●リプレイ本文
「お〜、いるいる」
双眼鏡を覗きこんだエミール・ゲイジ(
ga0181)が、彼方を眺めながら軽い口調で呟いた。レンズの先には、三匹のペンギンの姿が映り、ゆっくりとした様子で歩いていた。
「ほんと!? 俺にも見せて見せて!」
それに、興味津々といった様子で白鴉(
ga1240)がエミールから双眼鏡を奪い取り、同じようにペンギンの居る方角へと視線を向ける。
「うわ、ホントだ! かっわいい〜!」
「冗談言うなって、周囲の建物と比べてみろよ」
「あはは、ミニチュアの家と同じぐらいだ♪」
「白鴉、わかってて言ってんだろ」
「あはは〜‥‥、なんじごりゃぁあ!?」
白鴉がはしゃぐのを呆れつつも、指摘してやるエミール。白鴉はわざと気づかないフリをするが、エミールの言葉に驚きの声をあげた。
「人間を捕食する巨大ペンギン‥‥。B級パニックホラーな話だね」
「希明は俺が守ってやるから大丈夫だって」
「なにそれ、そういうこと言うやつって、映画だとだいたい早めに死ぬよね。そもそも、にいさんは別班でしょ」
「ひでぇ! それでもピンチの時は駆けつけるって!」
「はいはい、ピンチになんてならないから」
伊佐美 希明(
ga0214)の呟きに、エミールがニッと笑って見せるが、希明は呆れた様子で手をパタパタと振ってあしらう。しかし、その表情はどことなくまんざらでもないようであった。
「これだけ大きいと‥‥可愛さも半減‥‥。小魚のように‥‥飲み込まれたくは‥‥ないな‥‥。ここで‥‥消えてもらう」
「確かに‥‥リアルペンギンはあのサイズが一番だな。ヌイグルミ状のヤツだったら話も変ってくるが、生物では別の要素が浮かんでくる。まあ、アレだ折角なのでペンギンのダークサイドな姿でも見物してやるか」
「これも恐怖の煽り方の一つと言う事かな? 誰だって、ペンギン如きに負けたくない‥‥そう思うだろう?」
やはり双眼鏡で巨大ペンギンを観察していた幡多野 克(
ga0444)の呟きに、メディウス・ボレアリス(
ga0564)が頷きニヤリと笑みを浮かべる。そんな二人の様子を見ながら御影・朔夜(
ga0240)が呟いた。
「ともかく、今回の作戦が上手く行けば歴史的な一瞬になるかもしれませんわね」
そんな中で、シャレム・グラン(
ga6298)が、楽しみと言わんばかりに微笑を湛えて、なにやら準備を行なっていた。
「ま、ゴツいペンギンに食われて北米に死す、なんて事になっても締まらないし、真面目にやるとしますかねっと」
「ゴツい? 何だそれは?」
吾妻 大和(
ga0175)の言葉に、朔夜が訝しげに顔を顰める。
「ゴツいペンギン、略してGペンギンでどうよ」
「却下」
「御影ちゃん、ひど!」
「ちゃんを付けるな」
「却下ね」
「却下ですわね」
「却下だな」
「却下‥‥かな」
「あはは、却下却下!」
「却下だ」
「ぐはっ!」
大和の提案を、朔夜があっさりと却下。その後全員に却下されて、大和はショックで倒れこむのだった。
ドゴーン! ドゴーン!
大きな音を立て、ビッグペンギン達が民家を破壊していく。すでに避難勧告は出ており、人は残っていないが、本来あと何十年と生活が行なわれるはずだった場所は、ペンギン達の怪力によってその形を失っていく。本来小型で愛らしい姿を見せるペンギン達だが、巨大で狂暴なその姿はまさにバグアの兵器、キメラなのであった。
「ガァァ!?」
「ちっ、話に聞いた強力なフォースフィールドか。ほれコッチ来い、飛べないペンギンは只のペンギンで‥‥いや、只のペンギンにしちゃデカいか」
そんなペンギン達に、弾丸が放たれる。弾丸はペンギンに当たる寸前、赤い障壁のような物に阻まれ、威力を落とした。その様子に、軽く舌打ちしつつ、少し離れた位置から大和が大きな声でペンギン達を呼び寄せる。ペンギン達は大和の姿に気づくと、建物を壊すのをやめて、大和のほうへと向かってくるのだった。
「ほらほら、こっちにも人間がいるよ!」
「グガァ!」
そこへ、今度は反対方向から、矢が障壁を切り裂き一匹のペンギンに突き刺さる。その攻撃に、一匹は希明を追いかけ始める。
「こっちにもエサがありますわよ!」
続けて、シャレムが鰯いっぱいのケースをペンギンの目の前に置き、呼び寄せる。それに反応した一匹が、ケースの方へと向かってきた。
「あ、あら?」
ところが、ペンギンはケースに見向きもせずにシャレムへと向かってきた。それもそのはず、小魚よりもよほど美味しそうなエサ、人間が目の前に居るのだから。もちろん、ケース設置後すぐに距離を取っているのですぐには追いつかれないが、シャレムの計画は失敗してしまったと言わざるを得なかった。
「ふふふ、あえて鰯にしたのはミスだったかもしれませんわね。せめて、ブリかマグロぐらい大きな魚にするべきでしたかしら」
それでも微笑を浮かべながら、シャレムはペンギンを誘導していく。その後ろを、ズシンズシンと音を立てながら、ペンギンが追いかけてくる。
「てめぇの相手はこっちだぜっと!」
銃声と共に、エミールが現れてペンギンの注意を惹く。その隙に、シャレムは後方に下がり、態勢整えた。
「これ、ちょっとでかすぎだよねぇ」
自分の身長の三倍はあろうかというペンギンを見上げ、白鴉が刀を構える。幼い顔立ちは、覚醒のために険しい表情になっており、着衣に隠れた腕には蛇の模様が浮かび上がっている。そして、その刀の刀身は淡く光り、雷が迸っている。
「グガァ!!」
「絶対に後ろに通しはしない!」
ビッグペンギンは一番近い位置にいる白鴉に狙いを定めると、狂暴な鳴き声を発して向かってくる。それに対し白鴉は、ペンギンの突進を避けつつ、足元へと切りつけた。ペンギンは肉を切り裂かれ血飛沫をあげてたたらを踏む。
「どれ、超機械の効き目を確かめてやるか」
「この電撃をお食らいなさいませ!」
その隙をついて、メディウスのエネルギーガンとシャレムのスパークマシンから、特殊なビームが放たれた。しかし、効果はあるのだが、ペンギンはタフなのかダメージを受けながらも激しく暴れる。
「ぐぅっ!」
いくつもの攻撃を受けながらも暴れるペンギンの水掻きが白鴉に当たり、その衝撃に軽い体は吹き飛ばされてしまう。
「大丈夫か!」
「な、なんとかね」
エミールが慌てて助け起こすと、白鴉は苦笑しつつ立ち上がる。どうやら盾でガードし、直接的なダメージは防いだようであった。と、そこへ、今度はくちばしで二人を飲み込もうとするペンギン。
「鴉はペンギンの餌となりました。めでたしめでた‥‥じゃねぇよ!」
「ちっ、無駄にタフなやつだ! 悪いけど一気に片付けさせてもらう。後がつかえてるし、何より希明を待たせてるんでね!」
二人は慌てて飛びのきそれを回避。白鴉は回避しながら、なにやら自分にツッコミを入れている。そしてエミールは両手に二丁の拳銃を構え、彼の力で強化されたSESが同時に弾丸を吐き出したのだった。
「こいつ、結構早い!」
自分の背に感じる気配に意識しつつ、大和は長い漆黒の髪をたなびかせながら全力で走っていた。そのすぐ後ろには、ビッグペンギンの巨大な影が迫りつつある。歩くのが苦手なペンギンとはいえ、本気で走れば結構早い。しかも、相手は5メートル近い身長、一歩辺りの移動力は結構な物だ。本気で走れば大和が追いつかれることはないが、攻撃をする余裕などは無い。
「だったらこれでどうだ」
そこで、大和はワザと速度を緩め、ペンギンが追いついてきたところで突然真横に避けた。ペンギンはその動きに、大和を見失い止まろうとするが、そう簡単には止まれない。大和は普段おちゃらけているわりに、結構冷静である。
「しかし、これ結構辛いぞ」
「――アクセス」
「グァギャー!」
といっても、ペンギンはすぐに大和を見つけ追いかけてくる。そしてまた追いかけっこになるのだから、走り続けなければならない大和としては泣き言も言いたくなる。そこへ、朔夜が黒髪を銀髪に変化させ攻撃を仕掛ける。そのダメージに、ペンギンが苦痛と怒りの鳴き声をあげる。
「――余所見をするなよ、貴様の相手はこの私だ。暫くは付き合って貰うぞ」
「遅いってば、御影ちゃん」
「ちゃんを付けるな」
大和の軽口に、黄金の瞳で睨みつけつつ、銃を乱射しながら、ペンギンの意識を自分に向ける朔夜。ペンギンは怒り狂い、突進を繰り返すが、大和と朔夜はそれを避けつつペンギンをかく乱する。
「ひゅう、おっかねぇ」
ペンギンのヒレ状の翼、いわゆるフリッパーの払い攻撃を紙一重で避けつつ大和が軽口を叩く。だが、余裕というほどでもなく、フリッパーで起きる風圧は結構な物で、一歩間違えれば大怪我となりかねないことは容易に判断できた。
「フォースフィールドが邪魔して致命傷を与えられないな」
通常のキメラのフォースフィールドならば、SES装備のエミタ能力者であれば無効化できるはずではあるが、ビッグペンギンはその攻撃でさえ、ある程度効果を減らされてしまう。しかもその体格に見合った体力で、二人だけでは倒すのはなかなか難しいようだ。
「早くこっちにも援軍に来てくれよっと!」
大和は、距離を取りながら小銃で攻撃しつつ、仲間が援軍に来るのを待つのだった。
「あっちも苦戦しているみたいだね」
そう言いながら、ペンギンの突進を避ける克。その髪は銀、瞳は金色になっており、話し方も少しはっきりとした感じになっている。克は希明と二人で、もう一匹の注意を惹いていた。
「ちょっと、大きすぎるわよこいつ!」
希明は覚醒の影響で顔の左半面が鬼のような形相なりながら、弓に矢をつがえながら悪態をつく。後衛から頭部を狙って矢を放とうとするのだが、上を向かねばならないのでなかなか狙いにくい。
「なかなか‥‥隙を見せないな」
克もペンギンの側面に回りこみながら、二刀の刀を構え、隙あれば攻撃しようとするが。蹴りやくちばし、フリッパーでのなぎ払い、突進など意外に多彩なペンギンの攻撃に、なかなか反撃の隙を見つけられない。
「くっ!」
ペンギンがくちばしで攻撃してくる、それは軽く避ける克だが、くちばしは大地を突き、泥土が跳ねて克の視界をふさぐ。克は急いで汚れた伊達眼鏡を外すが、再びくちばしが迫る。
「ちょっ! させないわよ!」
「グァ!」
そこへ、希明が目にも留まらぬ早業で矢をつがえると、頭部へと向かって放つ。矢は性格に命中し、ペンギンの動きを止める。おかげで克は、辛うじて飲み込まれずに済んだのだが。
「ガァァ!」
「いけない! 伊佐美さん、逃げて」
「ちょっと! こっちこないでよ!」
怒り狂ったペンギンが、目標を希明変えて突進する。慌てて回避する希明の横を、ペンギンの巨体が倒れるように滑り込んでくる。地面が抉れて、泥土が飛び散る。
「大丈夫?」
「なんとかね。でも服が汚れたわ! ゆるせない!」
声を掛ける克に答えつつ、怒りの形相でペンギンを睨みつける希明。再び間合いを取ると、狙いをつけた。
「‥‥外敵なんてない。戦う相手は常に、自分自身のイメージ‥‥はぁ!」
一つ深呼吸すると、気合と共に矢を放つ。通常よりも威力の上がったそれは、ペンギンの頭部に命中し、ふかぶかと突き刺さる。苦痛の叫びをあげるペンギン、しかしそれでもまだ襲い掛かってくる。
「これでもまだダメ!?」
ペンギンの巨体がまた希明へと向かおうとしたそのとき、突然横からの攻撃を受けてその巨体がよろめく。
「悪い、待たせたな!」
「にいさん! 遅い!」
「けど、待たせた分の仕事はするぞ!」
「当たり前よ、いつかの貸し、返してね!」
現れたのは、先に一匹ペンギンを撃退したエミールとメディウス。メディウスによって強化された銃で、エミールが攻撃したのだ。希明は憎まれ口を叩きながらも、エミールの姿に笑みを浮かべる。
「反撃開始といくぞ」
「Confutatis maledictis♪ flammis acribus addictis♪ voca me cum benedictis♪」
「切る‥‥!」
エミールの言葉に、メディウスがエネルギーガンを構え、レクイエムの一文を歌いながら攻撃を開始する。怯んだペンギンに、克が燃えるような刀身で全力を持って切りつけた。そして畳み掛けられる攻撃に、さすがにビックペンギンも、限界とばかりに倒れこみ絶命した。
「大和さんたち、お待たせ!」
大和達のもとにも、白鴉とシャレムが援軍に着く。
「白鴉! 遅い!」
「待たせた分の仕事はするよ〜!」
「当たり前だ、いつかの貸し、返してくれ」
「貸しってなんじゃ〜!」
大和と白鴉がどっかで聞いた掛け合いをしつつ、刀を構えて前に出る。位置的に離れているので、聞こえているはずは無いと思うが‥‥。
「馬鹿やってないで、さっさと倒すぞ。強化を頼む」
「わかりましたわ」
呆れたような朔夜。シャレムは、仲間の武器を練成強化する。
「――Was gleicht wohl auf Erden dem Jagervergnugen――。悪評高き狼の爪牙――精々、耐えてみせろ」
朔夜の二丁の銃からの同時発射、強化された攻撃が、ペンギンの巨体に降り注ぐように撃ち込まれる。
「クサナギ、全力でいくぞ」
「飛べない鳥でもお空に向かいな!」
そこへ、追い討ちとばかりに、大和と白鴉が全力で切りつける。それでようやく、ビッグペンギンは断末魔の声をあげて倒れこむのだった。
「――くだらない。結局はまた全て同じ結果か」
そして、倒れるペンギンの姿を見て、朔夜は酷くつまらなそうに呟くのだった。
「ダンデライオン?」
ビッグペンギンを退治したその後、ダンデライオンという名の財団が運営するという民間医療組織が、今回の被害の救済のためにやってきて、付近の住民だけでなく、能力者達も治療してくれた。彼らはアメリカ大陸を中心に活動しているらしい。
「ペンギンは‥‥動物園で見てるくらいが‥‥一番いいね」
「何はともあれ、任務達成だな」
「そうなんだけどね〜」
克がポツリと呟き、エミールが気楽な調子で言うのを聞いて、希明は苦笑する。三手に別れて逃げ回ったおかげで、予想以上に周囲の民家に被害が出ていたのだ。不可抗力とはいえ、崩れかけた建物を見て、一行は苦笑するしかなかった。