ち、援護射撃をしているファルコンスナイパーカスタムに向かってグレネードランチャーを放つ。
『やべぇっ、にげろっ!』
固まって動いていたファルコンスナイパーカスタムは射撃体勢をといて逃げようとするも間に合わずに爆炎に包まれた。
●一進一退
「突撃のチャンスが来ました‥‥いきましょう」
終夜・無月(
ga3084)がハイン・ヴィーグリーズ(
gb3522)とクラークを引き連れて混乱するマイスター側へと突撃を仕掛ける。
『まだまあ新米ですが、やれるだけやりますよ』
ハインは生身での戦いとは違い、機体特殊能力しか使えない状況に戸惑いながらもR−P1マシンガンを撃ち足並みをそろえながら敵陣へと突っ込んだ。
『B班も突撃を慣行中ですが、ディアブロは手ごわいですから気をつけてください! ‥‥くっ、神槍騎兵を舐めるな!』
鹿嶋 悠(
gb1333)から苦戦している声と敵ディアブロの持つロンゴミニアトによる爆発音が通信機越しに無月の耳に届く。
レーダーを見ると敵のディアブロはブーストで大きくジャンプをしロンゴミニアトで流星のように降り注いで攻めてきていた。
『どちらが「真紅の悪魔」に相応しいか思い知らせてあげるわっ!』
同じディアブロのりとして、引くことを物ともしない神無月 るな(
ga9580)がミサイルポッドを放ち迎撃を試みる。
「ぐずぐずしていられませんね。敵のキングも人気のようですし」
ベルディット機の周囲は煙幕が張られているが、そこへ陽子のバイパーや須佐 武流(
ga1461)のハヤブサが攻め込んでいた。
『あの姐御が簡単にやられるとは思いませんが、急ぎましょう突破口は自分が開きます』
クラークも無月の意見に乗り攻撃してくる闘牛士のような姿のマタドールへ試作型「スラスターライフル」を撃ちこんでいく。
どちらが先にキングを潰すか‥‥勝負は両者その方向へ流れていった。
●YOSOHGUY!
「座標がおかしい!? もろキングの前じゃないか!」
『ここは諦めるしかないじゃろう、さぁ逃げるとするか』
霧島 深夜(
ga4621)とルフト・サンドマン(
ga7712)は傭兵陣営のキングの前に現れたことを悔やみつつ逃げようと動く。
『岩龍でやがるですか‥‥第三勢力であろうと、岩龍は少ない方がいいでやがるです』
『情報網【Castling】も発動中ですし、邪魔ものは消えてもらいましょう』
だが、キング護衛のシーヴ・フェルセン(
ga5638)機とティーダ(
ga7172)機が高分子レーザーで深夜機を狙った。
「ちょっとまった、こっちは戦う気は‥‥ぬがぁ!?」
ディフェンダーで深夜はガードをするが、ティーダのアンジェリカの知覚攻撃の前には焼け石に水だった。
『ちっとは支援をするとしようか、悪い子はいねーがー!』
深夜に気を取られている間に動いたルフト機がチェーンソー独特の機動音を鳴らし、ティーダ機へ横から斬りかかる。
ガリガリガリと装甲が削れ火花が散るもティーダ機にはたいしたダメージはなかった。
『邪魔をするなら、まとめて倒す‥‥です』
『まだまだ改造がたらんというのか‥‥一度、仕切りなおしだな』
ティーダ機の攻撃で弱っている深夜機をシーヴ機がヒート・ディフェンダーで倒すも、その間にルフト機は戦域をブーストで離脱していった。
『【Castling】を通じて通達、岩龍を一体捕虜で確保、ポーンを倒したことで点数1点もらってますね。通信網を1つ強化できますよ‥‥あと、うちの陣地より逃げようとする機体もいますので近くの人はとっとと潰してくださいね』
ウォーサイズを構えながら、警戒する周防 誠(
ga7131)機が通信網を使っての伝達を行う。
しかし、すぐに前の方で『真戦組』のディアブロと味方が激しい戦いを起こし出したため、そちらへ周防機は出払うのだった。
●ラグナロク
『中間報告です。現在、乱入者の登場でマイスター側のファルコンスナイパーカスタムが4機が弱められ、撃墜されています』
『でもでも、マイスター側も真戦組が神無月るなのポーンと乱入者のポーンを倒してるよ。クィーンの『ヤクトハウンド』も健在! がんばれ♪』
みゅうと絢による中間報告が流れ、両陣営共に気合が入る。
【Catsling】による情報網で状況確認もできているが、こういう実況は盛り上がるものだ。
「僕もがんばって活躍しなきゃっ! よーし、リカいくよ! 必殺、わかなキャノン!」
水理機がSESエンハンサーを発動させ、間合いを詰めてきたディアブロたちに向けて粒子砲を放つ。
シールドを投げ捨てて少しでもダメージを減らした真戦組らはキングに向かい間合いを詰めてきていた。
『とめられるものならば止めてみよ! 我ら【真戦組】は真を貫く!』
爆風の中を突っ切り、ロンゴミニアトを振るうディアブロがキングのいるエリアへ踏み込んでくる。
『やられる前にやるまでです! SESハイエンサー、空戦スタビライザー、起動!』
全力ともいえるテミス機のヒートディフェンダーがディアブロに向かった。
『甘いッ!』
振り下ろしにあわせ、ディアブロがヒートディフェンダーを蹴る。
『その言葉、返しますっ!』
あえて一撃目を捨てるつもりでいたテミス機にはディアブロの動きは想定内だ。
もう一方の敵もっていた筒状のものからレーザー光が飛び出しディアブロの胴体をそのまま貫く。
『ちぃっ! だが、唯では落ちん!』
胴体を貫かれながらも加速の止まらないディアブロがテミス機へロンゴミニアトをぶつけて吹き飛ばした。
『ただいま【Hope of Force】のビショップとマイスター側のルークが相打ちしました。【HOF】の点数が有利です』
『勝負はまだまだこれからよ。クィーンは両者健在、勝負はクィーンを取るか、キングを取るかとなって来るわよ!』
みゅうが熱く、絢が冷静に試合の状況を伝えていく。
『食らえ。裁きの鉄槌っ‥‥ウサ玉!』
その状況下で、花機がディアブロの支援にきていたハヤブサをベコッという音と共に潰した。
『私もあんのんお兄様をお守りするのです。 らいおんさんはりけ〜ん!」』
エレナ・クルック(
ga4247)のビーストソウルがC−200ミサイルポッドを使い間合いを詰めてきた敵機を牽制して離す。
ギリギリで耐えながら、傭兵達は敵のキングが落ちるのを今か今かと待っていた。
●アリスは兎を捕まえて‥‥
「第2回のときは‥‥きちんと勝負がつかなかったのでな! ここで白黒はっきりさせようじゃないか!」
『もてる女は辛いねぇ、まったくっ!』
須佐が牽制でレーザーを放ち、ソードウィングで斬りかかるがベルディット機はそれをセミーサキュアラーで受けきる。
「フェイントには早々引っかからないか。ナパームさんよ!」
『二人一機に相手しているんだ余計なこと考えてられんさ!』
煙幕で視界が悪い中逃げるようにベルディット機が動くが、退路を陽子機が立ちはだかって止めた。
『兎さん逃げないでくださいな。私をこの世界に閉じ込めた三月ウサギさん』
あくまでもアリスとして動く陽子はコロコロと綺麗な声で笑うとロンゴミニアトでベルディットのディスタンを貫く。
炸裂音が響くとディスタンが砕け、陽子機が光り、キングへと昇格した。
「くそっ、結局勝負つかずか‥‥」
ベルディットを先に倒された須佐は悔しさをこめてコックピットの機械を叩く。
『貴方はどうされますか? このまま私と”死闘遊戯(あそび)”ますか?』
「目的を失ってこのまま帰るのも偲びない。どうせなら、楽しんでやるぜ。あんたがアリスならこっちは”マッドハッター”だ」
須佐はライト・ディフェンダーを構え陽子機に向かった。
●ドッグ・ファイト
それと共にゲーマー側の機体が次々に消えていく。
百合歌機と宗太郎機はその様子を確認すると、目の前のワイバーン3機を早く片付けようと動いた。
キングへと向かおうとしていた『ヤクトハウンド』はすでに宗太郎機と百合歌機に目標を定め、お互いが最速を決めるかのように一撃一撃を読み合いつつ攻撃している。
「このままだとドローか‥‥だが、そんなつまらないことはさせねぇ!」
追い詰められていた宗太郎は飛び掛る一瞬を見切って、回避オプションを発動させる。
敵の勢いをそのまま利用し、後方に回り込むとロンゴミニアトを一機のワイバーンの足に突き刺した。
「女王様、後はよろしく!」
機動力を失った一機に向かい、もう一機とツァディ機を相手にしていた百合歌が悠の支援を受けてチャンスをものにしてヘビーガドリングをワイバーンへと叩き込む。
衝撃にワイバーンが踊るようにゆれ、ロンゴミニアトの突き刺さった足が吹き飛んだ。
しかし、まだ撃墜には至らない。
『まだ、落ちないというの!?』
流石の百合歌も驚きの声を上げた。
そうしている間に『ヤクトハウンド』達はモザイクになったあと姿を消していく。
『決着は、今度‥‥』
『バイバイ』
「今度が決着か。勝てなかったら追いつけないよな、あの風に‥‥」
宗太郎は二人の最後の言葉を聞きながら、コックピットでそっと呟いた。
だが、感慨に浸っている暇はなく百合歌が宗太郎を鼓舞する。
『まだチームとして勝利は確定していませんから、第三勢力を倒しましょう』
「いわれなくてもやってやるさ!」
宗太郎も首を振って操縦桿を握りなおした。
風に追いつくために、今はただ走るのみ‥‥。
●夫婦喧嘩は誰もくわない。
『ただいまの戦況はマイスター側のキングが第三勢力により倒されてしまったため、撤収してしまっています』
『うーん、乱入者に負けちゃったけれど‥‥いい戦いしていたよ♪ 獲得点数は13点。半分にも達していないからキングを倒すか昇格後を狙わないと厳しいわよ』
「昇格を狙わなきゃいけないなら‥‥丁度いいのがいるね」
キョーコがAya達のアナウンスを聞きつつ【Catsling】の情報を統合し、目標を定めた。
もちろん、目標は旦那である亜夜である。
第三勢力として動いてはいるが、深夜までゲームセンターに張り付いていたため睡眠不足でいまいち動きが悪かった。
「さぁ、こっちに戻りなよ。深夜もいるんだからね!」
ブーストでキョーコの羽だけが白く、その他が真紅のアンジェリカは同じ赤いペイントを施されている亜夜のウーフー『緋閃』へと突撃していく。
『きょ、キョーコ!? ‥‥くぅ、目がチカチカする』
情報を集めることに余念のなかった亜夜だが、基本的なコンディション調整が不十分なためいつもの調子がでない。
「裏切ったお仕置きが必要だよね、深夜! やっちまいなぁ!」
捕虜となっていた深夜と共に、キョーコが亜夜にスパークワイヤーを伸ばした。
キョーコがキュルリと腕に絡みついたワイヤーに電流を流すと『緋閃』のボディーにスパークが走る。
『手加減しろよっ、このぉ! ‥‥くそっ、離れろ』
メトロニウムシールドで振り払おうとするも深夜機が高分子レーザーを撃ちこんで『緋閃』を揺さぶった。
「あたしの愛の強さ、しっかり受け取ってね?」
翻弄される緋閃へキョーコのSESエンハンサー付の雪村が唸りを上げて、『緋閃』を沈黙させる。
「愛‥‥伝わった?」
キョーコの照れた問いかけに答えることなく一度、亜夜はフェードアウトしていった。
二人の戦いは誰も邪魔することなく決着を迎える。
『好きな人のためならばがんばれる、あれこそまさに愛! 君のためならば死ねる!』
もはや弾薬を使いきり、ボロボロになりながらもライト・ディフェンダー一本で戦うシロウ機はそれでも盛り上げようと妙な台詞を口走っていた。
『その台詞を発した時点で貴方の負けですよ‥‥ 』
鹿嶋機がシロウ機に向かってグングニルを突き刺した。
●王手まで後一歩
「乱入者か‥‥面白い。試してみようか」
『相手も雷電、この『忠勝』の実力を見せるとき。我が槍捌きを冥土の土産にとくとその目に焼き付けるのだな』
『汝らの業‥‥我が奪い‥‥その連鎖を‥‥我が絶ち斬り駆逐する!』
【HOF】のキングを狙いにくる王零機に対し、榊機、レティ機、由梨機が迎撃にでる。
王零の雷電がジャイレイトフィアーを振り回し、榊の雷電を大きく弾き飛ばした。
追加補助スラスターと高出力ブースターを併用した回避運動でも避けきれないほどに素早い剣閃である。
『この忠勝を吹き飛ばしただと!?』
その上損傷も高く、後一撃で終わってしまう状態であった。
「だが、相手は一体だ。連携というものを見せてやろうじゃないか」
レティは榊機が吹き飛ばされたことなどものともせずに狙いを王零機の肩口に定めてグングニルで貫く。
避けることも受けることも出来ない鋭利な一撃が肩口の隙間から内部へと食い込んだ。
『くっ、右手が機能停止だと!』
「武装が使えなければ攻撃は出来ないだろう? 大人しく投降するのだな」
『片腕ごときで我を止められると思うな!』
『ならば、その刃もとめさせてもらいます』
レティ機を放させるように王零機がジャイレイトフィアーを振るうと懐に潜り込んだ由梨機が機爪でジャイレイトフィアーを突き刺し、砕く。
「これが仲間と連携するということだ‥‥乱入者!」
3機の集中攻撃を受けて王零機は沈んでいった。
『いい勝負だったよ。諸君‥‥現在、我々の点数は25点だ。点数ではルーク一体といった厳しい状況だね』
一息つくまもなくUNKNOWNから通信が届く、敵の戦力は3機ほどしか残っていない上にキングを狩った陽子機以外は須佐機がルークだがアリスと戦闘をしている最中である。
『ハヤブサはクィーン担当が受け持つからレティさんは休んでてね』
悠からの優しい声を受けレティはほっと一息つくのだった。
●チェックメイト
「決着つけたらぁぁぁ黒子やろう!」
稲葉はハンマーボールをアルヴァイム機へぶつけるように投げ捨て雪村を抜く。
機体特殊能力であるハイマニューバを発動させ一直線に突撃した。
『我に立ち向かおうとは片腹いたいですね。『ディスカバードアタック』発動です』
「何ですと!?」
突撃してきた稲葉だが、アルヴァイムのいた場所はスタート位置。
そして、増援が出せるポジションもここである。
第三勢力として表れ、倒された亜夜や王零、シロウがここで戦場に舞い戻った。
「四面楚歌じゃねぇですか!」
気づいたときには遅し、アルヴァイムを雪村で貫いた稲葉ではあるがその次の行動の前に増援部隊によりたこ殴りにされる。
『ルールを把握することは大事ですよ、あと相手の精神を読むこともチェスには必要なのです』
稲葉を潰した【HOF】だが、これでもまだ30点には達しておらず勝敗はまだ決まっていなかった。
須佐機と戦闘をしつつ陽子機はキングであるUNKNOWNの間合いにまで来る。
『チェックメイトさせてもらうよー!』
悠がスナイパーライフルで須佐機を狙うが翼面超伝導流体摩擦装置を使用して格段に回避性能が向上しているハヤブサには当たらなかった。
『キングに弓引く不届き者には‥‥とっとと消えてもらわなければいけませんね』
一方、ウォーサイズを構え直衛に回っていた周防機が陽子機を狙い加速する。
『チェスの駒の皆さん、私を楽しませてくださいな』
陽子機は再び空戦スタビライザーを稼動し連続攻撃で迫る機体をロンゴミニアトで迎撃していった。
破壊力は並みではなく一撃で瀕死に追い込まれる機体が多数だ。
『ここは俺が行きます。俺ごとやってください!』
だが、高坂機がその身をもって陽子機を食い止める。
『残念だったが、チェックメイトだ。異邦の少女よ、現世で会うときはバニーで頼むよ』
陽子機にUNKNOWNの勝利を確信した声が響いた。
『おやすみなさい、アリスさん』
死神の鎌がアリスに止めを刺す。
試合はここで終了した。
『Winner is 【Hope of Force】!』
●戦いが終われば‥‥
「皆様お疲れ様でしたわ。面白い試合ができたのですが、ゲーマー側の方々には少々悪い気がいたします」
試合終了後、本店の方へとやってきた第三勢力の面々が打ち上げに混ざりだす。
急な割り込みであったため、何かと文句が出るかと思いきやマイスター達はまんざらでもなさそうな感じだった。
「実際の傭兵の戦いが見れたわけだし、今後の戦闘の参考にするさ」
マイスターの1人が肩をすくめながら強がる。
「このようなお祭りに参加できて嬉しかったです。皆さんの活躍に圧倒されてばかりで役に立てなかったですけれど」
ハインが申し訳なさそうに頭を掻いた。
「役に立ってなかったのはむしろ俺の方‥‥敵陣ど真ん中に落ちてるし、周りはアンジェリカに岩龍だし」
「戦いとは非情でやがるです」
「次は大丈夫ですよ」
ショボーンとなっている深夜をティーダとシーヴの無表情コンビが慰めている。
「コーヒー淹れてきましたよ。こうしていると一年前の第一回目を思い出します」
反省をしている方を他所にクラークがベルディットに苦めのコーヒーを手渡した。
「あんたらがギャラリーを含めて楽しませようとしているから続いているようなもんさね。次回はもうちょっとまっとうな戦いになってくれるといいんだけどねぇ」
ふぅと息をついたベルディットはコーヒーをすする。
「レースをまたやりたい気もしますが‥‥こうして傭兵だけでなく一般の方と腕を競い合うのも捨てがたいです」
「そうですわ、皆さん折角の機会ですし寄せ書きを書きませんか? このドリーム・パレスでの戦いの記念に」
クラークの言葉にポムと手を合わした陽子が提案を持ちかけた。
「それなら記念撮影もしたいです。あんのんお兄様との記念写真〜♪」
便乗して記念撮影を持ちかけたエレナがUNKNOWNの腕にぶら下がりはしゃぐ。
一度、共に戦えば戦友として分かり合えるのが人間だ。
だが、今戦っている本当の敵はそうではない。
しかし、戦わねばならない。
こうして、平和に遊べることがもっと自由になるその日まで‥‥。