タイトル:『希望の風』を吹かせ!マスター:橘真斗

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/12/15 00:57

●オープニング本文


 ラスト・ホープの商業区。
 その片隅の雑居ビルの前に中華系の青年ライディ・王(ワン)はたっていた。
「立地については、文句いえないか‥‥」
 そのラジオ局は『能力者』たちをもっと身近に感じてもらうためのゲリラ放送局なのだ。
 しかし、借りた事務所はとても放送局として使えそうにない‥‥。
 機材は仕入れられたが、事務所の掃除や番組のことも考えなければならない。
「だが、先立つものが‥‥なぁ」
 はぁと、重いため息が漏れた。
「手始めに番組にでて、いろいろ宣伝できるって方向で能力者達に手をうってもらうかなぁ」
 能力者を応援する番組のための放送局。
 それを動かすために能力者の手を借りるという本末転倒ともいえる話だ。
「考えていてもしかたない! 俺がやらなきゃ誰がやるっ! っとな」
 自分に言い聞かせるようにして、雑居ビルの中を片付けるためにごちゃごちゃした室内へはいっていった。
『Wind Of Hope(希望の風)』をふかすため、立ち止まるわけにはいかない。

●参加者一覧

大曽根櫻(ga0005
16歳・♀・AA
クレイフェル(ga0435
29歳・♂・PN
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
ファルティス(ga3559
30歳・♂・ER
葵 コハル(ga3897
21歳・♀・AA
リン=アスターナ(ga4615
24歳・♀・PN
常夜ケイ(ga4803
20歳・♀・BM
荒巻 美琴(ga4863
21歳・♀・PN

●リプレイ本文

●能力者による無償奉仕
「ごめんください、ライディ・王さんはいらっしゃいますか?」
 ライディ・王がごちゃごちゃした室内を片付けていると、凛としながらも綺麗な声が聞こえてきた。
「はいはい〜っと、ええっと‥‥どちら様?」
 足の踏み場もない室内からそとにでてみると、巫女衣装の少女、大曽根櫻(ga0005)が待っていた。
 見慣れないその格好にさすがに戸惑うライディ。
 怪しい宗教勧誘かもしれないと直感してしまう。
「ああ、怪しいものではありませんよ。依頼を請けた能力者です、私は大曽根櫻と申します」
 礼儀ただしくお辞儀をする櫻。
「あ、ど、どうも」
 あわててお辞儀を返す。
 背丈も年齢もライディのほうが上ではあるが、なぜか頭が上がらなかった。
「ここが『希望の風』か‥‥その言葉に惹かれたので俺も協力させてもらおう。空で風を友にできれば、この上なく心強い」
 ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)も立ち止まり、軽く挨拶をした。
「あ、ども」
「あたいはケイ。昔、体育会系バラエティ番組で体を張ったリポートをしていたよ」
 TV番組経験者の常夜ケイ(ga4803)などを筆頭にぞろぞろと能力者達が手伝いにきてくれた。
「こんなに来てくれるなんて‥‥払えるものがないのが悔しいな」
「払う気があるなら、最高の番組を作ろう!」
 ケイがバシバシとライディの背中を叩く。
「いたたたっ、そうだな‥‥それで返すのが一番か」
 一人の戦いになるかもしれないと思っていたこの企画。
 多くの『能力者』に支えられ、ライディは今一度決意をしたのだった。

●大掃除で大騒動
 まずは機材を運びこむための清掃作業と平行して宣伝も行う流れになった。
「とりあえず、前の人が散らかしっぱなしででていったんで、片付けからだな」
 仕事を聞きにきたファルロス(ga3559)に対して、ライディは説明をした。
「しかし、どうしてこんなところに‥‥」
 スクラップ置き場という形容すら生ぬるいという室内を見回し、ファルロスはため息をついた。
「能力者の兵舎に近くて、安いところがここしかなかったんだよ」
 苦笑しながら、とにかく物を捨てていくライディ。
「整理整頓がしっかりしていないと、お仕事もはかどらないよ!!」
 荒巻 美琴(ga4863)は動きやすい格好をあらかじめしていて、気合十分だった。
「そうですよ、整理整頓で‥‥」
『チュー』
 にっこりと笑顔で軽めの荷物をどかした櫻の耳に、忌まわしき鳴き声が聞こえた。
 硬直する櫻。
「おい、どうしたんだ?」
「ね、ね‥‥」
 ガラクタを担ぎながらファルロスが櫻の背に声をかけた。
 固まった櫻がぶるぶると震えながら、声をだしはじめる。
「「ね?」」
 その場にいた全員が櫻に注意が向く。
「ねーずーみぃぃぃぃっ!」
 櫻の黒髪が金髪にかわり、白刃が振り回された。
「どぅわぁ!? 覚醒したぁ!?」
 驚くライディをよそに、ずんばらりんと書類や机が斬り刻まれていく。
「誰か、ねずみを処理してくれ〜」
「それよりも櫻を止めるのが先だろ」
「だからって覚醒して暴れないでくれぇぇぇぇっ!」
 大掃除は意外な展開へ向かっていった。
 宣伝に行けばよかったと思う能力者が多かったのは言うまでもない。
 
●駆け出しはつらいよ
「なかなか上手くいかへんねぇ」
 『お笑い傭兵』クレイフェル(ga0435)は知り合いの新聞記者に頼みに行ったが、彼女も忙しくアポなしで会うのは無理だった。
 広場で合流し、ベンチにへたりこむクレイフェル。
「こちらの方は1つだけ多少出演できることになったわ‥‥。あとでライディ君を連れて行こうと思うの‥‥」
 リン=アスターナ(ga4615)はベンチには座らず、クレイフェルを見下ろしながら淡々と語る。
 咥えているだけのタバコをくいくいと口だけで揺らす姿は口調の冷たさとは裏腹に優しさが漂っていた。
「せやね。まぁ、雑誌の方はだめもとやし。行きつけの喫茶店なんかに宣伝でもしてくるわ」
 クレイフェルはリンの動作にくすくす笑いながら、ベンチから足をばちんと叩いて立ち上がる。
「俺の方はカンパを募ってきた。名古屋防衛戦で忙しいというのに協力的で嬉しいことだな」
 ホアキンがじゃらりと集めたカンパを掲げる。
 一人一人からは微々たるものだが、一つ一つに期待があることが確かだ。
「成果を挙げてないのは俺だけかいな、こりゃ気ィ張って喫茶店に宣伝せぇへんとなぁ」
 ホアキンのカンパを見てがぜん対抗意識を燃やしだすクレイフェル。
「ま、ほどほどにな」
 煙草を咥え火をつけようとするホアキンをリンが止める。
「ここ、禁煙・・・・」
「ご忠告どうも、収録の打ち合わせもあるから先に戻っているな。そちらはそちらで健闘を祈る」
 ふぅと一息ついてホアキンは高級煙草を一度しまった。
「でっかい、報告を期待しとりや!」
 クレイフェルはにかっと笑い、二人と別れた。
「・・・・期待せずに、待たせてもらうわね」
 クレイフェルの背中が見えなくなったあと、リナはぼそっと呟いた。

●休憩そして打ち合わせ
 ホアキンたちが戻ると、ネズミ退治のために取り乱してしまった櫻がお詫びとばかりに腕を振るって料理を作っていた。
「二人ともお帰り、あれ? クレイさんは?」
 櫻を手伝っていた美琴が不思議そうにたずねる。
「もう少し、がんばるそうだ。あと、これはカンパだ。皆、この放送局に期待してくれている」
 ホアキンが煙草に火をつけ、煙を吐いたあとライディに集めたカンパを渡した。
「もらうばかりだな、本当に・・・・」
「まま、ご飯すんだら、うちらがスポンサー探しにいってくるしさ」
 ケイがうな垂れるライディを元気付けるようにポンポンと肩を叩く。
「とりみだして申し訳ありません、おにぎりと味噌汁ですが用意できましたよ」
 櫻がにっこりと微笑みながら湯気の立つ味噌汁を持ってきた。
 美琴はおにぎりをトレイ一杯に乗せてくる。
「味はいろいろあるからね、これを食べて午後もがんばろう!」
「午後の予定・・・・どうなってるの? 1つだけだけど、番組にでて宣伝できるように頼み込めたわ。このあとだけど大丈夫?」
 リナはおにぎりを受け取ると、早速ライディに朗報を伝えだす。
「それは助かる。こっちはゲリラ放送局だから、多少電波に乗せて宣伝できる時間が欲しかったところだ」
 ライディももしゃもしゃとおにぎりを食べて答える。
「その番組にでて、夕方か夜に第一回目の放送をする形だな。まだ、番組表を作れるほどネタもDJもいないからな・・・・尺は飽きられない程度に二時間くらいだろうな」
「夕方なら、ちょっと企画あるけどいい?」
 ケイがにやにやと笑みを浮かべてライディによりつく。
 そして耳元にごにょごにょと内容を伝えた。
「ん、いいと思う。けど、覚醒を頻繁につかうとイメージダウンになるから程ほどがいいかな? もっと、能力者の存在を身近に感じてほしいからさ」
 ライディの思い・・・・。
 それは能力者だって、一人の人間であること。
 力のあるなし、適正のあるなししか違いはない。
 そんなことを伝えたいと語った。
「ええ、話やなぁ」
 ずびずびと鼻水と涙をたらしたクレイフェルがそこにいた。
「あらあら、クレイフェルさんもおにぎりとお味噌汁いかがですか?」
 まったく、動じず櫻は味噌汁とおにぎりをそっと差し出す。
「ありがとな〜、宣伝しまくってたから腹へってたんや」
 おにぎりをパクパクとつまみ、満足そうに微笑むクレイフェル。
「あ、後時間があれば君達の『年内にやりたいこと』をメールかなんかで伝えて欲しい。RN(ラジオネーム)つかっていいからさ」
「そやね、スポンサー探しにいくわけでもないし機材の搬入とかやりつつ書いておくわ」
「俺は道化を演じてみようかな、あえて俺とわかるようなRNで」
「午後からも忙しくなりそう」
 クレイフェル、ホアキン、そしてケイが各々にネタを考え出す。
 そんな中一人別のことを考えていた人物が‥‥。
「ラジオ番組にでるなら、そんな格好じゃいけないよ! 兄貴たちのいい服借りてくるから、ライディ君はシャワー浴びて! さぁぬぐ脱ぐっ!」
 美琴はじーっとライディの服装を眺めたあと、一人で納得して服を脱がしにかかった。
「えぇ!? ちょ、だ、誰かたすけてくれぇぇぇっ!」
 昼下がりにライディの声が響き渡った。
 それは平和の象徴‥‥かもしれない。

●Wind Of Hope! ON AIR
 そこからはあっという間に時間がすぎていった。
 街頭でビラ配りをしたり、他番組に登場して宣伝したりと文字通り、能力者達は縦横無尽に駆け回る。
 ついに、放送時間である19:00になった。
「ライディ・王による、Wind Of Hope!」
 タイトルコールを唱えると、ファルロスが機材を使って音楽を流しだす。
 弾むようなテンポのBGMが心地よく流れていく。
 ゆっくりと音量を下げさせ、ライディが深呼吸一つしてマイクへ向かって。
「皆さん、はじめまして! ライディ・王です。この時間、このときから始まったラジオ番組『Wind Of Hope!』のメインを務めさせていただきます」
 間を少しあけ、番組説明に入る。
「この番組はラスト・ホープにいる能力者の皆さん。そして、私を含めた一般人の人たちとの架け橋となるような番組です。駆け出しですが、最後までお付き合いください」
 再びBGMを上げ、ゆっくりと椅子にもたれた。
『はじめの挨拶で‥‥疲れすぎ。他番組にでたときも‥‥ガチガチだったわね』
 ガラス窓の向こうよりリンが口元を緩ませながら、マイクを通して声をかけてきた。
「さて、ケイさんのほうは収録できたんだろうか?」
『大丈夫、出向いているクレイさんがもうすぐ着くって、ばっちりレーコディングしたってメールできたよ』
「それじゃあ、突撃レポートはあと回しで‥‥ホアキンさんよろしく!」
 スタンバイしていたホアキンがゆっくりとマイクへ向かった。
 BGMが終わり、マイクの音量をあげる。
「今回、第一回目にしてゲストの登場です。能力者の『ホアキン・デ・ラ・ロサ』さんです」
「どうも、ホアキン・デ・ラ・ロサだ。ラジオ番組というのは初めてなので、緊張している」
 言葉とは裏腹にホアキンの声には落ち着きがある。
 元来の淡々とした口調ゆえなのかもしれないが。
「ぜんぜん緊張が伝わりません。そして、格好いいこの人の顔をお伝えできないのが残念ですっ!」
 ライディのほうも肩の力を抜いて司会をつとめだす。
「とりあえず、宣伝で集まったメールを読んでいこうじゃないか」
 ホアキンの落ち着いた口調はライディと対照的で、番組としてはいいバランスがとれていた。
「はい、宣伝のビラを街頭で配ってもらい、早速投稿してくださった方たちがいます。ありがたいことです。テーマは『年内にやりたいこと』でした」
「またざっくばらんなテーマだな?」
「思いつきでしたので、その辺はご勘弁を〜」
 ホアキンとの掛け合いにノリがでてくる。
「最初はこの人からRN・にーやんさんからです」

『のんびり、まったり、のんべんだらりとしたい』

「この名前、一部の人間には誰かわかるな‥‥」
 くくっとホアキンは笑う。
「私にはどなたのことかわかりませんが、にーやんさんの気持ちはよくわかります」
 しみじみと遠くを見るような目になるライディ。
「のんびりまったりするまえに番組を進めよう」
 しかし、その時間はホアキンの突っ込みによって切られた。
「もう一通いきましょう。RN・青空の闘牛士さんからです」

『能力者です。年内に可愛い女の子をお姫様抱っこしてみたいです。傭兵にも綺麗な女性は多いのですが、下手すると俺より強かったりするので、騎士になりたくてもなりきれなくて本気で困っています』

「能力者さんには能力者さんなりに悩みがあるんですね。しかし、お姫様だっことは‥‥」
「よく分かる。背中を預けられると思う女性は数多いが、護りたいと思わせる女性は数少ない」
 否定的だったホアキンがここに来て肯定的になった。
「へぇ、ホアキンさんも彼の気持ちがわかりますか〜」
 肯定されたことが嬉しかったのか、乗っかかる
「ちなみに彼女募集中だ」
「貴方ですかっ!」
 笑いながら突っ込み役に回るライディ。
 見ている裏方達も笑い出す。
「たまにはこういう道化も能力者だってやるということを見せたかったんだ」
「道化にしてはカッコよすぎますけどね‥‥それにラジオでは見えませんし」
 苦笑しつつ、ライディは番組を続けた。
「最後にRN・腹減ったニャさんから『私はラストホープの外れに住んでます。私はお魚が大好きです。最近は手に入り難くて困ってます。あ〜お腹いっぱい食べ納めしたいな〜特に鮟鱇の肝が食べたいです。誰か私の願いを適えて〜』とのことです」
「冬眠するかのようだな、食べ納めとくるか‥‥」
「こういう要望も能力者の皆さんは解決してくれるのでしょうかね?」
「人それぞれだろうな、千差万別。能力者にもピンからキリまでいる」
「解決に出向いた能力者さんがいたようです。バーゲンセールへの突撃レポートを音楽の紹介後お送りします」
 そして、流行の曲が流れ、ケイとクレイフェルによる突撃レポートが流された。
 揉みくちゃにされながらアンキモをげっとする姿などが、音声と共に流れ楽しい時間がすぎていった。
 
●希望の風は貴方と共に
 番組終了時にライディは締めくくりの言葉を述べる。
「長い時間お付き合いいただきありがとうございました。次回の放送はいつになるかわかりませんが、皆さんの心に吹く希望の風となれたら嬉しいと思います。それではまた」
 今はそよ風でしかない、この番組が本当の希望になる日はくるのだろうか?
 その日が来ると信じてのライディの言葉であった。