●リプレイ本文
依頼を受け集まった一同は、アンナに対し自己紹介を行なうこととなった。
「自分はフェブ・ル・アール(
ga0655)であります。中尉殿の力になれるよう全力を持って当たらせていただきます」
まずフェブが背筋を伸ばし敬礼をして、自己紹介を行なう。
「よろしく頼む。だが、そんなに形式張った口調でなくても構わないぞ」
「はっ! ですが、所属が違うとは言え、士官の階級を持つ方です。兵隊の自分には、上官にフランクな態度を取れと言う方が苦痛でありますよ」
「そうか、わかった。軍属の経験がある者が参加してくれるのは心強い、期待している」
「それと、糞ムカつく‥‥失敬、鬱陶しい上官を持つのは、自分も経験無いではありません。是非ともその少佐殿の鼻を明かして差し上げたくあります」
「あ〜‥‥まぁ‥‥。この戦いは私ではなく、全ての人類のための戦いだからな。そのつもりで頼む」
「はっ、了解であります!」
フェブがニヤリと笑みを浮かべると、アンナは困ったように苦笑して窘める。フェブはそれに対しもう一度敬礼をして返したのだった。
「伊藤 毅(
ga2610)であります。日本で、航空自衛隊に所属しておりました」
「そうか、よろしく頼む」
「はっ」
毅は簡潔に自己紹介をする。口数は少なく、必要なことしか口にしない様子に、アンナはふむと少し感心したように頷いた。
「自分は熊谷真帆(
ga3826)、G01ミサイルによる一撃離脱を得意とします。その戦功で得た称号に恥じぬ様頑張ります」
「日本での活躍は聞いている。こんなに若い少女とは思っていなかったが‥‥。もちろん、歳や性別で君の力を疑うことはしない、期待しているよ」
「はい! ご期待に沿えるよう頑張ります」
真帆は優等生のようにきびきびとしたハッキリした口調で答える。アンナはその様子に、少し優しげな口調で返し、肩に手を置いた。
「アルヴァイム(
ga5051)です。守るための戦い、出来る限り尽力をすることに努めさせていただきます」
「ああ、街に住んでいる人達を守るため。そして、次の戦いに勝つために、我々は負けられない。よろしく頼むぞ」
「この戦いに勝つことで、少しでも早く戦争が終わればいいのですが」
「‥‥そうだな」
アルヴァイムのつい溢した言葉に、アンナは感情を抑えた声で返す。この戦いが、いまの戦争にほんの僅かしか影響しないことはわかっている。だがそれでも、この戦いに勝つことで、少しでも平和に向かって進んでいると思わずにはいられない。そう思わなければ、人として戦いに赴くことはできないのだ。
「木嗚塚 果守(
ga6017)だ。空戦の経験はまだ少ない、悪いが指示を頼む」
「大丈夫だ、そのために私がいる。それに、自分が未熟であると自覚していることは大事なことだ。君はきっと良い兵士になるだろう。そのためにも、必ず生き残ってくれ」
「了解した。だが、足手まといになるつもりは無い。こっちにも意地がある」
「そうか、わかった期待している」
果守は淡々とした口調ながらも、強い意思を持った瞳でアンナを見つめる。その瞳の強さに、アンナは少し目を細め頷いた。
「ノエル・イル・風花(
ga6259)‥‥であります」
「こんな少女まで‥‥。いや、今の我々にはそんなことを言う余裕もないか‥‥。風花君、よろしく頼む」
アンナは、ノエルの姿を見ると一瞬険しい表情で小さく呟く。だが、すぐに自分に言い聞かせるように呟くと、他の者と同じようなしっかりとした口調でノエルに声をかけた。
「あの‥‥」
「ん、なんだ?」
「中尉には是非‥‥出世していただきたいのであります」
「あ、ああ‥‥?」
ノエルの言葉に一瞬目を丸くするアンナ。とりあえず頷くが、ノエルのその変化の乏しい表情からは、その真意を読み取ることは出来ず、アンナは少しの戸惑いを覚えるのだった。
「秋月 祐介(
ga6378)です。電子戦での補助を得意としています。よろしくお願いします」
「電子戦用機体でのサポートは重要な任務だ。よろしく頼む」
「はい」
祐介に真剣な表情で頷くアンナ。それだけ、彼の役割を重要視していることが見て取れた。
「ダニエル・A・スミス(
ga6406)だ、よろしくな」
「でかいな‥‥」
ダニエルが挨拶をすると、アンナはダニエルを見上げるように顔を上げた。240cm近い身長と、ガッチリした体格。インパクトは十分である。
「本当にKVに搭乗できるのか?」
「おぅ、なんとかな。だが毎回思うんだが、KVのコクピットってリトルサイズだぜ。もう少しラージにしても良いと思うんだが」
「お前がでかすぎるんだ。ともかく、これだけの体格だ、期待してるぞ」
「オーケー! 空戦じゃ体格はあまり関係ないけどな!」
ポンポンとダニエルの筋肉を叩くアンナに、ダニエルは親指を立てて、白い歯を見せて笑った。
「では、全員出撃までしばらく待機していてもらう。その間に準備をしておくように。私は、部隊の作戦を考える。もし意見があるのなら、書類で提出するように」
自己紹介が終わると、アンナは一同にスケジュールを説明して、出撃の準備を始めるのだった。
「中尉、よろしいですか。編成・戦術意見を纏めましたので、御検討下さい。一応、運用の効率も考えてあります‥‥」
「ん、わかった、参考にさせてもらおう」
出撃前、待機中のアンナに祐介が戦術の意見を纏めた書類を手渡す。アンナはそれを受け取ると、書類に目を通し始めた。表情は真剣そのもので、今回の戦いへの意気込みが感じられる。しかし、その様子になんとなく焦りのようなものも感じられ、祐介は声をかけた。
「気を張り過ぎないで下さい。さもないと面倒事は次々と押しつけられますよ‥‥軽く流して、機が熟したら反撃‥‥これ自分が読んでいた本ですが使えますよ。読書は文化の極みですから」
「?」
声を掛けられるとは思っていなかったのか、アンナは祐介を見て一瞬キョトンとする。そして、差し出された本に視線を移し、再び祐介を見た。
「あ、ああ‥‥、わかっている。私とて、初めての出撃というわけではないからな。っと、まさか少佐のことを言っているのか? なんだ、戦いに私情を挟むようなことはしないぞ? これは、孫子か‥‥たしか古代中国の兵法書だな。いや、気持ちだけ受け取っておくよ、ありがとう」
アンナは祐介の言葉に少し苦笑して返すと、差し出された本をやんわりと断る。
「そうですか‥‥。ああ、それと‥‥笑顔の方が良いですよ。その方が似合いますし、部下も安心出来ます」
「そ、そうか? 軍にいると、あまり笑う機会も少なくてな‥‥。こ、こうか?」
祐介は、少し残念そうに本を引っ込めると、何気ない口調でアドバイスを口にして微笑んだ。アンナはその言葉に少し困ったような表情をするが、無理に引き攣ったような笑顔を見せるのだった。
「全機発進!」
接近してくるバグアの航空部隊を迎撃するため、デトロイト基地から数多くのKVが発進される。アンナ隊もその中に含まれ、正規軍と共に防衛の一端を担うこととなる。
「作戦は説明したとおり! 我々は敵右翼を叩くことになる。各自編隊を組み、バグアの航空部隊を撃滅せよ!」
アンナの指示のもと、4機編隊を組みながら、交戦予定地点へと向かう一行。作戦の大まかな部分は、アンナが祐介達の考えを汲み、意見書に沿ったものになった。
「木嗚塚、緊張して無いか〜?」
「別に」
フェブはからかうように果守に声を掛ける。空戦は初めてだという果守を気遣って、あえて軽い調子で声を掛けたようだ。それに対し、果守はいつもの調子で淡々と答えた。
「私らは、遊撃と仲間の援護だ。決まった場所を守るんじゃなく、臨機応変に対応しなくちゃならない」
「ああ、わかっている」
「にゃんだけど、あんまり深く考えるにゃ♪ 私ら一兵士は、考えるより反応するほうが先だ。焦らず生き残ることに集中しろ。戦況を見極めるのは隊長に任せるにゃ」
「にゃ‥‥? ‥‥まあいい、了解した」
同じチームを組んだ果守に、アドバイスをするフェブ。だが、そのおちゃらけた口調に、少し不安を覚える果守であった。
「伊藤さん、よろしくお願いしますね」
「‥‥‥」
真帆がチームを組んだ毅に声を掛ける。しかし、毅からは返事が無い。
「あの、伊藤さん聞こえてますか?」
「‥‥こちらNEMO、了解した。悪いですが作戦中の私語はあまり‥‥」
「あ、そうですね! すいません‥‥。こちらガーベラ、了解しました!」
毅に窘められて、真帆は慌てて口を押さえる。そして、はっきりとした声で返事を返した。まぁ、聞くところによれば毅の口数の少なさは、人見知りによるものという噂もあるのだが。ちなみに、NEMOやガーベラは作戦中の愛称、TACネームというものである。
「こちらGiftradio、前方に機影を発見。バグアの部隊と思われます」
「予定通りだな。リーダーより各機へ、これより戦闘を開始する。一機たりとも、ここを通すな! アタック!」
「了解!」
部隊上空で索敵を行なっていた祐介からの報告に、アンナが全員に指示を出す。一行は、作戦の指示のもと、迫り来るバグアの戦闘機に向かって攻撃を開始するのであった。
「こちらGiftradio、敵は小型ヘルメットワーム6機、3機編隊の模様。戦場を視る‥‥電波で、敵には撹乱の毒を‥‥味方には情報の贈り物を‥‥」
祐介の瞳が蒼く光り、敵の戦力を読み取る。そして、機体に備わったジャミング機能で、バグアのジャミングを中和、味方の戦闘を優位にする。
「中型はいないんですね。よし、先制攻撃開始!」
「NEMO、FOX2」
まず先制で真帆と毅のホーミングミサイルが発射された。計4発のミサイルが、敵編隊へと向かっていく。それに対し、バグアも散開しつつお返しとばかりに射撃を放ってくる。
「ヒットを確認。しかし、敵機体いまだ健在!」
「牽制だ、怯むな! こちらも二機タッグで散開し、各個撃破を狙え!」
お互いに牽制し合いつつ、交戦距離は縮まって、やがて戦いはドッグファイトの様相を呈してくるのだった。
「ふふっ、見せてもらおうか、UPCのエリートの実力を」
「ノエル? ‥‥覚醒すると性格が変わるタイプか‥‥」
戦いの中で、覚醒し伸びた髪を掻き上げてノエルが楽しそうに呟く。ノエルの少女らしからぬ様子に、一瞬戸惑うアンナだが、すぐに納得したように独りごちた。アンナの同僚にも似たようなタイプの者がいる、特に珍しいものでもないことを認識していた。ちなみに、アンナは覚醒後も変化が少ないタイプである。
「来たぞっ、星を稼いで小癪な少佐の鼻をあかしてやれ中尉。ノエル・イル・風花、目標を攻撃する」
「しかし、随分と変化したものだ‥‥まぁいい、いくぞノエル!」
ノエルとアンナは、牽制からの立ち直りが遅い一機に狙いを定めると、一気に接近し近接射撃を開始する。ノエルのレーザー砲とアンナのバルカン砲が火を吹き、ヘルメットワームに命中する。しかし、相手もそう簡単には落ちず、ダメージを受けつつも反撃を行なってくる。それを上手く回避しつつ、連続で攻撃を行なう二人。
「さすがは、UPCのエリートということか」
「ノエルもなかなかやるな!」
「止めは中尉が」
「わかった」
お互いの動きに賞賛しつつ、すでにボロボロになった敵戦闘機に、アンナが止めの一撃を加える。そして、ついにヘルメットワームは爆散するのだった。
「この戦いで、中尉には戦果を上げて欲しい。中尉みたいなのが上に来てくれれば、UPCも少しは風通しが良くなるだろう? それに、私も少佐のやりようは好かない」
「評価してくれるのはありがたいが‥‥。そういった話は後だ。次に向かうぞ!」
「了解」
「貴様を通しては、我が知らぬ誰かが死ぬかもしれん‥‥そうはさせんよ!」
アルヴァイムのレーザー砲が敵に命中、それが致命傷になったか、敵は墜落していく。
「アルヴァイム、ナイスだ! この調子で行こうぜ!」
それにダニエルが賞賛の声をあげる。二人は上手く連携を取りながら、次の獲物へと向かおうとする。
「オーガ、チェック6!」
そこへ、毅からの通信。オーガはダニエルのこと、チェック6は‥‥。
「シット! いつのまにか後ろをつかれたぜ! だが、生身じゃこう簡単にアヴォイドできないが、KVは機敏なんだぜ」
ダニエルの後ろに、いつのまにか敵機体が。ダニエルは急いで回避行動に入るが、相手もそう簡単には引き離されない。
「こいつ、結構スピーディだぜ!」
「さっきのとは違う、改良機か」
ダニエルを追いかけてくる機体の動きが、さきほど落とした機体よりも早いことに、眉を顰めるアルヴァイム。ダニエルは後ろからの射撃を何とか避け続けるが、なかなか反撃に出ることができない。
「オラオラオラ! いい気になるのもそこまでだぜ!」
そこへ、突然ミサイルが敵機体に命中、相手は態勢を崩しダニエルへの追撃をやめる。そしてそこへ、フェブのガトリング砲が追撃ちをかける。
「大丈夫か?」
「サンキュー、助かったぜ!」
ダニエルに果守が声をかける。どうやら、最初のミサイルは果守によるもののようだ。
「このまま一気に畳み掛けるぞ」
「オーケー! やられたお返しはたっぷり返してやるぜ!」
アルヴァイムの言葉に、ダニエルは伸びた犬歯をむき出しにして、お返しとばかりに短距離ミサイルを全弾相手に撃ち込むのだった。そしてさすがの高機動とはいえ、一斉に攻撃されればひとたまりも無く爆散した。
「こちらGiftradio。敵の中に高機動型を確認、おそらく隊長機と思われる」
「よし、高機動型は私とノエル、フェブ、果守で叩く。アルヴァイム、ダニエルは真帆達の援護を」
「了解!」
アンナの指示に頷く一同。真帆と毅のチームは、3機に狙われていたが、彼らが相手を引き寄せてくれていたおかげで、他のチームが各個撃破に成功していた。
やがて、数的にかなり優勢になった部隊は、そのままの勢いで敵部隊を全滅する。
「諸君! どうやらバグア共は撤退を開始したようだ。この戦い、我々の勝利だ!」
その後、すぐに敵部隊撤退の報を受け、アンナが全員に勝利宣言する。
「諸君の奮闘のおかげで、我が部隊は一人も欠けることなく、戦いに勝利できた。君達にはこれからも、この調子で活躍していってほしい」
全部隊からみれば、この戦いでも少なからず被害がでた。しかし、それ以上にバグアに対し損害を与えたことは間違いなく。また、一行の活躍は、今後の傭兵の見方にも影響を与えてくるだろう。
「さぁ、帰還するぞ諸君。戦いはまだ終わりではない、いやこれからが本番なのだ」